Attack on Titamon 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「あっちぃ……」
オーガモンのいる緑地公園から家への帰り道。オーガモンのノイズに対して自分がかなり緊張していたことを実感していた。日本特有のやたら高い湿度に夏の高気温のせいで汗が噴き出て、シャツに張り付いて鬱陶しいことこの上ない。来るときにも同じ道のりを来たはずだが、あの声に集中していたせいかほとんど暑さを感じていなかった。森から出た時は開放感があったが、それも慣れてしまえば普通に暑い。
「明日もこの往復しなきゃいかんのか……」
夏場に片道一時間は地味に辛い。巧斗は暑さが特に苦手ということはないが、それにしたって人並みに苦痛に感じる。いや、道のりだけではなくあの森の中のことも考えれば、
「憂鬱だ……」
だからって放っておくのはまずいのだが。ため息を吐きつつも、家への道を。
「タクトォ、オオー!」
「ぐぇっ!?」
横から衝撃と声があり、巧斗は思わず変な叫びを上げていた。
「どこに行ってたのさぁ、探したんだよ?」
「……それはこっちのセリフだぞ。あと離れろ、暑い」
「えー、いいじゃん役得でしょ?」
そんなたわけたことを言いながら巧斗にしがみついてたのは一人の少女だ。鮮やかな青みがかったセミロングの髪と大きな瞳。ホットパンツと赤いタンクトップの上から薄手の灰色のフード付きパーカーを羽織っていた。
――月冴佐奈。
篠谷凱と同じく巧斗の幼馴染。放浪癖持ちの変わった少女。巧斗に対してのスキンシップが過剰気味なのでそこらへん巧斗は困っていたりする。基本薄着や露出度高めの服だし。同い年の中二の割には発育がいいといのも無関係ではない。
「それで? タクトがこんな時間に出歩いているのは珍しい。なにしてたの?」
「……別に。お前こそ、今回はどこにほっつき歩いてたんだよ、三日もよ」
「まぁちょっとね」
「そうかい……とにかく離れろ、歩けない」
「はいはい」
佐奈を離しつつ歩き出す。
「あ、おいていかないでよ」
隣に彼女が並ぶ。真横の彼女の距離は変わらずに近い。それについては何も言わずに歩みを進める。
「なぁ」
「なに?」
「お前ってデジモン好きだっけ」
「……」
「サナ?」
「ん、んー、なんでもない。デジモンかぁ、最近流行ってないけど。どうしたの? ルキさんの影響?」
「いや……ふと思い出してな」
「ふうん、あんまいい記憶はないけどねぇ。ほら、二組の賀田さんとか完全トラウマになっててデジモンという単語にさえも反応しちゃうらしいじゃん?」
「だれだそれ」
「あはは、巧斗は相変わらず友達いないね。まぁボクがいるからいいんだけど」
「……」
言いにくくいことをはっきりと言う奴がここにもいた。否定できないのでスルーする。友達がいないのが巧斗のキャラなのだ。考えると鬱になるけど。
「それでデジモンか。ボクは結構好きだよ。タクトは? ルキさんが結構話誇張してビビらせていたって言ってたけど」
やっぱりか。しかし困ったことに彼女に口答えした場合ぶん殴られるか蹴り飛ばされるかのどちらかなので何とも言えない。佐奈の前で言っても告げ口されるだろうし。
そしてデジモンが好きかどうか。
「んー」
少し前ならば、従姉のせいで若干苦手と答えたかもしれない。けれど、つい数十分前まで一緒にいたオーガモンのことを思い出す。あんな強面でありながら、にやけ顔でハンバーガーに喰らいついていた緑の鬼の姿を。
「……まぁ、別に嫌いじゃない」
「そっか! それはボクとしても嬉しいよ」
「なんでお前が喜ぶんだ」
「ボクが好きなものがタクトも好きっていうことならそれは嬉しいことだよ」
「好きとか言ってない」
「あはははは」
何故笑われた。
そうやって腹の立つ佐奈の笑みを向けられながら家にまでたどり着く。牧野家と月冴家は隣同士だ。
「それじゃまたあとでね」
「あぁ」
少しの別れの言葉を告げて、互いの家の中に入る。
「ただいま」
「おーうお帰りー」
玄関で靴を脱いで帰宅の声を上げていたら、奥から聞こえてきたのは母親の声だ。リビングでテレビを見ていた。
牧野玲子。
巧斗の母で妹に牧野ルミ子がいる。茶髪を背中まで伸ばし、母親ながらも容姿が整っているのは解る。ただし巧斗以上に目つきが悪いのだが。
「父さんは?」
「まだ仕事。なんかここ辺の信号機とか電器製品がぶっ壊れたらしくてねぇ。なんかサイバーテロかもってことだからそのせいで今日は帰ってこれないって」
巧斗の父である牧野章斗は刑事で、そういうこのせいで帰りが遅くなることはよくある。だからそれにはあまり気にせずに自分のスマートフォンを取り出す。
「お、動くな」
少し前まで電源すら入らなかったが、今はちゃんと動く。母親もテレビを見ていることだし、不調は今の段階では治ったのだろう。
「ごはんどうする? 今すぐ食べる?」
「ん、ちょっと後でいいや。三十分くらいあとで」
「おーらい」
途中洗面所でタオルを引っ掴みつつ、二階に上がって自分の部屋へと戻る。ベッドに机に本棚。押入れが一つと殺風景な部屋だ。唯一珍しいのが小型とはいえ液晶テレビがあることか。いくら趣味がなくてもテレビを見ていれば時間を潰すのは簡単だ。
「えっと、ルキ姉は……」
電話張から彼女の電話番号を取り出す。電話を掛けて、
「……でないな」
返ってくるのは機械的なシステムアナウンス。まぁでないのは仕方ないと思いつつ、一度部屋着に着替える。タオルで汗を拭いて、再び一階へ。洗面所へ制服やタオルを放り投げつつ、リビングへと戻り、
「母さん、おばさんの家の電話番号ってなんだったけ」
「電話のとこのメモにあるわよ」
「ありがと」
今度は出た。
「あ、おばさんタクトだけど」
『あらー久しぶりねタクトちゃん! どうしたの? お正月振りじゃない!』
常にテンションの高い叔母の声を聴きつつも、
「ルキ姉いる? 携帯に電話したけど繋がらなくて」
『あールキちゃん? それがねぇ、三日前から帰ってなくてねぇ』
「……ほんとに?」
『そーなのよ! それにルキちゃんの彼氏ちゃんとかお友達も家に帰っていないらしいのよ! もー心配で心配で!』
「……それは」
留姫とその彼氏だけというならばまぁ解らなくもないが、他の友達も一緒となると僅かな違和感がある。それに巧斗は留姫の男を知らないが、ルミ子は知っているのだろう。あのいい加減な叔母ならば旅行とか言っても止めたりせず、寧ろ推奨しそうだし。
「どれくらい帰ってないの?」
『三日よー、全くあの子は小さい子から変わらないのよねー。まぁ昔からよくあったと言えばあったことだし、大丈夫だとは思うのだけど』
「三日……」
佐奈が姿を消していたのも丁度三日前だった。同じ時期に留姫やその友人も一緒に消えた。
「……」
『ちょっとー? タクトちゃんー? 聞こえている?』
「あ、ごめん。ありがと、ルキ姉帰って来てたら俺が連絡してきたって伝えて」
『まっかせてー。タクトちゃんも連絡来たらお願いねー!』
電話が切れた。受話器を置いたら玲子に声を掛けられた。
「なに、どうしたの?」
「なんかルキ姉が三日前からどっか行ってるらしい。その友達も一緒に」
「へぇ。まぁあの子なら大丈夫じゃないのー?」
我が母ながら実に軽い。まぁ大丈夫だろと思うのは巧斗も同じなのだが。あのデ・リーパー事件で狐巫女ぽいのに変身して色々無双していたのは忘れらない。ああいうのがあるから、ルミ子も警察に捜索願を出すほどには心配していないだろう。
いやそれよりも。
「……三日」
佐奈と留姫とその友人たちが同じ時期に姿を消した。
それはつまり、何らかの繋がりが――
「……ないな」
あるはずがない。
佐奈の放浪癖は昔からのことだ。それに佐奈だってちゃんと帰ってきているのだ。だから何の関係もない。ただの偶然だ。
話を聞くまでもない。それに第一聞こうと思えば、常に顔を会わせているのだからすぐに聞ける。だから焦ることがないと巧斗はそう思った。思い込んだ。
――言葉に表しにくいしこりを胸に残しつつ。
「ちょっとー? 降りてきたってことはごはん食べるのー?」
「あ、うん、食べる」
セイバーズを見だしたり。
兄貴かっこいい(
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