小さな二人は共に行く(リメイク)   作:麦わらぼうし

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キャラ崩壊祭り。


破滅への序章とそれぞれの思惑

 学園でグレートレッド擬きが現れた日からしばらく(少しの間、休校になっていた)、駒王学園は夏休みに突入していた。私たちを監視していた使い魔の猫は、あの日以来家に来ていない。駒王学園に居た悪魔の気配が冥界に行ったらしいので主の里帰りに付いて行ったのか、はたまた監視の必要がなくなったのか……。

 

「それにしても、グレートレッドがあんなに感情を表に出すなんてね……」

「絆がグレートレッドを変えた。グレートレッドにとっても、絆との関わりは大きなものだから」

「それで冥界が滅びかけたけどね……」

 

 私は苦笑いを浮かべながら呟いた。

 あのグレートレッド擬きが死んだあと、私たちは本物のグレートレッドに会いに行ったんだけど、今回のことを説明するとグレートレッドは物凄く不機嫌そうになって――

 

「それならば知っている。儂が見た夢の中に、それを研究している者たちが居たからな」

 

 と言うと冥界の入口がある方を向いて――

 

「儂が招いた事態だ。儂が直々に奴らを討とう」

 

 そう呟いて、冥界に向かって飛び立ってしまった。

 いや、いろんな意味で慌てたよ。急いでグレートレッドを追いかけて、着いた場所は冥界の辺境だったんだけど、そこにあった建物に向かってグレートレッドがいきなりブレスを放ったんだから……周りの被害を考えずに。

 

 すでに着弾したところだったので、オーフィスに被害が広からないよう周囲に結界を張ってもらって、グレートレッドも全力じゃなかったことから半径数千キロが灼熱地獄になった程度で済んだけど、その範囲内にいた生き物は多分死滅しただろうね。

 

 グレートレッド曰く、その建物に居た悪魔が例のキメラを造り出したらしい。死んだのは全員関係者で、周囲に居た生き物も喰い殺されて失敗作のキメラしか居なかったらしいから気にしなくていいって言っていたけど、そういう問題じゃないような……。

 

「まぁ、自分を素材に使ったキメラなんて造られたら誰だって怒るよね……」

「絆、それは間違い」

「えっ?」

 

 私の呟きにオーフィスが否定を唱える。

 

「グレートレッドは夢でキメラが作られていることを知っていたのに手を出さなかった。つまり、キメラを造ること自体には嫌悪していない」

「あ~、そう言えばそうだね」

 

 言われてみればその通りだった。私たちは同じ力を持っているアレがこの世界に来たから分かったけど、グレートレッドはもともと夢でキメラが造られていることを知っていたらしいから、キメラを造ることに嫌悪するならその時点で攻撃している筈だ。

 

「ならグレートレッドが攻撃したのは、単純に今回の事態を招いたことに責任を感じたから?」

「それもたぶん違う。我と一緒で、グレートレッドも周りのことにはあまり関心が無い」

 

 だよね。そんなことに責任を感じるなら、周りを考慮しないでブレスを放つ筈ないし。

 思い出してみれば、オーフィスに初めて次元の狭間に連れて行ってもらった時も、そんな感じで私は攻撃を受けたし。周りの被害なんて、初めから蚊帳の外なんだろうなぁ。

 

「なら、どうして?」

「おそらく、絆と久しぶりに会えたからだと思う」

「? どういうこと?」

 

 オーフィスの言葉の意味がよく分からなくて、私は首を傾げる。

 

「我と絆はそれほどでもないけど、グレートレッドにとっては十年ぶりに絆に会えたから」

「そういえば……」

 

 神様にお願いして私たちは十年の時間を飛んだ。故に私たちからしたら、以前に会ってから一年経っていない。でもグレートレッドは違う。私たちが居ない十年間、彼はひとりであそこに居たということだ。

 

「だから、久しぶりに会えたのに戦わないということが分かって不機嫌になった。その苛立ちが、今回のことを引き起こした悪魔に向かって攻撃したと推測する」

「要するに、ただの八つ当たり?」

 

 私の質問に、オーフィスはこくりと頷く。

 何というか、グレートレッドも随分と俗物的になったものだ。あくまで推測だけど。でも、そうだとしたら次に戦う時はかなり荒れそうだなぁ。次元の狭間が壊れるかも……。

 さて、グレートレッドのことを考えるのはここまでにして――

 

「それじゃあ、準備できた?」

「問題なし」

 

 私の問いかけに、オーフィスは答える。

 彼女の背中には、大き目のリュックが付いている。

 

「一応聞くけど、宿題は?」

「終わっている」

「なら良し」

 

 私たちは会話をしながらも、両手を動かして荷物をまとめていた。その理由は、前々から計画していた夏休みの旅行の為だ。

 

 神様と約束した世界を周る最初の一歩として、この夏休みに出掛けるつもりである。まぁ、私たちがその気になれば一日で世界を周ることもできるけど、別に急いで行く必要はない。まずは日本を回ってから海外に行く。夏休み終盤の方で京都にも寄るつもりである、八坂さん達には連絡済だ。九重ちゃんが、またオーフィスと会いたがっているのだとか。

 

 家を出て戸締りを確認する。全て確認して、問題が無いと分かると門前で待っているオーフィスと合流する。

 

「それじゃあ、出発ー!」

「おー」

 

 そう言って私たちは最寄り駅の方へと歩き出した。

 

 

 

Side曹操

「はぁ~。まったく、今回は散々だな」

 

 俺は溜め息を吐きながら、部屋で一人愚痴をこぼす。

 先日のレオナルド奪還計画の日。不本意なことに三大勢力と接触する結果となった。直接話すことで、彼らの性格は大まかにだが把握することはできた。

 三大勢力のトップは、プライドなどに染まっている訳ではなかったから、三大勢力の中では『まだ』まともな部類に入るだろう。だが早急に準備を整えないと、最悪の場合戦争になる。これからの行動には、さらに気を付けなければならない。

 

「随分お疲れみたいだな」

「ゲオルグか」

 

 俺がこれからのことを考えていると、部屋にローブを纏った青年が入って来た。俺たち『英雄を倣う者』の幹部、神滅具「絶霧(ディメンション・ロスト)」の所有者、ゲオルグだった。

 

「レオナルドの様子はどうだ?」

「今は安定しているが、だいぶ無茶な方法で魔獣創造を強化されたみたいだ。安静にさせておけば問題は無いが、正直これ以上神器を使わせない方がいい」

 

 最悪の場合、廃人になる――と、ゲオルグは告げる。

 それを聞いて俺は、少し安心してしまった。純粋にレオナルドが無事であったこと、これ以上レオナルドに無茶な真似をさせなくてよいこと。本人には気の毒かも知れないが、戦いから遠ざけることができるのだから。彼の神器は強力だ。しかし、やはり子供を戦線に立たせたくはなかった。

 

「今回のことは、判断を誤った俺の責任だ。神滅具を持っているからと言って、レオナルドの護衛を手薄にした」

「上級悪魔が10体も来るなんて、予想できなくても仕方ない。レオナルドも気にしなくていいと言っていただろ。それに、あの影の神器使いのお蔭で誰も死ななかったんだ」

 

 闇の大盾(ナイト・リフレクション)を持っていたアイツか。

 確かにアイツが他の奴らを影に入れてくれたおかげで、奇跡的に死者こそ出なかった。本人は相当に責任を感じているようだが。

 

「弱音や愚痴は、俺がいくらでも聞いてやる。だが、アイツ等の前では毅然(きぜん)としていろ。リーダーのお前が迷っていったら、アイツ等が不安になる」

「………そうだな。今は、これからのことを考えるべきだ」

 

 俺の目的、それは人外によって人生を狂わされる者をこれ以上生まれさせないようにすること。正直、三大勢力以外の人外は、お互いの領分だけで活動していたから問題視するようなことは少ないのだが、奴らは広く手を出し過ぎだ。

 

 歴史を見れば人間も、薬の開発の為に人体実験や動物実験はされてきた。工事のために開発されたダイナマイトは、戦争のための爆弾に使われた。危険な仕事をさせるために、奴隷を使役していた。彼らがやっていることも、長い目で見れば人間のやっていることとなんら変わらない。そして彼らは、彼らなりに平和を目指しているということは分かる。

 

 だがそれでも、俺は納得できなかった。彼らは人間より高位の力を持っている、故に人間を下に見るのは当然の対応だろう。しかし人間は、それを素直に受け入れられるほど行儀の良い生き物じゃない。彼らにとって人間は、より良い物を手に入れるために品種改良していく家畜と同じようなものなのだろう。家畜が飼い主に逆らうなど考えもしないだろうし、仮にされても不良品として殺して終わりである。

 

 だが、彼らの問題は手を先に広げ過ぎて管理が行き届かなくなっていることだ。脱走した家畜が自然の中では生きていけないからと野放しにして、野生化することを考えていない。それは生態系を歪ませて、巡り巡って彼らに害をなすことを考えていない。

 

 俺たちはそういう存在の集まりだ。神器や転生という品種改良を行われ、雑な作りの柵から外に出てしまった自然には本来いない生き物。

 

 俺はそれを、少しでも救いたかった。だが、それをすれば彼らには脅威だろう。番犬として作った高い身体能力を持つ犬が、野良犬となって群れを作っていき、それがどんどん増えていくのだから。

 

 それを知れば増えすぎる前に駆除するか、再び飼いならそうと子犬などを攫って行くだろう。野生のオオカミが懐くことはない、一度逃げ出したオオカミが犬に戻ることはない。全て始末されて、野生を知らない残った個体は再び雑な柵の中に放り込まれる。

 

 彼らはこれを永遠に繰り返している。人間を勢力に取り込み、逃げたら殺し、また新しい人間を勢力に取り込む。逃げた存在は、はぐれ悪魔やはぐれエクソシストとして危険視、駆除するようにしているが、完全にできていない。俺がやっているのは、そんなはぐれ者を集めている。いつか駆除しようと彼らが行動すると分かっているのに、群れを作ろうとしている。

 

 はぐれを救う事と、三大勢力と敵対することは必然だった。それを分かっていて俺は、彼らを見捨てられなかった。だから俺の目的とは、この負の連鎖を俺たちの時代で終わらせることなのだ。

 

 これは一種の生存競争だ。現状、向こうが食物連鎖で人間より上位におり、俺たちはその食物連鎖の中に本来いない変異種だ。彼らは本来の形に戻そうと俺たちを駆除しようとし、俺たちはその中に入り込もうと障害となる彼らと戦わなければならない。

 だが――

 

「頼むから死なないでくれよ、超越者ども」

 

 正直、三大勢力を滅ぼすだけならば、なりふり構わずやれば簡単にできた。上位神滅具を複数所持している時点で、方法はいくらでもあった。レオナルドが外れた現状でも、まだ方法は思いつく。だが、それはダメなのだ。今はまだ、他の勢力とパイプを作り、地盤を固めなければならない。

 

 今、衝突が起これば、彼らを嫌っている『英雄を倣う者』のメンバー(三大勢力の被害者)が暴走して戦争の始まりである。

 戦争が起きれば、勝とうが負けようが甚大な被害が起きる。それではダメなのだ。この世界には、彼らも必要なのだ。ただ彼らを滅ぼせば、それで終わりという単純な話だったらどれだけ気が楽だったことか。

 

「それはそれとして、曹操。天照大神から連絡がきているぞ」

「なんだ?」

「なんでも、俺たちのことを妖怪勢力の頭領たちに説明したらしい。そして彼らが直接お前に会ってみたいと言ってきたそうだ」

 

 仕事の早い神様だ……。

 俺たちは組織だ、人員はそれなりの数が居る。だが、組織を維持するためにはどうしても金が必要だ。そんな俺たちを支援してくれているのが須弥山なのだが、俺たちの中にははぐれ悪魔などの全勢力が討伐対象としている者もいる。故に表向きには独立し、俺たちで周りの勢力に信頼を築こうとしている。強者が手に入るのなら何でもいいと、俺の我儘を聞き届けてくれた帝釈天殿にこれ以上迷惑はかけられない。

 

 いざという時は、俺が独断でやったと全責任を負うつもりだ。他のメンバーは、俺の起こした問題だからと帝釈天殿が須弥山で引き受けてくれるように、色々と手筈までしてくれている。

 

 そうして色々と奔走している中、接触した日本神話勢力は『来る者拒まず』の考え方で、俺たちのことを説明したら天照大神は『その心意気、誠に天晴!』と称賛していただき、今回の日本妖怪との話し合いの場を設けてくださった。

 

「日程は?」

「○月×日だ……だが、大丈夫か? 聞くと、東の妖怪は神器所有者を嫌っていると言うが」

「天照殿が話したということは、ある程度理解のある方々だろう。出会い頭に殺されるなんてことは無い筈さ」

 

 腕試しとして攻撃はされるかもしれないが。

 

「……曹操。お前が俺たちのことを気遣ってくれていることは分かっているが、その自己犠牲的な考え方は止めろ。どうせお前、最悪の場合になったら一人で全責任を負うつもりだろ」

「さて、どうだろうな」

「とぼけるな。ここに居る奴らは、殆どがお前に救われた者たちだ。第一お前が居なくなったら、アリスちゃんはどうするんだよ」

「今は俺の他にも、沢山の兄や姉がいる。俺一人が居なくなったところで問題ないさ」

「この鈍感バカは……」

 

 俺が言うと、ゲオルグは呆れたように溜め息を吐いた。

 

―――ドォオオオオン!

 

 その時、近くで何かの爆発音が起きた。

 

「一体、なにごとだっ!?」

 

―――ダダダダッ!

 

「大変だ!」

 

 直後、部屋に何本も剣を携えた白髪の青年が駈け込んで来る。『英雄を倣う者』の幹部、ジークフリートだった。

 

「なにがあった!?」

「また、黒歌とジャンヌが喧嘩しだした!」

 

 それを言われた途端、俺はガクッと肩を落とし、ゲオルグは「またか……」とため息交じりに呟いた。

 

「何とかしてよ、曹操!」

「無茶言うな……」

 

 そう俺は答える。黒歌とジャンヌは仲が悪くて、よく喧嘩するのだ。もはや喧嘩は日常茶飯事である。

 

―――ダダダダッ!

 

「大変です!」

 

 今度はとんがり帽子を被った、金髪の少女が入って来る。同じく『英雄を倣う者』の幹部、ルフェイ・ペンドラゴンだった。

 

「黒歌さんとジャンヌさんが喧嘩を始めて――」

 

 そこまで聞いて、ジークと同じことを伝えに来たのだと把握し「分かっている」と声に出そうとした、が――

 

「その喧嘩を止めようとレオナルドくんが、病み上がりで魔獣創造を使って倒れました!」

「なんだとっ!?」

「そして制御を失ったアンチモンスターが、村の方に向かっています!」

 

「「「なにぃいいいいいいい!?」」」

 

 まさかの事態に、ゲオルグとジークまで叫んだ。

 

「今、兄さんが何とか食い止めているんですが、ジャンヌさん用に聖剣に対して耐性を持っていて……手を貸してください!」

「分かった。ゲオルグ、ジーク、行くぞ!」

「「了解!」」

 

 その後、何とか魔獣を倒すものの、黒歌とジャンヌへの説教は深夜まで続いた。レオナルドも廃人にはなっていないようだが、今後不用意に神器を使用しないように言い付けておいた。

 

 

 

Side帝釈天

「HAHAHA! あのクソガキの方は、相変わらず愉快なことになっているみたいだな」

 

 俺は、曹操からの報告を聞いて豪快に笑った。まったく、英雄としての心得を説いたつもりだったのに、こんな夢想家になるとは思わなかった。

 

「まぁいい、どれだけ拒んだとしても、力を持っている以上、そこには争いの火種がある。お前の理想、精々足掻いてみな」

 

 俺は武神だが、戦争をしたい訳ではない。武神として、純粋に力が欲しいだけだ。最強の神である破壊神シヴァを超える、武の神として生きているのなら頂点に立ちたいと思うのは当然のことだ。

 

 そして、てっとり早く強者を生むには戦乱を起こすのが一番というだけの話だ。本物の戦争を体験するのと、しないのとでは絶対的な差がつく。

 

 戦乱において強者が生まれるのは、生き残るために相応の覚悟が必要だからだ。主への忠義、大切なものを守る意思、己の理想を成し遂げようとする欲望。なんであれ、一騎当千の力を持つ者には、譲れないものがある。理由は何でもいい、ただその理由のために全てを投げ捨てる覚悟ができて、ようやく強者としての入り口に立てる。

 

 アイツには素質があるのに、その覚悟がなかった。だから英雄としての思想をアイツに解いたんだが、俺の言葉ではなく自らの意思を主張するようになるなんて嬉しい誤算だ。その点においては、あの聖母の微笑の小娘に感謝だな。

 

 あともう少しだ。アイツの精神はすでにギリギリ。もう一つ小さな切っ掛けが起これば、アイツは本物の強者として完成する。できなかったら、その時はその時だ。運が悪かったと諦めて、また次を探せばいい。そもそも、三国志の曹操の子孫なんて、探せばかなりの数が居るのだ。強者になれる素質のある奴ならば、別にアイツである必要はない。

 

「相変わらず、考えが甘いのぉ」

 

 そう言って俺に話し掛けてきたのは闘戦勝仏こと、初代孫悟空だった。

 

「なにしに来たんだ。お前は、俺のやることには興味ないと言っていた筈だが?」

「なーに。実は先日、うちの大馬鹿もんが帰って来てのぅ……」

 

 相変わらず軽い口調だ、故に先兵としてこき使っているんだけどな。

 コイツの言う大馬鹿もん……美猴だったか? 確か、修行が嫌だと言って家出したと聞いていたが、戻って来たのか。だが……。

 

「その様子だと、なにか厄介ごとも一緒に持ってきたみてぇだな」

「察しがいい、儂も久し振りに頭を抱えたぐらいじゃ」

 

 こいつは先兵だが、須弥山の中では屈指の実力者である。それが頭を抱えるとなると、力で解決できない政治関係か? ………いや、違うみたいだな。

 

「それは、先程からここに向かって来ている邪悪な気配と関係があるのか?」

 

 と、そこまで言って一人の男が部屋に入って来た。金色と黒色が入り乱れた髪で、双眸は右が金で左が黒のオッドアイ、黒いコートに身を包んだ長身の男だ。

 

「何しに来たんだ? いや、そもそもなんで貴様が生きている? クロウ・クルワッハ」

 

 そう。部屋に入ってきたのは、最強の邪龍と言われるクロウ・クルワッハだった。こいつは、確か昔に滅ぼされたはずだが、目の前に居るこの気配は間違いなくクロウ・クルワッハのモノだった。

 

「なんでと言われてもな。他の邪龍と違って、俺は自分から住処を去っただけで滅ぼされた訳ではない。それと、俺が用のあるのはそちらの初代の方だ」

 

 クロウ・クルワッハがそう言うと、クソ猿が嫌な顔をする。

 

「なんじゃ? お主は玉龍(ウーロン)のところに行ったんじゃなかったかの?」

「教えられた奴の住処に向かったが、生憎留守のようだったのでな。一度戻ったら、お前の息子にこれを渡すように頼まれたから態々来たんだ」

 

 そう言って、クロウ・クルワッハはクソ猿に向かって手紙のような物を投げる。

 

「………」

「読んでいいぞ、攻撃する気はない」

 

 クロウ・クルワッハの言葉に、視線だけこちらに向けるクソ猿。俺は読むことを許可する。そして手紙を広げると。

 

「まったく、アヤツは……」

 

 そう溜め息を吐くと、一瞬のうちに手紙を燃やした。

 遠目で『旅に出る』の文字が見えたことから、また家出でもしたのだろう。

 

「ついでに金をいくらか持ち出していたぞ。今回のように、行き倒れて俺に運ばれるなんてことはないようにするとか言っていたな」

「そんな理由で、わざわざ須弥山まで来たのか?」

「ついでだ。先ほども言ったが、俺が会いに来たのは玉龍の方だ。同じドラゴンとして意見を聞きたくてな」

「何の話だ?」

 

 どうにも先程から、こいつに戦闘の意思が見られない。本当に、ただ話がしたいだけのように見える。だからと言って警戒を解くようなことはしないがな。

 

「お前たち程の実力者なら、十年前に起きたアレのことは知っているだろう?」

 

 なにが、とは聞かなかった。『十年前』というキーワードで、長い年月を生きた俺に深く印象付けられた出来事はアレしかなかったからだ。

 

「次元の狭間で起きた戦いか?」

 

 十年前に起きた、次元の狭間全体を揺らすほどの強大な力の放出。以前から、グレートレッドが次元の狭間で力を放出するということはあった。約一年に一度、定期的に起こるそれはグレートレッドの癇癪のようなものと考えられ、その時のグレートレッドに近づいてはならないというのは全神話体系の暗黙の了解とされていた。

 

 それが十年前、いつもと段違いの力の放出が起き、それ以降グレートレッドの力の放出がピタリと止まった。原因究明のために向かった各勢力は、そこに残された力の残証から、あの無限の龍神オーフィスが関係しているということが結論付けられたという話だ。

 

「その通りだ。俺は、あの時に何が起きたのか。冥界や人間界を行き来しながら調べているんだ」

「何故そんなことをしている? 世界最強のドラゴンを調べて、何を企んでいる?」

 

 邪龍とは、そういう存在だ。世を惑わし、陥れ、破滅へと導く。故に全勢力で危険視され、討伐対象となるのだ。

 だが、クロウ・クルワッハは俺の問いに首を横に振る。

 

「別に何も……ただ、同じドラゴンとして気になったのさ。癇癪を起したグレートレッドに、たまたまオーフィスが鉢合わせたのか。それとも以前までのグレートレッドの癇癪も、オーフィスと関係があるのか。ただ純粋に知りたい、最強のドラゴンという存在を、な」

 

 そう言ってクロウ・クルワッハは、凶悪な笑みを浮かべる。実に邪龍らしい。

 

「生憎、玉龍にそんなことを聞いたところで分からねえと思うがな。あいつは、龍王の中で一番の新参者だ」

「玉龍には、あの事件の真相を聞きに来たわけじゃない。ただ今回の三大勢力が和平会談を行った日のことについて、どのような見解を持ったか聞きに来ただけだ」

「なるほど」

 

 曹操たちが接触したあの日、決して他者の前に姿を現さなかった無限の龍神オーフィスの力が全世界に放たれ、同じ日に次元の狭間を泳いでいるだけのグレートレッドが冥界に現れた。そして今まで無害とされてきたグレートレッドが、明確な意思を持って冥界の一部を焼き払ったと聞く。

 この出来事に、各勢力は色々と慎重になっていることだろう。攻撃を受けたのは悪魔領だったことから、三大勢力の中でも特に悪魔に対して念入りに調査がされている筈だ。

 

「質問は終わりか? なら俺はもう一度玉龍の所へ訪ねて来るとするか」

「このまま帰れると思っているのか? いくら敵対する意思がないとはいえ、一勢力として邪龍を見過ごすなどできないことぐらいは分かっているよなぁ?」

「戦るつもりか? 俺はそれでも一向にかまわないが」

 

 お互いに構えることなく会話を続ける。

 確かに、この部屋に来た時点まで戦闘の形跡が見られないところを考えるに、奴の実力は相当上がっていることは見て取れる。負けるつもりは無いが、今の俺でも奴の力の底が測り知れない。まるであの忌々しい天龍どもを前にしているようだ。

 

「それに、貴様は戦乱を望んでいるのだろう? ならば、邪龍の俺を逃がしたところで何ら問題はあるまい」

「……………」

 

 確かに、その通りである。戦いを起こす以上、どうしても敵は必要だ。そして、戦いに置いて敵は悪でなくてはならない。その点で言えば、曹操たちのような人間の敵に悪魔は都合が良かった。だが、何も敵が悪魔である必要はない。ドラゴン、それも邪龍など敵として実に好都合だ。

 

「いいぜ。そちらから危害を加えなければ、こちらも手は出さないと約束しよう」

「そうか、つまらん……」

 

 奴の反応を見るに、戦闘狂であること自体は昔と変わらないようだな。

 そう言ってクロウ・クルワッハは部屋を出て行こうとする。

 

「一つ忠告しておく」

 

 そして扉に手を掛けたところで、奴はこちらを振り向いてそんなことを言ってきた。

 

「俺のような、自由な存在ならともかく。お前のような組織の長は、無闇に力を求めすぎない方がいいぞ?」

「……何が言いたい」

「今回の襲撃のことだ。三大勢力の行動が、どういう理由か最強の龍を動かす結果となった。大きな力が動けば、自ずと世界に変動が起こる。その時、部下の身を預かるものとして、お前の行動で何が得られ、何が失われるか。一度、よく考えた方がいい」

 

 そこまで言うとクロウ・クルワッハは部屋を出て行った。

 

「アイツが本当に邪龍か疑いたくなるのぅ。さて、儂もさっさと行かねば。行儀の悪いバカには、ちぃとキツイ仕置きが必要じゃな」

 

 そう言うと最低限の礼儀を済ませて、クソ猿も部屋を出て行った。

 それにしても、力を求め過ぎない方がいい、か。奴の口ぶりから察するに、今回の事態について何か知っているようだな。そして、おそらくこれだけでは終わらず、何かが起こることを予感している。それによって、三大勢力がどのような結末を迎えるのか見ていろ、ということか。

 

「面白い。なら、高みの見物と行こうじゃねえか」

 

 誰も居ない部屋の中、俺はひとり呟いた。

 

 

 

Side???

 ここは数日前にグレートレッドによって焼き払われた冥界の辺境。未だにその炎は勢いを衰えることなく燃え続けている。この地に住んでいたのは旧魔王派と呼ばれる悪魔と、その悪魔が造りだしたキメラだったが、今はただの灼熱地獄となっていた。調査をするにしても、燃え盛る炎によってここに訪れた者はまだいない。

 

―――ザザッ

 

 そんな灼熱の世界の中、もはや形を保つのがやっとのような高温の瓦礫が動く。

 

―――ザッ、ぐちゃ

 

 瓦礫が持ち上げられ、地面に捨てられると共に形が崩れた。そこに居たのは、一体の異形。

 身体中が高温によって焼け爛れ、背中から生えているボロボロの12枚の黒翼と、途中で千切れている尾を生やした一体の悪魔。

 

「クソッ! クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!」

 

 歯を食い縛り、悪魔は叫ぶ。彼の名が冠する意味は『傲慢』であるが、その姿はから感じられるのは圧倒的な『憤怒』であった。

 

「真龍! グレートレッド! 絶対に、殺す!!!」

 

 かつての無機質な瞳に宿る凶悪な殺意。だがそれは、あまりにも身勝手であった。何故なら、グレートレッドの皮膚を用いてキメラを造り出したのは、紛れもない彼なのだから。

 だが『傲慢』である彼には、その姿が相応しいのかもしれない。

 

「絶対に、ぶっ殺す!!!」

 

 叫んだ悪魔は、次に考えた。

 どうすれば、世界最強の龍を殺すことができるのか。研究をしていた彼には、グレートレッドの強さを良く理解していた。故に、どうすれば奴を葬れるかを考えた。

 そして、一つの答えを導き出した。

 

「そうだ……貴様は、ドラゴンだったな」

 

 そう呟くと、今度は歓喜の声を上げた。

 その答えに辿り着いたのは、彼が聖書で『リリン』という名で刻まれた存在だったからか、それともただの偶然かは分からない。だが、それは確かにグレートレッドを倒すことができる可能性のある存在だった。

 

 だが、同時に問題もあった。

 

「今のままじゃ、時間も人手も足りないな……」

 

 彼を誘った番外の悪魔(エキストラ・デーモン)も含め、この地に住んでいた旧魔王派の悪魔は死滅してしまった。グレートレッドが手加減していたとはいえ、その炎に耐えることができたのは、彼が超越者という規格外の存在であったからに他ならない。

 

 そして彼自身も、己の身体の状態を理解していた。例え『フェニックスの涙』を使ったとしても完治はできない。死期まで、そう遠くないということを。

 

「最低限で良い……奴らの注意を逸らすことができれば、あとは僕ちんが……俺が全てやってやる!」

 

 そして彼は考える、一番利用しやすい者は何か。そして導き出したのは、皮肉にも彼と同じ種族と、その神話体系によって被害を受けてきた者たちだ。彼らを扇動し、利用する。

 

「一ヶ月、が限界だろうな」

 

 彼の存在を主張する12枚の黒翼が羽ばたき、周囲の炎が掻き消される。その光景はまさしく、地獄の悪魔そのものだった。

 

「ウヒャヒャヒャ! ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 そして彼は灼熱大地を蹴り、冥界の空を飛んだ。

 




 最後に出てきた悪魔は原作キャラです。
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