転生レ級の鎮守府生活   作:ストスト

58 / 87
更新します。


「撤退と敗北」

その頃、球磨と皐月。

 

2人は深海棲艦の艦隊と接触、迎撃をしていた。

 

「クマー‼︎」

 

球磨の砲撃を喰らい、イ級の体が真っ二つに

へし折られ、そのまま沈んでゆく。

戦況は大きく球磨達の方に傾いていた。

だが、彼女には一つ心残りがあった。

木曾のことだ。

迎撃に向かう(・・・・・・)と言ったはずなのに

姿が見えないのだ。

 

「おりゃー‼︎」

 

皐月の攻撃によって最後の一体が撃沈される。

それを見届けると同時に球磨は木曾の捜索を

開始した。

 

「木曾ー‼︎ どこにいるクマー‼︎いたら返事を

するクマー‼︎」

 

「木曾さーん‼︎」

 

雨も降り出し、2人の身体を濡らしてゆく中、

懸命に2人は捜索を続ける。

 

皐月はともかく、球磨にとっては大切な“妹”だ。

もしも殺されたとなったら、悔やんでも

悔やみきれない。

球磨は雨によって視界を制限される中、

必死に木曾の姿を探した。

 

 

 

(木曾……お願いだから無事でいてクマ……

本当に頼むクマ……‼︎)

 

次第に雨は激しさを増す。

 

「球磨さん‼︎これ以上はもう……‼︎」

 

「うるさいクマ‼︎まだ近くに木曾はいるクマ‼︎」

 

「で、でも……木曾さんは、もう……」

 

「それ以上言うな‼︎木曾は絶対に生きてるクマ‼︎」

 

 

ほぼ怒号に近い声をあげて、球磨は尚も木曾の

姿を探す。

 

 

「……はーぁ」

 

唐突に、ため息が聞こえた。

 

「くっだらねぇなぁ。たかが人一人の為に」

 

球磨と皐月はその声の主を見た。

それは鰐のような尾を海面に叩き付け、

球磨達を嘲笑した。

 

「ま、お前らが探してるキソ?だか言ってたな。

そいつは今ここにはいねーよ」

 

くつくつと笑いながら、リヴァイア・サンズは

そう言った。

 

「誰だお前は‼︎それに……木曾がここには

いないって……どういうことクマ‼︎」

 

「まんまだよ。そいつはここじゃなくて別の

場所にいるってこった」

 

サンズは側頭部を指で掻きながら続ける。

 

「何を隠そう俺が誘導してあげたからね。

今頃奴は俺を探して右往左往しているだろうよ」

 

HAHAHAとアメリカ人がしそうな笑い声を

上げて、サンズは警戒をしている球磨達に

目をやる。

 

「……ところで、だ。いつまでそうやって

肩に力を入れてる気だ?疲れるだけだろうが」

 

「……目の前に敵がいるのに構えない奴が

いるクマ?」

 

「今回は攻め落とす気は無いぜ?大体

俺だけで鎮守府潰せられるなんて思ってねーし。

あくまでも戦力の確認だ」

 

道理で艦隊が駆逐艦のみの編成な訳だ。

深海棲艦の中で最も多い駆逐艦を使用して

自分達がどのくらいの戦力なのか確認を

しただけだったのか。

 

サンズの言葉に球磨は合点がいった。

だが、それは次はこのような小手調べの

戦力が来る訳ではないことを意味していた。

 

「こんな話をしている場合じゃないんだよな?

いらん所で邪魔しちゃって悪りぃな。

俺は帰らせてもらうぜ」

 

「ッ‼︎待つクマ‼︎」

 

球磨がサンズを牽制しようと砲撃したが、

その砲弾はあっさりと障壁を纏ったサンズの

腕の一振りによって弾かれ、サンズ自身は

瞬きする間に海中へと深く潜行し、姿を

消した。

 

「本当に、あれは木曾をどこかへ

誘導したクマ……?まだそれを聞いてないのに」

 

「今は、信じるしかないと思う。

雨も強くなってきてるし、もう一旦帰港した方が

いいですよ」

 

皐月の言葉に球磨は渋々了承して、沖縄鎮守府へ

その針路を変更するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、暗い闇の中から、天龍は目覚めた。

横風が顔を凪ぎ、雨が身体中に叩きつけられる。

霧秀の姿はとうになかった。

天龍は身体を海面から起こし、自らの命が

あることを確認した。

 

(俺は……確か…)

 

あの時、天龍は霧秀に間合いを詰められ、

刀による突きを入れられた。

天龍は、その刃が首に差し込まれる直前、

霧秀の全身から放たれる異常なまでの気迫、

半秒後に自分が殺されるという恐怖、

自分が今まで研鑽を積み上げてきた技術が

いともたやすく凌駕されてゆくという絶望感に

押し潰され……気を失った。

 

気を失う数瞬間、霧秀は何故か刀を引いた。

それと同時に何かをぼそりと呟いた気がしたが

そこまでは聞き取ることは出来なかった。

 

(……見逃されたのか?)

 

天龍は霧秀の言動を振り返って、何故霧秀は

刀を引いたのか、なんと呟いたのか、そして

彼の真意に気付いた。

 

霧秀は命を奪うのに躊躇した訳ではない。

むしろ逆に躊躇なく奪うだろう。

 

 

 

 

 

「下らない」と彼は思ったのだ。

彼が尊敬している侍とは、心の強き、気高い

者を指しているに違いない。

 

だが、天龍は自身の死、という恐怖に耐えられず

気絶するといういわば“逃げ”を打った。

それが彼の尊敬する侍のイメージを激しく

傷付けたのだろう。

 

一瞬は侍と思ったが、このざまか。

このような者は斬るのにすら値しない。

唾棄すべき臆病者だ、と。

 

そう思ったからこそ、霧秀は天龍を斬ることを

止めたのだろう。

 

その考えに至った時、天龍は泣いていた。

 

悔しい、と。

仇を取るために必死に研鑽を積んできた。

それが、一瞬にして無駄だと思ってしまう程に

凌駕された。

おまけに、斬る価値すらないと見逃された。

その思いは、誰かに叱責されて欲しいのに

むしろ憐憫の目で見られるのに似たものだった。

 

(畜生、畜生畜生畜生畜生ッッ‼︎)

 

声にならない叫びを上げ、天龍は哭いた。

それに込められた感情は悔しさであり

後悔であり、自身に対する怒りであった。

余りにも非力過ぎた己に対する怒り。

その感情は激しく天龍の身体を躍動し、

跳ね回った。

 

それと同調するように雨も更に激しく、

風も強く吹き荒れるようになっていく。

 

(どうして……どうして俺は……)

 

 

 

 

 

 

(こんなに弱いんだよ……⁉︎)

 

 

 

 

 

「天龍ッ‼︎無事か⁉︎」

 

そこに、誰かが天龍の身体を抱き起こした。

木曾だ。

 

「こんなに冷えて……早く帰港するぞ、

天龍……天龍?しっかりしろ‼︎」

 

軽く木曾は天龍の頰を叩く。

 

「……もっと……強くなりてぇ……」

 

「意識をしっかり持て、馬鹿野朗‼︎」

 

だが、天龍は魂が抜けたような状態となり、

うわ言を呟いていた。

 

「俺が……強けりゃこんなことには……」

 

「わかったから、ちゃんと掴まれ。

クソッ……なんて日だ‼︎」

 

木曾は天龍に肩を貸して、ゆっくりながらも

沖縄鎮守府へと帰港するのであった。

雨は、尚も激しく二人の身体に降り掛かっていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。