前回のコミュ障ヘタレ。予備予選と説明会2つのライブを瑠惟の働きによって成功させることができたAqours。しかしライブ終了後に千歌が倒れてしまう。
静かな病院の廊下でみんなと待っている。
頼むから無事でいてくれ・・・。
すると扉が開き、中から医者らしき人物が出てきた。
医者「もう大丈夫だよ。」
全員「ホントですか!?」
医者「うん。詳しい事は中で話すから入ってきて。」
9人全員で入るのもあれなので代表して自分が行くことになった。
病室に入ると真っ先に千歌が寝ている姿が目に入る。
医者「彼女は今眠っているだけだから。」
瑠惟「それでどうして倒れたんですか?」
医者「簡単に言うと疲労だね。かなり前から相当溜め込んでいたみたいでどうやらライブ後に緊張から解放されて一気にそれが来たみたいだね。特に異常は見られないからしばらく安静にしていたらまたいつも通りの生活ができるよ。」
瑠惟「そうですか。ありがとうございます。」
やはりオーバーワークを続けてしまっていたか。
瑠惟「・・・・・・。」
あの時もっと強く言っておくべきだったな。
とりあえず外で待っているみんなに伝えよう。
廊下に出ようとすると誰かに腕をつかまれた。
瑠惟「千歌?目が覚めたのか?」
千歌「・・・・行かないで。」
そう言うと千歌は再び眠った。
どうやら寝ぼけているようだった。
瑠惟「ごめん千歌、無理をさせて、心配かけて・・・。お前が倒れたのは自分の責任だ・・・。本当にごめん。」
謝罪の言葉と共に涙も流れてしまう。
その時だった。
千歌「そんなことないよ。だから泣かないで。」
千歌が本当に目を覚ましたのだ。
瑠惟「千歌!大丈夫か?」
千歌「うん。・・・私こそごめんね。みんなで喜んでる時に倒れちゃって。あの時の忠告を無視しちゃって。」
瑠惟「気にするな。無事ならそれでいい。今みんなを呼んでくるから。」
瑠惟「みんな!千歌が目覚め・・・」
「千歌ちゃん!」
言い切る前にみんな突撃していった。よっぽど心配だったんだな。
みんなは病室に入るとすぐさま千歌に駆け寄り、抱きついたり、泣いたりしていた。
その後には千歌の家族が来て、千歌に『無茶をしすぎだ』と怒っていた。
とにかく無事でよかった。
あとは結果を待つだけか・・・
予備予選に説明会。どちらもうまくいった・・・・と思いたい。
瑠惟「鞠莉さん、入学希望者の方はどうなってますか?」
鞠莉「うーん、今のところ変化はないわ。でも、明日ぐらいに人数は増えてると思うわ。」
予備予選も結果発表は明日だし・・・。
今日のところはみんなを休ませよう。あれだけハードなスケジュールをこなしたからな相当疲れているだろう。
瑠惟「外も暗くなってきたし、みんなそろそろ解散しよう。明日また学校に集合で。」
みんなと別れた後、自分はまだ回復しきっていない千歌をおんぶして家に向かっていた。
千歌「ねぇ瑠惟君。なんだか昔みたいじゃない?2人で遊んだ後、私が疲れたって言っていつもおんぶしてもらってたよね。」
瑠惟「そうだな。毎年夏になると2人で遊びに行って、いつも帰るのが遅くて千歌のお母さんに怒られてたな。」
ほんとに時が過ぎるのは早いな。この前まであんなに小さかったのに気づいたらこんなに大きく成長して・・・
千歌「確か予備予選の結果発表って明日だよね?」
瑠惟「うん。」
千歌「もしAqoursが予備予選を突破したら・・・。」
瑠惟「突破したら?」
千歌「みんなで東京に行きたい!」
瑠惟「東京か・・・それはまたどうして?」
千歌「なんだか急に行きたくなったの。前はなんだかドタバタしてちゃんと観光できなかったし。」
瑠惟「いいんじゃないか。・・・まぁどっちみち東京には行くつもりだったし。」
千歌「え?」
瑠惟「実は・・・。今度東京で開催されるストリートバスケの大会でAqoursに歌ってほしいとオファーがあったんだ。」
千歌「東京で歌えるの!?」
瑠惟「あぁ。みんなには明日言うつもりだったけど千歌には先に言っておこうと思ってな。」
千歌「やったー!・・・あっ。」
千歌は何かを察したかのようにこちらを見てきた。
瑠惟「・・・あのことなら大丈夫。久しぶりにバスケを見るのもいいかなって思ったから。だから心配すんな。」
千歌「瑠惟君がそう言うなら・・・。でも、無理だけはしないでね。」
瑠惟「こっちのセリフだっての。とにかく今日は疲れたから早く帰って寝よう。明日は学校だし。」
千歌「え~。行きたくない~。ゴロゴロしたい~。」
瑠惟「もうすぐ中間テストなのに随分と余裕だな。確か、次のテストで赤点が一つでもあったら小遣い減らすって、千歌の母さんが言ってたような・・・。」
千歌「やっぱり行く!」
瑠惟「当たり前だ。・・・さぁもうすぐ家に着くぞ。」
千歌「お腹すいたー。今日の晩御飯は・・・。」
さっきまで過労で眠っていたのがウソみたいだな。
まぁひとまず休憩ってことで明日の結果発表を待ちますか。
後ろで食べたいものを言い続けている甘えん坊を背に家路を急いで帰った。
翌日、授業を終えたAqoursは部室に集まって予備予選の結果発表を見ていた。
正直な感想、予備予選くらいは突破していると思うんだけどな。
結果を確認すると予想通り予備予選を突破していた。
Aqoursのみんなは喜ぶというよりもどこかほっとした表情をしていた。
果南「とりあえず突破だね。」
ダイヤ「それで鞠莉さん、入学希望者の方は・・・。」
鞠莉「えぇ、昨日は変化はなかったけど、今日希望者が増えて合計で50人ぐらいになったわ。」
千歌「あと50人・・・。」
梨子「この調子でいけば年内までに100人に行きそうね。」
ルビィ「これで安心ですね。」
ルビィちゃんの言いたいことは分かるがそううまくいく保証はないんだ。
瑠惟「水を差すようで悪いがそういうわけにもいかないぞ。」
善子「何が言いたいの?」
瑠惟「確かに今回の予備予選や学校説明会の甲斐もあってここまで増えたけど、この時期になると受験校を本格的に決定する子が多くいる。だから次の予選がある11月この時点で志望校を決めている子が大半なんだ。」
花丸「それじゃあ、チャンスはほとんど残ってないってことずら?」
瑠惟「そんなことはない。でも少ないのは事実だ。」
曜「そんな・・・。」
瑠惟「ということで県外からの希望者を増やそうってことで、イベントの出演依頼をいただいてきました。」
梨子「ほんとに!?」
瑠惟「あぁ。なんと東京で歌うことができます!」
果南「やるじゃん!で、どんなイベントで歌うの?」
瑠惟「えっと・・・東京で開催されるストリートバスケの大会でステージを披露して・・・」
ここまで言ったところで急に周りが静かになった。
昨日の千歌同様にみんなが心配そうな目でこちらを見る。
そういえばSaint Snowが過去のことを勝手に暴露してたっけ。
瑠惟「みんなが思っているようなことはないから安心してほしい。何よりこのイベントは自分が過去を乗り越えるためでもあるんだ。だからみんなは何も気にせずに歌ってほしい。」
そう言うとみんなの表情が元に戻った。
ダイヤ「あなたがそこまで言うのなら私達はあなたを信じましょう。いつも助けてもらっているのですから今回は私達があなたを助けます。大切な仲間であり、友達のためですから。」
瑠惟「ダイヤさん、みんな・・・。」
この学校に来て本当に良かった。自分にはもったいないくらいの仲間に出会えた。
ダイヤ「そうと決まれば練習ですわ!みなさん行きますわよ!」
こうして東京でのイベントの向けてAqoursは猛練習をするのであった。
そしてイベント当日、Aqoursは会場の楽屋で出番を待っていた。
曜「さっき外が見えたけど、たくさんの人がいたね。みんな選手なのかな?」
瑠惟「おそらくな。何人かテレビで見たことのある選手もいたしハイレベルな試合が見れそうだな。」
花丸「先輩は試合に出ないずら?」
瑠惟「・・・・まぁブランクもあるし、何より自分一人だから・・・。」
いや、本当は違うだろ。もう一度ボールに触りたい、もう一度コートに立ってみたい。もう一度あいつにバスケしてる姿を見せたい。
でも・・・心のどこかで恐怖が残っている。もしまた怪我をしてバスケ以外もできなくなったら・・・。
そんな時だった。
「失礼します。」
誰かが楽屋をノックして入ってきた。
「こちらに瑠惟さんっていらっしゃいますか?」
名前を呼ばれて少し驚いた。
瑠惟「はい。自分ですけど・・・ってお前は!」
そこには思いもよらない人物がいた。
「お久しぶりです先輩。二年ぶりですね。」
瑠惟「輝《てる》!なんでこんなところに!?」
こいつは尾浦 輝《おうら てる》。中学時代同じバスケ部で後輩であり引退後の主将をしていたやつだ。同期以外では珍しく自分と仲が良く後輩の中でも最も信頼していた人物だ。ちなみに主将に推薦したのは自分だ。
高校進学後もバスケを続けているとは聞いていたがまさかこんなところで会うとは。
輝「俺、今日の大会に出場するために来たんですけど、Aqoursの方たちが出演するって聞いて、もしかしたら先輩もいるんじゃないかって思って来ました。」
瑠惟「なんでAqoursのマネージャーをしてるって知ってたんだ?」
輝「はい。実は俺スクールアイドルが好きでその中でもAqoursの大ファンで、前にテレビで見たときに先輩がAqoursのマネージャーとしてテレビに出ていたのでそれで知りました。」
瑠惟「なるほどAqoursのファンか・・・ちなみに推しは誰なんだ?今ならサインとかもらえるかもしれないぞ。」
そう言うと輝は少し照れながら答えた。
輝「えっと・・・は、花丸さん推しなんです///」
花丸「えっ?マルずら?」
輝「はい、初めて見たときからずっといいなって思ってました。」
なんか告白みたいだな。
花丸「マルのこと応援してくれてうれしいずら。」
輝「もしよかったらさ、サインとか貰えませんか?」
花丸「もちろん。喜んでずら。」
という感じで輝は憧れの花丸ちゃんにサインをもらうことができた。良かったな。
輝「一生大事にします!ありがとうございました!」
花丸「こちらこそありがとうずら。」
瑠惟「そういえば輝、何か用事があったんじゃのか?」
すると輝は急に真剣な面持ちになった。
輝「はい。単刀直入に言います。先輩・・・もう一度バスケやりませんか?今日この場所で。」
全員「!?」
なるほど、だからわざわざ楽屋まで来たのか。
でも・・・
瑠惟「悪いな。自分はもうバスケをやらないって決めたから。その誘いには乗れない。」
輝「そうですか・・・。やっぱり無理ですよね。あんなことがあったんですから。すいません変なこと言って。じゃあ俺は行き」
千歌「待って!」
瑠惟「千歌?」
千歌「瑠惟君、嘘を付いちゃダメだよ!」
瑠惟「そんな嘘なんて・・・」
千歌「本当はバスケやりたいんでしょ!?・・・私知ってるよ。毎日練習の後に体育館で一人バスケットゴールをさみしそうに眺めてること。」
瑠惟「・・・・」
千歌「毎晩昔にチームの人達と撮った写真を見てること。他にもいっぱいある。口ではしなくてもいいって言ってるけど、本当はしたいと思ってる。家族だもん。それくらい分かるよ。」
やっぱり千歌には分かっていたか。
千歌「私は今の瑠惟君が好き。少し臆病でヘタレな性格で周りを第一に考えてくれる瑠惟君が好き。でもね、昔のようにバスケをして笑って、楽しそうに私に試合のこととかを話してくれる瑠惟君の方がもっと好きだよ。だからこれは私のお願い・・・ううん、わがまま。瑠惟君にもう一度バスケをしてほしい。私にバスケしているところを見せてほしい。」
・・・・いつからだったかな?バスケをすることを諦めていたのは。
・・・・いつからだったかな?千歌にバスケの話をしなくなったのは。
あの時大怪我をしてから自分の中で何かが変わった気がした。
以前よりも自分を外に出さず、他人におびえていた。
この先ずっとこのままでいる気がしていた。・・・・そう。あいつにスクールアイドルに誘われるまでは。
Aqoursのみんなの変わっていく姿をずっと近くで見てきた。
みんな自分の弱さに向き合ってそれでも逃げずに前に進んできた。
自分はどうだろうか?
みんなに色々アドバイスなんかをしてきたが、思えば自分は何も変わっていなかった。自分と向き合おうとしていなかった。
そして今日のイベントのことを聞いた時に思った。変われるんじゃないかって。でも、いざとなるとやっぱり逃げようとした。
そんな時に千歌の声で目が覚めた。
真っ暗な道を独りで走っていると光が見えた。輝きが見えた。
あいつらの呼ぶ声。こっちだよという声。
さぁ今度はオレが変わる番だ。
瑠惟「・・・何年俺が誰かさんのわがままを聞いてきたと思ってる。何度でも聞いてやる。それから・・・ありがとう。俺もそんなお前が好きだ。」
千歌「瑠惟君!」
輝「先輩!それじゃあ・・・」
瑠惟「あぁ。久しぶりにやるか!バスケ!」
俺の言葉を聞いてさっきまで心配そうな顔をしていたAqoursのみんなも笑顔になった。
瑠惟「なら、服とバッシュを取りに行ってくる。」
輝「先輩!それならここにありますよ!」
そう言って輝は実家に置いてあるはずのバッシュと服をカバンから取り出した。
瑠惟「なんで輝が持ってるんだ?」
輝「ここに来る前に先輩の家に行って先輩のお母さんに言って取ってもらいました。先輩とバスケがしたいですって言って。」
またあの母親が一枚かんでたのか。でも今回は感謝だな。ありがとう母さん。
瑠惟「よし。じゃあ行ってくる。千歌、みんなを頼んだぞ。」
千歌「うん。瑠惟君も頑張ってね。楽しみにしてるから。」
そうしてみんなのいる楽屋を後にした。
Aqoursのステージが終わった後、俺達は出番までウォーミングアップをしていた。
久しぶりにボールに触るとなんだか現役時代に戻った気がした。
ドリブルやシュートの感覚も鈍っていない。
あとはスタミナだがあいつらと毎日走りこんでいたおかげでそこまで落ちてはいない。
輝も見た感じ中学時代よりも格段にレベルアップしているようだ。
ほかのチームメイトも輝と同じくレベルの高い人達だった。
彼らに自己紹介をして話しているとどうやら輝と同じ学校のバスケ部のようだった。
彼ら曰く輝がいつも俺のことを話していたのである程度俺のことを知っていたらしい。
そんなこんなで出番がきた。相手は見た感じ同じ高校生のようだ。
さて久しぶりに暴れてきますか!
ーside out 瑠惟ー
ーside in 千歌ー
この日をどれだけ待ったんだろう。
諦めかけていた。もう二度と見れないかもって。
ステージを終えた私達は急いで観客席へと向かった。
適当な席に着くと私はまだかまだかと彼の登場を待ちわびた。
想像するだけで思わず笑みがこぼれてしまう。
梨子「嬉しそうだね千歌ちゃん。」
千歌「だってずっと待ってたんだもん!」
曜「私は瑠惟君のプレーは見たことないけど、どうなの千歌ちゃん?」
千歌「瑠惟君はねすっごく上手なんだよ!」
楽しみで言葉が幼稚になってしまう。でも、実際に彼はそれほどの選手なのだ。
そして待望の瞬間が来た。
ユニフォームを来た彼のチームが入場してきた。
すると観客席から色んな声が聞こえた。
「えっ!?あいつってAqoursのマネージャーだよな?まさかバスケもできるのか?」
「バカか知らないのかよ?あの人は全中出場経験のある選手なんだぜ!まさかここで再び見れるとは思わなかった。おい、あいつのプレーよく見とけよ。」
観客の声を聞いたAqoursのみんなは驚いていた。
果南「瑠惟ってすごい人気なんだね。正直ここまでとは思わなかった。」
ダイヤ「私達のマネージャーですもの。これぐらい当然ですわ。」
鞠莉「そう言うダイヤも嬉しそうね!」
ダイヤ「そ、そんなことありませんわ。」
彼のことなのに何だか私まで誇らしくなってしまう。
それから少しして彼の復帰戦が始まった。
ーside out千歌ー
試合が始まると瑠惟はジャンプボールに競り勝った味方からパスを受けてそのままガラ空きの相手ゴールへ迫っていく。
瑠惟(復帰戦一発目のシュートはやっぱり・・・)
彼はゴール直前で大きく踏み切り高くジャンプした。
瑠惟「オラァ!!」
彼の強烈なダンクで先制点を奪取。そしてその光景を見た観客は歓声をあげた。
「スゲェ!いきなりダンクだ!」
「なんてジャンプ力なんだ!」
輝「流石です先輩!全然衰えてないっすね!」
瑠惟「当たり前だ。もっとパス寄こしてくれ。せっかくの復帰戦だから暴れさせてもらう。」
輝「元よりそのつもりですよ!」
彼のダンクを目の当たりにしたAqoursは驚きで言葉が出なかった。
千歌(すごいよ・・・。やっぱり瑠惟君はこうでなくっちゃ!)
梨子「彼の身長でダンクなんて・・・。」
花丸「先輩って確か170cm後半ぐらいの身長だったずら?」
ルビィ「ピギィ!」
その後も彼は味方のサポートを受けどんどん得点を重ねていった。
第1クォーターが終了して得点は33-4と相手を圧倒していた。
瑠惟「約30点差か・・・。」
輝「先輩、めちゃくちゃ飛ばしてますけどスタミナ大丈夫ですか?」
確かにこのままのペースでいくと後半もたないかもな・・・。
瑠惟「じゃあ第2クォーターは俺がPGやる。お前らが攻めてくれ。」
輝「マジすか!先輩がPGやってくれるんすか。久しぶりにアレ見れるんすか!」
瑠惟「しょうがない奴だな。なら久しぶりにアレやるか。」
第2クォーターに入り瑠惟のチームは攻め手をガラッと変え、体力の温存に重点を注いだ。
さっきと違ってあまり攻めない瑠惟を千歌以外のAqoursは疑問に思った。
曜「あれ?瑠惟君どうしたんだろ?急に慎重になったみたいだけど。」
ダイヤ「確かに。先程のように攻めてくるのかと思っていましたわ。」
そんな彼女たちの疑問に千歌は答える。
千歌「瑠惟君が一番得意なのはあのポジションなんだよ!」
果南「そうなの?」
千歌「うん!よく見てて・・・。」
ボールをゆっくりと運んで来た彼を止めようと相手選手が迫ってきた。
「行かせるか!」
瑠惟(おっ。中々良いディフェンスするじゃん。でも・・・)
右側から抜こうした彼に相手が反応しようとする。
瑠惟(引っかかったな。)
彼は相手が反応した瞬間にクロスオーバーで逆に切り返す。
※クロスオーバー・・・ボールを左右に素早く切り返すドリブル
「なっ!?」
するとその切り返しで相手はバランスを崩してその場で倒れてしまう。
彼のプレーで観客から驚きの声が出る。
瑠惟(久々で成功するか怪しかったけどうまくいったな。)
相手を抜くと彼はシュートを打った。
しかし彼の放ったシュートはゴールを狙ったシュートではなく・・・
輝「ナイスパスっす先輩!」
輝へのアリウープだったのだ。
※空中でパスを受けて着地せずにそのままダンクするプレー
パスを受けた輝は豪快なダンクを叩き込んだ。
「うおぉぉ!アリウープだ!」
「あいつら本当に高校生かよ!?」
瑠惟(これだよこれ!この感覚!)
さっきの一連のプレーでどうなっていたか素人の彼女達には理解できなかった。
梨子「今何が起こったの?」
ダイヤ「相手選手が転んだように見えましたが・・・」
千歌「違うよ。瑠惟君がやったんだよ。」
千歌の言っている意味が他のみんなにはよく分からなかった。
曜「え!?それって反則じゃないの?」
千歌「ううん。瑠惟君が相手が転ぶように仕向けたんだよ。」
果南「そんなことできるの?」
千歌「普通なら狙ってできることじゃないけど、彼の眼があればそれが可能なの。」
梨子「眼?」
千歌「彼は相手の体の細かい動きを見て今までの経験とで相手の次のプレーをかなり正確な制度で予測してるの。」
千歌(前に瑠惟君はこれを『えんぺらーあい』って言ってたっけ?う~ん、今でも何のことかよく分からないよ。瑠惟君ってたまに善子ちゃんみたいなこと言うからな~)
善子「つまり・・・相手の未来が見えてるってことね。」
千歌「ちょっと違うけど、まぁそんな感じかな。」
梨子「何かの漫画で見たことある気がする。」
千歌「梨子ちゃん、それ以上は・・・。」
梨子「そ、そうね。」
Aqoursは改めて彼のすごさを実感した。
そして彼とチームの勢いは止まらないまま試合が進んでいき、第4クォーター残り数秒。
相手のパスをカットした味方からラストパスを受け取った彼は素早いドリブルでスリーポイントラインまで進み、シュート体勢に入る。
「3、2、1・・・」
そして彼はこの試合最後のスリーポイントシュートを放つ。
シュートを打った彼はまるでゴールに入ったことを確信しているかのように右手を人差し指と共に高く挙げていた。
瑠惟(0から1へ・・・。これが俺の1だ!)
試合終了のブザーと同時に彼のシュートはネットを揺らした。
千歌(やっと帰ってきたね・・・おかえり。)
そんな彼女は目からあふれ出たものをを袖で拭った。
こうして彼の復帰戦は見事なブザービーターで幕を閉じたのであった。
ーside in瑠惟ー
試合終了後に輝が俺に言った。
輝「先輩、お疲れさまでした。やっぱり先輩はすごいっす。」
瑠惟「そんなことねーよ。お前らのおかげでこんなに気持ちよくプレーできたんだ。ありがとな。」
輝「俺も先輩とおんなじコートに立てて良かったです!」
瑠惟「それはこっちも同じだ。」
すると一人の男が話しかけてきた。
「君が瑠惟君かね?」
瑠惟「はい。そうですけど・・・あなたは?」
「自己紹介がまだだったね。すまない。私はさっき君とプレーしていたチームメートの高校のバスケ部の監督だ。」
瑠惟「そうなのか輝?」
輝は何も言わずにうなずいた。
「率直に言おう。君にうちの学校に来て、チームでプレーしてほしい。」
なるほどスカウトってわけね。
とてもうれしい話だが・・・
瑠惟「申し訳ありませんがお断りさせていただきます。俺にはまだやることが残ってるんです。」
「そうか・・・。残念だ。まぁ気が変わったら連絡をしてきなさい。私達はいつでも君を歓迎しよう。」
そうして男は去っていった。
輝「断ってよかったんですか?自分で言うのもなんですけどうちのチーム結構強いんですよ。」
瑠惟「悪いな。生憎今の俺は浦の星女学院スクールアイドルAqoursのマネージャー。俺の仕事はあいつらをてっぺんに連れていくこと。だから今の俺にはできない相談だな。」
輝「そうですよね。先輩ならそういうと思いました。頑張ってください!応援してますから!」
瑠惟「おう。ありがとな。」
輝と別れた俺は控室に向かった。
控室のドアを開けると・・・
やっぱりみんなが待っててくれた。
千歌「お疲れさま!そしておかえりなさい!」
瑠惟「ただいま。」
梨子「すごかったね!私びっくりしちゃった!」
曜「私もまるで別人を見てるみたいだった!」
瑠惟「そうか。見ててくれたんだな。ありがとう。」
果南「流石だね。まさかダンクできるなんてね。」
鞠莉「Very coolだったね!」
ダイヤ「あなたの姿、とても誇らしかったですわよ。」
瑠惟「そんなに褒められるとなんか照れますね。」
ルビィ「す、すごいです!ルビィあんなの見たことなかったです!」
花丸「マルも先輩みたいにおっきくなりたいずら。」
善子「クックック。未来を見通す魔眼。・・・かっこいい!」
瑠惟「あのこと話したのかよ・・・。」
千歌「嬉しくてつい・・・。」
あの眼のこと別に俺が自分で言ったわけじゃなくて他の奴が勝手に言ってただけなんだよなぁ。
でも、調子に乗って『エンペラーアイ』とか千歌に言ってたっけ。
瑠惟「まぁ今日俺がバスケをできたのは千歌はもちろんみんなのおかげだ。ありがとう。」
千歌の方を見ると彼女の目が少し赤く腫れているようだった。
瑠惟「もしかして泣いてたのか?」
千歌「別に泣いてなんかないもん!」
瑠惟「はいはい。そういうことにしておきますよ。」
そんなこんなで俺は一つ前に進むことができた。
次は地区予選。勝てば決勝。そして学校の運命が決まる。
明日からまたマネージャーとしての日常が始まる。
次からは普通の話に戻ります。