「狙え! 兵藤を狙うんだ!」
「うおおおおおお!! お前らふざけんな!」
校庭にそんな声が響く。
今日は、待ちに待った球技大会の日だ。現在は部活対抗戦で、野球部とオカルト研究部のドッジボールが行われている。この日の為に練習してきた野球部は
「お願い、変態兵藤を殺して!」
「死んで、お姉さまの為に!」
ギャラリーも白熱する試合を見て盛り上がっているようだ。
ちなみに私たち文芸部は出場を辞退した。部員数2人の文芸部よりもクラスに貢献した方がいいと判断したからだ。
「絆、全力出す?」
「止めて、学園どころか星が消し飛ぶから」
隣に居るオーフィスの提案を私は却下する。でも、オーフィスが全力を出して星が消し飛ぶ程度で済むなら、案外儲けモノかも知れない。だからってやらせる訳じゃないけど。
「でも、本気の相手に手を抜くのは失礼って、絆が言った」
「確かにそう教えたけど、美遊が本気出したら蹂躙どころか殺戮になっちゃうよ。私の身体能力もインチキみたいなものだし、全力は出しちゃダメ」
まあ、手加減しても美遊は強すぎるんだけどね。今のところ死者は出していないけど、私は毎日心配でならない。
「ルールがあっても、公平にはならない?」
「基礎スペックが違い過ぎるからね。美遊と対等に渡り合える存在なんて、私は一人しか知らないよ」
当たり前だけど、オーフィスと対等な存在はグレートレッドだけ。私は所詮、貰い物の力で戦えるだけで、素の力は一般人レベル。いや、身体能力も特典の範囲だから一般人以下かな……。
「そう考えると、私って自分の力らしいもの何も持ってないね。勉学も肉体も、私が自力で手に入れた力じゃない」
「虎の威を借りる狐?」
「少し違うような気もするけど、そんな感じかな。借りている相手は虎どころじゃないけど」
そんな感じで、私たちは他愛ない会話を続ける。
まあ、だからと言って使わない訳ではないけどね。目的の為なら持っているものは使う、それこそ最大限に有効活用しないと、グレートレッドに勝つなんて夢のまた夢だし。
「もっと能力の有効的な使い方、ないかなぁ……」
私の能力。あらゆるものを制御する力。もっと戦闘で有効的な使い方は無いだろうか、強い圧力でブラックホールでも作って……ダメだね、ブラックホールぐらいでグレートレッドがどうにかなるとは思えない。というより、それぐらいならオーフィスでもやろうと思えばできるレベルだ………そう考えると、普段のグレートレッドが随分と戦闘で手を抜いていていたことが分かるね…………なんかイラッとした。
「絆?」
オーフィスが首を傾げてこちらを見て来る。今更だけど、彼と肩を並べられるオーフィスもとんでもない存在なんだよね。そんな存在と一緒にいる私は、この状況に感謝するべきなのか恐怖するべきなのか。今の所、感謝しかないけど。
「う~ん、別の方向から考えてみるべきかな?」
「絆、聞こえている?」
「ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「考え事?」
オーフィスが首を傾げる。
「うん。帰りちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかな?」
「構わない、どこに寄るの?」
「図書館だよ。できれば、探すの手伝ってほしいんだけど」
「絆のお願いなら我、何でもする」
「こらこら、女の子が何でもするとか言っちゃダメだよ」
――びよ~ん。
私はオーフィスの頬を引っ張った。なんだこれ、ぷにぷにで餅みたいによく伸びてすごく面白い。
「絆、離す」
「ヤダ。美遊の頬っぺた気持ち良過ぎる」
「なら我も」
――びよ~ん。
オーフィスが私の頬を掴んで、左右に引っ張る。むう、負けるもんか。
――びよ~ん。
――びよ~ん。
――ふにふに。
――もにゅもにゅ。
――ドサッ。
なんか校庭から物が倒れるような音がした。目を向けてみると、オカルト研究部のチームメンバーの1人が股間を抑えて倒れていた。
「松田、元浜……なんで」
「最近、お前だけ良い思いしすぎなんだよ!」
「おまけに付き合いも悪いし、覗きに至っては止めてくるし! 思い出せイッセー! 俺たちは同志である! ショック療法だ!」
『え~。部外者の介入により、この試合を一時中断します』
そう流れてきたアナウンスを聞いて、私は対戦表を見る。今さらだけど、文科系の部活と体育会系の部活で勝負させているのは、すごい違和感があるね。これはオカルト研究部が勝ち上がってきた結果だから仕方ないけど……。
「お前ら邪魔だ! 早くコートから出ろ!」
「うるせぇ! これは俺たちの問題だ! 外野は黙ってろ!」
『係の方、彼らを退出させてください。なお、オカルト研究部と野球部の試合は一旦保留とし、次の試合を行います。再試合は、次の試合後とします』
「離せぇ! 俺たちにはまだやることがあるんだ! HA・NA・SE!」
『では、次の選手はコートに入ってください』
球技大会って、こんなに賑やかなものなんだね。
球技大会が行われてから少し経った日の夜。私は、グレートレットについて調べた資料を纏めていた。ちなみにオーフィスは、小さくなって膝の上に座っている。以前部室で言っていた通り、この状態が気に入っているらしい。
「♪~♪~♪~」
オーフィスが無表情のまま、何やら楽しそうに頭を揺らしている。何が楽しいのか分からないけど、オーフィスが楽しんでいるなら私は特に構わない。
「それにしても……」
私は調べた資料に目を落とす。なんというか……赤い龍については色々と書かれていた。やれ『火のよう身体が赤い』やら『その尾は天の星の3分の1を履き寄せて地上に投げつけ、災厄を起こす』やらと色々である。
これには間違った内容も入っているだろう。しかし、私が調べた限りでは夢幻という単語が載っている本は確認できなかった。まぁ、数日で全部の資料を読める訳ないし、他の奴も調べていたからね。「夢幻典」や「夢幻経」とかは東洋の物だけど、あとで読んでみようかなぁ。
さらに私は別の資料に目を移す、今度はウロボロスについてまとめた物だ。ウロボロスは『尾を飲み込む蛇』という意味の語源から来ており、死と再生、不老不死、始まりも終わりも無い完全なものとしての象徴的意味があるらしい。
グレートレットが言った完成された存在というのは、コレが理由だろうか? でも、この二つの伝承、関係性について書かれた本は見つけられなかったんだよね。ただ、赤い龍に対しての関係性が示されているものが、別にあった。
私はさらに別の資料に目を通す、そこに書かれているのは『黙示録の獣』。赤い龍と共に記述されている『10本の角と7つの頭がある獣』らしい。『頭の1つは傷付けられるが、すぐに治る』とか書かれているが、どうもキリスト教とローマの関係性を現したものの比喩表現らしい。
でも、この世界は人外が存在する世界だ。本当に、こんな存在が居るのかもしれない。
「…………ん? 何してるんだろう?」
資料に目を通していると、不意に学園の方から大規模な魔法を感じ取った。それも、この町が崩壊するという効力がある魔法だ。
一応、オーフィスに結界を張る準備をしておいてもらうべきかな? いや……私は神様からあの学校に通うように言われているんだ。この家だけ守っても意味がない。となると――
「オーフィス、学校にある魔法が発動しそうになったら壊してくれない?」
「分かった」
何の迷いもなく、オーフィスは返事をした。
オーフィスなら、この家から学校に狙撃するぐらい訳ないだろう、別の世界に飛ばした蛇ですら操作できるのだから。
返事を聞いた私は、気配だけを頼りに学園での状況を捕捉する。なんか色々と気配が入り乱れているけど、堕天使と悪魔が戦っているようだ。この中で1番強いのは堕天使かな? 地方都市ぐらいなら消滅させられるぐらい強いね。
あれ? なんか増えた。悪魔……と龍のハーフだろうか?
あ――堕天使を連れて飛んで行った。なんだったんだろう? というか結構戦闘していたけど、明日学校はあるのだろうか。緊急連絡網って、私たちの次はどこだったっけ?
いろいろと考えを巡られていると、いつの間にかオーフィスは膝の上で眠っていた。
数日後、伝説の聖剣を持ったエクソシストが教会を追放されて日本に来る途中、漢服を着た青年に声を掛けられた。彼らは自分たちを『英雄を倣う者』と名乗り、そのエクソシストを仲間に迎えたらしい。
Sideオーフィス
―――トクン、トクン、トクン。
規則的に聞こえてくるその音は、我の傍にいる者が奏でる命の鼓動。この音を聞いていると、不思議と安心する。
なんだかよく分からないが。最近、暇ができるとこの状態になることが多い。我は体温も自由に変えられるのに、こうして近くにいるとポカポカすると感じるのは何故だろう?
我は絆を見上げる。絆は、学園の方を向いていた。ドライグの方を向いていた。それが分かると、何やら面白くない。我も同じドラゴンなのに、と自身でもよく分からないことを考えてしまう。そしてそれを考えると、無性に絆に触れていたくなる。
この気持ちは何なのだろう? 我はどうすればいい? 分からない……次元の狭間で眠り続けるつもりだった我は、それを止めて絆の所に来た。でも、最近は絆の傍に居るだけだといけないような気がする。しかし、何がいけないのか。何をすればいいのか分からない。
次元の狭間を取り戻したら、我は眠るつもりでいた。つまり我の目的は……眠ること?
違う気がする……でも、絆の傍で寝るのは心地よい。本当に、心地よい……。
オーフィスはちゃんと魔法が消えたのを確認してから寝落ちています。
あとトライヘキサについての情報がこんな簡単に入る訳ない、と思うかもしれませんが、宗教的な意味だったら世間にも伝わっているのでは? と思い書きました。
イッセーも眷属になる前は、架空の存在として悪魔というものを知っていた訳ですし、これくらいだったら出てくるのでは? と感じたわけです。