「あっ――」
砲撃にすべてのエネルギーを費やした私は、能力の制御もままならなくなりバランスを崩して落下しそうになる。
――ポスッ
「絆、無茶し過ぎ」
「オーフィス……?」
だが落下する前に、オーフィスによって肩を支えられた。
「あはは、ごめんね? でも、こうするしか方法がなくて……」
「絆は強い、我、知っている、でも、絆が怪我をするの、我、イヤ」
その時、オーフィスが私を支えている手に、ほんの少しだけ力が入った。
心配させちゃったのかな? だったら本当に申し訳ないよ……。
「……見事だ、人間よ」
砲撃で発生した煙が晴れると、そこには相変わらず同じ姿で佇んでいるグレートレッドがいた。
「グレートレッド……」
「……儂の負けだ」
グレートレッドが、そう呟いた。
「何、言ってるの?」
「これを見てみろ……」
そういうとグレートレッドは、その巨大な右腕を見せる。そこには、ほんの少しだけ黒ずんだ焦げ跡が付いていた。
「どこが負けなのさ……」
どこからどう見ても私たちの負けだ。私もオーフィスも、すでに限界。対してグレートレッドは腕を僅かに焦がしただけ。1億年以上かけて作った切り札は、グレートレッドに僅かな傷しか与えられなかった。
しかし、そんな私の言葉に、グレートレッドはフルフルと首を横に振って否定の意を示す。
「儂は言った。不完全な存在が、完成された存在に傷を付けることはできない、と。儂に傷を負わせた時点で、儂は完成された存在ではなくなってしまった。お前たちの勝ちだ」
……確かにそうだ。私たちはグレートレッドを倒して、完成された存在ではないと証明させることも目的の一つだった。
「認めよう、儂は不完全だ……」
何かを悟ったように、グレートレッドは呟く。
……………違う。
「グレートレッド、この戦い。一旦お預けにしない?」
「なんだと?」
「だって、私たちはあなたを倒すことが目的だったのに、結局あなたは倒せてないし。あなたに怪我を負わせたのだって、私たちじゃなくて、あなたの力だよ」
それは、奴が言う完成された存在の力。不完全な存在が倒さなければ、完成され存在の否定にはならない。
「だからさ……この勝負、一旦お預けにしない?」
「……どういう理由があろうとも、儂が怪我を負ったのは事実だ」
グレートレッドは一度目を瞑り。
「だが、例え不完全になろうとも敵が向かってくるのならば、儂はそれを全力で排除する」
私を睨み付ける。その目に宿っているのは紛れもない闘志そのもの。
「それでいいよ。あなたは未だに、世界最強のままなんだから」
「……人間。貴様、名はなんという?」
グレートレッドは、私を見つめながら言う。
「あなた、私のこと絆って呼んでなかったっけ?」
「オーフィスが呼んでいたから知っているだけだ。儂は、貴様の口から直接聞きたい」
「……真代 絆だよ。特殊な能力を持った人間さ」
そういうと、グレートレッドは満足そうな顔をする。
「ならば、真代 絆よ。今回の戦いで、お前は完成された存在である儂を倒した。その報酬として、何か望むものはあるか?」
「は?」
私は思いがけない問いかけに、そんな間の抜けた声を出してしまう。
「なんでそうなるの?」
「ドラゴンを討伐した人間が褒美を受け取るのは、当たり前のことだ」
そういうものなの? オーフィスの方を見ると「我、知らない」と言って、フルフルと首を横に振る。
「何でも構わん。儂のできる範囲で、お前の望みを叶えてやろう」
だったら……
「完全な存在のあなたを倒せたのは、私だけの力じゃない。私とオーフィスの二人でやったんだ。だから、オーフィスに褒美をあげてくれない?」
「それはダメだ。先ほども言ったが、
「なら、私がオーフィスのお願いを叶えて欲しいって言ったら?」
「それなら……まあ、構わんが」
そっか、じゃあそうしよう。
「なら。一部でいいから、次元の狭間をオーフィスに返してくれない? そして、できれば用のないときは、そこに近づかないようにして欲しいんだけど」
「それで本当にいいのか?」
「全然オーケーだよ」
それに私、別に報酬とか欲しくないし。
「分かった。以前オーフィスがいた場所を返し、その付近には近づかないようにすると約束しよう」
グレートレッドは一度オーフィスの方を見ると、そう答えた。
「良かったね、オーフィス」
「ん、絆、協力、感謝する、……ありがとう」
二重で感謝されちゃった。オーフィス、感謝すると、ありがとうは同じ意味だよ?
「では、これで儂は失礼する。また挑みに来るのであれば、いつでも来るがいい」
「あっ、待って!」
私は翼を広げて、飛び去ろうとするグレートレッドに声を掛けて呼び止める。
「なんだ?」
「えっとね。これは報酬とかじゃなくて、お願いなんだけど……」
これ、改めて口にするとすごく恥ずかしい……。
「要件があるのなら、さっさと言え」
「その、ね。私と……友達になってくれない?」
「……………」
私の言葉に、グレートレッドはこちらを見つめてくる。
「お願い。ということは、儂がそうしなければならない義務はないはずだな?」
「うん、だから断ってくれても構わないよ」
そういうとグレートレッドは、しばらく熟考するように黙り、やがて口を開いた。
「ドラゴンとは常に孤高の存在。故に、馴れ合いを嫌う。仲間など邪魔なだけだ」
「そっか……」
「だが――」
グレートレッドは、私の言葉を遮るように言う。
「力を求めるのもまたドラゴンの本質。最強と謳われたオーフィスが、お前と関わり強くなった。お前と関われば、同じムゲンの存在である儂も、今よりも高みに辿り着けるかもしれない」
「!? なら!」
グレートレッドは私に背を向け、翼を広げる。
「本日、今をもって、お前は儂の友だ。真代 絆」
そういってグレートレッドは飛んでいく。
「儂は不完全になった。だから儂も完成された存在を目指し、今よりも強くなる。儂を倒すというのならば、追いついてこい。我が友よ」
そう言い残すと、グレートレッドはいつしか見えなくなっていった。
「グレートレッド、変わった」
「そうだね……オーフィス、もう大丈夫だから離して?」
「分かった」
私そういうとオーフィスは手を離す。制御する能力で、落下する力を制御して、その場に留まる。
「長かったね……」
「ん、長かった」
「頑張ったね……」
「ん、頑張った」
私の言葉に、オーフィスは同意する。本当に、長い間頑張ってきた。
「オーフィス、私を鍛えてくれてありがとう。オーフィスが居なかったら、私はここまで強くなれなかった」
「我も、故郷を取り戻してくれて、ありがとう」
「うん。大変な毎日だったけど、オーフィスと一緒に居られて、楽しかったよ」
そういって私は、オーフィスに背を向けた。
「それじゃ、バイバイ。元気でね」
そう言って私は、帰るために次元の狭間の出口に向かう。
「……………」
――ギュッ
「えっ?」
すると突然、誰かに手を掴まれた。誰だろうと思い振り返ると、そこには私の手を掴んだオーフィスがいた。
「オーフィス?」
「? ………!?」
オーフィスは私に呼び掛けられると、今気づいたかのようにつかんでいた手を離した。
「我、なんで絆を掴んだ?」
「いや、むしろ私が聞きたいんだけど……」
自分の行動した理由が分からないといったふうに、オーフィスは自身の手を見て首を傾げる。
「まだ何か、話したいことがあるの?」
「ない、我、元の場所に帰る、絆、バイバイ」
そういうとオーフィスは、グレートレッドが飛んで行った方向とは違う方へ飛んで行った。なんだったんだろう?
……まあ、いっか。私も疲れたし、今日は早く帰って寝よう。
そうして私は次元の狭間を後にした。