私の自己満足話の続きでございます。
前話を読んでない方は前話から読むことを推奨します。
圧倒的なプレーでコートを支配する瑠惟と思わぬ伏兵ルビィによる活躍で9点差まで空けられた東京選抜の監督はたまらずタイムアウトを取った。
ベンチに戻る選手の顔色に疲労が少し見えると監督はすぐには作戦を言わずに選手をベンチに座らせた。
「とりあえず水分補給と疲労回復につとめながら話を聞いてくれたまえ。」
高木「監督、8番と13番はどうやって止めたら・・・。」
彼女の問いに監督は眉間に皺を寄せる。
「13番にはダブルチームで対処したいが、その作戦はお前達の体力がどこまで持つかにかかっている。できるか?」
田所と高木の二人を見て監督が言った。
それを見た二人は首を縦に振った。
「分かった。13番にはそれでいこう。問題は8番だが・・・彼女は君の弱点をしっかりと理解しているね。鈴谷君。」
鈴谷「・・・はい。悔しいですが8番は俺の弱点を分かってあのディフェンスをしています。」
「あの小さい体格からは想像もできない強かなプレー・・・。まるで『
東京選抜の監督にそう言わせるほどルビィは驚異となっていた。
「それに8番を止めると言ったが、彼女自身ディフェンス時には特段動きを見せていない。鈴谷君がゴールに向かってターンをする際に当たりに行って上手く転んでいるだけだ。言い方を変えれば鈴谷君を止めているのは審判だ。」
古坂「どういうことですか?」
「つまりは8番は・・・いや相手チームは審判を味方につけたということだ。その要因たり得るものはあった。1つ目は戦力差。君たちも分かっている通り試合前は東京選抜とスクールアイドルじゃ天と地ほど力の差があると思っていただろ?」
原田「なんでそれが原因に?」
「日本人はね・・・ジャイアントキリングって言うのが大好きなのさ。弱い者が力を合わせて強き者を倒す。これは今の私達の状況にも言えるとは思えないかい?審判だって機械ではない。頭では公平にジャッジしていても無意識の内に相手チームの方に肩入れしてしまっているということだよ。」
高木「そんなの・・・卑怯じゃ」
そんな高木の言葉に鈴谷が反応した。
鈴谷「卑怯ではない。彼女たちは自分たちが利用できるこの環境を上手く利用しただけだ。何も反則などはしていない。」
「彼の言う通りだよ。そしてもう1つだが・・・そうだな・・・田所、第1・2クォーターが始まる前に相手チームが何をしていたか覚えているか?」
田所は記憶を探り先程の出来事を思い出す。
田所「そう言えば・・・試合に出るメンバー全員で審判に挨拶に行っていましたね。」
「あぁ。普通は第1クォーターが始まる前にチームを代表してキャプテンが行くのが当たり前になっているが彼女達は全員で、それもきちんと握手をしていた。これにより審判は相手チームにいい心象を持ってしまったので彼女達に有利なジャッジをしてしまっても不思議なことではない。これには相手チームで指示を出している13番を敵ながら褒めたいところだ。」
「とにかく向こうの狙いは鈴谷君だ。だから鈴谷君はしばらく味方のサポートに徹するように。」
鈴谷「はい。」
不本意ながらも鈴谷はチームのためだと思い監督の決断を受けいれた。
一方Aqoursベンチでは東京選抜ほど暗い雰囲気ではなかった。
瑠惟「よくやったルビィ!」
ルビィ「あ、ありがとうございます!」
会場の誰もこの小さな少女がコートで一番大きな選手を無力化するとは思わなかっただろう。
しかし瑠惟はルビィの力を信じ、一切の迷いなく彼女を鈴谷のマークに付けた。
ベンチで攻防を見ていた花丸が疑問を口にした。
花丸「でもなんで6番はわざわざルビィちゃんと勝負するずら?ファールが怖いならルビィちゃんから離れてシュートを打てばいいのに・・・」
瑠惟「花丸、あいつはルビィちゃんと勝負するしかないんだよ。なぜなら・・・」
果南「あの子ミドルシュートが苦手みたいだね。」
先程までマッチアップしていた果南がそう言った。
瑠惟「果南の言う通りだ。第1クォーターの間ずっと6番を観察していたがゴールした以外のシュートは打たなかったし、ジャンプ力のある果南さんに対してもゴール下まで持ち込んで勝負していたから、きっと外は打てないかもと思っていたが、まさかここまで作戦がハマるとは予想外だった。」
そして瑠惟は次の作戦を伝える。
瑠惟「恐らく相手は俺とルビィに何かしらの対策をしてくるから、攻め方を変えよう。そうだな・・・俺以外の4人中心で攻めよう。お願いしますよ、曜、善子、ルビィ、ダイヤさん。」
タイムアウトが終了し、東京選抜ボールで試合再開。
鈴谷は指示通りに中でポジションは取らず、外に開いていた。
これによりペイントエリアには誰もおらず、5人全員が外に展開している。
こうなってくるとオフェンスは1 on 1でデイフェンスを抜いてしまえば絶好のシュートチャンスとなる。
ボールを持った田所もそれは分かっているようで、右サイドにいた古坂にパスを出した。
パスを受けた彼女は目の前にいるダイヤに仕掛ける。
まず彼女はシュートフェイクでダイヤの重心を浮かすと、ドリブルで左から突破した。
ダイヤ(全国レベルだけあって一つ一つの動きが洗練されていますわ!)
そのまま古坂はゴールに近づくがヘルプに来た曜に進路を阻まれてしまった。
しかし古坂は動揺することなく空いた原田にパスを出しゴールを沈めた。
久しぶりに東京選抜に点が入りコートの選手たちは少し安堵した。
続いてのAqoursの攻撃、瑠惟は田所に近づかれる前に善子にパスを出し、善子はドリブルで中に切り込んだ。
善子を止めようと原田と鈴谷がヘルプに来るが、善子は落ち着いてパスをダイヤに出した。
ダイヤ「先程はやられてしまいましたから、お返しをしないといけませんわね。」
古坂「できるものならやってみなさい!」
ダイヤ「では・・・」
ダイヤは右にドライブを仕掛けたが、古坂はそれに反応し先回りする。
だが・・・
古坂「あれ?なんでそこにいるのよ・・・」
右からダイヤが仕掛けてきたように見えた古坂だが実際には元の場所から一歩も動いておらずダイヤはその場でシュートを放った。
彼女のシュートは音も無くリングをくぐり、観客でさえも得点が入ったことを一瞬理解できなかった。
「あの人のシュート超綺麗だったな!」
「いや、その前のフェイクも本物に見えたぜ。」
「あぁ、だって7番が反応できてなかったもんな。」
観客がそんな感想を言い合う。
瑠惟「今日は調子いいみたいですね。」
ダイヤ「何をおっしゃってますの?今日
2人はバチッとハイタッチをした。
リスタートした田所が古坂に声をかける
田所「ドンマイ。次がんばりましょー。」
古坂「えぇ。」
そう答える彼女だが内心今の出来事に驚きを隠せなかった。
古坂(あの10番・・・フェイクも見事だったけど、それ以上に何なのよあのシュートは・・・。動きが滑らかすぎて反応できなかった。いや・・・あまりにも美しくて見惚れてしまった。)
彼女の視線はコートを優雅に駆けるダイヤに奪われるのであった。
その姿はダイヤの異名のような『紅き踊り子』だった。
その後、東京選抜は田所の眼を使ったチームプレイで着実に点差をを縮めていった。
残り時間5分
40 ‐ 35
そして5点をリードするAqoursのオフェンス時、曜にボールが渡りドリブルで中に切り込む。
瑠惟「曜、そろそろお前の力を見せてやってくれ。」
曜「OK!ゴールに向かって全速前進ヨーソロー!」
マークに付いてる原田はゴール下で曜の前に立ちふさがり大きく両手を広げた。
原田「悪いけど、そう好き勝手にはやらせないわ。」
曜「カントクの指令だからやらせてもらうね♪」
そして曜は強く踏み込み跳躍する。
原田「!?」
彼女は驚いた。なぜなら・・・
バキィィィ!!!
身長が160cmもない曜が目の前で跳躍してそのままボールをリングに叩き込んだからだ。
これには観客も言葉が出なかった。
田所「なんで・・・5番がダンクを・・・」
自分より身長が低い彼女がダンクを決めたという事実を受け入れられないかのように田所が呟いた。
瑠惟「確かに女子でなおかつあの身長でダンクをするなんて考えられないよな。
だけどあいつはジャンプ力だけで言ったら俺よりも全然高いし、それは水泳や高跳びで鍛えられた彼女の圧倒的身体能力がダンクという芸当をも可能にさせるんだ。
まぁこっちのCは2人ともフィジカルはそこら辺の男子よりも強いし。
ちなみにあいつは中学時代その跳躍から『
とどのつまり、女子だからってあんまり舐めてかからないことだな。」
田所(向こうのチームはなんて化け物揃いなんだ。5番がのあの高さに加え、鈴谷が封じられている以上、中から攻めるのは難しいか。・・・なら!)
彼はフェイクで瑠惟を揺さぶった後、古坂にパスを出した。
古坂「中がダメなら外から攻めるのみよ!」
彼女はボールを貰い即座にシュートを放った。
ダイヤ(これは!速い!)
ダイヤはブロックに飛ぶが間に合わずスリーポイントを許してしまった。
花丸「今のシュート、あれを止めるのは難しいずら。」
千歌「え?なんで?」
花丸「7番はボールを貰う少し前に既に足だけはモーションに入っていてボールが手に来ればそのままシュートできる体勢になっていたずら。ダイヤさんは反応できただけでもすごいずら。」
梨子「でもそれならあらかじめブロックに飛んでおけば・・・」
花丸「それは逆効果ずら。もし先にブロックに飛べばそのシュートは防げるかもしれないけど、あくまでもシュートモーションに入っているのは足だけ。相手はこっちの動きを見てから選択肢を変えることができるずら。」
千歌「さすがは東京選抜だね・・・。どうするの瑠惟君・・・。」
その後も東京選抜は古坂と原田のスリーポイントで得点を量産し、ついにAqoursは逆転を許してしまった。
瑠惟は得点板をちらりと見ると顔をしかめた。
瑠惟(『44 - 50』。・・・6点差。こうなったのは俺の判断ミスだ。相手は仮にも東京最強。外が脅威にならないはずは無かったのに。それに俺へのダブルチームも中々厄介でどうしたら・・・。)
悩む彼の元にダイヤと他3人が駆け寄ってきた。
ダイヤ「あなたらしくありませんわよ。」
瑠惟「でも・・・この状況どうすればいいか・・・」
ダイヤ「私達の目標は勝つことではありません。
楽しむことです。勝敗はその次。
今の瑠惟さんを見ているととても楽しんでいるようには見えませんわ。」
瑠惟「楽しむこと・・・」
ダイヤ「はい。第2クォーター残り時間の約2分半、あなたの思うようにプレーしてみてください。私達は全力でフォローしますわ。」
瑠惟「みんなはそれでいいのか?」
曜、善子、ルビィの3人は彼の問いに頷いた。
瑠惟「・・・分かりました!みんな残り時間、俺を支えてくれ!」
迷いが無くなった瑠惟はダブルチームに対して先程のように引くのではなく、むしろかかってこいと言わんばかりの気迫で勝負を仕掛けに行った。
そんな彼の動きを見た田所は驚いた。
田所(こいつ・・・さっきよりも動きが良くなってるそれもあの眼に頼った動きではなく・・・)
強引にダブルチームを突破した瑠惟だが田所によって後ろからボールをはたかれてしまいボールがコートの外に出てしまった。
瑠惟「クソー!やられた!!」
悔しさのあまり彼はそう叫んだ。しかし彼の表情にはどこか楽しさが感じられた。
Aqoursボールで試合が再開し再び瑠惟にボールが渡った。
彼はもう一度ダブルチームに勝負を仕掛けようとする。
高木「何度やっても無駄よ。1人ならまだしも2人でなら絶対にあなたを止められる。」
そんな彼女の言葉を聞いた瑠惟は笑いながらこう答えた。
瑠惟「無駄なことはないさ。人生は挑戦の連続。偉い人が言ってたぜ。諦めたらそこで試合終了だって。だから俺は何度でも挑む!」
そして彼はドリブルを仕掛けるが上手くいかずターンオーバーを許してしまった。
ボールを拾った高木がドリブルでゴールに迫るが・・・
バチィ!!
高木「なっ!?」
善子「手元がお留守よ。それでは私から点は取れないわ。」
いち早く戻った善子が高木の後ろからボールをカットしたのだ。
ボールをカットされた高木はそんな彼女のプレーを体験して思い出した。
高木「気配を感じさせないそのバックチップ。あなた・・・静岡で有名なディフェンスの達人ね。たしか『
善子「あら、私のこと知ってくれてるのね。」
そして善子は保持したボールを瑠惟に渡した。
瑠惟「みんなすまない・・・。」
彼はターンオーバーを許してしまったことを4人に謝る。
しかし・・・
曜「今のは惜しかったね!でも次はきっと抜けるよ!」
善子「全く・・・もっと全力で挑みなさいよ。あなたならいけるわ。」
ルビィ「先輩、がんばルビィですぅ!!」
彼女たちは彼のミスを責めることなく励ました。
ダイヤ「今は好きなようにやってください。大丈夫ですわ。フォローは私たち4人がいたしますから。」
瑠惟「みんな・・・ありがとう。」
第2クォーターも残り時間があと約20秒となりAqoursは前半戦最後の攻撃を仕掛けようとしていた。
ボールを運んだ瑠惟はダブルチームと相対する。
瑠惟(今の俺じゃあこの2人を抜くのは正直難しい。だが・・・)
瑠惟(この攻撃だけは絶対に成功させる!!)
瑠惟は軽く深呼吸すると田所の方にトップスピードでドリブルを仕掛けた。
それは今までのどのドリブルよりも格段に早いものだった。
田所(なんてスピード出してやがる!でも俺には眼がある!)
田所は瑠惟に追いつきその進路を阻んだ。
その瞬間、瑠惟はイタズラが成功した子供のように口角を上げた。
瑠惟(あぁ・・・分かってたさお前なら俺に追いつけるって。でも・・・)
瑠惟(追いつけるのが1人だけじゃダブルチームの意味はないんだよ!)
田所は何かに気がついたように一瞬横に視線を向けた。
田所(まさか!あいつの狙いはこれか!)
彼の目に映ったのは何が起こったのか分からずにその場で構える高木と二人の間を突破する瑠惟の姿だった。
瑠惟のドリブルのスピードは全国でも止められるのは片手で数えるほとしかいないくらい速く、たとえ田所がその眼を使って反応したとしても瑠惟のクロスオーバーを止めるには高木との協力が不可欠だ。
しかし高木はあまりにも速い攻撃に反応することができず、実質的に田所と瑠惟の1on1になってしまっていたのだ。
間を突破されてようやく何が起こったのか理解した高木を背に瑠惟はゴール下へとドリブルをしていく。
しかし立ちはだかるのは東京選抜の壁である鈴谷。
彼は高さで瑠惟をねじ伏せようと両手を上げブロックの姿勢に入る。
瑠惟(高さ勝負か!おもしれぇ!受けて立つぜ!)
鈴谷との真っ向勝負を望んだ瑠惟はボールを手に持ち跳躍する。
ダンクの姿勢に入った彼はとても170cm代の選手の高さとは思えないぐらい高く跳んでいた。
だが鈴谷も彼と同じくらい高く跳躍していた。
鈴谷(東京選抜を舐めるなぁ!!)
瑠惟(絶対に決めてやる!!)
千歌「いけぇー!!!瑠惟君!!」
鈴谷「うぉぉぉぉぉ!!!」
瑠惟「うぉぉぉぉぉ!!!」
意地と意地がぶつかる空中戦を制したのは・・・
バキィ!!!
瑠惟「いよっしゃぁぁぁ!!!!!」
Aqoursのマネージャー、西王瑠惟であった。
ここで第2クォーター終了を告げるブザーが会場に響いた。
観客は先程の強烈なダンクに最高に盛り上がっていた。
「13番が6番をぶっ飛ばしてダンク決めちまった!!」
「あぁこれだよ!これ!俺達が見たかったのは!」
Aqoursも観客と同様に瑠惟のプレーに歓喜していた。
千歌「すごいよ瑠惟君!!」
瑠惟「ありがとう千歌。俺もまだ信じられねぇ。本当に決めたなんて。」
ダイヤ「残り時間をあなたに託して正解でしたわね。」
瑠惟「ダイヤさんに、他のみんなも俺を信じてくれてありがとう。」
途中まで東京選抜に流れが来ていたが彼の最後のプレーでその流れはAqoursに傾いた。
両チームベンチに戻り10分間のハーフタイムを挟んだ。
ハーフタイム中も会場はまるで試合中かのような熱狂に包まれていた。
前半戦も終わり残るは20分。ここからさらに白熱する後半戦が始まろうとしていた。
キャラ設定
・曜
異名・・・蒼鳥
得意プレー・・・ダンク
・ルビィ
異名・・・小悪魔
得意プレー・・・ファールをもらうこと
・善子
異名・・・宵闇
得意プレー・・・スティール
・ダイヤ
異名・・・紅き踊り子
得意プレー・・・フェイク、スリーポイントシュート