超侵略侵攻 ベール 鎧神 グリーンハート   作:ガージェット

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今回で、最終回となります。それではどうぞよろしくお願いいたします。


14.再生する世界

「ふわぁ……あ」

 

 カーテンの隙間から、朝日が差す部屋の中。机の上で突っ伏した『彼女』は、ゆっくりと体を起こした。大きくあくびをした後、ぐっとのびをする。青緑色のドレスを身に着けた、そのバストは豊満であった。

 それから彼女は立ち上がると窓辺に近づき、カーテンを開けた。早朝の朝日が眩しい。

 

「――また、つい徹夜してしまいましたわ。さすがに連日の徹夜は、お肌に良くありませんわね……」

 

 目を細めつつ、窓辺から見下ろす街並みは、自然の緑色を残しながらも、高層ビルが立ち並んでおり、その間を幹線道路が通っていて近未来的な印象を受ける。ここは『ゲイムギョウ界』の『緑』の国、『リーンボックス』である。

 

「でも、ようやくクリアできましたわ。一週目に数日間つぎ込むなんて、いつ以来かしら」

 

 机の上に置かれたデスクトップ型パソコンを見やって、彼女は徹夜後とは思えぬ、生き生きとした表情でつぶやく。そのモニターには、ゲームのクリア画面が映し出されていた。

 とそこで彼女――ベールは、はたと思い当ったようなそぶりを見せる。

 

「!? この状況、前にも体験したような気が……なぜかしら」

 

 ゲームに時間をつぎ込んで徹夜、など彼女にとっては日常茶飯事である。しかしなぜか『今この時』と全く同じシチュエーションが、記憶の奥底にあるような、そんな感覚がするのだ。それが一体何なのかは、思い出せないのだが。

 何だか釈然としない気持ちになりながらも、ベールは気分転換にもう一度窓辺から、街を見下ろした。

 

「いつも通り……今日も、この国は平和ですわね」

 

 青空の下、無邪気に笑いながら通りを駆け抜けていく子供たち。それをたしなめている大人もいれば、笑って見守っている者もいる。他にもカバンを持った登校途中らしき学生の姿に、買い物をしている主婦らしき女性の姿、歩きながらスマホをいじっている女の子……今日はいつもより、みんなの顔がよく見えるような気がした。よく晴れているから、というのもあるだろうが、それだけではないような気がする。

 住人たちを見つめるベールの心から、愛おしさが溢れ出してきた。急に、と言うよりはごく自然に、この情景をいつまでも見つめていたいような気分になってくる。

 

「本当に、どうして……かしら? いつもの、景色……なのに」

 

 いつの間にか、彼女の両目からは熱い涙がこぼれていた。顔を覆ったが、愛しい思いは堰を切ったようにとめどなく溢れ出してくる。なぜ自分が泣いているのか、彼女自身にも分からなかった。しかしどうしてか、心の中はとても温かいものに満たされていた。

 ベールが窓辺で泣きじゃくる中、そっと、後ろからその肩に手を置いた者があった。そして、ぎゅっと抱きしめられるような感覚がした。

 

「ううっ、えぐっ……あ、あなた、は……」

 

 名前は出てこなかった。しかしこの感覚、ベールは『彼女』のことをどこかで知っていた。

 そして『彼女』は、

 

『ベール。この日常と、みんなの笑顔を……他の誰でもない、あなたが守ったんだよ』

 

 優しく、そうささやいた。

 

 

 

 

 

 

 

――これは、ベールの世界とは別の世界でのお話。

 一人の女性が、宮殿のような建物……よく見ると、高層ビルのように大きな樹木だが……の窓辺に立っている。透き通るような白い肌に、輝く金髪、胸部はベールよりも控えめだが……木の洞のようなその窓から、彼女はその下に広がる景色を眺めていた。

 

「はあ……この世界は、今日も美しい……」

 

 星空の下、どこまでも続く緑の絨毯のような景色。その中で、赤や黄色、紫……といった様々な色の光が灯っている。その光に照らされて、草木の間を行き来する人々の姿が幻想的に映し出されていた。

 その様子に、彼女の口から思わずため息がもれる。

 

「……なのに、なぜ……あの子だけが、いないのですか……?」

 

 が、直後にその顔がかげってしまう。目頭を押さえつつ、彼女は続けて言った。

 

「この親不孝者が……でも、この日常をありがとう。この『ヘルヘイム』を救ってくれて、本当に……ありがとう。ねえ、聞いているのでしょう――トウコ?」

 

 誰にでもなく、独り言のようにつぶやいた彼女の耳に、懐かしい声が聞こえてきた。

 

『うん、聞いてる聞いてる。これまで迷惑かけた分、今度は私が『女神様』やみんなのこと、しっかり守るからさ』

「ふふ、この未熟者が……一丁前の口を利くようになりましたね」

 

 

 

 

 

 

 

「ヘルヘイムとのリンクが切れた……まさか、こんなコトになっちまうとはねー」

 

 漆黒の闇に包まれた空間の中、幼い女の子の声が響く。背中に紫色の羽を生やし、本の上にちょこんと乗った『彼女』は、そう言うとおもむろに、手にした携帯ゲーム機のスイッチを入れた。

 そして液晶画面に向かって話しかける。

 

「おーい、くろめちゃーん?」

「やあクロワール。『コレ』を起動させたってことは……前の『オレ』が、何かやらかしたようだね?」

 

 するとその呼びかけに応じるかのように、画面にくろめの姿が映し出された。呆れたような表情の彼女に、クロワールと呼ばれた女の子はため息交じりに答える。

 

「ああ、計画は失敗だよ。どうも『お前』は完全敗北しちまったらしい」

「そうか……やれやれ、バックアップを取っておいて正解だったよ。不測の事態っていうのは、いつだって起こり得ることだからねえ」

 

 クロワールの答えにくろめは肩をすくめる。彼女に向けて、クロワールは頭を横に振って続けて言った。

 

「目覚めて早々悪いけどよ、悪い知らせがもう一つだ。あのトウコとかいう女神の後釜、あいつにヘルヘイムとのリンクを切られちまった」

「はあ!? 嘘だろ? そんなことできるはずが――」

「『禁断の果実』の力を使って、時間を巻き戻した上でヘルヘイム自体と同化したみてーだ。ま、時間の流れに干渉した時点で現世に留まれはしなかっただろうがね……って、うわっ!?」

 

 彼女の報告を聞いたくろめの顔色が変わる。段々とその表情は怒気を含んだものになっていき、突如、クロワールの言葉を遮るように、画面に向けて拳を叩き込んだ。

 実際に画面が割れることは無かったものの、衝撃を伴ったエネルギーが放出され、液晶にヒビのようなエフェクトが入る。

 

「あいつは、どこまでオレをイラつかせれば気が済むんだ……!」

「でもよ、良いニュースもあったり」

 

 怒りに肩を震わせるくろめに、クロワールが話しかけるが、それを無視して彼女は呟き始めた。

 

「……だが! オレと一時は同化していた以上、『ネガティブエネルギー』の因子は消しきれないぞ。結実を拝めないのは残念だが、その『種』がこれからどう成長していくか……楽しみに待っていてやろうじゃないか。くっくっく……!」

「ひえー、転んでもタダでは起きないってか? やっぱりお前は怖いねー。……んで、実は良いニュースもあるんだが聞いとくか?」

「おっと、オレとしたことが取り乱してしまったようだ……何だい、聞こうじゃないか」

 

 我に返るくろめに、クロワールはニヤッと笑みを浮かべて話し始めた。

 

「また『他の世界』に、面白えモンを見つけたぜ。お前の新しいボディも探さなきゃいけねーしな。正直、その中じゃ窮屈だろ?」

「いいねえクロワール、行動が速くて助かるよ……今度こそ、オレを見捨てた『世界』に復讐を果たしてやる……!」

 

 それを聞いたくろめの顔にも、邪悪な笑みが浮かぶ。

 

「んじゃ、再び旅に出ましょーかね」

 

 そう言ってクロワールが右手をかざすと、その空間に彼女が通れるほどの小さな穴が空いた。クロワールは空いた穴と、手元のゲーム機を見比べて小さく笑った。

 

「くく、ゲーム機に入ってて良かったなお前。そのままのサイズだったらワームホールをくぐれなかったろ」

「馬鹿なこと言ってないで早く行ったらどうなんだい? あと、ボディを手に入れたら覚えておきなよ」

「ゴメンゴメン、謝るからよ。そんじゃ、いざしゅっぱーつ!」

 

 クロワールが中に入ると同時にワームホールは口を閉じてしまう。そして、漆黒の空間は静寂に閉ざされた。

 




拙作にここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
どれだけ読者の方の期待に応えられたか、キャラクター達の魅力を伝えられたか(そもそも期待などされていなかったかも知れませんが……)分かりませんが、読んで下さった人をもっと楽しませられる作品が書けるよう、これから精進していく所存です。

それでは重ね重ね、本当にありがとうございました。

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