気が付くと――
「なに、ここ?」
「分からない」
私とオーフィスは奇妙な場所に佇んでいた。逆さになった時計塔、傾いたオフィスビル、空中に浮く岩。いろんな構造物や物の位置が滅茶苦茶で、空間自体が不安定な場所。
「異世界なのは間違いないだろうけど……」
私は辺りを見渡しながら言う。
それと同時にあることに気づいた。神様は生活必需品を一緒に送ると言っていた。だけど、周りには私とオーフィス以外に見慣れた物がない。ちゃんと飛ばされなかった?
私は意識を集中して広範囲の気配を探ってみる。だけど空間が不安定な所為か、上手く気配を探れない。
「オーフィス、何か分かる?」
「いろんなもの、混ざっている」
「それは見れば分かるよ」
「違う、多数の次元が混在している、ここ、いろんな世界を部分的に集めた」
「えっと……複数の世界の接点にいるってこと?」
「それとも、ちょっと違う。我にもよく分からない」
オーフィスは首を捻っている。その時、
――ズゴォオオン!!
「――っ!、なに!?」
「今の、魔力による砲撃」
すぐ真下でピンク色の光が上った。いや、落ちたという方が正しいかな。なんだろうと思い下を覗き込むと、三つの人影があった。距離がありすぎてよく見えないけど。
「……絆?」
「なに、オーフィス?」
「違う。あそこに、絆が居る」
「は?」
オーフィスは人影の方を指差す。
いや、それより私が居るってどういう事?
「とりあえず、あの子たちが何を話しているか分かる?」
ここからだと、私の耳では聞き取れない。でもオーフィスならドラゴンのスペックで聞き取れるかもしれないからね。
「ん。あの三人、気付いたらここに居たと言っている」
「気づいたらここに居た?」
オーフィスの言葉を考察する。
気付いたらここに居た。つまり、あの三人はここの住人ではなく。私たちと同じように別の場所から来た。ただし、私たちのように転移をしようとして来た訳ではなく。強制的に連れてこられた可能性が高い。
「元の世界に帰る方法が分からない、困ったと言っている」
さらにオーフィスの言葉を聞いて、ほぼ確実に強制で連れて来られたと推測する。
接触してもいいかな? 情報が欲しいし、何よりこの不安定な空間に長居するのは良くない。遠目で見る三人の様子と言動からして、ここに連れてきた犯人ではないと思うし。会った方がリスクよりリターンが多い。
「オーフィス。悪いけど別の姿になってくれない? 一人でもアレだけど、同じ姿の人が二人も現れたら、まともに話できないと思うから」
オーフィスの今の姿は、初めて私にあった時の姿を参考にしたものだ。その為、私とオーフィスの見た目はよく似ている。瓜二つって程じゃないけど、兄妹ぐらいには見える。
「分かった」
私の言葉を聞いたオーフィスはそう言うと、身体から光を放って姿を変える。ただ着ている服に合わせたのか、身長や少女のような見た目などは変わっていない。
そして、一応警戒をしたまま私とオーフィスは下に降りた。近づくにつれて、こちらに気づいた三人が私たちの方を向く。
「「えっ?」」
私たち。いや、私を見た三人の少女のうち、黒髪で紫の服を着た少女と、茶色のツインテールで白い服を着た少女が声を漏らす。そして――
「えっ、えぇー!? なになになに!? どういうことー!?」
もう一人の薄い銀髪にピンクの服を着た少女が私を指差しながら、そんな声を上げる。
なるほど、確かに私だね。それもオーフィスと違って完全な瓜二つ。
……うーん? 私と同じ姿ってことは、もしかして――
「初めまして、私は真代 絆という者です。
いきなりで失礼ですが、あなたの名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンではありませんか?」
「なっ、なんで私の名前を知ってるの!?」
少女の言葉を聞いて、私は確信した。この子が私の元になった人物だ。
「っ! あなた、何者!」
黒髪の少女が声を上げ、手に持ったステッキをこちらに向けてくる。というか、この子たちアニメで見るような魔法少女っぽい服着ているなぁ。私とオーフィスは、初めて会った時の紫と黒の服だ。なんというか、思い入れがあるんだよね、この服。
「落ち着いてください、私たちに敵対する意思はありません。その子の名前を知っていたのは、以前私に似ている人が居ると言われたからです」
「えっと――つまりただの、そっくりさん?」
「そういう事になりますね」
私と同じ顔のアインツベルンさん(予想)が聞いてくる。簡単に信じるあたり私たちとは違い、姿と年齢は一致しているみたいだ。
『貴方は、真の魔法少女ではありませんね!』
……………は?
「ちょっ! ルビー、何言ってるの!?」
アインツベルンさんが自身の持っているステッキに向かって叫ぶ。どうやら、今の声はあのステッキから発せられたようだ。まあ、ドラゴンとか悪魔とか天使とか妖怪とか見てきたから、今更ステッキが話したぐらいじゃ驚かないけど。
『聞いてくださいよ、イリヤさん。そこにいる絆さんのMS力を測ったところ、なんと0だったんです。あれだけ魔力を内包しているのにイリヤさんと違って魔法少女らしさが全く無いんですよ』
「だからMS力ってなに!?」
なんか元気な人だね、私のオリジナル。というか、MS力ってなんだろう? 少なくとも魔法
「私は男性ですよ。魔法少女ではないのは、当たり前です」
「「「『『―――えっ?』』」」」
五つの声が重なり、固まる。というか、黒髪の方のステッキも喋るんだね。少ししてから全員が再起動する。
「「「ええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」」」
三人が大声を上げる、ちょっとしたソニックブームが発生した気分だ。
「じゃあ、えっと……イリヤさんも?」
「イリヤが……男…」
「違うよ!?」
『いやはや、これは流石の私も驚きました。しかし、肉体が子供の所為か男性らしい特徴が見当たりませんね。本当に男性なんですか?』
「なら上でも脱ぎましょうか?」
「やめて――!! 私じゃないけど、私が穢されるような気がするから!」
若干涙目になって、アインツベルンさんが服を掴んだ私の手を止める。
「とにかく、私はあなた方に敵対するつもりありません。先程、あなた方の会話を聞いていましたが、私たちも別の場所からここに来たんです」
「そうなんですか。っと、そういえば申し遅れました。私は高町なのは、小学三年生です。ちょっとワケあって、魔法少女をやっております」
「ご丁寧にどうも。先程も言いましたが、私は真代 絆。隣にいるのはオーフィス。これから学校に通うことになっていたので、まだ学年はありません」
「ん」
「えっと……イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。小学五年生です。成り行きで魔法少女をやっています」
「美遊・エーデルフェルトです。イリヤと同じく小学五年生、魔法少女をやっています」
高町さんが自己紹介して、それに合わせるように私たちは挨拶する。
「あの、もう一人女の子を見かけませんでしたか?」
高町さんが聞いてくる。
「いえ、見ていませんけど?」
「我も」
「私も見ていません」
「うん。見ていないけど、どうかしたの?」
とりあえず、ここに居るメンバーは誰も他に女の子を見ていないらしい。
「多分その子も私と一緒に巻き込まれたから、この世界に居ると思うんです」
「えっと、友達ですか?」
「いえ、でも……友達になれたら、って思うんです」
眩しい笑顔だね。
「そっか、分かった。なら私も一緒に探してあげる」
アインツベルンさんが名乗り出た。
「え、良いんですか?」
「どの道、この騒動の犯人も探さなきゃだしね」
ん? アインツベルンさんの言葉を聞くに、この現状は偶然じゃなくて、人為的に引き起こされたことなのかな?
「いいよね、ミユ?」
「うん」
エーデルフェルトさんが頷くと、今度はアインツベルンさんがこちらを見てくる。
「まあ、ここが危険な空間な事は確かだし。協力しますよ、オーフィスもいい?」
「ん」
私の言葉に頷くオーフィス。
「それじゃ、魔法少女――じゃなくて、魔法使い同盟結成ということで」
私とオーフィスは魔法使いですらないんだけど……ツッコミは入れない方がいいよね。
五人で手を重ねる。
「目標はもう一人の女の子の捜索と、犯人を突き止めること。皆で力を合わせて脱出しようっ!」
アインツベルンさんの宣言に、全員が頷く。
「ッ――! 全員、今すぐ飛んで!」
――どどどどっ!
「なっ、なに!?」
突然周囲の空間が流動した。なんとか、全員空中に退避する。
「デカイっ! そして多いよっ!」
アインツベルンさんが叫ぶ。その視線の先には、巨大な泥みたいなバケモノが多数。それと空間の流動の所為か、そこら中に竜巻が発生し始めた。
「すみません。アレたぶん、私の世界関係のモノです」
申し訳なさそうに、高町さんが言う。
「驚いている場合じゃない。チャージ4倍……
エーデルフェルトさんのステッキから大き目の魔力弾が放たれ、バケモノを撃ち抜く。
「クラスカード「ランサー」
アインツベルンさんの方はステッキに何やらカードをかざすと、持っていたステッキが赤い槍になった。
「
そう言って槍を放つ。すると槍は不規則な軌道を描き、目の前に居た敵を貫く。
「よーしっ、私たちも行くよ!」
『All right my master!』
今度は高町さんの杖が、機械的な音声を放つとピンク色の魔力が収束し、膨張していく。そして――。
「ディバイン・バスタ―――――!」
――ドォオオオオオオオオン!!
極大の砲撃が放たれた。比べちゃ悪いけど、さっきまでのアインツベルンさん達の攻撃何だったんだと言う威力だ。いや、この場合は派手かな?
「蛇、行く」
オーフィスはオーフィスで無数の蛇を放ち、辺りを殲滅していく。派手さは無いけど倒している数では一番多いだろう。というより、彼女たちがバケモノを全部相手取っているから、私の狙う相手が居ない……。
「にしても――」
私はある一点を見た。時計塔だ。どういう訳か、あの時計塔だけ空間が流動しているのに一切の変化が無い。まるで
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
空間の流動がさらに激しくなってきた。
「―――っ!? なにこれっ!」
『空間の流動が加速しています! 元々不安定だったんです、長くは持ちません!』
周囲の建物が飛んでくる。そしてその一つが――高町さんの後ろから突っ込んできた。それを見て、アインツベルンさんが声を上げる。
「なのはさん! 危な――」
「危ないよ――っと」
私は高町さんと建物の間に割って入り、片手で建物を受け止める。もちろん能力で重力と衝撃を制御しているので、大して重くない。そして重力の方向を制御して――
「ていっ!」
建物を時計塔に向かって投げ飛ばした。
――ドシャァアアアアアアアア!!!
すると建物は時計塔に当たり崩れるが、時計塔には傷一つ付いていなかった。
「防護魔法があるんだ。ということは、やっぱりあそこは重要な場所だね。こんな危険な空間にあるんだから何かあるとは思っていたけど――――って、皆さんどうかしましたか?」
私が考察していると、高町さん達がポカーンとした顔でこちらを見ていた。というか、知らない金髪の少女が増えている。
「フェイトちゃん!」
そんな中で、最初に我に返ったのは高町さんだった。ちゃん付けで呼んでいるってことから、フェイトというのはあの子の名前だろう。
『なるほど、
「何言ってんのルビー!?」
そんな中、
「時計塔……」
「そう言えば、あそこだけこの世界で変化が無い」
『確かに……間違いありません。あの時計塔が、この空間の中心です。あそこにいる元凶を叩けば、この空間から脱出できます!』
ルビーさんの言葉に、やっぱりこの空間は人為的に引き起こされた物なのだと確信する。なら、あそこに居るであろう術者を倒せばいい。でも、さっき見た限りだと強めの防護魔法が掛けられているから、生半可な攻撃じゃダメだね。能力で消せるかもしれないけど、不用意に近づくのは危険。なら、防御しきれないほどの攻撃をすればいいか。
「オーフィス、お願いできる?」
「ん」
私の言葉に頷いてオーフィスは蛇を一匹作り時計塔に向けて飛ばす。その際、蛇の操作についても少しお願いする。
「でも、塔全体に高度な防護壁が張られていた。いくらやっても、攻撃が届かなかった」
「大丈夫だよフェイトちゃん」
『Cannon mode』
「一人でダメなら、みんなで力を合わせれば―――」
――ビキィイイイイ!!!
「「「「えっ?」」」」
四人が目の前の光景を見て、呆けた声を出す。オーフィスの蛇が時計塔に当たると同時に、張られていた防護魔法が音を立てて壊れた為だ。
「さっきのは、もしかしてオーフィスさんの?」
高町さんの言葉に全員がこちらを向いた。
「そうですよ。ところで皆さん、防御系統の魔法は使えますか?」
「えっ? 使えますけど……」
私の言葉に困惑気味に答える高町さん。他の三人の方に目を向けると、全員使えると言ってきた。
「先程、中に侵入させた蛇―――えっと、魔力弾みたいなものを内部から爆発させます。衝撃や瓦礫が飛んでくると思うので、私の後ろで防御していてください」
「えっ? で、でもそれだと絆さんが……」
「私は大丈夫です。さっき、私が建物を投げ飛ばしたのを見ましたよね? それにオーフィスの蛇の力は私が一番知っています。私のことを気遣うなら、後ろに下がっていてください」
「だ、だけど――」
『分かりました! 全身全霊をかけて、障壁を展開します!』
「ちょっ、ルビー!?」
『迷っている時間はありません。それに、先程の蛇型の魔力弾。内包している魔力がバカげています。今のイリヤさんでは、余波だけでも防ぎ切れるか分かりません』
「そ、そんなに……?」
アインツベルンさんが顔を引きつらせる。
「イリヤ、ここは言う通りにした方がいい」
「う~……分かったよ」
「さっ、そっちにお二人も」
「……本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。急いでください、空間がどうなるか分かりません」
「……………」
私の言葉に金髪の子は何も言わずに後方に向かい、他の三人は渋々といった感じで後方に行く。
『いきますよ、サファイアちゃん』
『了解です。障壁規模、最大展開』
『Protection!』
『Defencer!』
四人の杖がそれぞれ防御魔法を張る。これで準備良し。
「それじゃあオーフィスお願い。分かってると思うけど、出力は調整してね?」
オーフィスが力を不用意に出せば、確実にこの不安定な空間は崩壊するだろう。でも、今のオーフィスは、力を完全に制御できるようになっている。あの蛇に込められた魔力量は防護魔法を確実に貫通することができるギリギリのラインの筈だ。見たこともない術式だし、目測だから多少は過剰だろうけど。
「蛇、爆ぜる」
その言葉に答えるように――
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
時計塔の中で、オーフィスの蛇は大爆発を起こした。
「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?」」
「よっと」
その直後、二人の女性らしき叫び声と共に瓦礫の一部がこちらに飛んできたので、私は能力を使って下に叩き落とす。
壊れた時計塔の中から、黒コゲの何かが落ちて来た。おそらく、ルビーさんが言った元凶だと思うけど。
――ドサッ
黒コゲの元凶(仮)が地面に落ちた。
「す、すごい……」
『……アレは人間が行使していい魔力量ではありません。そもそも魔術と呼んでいいかすら疑問です』
「にゃ、にゃははは……」
防御魔法を解いた彼女たちが口々に言う。これ、オーフィスが手加減しているって言ったらどうなるんだろう……。
「あっ、時計塔が――」
誰かが言った。その声を聞いて時計塔に目を向けると、壊れて僅かに残った時計塔の断面が光を放っていた。
『世界の融合が解けて路ができたんです。あの中を通れば、それぞれの世界へ戻れますよ』
「……先に行く」
「あっ――フェイトちゃ……」
ルビーさんの言葉を聞くと、フェイトさんはすぐに時計塔の中へ飛んで行ってしまった。それに対して、高町さんが声を掛けようとしたがすでに彼女は居ない。
「あれが友達になりたい子……ちょっと苦労しそうだね」
「はい。でも、きっとなれると思います。いつか皆さんのような友達に」
「……うん、私もそう思う」
アインツベルンさんの言葉に高町さんは笑った。
「ところで、結局あの犯人はなんだったの?」
というか、アレ本当に犯人だったのかな? 障壁壊れたのに、全く反応無かったし。
『さあ? ただ相当な実力者であるのは間違いありませんね』
『姉さん。今、彼女たちの生体反応をスキャンしてみたのですが……』
『どうしたんですか? サファイアちゃんが口籠るなんて珍しいですね』
『生きていることが判明すると同時に、99.7%の確率で凜様とルヴィア様であるという結果が出ました』
『……………』
「ええええええええええええ!?」
「知り合いですか?」
「えっと、一応……」
『というか、よく先程の爆発で受けて生きてましたね。ギャグ補正というものは恐ろしいものです』
『時計塔内部にも防護壁が張られていて威力が抑えられた所為もあるでしょうが、正直運が良かったとしか言えません』
「アレでも、相当威力抑えてあったんですけど?」
「「「……………」」」
その言葉を聞いて、高町さん達は何も言えなかった。
「取り敢えず、あの二人はどうしたら?」
『時計塔に放り込んでおけばいいかと』
「一応、治療しておきますね……」
私は能力で時間を巻き戻して女性二人の姿が人間に見えるぐらいにまですると、そのまま時計塔に向かって投げ入れた。
「さて、戻るとしましょうか」
「そうですね。皆さん、ご協力ありがとうございました」
「うん。最初はどうなるかと思ったけど、別の世界の魔法に触れられてちょっと楽しかったよ」
「ん」
「それでは、私たちも行きましょう」
そう言って、私たちは時計塔に向かって飛ぶ。こうして私たちは、この世界から脱出した。