「海だー!」
「……海」
オーフィスと出会ってから数千万年。私とオーフィスは、今日も元気に修行の毎日を送っているよ。ちなみに、制御する力を使って身体の成長は止めました。だって、特典の影響でいくら鍛えても筋肉とか付かないしね。
いや、最初はちゃんと成長するようにしたんだけどね? 18歳になっても身長も体重も変わらなかったから止めたんだ。成長すれば、腕や足のリーチが長くなるから有利になると思ったんだけど、結局小さいままでした。
それに、オーフィスはずっと姿が変わらないらしいから私だけ成長しちゃうとオーフィスを取り残すみたいな気がしてね、次元の狭間を取り戻すっていう約束も守らなくちゃいけないし、まあいろんな理由で成長を止めました。
そして、私たちは今! 海に来ています!
「わーい!」
「冷たい」
いや、別に遊びに来ただけじゃないよ? 海水で能力の練習をするため。私とオーフィスは力を鍛えることができないので、戦闘の技術を覚えていっているんだ。指南書とか無いから完全な独学なんだけど、それでも日々強くなっています。それで今日は能力のほうを鍛えに海水を緩衝剤として使うため、海に来たんだ。
まあ、それを抜きにしても最近暑いから来たんだけどね。日本の暦で夏になったのかな?
「えい! ウォーターアーマー!」
私は能力を使って海水を身に纏う。冷たくて気持ちいい……。
「えい」
――ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
オーフィスは、海中に手を入れてパンチの練習をしている。静止状態から身体の重心の移動によりパンチの威力を高める技だ。最近は回転運動も付け加えてさらに強力になっている。
オーフィスは、元々が強いので技術を覚える度にドンドン強くなる。ただ、強くなりすぎて修行をするたびにあたりが大惨事になるんだよね。先ほどの水しぶきで打ちあがった水も数キロ先の岩を粉砕した。
「氷結、氷の鎧!」
私は私で身に纏った水を凍らせた、名前は適当だよ。見た目寒そうだけど、鎧と身体の間に隙間を作って、その中の冷気を制御して凍えないようにしている。精密操作の練習だね。
「蛇、行く」
今度は、オーフィスが蛇を飛ばして水中の魚? アンモナイト?みたいな生き物を捕まえる。これも精密操作の練習だよ、最初のころは捕まえようと蛇が咥えた瞬間、噛み砕かれてたなぁ。
それと、最近大きな生き物があたりをうろつく様になった。恐竜だ、さっきオーフィスが取ったアンモナイトもいることから、おそらく今は中生代ぐらいなんだと思う。最初の頃は、図鑑でしか見たことのない恐竜を見てテンション上がったけど、今はただの食料として時々狩っている。
あと、もう一つ発見したことがあるよ。私の能力は、どうやらエネルギー保存の法則に則っているみたいで、限界値以上の力を出すことはできないようなんだ。
簡単に言うと、パンチを繰り出す時に発生するエネルギーの総量を全て威力に回すことはできるけど、それ以上の威力は出せないみたい。
ただ、エネルギーの総量が足りているのなら冷気を熱気に変えることや、重力を反重力に変えることで宙に浮くとか、エネルギーの性質を変化させることができるみたいだ。ただ、時間操作や物体の性質変換とかはエネルギーに関係なくできるみたいだけど。
それにしても、応用が利く特典を頼んだのはいいんだけど、まだまだ私の力不足で十全に扱えているとは言えないんだよね。グレートレッドにも未だに勝てないし。
あ、そうそう。グレートレッドには一年に一度のペースで戦いに行っているよ、未だに傷一つ負わせられないけど。
「絆、今日の晩御飯」
「うん、じゃあ家に転送しておいてもらえる?」
「分かった」
私が頼むと、オーフィスは魔方陣を展開して持っていた魚をその中に放り込む。すると、魚は地面に着く前に消えた。
「本当に、すごいね。それ」
「えっへん」
一切の抑揚なくオーフィスは言った。
彼女は魚を家の冷蔵庫に転送したのだ。ドラゴンのような空想上の存在がいるのだから、魔法があっても変ではないのだけれど、実際に目の前で見るとすごい。恐竜が出てきてからは、オーフィスに頼んで家の周りに認識阻害の結界を張ってもらっている。
一応、私もオーフィスに教えてもらっているんだけど、今は能力の方を重点的に修行している。どうもオーフィス曰く、私の魔力量は人間ではありえないほど高いらしい。だけど。
「どうして私は、うまく魔法が使えないんだろう……」
そう、どういうわけか私は魔法を使おうとしても魔力が外に出るだけで魔方陣が機能しないのだ。理由はオーフィスにも分からないらしい。
「大丈夫、魔法なくても、絆、強い」
「ありがとう」
オーフィスが励ましてくれるが、使える可能性のあるものはできるだけ使えるようにしておきたい。どうして使えないのか考えているために、オーフィスから教わって知識だけが増えていく毎日だ。
なんで使えないんだろう? 私としては、なんというか魔方陣に私の魔力が合ってないような気がするんだけど。魔方陣までは作れるから、全く合ってないわけでもないし、考えれば考えるほど謎が増えていく……。
「我も、力の制御が苦手、手加減、難しい」
「それも悩みどころだよね……」
オーフィスの言葉に私も賛同する。オーフィスは元々の力が強すぎる分、細かい制御が苦手なのだ。力を出すときは出す、出さないときは出さない。1と0の使い分けはできるんだけど、それだと効率的に力を振るえないから威力は半減だ。
まあ、その為の修行なんだけど。今出している蛇だって、最初の頃はただ体当たりするだけだった。でも今は、噛みつきや巻き付いて締め上げるといったような動きもできる。それでも難しいことには変わりないようなんだけどね。
「でも、私たちが強くなっているのは確かなんだから、地道にでも頑張って行こう」
「ん、我、頑張る、絆と一緒に、強くなる」
お互いに、決意を新たにして、私は微笑む。無表情だけど、オーフィスもやる気を出しているのか、小さく拳を握っている。
「っ!?」
と、そんなときだった。グレートレッドと戦い続けて、感覚が鋭敏になった私は身に迫ってくる危険を察知する。その危険の発生源は。
「上! って、なにあれ!?」
空を見上げた私は、上空から流星のごとく落ちていく巨大隕石を見て驚愕の声を上げた。その隕石は、そのまま遥か遠いところへ向かって落ちていき、見えなくなってから数分後、大地震を起こした。
「っ、オーフィス! 今すぐ家まで転送して!」
「? 分かった」
私はすぐさまオーフィスに指示を出して、魔法で家に転送してもらった。そしてしばらくすると、先ほどまで明るかった空が曇りだして雨が降り始めた。
あれから数日が経った。結果から言うと、家の周囲にある植物がすべて死に絶えた。数日間、雨が降り続いているために日光が届かないこともそうだが、どうもこの雨は酸性雨らしい。オーフィスに結界を頼んでおかなかったら、この家もやられていただろう。
それにしても、家の周りはずっと酸性雨が降っているのに、どうしてうちの温泉には何の影響もないのだろうか? この温泉の源泉は一体どこにあるのだろう? などと、どうでもいい思考をする。
「絆」
「オーフィス?」
後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはいつもの無表情でオーフィスがいた。
「雨、止まない?」
「うん、まだしばらくは降り続けると思うよ」
私は、この数日間。この現象がどういうものか、神様に消された穴だらけの知識の中から探していた。そんな中、恐竜と隕石というワードで引っかかるものがあったのを思い出した。
確か恐竜がまだ地球に存在していたころ、巨大隕石が落ちたことにより大量絶滅が起こり、氷河期になったことによって中生代から新生代に変わったという歴史。
覚えているのはそれぐらいだ。そして、それを引き起こした巨大隕石が私の見たあれだとしたら、今の現象も納得がいく。
「仕方ない。しばらくは家でできる修行をしよう」
恐竜全てが滅ぶのは、そう時間はかからないだろうけど。あれだけの巨大隕石が落ちて舞い上がった塵が全部地上に落ちるまでには、数年は掛かるだろう。しばらく、外に出るのは禁止だね。
「ん~、随分と住みやすい環境になったね~」
あれからさらに数千年、私は縁側で日光浴している。
隕石による塵の影響は大体10年ぐらいで収まって、自然環境への影響も数百年経つと徐々に収まり始めた。相変わらず修行の毎日だ、グレートレッドは未だに倒せない、というより傷すら付けられていない。
でも、徐々に私たちの戦う時間が伸びていっている。強くなっていることが実感できるので、諦める気持ちは起きない。日々精進だね。
「絆、我、お腹空いた」
「ん? じゃあご飯にしようか。私は調理しているから、庭のドラゴンアップル取ってきてね」
「分かった」
そうして私はキッチンに向かい、オーフィスは庭のドラゴンアップルを取りに行く。
今日のメニューはどうしようかな?
何千年も料理をしてきたので、私の腕はかなり上がっている……と思う。いや、これも誰かに教わったわけじゃなくて、独学だから仕方ないんだけど。少しはマシになった、と思う。というか思いたい……。
「よっと、こんなものかな?」
まだ、前世で私が知っていた食材は殆ど無いので、あまりすごい物は作れないんだけど。魚のソテーに野菜スープなど、できるだけおいしく食べられるように工夫して作っている。……つもり。
「まあ、オーフィスには足りないかもしれないけど……」
オーフィスは大食家だ。とにかくたくさん食べるから、こちらも大量に作らなくてはいけない。向こうも足りない分はドラゴンアップルで補っているみたいだけど、同じ物ばかりだと栄養面的に心配だ。
「絆、取ってきた」
「ご苦労様オーフィス、今日も随分取ったね……」
声の方を向くと、そこにはザルに山積みのドラゴンアップルを乗せたオーフィスがいた。
「それじゃ、食べようか」
「ん、いただきます」
そして私たちは食事を始める。そんな中、不意にオーフィスが話しかけてきた。
「そういえば、最近冥界や天界に、沢山の気配が生まれた」
「気配? というか、冥界とか天界ってあるの?」
「ある、天界には聖書の神がいた。天界の気配が増えていって、そのあと冥界の気配が増えた」
冥界……天界……。
もしかして、神様が言っていた天使とか悪魔とかが生まれたのかな? そういえば最近私も二足歩行する類人猿がいるのを見たし、そろそろ人間が生まれる頃なのかな?
「たぶん。天界で増えたのは、天使。冥界で増えたのは、悪魔だと思うよ。もうすぐ私と同じ人間も生まれてくると思う」
「絆と同じ? そいつらと協力すれば、グレートレッド、倒せる?」
そう聞いてくるオーフィスに私は首を横に振る。
「私が人間の中で異質なだけだから、そいつらが協力しても大した力にはならないよ。以前教えたけど、人間は限りなく弱いから」
「そう……」
私の言葉に、残念そうに俯くオーフィス。これ以上、暗い内容を続けるのもなんなので話題を変える。
「ところで天界や冥界の奴らだけど、この世界には来てる?」
「来ていない、でも、警戒はしておいた方がいい」
悪魔と天使か……神様は、それらが主軸になっている世界だって言っていたけど、原作まで、あと何年かかることやら。