超侵略侵攻 ベール 鎧神 グリーンハート   作:ガージェット

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9.決着、そして……

 トウコと『女神様』、両者の放ったキックがぶつかり合い、空中で互いに激しく押し合った。

 

「ううおおおおっ!!」

「…………!」

 

 二人のパワーはほぼ互角と言ったところで、トウコのまとうオレンジ色のオーラと『女神様』のレモン色のオーラが拮抗している。ぶつかり合うお互いのエネルギーが衝撃波を生み、地面を揺るがした。

 押し合う二人のまとうオーラがひときわ大きくなる。そして遂に、橙と黄色の混じったような色の閃光と共に、大爆発を起こした。

 

「ぐうっ……!」

 

 生じたエネルギーの余波に、空中のグリーンハートも体を持っていかれそうになる。その衝撃に耐え、伏せていた顔を上げると、地上では変身の解けてしまったトウコが、同じく変身が解けて黒いドレス姿となった『女神様』をその小さな体で抱きかかえ、座り込んでいた。

 

「女神、様……ごめんね。本当、に……」

「トウコ……」

 

 うなだれ、消え入るようなか細い声で、トウコは呟くように言う。彼女の腕の中で、『女神様』は動かない。グリーンハートも地上に降りると、二人の元へ歩み寄っていった。そして何も言わずに、少し離れた所で見守るように立っていた。

 トウコに抱かれた『女神様』の体が、淡い緑色をした光に包まれていく。徐々に、その体の輪郭がぼやけていった。そして、

 

「彼女の体が……?」

「『女神様』……本当に、お別れ……なんだね」

 

 二人の見ている前で、細かい光の粒子となり、彼女は昇華してしまった。緑色に輝く粒が、空中に消えていく。彼女の着けていたベルトが乾いた金属音を立てて地面に落ちる。その後には、『女神様』のいた痕跡は何一つ残っていなかった。

 うなだれていたトウコが顔を上げ、グリーンハートの方を向く。その目には奥底に決意の炎が燃えていた。が、

 

「うぅっ!?」

「トウコ! どうしましたの!?」

 

 突如、彼女は目を大きく見開くと苦しげにうめいた。グリーンハートが駆け寄ろうとするとトウコの背後から、

 

「おっと、動いちゃダメだよ。うっかり心臓を潰してしまうかもしれないからね」

「あなた、暗黒星……くろめ!?」

「お、お前……本、物……!」

 

 もはや聞き間違えようもない声が響いた。いつの間にか、トウコの背後にクラックが開いており、彼女の背後に立ったくろめは、その小さな背中に右手を突き刺している。手を差し入れたまま、彼女は続けて言った。

 

「慧眼だねえトウコ。でもオレの接近に気付かないぐらいだ、もはや君に反撃する力なんて残ってないんだろう?」

「あ、うぅあ……」

「やっとだ、この時を待っていたよ。『禁断の果実』を手に入れるこの時を!」

「この……何て、卑劣な! 」

 

 背中から血を滴らせ、トウコは息も絶え絶えにあえぐばかりである。グリーンハートは相手を睨みつけ、そう言い放ったが、くろめは涼しい顔で応じた。

 

「何とでも言うがいいさ。方法や過程なんてどうだっていい、『勝てばよかろう』なんだよ!」

 

 そう言って右手を更に深く、トウコの体に差し入れる。とそこで彼女の表情が変わった。口角を上げ、急にくろめは笑い出す。

 

「ふ、はっはっはっはっは! ようやく手に入れた……『禁断の果実』のもう半分を! これでオレは『全能』の存在に……いっ!?」

 

 が、その勝ち誇った笑い声は途中で途切れることとなった。彼女の胸に一振りの刀、その刃が突き立てられている。トリガーのついたその柄を握っているのは、

 

「や、やっと……つか、まえた!」

「トウコ……お前、どこに……そんな力が!」

「下手に動くと、危ないよ。 『全能』の力を前に……刺し違えて、死にたくは……ないでしょ?」

「ぐぬううううぅぅっ!!!」

 

 トウコであった。くろめに背を向けたまま、いつの間にか手にした刀を突き刺している。血走った眼で悔しげにうめくくろめに、彼女は息を切らしつつも言い放ち、刀の柄を握る手に力を込めた。キッと結んだ唇の端から、一筋の血が流れる。

 

「無茶はおやめなさい! トウコ!!」

「……ベール、ごめんね。助けてもらって、ばっかりで。でも……こんな私でもあなたと、あなたの国の、ために!」

 

 グリーンハートの言葉に応じると、彼女はもう片方の空いた手で、オレンジ型の錠前を刀のくぼみにはめ込んだ。そしてハンガーを閉じたその瞬間、くろめの表情が青ざめる。狂ったように彼女は叫んだ。

 

「やめろトウコォ! 心臓を潰すぞ!!」

『ロック、オン!』

「お好きにどうぞ。でも、あなたもここで終わりだよ!!」

『イチ、ジュウ、ヒャク……』

「トウコ! 馬鹿な真似はよしなさい!!」

 

 刀から電子音声が流れる。口の中の唾と血を吐き捨ててそう言ったトウコに、考えるよりも先に体が動き、グリーンハートは駆け寄っていく。

 彼女が走り出したのとほぼ同時に、くろめは差し入れた右手を勢いよく抜き取った。赤く染まったその手には黄金色に輝く、半分に割れたリンゴのような形をした果実が握られていた。彼女の顔が一瞬、喜びに輝いたが、

 

『オレンジチャージ!!』

「はああああぁぁぁっ!!!!」

 

 絞り出すようなトウコの叫び声と共に、くろめの胸に刺さった刀身からオレンジ色の光が溢れ出し、何本もの光線が内部から彼女の体を貫いた。

 

「うわああああっ!! い、嫌だ……ようやく生き返った、のに……し、死にたくない! オレは、まだ、死にたく……」

 

 くろめはそのまま後方へよろめき、その手から果実が転げ落ちる。何とも情けない、悲鳴のような声を上げつつ拾い上げようとするが、落ちた果実に触れる前に、彼女の指は先端の方から黒い粒子となって消滅を始めた。ひいっ、と彼女は息をのむ。

 トウコは前方によろめきつつも背後を振り返ると、

 

「……終わりだよ、暗黒星くろめ」

「ふざけるなああああっ!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああっ!! こんな、の……あああぁぁぁぁ」

 

 そう言い放ち、そのままうつ伏せになって倒れ込むと、目を閉じた。一方でくろめの方は子供のように喚くが、体の消失は止まる気配も無い。やがて哀れな残響のみを残して、彼女の体は黒い粒子となって昇華し、完全に消え去ってしまった。その後に、空中からもう一つ、半分に割れたリンゴのような果実が地面に落ち、コロコロと転がる。

 そこへグリーンハートが駆けつけ、倒れたトウコを仰向けに助け起こした。流れ出す血液が手足を染めるが、そんなことを気にしている場合ではない。頬を叩いて、彼女は呼びかける。

 

「トウコ! トウコ! こんな所で死んでどうするつもりなんですの!? ヘルヘイムは!? あなたの国と、民を救えなくしてこの世を去るつもり!? そんなの女神失格でしてよ! だから起きて、トウコぉ!!」

 

 しかしその呼び声もむなしく、トウコは動く気配も、呼吸の兆しさえも見せない。手の中で、彼女の体が徐々にぬくもりを失っていくことが、グリーンハートには嫌でも感じ取れた。もはや手の施しようは無いのか、そんな考えが頭をよぎったが刹那、彼女は閃いた。

 すぐそばに、トウコから抜き出された果実と、くろめの残していった果実が半分ずつ転がっている。

 

「『禁断の果実』は『全能の力』を秘めている……それなら、もしかしたら!」

 

 グリーンハートはトウコを一旦地面に寝かせると、黄金色をした二つの果実を拾い集め、その断面を合わせると、まるで磁石が吸いつくようにぴったりと合わさり、一つの果実となった。

 ついに完全な状態となった『禁断の果実』を手に、グリーンハートはトウコのもとへ再び駆け寄る。すると、果実がひとりでに彼女の手を離れ、宙に浮かんだ。意志を持っているかのように、倒れ伏すトウコのもとへ飛んでいく。そして『禁断の果実』は彼女の真上で静止すると、下降していき、胸の辺りからトウコの体内へ入り込んだ。

 

「お願いですわ、トウコ……どうか生き返って……!」

 

 祈るような思いでその様子を見つめるグリーンハート。とその時、トウコの体に変化が起こった。不意に指先がぴくりと動き、続けて閉じられていたまぶたがゆっくりと開かれる。

 そして、彼女は地面に手をついて体を起こした。辺りを見回し、そして今度は地に足をついて立ち上がった。くろめが手を差し込んだ背中の傷も、跡形もなく消えている。

 

「奇跡ですわ……奇跡が、起こった! トウコ! 無事で……」

 

 彼女に駆け寄ろうとしたグリーンハートだったが、そこで踏みとどまった。はっきりとはしないのだが、違和感がある。今、目の前にいるトウコは『何か』が違う気がするのだ。

 足を止めたグリーンハートの方を向くと、蘇生したトウコは笑顔と共に言った。

 

「ありがとうベール、『オレ』を蘇らせてくれて」

「なっ……!? その口調、その雰囲気……まさかあなたは……一体どうして!?」

 

 グリーンハートは目の前のトウコ『らしきもの』に槍を向けた。


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