Attack on Titamon   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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ビギニング・レジェンド

 ――それは一つの伝説の終焉だった。

 

 そこは電子世界(デジタルワールド)の辺境地域。特に何もない荒野で、周囲にはターミナルを始めたとした施設など一つなく、近づくデジモンすら滅多にいない場所だった。 

 そんな辺境でその二体のデジモンの決着は生まれていた。

 緑と青白だ。

 全身が隆起した筋肉で覆われていて、その上からも鋼と何かの骨で作られた鎧を纏っている。左手には身の丈ほどもある巨大な骨剣が。もう片方は青と白の装甲、細見のシルエットに同色の鎌のような武装を手にしていた。緑は三メートルほどの巨体で、青白はやや小さく二メートルほど。

 タイタモンとディアナモン。

 それが二体のデジモンの名だ。共にデジモンとしては究極体、それもその中でも最高位。ディアナモンはデジタルワールドでもその名を轟かせるオリンポス十二神族の一角であり、それと同等に戦えるタイタモンもデジタルワールドでも最上位の実力者と言ってもいいだろう。

 その二体の戦闘だからこそこの誰も何もいない場所は蹂躙し尽されていた。何もなかった場には地割れと洪水と猛吹雪が一遍の訪れたかのようになったいた。大地はタイタモンの骨剣で亀裂が刻まれ、その亀裂にディアナモンが生み出した氷で氷河になっている。どこもかしこも衝撃痕か氷漬けになっている場所ばかり。これらが凡そ数キロ、広ければ数十、数百キロ単位で広がっていた。究極体同士の決戦とはこれだけの被害がある。

 しかしその戦いにも幕が引かれていく。

 どちらも満身創痍という他になかった。それぞれの装甲は砕け、崩壊し、その下の肉体も血に染まって無事な所は欠片もない。タイタモンの各所のある角はほぼ全てが折れ、ディアナモンも月を彷彿させる装飾も悉くが原型を保っていない。骨剣も半ばまで折れて、ディアナモンの鎌もまた

 膝を折ったのはタイタモンだった。

 

「……っ、あ、が……」

 

「もう終わりにしよう、タイタモン」

 

 膝をつき、呻き声を上げるタイタモンにディアナモンは言う。

 

「我々へ戦いを挑んで何になるという。例え私を滅ぼして、その先に待っているのは修羅の道だ。いつか、絶対に終わってしまう。こんなことをして貴方に未来などない」

 

 諭すように、さらには憐れみさえ載せた言葉で語り掛ける。

 

「……黙れ」

 

 それでもタイタモンは吐き捨てる。最早彼に戦う力は残されていない。かろうじてデジコアは無事だがそれ以外のデータは壊滅的だ。ディアナモンとの三日三晩にまで及ぶ戦闘の果てに全ての力を使い果たしていた。

 しかしそれでも、その瞳から(狂気)は消えない。

 

「俺は、貴様らを殺すんだ……ぶち殺して、ロードして……てめぇら全員残さず殺さねぇといけねぇんだ……」

 

 声に力はない。しかしありったけの怨嗟が。戦う力を失ってもその執念は消えない。

 それこそがタイタモン全てであるから。

 オリンポス十二神族を滅ぼすためにこの深緑の鬼神が存在するのだ。

 故に言うまでもなく、

 

「残念だ」

 

 ディアナモンは最後の一撃は放つ。背に残った最後の突起を引き抜く。それは氷結の概念(データ)の結晶。最後の残った一矢だからこそ込められた力は膨大だ。今にも折れそうな鎌――クレセントハーケンにそれを番える。それこそが彼女たち(・・・・)、ディアナモンの必殺技。ありとあらゆる存在を凍結させる絶対零度。止めの一撃ととしてはこれ以外には在りえない。 

 引きぼれられるだけで周囲に氷の波動は満ちていく。

 

「……くそったれが」

 

 全身を凍らせていき、自身を滅ぼすであろう必殺技にもタイタモンは目を背けない。ただ忌々しげに睨みつけるだけだった。

 

『アロー・オブ――』

 

「――アルテミスッ!!」

 

 ――こうして一つの伝説は終焉していく。

 

 

 

 

 

 

 牧野巧斗は友達が少なかった。

 コミュ障という訳でもないし、誰かに話しかけられれば相応の受け答えや会話をする。電車でお年寄りを目にすれば席を譲るし、道に迷っている外国人相手ならば片言の中学生英語で、それでも通じなければ身振り手振りなりでの対応をする。

 親戚の叔母がファッションモデルなんかしているので、たまに服装を見繕ってもらったりしているので服装が悪いわけでもない。目つきはかなり悪いが、顔付自体は問題ないはず。

 けれど圧倒的に友達が少ない。

 何がいけないんだろうなぁとたまに彼自身考えないでもないが、特に何か自分を変えようとしているわけでもない。友達は確かに圧倒的に少ないが数人とはいえいることはいるのだ。彼らを親友といえるのならばそれでいいのだろうと巧斗は満足していた。

 よくよく考えれば三つほど上の従姉もかなり無愛想で友達も数人しかないかったはず。そのくせ彼氏がいるのが巧斗からしたら謎だった。一体あの無愛想な人間のどこに惚れたのか不思議過ぎる。未だに会ったことないというか、従姉が会わせてくれないのだが。

 ともあれ彼には友達が少なくて、だからこそ少ない友達のことは非常に大事にするのだ。

 だから、

 

「いよぉタクト。嫁さんいなくて寂しいのか、ん?」

 

「黙れ喋るなふざけたこと言うな」

 

 幼馴染の月冴佐奈が三日間学校に来ないが、ただ友達として心配しているに過ぎないのだ。

 

「はっはっは。この三日間アホみてぇに挙動不審の奴が言えた言葉かよ。出産待ちの旦那かっつうの」

 

「……いいか、俺とアイツはなんにもねぇってお前が一番よく知ってるだろう」

 

「知ってるぜぇ? サナはお前さんにぞっこんで、ヘタレのお前が逃げてるんだろ」

 

「……」

 

 口にしづらいことを当たり前のようにいうのは佐奈とは別の幼馴染の少年。金髪を逆立て、中学の夏服を着崩したのは篠谷凱。佐奈と同じく巧斗とは幼少の頃からの付き合いだ。巧斗の数えるほどしかいない友達の二人だ。中学から帰宅するのはこの三人組が基本だ。基本なのだが、その中の一人が三日前から学校に来ていなかった。家にも帰っていないというのでなにか事件に巻き込まれている可能性もないでもない。

 

「心配だよなぁ。学校終わってすぐに秋葉原走り回ってるもんなぁ。いや、実際色々問題だよな、あそこの親何考えてるんだって話」

 

「考えてねーんだろ。放任主義というか、どっちにしたって帰ってくるって信じてるんだろ」

 

 彼女の疾走は珍しいことではなかった。放浪癖とでもいうのか幼馴染の少女はよく消えたり現れたりするのだ。その旅に巧斗が探し回って、凱がおちょくって、ひょっこり佐奈が帰ってくるというのが幼いころからの恒例行事だった。

 

「俺が二、三日開けても全く探してくれねーのになぁ」

 

「別に。アレも性別的に見れば女なんだから、友達としては心配しないわけにはいかないだろ」

 

「ツンデレ乙」

 

「黙れ」

 

 殴りかかりたいが道の真ん中で他にも歩いている人間がいるので我慢する。オタク系や電器製品目当ての人間でごった返す秋葉原の街とはいえ中学生の喧嘩とか在れば当然目立つ。よくテレビで出るような街並みからほど騒がしくはない、比較的静かな街並みだがさすがに自重する。機会があればぶん殴るが。

 

「んじゃあなタクト。また明日。佐奈帰ってきたら今回くらいはキスの一つでもしてやれよ」

 

「地獄に落ちろ」

 

 分かれ道に手をひらひらと振りながら去っていく凱の背中に吐き捨てながら、巧斗は彼と別れた。普段ならば家まで十分ほどは佐奈と一緒だったが今日は一人だ。その幼馴染を探しに今日も巧斗は街の各所は巡るつもりだ。

 

「……キスって。拳骨の間違いだろう」

 

 呟きながら足を進める。一度荷物を置いて着替えたり、隣の佐奈の家に帰っているか確認する必要がある。だから気持ち、速度を高め、

 

『――――い』

 

「――なんだ」

 

 何かの声を聞いた。ノイズ染みたかすれた音。ともすれば空耳かのように聞き流してしまいそうな微かな音を巧斗は確かに耳にしていた。周囲を見回すが特別変わったようなものはない。数人の歩行者、車道。いくつかある街路灯。点滅しているがそれほど珍しいことでもないだろう。スマートフォンの着信音だったかとポケットから取り出してみれば、

 

「……どうなってんだ」

 

 反応がない。というよりも、液晶画面に光が付いたり、止んだりしている。街路灯の点滅のような現象だがまさか故障だろうか。一月ほど前に買い換えたばかりの最新機種なので軽くショック。

 

『――れ――い―』

 

「……」

 

 ノイズが再び響いた。気のせいなどではない。どこからか聞こえてくる不思議な声というのはオカルトチックにもほどがあるが、そういう類(・・・・・)のものを巧斗は数年前に経験している。だからそれを見過ごすことなどできなかった。あの時のようなことが再び起きるなんて絶対にあってはならないと思う。

 

「……くそったれ。ルキ姉に頼るのは御免蒙るぞ」

 

 ノイズの方へと足を運ぶ。何かの思念染みた声は、ずっと同じようなことを繰り返している。妄執染みた狂気を感じさせる声。なのに今にも消えそうなか細いものだ。十分、二十分と歩き続けていき、都市の中心部からはどんどん離れていく。学校が終わった時点で五時過ぎだったが、夏故にそれほど暗くなるわけではない。進んでいく途中にやたら渋滞や事故があったがきにしていられない。

 行き着いた先は一つの市町村には大体一つずつくらいはありそうな緑地公園だった。都市化が進んでいるというか東京の街にせめてものお情けと言わんばかりにある自然地域。お年寄りや子供の憩いの場所だ。

 

「……こっちか」

 

 ノイズは少しずつ明確になっていき、既に巧斗は言葉を認識していた。

 緑地公園の目玉というべきか、比較的広めの森の中に足を踏み入れていく。時間を確認しようと思ったスマートフォンは完全に機能を停止していた。最早諦めに近い感情で森を進んでいき――あっさりとそれを発見した。

 

「……まじかよ」

 

 二メートル近くはあるであろう緑の巨体と白髪。漂う鉄臭さと流れる赤い液体。太い木に背中を預け、というよりも倒れこんでいる。およそ地球上には絶対存在しないような鬼。

 あぁこれは言うまでもなく、

 

「……デジタルモンスター」

 

 確かオーガモンとかいうデジモンだった。従姉の影響でそこそこ詳しいつもりだ。

 

「……終われない、ね」

 

 完全に意識を失っているが、確かにあのノイズはそう言っていて、このオーガモンから発せられていたのだろう。何が何やら解らない。

 だから巧斗がしたのは、

 

「おい、生きてるか?」

 

 そんな至極普通極まりない声を掛けることだけだった。

 

 

 ――こうして新たな伝説は始まっていく。

 

 

 

 

 

 

 




実はフロンティアまでしか見てないし、ゲームもやっていない(

デュークモンが一番好きです

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