曹操さん達と出会ってから数日が経過した。ただ翌日、学校で塔城さんに昨日のことを誰にも言わないで欲しいと頼まれた。別に手間でもないので了承したけど、なんだったのだろうか? とりあえず今日も平和な毎日である。
「シロ、跳ぶ」
「にゃあ!」
現在は夜中。オーフィスが猫じゃらしのオモチャを使って白い猫と遊んでいる。
この猫、実は普通の猫ではない。使い魔だ。塔城さんからお願いされた日から、私たちにずっと付いてきていた。どうやら私たちが約束を守っているかを見張っているようだ。
そして監視されていることを理解した私たちは、偶然を装って近づいて食べ物で誘き寄せたのだが。その所為で懐かれたようで、今では平然と家に入ってきて遊ぶ仲になっている。
「シロ、美遊、ご飯出来たよ」
「にゃあ!」
「すぐ行く」
オーフィスは洗面所へ手を洗いに向かい、シロは一目散に私の方へやってくる。ちなみにシロという名前は、白い猫だからという割と単純な理由である。
「にゃあ! にゃにゃ! にゃーん!」
「はいはい、ちゃんとあげるから」
私がシロの前に皿を置いて高級猫缶から中身を取り出すと、すごい勢いで食べ始めた。監視している筈なのに食べ物につられるし、随分と食い意地の張った猫だ。
「絆、食べる」
戻って来たオーフィスが私を急かす。さて、私たちも食事にしよう。
Sideイッセー
今日は三大勢力による会談の日だ。現在会談は順調に進行しているようだけど、正直話の内容が難しくて俺は付いて行けてない。分かったのは堕天使総督のアザゼルが、時折する発言で場が凍ることがあったということぐらいだ。
「ところでアザゼル。何故ここ十年、神器使いを集めているんだ? いや、正確には数十年前からだが。十年前から、随分と必死に集めているように見える。ついに我々か天界に攻め込んで来るのかと思っていたんだが……」
「そう、何時まで経っても貴方たちは我々に攻撃を仕掛けて来なかった。
するとアザゼルは一度苦笑してから答えた。
「集めていたのは研究の為さ。なんなら研究データを公開しようか? もともと備えのつもりだったからな」
「どういう意味ですか? これから和平を結ぼうというのに、備えていたとは穏やかではありませんね」
アザゼルの発言にミカエルさんが聞く。するとアザゼルが一瞬サーゼクス様の方を向いて言った。
「うちのシャムハザが怪しい噂を掴んだのさ。ある連中が強力な力を手に入れたらしく。近いうちに世界を支配しようとしているってな」
「ある連中? 正体が分かっていないのか?」
「いや、正体は割れている。だが、さっき言った通り噂程度なんだ。実際、手に入れた力っていうのも正確な詳細は分からない。こんな会談で言うには、あまりにも情報が不確定過ぎるだけさ。だが、火のない所に煙は立たねえ。用心するに越したことは無いと思っていたんだ」
「そうか。しかし、最初の頃はともかく、ここ十年間の力を入れようは異常だ。そんな不確定な情報で、ここまで必死に組織全体を動かすのは、いささか疑問を感じるのだが?」
そう言うとアザゼルは、少しだけ神妙な顔をした。
「最初の頃は本当にただの備えのつもりだったんだ。一部の部下が暴走したり、思いの外面白くて熱中したりしたが、それでもあまり力を入れてはいなかった。だが、最近になって少し事情が変わったんだ」
「どういうことだい?」
「その連中の行動が表立ってきたんだ……しかもそれは、十年前に起こったあの日から少ししてからだ」
次の瞬間、会談の場が完全な静寂に包まれた。
え? なにが起こったんだ?
「そう言うことか、確かにそれなら納得がいく」
「たとえ噂であっても、一組織を動かすには十分な理由ですね」
え? え? え? なんだ、どういうこと? その噂が十年前に起こると、そんなに問題があることなの?
オカ研の皆の方を見ると、アーシア以外は理解しているのか、全員が目を見開いている。
「ところでミカエル、俺も一つ聞いていいか」
「なんでしょうか?」
「先日のデュランダル使いを追放しただろ? 何故デュランダルを取り上げなかったんだ?」
なんか話は既に纏まったらしく、アザゼルがミカエルさんに話し掛けた。いや、話の内容が理解できないのは、さっきまでと一緒だし状況は何も変わってないか。今は自分ができる限り話を理解するよう頑張ろう。
それでアザゼルが言ったデュランダル使いって、確かゼノヴィアのことだよな? アイツ追放されたのかよ。
「デュランダルはエクスカリバーとは違い、使い手を見つけるのは容易ではありません。彼女を失ったのはこちらとしても痛いですが、システムを守る以上異端とするしかありませんでした。いろいろと、想定外のことが起こりましたが……」
「……そうか」
いや『そうか』じゃないだろ、アザゼル! てかそれ色々大丈夫なのか!? 伝説の聖剣を持った、はぐれ悪魔祓いとか! 俺もミカエルさんからアスカロンを貰ったけど、これと同じぐらいヤバい気配を放っていたぞ、アレ!
その後、話の流れで俺と白龍皇のヴァーリが意見をすることになって、ヴァーリは戦闘狂まがいな発言をし、俺は和平を望むことを発言した。実際戦争なんてしたくないし、部長を抱けなくなるなんて嫌だから本心からの意見ではあるんだが、アザゼルの口車に乗せられた気がする。
木場に言われてサーゼクス様が居ることを思い出し、慌てて真面目に発言するがその途中、身体の時間が一瞬停止するような感覚に襲われる。それはギャスパーの神器で身体を止められた時の感覚だった。
Sideアザゼル
テロが起きた。ある意味想定していた出来事ではあったが、グレモリー眷属の
とすれば俺の所にも裏切り者が居ることになるが、和平を阻もうとしている
こちらを攻撃しているのは、ほとんどが悪魔だった。だが全てがそうではない。
赤龍帝に神器を制御できる試作品の腕輪を渡して転移させた後、旧魔王の紋章が付いた魔法陣から一人の女の悪魔が出て来る。
「ご機嫌よう。現魔王、サーゼクス殿」
「前魔王『レヴィアタン』の名を受け継ぐ者、カテレア・レヴィアタンか。これはどういうことだ?」
「私だけではありませんよ。シャルバとクルゼレイも来ています。私たち旧魔王派の者たちは、あなた方に宣戦布告します」
「カテレアちゃん、どうして!」
セラフォルーが叫んだ。しかしその声とは裏腹に、カテレアはまるで邪魔者を見るような眼でセラフォルーを睨む。
「私からレヴィアタンの座を奪っておいて、よくもぬけぬけとそんなことが言えますね」
「そんな……わ、私はそんなつもりじゃ」
「新旧魔王の確執が完全なものになったのか。悪魔も大変だな」
状況を簡単にまとめて俺は呟いた。しかし、それに対してカテレアは、今度は呆れたような顔で俺を見る。
「堕ちた天使の総督。あなたもあまり人の事を言えるような状況ではありませんよ」
「そのようだな……俺たちを攻撃している奴らの中には、堕天使も混じっている」
大多数は悪魔のようだが、堕天使や悪魔祓いも僅かに混じっているようだ。だが、とても連携して動いているようには見えない。
「先に言っておきますが、私たちと彼らは仲間ではありません。彼らもまた和平を望んでおらず、あなた方を狙ってきたようですね。時間停止の神器を暴走させる作戦だったようなので、こちらも利用させてもらいましたが」
そう言うとこの場に居た何人かが顔をしかめた。彼らは協力しているわけではない、だと言うのにこれだけの反逆が起きている。これは俺たちが今まで和平を結ばなかった理由であり、和平を目指すことで発生する問題の一部が形を成して襲ってきただけだ。
そう、
「お前たちの目的は何だ」
「偽りの魔王を討ち取り、そして全世界を支配する。実に悪魔らしい理想だとは思いませんか?」
「世界征服ってか? おいおい、今どき流行らないぜ」
「悪魔として、むしろ理想的な姿だと思いますがね」
随分と冷静だな。まるで自分に負ける要素は無いとでも言わんばかりの余裕だ。まさか噂は本当なのか?
シャムハザが掴んだ噂の連中とは、こいつら旧魔王たちのことだ。これから和平を結ぶから名前を出しはしなかったが、もし彼らの自信が俺の予想通りのものだったとしたら。
「なら、試しに俺を討ち取ってみるか? 俺を倒せなきゃ、世界を相手にするなんて不可能だぜ」
「いいでしょう。まずはあなたを討ち取り、あの方への手土産とさせてもらいます」
「カテレア、くだるつもりは無いのだな?」
「サーゼクス、あなたは良い魔王でした。しかし最高の魔王ではない。私たちは、悪魔のあるべき姿を取り戻す!」
俺は、その言葉を聞くと同時に窓ぎわの壁ごとカテレアを吹き飛ばした。サーゼクス達にこの場を任せて、終末の怪物との戦闘を始める。
戦いながら俺は相手の力量を測っていた。流石に旧魔王の血筋、その素質としては十分。だが、いかんせん経験が足りない。次第に焦りを見せ始め、先程までの余裕が消えていくカテレア。そんな時、ある言葉が別の場所から響いてきた。
「何故だ! 答えろ、ヴァーリ・ルシファー!」
Sideシャルバ
私の目の前で、我々真の魔王軍と偽りの魔王軍、そして愚かな天使と堕天使が戦いを続けている。偽りの魔王どもが、あろうことか我々悪魔の宿敵である天使と堕天使に同盟を申し込むなどという愚考を実行しようとした為、今回の襲撃に及んだ。他にも和平が気に入らない天使陣営や堕天使陣営の者が僅かに来ているようだが、問題視することではない。
「すでにカテレアも白龍皇の所へ着いた頃か」
この前、白龍皇であるヴァーリ・ルシファーに接触したが返答を待ってくれと言われた。
まあ、今頃内部から暴れていることだろう。例え半分でもあの者に流れている血は高貴なる魔王の血。目の前に、本来自身が収まる筈の場所に立っている者が居れば気が気ではあるまい。カテレアと共に、彼らを始末して帰ってくることだろう。
「む? バカな、我々の方が押されているだと。クルゼレイの奴は何をやっているのだ」
現場の指揮は私と共に来たクルゼレイ・アスモデウスに任せている。しかし戦況は我々が押され始めていた。おそらく相性の問題だろう、我々真の魔王軍は全員が悪魔だ、天使や堕天使が使う光の力を持つものがこの場には多く居る。
「仕方ないか、増援を出そう」
私は転移魔法を発動させて、一匹の人間を呼び出す。呼び出した人間は少年のような容姿をしており、洗脳を施しているため目が虚ろだ。名前は何と言っただろうか。いや、人間の名前など覚える価値はないか。
こいつの利用価値はもっと別の所にある、この人間は
だが我々がその力を有効的に使ってやろうと言ってやったのに、あろうことかこの人間は我々の申し出を拒否、抵抗してきたので洗脳させてもらった。まあ、より良質なアンチモンスターを作るために脳に無理矢理情報を詰め込んだので廃人になってもおかしくは無かったから、大した問題は無いが。
「対天使、堕天使のアンチモンスターを創れ、数はまあ……1000も居れば足りるだろう」
私の言葉に人間は小さく頷くと、広がった影の中から大量のアンチモンスターを出現させる。
「さあ、貴様ら! 偽りの魔王に加担する者たちと、我ら悪魔の敵を討――」
―――ドシュ!
「――っ!? ガハッ!!!」
命令を出そうとした私は、強烈な胸の痛みを感じて吐血した。見るとそこには、あまりにも神々しい槍が私の胸を貫いていた。
「これ、は――」
「黄昏の聖槍《トゥルー・ロンギヌス》、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
私の後ろには、最強の神器で私の身体を貫いている漢服を着た青年が居た。
Side曹操
「貴様は――」
「動くな。わざわざ聖なるオーラを抑えて、お前を消滅しないようにしているんだ」
俺は目の前の悪魔に静かに告げる。俺の持っている神器は触れただけで悪魔を消滅させることができるほどの聖なる力が宿っている。それを突き刺しても消滅させないようにするために、かなりの神経を集中させているのだ。
「人間風情が! 私が誰だか分かっているのか! 貴様が話しているのは――」
「お前の素性になど興味は無い。お前はただ俺の質問に答えればいい、答えなければ死が早まるだけだ」
俺は悪魔の言葉を遮る。言葉では平静を保っているが、本当は
「まず、レオナルドに何をした」
「貴様に言うことなど――」
―――ザシュッ!
俺は即座に槍を引き抜いて両腕に振り下ろす。奴は悪魔、俺は人間。身体能力では圧倒的にこちらが下だが、身体の動きを封じるため僅かに光力を流しておいたため、防御することもできず奴の両腕は切り落とされた。
「ガァアア!!?」
「質問に答えろと言った筈だ。レオナルドに何をした、拉致したのは誰かの命令か、他にも拉致した人間はいるのか」
「ぐっ――クソ、人間風情がぁあ!!」
そう叫ぶと悪魔は魔法を行使しようとする。
―――パァアアア!!!
俺は対話の意思は無いと判断して、聖槍の力を開放する。悪魔は音もなく消滅した。
「無茶なことを……」
「まったくにゃ」
声を掛けて来たのはゲオルグだ、その隣には気絶したレオナルドを抱える黒歌が呆れた顔をしている。
「ゲオルグ、黒歌、レオナルドは無事か?」
「暴れられても面倒だから魔法で眠らせたが、洗脳は掛かったままだから無事とは言えないな」
「仙術で見る限り、氣は安定しているから命に別状がないのは保障するわ」
「そうか……」
彼らの言葉を聞いてひとまず安心するが、すぐに気持ちを切り替える。離れてはいるが、此処も戦場であることに変わりはない。
「予定通りここから離脱する。ゲオルグは、ここに居るアンチモンスターを収納してくれ」
「了解」
アンチモンスター達は、先程の悪魔の命令を完全に聞いていないためか微動だしない。今は異空間に閉じ込めて、レオナルドが回復してから対処しよう。
「助けには行かないにゃ?」
「黒歌。妹が心配なのは分かるが、今回の目的はレオナルドの奪還だ。その為にこの町の下調べに来たり、連れて来たのも気配を消す為の黒歌、魔法に対処するためのゲオルグ、俺という三人に絞ったんだ。そもそも戦闘は視野に入れていない」
そう、今回はレオナルドを誘拐した悪魔集団がここ来るという情報を入手して、二人に協力してもらい学園に潜んでいたのだ。相手の正確な所在が分からない以上、撤退する彼ら付いて行くつもりだったが、レオナルドが呼ばれたのは予想外だった。
「でも……」
「今行ったところで妹は停止しているだろうが、魔王どもが張った結界の中に居るから安全に関しては問題ないだろう。あの魔王は情が強すぎようとも力は本物だ」
「……………分かったにゃ」
納得はしてないが、渋々受け入れてくれたようだ。あとはアジトに戻ってレオナルドの治療を
「「「(――――ゾクゥウウウウウウウ!!!!!)」」」
次の瞬間、俺たち全員に言葉にできないほどの怖気が走った。
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
Sideアザゼル
「何故だ! 答えろ、ヴァーリ・ルシファー!」
俺と対峙しているカテレアとは別の場所で、ヴァーリが対峙しているクルゼレイ・アスモデウスがそう叫んだ。
「あちゃー……なんで寄りにもよって、
俺は思わず嘆息してしまった。ただでさえ俺たち三勢力が同盟を結ぶにはいろいろ問題があるのに、さらに問題を増やしやがって。また研究の時間が減りそうだ。
「ヴァーリ・ルシファー! あなたは真の魔王の血を引く正統な後継者なのですよ! だと言うのに、なぜ偽りの魔王に従うのですか!」
「その通りだ! お前が付くべきなのはこちら側だ! 人間の血が混じっていようとも、お前はその汚点を覆せるほどの
俺と戦っているにも拘らず、カテレアまでもがヴァーリを怒鳴り始める。しかし、ヴァーリは奴らの言葉を聞くと酷く落胆したように言った。
「お前たちの言い分は、その一点張りだな。正当な魔王の後継者? くだらない、俺は一生戦い続けられればいいだけだ。今回の和平も乗り気ではなかったが、俺はお前たちの言う悪魔の政権にも全く興味は無い」
「「――なっ!?」」
カテレア達が絶句する。するとヴァーリは光速でクルゼレイに接近して、そのまま地面にたたき落とした。
「今回の襲撃でよく分かった。これなら一人で強者を探しに旅でもした方が遥かにマシだ。もっとも、俺を誘う時の文句が『魔王の地位を取り戻す』ではなく『神々と戦ってみないか』だったら、そちらに付いたかもしれないがな」
おいおいヴァーリ、そんな物騒過ぎるタラレバの話は止めてくれ。お前の人生はお前の物だが、俺は俺なりにお前の幸せを願っているんだぞ。本人には口が裂けても言わないが。
「そうですか。ならばもう、あなたを魔王の血縁者とは思いません。偽りの魔王と共に、此処で果てなさい!」
そう言ってカテレアが魔力で創りだした水弾をヴァーリに向けて放つ。はぁ……。
「お前さんの相手は俺だぜ?」
俺は光の槍を放ち、カテレアの放った水弾を掻き消した。
「――っ! おのれアザゼル!」
「おいおい、さっきまでの余裕はどうした? いや、敵が目の前に居るのに別の敵を狙うなんて、ある意味余裕だな」
「っ――ならば先にあなたから葬って」
カテレアの言葉は最後まで続かなかった。何故なら――
「ガハッ!!」
「………おいヴァーリ、折角一対一で勝負する流れだったのに水を差すなよ」
ヴァーリに殴り飛ばされたからである。
「奴は俺に向かって攻撃して来た。だから相応の対応をした、それだけだ」
「そうかよ。つーか、勧誘されたなんて聞いてねえぞ。んなことがあったら、ちゃんと教えろ」
「今日の和平の結果次第では行こうかと考えていたんだ。流石に今日襲撃してくるのは知らなかったが、奴らの程度が知れたから結論は出た」
おい、状況次第じゃ本当に裏切るつもりだったのかよ。まあ、俺もいつかお前が離れて行くんじゃないかと思っていたから今更取り乱したりはしないが。
「おのれヴァーリィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」
殴り飛ばされたカテレアが怒りの形相でヴァーリに触手のような物を伸ばしてくる。それはお世辞にも早いとは言えない速度だが、ヴァーリは避けなかった。
「貴方だけでも殺す! 私たちと同じ魔王の血を引いておきながら、その血を! 私たちを否定した貴方だけは、私の手で必ず!」
もはや最初の余裕はどこへ行ったのかというほどの豹変ぶりであった。怪しげな紋様が浮かび上がる。それは自爆の術式だった、己の命を吸わせて死を相手に与える呪術までついている。だが、こいつは忘れているのだろうか。自身が
「そうか……」
『Divide!』
ヴァーリが呆れたように呟くと、白龍王の光翼から能力の起動音が発せられた。
『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』
「ぐっ――」
現在進行形で触れているカテレアの力が凄まじい速度で減少していく、そしてついに術を維持できず触手が消えて地面に蹲ってしまった。
「どうだ? お前たちが言った
「忌々しい……」
「そうか。俺はお前たちが心底哀れに感じるよ」
そう言うとヴァーリは掌から魔力弾を打ち出し、カテレアを葬った。
「今日は、どうしたんだ? 本名を言われたことを抜きにしても、いつもと様子が違うぞ」
「別に何でもない。ただ、今代の赤龍帝があまりにも残念過ぎて落胆しているだけさ。長い間待ち望んでいたというのにアレではな、せめて禁手化でも出来れば……はぁ」
「それは今、気にすることか? 大体覇龍すら使えるお前に、禁手化した程度じゃ相手にならないだろ」
まだ安全ではないらしいが。今代の二天龍の宿主はあまりにも才能に差があり過ぎる。
「「(――――ゾクゥウウウウウウウ!!!!!)」」
その直後、俺とヴァーリに凄まじい怖気が走った。まるで心臓を鷲掴みされたような、原始的な生命への恐怖。数百年前の戦争でも、ここまでの恐怖を感じたことは無かった。
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
そして次に聞こえてきたのは、どこか硬質で体温を感じられない獣のような咆哮。俺とヴァーリはほぼ同時に、その声がする方を振り向いた。そこにいたのはヴァーリに叩き落とされたクルゼレイと高さ20メートルほどの赤黒い不定形のナニカ。
ソレは三つの血走った目玉でギョロギョロと辺りをせわしなく見回し続け、横ではなく縦に割かれた口からは人間のような歯がむき出しになっている。まるで溶けているように流動する七本の足には何かの生き物の顔が浮き出て、側面から生える触手はワームのように何かを飲み込もうと、大きく口を開いて周囲を這いずり回っている。
バケモノ。それ以外に形容のしようが無かった。
「こいつを使うつもりは、無かったのだがな……」
クルゼレイが何か言っている。
「リリス! この場の全てを滅ぼせ! 敵味方は問わない、好きなだけ暴れろ!」
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
バケモノが咆哮を上げる。すると、無数の触手が周囲に居る悪魔、天使、堕天使、悪魔祓いを敵味方に関係なく向かっていき、肥大化させた口で喰らい始めた。鮮血が舞い、一瞬で世界は地獄絵図へと変わる。まるでバケモノが自分の馴染める世界を創りだしているようだった。
―――ギュン
その存在を見た途端、強者と理解したヴァーリはバケモノに向かって飛ぶ。だが――
「グハァ!」
まるで蚊を払うかのようにヴァーリは吹き飛ばされた。そう
「ヴァーリ!」
俺はすぐさまヴァーリを受け止めるが、触れた瞬間理解する。鎧には至るところに罅が入り、ガードしたであろう両腕の部分は完全に砕けて骨も折れていた。
「ハハハハハハッ! アザゼル! 前言撤回だ! 今日は最高の日かも知れない! これほどの強敵と出会えるなど、今回の会談に参加したのは正解だった!」
そう言って再び向かおうとするヴァーリを俺は無理矢理抑えた。
「バカ動くな! アレは危険だ! 手を出していい相手じゃない!」
戦争を生き抜いてきたからこそ分かる、あのバケモノとの格の違い。アレは人外の手にすら余るものだ。ここに居る全員が手を組んだとしても絶対に勝てない、それこそサーゼクスが戦争の時の使用したあの力を使ったとしても。正面からやり合えば認識すらできず殺されるだけだ。
「クルゼレイ・アスモデウス! なんだそのバケモノは! 世界を滅ぼすつもりか!?」
あのバケモノは得体が知れない。噂から立てた予想とも違うもの。情報を引き出さないことには対処のしようがない。
「フハハハハハ!!! 世界を滅ぼすつもりか、だと? その通りだ! いずれ悪魔以外の種族は全て滅ぼすべきなのだ! こいつは誰にも止められない! アースガルズのトールだろうが、オリュンポスのハーデスだろうが、須弥山の帝釈天だろうがな。貴様なら分かるだろうアザゼル。これこそが我々真の魔王が創りだした究極の力だ!」
嬉々として喋るクルゼレイ。その言葉は頭の悪い奴が考えるような理想であるが、目の前に居る存在は確かにそれを実現させることができるだけの力を感じた。三陣営が護衛の為に連れて来た部下たちは決して弱くは無い。だが、それが何だと言わんばかりにバケモノは無差別に彼らを喰らい続ける。
部下たちがなす術もなく死んでいくが、今出てはダメだ。戦ったところで勝ち目がない。もっと情報を引き出さなければ全滅する。
「リリスと言ったか? 全ての悪魔の母と呼ばれる存在を、お前たちが創りだしたとはどういう意味だ? そんなバケモノ、悪魔どころか生物であるかすら疑わしいぞ」
「貴様に話す義理は無い。だが一つだけ言うとしたら、貴様ら堕天使、天使、そして悪魔ではコイツを相手することは不可能であるということだ」
どういう意味だ? 俺たち三種族では相手にならない? 先程、奴が提示したのはいずれも世界ランキングでトップ10に入る実力者達だ。それが相手にならない時点で、サーゼクス以外ではどうにもならないことは分かっている。だが、なぜわざわざ俺たち三種族では、と限定的な言い方をしたんだ? この場に居る者ではどうにもならないという意味を伝えたかっただけか? それとも――
思考しているだけ時間は過ぎ、部下たちは無情に殺されていく。クソッ! なにか打つ手は無いのか!
「邪魔な護衛もだいぶ片付いたな。まずは――サーゼクス! 貴様から葬ってくれる! やれ! リリス!」
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
クルゼレイの言葉に反応して、バケモノが吠える。させるかと、俺は光の槍の形成しようとするが
―――ズシャアアアアアアアアアアアアア!!!!
「クッ!?」
次の瞬間には校舎が崩壊していた。バケモノの触手がそこに集中していることから、おそらく、触手で校舎を叩き潰したのだろう。
見えなかった。気がついたら、攻撃は終わっていた。サーゼクスたちが張っていた結界は、跡形もなく消滅している。魔王二人と天使長が張った結界で対処できないなんて、冗談にしても笑えねえだろ。
―――バシュ!
直後、崩壊した校舎とは少し離れた位置の瓦礫から魔力がバケモノに放たれる。それは、俺もよく知る滅びの魔力だった。
Sideサーゼクス
「っ――クッ」
私は瓦礫を押しのけて、バケモノに向かって滅びの魔力を放つ。しかし、バケモノはそれを受けたにも関わらず、無傷で佇んでいた。
周囲の気配を探る。瓦礫の下にグレイフィア達の魔力を感じることができた。どうやら、死んではいないみたいだ。
クルゼレイが命令を言い終わる寸前に、私は今の状態で出せる最大出力の滅びの魔力で数百の防壁を造り出した。そして次の瞬間、その防壁が壊されていると察知し、向かって来た触手に全力の魔力を放ったが、そのまま殴り飛ばされた。
最初に比べて、かなり威力が落ちていたのは破壊された魔力の防壁から分かったが、そもそも自身で作った防壁が壊されなければ私でも気づかないほどの速度だった。
「フハハハハハ!!! 無様だな、サーゼクス! なにが前魔王の十倍の魔力を持っているだ! どれだけ力があろうとも、所詮偽物では本物に勝つことなど不可能なのだ!」
歓喜の声を上げるクルゼレイ。
その時、崩れた瓦礫が押しのけられてグレイフィアたちが出て来る。
「フハハハハハ!!! ? ――ふっ、無駄なことを……」
私はすぐさま、魔力弾を周囲に展開しバケモノを全方向から狙い撃つ。
私の攻撃の皮切りにグレイフィアも魔力弾を飛ばし、セラフォルーは着弾して発生した爆炎ごと相手を氷漬けにした。
「禁手化!」
「はぁ!!!」
さらにアザゼルの力が急激に跳ね上がり、ミカエルと共に巨大な光の槍が放たれる。
―――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!
氷山が粉砕して衝撃が辺りへと拡散し、学園がほぼ廃墟になる。だが――
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
やはり奴は、無傷だった。まるで攻撃など受けていないかのように、怒りすら感じられない。ただ咆哮を上げて、当たり前のように私たちの前に立っていた。
「無駄だ! こいつには光力も魔力も効かない! 貴様たちでは絶対に倒すことはできないのだ! さあリリスよ、今度こそ奴らを葬るのだ!」
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
クルゼレイの言葉に触手を含めた全ての口が開き、光のエネルギーが収束し始める。それは、奴の身体から発せられるプレッシャーからは、比較にならないほど弱々しいエネルギー量であったが、それでも悪魔を葬るにしては十分な量だった。特に本体の巨大な口から溢れる光のエネルギーは、神
「グレイフィア! セラフォルー! 生き残っている者たちを回収して、今すぐこの場を離れろ!」
「サーゼクス様、まさか!?」
グレイフィアが声を荒げる。そうだ、私は力を解放するつもりだ。今の状態で勝てるとはとても思えない。人間界への被害は甚大なものになるだろうが、これはそんなことを考慮していられる相手ではない。
―――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
四方八方から触手による光の砲撃が周囲へと放たれ、本体の砲撃は私に放たれた。私は先程よりも力を込めて滅びの魔力を放つが、押し返される。少しだけでも力を解放しないと不味い。
それに光の砲撃は、大多数が私に放たれているが何本かは別の相手を狙っている。
『harf Demension!』
「グフッ――!」
「止めろヴァーリ! こんなものを半減させたら、
少し離れたところから聞こえてくるアザゼルの焦ったような声。おそらく白龍皇が何かしたのだろう。アザゼルが創りだした光の壁が、砲撃に拮抗している。その砲撃の数は2本。そしてグレイフィア達の方向に放たれた砲撃の本数は――7本。
触手の砲撃は、それぞれが魔王クラスの威力を持っている。あの場でコレに対抗できる者はおそらく、グレイフィア、セラフォルー、ミカエルだけ。それでも4本ぐらいが限界だろう。
「クッ!」
私は光の砲撃の余波を防ぐための魔力をグレイフィア達の方に割き、彼らが対処しきれない砲撃から防ぐ。
「愚かな……」
クルゼレイが呟いた、当然だろう。この状況で周りに力を割くなど、自ら死を選ぶようなものだ。
「ぐっ――」
余波の光が身体を蝕む。今出せる出力では砲撃を押し返すことができない。それでも己が身体に鞭を打ち、最大出力で魔力を放ち続けた。
Sideイッセー
――――っ! ――っ! ―――――っ!
声が聞こえる。とても聞きなれた声、俺を救ってくれた部長の声だ。
あれ? どうして俺は倒れているんだ? なんで部長は泣いているんだ?
俺の傍には木場とギャスパーも倒れていた。木場は部長が無事だと知ると安心したような顔をする、まるで騎士として責務を果たしたと言わんばかりだ。
――ああ、そうだ。俺たちは、あの光に呑まれたんだったな。
ギャスパーを取り戻して校舎を出て、近くに居た木場と合流すると突然妙なバケモノが現れて辺り一帯に光の攻撃が放たれた。それは、悪魔としてなのか直感で理解できた。アレをまともに受けたら、部長も俺もギャスパーも木場も死ぬ。
そう感じるとアザゼルからもらった腕輪が反応して禁手化して部長の前に立ち、木場に倍加の力を譲渡した。部長は滅びの魔力を放ち、木場は以前にも作った光を喰らう魔剣を大量に創りだし、ギャスパーは神器を発動させて光の攻撃を止めようとした。
だが、ギャスパーの神器は一瞬だけ光の攻撃を止めるも、すぐに解除されて。
木場の魔剣も威力を弱めるも、全て砕かれ。
普段よりも強力に放たれた部長の魔力も、掻き消され。
俺は全員を庇うように前に出たがまとめて吹き飛ばされた。
一瞬だった、何が起こったのか分からない。ただ、部長は守れたみたいだ。だから泣かないでください部長、光のダメージぐらい死ぬほど慣れてますから。
『――っ!? 相棒、今すぐこの場から退避しろ!』
ドライグが叫ぶ。その直後、またあの光がこちらに向かって来ていた。マジかよ……。
身体が動かない。だけど動かないと部長が、木場が、ギャスパーが死ぬ! 動け! 動いてくれ!
だけど身体は動かない。避けることもできない。俺はここで死ぬのか? 嫌だ! まだ部長のおっぱいを吸えてないんだ! こんなところで……こんなところで死んでたまるかああああ!!!
「くっ、そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は自分の身体が壊れることなど考えもせず、ただ立ち上がるために全身に力を込めて叫んだ。
いくらなんでもサーゼクスたちを弱く描写し過ぎな気がしますが、全力出せない状態だし、相手は設定上は本物のバケモノなのでご容赦を。
それと、この作品のリリスの設定は次々回に明かします。