学園に悪魔が増えた日からしばらく経った。学園生活は特に大きな問題もなく、至って平穏無事である。今日も私とオーフィスは、放課後に文芸部の部室に来ている。しかし今日は、私達以外の生徒が来ていた。
「まったく、委員長の癖に居眠りするなとか、委員長だから手伝ってとか、委員長だから聞いて来てくれとか、俺は便利な小間使いじゃねえんだぞ。大体、俺は立候補した訳じゃないのに、委員長なったのはアイツ等が押し付けたからじゃないか!」
とまぁ、ブツブツと文句を言い続けているのは私のクラスの委員長である。彼はクラスでの役職を決める時に居眠りをしており、誰も立候補者が出なかったクラス委員長にされたのだ。
自業自得のように見えるが、なんでも入学が決定した時に気が抜けたのか風邪をひき、病み上がりで来ていた為に寝落ちたのだとか。
他の人なら体調管理が出来なかったから悪いのだと指摘できるが、生憎と私は神様に通うように言われて来たというズルをした身なので、そのような指摘をすることなんてできない。
よく考えれば、私たちが通う為に2人の受験生が不合格になったってことなんだよね。なんか申し訳ない。
「そんなこと言っている割には、しっかりと委員長として働いているんだから立派だと思うけどね」
「任された以上は真面目にやるよ。これでも将来の夢は『検事』なんだ、大抵の頼みごとなら引き受けるさ。でも、いくらなんでも限度があるだろ! なんだよ、覗き魔を何とかしてくれって! 教師か生徒会に言えよ! なんで俺に言うんだよ! あんなのでも一応先輩なんだからって、苦情を俺に寄越すんじゃねえよ!」
「まあまあ、それだけ頼りにされてるってことだよ」
私は彼を宥めつつ、購買で買ったお菓子を渡す。
いろいろと文句は言っているが、事実彼はクラスでの人気は高いのだ。だからこそ、皆遠慮なしに彼を頼っているのだろう。それにしても覗きか……オーフィス、被害にあったら言ってね? 犯人の両親に連絡したあと、裁判で訴えるから。
「そうだなぁ。だから俺がお前らと、こんな風に話すようになったしなぁ。つーかお前らは、もっとクラスに溶け込めよ! 二人だけの空間作ってんじゃねえ! 彼女いない俺への当てつけか!」
「うへぇ~、こっちに飛び火した~」
そう、彼が私たちと気安く接しているのは、クラスの人と私たちの仲介役にされていた為だ。他のクラスメイト達は、私たちに用事があっても話し掛け辛いらしく。委員長だからと言う理由で、彼が声を掛けて来た。
なので、私がオーフィス以外で最も学校で会話をするのは彼である。
「そういう訳だから付き合ってくれ! 二人とも、絶対に幸せするから」
「何がそういう訳か分からないし、私は男だし、二人同時に告白するし、ツッコミどころは多々あるけど、取り敢えず私からの答えはNOだよ」
「…………(もぐもぐもぐ)」
「ちくしょー! またフラれたー!」
そう言って号泣する委員長。それを無視してオーフィスは、私の隣でお菓子を無言で食べ続けている。私もお菓子食べよう。
どうしてこんな対応をしているのか、それは『また』と言っていることから分かるかもしれないが、この告白。なにも今回が初めてではない。彼と会話するようになってから数週間後、とくに前触れもなく告白されたのだ……オーフィスと同時に。
「分かってるよ、自分の言っていることが不誠実だってことは! でも、好きになっちまったんだよ、しょうがねえじゃん! 告白するぐらい良いじゃん!」
「好きだって言ってくれるのはいいんだけど、美遊に堂々と二股宣言する相手に私は殺意すら抱くよ。本人が構わないなら止めはしないけど、私は絶対に納得しない」
オーフィスの考えはオーフィスの物だ。それに対しては、私が何か言うつもりはない。でも、私の考えも私だけの物。だから私は、私の意思で良し悪しを選ぶ。たとえ世界が認めても、オーフィスを不幸にするような存在は私にとって悪である。
「なら認めさせてやるよ! 必ず振り向かせてみせる。例え地獄に落ちようとも悪魔に魂を売ってでも、俺はお前たちを落として見せる! 俺が迎える最高のエンディングには2人が必要なんだ!」
「期待しないで待っておくよ」
このやり取りをするのも、もう何度目なのか分からないくらいしている。でも生憎、生まれてから2億年間、まったく恋愛感情を抱いたことのない私は、彼がどうしてここまで必死なっているのか分からない。
「……ねぇ、誰かを好きになるって、どんな感じなの?」
「んぁ?」
なので、直接聞いてみることにした。
「そりゃやっぱ、一緒に居ると安心するっていうか、嬉しい――幸せ? とにかく相手のことが気になって――って! なんだよこの公開処刑!」
なんか委員長が突然、顔を赤くして大声を上げたけど、いつものことだし別にいいや。それにしても、一緒に居ると安心して気になる相手か……。
私は視線をオーフィスの方に向けた。そして――
「? 絆、なに?」
「……なんとなく?」
私は、特に理由もなくオーフィスを持ち上げて自分の膝の上に座らせた。何故か、オーフィスと触れ合うレベルで近くに居ると落ち着くのだ。一緒のベッドで寝ているからだろうか?
「嫌なら止めるけど?」
「別に嫌じゃない……お菓子頂戴」
「はい」
私は持っているお菓子をオーフィスの口の前に持っていく、彼女はお菓子を頬張った。
「ちくしょぉおおおおおお!」
すると今度は、何故か委員長が涙を流しながら部室から飛び出していった。一体何な
んだ……。
「絆、この状態気に入った」
「体躯が同じくらいだから、長時間やると足が痺れそうだけどね」
「我が小さくなればいい」
「それもそうか」
じゃあ、家でも時々してあげよう。しかし、恋か……。はたして私がこうやってオーフィスと居て落ち着けるのは、彼女に恋をしているからなのだろうか?
Side イッセー
太陽が落ちて、闇が支配する夜の時間。俺は自転車に跨って町の中を駆け回っていた。この前、同じ眷属悪魔になったアーシアも今は1人で契約者の所に行くようになっている。もともと、最初のうちだけアーシアに付いて行くって話だったから仕方ないんだが、やはり少し心配である。純粋無垢なアーシアだ、変なお願いされても従ってしまうかもしれない。
あと、アーシアと魔方陣で跳ぶことができることに俺は内心、軽く落ち込んだ。悪魔の子供以下の魔力しか持っていない、改めて思い出すと泣けてくる。ああ、夜の風が冷たいぜ。
「えぇと、この家か」
俺は新しく契約を結ぶためにやって来た本日最後の家の前に到着し、インターホンを鳴らす。いつものごとく悪魔であることを告げ、もはや定例文と化している魔方陣で跳べない旨を伝えてドアを開けてもらった。ただ、今回はいつもと違う反応があった。
「ほら、とりあえず中に入って―――変態!?」
「おい! ちょっと待て!」
呼び出した契約者候補が、ドアを開けて俺を見るなり変態呼ばわりした。
あの後、俺が悪魔であることを伝えて家に上がらせてもらった訳なのだが、どうやら彼は駒王学園に通う生徒らしい。学年は1年――後輩じゃねえか! 先輩を敬え!
「まさか変態3人組として有名な―――名前なんでしたっけ?」
「兵藤一誠だよ! あと俺は変態じゃない、おっぱいが好きなだけだ!」
「あ~、そうそう。その生徒Hさんが、まさか悪魔だったとはねぇ。なるほど、だから行動に人間としての常識的な倫理観が欠けていたんですね。いや~、納得です。となると、他の2人も悪魔なんですか? 白昼堂々と、あんな犯罪行為をするような奴らが同じ人間とは思えなかったんですよ。俺、結構勘がいいのかもしれませんね」
俺は軽く凹んだ。自分が人間の頃からやっていたことが、自分が悪魔であるということを納得させたことに。
仕方ないじゃん。俺だってお年頃の男子高校生だ、ムラムラしたり、女の子のおっぱいとか胸とか乳房とか見たいって思うじゃん。
「あいつらは人間だ」
「………………え?」
本気で信じられないというような顔で彼は動きを一度止めて、まるで信じたくないと言ったように口を開いた。
「………え? 嘘ですよね? だって、あんたら何回も問題起こしているのに、一回も停学になったとかの話聞かないんですけど。それって、悪魔だから学校側を操っていたとかじゃないんですか? うちのクラスだけでも、女子から苦情がきているんですよ? いつ訴えられても変じゃないですからね?」
「マジで!?」
そ、そんな
「マジですよ。普通に覗きは、犯罪行為ですからね? 悪魔である貴方には分からないかもしれませんが、のぞきは人間が定めた軽犯罪法というものに違反する行為です。初犯とかで反省していると判断されれば罰金だけで終わったり、未成年なら最悪でも少年院で済みますが。例えそれでも身元引受人となる親などには確実に知られますし、前科を持つわけですから信用問題などにも影響を与えます。人間社会において、例え覗きでも犯罪行為である以上軽視できるものではないんですよ」
俺は、その言葉を聞いて、少し呆然とした。
「だ、大丈夫ですよ。あなたは悪魔だったから、人間の法律なんて知らなかったんでしょう? まだ逮捕された訳でもないんです、誠心誠意謝れば許してもらえなくても訴えられることは何とかなるかもしれません」
「……………」
先程までとは違い、彼はこちらを気遣うような優しい口調で話しかけてくる。しかし、俺は自分のしていた行為がそこまで深刻なことだとは思わず、何も答えられないでいた。特に親に知られるという部分で、父さんと母さんのことが脳裏に浮かび、
「えっと……なんか契約するって雰囲気じゃなくなっちゃいましたし、今日は一旦止めにしませんか?」
「あ……あぁ」
彼の言葉になんとか返事をすると、俺は自転車に乗らずに歩いて部室に戻った。決しておっぱいに対する思いが消えた訳じゃない。でも、覗きについてだけは、少し考えてみることにしよう。
「なんで恋愛相談の為に召喚したのに、俺が励ます形になってんだよ……悪魔に魂売る程度じゃ、あの2人を落とせないってことか?」
そんな言葉が、赤龍帝が帰った契約者候補の家で呟かれた。
その数日後、赤龍帝の家に女性の悪魔が夜這いに来るようなことがあったが、それは別のお話である。
Side ???
「どう思う?」
制服の上に漢服を着た隻眼の青年が、同じく制服の上にローブを着た青年に声を掛ける。
「行動自体は報告されている悪魔の活動と同じだが、見たところ利用されているという印象は受けないな」
「グレモリーは身内に優しいと聞くが、赤龍帝だからな……」
「接触するか?」
「そうしたいのは山々だが、あれは魔王の身内。下手に接触すれば、悪魔と衝突することになる」
「遅かれ早かれ、衝突するのは必然だろう?」
「地盤が固まり切っていない現状、超越者が3体もいる悪魔とやりあえば敗北は濃厚だ。はぁ……まさか、アーシア・アルジェントを追ってこんな事態になるなんて」
ため息をつきながら、漢服の青年は頭の中で状況を整理する。そこに、和服の女性がやって来た。
「ただいまにゃ!」
「お帰り、そっちはどうだ?」
「元聖女様は確認できたわ、報告通り悪魔化していたにゃん。でも、むかつくことに悪魔と仲良く幸せそうだったわ。あと、白音が最高に可愛かった!」
「そうか」
漢服の青年は、それだけ呟くと再び考えを巡らす。その姿を見て、和服の女性が口を開いた。
「ねぇ、確認は私だけでも良かったんじゃないの? 正直、あの赤龍帝なら私だけで殺せるわ。というか、あの学校の悪魔全員」
「落ち着け。お前が悪魔のことを嫌っているのは知っているが、相手は三大勢力の一角なんだ。今、奴らと事を構えるのは得策じゃない。それに神滅具である赤龍帝なんてものが現れたとなれば――」
そこまで言って、漢服の青年は懐に手を入れて通信機を取り出し耳に当てた。しばらくして通信機を切ると2人に目を向けた。
「緊急事態だ、アジトに戻るぞ」
その声は、どこまでも冷たく。まるで彼が機械のようであると2人に錯覚させるほどであった。
「どうした?」
「何かあったの?」
何度か、この状態の彼を見てきた2人は真剣なトーンで彼に尋ねる。彼は、何の抑揚もない口調で告げた。
「レオナルドが攫われた」
Side 三人称
――ピキピキッ ピキピキッ
ひび割れていく。絶対に解ける筈のない封印に少しずつヒビが入り、
そこには一体の獣……いや、バケモノが居た。何も存在しない空間に誰にも知られることなく、その身体に封印を施されたバケモノは、目を覚まそうとしていた。
世界を揺るがす力のぶつかり合いが生み出した衝撃は、遠く離れたこの世界にまで届いて、その術式を僅かに傷付け、長い年月を掛けて少しずつ崩壊が始まっていた。
だが、その封印は強固だった。壊れ始めたことを感知した術式は、自ら術式を修復し始める。強力で複雑な術式故に直りは遅いが、1年もすれば完全に修復するだろう。
その間、術式に負荷を与えることが無ければ全ては元通りになる。逆に言えば、刺激を与えれば術式が再び壊れ始める。また世界を揺るがすほどの力のぶつかり合いが起きれば、もしくは魔王クラスの力を直接ぶつけられれば術式の崩壊は加速する。ソレ以外に何も存在しないこの空間に、他のナニカが来るとは思えないが……。
バケモノは、まだ眠っている。目を覚ますときは来るのだろうか。きっと目を覚ませば、いくつもの世界が崩壊するだろう。そのバケモノは、それだけの力を持っているのだから。
原作のイッセーは両親のことは大切に思っているし、引き合いに出されれば少しは考えるかな? と思って書きました。