楽しい時間というものは、あっという間に過ぎてしまうって本当だったんだね。気がつけば、すでに夏休みもあと少ししかなくなってた。それで現在、私たちは京都の八坂さんの家に来ている。
流石に一勢力の長と言われるだけあって、八坂さんはよく出かけていた。というのも、この前、私とオーフィスとグレートレッドが起こしたことに対して他勢力との会議が多いらしい。取り敢えず、ごめんなさい……。
八坂さん曰く、グレートレッドが攻撃した冥界――特に悪魔領は危険視されて、三大勢力以外は彼らとの和平を見送っているとかなんとか。
うん、その方が良いと思う。今、冥界に行ったりしたら最悪またグレートレッドから八つ当たりされかねないからね。冗談抜きで死ぬよ。
そして私たちは今――
「あがり」
「む~、負けたのじゃ……」
「まぁ、仕方ないよ」
人生ゲームをしています。とは言っても普通の人生ゲームではなく、ここの三人で作った手作りの人生ゲームだけどね。書き込むのが大変だから、イベントマスを作って、止まった人がお題のカードをランダムに引いて実行するという単純なものだけど。
ちなみに、ここに居る三人とは私とオーフィスと、八坂さんの娘である九重ちゃんだよ。10年前は子ギツネだったのに、大きくなったものだ。
「むぅ~、誰じゃ! 『スタートに戻る』などというイベントを書いたのは!」
サッ、と顔を差逸らす私とオーフィス。
九重ちゃんは運悪く、最後のイベントマスで『スタートに戻る』を引いてしまったのだ。おかげでトップからビリに転落。しかも、このゲームは罰ゲーム有りでやっているので、かなり悔しそうだった。
「何故二人とも顔を逸らすのじゃ! さては、二人とも書きおったな!」
「「そんなことない(よ~)」」
「絶対に嘘じゃ!」
というように私たちは、すでにお互い軽口で言い合えるぐらいには打ち解けられていた。春に来たときは、客人という形でかなり他人行儀だったのだけど、今では、こうして自室に連れて来てくれるぐらいである。
「はぁ~。それで、罰ゲームの内容はなんじゃ?」
「そうだねぇ~、一発芸なんてどう?」
「一発芸か……よし、今から美遊殿に
―――ドロン。
そんな音と共に、大量の煙が部屋に充満する。けむい……。
「どうじゃ!」
そして煙が晴れると、自信満々の仁王立ちでオーフィスの姿に化けた九重ちゃんが居た。
うん……姿は確かにオーフィスなんだけど……。
「体色が変」
「なぬ? ――っ!? ホントじゃ!」
「どこかの星の人みたいだね」
「ドラグ・ソボールのアレ」
オーフィスの言葉に『確かに』と心の中で納得する。
ガクッ、と落ち込む九重ちゃんを励ます。けど、狐の妖怪が変化に失敗っていいのかな? まぁ、10歳だし仕方ないのかもしれないけど。
そんなこんなでゲームを再開。ずっと同じゲームだと飽きるので、途中に花札なんかもした。そんな中、
「(じ~)」
「なんじゃ、美遊殿?」
なんか仕切りに九重ちゃん、というより九重ちゃんの着ている巫女服をオーフィスが見ていた。
「巫女服、着てみたいの?」
そう聞くとオーフィスはコクリと頷く。
「そうなのか? なら、いくつか予備があるから着てみてはどうじゃ?」
「いいんじゃない? 着てみなよ美遊」
「ん、着る」
という訳なので、私は一度部屋を出―――
「絆も着てみるか?」
「私が男だってこと、話したよね?」
「……あっ」
この反応、忘れられていたようだ。
「大丈夫、絆もきっと似合う」
「いや、美遊。似合う似合わない以前に、異性が着ていた服を着るのは倫理的にアウトだよ」
「? 我が初めて絆の家に行った時、絆は自分の服を我にくれた」
「いや。アレ、私まだ着てなかった奴だから」
というか、よくそんな昔のことを覚えているなぁ。
「ふむ。二人の馴れ初め話か、聞いてみたいぞ」
「ダメ。アレは、我と絆だけのモノ」
「そうなのか? むぅ~、でも気になるのじゃ。さ、触りだけでも教えてくれぬか?」
「ダメ」
二人が論争を始めたので、私はさっさと部屋を出た。それにしても―――
「私たちだけモノ、か……」
私はオーフィスの言葉を反芻する。まぁ、確かに私たち以外はあの場に居なかったと思うけど、そんなに大切に覚えてくれているとはね。
「おや、絆様? このようなところで、何をしているのですか?」
そんなことを考えていると人、ではなく妖怪に会ってしまった。声が聞こえた方に目を向けると、そこに居たのは九重ちゃんの侍女である、狐の耳と尻尾を生やした女性がいた。
「二人が着替えをしているので、待機しているだけですよ……九重ちゃんに何か御用ですか?」
「えっ? あ、はい。先程、八坂様がお戻りになると連絡を受けたので、ご報告にと」
「ああ、日本神話会談でしたっけ?」
今日は日本神話の神々と東西南北の妖怪たちが一堂に会して、何かを決める会議を開いているらしい。そのため、今朝も八坂さんは留守だ。龍脈の維持の為に、すぐに戻って来るって聞いているけど、こんな頻繁に京都を離れて大丈夫なのかな?
「裏の日本のトップ勢が一堂に会するなんて、いろいろと大丈夫なんですかね……」
「何事もなく終わったそうですよ?」
「そうですか。まあ、難しいことはお偉いさん方に任せます。そもそも人間の私が関与することではありませんしね」
「八坂様とご友人という時点で、十二分に深い関わりを持っていますよ……」
私たちの関係って『友達』って認識なんだ……別にいいけど。
「絆殿、もう入って良いぞ」
後ろの襖から九重ちゃんの声が聞こえてくる。
「りょうか~い、開けるよ~」
そう言って私は襖を開けて、中に目を向ける。そこには――
「絆、どう?」
九重ちゃんとお揃いの巫女服を着たオーフィスがこちらを見て、そう言った。
「……………」
「絆?」
「どうしたのじゃ?」
二人が首を傾げるが、私はなかなか声を出せなかった。
……なんだろう、この言いようもない感覚は。
純粋に似合っていて可愛いと思う。けど、もっとこう、強い衝撃みたいなものを受けたというか……見ているだけで、自分だけ別の世界に居るみたいな気になって……。
なんか、上手く言葉にできないや……。
「……似合っていて可愛いよ。なんか本物の巫女さんより、神秘的な感じがする」
「ん」
相変わらず表情は変わらないけど、私には彼女が嬉しそうにしているのが分かった。
「九重ちゃん。しばらく借りていいかな? 美遊も気に入ったみたいだから」
「そうなのか? 私には変わらないように見えるが……沢山あるから構わないぞ」
「ありがとう。ほら、美遊もお礼言って」
「九重、感謝する」
「おおう、初めて名前を呼ばれた気がするのじゃ!」
九重ちゃん、凄いなぁ~。オーフィスは興味のないモノだと、とことん無頓着だから、私とグレートレッド以外の名前を呼ぶところを見るのは私も初めて見た。記憶力はいいのに、覚える必要が無いと感じたモノは完全無視だからね。
「失礼します。姫様、八坂様から連絡がございました」
「母上から? 申してみよ―――」
九重ちゃんが侍女の人から先程のことを説明され、出迎えに行くことになったので、私とオーフィスも一緒に付いて行くことにした。
「美遊ちゃん、久しぶり!」
「誰?」
「……えっ?」
目の前で金髪の少女が元気よくオーフィスに挨拶をするが、当の本人は疑問符を浮かべて聞き返した。
「えっと、アリスです。1ヶ月ぐらい前に駒王町の公園で会ったんだけど、覚えてない?」
「?」
「あぅぅ……」
首を傾げるオーフィスを見て、完全に覚えられていないことを理解したアリスちゃんは項垂れた。あらら……。
「久し振りだな、絆ちゃん。君は、こちら側の人間だったのか……」
「お久し振りですね。曹操さん、ゲオルグさん」
私は目の前に居る二人に挨拶する。
どういう訳か、八坂さんと一緒に曹操さん達も転移術式の中から現れたのだ。アリスちゃんはオーフィスを見つけると、すぐにこちらにやってきたが、曹操さんとゲオルグさんは少し驚いた表情をしていた。今はもう落ち着いているけどね。
生憎、黒歌さんは居ないようだ。代わりに剣を携えた白白の青年、レイピアを携えた金髪の女性、2メートル超えの男性が居た。全員、異物が持ちだね。それと……今はいいや。
「なんじゃ? 絆は曹操たちと知り合いじゃったのか?」
「知り合いと言っても一日会っただけで、裏に関わりが無いと思われていたようですけどね」
私の言葉に、なんとも微妙そうな顔をする曹操さん達。まあ、気づかれないように配慮したのは私なんだけど。
「君は妖怪勢力だったのか?」
「いえ。ただ昔から、あの土地に住んでいるだけの人間です。どの勢力にも所属はしていません」
「うむ。本人曰く、1億年以上前から住んでおるらしいぞ」
「「……………は?」」
八坂さんの言葉に、ゲオルグさんまで呆けたような顔をする。
「あはは。これでも私、すっごい長生きしてるんですよ」
「……そんな貴女が、なぜ学校になど通っているんですか? それも悪魔が経営しているような……」
「ん~? まあ、暇つぶしみたいなものですね。悪魔は興味ないから接触していません。それと、前の話し方で結構ですよ。そのほうが、こっちも話しやすいですから」
「分かりま――分かった」
咄嗟に言い直す曹操さん。私は、かなり気楽に生きているからね。敬語を使われるようなことは何もしていないよ……言っていて悲しいなぁ。
「ところで、黒歌さんは来てないんですね。彼女からは、悪魔の他にも妖怪の気配を感じたんですが」
「……そこまで見破られていたのか。生憎、黒歌は冥界に行ったよ。あの妹の子に呼ばれてな」
どこか呆れたように曹操さんは言った。
「あぁ、すまぬが話は後にしてはもらえぬか? 妾と曹操は大事な話があってな」
「そうですか。では、私たちは退出しますね。美遊、行くよ」
「ん」
「……あっ」
私がオーフィスと一緒に部屋を出ようとすると、話をしていたアリスちゃんが寂しそうな声を出した。
「…………アリス、行っていいぞ」
「っ! うんっ!」
嬉しそうに返事をするアリスちゃん。曹操さんは、やっぱりお兄ちゃんだね。
「何人かはアリスに付いて行ってくれ」
「じゃあ、僕が」
「ジーくんが行くなら私も行くわ。ヘラクレス、アンタも来なさい」
「二人いれば十分だろ。俺は子守なんてできねえよ」
ヘラクレスと呼ばれた男性が吐き捨てるように言う。
「どうせ脳筋のアンタが居ても意味ないんだから、いざって時に私たちの肉盾にでもなりなさい、って言っているのよ」
「んだと……!」
ヘラクレスと呼ばれた男性が、女性を睨みつける。一触即発、まさにそんな空気になった。
「もう、ジャンヌさん! ヘラクレスさんに失礼だよ!」
そんな中、アリスちゃんがジャンヌと呼ばれた女性に向かって怒る。少し驚いた。なんというか、怒るよりもオロオロと狼狽えるような印象を受けていたからだ。
「ごめんなさい、ヘラクレスさん」
「……なんでお前が謝るんだよ」
「私が、我がままだから。私がいい子だったら、ヘラクレスさんは嫌な思いしなくて済んだんだもん」
「……お前は気を追い過ぎなんだよ。ガキはガキらしく遊んでろ」
「うん、ありがとう。大丈夫、私だって自分のことぐらいなんとかできるから」
そう言って私たちの方に来るアリスちゃん。って、なんで?
「絆ちゃん、一緒にお話しよ!」
「………あぁ、そう言えばそんな約束してたね」
以前会った時の別れ際に、今度会ったら話をしたいとか言われたっけ? 別に構わないけど。
「母上、私はここに居た方が良いですか?」
「いや、どうせだから彼らに京を案内してやるといい。できるか?」
「もちろんじゃ!」
「ふむ。ではトツ、カラス天狗たちと何人か一緒に付いていけ」
「承知いたしました」
あっ、トツさん居たんだ。全然気づかなかった……周りが濃すぎる。
「アリス殿。京を案内するから、私と一緒に行かぬか?」
「えっ、でも……」
アリスちゃんが私の方を見ながら、困ったような顔をする。
「別にいいよ。観光でもしながらでも話はできるし――」
どうもそうして欲しいみたいだしね……。
「そ、それじゃあ。お願いします」
「任せるのじゃ!」
そうして私たちは部屋を出た。
「ヘラクレス、アンタはどうするの?」
「――――チッ、分かったよ。行ってやるよ、お前こうなること分かっていて言っただろ」
「なんのことかしら?」
「……性悪女」
後ろから、そんな声が聞こえて三人が付いてきた。仲が良い……ようには見えないけど、大丈夫かな?
「なんか僕、空気だね……」
「何を言っているのでござるか?」
白髪の青年が何かって、トツさんが首を傾げている。本当に何を言っているのだろうか、あの部屋で最も空気だったのは貴方じゃないよ。
ねぇ……すっごく特徴的な頭をしてる、ぬらりひょんらしき妖怪さん? 私は、あの部屋で存在感を消していた妖怪に心の中で呼びかけた。
Side ヘラクレス
日本神話会談とやらに護衛で呼ばれた俺だが、それも終わってアジトに帰ろうとしたところで京都妖怪の長である八坂という九尾の狐に招待された。何の意図があるかは知らないが、曹操はこれを了承し、俺たちは今京都に来ている。
俺は護衛のために来たんだが、なんでガキのお守りをすることになったのだろうか? 肩に乗るな、ガキども。
金閣寺だか清水寺だか見たところで何が楽しいのか分からん。恋占いの石とやらで性悪女が躓いてスっ転んだのは笑ったが。
「お疲れ様です。ヘラクレスさん、で合っていますか?」
「あぁ?」
声を掛けてきた方に振り向くと、そこに居たのは九尾のガキと一緒に居た銀髪のガキ……いや、あいつらが言うには一億年以上生きているらしいが、そいつが居た。
「アンタか、悪いが言葉使いは許してくれ。敬語なんて、考えるだけで虫唾が走るんでな」
「そのままで構いませんよ、私は敬われるほどできた人間ではありません。一億年以上生きているモノが、人間と言っていいか分かりませんが」
あん? こいつ人外じゃないのか? いや、気配は紛れもなくただの人間だ。妙な人間もいるもんだ、仙人って奴か?
「俺になんか用か?」
「いえ。私が居ると美遊の代わりに会話をしてしまうので、一時的に離れただけです。ようやく私以外に名前を憶えてくれたので」
……よく分からんが。美遊っていうのは、こいつと一緒に居た黒髪のガキのことか。無表情の割には、妙な感じがするな。言葉にしろと言われても、なんて言えばいいのか分からないが、普通じゃないのは確かだ。
「アンタ人間なのか?」
「生物学上は人間ですよ。ただ精神的にはと聞かれたら、私は首を縦に振ることはできません。長く生き過ぎた所為か、私は1日に1回ほど精神状態を整えないと発狂するレベルまで記憶を蓄えてしまいましたから」
何言ってんだこいつ? まあ、俺から見たら黒髪よりも、こいつは人間だ。それだけ分かればいい。
「なあ、長生きしてるんなら答えてくれねぇか? アンタは俺たちのことをどう思う?」
「む? 『俺たち』とは、異物を持っている貴方たちのことですか?」
異物? ああ、神器のことか。確かに、本来人間には無い物なんだから異物と言えなくもないな。
「そうだ。精神的に人間じゃないアンタから見て、俺たちはどう思う? 怖いか? それとも気持ち悪いか? あるいは哀れか?」
皮肉を含めて俺は聞いた。俺は、自分の持っているこの力に対して何かを思ったことはない。だが、アジトに居るような奴らは気味悪がられたというのが大半だ。俺はそういう奴らは問答無用でぶっ飛ばしたが、それは俺が英雄の魂を持っていたからできたこと。
普通はできない、できてもやろうとはしない。他と違うことを一番恐れるのは、他の誰でもない
孤立し、周囲は全て敵となり、異物は排除しようとされる。バケモノを排除しようとする。彼らは
そんな俺たちは、自身を人間と認められないコイツにはどう見える?
俺の言葉を聞き、こいつは何の躊躇いもなく答えた。
「どうとも思いませんよ。あなた達は『少し個性の強い存在』……それだけです」
「………は? 個性だと?」
あまりに予想外の答えに、俺は聞いた言葉を聞き返してしまった。
「人間を基準で言うのなら、足の速い人もいれば遅い人もいます。裕福な家庭に生まれた者がいれば貧しい家庭に生まれた者もいます。私にとってはその程度です。人間も、人外も、異物持ちも、私から見ればそれぞれの個性を持った存在でしかありません」
「………つまり、俺たちは人外どもと同じだって言いたいのか?」
無意識に己の握る手が強くなるが、コイツは首を横に振った。
「私にとっては、人間も人外も変わりません。例えばですが、あなたの前に全長15メートルの蛇の妖怪が現れました。あなたはどう思いますか?」
「15メートルの蛇の妖怪? そりゃ驚くが、人外である以上仲良くはしないだろうな」
俺は人外が嫌いだ。そんな人を食いそうな妖怪なんて、許可が下りればいつでも殺すだろう。
「今、あなたは妖怪のことを疑いませんでしたね?」
「あ? なんか変だと思うようなところあったか?」
蛇の妖怪は人を襲わないとか言われているのか? どちらにせよ人外である以上、俺は嫌うと思うが。
「私が生きてきた昔。大体今から6000万年前ぐらいは、それぐらいの蛇が普通の生物として存在したんですよ。妖怪ではなく」
「はぁ?」
「安珍・清姫伝説を知っていますか? 裏切られた清姫という少女が怒りで大蛇となって人を焼き殺すお話です。その画に清姫は人間の姿をしています。さて、何も知らない一般人の前でこの二つを並べた時『妖怪だと思うものはどちらか?』と問われれば、あなたはどのような返答がされると思いますか?」
「それは……」
その清姫とかいう奴が大蛇の姿をしていれば、清姫は妖怪に見える。しかし、人間の姿をしていれば、ただの巨大な蛇が妖怪に見えてしまう。少なくとも、俺が最初に目にしたら、そう考える。
「そういうものを見ていると、もういちいち分けて考えるのが面倒なんですよ。だから相手が人間だろうが、人外だろうが『そうなんだ』程度のもので、私にとっては大した差がありません。
ただ私にとっての人外に位置するものは、動物や植物、昆虫、菌類に至るまでの人型に当てはまらない有機生命体であると決めているだけ。神話上の生き物が有機生命体かどうかは分かりませんが、姿を変えられるような存在は不定形生物なので人外です」
「……………そうかよ」
とりあえず、俺たちをバケモノとして見ていないことは分かった。だが、それと同時にハッキリした。コイツは、俺が嫌いなタイプだ。
一見、誰でも分け隔てなく見ているようだが、コイツは本質的には誰一人として相手を見ていない。まるで、本の登場人物の特徴を覚えているように、相手の存在の特徴を覚えているだけだ。
神の視点――なんてものじゃない。機械の視点だ。ただ物事を円滑に進めるためのプログラムのように、感情を無理やり殺している。本当に、腹が立つ。
「ただ、当然例外もあります」
――――――――――なに?
「私にとって、特別に該当ずる存在が2つだけあります。方向性は違いますが、私にとって分けて考えるモノは、その2つと、それ以外です。ですから、私には貴方たちもそれ以外も何1つ違いがあるとは思いません」
……………どうやら俺は、とんでもない勘違いをしていたようだ。コイツは確かに狂っている、ただしこれは黒歌が曹操や妹に向けるような、周りが見えなくなっているだけの、ただのバカだ。
「その2つってのは、お前と黒髪のガキのことか?」
「いいえ、私は含まれていません。私の言う2つは、美遊と、ある友達のことです。私にとって彼女らは特別です」
「あ~はいはい。ごちそうさま。カップルの惚気を聞くのは間に合ってるんで止めてくれ」
「カップル? 誰がですか?」
俺の言葉に、コイツは何を言っているんだという顔で首を傾げた。
「アンタと黒髪のガキに決まっているだろ。うちにも似たような奴らが居るんだよ。惚気は、カップル同士でやってくれ」
「私と美遊はカップルではありませんよ?」
「あんな幸せオーラ全開で言われても、一寸たりとも説得力ねえよ! こっちも言っただろ、うちにも似たような奴らが居るって。アンタが、あの黒髪のガキを大好きなことなんか丸分かりだ」
「大好きなのは当然です、家族ですから」
「アンタの向けているのは家族愛じゃねえよ。異性に恋した女のそれだ」
「失礼な、私は男です」
「………………すまん、耳がおかしくなったようだ。今なんて言った?」
何か、おかしな言葉が聞こえたような……。
「やっぱり、私のこと女だと思っていたんですね。私は生ませた時から正真正銘の男性です。まあ、私も女っぽい見た目だということは自覚していますから構いませんけど」
「………マジか?」
「マジです」
……………………………マジか。
「というか。私が女だと思っていたのに、美遊とカップルとか言い出したんですか?」
「……俺の名前が出る神話の内容、知っているか?」
俺がそう言うと『あ~……』という感じで、納得したような遠い目をする。
そう、ヘラクレスが出てくるのはギリシャ神話。その内容には少々、同性愛の描写があるのだ。先に言っておくが、俺は同性愛者ではない。普通に異性が好きだ。
「アンタが男だって知っていたら、こんなこと言わなかったのに……」
「どういう意味ですか……」
「魂の関係か、俺は同性愛を否定する気が起きないんだよ。それにアンタの好きな気持ちは本物だ、だから後押ししてやるつもりだったんだよ。誰が普通の恋愛を後押しするもんか。そんなのは当人たちで勝手にやってろ」
もう一度言うが、俺は同性愛者ではない。ただ、それを悪いと思えないだけだ。だから、好きだというのに告白しないコイツに伝えようとしたのに、まさか男だったとは……。
「まあ、言っちまったものは仕方ねえ。さっさと告白なり、なんなりしてこい」
「う~ん。私は確かに彼女のことが好きですし、結婚を申し込まれれば迷わず了承しますが、これは恋愛感情なんでしょうか?」
「結婚を了承できるなら、十分に恋愛感情だろ。同性愛だろうが異性愛だろうが、相手が好きなら、それは恋だ。好きな相手なら、自分が幸せにしてやるぐらい言ってみせろよ、男だろ」
本当に腹が立つ。何で俺がここまで言わなくちゃならねえんだ。それもこれも、京都に来ることに決めた曹操の所為だ。後で殴る。
「ん~、何々恋バナ? 僕も混ぜてもらっていい?」
俺は反射的に、神器である巨人の悪戯を発動する為に声の聞こえてきた方を殴った。それを何でもないかのように避けたのは、白髪の真剣使いジークだ。
「帰れ、性悪もやし」
「酷いな~、僕だけ仲間外れなんて」
相変わらずニコニコと笑っているコイツは、性格に関係なくイラつく。ジャンヌといい勝負だ。
「曹操が戻ってきたから呼びに来たのに」
「そうかよ、すぐに行く」
俺は会話を切り上げると、曹操たちの方に向かった。
アジトに帰ったら模擬戦してやる。お互いに神器、武器、魔術なしでな。ついでにジークも巻き込む。
「あれ……なんか悪寒が」
隣から何か聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
Sideぬらりひょん
「して、ぬらりひょん殿から見て彼らはいかがですか?」
英雄の子孫の小僧との話が終わり、奴らが帰ると同時に八坂が儂に問い掛けて来た。
儂は自身が持つぬらりひょんの力を使い、彼らのことを観察させてもらっていた。耳の痛い話だが、儂が仕切る関東妖怪は、ある人間の裏切り、神器による被害によって若い衆は、今回のことを聞き入れない者が多い。
それ故に、儂は自身の目で彼らを確かめる必要が有った。彼らを信用するに値するかどうかを。
「一言で言えば、青いのぅ。悪い者たちではないのじゃが、これは直接会わせんことには、うちの若い衆は納得せんじゃろうな……」
「妾としても同意見じゃ。あの者の理想を実現するためには問題が多すぎる。それらにぶつかった時、彼はそれでも進むことができるか……」
人間と人外の共存。儂個人の意見としては、願ったり叶ったりじゃが。血の気の多い若い衆は聞き入れない者が多い。そもそも人外と人間が共存というのは、限りなく不可能に近い。凶暴な人食い妖怪が隣に居れば、恐怖するのが当たり前じゃ。むしろ恐怖しない方が、人間として問題があるじゃろう。
大昔から続く人間との距離は、それが最善であったからこそ、儂らはこうして存在している。その形を崩すのは、人間より長い時を生きる妖怪にとっては恐怖じゃろう。儂らにとって存在意義が無くなることは、人間とっての死に等しいのじゃから。
「それはそれとして、あの童女2人は何者じゃ? この状態の儂に気づくなど、たとえ仙人だとしても不可解じゃ」
「………はっきりしたことは妾にも分からん。だが、獣としての側面を持つ妾の勘が『決して敵対してはならない』と告げている。話す限り悪い奴らではないから、仲を深めることを勧めるぞ」
「………そうじゃな、こんな思いをしたのは久しぶりじゃ」
こんな―――訳の分からないと感じた存在は。
あの黒い方の童女、奴は人間に化けたナニカじゃろうな。限りなく、人間という種に化けすぎていて、正体が断定できん。それができる時点で、化かし合いを本分とする儂ら妖怪よりも強者じゃろう。だが、その様な存在は世界に目を向けなくとも存在する。高天原の神々とかな。
しかし、あの銀の方は純粋に分からん。人間であると断言できるというのに、分からん。
一番近い言葉で言い表すとするならば、あの童女は『欠陥品』である。確かに存在するのに、何かがズレて認識できない。そんな、ぬらりひょんである儂の能力が具現化したような。
世界にそもそも組み込まれていない部品のような。どこにもその存在が記されていない者。妖怪とは『分からないもの』を具現化したような存在じゃ。その妖怪である儂か見ても、アレは分からん。
「怖いのぅ……八坂殿」
「えぇ……怖いですねぇ、ぬらりひょん殿」
そう言いながら笑みを浮かべる。化け狐の笑みは凶悪な物だった。獲物を狙う狩人の目などという生易しい物ではない。妖怪が持つ恐怖の側面であるバケモノの目じゃ。おそらく、儂も似たような顔をしておるのじゃろう。
「ことが済み次第。儂も奴らのもとに訪ねて見るとするかの…………」
儂はそう言い残すと、音もなくその場を去った。
そろそろ大詰めです。