時計塔の光を抜けた私たちは―――見慣れた部屋の中央にいた。
「あれ? ここって、もとの家……だよね?」
「ん、転移する前と同じ場所」
オーフィスが言った。そこは見間違える筈もない、私とオーフィスが2億年近く住み続けて来た家の内装が広がっていた。
「もしかして、あの空間から出る時。元の世界に戻ってきちゃった?」
「おそらく、そう」
うわ~、ということは転移失敗? というか、私が動けるってことは家の時間が止まってない? それとも10年以上時間が経過している?
『やっと見つけましたぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!』
「うわっ!?」
「? 絆、どうかした?」
突然頭の中に声が鳴り響いた。そしてそれは、少し前に聞いたあの人の声だ。オーフィスが首を傾げていることを見るに、私にしか聞こえてないらしい。
「神様、急に大きな声出さないでください……」
「神、居る?」
私の言葉にオーフィスは周囲を見渡すが、分からないのか再び首を傾げる。
『あっ、はい。すみませんでした……っではなくて! 一体どこに行っていたんですか!? 送った筈の世界に居なくて、別の世界まで探し回ったんですよ!?』
神様が声を荒げる。探してくれていたんだ、本当に優しい神様だよね。それにしても神様が探しても見つけられなかった世界を創りだした、あの二人はいったい……。
「すみません。でも、私もよく分からないんです。転移したと思ったら変な場所に居て、そこから脱出しようと出口を通ったらここに戻っていたんです」
『……成程、そういうことですか。失礼を承知で今、あなたの履歴を見せてもらいました。なんでしょう……見え過ぎる神の見えざる手が働いたとでもいうのでしょうか?』
神様はあなたじゃ……いや、別の神様のことかな? この世界、神様いっぱいいるし。
「取り敢えず、状況が分かるなら説明していただけませんか?」
『そうですね。もともとあなたの行く筈だった世界『魔法少女リリカルなのは』という名前の世界だったのですが、そこで今回のように異世界と交わるお話。俗に言うコラボ話の異世界の接続に、あなた方に渡した世界を跨ぐ転移が反応してそちらに飛ばされてしまったようです。こちらに戻って来たのは、行く筈だった世界に着く前に飛ばされて、戻る場所がこちらになってしまったからでしょうね』
「長いんで、まとめてください」
『転移が失敗して、こちらに戻ってきてしまったんです』
うん、分かりやすい。
『それと、大変申し上げにくいのですが……』
申し訳なさそうな声で神様は言う……神様が言いよどむなんて、ロクな内容じゃなさそう。
『もともと、こちらに戻ってくる時間を10年後に設定していたので、転移した時から10年の時間が経過しているんです。今年から原作が始まります』
「あっ、そんなことですか。別にいいですよ、そこまで原作に興味は無いので」
そもそも原作知らないし。
『そうですか? ですが、転移を失敗したのはこちらの落ち度です。なので、何かお詫びをさせてください。なんでしたら、こちらの時間を止めてもう一度異世界に行かせることもできますが』
「いや、そこまでしなくていいです……」
また転移失敗されたら敵わない……。
『しかし、それだと私の気がすみません。何でもいいのでお詫びをさせてください』
「そこまで気にする必要はないと思うけど……」
もともと、異世界へのお誘いは原作が始まるまでの時間潰しが目的だったんだし。ある意味、この誘いのおかげでオーフィスとの心の壁が消えたから感謝こそしても、文句なんて無い。でもそれだと、この神様は納得しないよね……。
なにか、理由を含めたお願いを考えないと……私たちが転移した10年前に送ってもらう? いや、別に10年ぐらい時間が経過した所で大して惜しいとは思わないし………こんな風に考えるなんて。本当に私、感覚狂っちゃってるな~……。
他に頼みたいこと……あっ、そうだ。
「あの、神様」
『はい、なんでしょうか』
「今回の転移で、私たちの方で起きたことは把握しているんですよね?」
『転移先での出来事ですか? 履歴を見たので、全て把握していますよ』
なら、大丈夫かな。
「私達ちょっと向こうの方で、オーフィスの蛇を爆発させて二人の人間に重傷を負わせてしまったんです。一応怪我は治療したんですけど、彼女たちへのアフターケアをお願いできませんか?」
オーフィスの蛇の爆発なんて下手をすればトラウマものになるからね。
『えっと……可能ですが、そんなことでいいんですか?』
「はい。私からは向こうに干渉できないので、お願いできませんか?」
『分かりました。今回のことで彼女たちに正史とは違った何かがあった場合は、こちらで修正しておきます。変に手を加えると物語が破綻するので、こちらでできるのはコレぐらいが限度ですが、構いませんか?』
うーん。まあ、今回のことで後遺症が残らなければそれでいいかな。
「じゃあ、それでお願いします」
『了解しました。と、それよりも学校です。時間を戻さないのなら今年から入学してもらいます。入学手続きはこちらでしておきますので、4月から駒王学園に通ってください。制服など必要なものは今日中に送っておきます』
「ありがとうございます。それで学校では何をすればいいですか?」
『いえ。これと言ってして欲しいことはありません』
「……は?」
私は思わず、そんな声を出していた。それもその筈だ。もともと、学校に通うように誘ったのは神様の方からだ。それには何かしらの意味があるのだと思っていたのに、まさかの指示なし無しなのだから。
「えっと……私を原作に関わらせるために誘ったんじゃないんですか?」
『違いますよ。あなたの人生はあなたのモノです、私はあなたに何かを強要するつもりはありません。むしろ自身で考えて、自身の判断で動いてください。あなたには無限にも等しい時間を与えてしまったから、今一度有限の大切さと尊さを再認識してほしいのです』
「………」
流石と言うかなんというか、本当に神様は全部お見通しだったみたいだ。長く生きてきたせいで、時間に関して執着が薄くなってしまっていた。自覚がありつつも、何もしない。私の悪い癖だ。
よくよく考えれば、異世界に送ろうとしている時点で気づくべきだった。原作が今年から始まるとしても、別に始まってから関わらせる必要はない。もっと前から下地や関係者と接触させれば、高確率で原作に関与することになる筈だ。だというのに原作が始まる前に異世界に送ろうとしているということは、原作への干渉が目的ではなく、学校に通わせること自体に意図があると少しに考えれば分かることだった。
『他に何か質問はありますか? 無いのでしたら、私はこれで失礼させてもらいますが』
「あっ、待ってください!」
『なんですか?』
神様が不思議そうな声で聞いてくる。私は一度目を閉じて、息を吸い直してから言った。
「えっと………神様、私を転生してくれて、本当に…本当にありがとうございます。まだ世界をあまり見ていませんけど、私は転生できて本当に良かったと思っています」
『……そうですか。でしたら今度、私が声を掛けるときまでにはちゃんと世界を見て回ってくださいね?』
「あははっ……了解です」
そう言うと神様の声が聞こえなくなる。
代わりに、かなり大きめのダンボールが現れる。
「絆。それ、何?」
「たぶん。神様が送ってくれた学校生活に必要なものだと思うけど」
確証はないので、私はダンボールを開けてみる。するとそこには、私とオーフィスの履歴書や駒王学園の制服、体操着、案内書、教科書、バック、筆記用具などが入っていた。
取り出して読んでみる。私たちは近くの小中学校を卒業した扱いになっているようだ、流石にオーフィスの名前は偽名を使われていたけど、偽名が
確か、異世界で会った私のオリジナルと一緒に居た子の名前だったよね。あれから名前を借りたのかな?
「オーフィス。悪いけど、この履歴書の内容に合うように身体を変えてもらっていい?」
「なぜ?」
「あの神様が、学校にそれで手続きしたから。あと、名前とかも変えられてる」
私は、先程読んでいた履歴書をオーフィスに渡す。
「……分かった」
少し読んでオーフィスが答えると、一度オーフィスは目を閉じて、開く。
「えっと、変わったの?」
「変わった。女になった」
もともと見た目が少女だったから全然分からない……。
「まあいいや。それと二人以外の時は、私はオーフィスのことを美遊って呼ぶから」
「ミユ?」
オーフィスは首を傾げる。
「流石にオーフィスの名前を出すのは不味いよ。それに神様がその名前で手続きしたから、世間的にはそっちの名前で通っているんだ。大丈夫?」
「別に、構わない」
あまり興味がないのか、どうでも良さげにオーフィスは言う。
その後、いろいろと中身を見て準備を始めた。そして夜、八坂さんからもらった札から通信が来た。10年間、音信不通でどうしたのだと心配された。どうやら結界は家自体には問題無かったものの、人外の方たちへの配慮はされていなかったらしい。
取り敢えず、結界の調整を間違えて連絡が取れなかったということにしておいた。我ながら苦しい言い訳だ。納得してないであろうことが、通信越しに八坂さんから伝わってくる。
とりあえず、その話は置いておくとして娘の九重ちゃんに会わせたいから、また遊びに来て欲しいと言われた。今はまだ3月、駒王学園に入学するのは4月だから行ってみるのもいいかもしれない。
でもオーフィスは気配を完全に隠すことができるけど、完璧過ぎて実力者には逆に違和感が出るんだよね、言い訳考えておかないと……『オーフィスを置いて行く』と言う選択肢は初めから無い。私が見た限り、彼らは会わせてもいい人たちだ。だったら、オーフィスに私以外の人と沢山話をすることを経験させておこう。
学校が始まったら、私も常に一緒に居られるとは限らない。まずは私の知り合いということで八坂さんたちと会わして、どういう風な対応をするか反応を見よう。大体予想は付くけどね………。こうして、私たちの慌ただしい一日は過ぎて行った。
という訳で、次回から本章が始まります。