Attack on Titamon   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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トーキング・ウィズ・オーガ

 結論から言えばオ―ガモン(仮)は生きていた。巧斗の勘違いはなく(仮)でもなく木に身を投げ出していた鬼人はやはりデジモンのオーガモンだった。

 デジモン。正式名称デジタルモンスター。何年か前のカードゲームとして一世を風靡していた。実際巧斗も幼いころは従姉の影響で少なからず触れていることがあった。けれどあくまでそれは子供向けのカードゲーム。遊びの域を出でないただの空想でしかなかった。

 それら決定的に変わってしまったのは数年前、東京全域で発生したデ・リーパー事件。その名の通りにデ・リーパーとかいう訳のわからん存在に立ち向かったのが政府の組織、そして空想だと思われていたデジモンとテイマーと呼ばれる子供たちだった。なにやらおとぎ話の騎士とかでっかいロボットか尼さんとかライダーぽいのが東京を中心に跳梁跋扈し、なにがなにやら色々あって解決していた。その直前にも東京の街にでかい馬とか猪とかが出現したという事件もあったりしたし。

 その時はまだ巧斗はかなり幼かったので、何があったかはあまり知らないのだがかつての恐怖は覚えている。何を隠そうそのテイマーとか言うのが従姉の牧野留姫だったりするから常人よりは耐性のようなものがあるとはいえ――本人からデジモンの素晴らしさを語ってもらった。子供ぽいと言ったらぶん殴られた――やはりあの事件におけるデジモンの強大さとうのは忘れがたい。

 だからこそこのオーガモンと遭遇し、執念染みたノイズを耳にし、自分なりに最大限の警戒をしていたのだが――

 

「うまっ! なんだこれうめぇ! くそうっ、人間ていうのはなんていいもん食ってたんだよチクショウ! おかわりだタクト!」

 

 こうして目の前で一個百円のハンバーガーを嬉々として食らいつく緑に鬼には恐怖も何も感じなかった。

 

「……もうねぇよ」

 

「なにぃ!? どうにかならねぇのか!?」

 

「……いや、また今度ならなんとか」

 

「そうかそうか! じゃままた持って来いよ!」

 

 やたらフレンドリーだった。

 おかしい、なぜこうなったのだと巧斗は首を捻る。

 ボロボロの生死を確かめたら微かにだが息はあったのだ。血を流し、意識は朦朧としていたが、それでも僅かな反応があった。それこそノイズの正体、『終われない』という妄執の正体だと巧斗は確信し、息をのみ、

 

『……腹減った』

 

 そんな呟きが耳に届き思いっきりこけた。具体的にはオーガモンの鳩尾に脳天めり込むような感じで。ソレのせいでオーガモンは絶叫と共に覚醒し、すわ戦闘、というか一方的な苛めが発生するかと焦ったが出てきた言葉は変わらずに空腹を訴えるものだった。

 なんというか昔のルキ姉の恐怖話に色々文句言いたい気分だった。絶対あの人俺をビビらせるために物騒な話しただろう。

 ともあれ流石に放ってはおけないし、話も聞く必要があるのでオーガモンの空腹を満たすために近くにあった全国チェーンのハンバーガーショップへと走った。そこで一個百円の極めてプレーンなハンバーガーを野口分、つまりは十個も買ってオーガモンに渡したのだが一瞬で食い尽くされてしまった。見た目からして大食いなのだろうと思って大量に買ったのだがさすがに驚く。中学生には千円はそこそこのお金なのだ。

 

「はぁ。まぁ仕方ねぇ。当分俺は動けないから、できれば早めに持ってきてくれよ。――次は百個くらい」

 

「無茶言うな。というか、一応ハンバーガー十個食ったのにまだ動けないのか?」

 

 どういう構造をしているのか表面的な傷は消えていた。それでもオーガモンは最初に気絶していた場所から動かないままだ。

 

「ガワはとりあえず修復したがデジコアが損傷したままだからな、当分動けねぇ。ゲートも近くにないし、どうしようもねぇんだよ」

 

「あ、そう。まぁそこらへんは俺は知らんけど……お前、なんでこんなとこいるんだ? デジモンだろ? デジモンはデジタルワールドとかいう世界にいて、今はそう簡単にゲートは開かないって聞いてたんだが……」

 

「くわしいな、てめぇ。その通りだぜ。なんで俺がいるのかっていうとそれはだな」

 

「おう」

 

「……」

 

「……」

 

「……あれ、なんでだっけ?」

 

「えぇー」

 

 大丈夫かコイツ。凄い怪我だから頭打ったのか。元からだったらどうしようもない。なんとなくの勘だがこれは元からアホな気がする。できれば外れてほしい予想だったのだが、

 

「あっれー? なんで俺こんな怪我してるんだ? というかなんでリアルワールドとかいるんだ? あっれー!? どういうことだよ巧斗!」

 

「知・る・か」

 

 なにやら頭を抱えだした緑色の鬼は頭大丈夫か。大丈夫じゃないな。アホだコイツ。

 

「やれやれ……」

 

 嘆息しつつ、スマートフォンを取り出す。結局完全に停止したままだ。餅は餅屋ということでできるならばルキ姉に連絡をとって対応策とか聞きたかったのだがスマートフォンが壊れているならば連絡のつけようがない。このご時世公衆電話とかめっきり数を減らしているので探すのも一苦労だ。

 それにこのオーガモンを放っておくのもまずい。

 今は動けないとしても、いきなり動けるようになるという可能性はないわけではない。もしこのデジモンが街を練り歩けば間違いなくパニックだ。それだけは避けたいと思う。

 

「なぁ、どれくらい動けそうだ?」

 

「解んねぇよ。第一何故かデジコアが八割近くイカれてるんだそう簡単にはいかねぇって。多分、俺が色々覚えてねぇのもそのせいだな」

 

「それは大変なこって。あー、どうすっかなぁ」

 

「ハンバーガー買ってきてくれ」

 

「だからまた今度だ」

 

「ちぇー」

 

 強面で口びるをとがらせるな気持ち悪い。

 そうやってオーガモンと会話していたら大分暗くなってきた。時計がないので正確な時間は解らないが、夏で暗いということはかなりの時間だろう。それにデジモンの遭遇というイベントで麻痺していたが気温も相応に高い。制服にかなり汗が染みていた。巧斗の家は門限とかあるわけではないし、佐奈を探すのに夜遅く街を探索していたからうるさく言われるわけではない。それでも、なるべく早めに帰ったほうがいいのは確かだ。もしかしたら今この瞬間にもひょっこり佐奈が帰って来ているかもしれないのだから。

 

「……オーガモン」

 

「お? なんだ、やっぱハンバーガー買ってきてくれる気になったのか?」

 

「ちげぇ、しつこいぞ。……いいか、俺は今日は一端帰るから。明日また来て、デジモンに詳しい人連れてくるから、ここで大人しくしておいてくれないか? ハンバーガーは明日また持ってくるからさ」

 

「おお、いいぞ」

 

 意外にあっさりと受け入れてくれた。

 

「ガハハ! どうせ動けねぇからな。ハンバーガーがまた食えるなら文句ねぇよ!」

 

「……そうか。それじゃあ、な」

 

「おう、また明日な!」

 

 本当にデジコアとやらが破損しているのか妖しいほどに元気なオーガモンの声を背にしつつ、森から出ていく。来るときはやたら長く感じていたが、アレのキャラを知って緊張感が消え去ったらしく体感時間ではすぐに外に出ることができた。湿気が少なからずあった森の中に比べれば大分涼しい。

 

「あー……、いろいろ面倒になるなぁ……」

 

 デジモン。まさか実際に会って話すことになるとは思わなかった。凶暴な性格ではなかったとはいえ、もしも好き勝手に暴れるデジモンだったと思うとぞっとする。

 というか政府の組織とかは動かないのか、と巧斗は首を捻った。

 確かあの事件前とかにこっそりでてたデジモンはなんとかという組織が出現やら対処やらを管理していたという話だが、今回の場合はそれがないのか。まさか数年たったから組織そのものがなくなったわけではあるまい。

 

「って、考えても仕方ないか」

 

 所詮自分はただの中学生だ。従姉はデジモン関係では色々すごいらしいけれど自分はただのガキでしかない。速めに帰って彼女に連絡してどうするべきか聞いて、自分は放浪癖のある幼馴染の心配をしていればいい。

 

「さて、あのバカは帰って来てるかね」

 

 

 

 




オーガモンにシリアスなど無理だったんだ……(

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