「不味い……」
「だろうね」
学園の方で喧嘩があった日から少し経った休日。私とオーフィスは遊びに出かけていた。周りを気にせずのんびり過ごし、気づけばすでに夕方である。
現在は近くの公園で二人揃ってクレープを食べている。もうすぐ日が暮れそうだからか、公園には私たち以外誰も居ない。
「イクラ×ブルーベリー、ケチャップ風味、合わない」
「海と山のプチプチ食感って、名前だけ聞けば美味しそうだけど、絶対に合わないと思ったよ」
「それを言うなら絆のウニ×栗も同じ、イガイガミックスって何?」
「何とも言えない味だね。そもそも食べるときにイガは無いのに、なんで宣伝文句にしたのか」
「口内がカオス。そっちのクレープ、少し欲しい」
「別にいいけど、余計カオスになりそうだね」
とは言いつつも私のクレープに食いつくオーフィス。なんか最近、オーフィスの俗世への染まり具合がすごい。何というか、話し方が砕けてきている気がする。
さて、残す訳にもいかないので、二人でクレープを食べ進める。すると、とても見知った悪魔の気配がこちらに近づいてきた。
「美遊さんと……絆さんでしたっけ?」
「塔城さん? 珍しいね、こんなところで会うなんて」
話し掛けられたので、私は今気づいたかのように返事をする。感じた気配通り、相手はクラスメイトの塔城小猫だった。
彼女は私とオーフィスを交互に見て――
「デートですか?」
そんなことを聞いてきた。
「美遊、これってデートなの?」
「分からない」
「なんですか、その反応は……」
塔城さんは呆れたような口調で、そう言った。
「いや、私たち一緒に居ることなんていつものことだから、デートって言っていいのかなって」
「いつも一緒、ですか……」
「塔城さん?」
私の言葉を聞くと、何やら気落ちする猫魈悪魔。どうしたのだろうか?
「何でもありません。それよりデートでないのなら、お二人はここで何をしているんです?」
「クレープ食べてる」
「いえ、そうではなく……」
オーフィスの言葉を聞くと、塔城さんが私の方に顔を向けた。
「ただの買い物の帰りだよ。さっきまでゲームセンターで遊んでいて、そろそろ帰ろうかなって思って店を出たらクレープ屋さんを見つけたから衝動買いしたんだ」
「デートじゃないですか」
塔城さんがジト目でこちらを見て来る。うーん、これがデートだったら月一ぐらいでデートしていることになるんだけど。
「そう言う塔城さんこそ、何してたの?」
「……ヤケ食いです」
「は?」
「気にしないでください」
そう言って彼女は、そっぽを向いた。ヤケ食いって、何か嫌なことでもあったのだろうか?
「もう夕方ですし、暗くならないうちに帰った方がいいですよ。最近、色々と物騒ですから」
まあ、この前学園で戦闘があったばかりだしね。もしかして、それを伝えるために態々声を掛けてくれたのだろうか?
「そうなんだ。なら、そろそろ帰ろうかな? また明日学校でね」
「はい。また明日」
そう言って私たちは公園の出口の方に向かう。その途中、なんか違和感のある人間とすれ違った。その直後
―――ドサッ
「……え? だ、大丈夫ですか!?」
突然、塔城さんが倒れた。すると先程すれ違った人間――金髪碧眼の10歳前後の少女が声を上げる。
「どうしたんだろう?」
「あの倒れ方、危険」
私はオーフィスの言葉に同意する。受け身も取っていなかったし、なんか氣の流れが変なような。
流石に放置していると世間体的にマズいので、私たちは彼女たちが居る方へ向かう。
「あっ! たっ、助けてください! この人、突然倒れて!」
私たちに気づいた金髪の少女が助けを求めて来る。一見日本語を話しているように聞こえるけど、なんか翻訳されているみたいな感じがするなぁ。
「取り敢えず、そこどいて」
「は、はい!」
私は少女にどいてもらい、塔城さんの状態を確かめる。呼吸が粗く顔が真っ赤になっていた。
「塔城さん、意識ある?」
「……はぁ……はぁ…はぃ……」
小さい声だったが確かに返事をした。私は座り込んで、呼吸がしやすいように仰向けにして熱を測る。
「熱は……平熱だね。美遊、救急車呼んで」
「分かった」
あと金髪の子には誰か人を呼んでもらって……いや、さっきの声が呼び水になったのか、何人かこちらに人が来ている気配がするし、呼ぶのは救急車だけでいいか…………ん?
「まっ、待って…ください……」
オーフィスが救急車を呼ぼうとすると、塔城さんがストップを掛けた。
「塔城さん?」
「これは……はぁ、持病みたい……なものです………はぁはぁ、放って置けば……治ります」
苦しそうな声で必死にそう言って来る彼女。
持病だろうが何だろうが、こんな明らかに異常な状態なら呼ぶべきだと思うんだけど。こんな必死に言うなんて、もしかして裏に関わる問題なのかな?
「そ、そんな! 病気では……」
そして金髪の子は何やら悲しそうな顔をする、なんなんだこの子は……。
「いやいや、どう見ても放って置けるような症状じゃ――」
「白音えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」
………なんか、こっちに向かってきていた野次馬が叫びながら突っ込んできた。
「にゃっ!?」
―――ズシャァアアアアアアア!!!
そして突然倒れて、ヘッドスライディングした。物凄く痛そうだ。
「黒歌お姉ちゃんっ!?」
「!? 姉、さま……?」
スライディングしてきた人物……和服を着た女性を見ると、金髪の少女と塔城さんが声を上げる。というか、姉?
「これ、は……ジャンヌの奴……!」
なんか和服の女性が物凄くご立腹の様子だ。だがそれとは別に塔城さんのように顔が赤く呼吸が粗い、もしかしてこの症状は悪魔特有の物なのか? うまく隠しているけど、この女性も悪魔だし。
「アリス、無事かっ!」
「何をしているんだ黒歌……」
「お兄ちゃん!」
さらに二人やってきた制服の上に漢服を着た隻眼の青年と、同じく制服の上にローブを着た青年に、金髪の少女が声を上げる。
「良かった、ジャンヌからお前が来たと聞かされたときは心配したぞ。しかし、黒歌のこの症状……アリス、お前ジャンヌから何か貰ってないか?」
「えっと、出掛ける時はこれを持っていくように、って言われて……」
そういうとアリスと呼ばれた金髪の少女は、ポシェットから何かを取り出す。アレは……匂い袋? そして漢服の青年は袋の中を覗き込むと、呆れたように溜め息を吐いた。
「やはりこういうことか……ゲオルグ、悪いが仕舞っておいてくれ」
「了解」
そう言って漢服の青年から袋を受け取ったローブの青年は、袋をポケットに入れると何かをした。魔力の気配は無かったから、恐らく異物を使ったのだろう。
……というかこの三人、全員に異物が混じっているね。
「あの~、話が見えないんですが。そちらの女性は大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、気にしなくていい。彼女は、今そこに居る白い子の姉だ。この症状は、彼女たちの持病みたいなものだから少しすれば治る」
そう言われて見てみると、確かに二人の症状がさっきより和らいでいる気がする。それと塔城さん自身が姉と言っていたから、和服の女性が姉というのは本当なんだろう。
「そうですか。ところで、あなた達はいったい?」
「俺か? 俺は曹操、俺の隣に居るのはゲオルグ、そこに居る金髪の子はアリス、和服を着て倒れているのは黒歌だ」
「曹操って……もしかして(コスプ)レイヤーの方ですか?」
「「「…………」」」
私がそう言うと、空気が固まった。
「……まあ、そんなところだ。それより、その子と黒歌をベンチに運ぼう」
「それもそうですね」
曹操さんの提案を受けて私たちは二人の悪魔をベンチに運んだ。
side小猫
頭がボーとする。私が倒れたのは、あのマタタビの匂いを嗅いでしまったからだ。ただし普通のマタタビではない。匂いが通常より何十倍も強くて、気を抜くとそのまま意識が落ちてしまいそうだった。
これは元猫又である私特有の症状だ、救急車を呼んだところで意味は無い。それを伝えようとしたところまでは覚えているが、その後は殆ど意識が無かった。誰かに昔の名前を呼ばれた気がする。その相手にも何かを言った気がする。だが、よく覚えていない。
それと、この懐かしい感覚は何だろう? 不思議と安心できる、とても優しくて、温かくて、何故か悲しい。
「……?」
誰かが私の頭を撫でている? 一体誰だろう。まだ意識がハッキリしない私は、薄っすらと目を開いて相手を見ようとした。
「目は覚めた? 白音」
「黒歌……姉さま?」
あれ? なんで姉さまがいるんだろう? いや、この人は本当に姉さまなのだろうか?
私の目に映る姉さまは、かつて暴走した様子など欠片もない、昔の姉さまだった。私に向けられたまなざしも、私を安心させてくれた笑顔も昔と同じ姉さまだ。
これは夢? それとも幻? あんなに怖かった姉さまを見て、安心しているのは本物じゃないから?
「もう少し安静にしてなさい。
「…………っ!?」
姉さまの言葉を聞いているうちにようやく意識がハッキリしてきた。それと同時に、これが現実だということも理解する。
なんでっ!? どうして姉さまがここに居るの!? なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?
理解できない状況に私は混乱する。しかし身体はまだ思うように動かない。いや、それよりもなんで私は、姉さまに膝枕されている!?
「ゴメンね白音。驚いたわよね、怖いわよね。あなたを置いて行った私なんて、見たくないわよね」
「あっ……」
姉さまが手を離すと、私の口から勝手に声が漏れた。
「白音、たくさん話さないといけないことがあるの。許してなんて言わないし、信じなくてもいい。ただ、私の話を聞いてちょうだい」
「姉……さま?」
そして姉さまは、ある昔話を始めた。それは、ある二匹の猫と悪魔のお話だった。
Side絆
「つまりアリスちゃんは、出掛けた曹操さん達を追いかけたはいいものの迷子になってしまい。連絡を受けた曹操さん達は先程の叫びを聞いて急いでやってきたと」
「まあ、大体そんな感じだ。君たちには迷惑を掛けたな」
「別に何もかけていませんよ。目の前で人がヘッドスライディングした時は、何かと思いましたけど」
現在、私と曹操さんの二人で談笑中である。オーフィスはアリスちゃんに気に入られたのか話に熱中されている。ゲオルグさんは周りを警戒しているのか、少し離れた場所で一人立っていた。
ちなみに塔城さんは、動けるようになった黒歌さんが膝枕をして少し離れたベンチに居る。正直私たちは帰ってもよかったんだけど、流石に知り合いを今日会ったばかりの人たちに任せて帰ると言うのも不自然なので塔城さんが起きてくるまで待っていることにした。もう日が落ちて辺りは暗くなり始めている。
「それにしても、姉妹という割にはあの二人あまり似ていませんね。体格はもちろん、髪の色も真逆ですし」
「それは、あまり詮索しないでもらいたい……」
「……そうですね。先程から塔城さんを違う名前で呼んでいますし、あまり踏み込んでいい内容ではないみたいです。すみません、配慮不足でした」
「いや、君が気を負う必要はない。それより、君は彼女の友達か?」
「友達、というには直接的な接点は少ないですし、クラスも別なので学友ですかね」
生憎、友達というには彼女とは関わりが少なすぎる。現状だと学友辺りが妥当だろう。
「そうか………ん? 学友!? 君は高校生なのか!?」
「あはは、よく言われます。駒王学園一年、真代 絆です。それとアリスちゃんと話しているのも同じく一年の音無 美遊です」
「あの子もか……」
そう呟いてオーフィスの方を向く曹操さん。すると視線に気づいたアリスちゃんがこちらに手を振って来る。
「はぁ……まったくアイツは」
そう言ってなぜか溜め息を吐く曹操さん。
「可愛らしい妹さんですね」
「妹? まあ、あいつは妹みたいなものか……」
ん? 彼の言い方的に、本当の妹ではないのかな?
「妹が迷惑を掛けて悪いな。いつもはもっと大人しいんだが」
「そうなんですか?」
「あぁ……最近ちょっと問題が起きてな、あまり相手してやれなかったから寂しかったんだろう。アイツは優しいけど、人一倍寂しがり屋だから」
「それでついて来たんですね」
「本人は自覚してないんだけどな。今回ついてきた理由も、俺たちのことを手伝いたかったかららしいし、俺は兄貴失格だな……」
「そんなことないと思いますけどね」
私はアリスちゃんの方を見る。一点の曇りもない笑顔で曹操さんに手を振っている、あんな顔をさせられるのなら十分兄として誇れると思う。
その後も少し談笑していると、悪魔姉妹がこちらにやって来た。呼吸や顔色も安定しており、先程までの状態が嘘のようだ。
「待たせてゴメンにゃ、曹操。それと、そこのお嬢ちゃん」
お嬢ちゃんは、おそらく私のことだろう。
「もういいのか?」
「ええ、曹操のお蔭で話すことができたにゃ……」
「そうか……」
何やら気落ちした様子で話す黒猫。その様子を見て何かを察したのか、小さく呟く曹操さん。
「塔城さん。身体はもういいの?」
「はい、問題ありません。ご迷惑をおかけしました」
「私は何もしてないよ。塔城さんも起きたことだし、私たちは帰るけど。家まで送ろうか?」
「いえ、一人で帰れます」
「そう? じゃあ、気を付けてね。美遊~、帰るよ~」
私の声にオーフィスとアリスちゃんがこちらに戻って来る。
「うぅ……美遊ちゃん、帰っちゃうの?」
「帰る」
「……随分と仲良くなったみたいだね」
子供は打ち解けるのが早いなぁ……。
「ほら、アリス」
「うぅ……美遊ちゃん。また今度、お話しよ?」
「分かった」
オーフィスの言葉を聞いて、アリスちゃんが名残惜しそうに手を離した。
「えっと、絆ちゃん!」
「え? 私?」
「私、アリスです! よろしくお願いします!」
「……あぁ、うん。私は真代 絆です。よろしくね」
なんでこのタイミングで自己紹介?
「今度会ったら、絆ちゃんともお話したいです!」
「別にいいけど」
「やったー!」
なんか物凄く喜んでる。
「美遊ちゃんだったか? アリスの面倒見てくれてありがとな」
「勝手に騒いでいただけ」
―――ガーン!
今度は落ち込んでいる。
「すみません。美遊は歯に
「お互い大変だな」
私はそうでもないけどね。精々、地球がいつ壊れてしまうかどうかを気にするぐらいだし。
「もう本格的に暗くなってきたし、帰るよ美遊」
「ん」
「あっ、美遊ちゃん! 絆ちゃん! バイバイ~」
「またね、アリスちゃん、曹操さん。塔城さんも明日学校で」
「はい」
私は手を振って公園を出た。
街灯が道を照らし、月明かりが空を照らしている。彼らの姿が見えなくなり、私は空を見上げた。とてもきれいな満月だ。そこで私は、先程まで一緒に居た彼らとの会話を思い出す。
……………………………………。
「? 絆、どうかした?」
自然とオーフィスの方を向いた私に、彼女は首を傾げる。
「うぅん。なんでもない」
「???」
オーフィスの頭に疑問符が浮かんでいるのが分かる。
それにしても『デート』か……やっぱり私にはよく分からない。オーフィスのことが好きなのか嫌いなのかと聞かれたら、当然『好き』と答えるけど、それが家族愛なのか恋愛なのかと聞かれると、私には分からない。
昔に比べて、私の考えはいろいろと変化しているけど、こっち方面の変化はサッパリだ。私は何か変化しただろうか? 長い時間の中で成長できているのだろうか? 世界はこんなにも変化しているというのに……。
「昔に比べて、見える星が少なくなったなぁ」
「突然、なに?」
私が空に目を向けると、そこには月と僅かな星があるだけで。かつてオーフィスと一緒に見たようなプラネタリウムのような星空は無い。昔に比べて空が汚れたこともそうだが、地上に明かりが増えた所為でもあるだろう。
昔からずっとある空も、その姿は随分と変わった。私は、この変わり続ける世界と彼女との約束を天秤にかけて、
だから、私は変わらない。だけど私の能力は精神まで変化を止めてしまったのか、それともこれは私が元から持っている資質なのか、ハッキリとした答えは私には分からない。でも、私は別に、これでいいと思っている。どの道、私がオーフィスのことを好きなのは変わらないしね。
「美遊は、今の空はどう思う?」
「今の空?」
そう言うとオーフィスは、いかにも『考えていますよ』と言った雰囲気で腕を組み、空を見上げた。
「月がきれい?」
「……それワザと言ってる?」
「? 言ってない」
私は、彼女の言葉を聞いて思った。確かにコレなら『死んでもいい』と言えると……。
「なら、別にいいや。ほら、早く帰ろう」
私は適当にはぐらかしてオーフィスの手を引いた。彼女を見ると、その黒い大きな瞳に空の月が映る。
「ホント、月が綺麗だ」
私は、ただそれだけ呟くと少しだけ早足で家へと向かった。
side小猫
絆さん達を見送ると、私は曹操と呼ばれていた男性に話し掛けた。
「曹操さん、で合っていますか?」
「うん? ああ、俺は曹操で間違いないが、何か用か? 黒歌の妹」
「今は塔城 小猫と名乗っています。白音でも構いませんが」
そう言って私は頭を下げる。
「姉さまのこと、本当にありがとうございました」
「……黒歌に何を言われたか知らないが、俺は襲われていたそいつを助けただけだ。それ以外は何もしていない」
「そんなことないにゃ! 曹操が居たから、私はまた白音に会えた! 私がこうして話すことができるよう気持ちの整理ができたのも全部、曹操が私に真摯に向き合ってくれたからにゃ!」
姉さまが喰い気味に彼に話し掛けている。そうか、私と同じで姉さまも戸惑っていたんだ。
「姉さま」
―――ビクッ
私が呼ぶと、姉さまは身体を震わせた。
「な、なに? 白音」
「正直、私はまだ困惑しています。突然目の前に現れて、自分の見解とは真逆の理由を教えられて、どちらを信じればいいのか判断に迷っています」
「白音……」
「だから、少し時間を下さい。今でもまだ、私は姉さまが少し怖いです。でも、私は姉さまのことを嫌いだと思ったことは一度もありません」
私は魔法陣が書き込まれた配布用の紙を取り出し、裏にあるものを書き込んで姉さまに渡した。
「これは?」
「私のメアドと電話番号です。表の魔法陣は使わないでください」
どんな理由があっても今の姉さまは、はぐれ悪魔なのだ。私と姉さまに連絡手段があると知られるのは不味いです。
「うぅ……白音えぇ!」
―――ダキッ
姉さまに泣きながら抱き着かれました。嫌、ではありませんが…………苦しいです。そしてムカつきます。なぜ私と姉さまは姉妹なのに、こんなにも……。
「黒歌、その辺にして置け」
「うぅ……白音をこのまま連れて帰りたいにゃ」
「我慢しろ、今そんなことをすれば問題が起こる。特に身内に優しいグレモリーの眷属を誘拐なんてしたらことだ」
「身内
「お前の気持ちは分かるが、今日俺たちはその子に会う予定は無かったんだぞ。これ以上、状況を悪化させないでくれ」
「だ、だって……白音が倒れているのを見たら、ジッとしてなんて居られなかったにゃ」
姉さまたちが言い合いを続ける。それは少しずつエスカレートしていき、収拾がつかなくなってきた。その時――
「曹操、黒歌、その辺にしろ。妹ちゃんが置いてけぼりを食らっているぞ」
金髪の少女と手を繋いだローブ姿の男性が声を掛けました。
「…………そうだな。少し熱くなっていた、すまない」
「私もにゃ……」
「お兄ちゃん、黒歌お姉ちゃん、どうしたんですか?」
落ち込む二人に声を掛ける金髪の少女……ん?
「そこのあなた」
「は、はい! 私、アリスです」
「塔城 小猫です。それでアリスさん、どうして黒歌姉さまを『お姉ちゃん』と呼んでいるんですか?」
「えっ、ちょ、待――」
「? 黒歌お姉ちゃんに、そう呼んで欲しいって言われたからですけど?」
……………………。
「し、白音?」
「なんでしょう、
「うにゃーん! 他人行儀にならないでー!」
また抱き着いてきました。なんでしょう、先程はほんの僅かですが安らぎを感じたのに、今は何も感じません。顔もいつも以上に無表情になっている気がします。
「違うのにゃ。小動物みたいなこの子が甘えられるように、親しみを込めて呼ばせているだけなんだにゃ」
「安心してください、妹さんはちゃんと分かっています。ですから離れてください、黒歌さん」
「うにゃーん!」
どうして私はこんなことを言っているのでしょう。なんだか姉さまが私の居ない間に、あの子に姉と呼ばせていたと思うと、物凄くムカつきます。
「黒歌、これはお前が悪い」
「曹操だって、お兄ちゃん呼びさせてるにゃ!」
「アレはアリスが勝手に呼んでいるだけだ、俺が強要したわけじゃない」
「えっ、お兄ちゃん。私がお兄ちゃんって呼ぶの嫌だったの?」
泣きそうな顔をするアリスさん。
「いや、そう言うことじゃない」
「ホント?」
「本当だ」
「…………ロリコン」
「おい待てゲオルグ! ロリコンって何だ!? 俺はアリスを保護者として見ているだけだ、そう言う意思はない」
「えっ……う、うえーん! ファーストキスだって上げたのにー!」
「女の子泣かせるなんて、最低だな曹操……」
「なんでそうなるっ!?」
「そうか、曹操はロリコンだから私が誘惑しても襲ってくれないんにゃね……」
「お前はお前で何を言っている!?」
前より収拾がつかなくなってしまいました。もう、部活の時間には間に合いそうにありません。部長に今日は遅れる旨を連絡しておきます。
その後、少しして皆さんが落ち着いたところで解散となりました。アリスさんとは友達認定をされて戸惑いました。姉さまがなかなか離れないので、業を煮やしたゲオルグさんが結界のような物に閉じ込めてそのまま霧のような物に包まれて一緒に消えてしまいました。
私も部室へ向かうことにします。こんな重大なこと、本来なら部長たちに報告するべきなのでしょうが、姉さまのことも少し信じてみたいです。
そうなると、絆さん達を口止めして置かないといけませんね。曹操さんの話では、2人は裏に関わってないと会話で察して、そちら関係の話はすべて伏せたと言っていましたし、家庭の事情ということで言わないよう頼んでみましょう。曹操さんの証言が本当か分からないので、しばらく使い魔に監視はさせますが。
「携帯、マナーモードにしておきましょう」
先日のコカビエルとの戦いから、自分の力の無さを再認識して今朝は不安になっていましたが、その夜の足取りは少しだけ軽かったです。
小猫がリアスたちのことを弁明しないことに疑問を感じるかもしれませんが、黒歌の話を聞いて言い出しづらい状態だと思ってください。