トライヘキサの瘴気で世界が滅びかけた日からどれだけの時間が経ったかな?
能力を使ってトライヘキサと話をすることには成功した。彼が怒りの止め方を聞いてきたので、その龍殺しを取り込む前は本能だけだったんだから、その時の状態に戻せば怒りは消えるのは? と伝えたら、自力で自身の身体を回帰させて龍殺しを消した。
自力でできるなら、なんでやらなかったのか聞いたら、思いつかなかったらしい。
えぇ……。
とはいえ、瘴気が危険な状態なのは変わりない。私が話を進めると、彼は自身が目を覚ますことになったのは単なる偶然だと知り、ならばもう一度封印状態になって、目覚めの時期が来るのを待つと言ってどこかに行ってしまった。その後瘴気が消えて、龍殺しもなくなったから良いけど、本当に獣というだけあって自由奔放だった。
まあ、大変だったのは、その後なんだけどね。
今、私は次元の狭間のオーフィスが住んでいたところにいる。駒王町にあった家をくり抜いて持ってきて、オーフィスと二人で住んでいた。なんでそんなことをする必要があったのか。それは、オーフィスの希望だ。
それというのも、アレだけのことが起こったからいろんな神話勢力が私達の居場所にやって来て、その殆どの勢力が私達と同盟を結ぼうとしてきたんだ。オーフィスという存在が居るから、もう少し強く出てくると思ったんだけど、今回の出来事から私たちに実力行使をするのは危険だと判断したらしい。
まあ、そうだね。世界最強というのは、そんな簡単な肩書じゃないからね。今回のことで、天界、冥界、それと冥界の地下深くにある冥府が無くなっちゃったし。グレートレッドと同格のオーフィスを怒らせたりしたら、いつも言っているけど世界が軽く無くなるからね?
それでいろんな勢力が私たちに会いに来たんだけど。その一つのオリュンポスの主神のゼウスって神様が、私に求婚してきた。
うん。オリュンポスってギリシャだったね、ヘラクレスさんが居たところの神話だ。同性愛とか普通だったね、でも新しい冥府の神の地位をくれるって言われても私じゃ無理です。オーフィスが「ダメ」って言ったらすぐ引き下がってくれたから良かったけど。その後、オーフィスが次元の狭間に住む場所を移したいと言い出したのだ。他の神話が友好関係を結ぶために人を送ろうとして来るのが気にいらなかったらしい。
まあ、私はオーフィスと一緒に居られれば住む場所はどこでもいいから構わないんだけど、この家ごと次元の狭間に持ってきたのは驚いた。オーフィスにとって、この家は私との場所だから、他の誰にもここに居座られたくないのだとか。
そんなこんなで、私は彼らとの対応を結構考えながらやった。
悪魔や堕天使も来たっけ……天使は最後まで『システム』を守ろうとして天界ごと消滅して、逃げた天使は神を裏切ったと解釈されたのか、はたまた『システム』が消滅したため堕天したとか言ってた。悪魔は外交担当の魔王と人間界で活動していた少数の悪魔、堕天使も外交でアースガルズに行っていた堕天使総督と人間界の拠点にいた堕天使以外亡くなったんだと。
それと『システム』という物が無くなったために、異物持ちの存在が軒並み亡くなったのだとか。ということは、曹操さん達も死んじゃったのか……。
彼らは、私にグレートレッドのことについて尋ねてきた。何故、今回グレートレッドは冥界を消滅させたのか。どういう理由があって、今回のような行動を起こしたのか聞いてきた。
私は前回のことを含めて、グレートレッドに冥界を攻撃した理由を聞いたので教えたら、唖然とされた。だよね、私も似たような状態になったし。
まあ、龍は価値観が独特だから仕方ないと諦めた方が賢明だと思うよ。私だって何度も死に掛けたんだから。あと、また求婚された。
どこも同じように私たちの場所に人を送ろうとしてくるけど、オーフィスが不機嫌になって、すぐに取り止められるんだよね。
あと八坂さん達も来た、日本の三貴子と一緒に。他の神話の人よりは気が楽だった、八坂さんを通して、お互いに名前だけは知っていたからね。
別に追い出されたなんて思っていませんよ。私のことよりも、日本の方は大丈夫なのか聞いてみたら、やっぱり色々と大変なんだそうだ。
悪魔や堕天使が運営できなくなった日本の施設を買い取って代わりに運営しているんだとか、他の神話も似たような対策をして人間社会が狂わないようにしているらしい。でも、いつでも歓迎するから、また遊びに来てくれと言われた。他の神話にも言われたけど、オーフィスに危害を加えたら許さないからね? 八坂さん達は心配してないけど、組織って一枚岩じゃないのが当たり前なんだから。
まあ、そんな訳で世界中の神話からお誘いを受けた訳だけど。コレ、色々と大丈夫なのだろうか? 神様との約束で世界を見て周るつもりはあったけど、こんなに一度に知り合いが増えたら、年賀状とか暑中見舞いとか、すごく大変になりそうだ。
本当に私って中途半端だよね。知り合いが死んだことを聞かされても、特別に位置していないなら流せるのに、こういう行事みたいなのは、何となくやり続けるんだから。
「まあ、こういう事やらないと生きている感覚が無くなっちゃいそうだしね。永遠の命って『つらい』とか『退屈』とかいうけど、私ってそういうこと感じたことないから、放って置くと時間の流れを忘れちゃうし。そういう意味では、学校に行くのは良かったかな」
「絆、我と結婚して」
「それにしても世界旅行か……世界全体に目を向けたら、少しぐらい私が興味を持つものができたりするかな?」
「我、絆が望んでいることなら、何でもするから」
「でも、どこから行こうかな? 次元の狭間からだと、どこも距離は似たようなものだから、前みたいに近くから回るっていう方法ができないし」
「絆、無視しないで……」
…………………………………………。
私は、背中に抱き着いているオーフィスに手を回して持ち上げ、私の前に座らせた。
「絆?」
「オーフィス。私は別に貴女を無視するつもりはないけど、結婚とかはもうちょっと深く考えてから言って?」
私は、オーフィスの目をしっかりと見て、いつもの口調で話しかける。
私が人外に婚約を申し込まれて少ししてから、突然オーフィスが私に結婚を申し込んでくるようになった。
何でも私が結婚して、私と離ればなれになるのが嫌なのだとか。
そう思ってくれるのは嬉しいけど、自分の身体を交渉材料にするような方法で告白されても私は全然嬉しくない。
「絆は、我のこと、嫌い?」
「大好きだよ。でもね、そんな捨てられたくない子犬みたいな雰囲気で言われても、私は絶対受け取らない。そんなの、私が大好きなオーフィスじゃない」
私は人間として生まれて、オーフィスは龍として生まれたのだから、考え方が違うのは当たり前だ。そもそも寿命が無く、殆ど外敵が存在しないオーフィスは子孫を作る機能すら身体に無いのだから、結婚という物が生きることにおいて、どの程度の認識なのか、龍でない私には分からない。
私にとってオーフィスは特別な存在。でもそれは、決してペットのように餌を与えて、愛でるだけのような存在じゃない。
私は、できないことが沢山ある。欠点を上げたらキリがない。でも、そんな私でも、オーフィスが好きなことだけは、誰に何と言われても、嘘では無いと断言できる。
だから、この
「お願いだよオーフィス。そんな不安だからとか、嫌だからとかで、私の大好きなオーフィスを奪わないで……」
「……よく、分からない」
私の言葉を聞いて、オーフィスは少し俯いて困ったような顔をする。
「あなたが悪い訳じゃない、あなたが嫌いな訳じゃない。でも、私が好きになったオーフィスは、無口だけど純粋で、大雑把だけど努力家で、無表情だけど感情豊かで、なにより私とずっと一緒に居てくれた。ただそれだけの……私を家族と認めてくれた子なんだよ」
「? 結婚しても、家族であることは変わらない」
「そうだね。でも、今の私が持っている家族を、新しい関係の家族にしたいなら。その家族の形を、私のたった一人の家族を、大好きなままで居させて」
ああ、なんて身勝手なお願いなんだろう……。
私は、世界で最も嫌われたくない相手に、自分の理想を押し付けようとしている。好きなままで居させて欲しいと、引かれても、気味悪がられても不思議じゃないことを言っている。
だけど、オーフィスにだけは、自分のことを偽りたくなかった。ずっと偽っていた私をオーフィスは受け入れてくれたんだ。だから私は、オーフィスに対してだけは絶対に嘘は言いたくなかった。
「我は、どうすれば……」
オーフィスはさらに困った顔をする。
当たり前だ。私が大好きなオーフィスとは、私というフィルターを通して見たオーフィスなのだから。そんなもの、オーフィスには分からない。
「付き合いが長いからね。私はオーフィスがどんな思いを込めて求婚したのか分かる。だからね、あなたが私に向けていない感情まで言葉に乗せているのも分かっちゃうんだよ」
「絆に向けていない感情? 我に、感情なんてある?」
これである、オーフィスは自身が持っている感情を制御できないのだ。
オーフィスに感情は当然ある。感情が無ければ、殆ど表情を動かさないオーフィスの変化に私は気づけない。ただ、彼女はそれを上手に扱えないのだ。
だから、思ったことを口にして、教えられたことを理解して、考えたことを行動に移す。興味を持たなければ、とことん無視し。興味を持てば、何も躊躇せずに行動する。どこまでも自分に素直で純粋なのだ。
「オーフィスに感情はあるよ。だから、本当に私に渡したい感情だけを言葉に乗せて、私に伝えて?」
私はオーフィスに、どんな思いを向けられても受け入れる自信はある。でも、『
私が答えられるのはオーフィスに対してだけであり、他のことまで答えたら。私がオーフィスへ答える言葉に乗せた思いが分散してしまう。
それは嫌なのだ。誰になんて言われても、私のオーフィスへの思いはオーフィスにしか伝えたくはない。
つまり、私の大好きなオーフィスとは、私のことをしっかりと見てくれるオーフィスのことだ。私には、一種の独占願望があるのかもしれない。好きな相手に、好きになってもらいたいという欲がある。ずっとじゃなくても、他に目移りをしてもいい。でも、私のことを見るときは、私だけを見て欲しい。
これは私の嘘偽りのない、とても我が儘な願望なんだ。
「……それで我の伝えた感情が、絆の望む物じゃなかったら。我のこと、嫌いになる?」
「まさか」
別に、オーフィスがどんな理由で私に新しい関係を求めても、私のオーフィスが大好きなことは変わらない。ただ大好きの形が変わるだけだ。
「まあ、この際だから私からも言っておくね?」
「なにを?」
オーフィスが首を傾げ、私は口を開く。
私は、オーフィスに対してだけは絶対に嘘は言わない。
「私はオーフィスのことが好きだよ。一緒に居ると安心するし、オーフィスと一緒なら何をやっても楽しいし嬉しい。きっと私は、オーフィスに恋愛感情を抱いているんだと思う。でも、私はこの気持ちが本当に恋という物なのか分からない。だから、私がコレを恋だと自覚できたとき、私はオーフィスに告白するよ。恋人になって、てね」
私はオーフィスの額を、人差し指でツンと軽く押した。
「だから、あんまりモタモタしていたら。私から先に告白しちゃうからね?」
「? よく分からないけど、絆が好きなのは我も同じ。なら、我が先に告白というものをする」
「そう? 負けないよ、私も」
さて、お話ここでおしまい。
今は他に決めなくちゃいけないことがある。はたして、どこから世界を周ろうか。まあ、どこから行ったところで大して変わらないけどね。
どこから行ったところで、私とオーフィスが一緒に行くことには変わりないんだから。
Side 神様(見習い)
「どうやら、あの子は自分を手に入れたようですね」
自身が存在する空間から、自分が転生させた子を見ながら私は呟く。
あの子の前世は、私が神となる為に人間性を否定した時の私に似ていた。そう、私が神になろうとして変えた在り方を、あの子は素の状態で成していた。
自己の欠落、なんて生易しい物ではありません。神というのは、言葉通りの人でなしなのです。何も見ない、何も考えない、何も理解しない。神はただ知るだけの存在なのです。
全てを知って、全てを把握して。それを人間の為でも、世界の為でも、自分の為でもなく、ただそこに在ったものを何となくこなす超常的な存在。
神というものは、とても自由なのです。でも、何に対しても興味がない。だから、その力を使うことも殆ど無い。
私もそうなのです。ただ、誰にも管理されていない世界があったから管理していただけで、誰かに命令された訳でも、義務で行っている訳でもない。
暇潰しでもない。ただ在ったから、それをやっただけの話。死んだ者を輪廻の輪に送っているのも、私が神になる為に肉体を捨てたことにより、人間という意味で死んでここ来て、同じくそこにやって来た魂があったから、それをやっているだけなのです。
私は現人神だからこそ、死んだ者の魂を扱っている。何の理由もなく、行動を起こせる人間というのは殆ど居ない。その中でも、意味を求めず、興味を持たず、価値を見出さない存在なんて人間としては異常だ。神は人間から見れば、異常な存在でしかない。異常な存在でなければ、人でなしには成れない。
だから、人間のまま異常なあの子は、私が何もしなければ神に成りかけて、力不足により輪廻の輪からすら消滅していた。私のやったことが良いことだとは、とても思えない。あの子の在り方は狂っている。
でもそれは、人間としての範疇にまで変化しました。学校には最後まで通ったようですが、もう私がちょっかいを出す必要はないでしょう。そして、今後私が同じような存在を知っても助けることは無いでしょう。
あの子を助けたのは、私が現人神になって初めて会った、あのタイプの人間が、あの子だっただけなのですから。
これは私の我が儘です。私はあの子を通して、生前の心残りを、否定した人間としての生き方を成したかったのかもしれません。
神は知るだけ、気まぐれなんて起こさない。人間からは、そう見えても、神にとってそれは、当たり前のことが起きただけなんですから。
だから私は当たり前のように、あの子の世界を知りましょう。あくまで知るだけですが……。
・この世界本来の主人公――死亡。
・主人公に依存していたヒロイン――死亡、及び神喪失状態(一部復帰)。
・神器所有者――死亡。
・英雄を倣う者――死亡、及び須弥山に加入。
・悪魔、堕天使――衰退。
・天使――死亡。
・死神――死亡。
・三大勢力以外の勢力――現状維持。
・E×E――使者の訪問無し。
・トライヘキサ――本来の能力値に戻り、聖書の神と同じ封印を自身に施し眠りにつく。場所は自身で生成した異空間の中。
・あの子と無限の龍神――
私はそこまで読んで、そこから閲覧するのを止めました。神は自由で知るだけですが、分かり切っている物を態々確認する必要はありません。
あの子と龍は、互いに欠けている。
あの子の方は、自身に興味が無いから龍への思いは伝えられても、自身の中の感情を知るだけで、理解ができない。
反対に龍の方は、本質的に周囲のモノに意識を向けないから、自身の中の想いを相手に正しく伝えることができない。
しかし、それは互いが共にいれば時間で解決できることです。
「彼らが結ばれ時は、祝儀の一つでも入れてあげましょう……」
これでこの物語はおしまい。
そして私は神としての在り方に、前世の心残りを断ち切りました。
という訳で『小さな二人は共に行く(リメイク)』は完結です。
ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。
とはいえ、私は自身の力不足に絶望しています。
これを書き上げた後、一度時間を置いて読み直した私の感想が「えっ、これで終わり?」でしたから。
「いやいや、あれだけご都合主義で強力な敵を作っておいて戦闘シーンなしとか。
今回の起きた出来事に対応している原作キャラ側の視点とか。
持ち上げておいて絶望しか残っていない英雄派の惨状とか。
小猫と黒歌は最終的にどうなったのかとか。
オリキャラのその後とか。
神器を失った人類は発展するのかとか。
書くこといっぱいあるだろうが! というか、こんな原作が息していないストーリーを書くならオリジナルで書けや! ここまで読むのに使った時間返せ!」
と、自分で突っ込みましたから。
一応言い訳をさせてもらうと、上に書いたそれぞれの視点も書いたのですが、要領を得ないし、ぐだぐだ長いだけの暗い内容が延々と続くようなものになったので、思い切って全部没にしました。
そして前作の投稿を止めた後、書いては消して書いては消してを繰り返して、実際に書き上げたこの作品を読み返したとき、これは表立って人に見せるような物じゃないと思い、チラシの裏に投稿した訳です。
今回の物語を書いて、私は自身の限界を感じました。初めの頃は、これが終わったら次はどんな奴を書こうかな? なんてのんきなことを考えていましたから。一つの作品を完結させるのがどれだけ大変か思い知りしました。改めて、他の投稿者様たちを尊敬します。
一度書き始めた以上、どんなに下手でもいいから最後まで書き上げようという思いから、この物語を最後まで書きましたが、正直私は、この物語の完成度に納得できていません。物語を完結させられたことは本当に嬉しいのですが、次に書く時は今回の反省点を考えて、より良い物語を書きたいです。
もし私が新しい物語を書くようなことがあれば、オリジナルの作品になるでしょうね。書くこと自体は好きですから、もう書かないということは無いと思いますし。
それでは最後にもう一度、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。