遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

22 / 28
乙女心

「えぇ〜それじゃあ最後の連絡だ。もう知ってる人もいると思うが、本校に天上院明日香先生がいらっしゃる」

「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 4月末から5月の頭にかけての春の大型連休が明けて直ぐにやってきた土曜の帰りのHR。

 担任からの連絡でクラスが一斉に沸き立つ。

 

「…………」

 

 しかし俺はというといつも通り周りのテンションに置き去りにされていた。

 率直に言って俺はこの天上院明日香という人物についてあまり知らない。俺が知っている情報は教師である事と有名プロデュエリストと結婚したと言う事ぐらいだ。その結婚相手の有名プロデュエリストも既に引退したらしく誰なのか俺は認知していない。この世界に来る前に活躍した人物らしいのだがあまり興味が無かったのでわざわざ調べる気も起きなかったのだ。

 そんな訳で残りの連絡も俺には関係無さそうだと判断し、俺はこれからのアルカディア・ムーブメントでの事について思考の海に意識を沈めていく。

 トビーとのデュエル後の翌週、アルカディア・ムーブメントの入塾テストを問題なくクリアした俺は計画通り特進クラスに入ることができた。入塾の手続きは済ませたが特進クラスでの顔合わせの日程はまだ決まってない。今は『サクリファイス』を混ぜた”魅惑の女王デッキ”一つでやりくりしているが、今後のことを考えるともう少しデッキのバリエーションを増やした方が良いかもしれない。

 ちなみにトビーとのデュエルの後、直ぐにミスティからクレームの電話がきた。依頼を受けた時から薄々は感じていたがあの人は生粋のブラコンだったらしい。

 

「先生! いつ明日香先生は来るのだ?」

「まだ日程は調整中だ。早くて今月、遅くても来月までにはいらっしゃる予定だ」

「そうか、時は近い……」

 

 担任の答えに黒髪で黒縁メガネの生徒はそんな事を呟いて小さく拳を握っていたのがチラリと視界の端に映る。やはり小さい頃から聞いていた名前のデュエリストが来るとなると興奮するようだ。例えるなら憧れのプロ野球選手が学校にやってくるとかそんな感じなのだろうか。しかし例えておいてなんだが野球にも思い入れがない俺ではどうにもその感じが分からない。

 そんな何とも他人事な感想を抱きながら、アルカディア・ムーブメントで使うデッキをあれこれと考えていく。やはり使い手の少ない魅惑の女王を軸に”コントロール型の魅惑の女王”デッキを作るか、それとも『サクリファイス』に軸を変え”レベル1軸のサクリファイス”デッキにしてみるか、はたまた『サクリファイス』と儀式繋がりで別の儀式デッキを使うか。考えられるパターンはいくつもある。

 

「で、その時に本校の代表生徒とのデュエルを予定しているんだが……その代表は本校で一番腕の立つ生徒になる」

「「「…………」」」

 

 視線が一斉に俺に集中しているような気がするがまた俺が槍玉に挙がったのだろうか? いや、何かあったら後ろのサイレント・マジシャンが教えてくれるだろう。

 別の儀式となると『精霊術師ドリアード』、『伝説の爆炎使い』が考えられる。流石にニケとして使った『救済の美神ノースウェムコ』は使えないだろう。

 

「まぁ、そうなるだろうな。代表は去年1年ながら3年を交えた全校生徒の中でもトップの戦績の八代の予定だ。と言う事で八代。……八代?」

「…………」

「はぁ、なんだ。またお出かけしているのか、こいつは」

 

 『伝説の爆炎使い』デッキなら魔力カウンターの使用が不可欠。パッと思いつく構築は『魔法都市エンディミオン』軸か。しかしそれも既に依頼でも普段でも使用しているカードのため避けるべきだろう。

 もう一つ残ったのは『精霊術師ドリアード』のデッキ。ステータスは低いが自身の効果により闇・神属性以外の属性を1体で網羅する事ができると言う特殊能力を持つ癖の強いカードだ。過去にデッキの考察をした事はないが少なくとも今まで作ったデッキとは被らないと思われる。浪漫カードではあるがこの『精霊術師ドリアード』を出せれば『強欲な壺』、『サンダーボルト』、『ハーピーの羽根箒』、『いたずら好きの双子悪魔』の4つの禁止カード級のカードの効果の内のどれかを使う事のできるトラップである『風林火山』の発動条件を満たせる。これはじっくりと考える価値がありそうだ。

 

「八代君」

「ん?」

「前です」

 

 小さく振り返るとサイレント・マジシャンが前を俺の背中に隠れながら指差す。どうやら思考に埋もれている間にまた何かの話を振られたらしい。まったくどうして俺が何か考え事をしている時に限って話を向けられるのか。

 

「はい、なんですか?」

「なんですかって……明日香先生がいらした時にネオ童実野校の代表生徒としてデュエルをして欲しいんだが、頼めるか?」

「えっ? あぁ、はい。大丈夫です」

「……なんだかなぁ。そんな気の抜けた返事で本当に大丈夫なのか? いや、まぁ、それくらいがお前らしいと言えばそうなんだが……」

 

 咄嗟に大丈夫と答えたが、話の内容を飲み込んだのはそれから数拍の間が空いてからだった。どうやらいつの間にか天上院明日香とデュエルすることになったらしい。だがそれを理解してもそれを感慨深く思う事は無かった。俺の中の認識では凄いらしいデュエリストと戦える程度の認識の域を出ない。

 しかしやはり周りの人間からすると凄い事らしくクラス中がざわつき、様々な声が聞こえてくる。

 

「おいおい、沈黙の戦王が動くのか……?」「戦王と明日香先生のデュエル……それは気になるな」「いや、流石に明日香先生の方が強いだろう」「けど負ける八代君の姿って全く想像出来ないよ?」

 

 そんな反応を聞くと最初は何も感じなかったが、沸々とそのデュエルに対する期待感が高まってくる。クロウと戦って以降、俺の血が沸き立つような熱いデュエルをしていなく少々欲求不満だったのだ。周りの声を聞く限り天上院明日香は俺よりも強いデュエリストらしい。そんな相手なら全力を出し切っても勝てるか分からないギリギリのデュエルになりそうだ。それこそジャックとのデュエルのように。そんなデュエルを想像するだけで血が騒ぎ出す。

 

「それじゃあ、我が校の代表は八代で……」

「納得出来ねぇぞ!!」

「いや待たれよ!!」

 

 ところがそうトントン拍子で決まりかけたところに待ったの声がかかった。

 その声の主等は立ち上がりこちらを見る。

 

「戦王! 多分俺の顔なんて知らねぇだろうから自己紹介させてもらうぜ! 去年までは一つ下のクラスに甘んじてたが、今年はクラス替えで這い上がらせてもらった(くろがね)(けん)だ!」

 

 そう俺に向かって自己紹介したのは癖っ毛のある茶髪の男。だぼついた制服をだらしなく着ているが、それでも体にしっかりとついた筋肉が見てとれる。

 こちらが容姿を観察している間、鉄拳と名乗った男もまた真っ直ぐと俺を見ていた。その瞳にはこの学園では久しく向けられる事のなかった燃え盛るような闘志が宿っていた。

 良い闘志だと素直にそう思う。

 まさか自己紹介のために話に割り込んできた訳ではないだろう。何も言わずに待っていると鉄はさらに言葉を続ける。

 

「言っとくが、去年まではなんでも思い通りになる王様天下だったかもしれねぇけど、俺が来たからにはそうはいかねぇ! これからはヨウチュウさせてもらうぜ!」

 

「「「……?」」」

 

 ヨウチュウ?

 

 幼虫?

 

 いや、話の流れからそれはおかしい。

 もしかして要注意の”い”の音を聞きとれなかっただけか?

 でも「これからは”要注意”させてもらうぜ!」というのは何かおかしい。

 

 ヨウチュウ……どういう意味だ?

 

 鉄拳の放った一言で空気が固まった。皆がその意味について考えているのが眉を潜めている表情で伝わってくる。数拍の間の後、その空気を破ったのは同じく立ち上がっていたもう一人の男だった。

 

「……番長。もしかして掣肘と言いたかったのか?」

「ん? セイチュウ? あ、あぁ! それだそれっ!!」

「「「……」」」

 

 クラスになんとも言い難い空気が流れる。なまじ難しい言葉を使ってカッコつけたかったのが伝わってくるだけに余計に痛々しい。

 掣肘を幼虫か。おそらく難しい漢字のため彼の中では虫っぽい語感の言葉として記憶していたのだろう。なんとなく彼の思考回路の一端が垣間見えた気がする。

 

「……あ〜、こほんっ。番長には言い間違いがあったが、まぁ言いたいことは汲んでくれ」

「あ、あぁ」

「そして同じく、番長と共に下から這い上がってきた俺、(おおたお)(かん)もこのまま戦王に明日香先生とのデュエルの機会を譲ることは承服しかねる」

「「「っ!!」」」

 

 はっきりと告げられた拒絶の言葉は鉄の作った残念な空気を払拭するには十分だった。

 クラスに緊張が迸る。

 

 ”このままでは譲れない”

 

 ”認めさせたくば俺と戦って勝ってみせろ”

 

 黒縁眼鏡の奥の瞳は闘志に燃え、言外にそう匂わせている事は誰もが気付いていた。それはまさに堂々とした宣戦布告。去年度は心の壁を作っていたおかげでクラス中が余所余所しかったこともあり、こんなにずけずけとした物言いを学園で受けたのは初めてかもしれない。身長はあるが鉄と違い体付きは線のようでひ弱な印象を受けるが、中身はなかなかどうして図太いようだ。

 元の世界に戻る事を考えるならばここで心の距離を詰められるのは致命的だ。帰る時の心残りになり得る。が、そう思う一方でそれを不快に思うことはなかった。寧ろギラギラとした純粋な闘志を向けられ気持ちが昂ってくる。1年の後半の頃などはこのクラスでは”俺とのデュエルは負けて当然、ダメ元で勝負を挑む”くらいの気持ちでデュエルをする相手ばかりだったので、こうして”絶対に勝つ”という強い意思が感じられる骨のありそうな相手は新鮮だった。

 

「ん〜しかしだな。戦績的には……」

「かまわないですよ」

 

 気が付けば難色を示す担任の言葉を途中で遮っていた。俺の発言でクラス中の視線が一斉に集まる。珍しく自発的に口を開いた俺に対する好奇の眼差しだった。いつもなら周りの目を気にするところだが、今は不思議と言葉は何も考えることもなく口から続いた。

 

「俺とデュエルして勝てたなら明日香さんとのデュエルの権利を譲ろう。それがお前らの望む条件だろ?」

「呵々っ! いいねぇ。わかってんじゃねぇか」

「流石は戦王。話が早いのである」

 

 まさに望む回答が得られたようで二人は好戦的な笑みを返す。

 いずれもデュエルの腕に自信があるのならこのデュエルは俺にとって悪いものではない。上手くいけば二人とのデュエルをした後に天上院明日香とデュエルが出来るのだ。

 しかし俺の中では纏まりかけていた話をこのクラスは“はいそうですか”と丸く収めてはくれなかった。

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 女子特有の耳に刺さるような声。その声の主である女子は勢い良く立ち上がると、まず俺を見てそれから鉄と大を順々に睨みつける。

 

「これは学園の重要なイベントなのよ? あんた達だけで勝手に話を進めるのは認められないわ!」

「口を挟むなソバ子よ。戦王が認めたのだ。これは我々の問題である」

「そうだぞソバ子。空気読め」

「言わせておけばあんた達はいつもソバ子、ソバ子って! 私には原律子って名前があるのよ!」

 

 話に割って入っておきながら全く相手にされず癇癪を起こす原律子。

 ただ身長は150センチくらいと小柄なため怒っていてもマスコットを見ているような気持ちになる。髪は珍しい深緑色のロングで渾名の通りソバカスがある子だ。だがそのソバカスも見方を変えればチャームポイントであり決して顔は悪いものではない。

 それにしてもソバ子か。

 その渾名に聞き覚えがあった気がするが、それはいつだったか。

 

「って違う! 私が言いたいのはそんな事じゃなくて……確かにあんた達はいなかった去年、私達は八代君と同じクラスでたくさんデュエルをしたけど一回も黒星をつけられなかった。だから今回の明日香先生とのデュエルの権利を主張する気はないわ」

 

 そう言う彼女は一瞬俯く。表情は陰になって見え辛かったが、一瞬だけそこには悔しさが滲んで見えた。しかし顔を上げたときには表情は挑戦的なものに戻っていた。

 

「けどね。それであんた達がその権利があるなら山背さんだってそうだわ。今年から転入して来てまだ八代君とデュエルをしてないもの」

「あぁ、それは確かにそうだな」

「うむ、一理ある」

 

 話が山背に移った事で必然的に視線が俺の後ろに集まる。当然そんなことを予期していなかった彼女はビクンッと肩を震わせ期待を裏切らないリアクションを見せた。

 

「えぇぇ!!? そ、そんな!? 私はいいですよ! 八代君に権利を渡します!」

「遠慮しなくていいの! 山背さんは凄腕のデュエリストなんだから!」

「ん? ソバ子よ。山背さんの実力を知っているような口振りだが、どうしてそれを?」

「そんなの決まってるじゃない! 匂いよ! 山背さんからは強者の匂いがするわ!」

「うわぁ……山背さん! こいつは見ての通りのソバ子な上、貧乳でガチ百合の異常性癖者だ! 近づかない方が良いぞ!!」

「な、な、な、何言ってんの、こんの鉄拳バカ!! あんたこれ終わったら逃げんじゃないわよ!! 絶対蹴り潰す!!」

「ひぃっ!!」

 

 話題が逸れた事で座っている生徒達も各々勝手に話し始めクラス中が賑いだす。

 しかしそんな時間もHR中に長く続くはずもなく、担任が二、三度手を叩くだけで勝手な会話は収拾がついた。

 

「あぁ〜分かった分かった。この件についていくら揉めようが、いずれにせよこの場じゃ決められん。一旦保留にして職員会議で議題にする。それで良いな?」

「わかりました」

「くっ、頼むぜ先生」

「……良い返事を期待する」

「はい。先生、山背さんをよろしくお願いします」

 

 落し所としては妥当。俺を含め鉄、大、原の三人はそれぞれの言葉で返事をした。こうして一波乱あったHRだがいつも通りの終わりを迎える。

 恐らくこれから鉄と大とはデュエルでぶつかるだろう。そしてその後には天上院明日香とのデュエルもある。

 これからはアカデミアでも退屈しなさそうだと、俺は口元が緩むのを抑えきれなかった。

 

 

 

————————

——————

————

 

 帰りのHRを終え、俺はサイレント・マジシャンと二人並んで帰り道を歩く。前までは俺の背後をふわふわ飛んでいた彼女だが、不思議と今歩く歩幅は俺と同じだ。まるで長年共に同じ道を歩んできた夫婦のように、互いに特に意識する事なく同じ歩幅で歩く事が出来るのがなんだか心地良い。別になんの確証も無いが、彼女もまたそんな事を考えている気がすると思うのは少々自意識過剰と言うものだろうか。

 こうして一緒に帰るようになって早くも一ヶ月。俺は既にこの日常に慣れつつあった。

 

「なんだか大変な事になりましたね」

 

 そうサイレント・マジシャンが話を振ってきたのはアカデミアの他の生徒の姿が疎らになった頃だった。彼女の言う"大変な事"とは先ほどのHRでの事だろう。俺はその時思った率直な感想で応じる。

 

「あぁ。だけどおかげで楽しみな事が出来た」

「ふふっ、嬉しそうで何よりです」

「分かるか?」

「えぇ。素敵な笑顔でしたから」

「……!」

 

 そう言って微笑む彼女の顔が眩しい。

 全く、それはこっちのセリフだと言いたい。そんな邪気を微塵も感じさせない笑顔ができる人の知り合いなど他にいるものか。至近距離でそれを受けようものなら眩しくて直視できなくなる。幸いまだそんな距離でもないのだが、俺の胸中を知らないサイレント・マジシャンはさらに自然と半歩程距離を詰めてくる。ふわりと伝わる甘い香りにドキリとしながらも俺は動揺を悟られないよう咄嗟に話を戻した。

 

「まぁこれは山背さんも他人事じゃないだろ?」

「あっ、そうでした……」

「なんだ? このデュエルに乗り気じゃないのか?」

「いえ、そうじゃないんです。デュエルするのは好きですから。ただ、八代君とそれで戦うなら……」

「そうなったらそうなったらだ。そん時は全力で来いよ」

「でも、八代君は明日香さんとデュエルしたいんじゃ?」

「そりゃ勿論な。っておいおい、なんだ? やる前から俺に勝つって確信してんのか?」

「まさか!! 違いますよ! ただ八代君のやりたい事の邪魔をしたくなくて」

「別にそれで邪魔なんて思わねぇよ。むしろ山背さんぐらいの相手の方がやる気が出ていい」

「八代君……」

「それに安心しろよ。俺は負けねぇから」

「っ!」

 

 そう言ってやるとサイレント・マジシャンは一瞬目を見開き、それから何故か恥ずかしそうに顔を赤らめる。予想とは違った反応だった。が、後から少々クサいことを言ってしまったと気づき俺も頬が熱くなる。お互いになんとも口を開き辛い空気に突入すると思われたが、意外な事にサイレント・マジシャンが強引にこの空気を突破してさらに話を振ってきた。

 

「そ、それで、その時使うデッキの調整はするんですか?」

「あ、あぁ。勿論万全を期して臨むつもりだ」

「そうですか! 帰ってから直ぐ取り掛かりますか?」

「う〜ん、そうだな。なるべく多く考える時間を使って良いものを作りたいと思う」

「ふふっ、八代君がどんなものを作るのか楽しみです!」

「あ〜、だけどあれだぞ。このデッキの構築はいつもみたいに見せられない。今回は戦う事になるかもしれないからな」

「あっ……」

 

 幸せが溢れ出ている笑顔から一転、サイレント・マジシャンの表情が不幸のどん底に突き落されたかのような絶望に染まる。俺にはアカデミアのデッキを作る事が何故こうも彼女の幸せを左右するのか理解できなかった。ただその原因が分かっているのにこのままの彼女を放置するのは心が痛む。故に少々強引だがフォローを入れる事にした。

 

「ごほん、ただそうだな。なんだか気分的には今日戦うと聞かされた天上院明日香とのデュエルに向けてのデッキが組みたいな。気が早いけど家に帰ってからはそのデッキの構築をしようと思う」

「っ! それって」

「それだったら別に見られても大丈夫だ」

「あ、ありがとうございます!」 

「いや、別に礼を言われることはしてないぞ」

「ふふふっ! じゃあ早く帰りましょう! 善は急げです!」

「お、おう。そうだな」

 

 復活したサイレント・マジシャンのキラキラした満面の笑みはやはり眩しかった。

 天上院明日香とのデュエルが無かったとしても新学期も始まった事だしそろそろ学園で使うデッキの調整も必要だったので構わないことだ。しかしやはりサイレント・マジシャンの幸せオーラ全開のテンションには少しついていけなかった。

 俺がデッキの調整をしている間、彼女がやる事は特に無い。俺が意見を求めたりしない限りは別に構築の途中で口を出してくる事も無く、基本ただ幸せそうな笑顔で俺がデッキを構築している様子を眺めているだけなのだ。ずっと見られているとなんだかこそばゆい感じがするのだが、サイレント・マジシャンがそれで幸せそうなので俺はそれについて何か言う気はない。言えば「迷惑でしたか……? すいません……」とか謝って暗い表情を浮かべる姿が容易に想像できる。こんな俺について来てくれている彼女に対して普段何も返してやれていないのだから、こんなことでそれを返す気になるつもりではないのだが、それで彼女が喜ぶのならお安い御用というものだ。

 

「八代君、行きましょう!」

「あぁ、わかった。だからそんなに走るなよ」

 

 先に進むサイレント・マジシャンに追いつくため駆け出そうとした時、制服の胸ポケットがブルブルと振動する。

 狭霧か?

 まず俺の携帯に連絡を寄越す数少ない相手の中でも一番頻度の多いが相手の顔が頭に浮かぶ。しかし携帯を開くとそれは依頼用のアカウントに来た連絡だと表示されていた。

 

 

 

From アルカディア・ムーブメント

 

こんにちは。アルカディア・ムーブメント事務室です。

この度、特進クラスに合格された八城様に施設のご案内の日程についての連絡をさせていただきます。以下の日程で可能な時間帯をご予約ください。

 

[日時]

5/10(日)14:00〜17:00

5/12(火)17:00〜20:00

5/14(木)17:00〜20:00

 

尚、当日はデッキが必要となりますので必ずお持ち下さい。

 

 

 

「……」

 

 参った。

 よりにもよって明日以外に予約できる日程が7限の放課後まで埋まった火曜と木曜のピンポイントとは。17時からと言うのはアカデミアから放課後かけつけるには物理的に不可能な時間だ。しかしかと言って明日に予約するのには今日デッキの調整をしなければ間に合わない。だがこれからサイレント・マジシャンとアカデミア用のデッキの調整の約束をしたばかりである。

 

「どうしたんですか、八代君?」

 

 メールを見て固まる俺を訝しみサイレント・マジシャンが戻ってきた。

 口の中が渇く。どうするべきなのか俺の中ではもう結論は出ていた。

 しかしそうすれば折角彼女に喜んで貰おうと思ってやったことを自分でぶち壊しにしなければならない。彼女の表情がまた曇ると思うとやるせなくなる。けれどもこれもデュエル屋としての仕事な以上、俺の優先すべき事は決まっていた。

 

「……すまん、山背さん。向こうの日程が急遽明日に決まった。だから今日はそっちを優先しなきゃいけない……」

「そう……ですか」

 

 “向こう”と言うだけで俺の言いたい事はすべて伝わった。

 サイレント・マジシャンの表情が目に見えて暗くなる。こんな表情が見たくなかったから彼女の喜ぶデッキを組もうとしたのに。最悪のタイミングでやってきたアルカディア・ムーブメントからのメールが恨めしい。

 落ち込んだ彼女に俺がかけられる言葉は一つしかなかった。

 

「その……ごめんな」

「い、いえ。良いんです。八代君が大変なのは分かってますから」

「……」

 

 ぎこちない笑顔。その仮面の下に一体どれだけの我慢があるのだろうか。

 しかしそれでも俺が気を遣わないようにという彼女の配慮が痛い程伝わってくる。そうさせてしまっている事に胸をキュッと締め付けられるような痛みが迸る。

 よく見ると彼女の瞳は潤んでいた。

 

「っ! す、すいません! ちょっと先に帰ってますね」

「あっ……」

 

 サイレント・マジシャンもそのことに気付いたからなのか、彼女はクルッと背を向けて駆け出していった。彼女の背中はどんどん遠ざかっていく。全力で追えば追いつけなくもない速度だった。

 しかし俺はそれを追う事はできなかった。追おうとしても瞳に涙を湛えた彼女の表情が思い出されると足が止まってしまう。ただ彼女の背中に伸ばした手は虚空を彷徨っていた。

 

 

 

————————

——————

————

 

「はぁ……」

 

 歩きながら溜息が零れる。

 何をやっているんだ私は。

 マスターと別れその姿が見えなくなってから私は後悔していた。

 冷静になってみればあの時マスターが私を使うアカデミアのデッキよりもアルカディア・ムーブメントで使うデッキを優先するのは当然だと思う。そちらの方が使う日が差し迫っているのだから。

 頭では分かっていた。

 分かっていたはずなのに、私はマスターの顔を見ていられなかった。

 思い出すだけで胸の奥が痛む。

 

 ズキズキ、ズキズキ

 

 この痛みは針で何度も刺されているみたいに疼く。

 最初にマスターが私を使ったデッキを考えてくれると言った時、胸が高鳴った。本当に久しぶりにマスターが私のカードを使ったデッキを考えてくれる、そう思っただけで胸の奥から幸せが溢れてきた。しかもマスターが私の事を考えてくれての事だ。その場で飛び跳ねてはしゃいでしまいそうになるほど嬉しかった。

 私はマスターが真剣に私を使ったデッキを考えている時の表情が好きだ。私の事だけを考えてくれる至福の時間。その間だけ私はマスターを独占できる。尤もそう思っているのは私だけで、マスターは私がこんな事を考えているなんて露程にも思っていないだろう。

 しかしそれぐらい喜ばしい事だったからこそ、それが無くなったときのショックもまた大きかった。それがいつもの依頼のせいだったらここまでショックを受けることは無かったと思う。けど……

 

「……っ」

 

 やっぱりダメだ。

 どうしてもあのデッキを作っているマスターを見ると心が騒つく。マスターが取られてしまうんじゃないかとそんな事を考えてしまう。胸の奥に何か黒いものが蠢いているような感覚。この気持ちの底にあるものを知っている。

 

 嫉妬だ。

 

 今まではこの気持ちがここまで膨らむ事はなかった。芽生えたとしてもそれを押さえ込む事はできていたと思う。

 それができなくなっていったのはマスターがあのデッキを作り始めてからか。いや、マスターがまた感情豊かになってきてからかもしれない。

 私はマスターを想っている気持ちの見返りを求めようなどとは思っていない。ただ不安なのだ。私が必要とされなくなってしまうんじゃないか、私の居場所が奪われてしまうんじゃないかと。そうなってしまえば私がマスターを想う事すら許されなくなってしまうのではないかと、それが堪らなく怖かった。

 

「はぁ……」

 

 そんな風に考え事をしていると気が付けば私の家の近くまで来ていた。

 シティパレス。それが私の住む建物の名前だった。“街の王宮”という大それた名前が付けられているが、その実は唯の五階建ての鉄筋コンクリートマンション。嘗ては白く輝いていたであろう壁面も築32年も過ぎればすっかり黒ずんでしまっている。

 私の部屋は2階の201号室。玄関から入って廊下の右手にキッチン、左手にトイレと洗面所、お風呂が一体となっている3点ユニットがあり、その奥に洋室が一つある典型的なワンルームだ。一人で住む分には最低限問題無い要素を詰め込んだ部屋と言う表現が一番しっくりくるだろう。私物は何も無いため部屋の中は一層寂しさが引き立っている。まぁそこで過ごす時間は一日に一分も満たない間なので特に気にしたこともないのだが。

 マンションの入り口の自動ドアが見えてきた時、駐車場からこちらに駆けてくる男性の姿が目に入る。何か急ぎの用事でもあるのかと思っていると、その男性は私の前で立ち止まり話かけてきた。

 

「あの、201号室の山背さんですか?」

「はい? そうですけど……」

 

 見知らぬ人だった。

 紺のベレー帽を被り紺色の長袍を着た東洋系の男。その男は私の名前を確認すると人を安心させる柔和な笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「あぁ良かった。今日ゴミ出しの帰りに部屋から出ていくのを見ましてね。初めまして。202号室に新しく越してきたフランクと申します」

「あぁ、どうも。隣の山背です」

「これからご迷惑をかけることもあるかと思いますがよろしくお願いします。これはほんのお気持ちですがどうぞ」

「えぇ、そんな! わざわざありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」

 

 渡された紙袋は白い筆文字が特徴的な庵寿堂のものだった。

 物腰も柔らかく好印象な人だ。そう思うと同時におかしな人が越して来なくて良かったと安堵する。そんな事を考えているとフランクという人の視線がじっと私の顔に固定されていることに気付く。

 

「あの、何か……?」

「最近何か良くない事でもありましたか?」

「え……?」

「あっ! すいません、差し出がましいことを言ってしまって。私、職業がカウンセラーなもので、つい……」

「そうなんですか。凄いですね。会ったばかりなのに直ぐそういう事が分かるなんて」

「まぁそれが仕事ですので。あの、ご迷惑でなければお悩みを聞きますよ?」

「いや、大した事じゃないんで……」

「ふむ。しかしあなたは見たところ問題や不満を抱え込みやすいように見えます。定期的にガス抜きをしないと生活に支障を来しますよ。心当りはありませんか?」

「っ! それは……」

 

 先程のマスターとのやりとりが思い出される。

 やり場の無い嫉妬で今後マスターとの関係に問題がでないとも限らない。

 

「その様子だと既に何かあったようですね。今少し時間はありますか? まだ越してきたばかりでカウンセリングの予約は始めていないので、今でしたら直ぐ始められますが?」

「いえ、でもお金が……」

「ふふふっ、お金ならご心配なく。今日は勿論サービスしますよ。お隣になったのも何かの縁ですから。それにデュエルアカデミアの生徒さんでしたらデュエルカウンセリングができますね」

「デュエルカウンセリング?」

「はい。デュエルカウンセリングとは文字通りデュエルをしながら行なうカウンセリングの事です。普通のカウンセリングのように抱えている問題の解決法を対話の中で見つけて頂くはなく、デュエルをしながら行う事で言葉にできていない心の対話をしていくカウンセリング法です。この方法でしたら一度デュエルをするだけで終わるので時間もかかりません。まぁデュエルをして気晴らしをするとでも思って下されば結構ですよ。どうしますか?」

「えぇっと……その……」

「もしかして今日は都合が悪かったですか? だとしたら引き止めてしまってすいません。ただ第三者だからこそ話せる事もあると思います。そんな時はご相談下さい。隣人として相談に乗りますよ」

「っ!」

 

 確かにこんな悩みを話す事の出来る相手はいなかった。

 このままこの悩みを抱えて過ごせばまた今日のような事にも、いや、もしかしたらもっと大変な事にもなりかねない。

 

 この人になら相談しても良いかもしれない。

 

 そう思った時には体が動いていた。

 

「いや、長い間お引き止めしてしまって申し訳ありません。それではまた」

「あ、あのっ!」

「はい?」

「これからデュエルカウンセリング、お願いします!」

「はい、分かりました」

 

 

 

————————

——————

————

 

「ただいま」

 

 ドアを開けていつも通りの挨拶をしながら靴を脱ぐ。土曜のこの時間は狭霧がまだ仕事をしている時間だ。故に狭霧の返事は期待していない。

 

「…………」

 

 だがサイレント・マジシャンは別だ。いつもならサイレント・マジシャンが先にあの家に着く。だからそこからここまで転移して俺が帰る頃には出迎えてくれる。今日はいつもよりも前の場所で別れたが、それでもサイレント・マジシャンの方が先に家に着くはずである。しかし今日はその返事がなく彼女の気配も感じない。

 やはり怒らせてしまったのだろうか。

 鞄を部屋に放りリビングに向かいながら別れる前のやりとりを思い出す。放課後のサイレント・マジシャンは少なくともメールが来る前までは機嫌が良かったと思う。アカデミアで使う新しいデッキを作ると言った時は珍しく彼女がはしゃいでいたくらいだ。

 

 カチッ、カチッ、カチッ。

 

 リビングにはやはり誰も居ない。静まり返った部屋に壁掛け時計の秒針だけが己の存在を主張するように正確なリズムを刻んでいる。思えばこの家で一人きりになるのは初めてだった。トイレや風呂場では一人になるがそれは限定的な空間での事であって今の状況とは大きく異なる。

 座り慣れているはずのソファーに腰を下ろすだけの事でも近くにサイレント・マジシャンが居ないと違和感があった。この家に初めて来た時を思い出す。いつも食事が並ぶテーブルも、いつの間にか座る場所の決まっていたテーブルを囲む椅子も、眺める程度しか見てなかった薄型テレビも、全てが初めてこの家に来た時のように映る。知っている場所のはずなのにその中にあった重要なピースが欠けてしまったせいなのか、それは全く違った世界に見えてくる。月並な言葉だが、まるで違う世界に来たかのように。実際にそれを体験している俺が言うと笑えない話だ。

 

「……」

 

 落ち着かない。

 座ってからまだ3分と経っていないというのに俺はソファーから立ち上がっていた。胸の奥がモヤモヤすると言うのが正しい表現だろうか。こんな状態ではデッキの構築に身が入らないのは明白。そもそも部屋でカードを広げる気も起きなかった。

 特に目的もなくリビングをうろつくことで気を紛らわせる。途中ふとキッチンが目に入った事でようやく何かを飲むという目的を決まった。冷蔵庫を開きポットに入った黒豆茶をコップに注ぐと残りが一杯分あるかという量まで減る。

 新しいのを作らないとな。

 喉を潤しながら次にやる事を決めた。黒豆茶はいつもより苦かった気がする。 

 コップのお茶を飲み干すとやかんに水を八分目まで入れ火にかける。沸騰したら茶葉が入ったティーバックを沈めるだけだ。だがそのお湯が沸くまでの時間が今の俺には長い。

 リビングに戻り時計を見ると帰宅してから10分も過ぎていなかった。

 

「はぁ……」

 

 今サイレント・マジシャンはどうしているのだろう。

 ここは謝りに行くべきか。それで怒っていなければ笑い話で済む。しかしサイレント・マジシャンが行きそうな場所に心当たりがない。

 もしかしたら何か事件に巻き込まれたかもしれない。そう考えるのは行き過ぎた心配だろうか。だが万が一の時は一刻を争う。こうしている間にも事態が進んでいるはずだ。せめて連絡がつけばいいのだが。

 

「あっ!」

 

 携帯で連絡を取ればいい。簡単な事だった。プライベートでの連絡相手が狭霧しかいないのであることをすっかり失念していた。上着のポケットを漁りスリープ状態の携帯を起動させる。あとは数少ない連絡先が登録されている電話帳からサイレント・マジシャンの携帯の番号を調べれば……

 

「っ……」

 

 電話帳のヤ行に存在するはずの山背静音の名前がない。一応見てみたサ行にもサイレント・マシシャンの名はなかった。

 そこまでしてようやく気付いた。彼女が携帯を持っていないことに。そもそもいつも側にいるので携帯の必要性を感じていなかったし、月々の支払いも積もれば馬鹿にならないと判断していたのだ。が、今はそれが裏目に出ている。そんな事すら忘れているなんて我ながら動揺し過ぎだ。

 連絡する手段が無い以上、俺にある選択肢は二つに絞られる。サイレント・マジシャンを探しに行くか、それともここで待つか。探しに行ったとしても見つかる保証はないし、入れ違いになる可能性もある。待っていれば戻って来た場合入れ違いにならなくて済む事は確かだ。だがここで待っていても確実に戻って来る保証は無い。

 そんな事を考えているうちに思考は堂々巡りを繰り返し、意識が泥沼のような思考の中に沈んでいく。

 

 

 ピィィィィィィィイイ!!

 

 

「っ!」

 

 俺の意識を現実に戻したのはけたたましく鳴り響くやかんの音だった。それから少ししてお湯が沸いた事に気付く。時計を見ればあれから5分程時間が過ぎていた。何かに没頭していると途端に時間の流れは早くなるものだと改めて実感する。やかんにかけた火を消しにキッチンに向う最中、耳に突き刺さる音のおかげで迷っていた思考がクリアになった。普段は耳障りな音でしかないが今回ばかりは感謝しよう。

 

 探しに行く。

 

 結局そう決めた。

 何か事件に巻き込まれていた可能性が捨てきれなかった。入れ違いになった場合を考慮し、部屋の机の上に書き置きを残すことにする。

 

 ”もし家に着いたら携帯に電話を”

 

 机の上にそう書き置きを残して俺は家を飛び出した。しかし何故だが胸騒ぎは増すばかりだった。

 

 

 

————————

——————

————

 

「お待たせしました」

 

 そう言ってカウンセラーのフランクはシティパレスの駐車場に戻って来た。その腕には先程と違いデュエルディスクが装着されている。

 その後の話し合いの結果、デュエルカウンセリングを行う場所をここの駐車場にしたのだ。普通ならあり得ない事だが、このマンションの住人は土曜に車で繰り出していることが多く、昼間のこの時間は駐車場がスカスカになっており、また人通りも全くと言って良い程無いため他人に内容を聞かれる心配がないからこそ実現された事だ。

 流石に会ったばかりのフランクの家に上がり込むことは躊躇われた事も、ここでデュエルをすることになった要因の一つとなっていた。

 

「さて、準備はよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「分かりました。では」

「「デュエル」」

 

 こうしてデュエルカウンセリングの火蓋は切って落とされた。

 なんだかんだ勢いに任せてデュエルをする事になってしまったが、いざデュエルで向き合ってみると一瞬だけ直感的に嫌なものを感じた。それは精霊としての危険信号なのか、とにかく気をつけた方が良いのかもしれない。

 

「私の先攻、ドロー」

 

 初手としては普通な手札。相手が何を仕掛けてくるか分からない以上、ここは慎重に動くことにする。

 

「モンスターをセットしカードを3枚伏せます。これでターンエンド」

「私のターンです。ドロー。私は『L⇔Rロールシャッハー』を召喚します」

 

 場に現れたのは紫色の幻影。それはゆらゆらと形を変えていき蝶のような形へと変化する。だがその姿は酷く不確かで見ているうちに別のものに見えてくるような気もするモンスターだった。

 

 

L⇔Rロールシャッハー

ATK1200  DEF1200

 

 

「ロールシャッハテストと言うのはご存知ですか?」

「ロールシャッハテスト?」

「その様子だとご存じないようですね。ロールシャッハテストとは被験者にインクのしみを見せて何を想像するかを述べてもらい、その言語表現を分析することによって被験者の思考過程やその障害を探るもの。言わば心理テストのようなものです」

「……それが、このモンスターに?」

「えぇ。この如何様にも見えるモンスターをどのように感じるかによってあなたの抱える不安、心配、問題などを解き明かすための手がかりを見つけます。さぁ山背さん。このモンスター、あなたには何に見えますかね」

「何って……」

 

 ぼんやりと揺らぐそのモンスターは気が付けばグニャグニャとよく分からないものに変形していく。蝶のように見えていたはずなのに今となってはそうは見えない。その事に戸惑っていると、

 

「さぁ。何に見えますか?」

 

男の優しい声が響く。それは麻酔の様に私の脳を痺れさせ思考力をじんわりと奪っていく。

 

 “他の事を何も考える必要は無い。今はただこのモンスターが何に見えるのかだけを考えろ”

 

 そう暗示が掛けられたかの様に意識が『L⇔Rロールシャッハー』に自然と集中していく。

 

 “待って! 何かがおかしい! デュエルに意識を戻して!”

 

 理性がなんとかそれに抗おうとしていた。

 

「さぁ」

 

 しかし男の声がその理性を溶かしていく。

 

“ダメ、その男の言葉に惑わされちゃ……ダメ………………”

 

 まるでスピーカーを暗い水の底に沈めていくように理性の声が遠のいていった。それはだんだん自分の声ではなく誰か別の人が画面から語りかけているようにも思える。

 

「さぁ」

 

 いつの間にかもう何も考えられなくなっていた。意識が暗い水の底へ沈んでいく。

 ここにあるのは『L⇔Rロールシャッハー』と私だけ。それ以外の景色がモノクロに変わっていく。

 私はただぼんやりと『L⇔Rロールシャッハー』の姿を見つめていた。

 すると紫色の幻影は姿を変えていく。ゆらゆら揺れながら浮かび上がるシルエットは人型。裾の広がりが徐々に緩やかになっていくロングスカートを履いた女性だ。

 そう思うと紫色の影だったはずの姿に色がついていく。ショートに纏まっている鳶色の髪。人を見下したようなつり上がった目、通った鼻筋に薄い唇。どの顔のパーツも整っており、小顔で細身なスタイルはまさにモデルのそれ。その姿はまさに……

 

「さぁ、何に見えるんです?」

「あ……」

 

————————サイレント・マジシャン……

 

「っ! ん……」

 

 口から出かかった言葉を既の所でなんとか飲み込み意識を取り戻した。何故だがそれを答えたら取り返しのつかない事になってしまう、そんな気がした。すると途端に痺れていた思考はすっきりし、モノクロになっていた景色も元に戻っていった。

 今頭の中に聞こえた声。それは聞こえるはずの無い声だったが、一体なんだったのだろうか?

 しかし今はその疑問を解決するよりも先に聞くべき事があった。

 

「な、何ですか今のは!」

「何とは……おかしな事を言いますね。言ったでしょう、心理テストのようなものだと」

「それにしては何かおかしかったです! 今みたいな事はやめて下さい!」

「ふむ、それではあなたの悩みが分からないのですが。言いでしょう。ならばあなたが見えたものをデッキに聞くとしましょう。『L⇔Rロールシャッハー』でセットモンスターを攻撃。スパイラルマインド!」

 

 『L⇔Rロールシャッハー』の姿がまたよく分からないものに戻ると、紫色の魔力の風が吹く。その風に当てられ露となった『見習い魔術師』はその威力に耐えきれず破壊される。

 

「戦闘で破壊された『見習い魔術師』の効果発動。デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスターをセット出来ます。この効果で私は『水晶の占い師』をセット」

「『L⇔Rロールシャッハー』の効果発動。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、相手のデッキの一番上のカードを表にできる。ピーピングマインド!」

 

 紫色の幻影の中心に一つの閉じられた目が現れる。それが開かれると眩い光を放つ。すると手が操られる様に勝手に動きデッキの一番上のカードを捲ってしまう。そして表になったカードは……

 

「ほう、『ブラック・マジシャン・ガール』ですか。なかなか珍しい、そして可愛らしいモンスターだ。なるほど、つまりあなたが先程見えたのはやはり女性……違いますか?」

「っ! ……それに答える必要は無いです」

「ふふっ、そんなに警戒しなくても、これはただのカウンセリングなのですよ? まぁあなたの内に秘めている事はデュエルが教えてくれる事。カードを4枚伏せて、ターンエンドです」

「このエンドフェイズにトラップカードを発動! 『砂塵の大竜巻』!」

「いいでしょう。どの伏せカードを破壊しますか?」

「対象は私から見て一番右のカード。そしてさらにトラップカード『凡人の施し』を発動します。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札の通常モンスター1体をゲームから除外する。私が除外するのは『ブラック・マジシャン』」

 

 このドローで『ブラック・マジシャン・ガール』が手札に加わったお陰で次のドローは相手に分からなくなった。

 そして『砂塵の大竜巻』のカードから飛び出た竜巻が一番の右のカードを吹き飛ばし破壊する。

 

「その後『砂塵の大竜巻』の効果により手札の魔法・トラップカードを1枚セットします」

「破壊された『コーリング・マジック』の効果を発動します。このカードが相手のコントロールする魔法・トラップカードの効果によってセットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、デッキから速攻魔法カード1枚をセットします。私がセットするのは『相乗り』」

「くっ」

 

 『砂塵の大竜巻』で破壊したカードは外れだったか。

 こちらのセットした『水晶の占い師』を意識して『相乗り』を伏せられたのは痛い。

 

「私のターン、ドロー」

 

 それにしてもこの相手は何かおかしい。

 デュエルをしていて違和感が拭えない。私の中の警戒値は既に振り切られていた。故にこのデュエルを早々に終わらせる方向に舵を切る事にした。

 

「『水晶の占い師』を反転召喚。そしてリバース効果発動。デッキから2枚カードを捲り、1枚を手札に加えます」

「速攻魔法『相乗り』を発動。このカードを発動しターン、相手がドロー以外の方法でデッキ・墓地からカードを手札に加える度に、私はカードを1枚ドローします」

 

 裏側のカードが表になると、そこから『水晶の占い師』が姿を見せる。紺色のロングヴェールを羽織り、同色のフェイスヴェールで口元を隠したその姿はミステリアスさを漂わせる。今は口元が隠れているため顔は確認できないが、彼女が切れ長の目の美人である事を私は知っている。手元の水晶を魔法で浮かび上がらせて、その周りで小さな水晶を回している様子はとてもミステリアスだった。

 

 

水晶の占い師

ATK100 DEF100

 

 

 彼女の効果で捲った2枚のカードは『ブラック・マジシャン』と『魔道化リジョン』。手札に『ディメンション・マジック』があれば『ブラック・マジシャン』を手札に加える可能性もあるけど今回はそれがない。したがってこの選択を私は迷わなかった。

 

「私は『魔道化リジョン』を手札に加えます」

「『相乗り』の効果によってデッキからカードを1枚ドローします」

 

 予想通りの『相乗り』によるドロー。相手の手札は2枚になった。

 

「装備魔法『ワンダー・ワンド』を『水晶の占い師』に装備します」

 

 『水晶の占い師』の手に緑の宝玉が嵌められた短いロッドが現れる。

 

 

水晶の占い師

ATK100→600

 

 

「『ワンダー・ワンド』の効果によりこのカードを装備したモンスターとこのカードを墓地に送ることで、デッキからカードを2枚ドローします」

 

 『水晶の占い師』と『ワンダー・ワンド』が墓地に沈んでいく。

 これで手札は5枚まで増えた。良い流れでデッキが回っている。

 

「『魔道化リジョン』を召喚」

 

 ふらっと場に現れたのは赤い尖り帽を被った赤い長鼻の道化。手首、肩、膝部分は緑色の球状に膨らんでおり、腰部分は赤色の球状に膨らんでいる衣装を着ている。

 

 

魔道化リジョン

ATK1300 DEF1500

 

 

「『魔道化リジョン』がモンスターゾーンに存在する限り私は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに魔法使い族モンスター1体を表側攻撃表示でアドバンス召喚できます。私は『魔道化リジョン』をリリースし『ブラック・マジシャン・ガール』をアドバンス召喚」

 

 『魔道化リジョン』が頭から光に変わって消えていく。そして『魔道化リジョン』のいた場所に魔方陣が現れる。その魔方陣を潜って帽子の天辺から順に姿が露となっていく。まだ顔つきに幼さは残りピンクに染まっている両頬、宝石のように輝く緑色の瞳、腰まで伸ばした長い金髪が特徴的な少女は恐らくデュエルモンスターズ界で一番有名な女の子だろう。形の良い唇は女の私でも触れたいと言う欲望を駆り立てる気持ちがわかる。空色の魔導装束の胸元から僅かに顔をのぞかせる秘峡は小悪魔的な魅力を醸し出していた。手に持った先端に黄色い渦巻きが付いた水色のステッキで深くかぶり過ぎてしまった空色の尖り帽を上げる動作が愛らしい。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000  DEF1700

 

 

 『L⇔Rロールシャッハー』を上回る攻撃力のモンスターを出したと言うのに相手は不気味な薄笑いを変える事は無い。その余裕はこのカードが手札にある事を分かっていたからか。

 

「また『魔道化リジョン』がこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分のデッキ・墓地から魔法使い族の通常モンスター1体を選んで手札に加えます。私が手札に加えるのは『ブラック・マジシャン』」

「『相乗り』の効果で更に1枚ドローします」

 

 正直ここでもう1枚ドローされるのは辛いが、ここはデッキを回すためと割り切った。

 

「手札のレベル7のモンスター『ブラック・マジシャン』を除外し魔法カード『七星の宝刀』を発動。デッキから2枚ドローします!」

 

 手札交換を繰り返したお陰でまだ手札は4枚ある。相手の手札も次のターンのドローで4枚とここまでは互角と見て良いだろう。

 

「さらに装備魔法『魔術の呪文書』を発動。これを『ブラック・マジシャン・ガール』に装備! これにより攻撃力が700ポイントアップします」

 

 『ブラック・マジシャン・ガール』の手元に召喚される分厚い革表紙の魔術書。『ブラック・マジシャン・ガール』はその魔術書をパラパラと捲っていきその魔術の知識を増やしていく。すると緑色の魔力のオーラが目に見えて高まっていくのが分かる。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000→2700

 

 

 これでこのターンで出せる最大火力は整った。

 あの伏せカードに妨害されても打てる手はある。後はこの攻撃を叩き込むだけ。

 

「バトル! 『ブラック・マジシャン・ガール』で『L⇔Rロールシャッハー』に攻撃。ブラック・バーニング!」

 

 『ブラック・マジシャン・ガール』はステッキに魔力を溜め始める。それによりピンク色の魔力球が精製され徐々に大きくなっていく。

 

「永続トラップ『ゲシュタルト・トラップ』を発動。このカードは相手モンスターの装備カードとなります。『ブラック・マジシャン・ガール』にこのカードを装備」

 

 表になったトラップカードからは黒光りする金属製の拘束具が飛び出し、それが『ブラック・マジシャン・ガール』の首を締め上げる。それにより苦悶の表情を浮かべる『ブラック・マジシャン・ガール』の精製していた魔力球の成長は止まった。

 

「装備モンスターはモンスター効果が無効となり、攻撃力と守備力は共に0となります」

「なっ!」

 

 魔力球の成長が止まるだけに留まらず、その拘束具によって『ブラック・マジシャン・ガール』の力は奪われていき、やがて完全に溜めていた魔力が霧散する。それでもステッキを振って魔力を放とうとするが、当然何も出ない。その姿がとても痛々しい。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2700→0  DEF1700→0

 

 

「『L⇔Rロールシャッハー』、返り討ちにしなさい」

 

 相手の無慈悲な命令により『L⇔Rロールシャッハー』の反撃が『ブラック・マジシャン・ガール』を襲う。紫色の魔力の風は私から見てもあまり強力なものではないが、耐性を完全に失った『ブラック・マジシャン・ガール』に耐えられるものではない。

 そしてそれは他人事ではなく私のライフを大きく削っていく。

 

 

山背静音LP4000→2800

 

 

「そして『L⇔Rロールシャッハー』の効果により、あなたのデッキの1番上を表にします。さぁ、あなたが胸の内に隠しているものを見せてもらいましょう。ピーピングマインド!」

 

 再び『L⇔Rロールシャッハー』の体の中央に現れた一つの瞳が開く。そこから放たれた光によって体の制御を奪われ、またしてもデッキの一番上のカードを表にしてしまった。

 

「『神秘の中華鍋』。ほぉ、“神秘”ですか。それは神秘的な、そう。つまりあなたは何か内に秘めた特別な力を持っているのでは?」

「っ!? ……そんなものは私には無いです。『魔術の呪文書』が墓地に送られた時、ライフを1000回復します」

 

 なんなんだろう、この人?

 さっきから言っている事が不気味なくらい当たっている。本当にデュエルで私の事が分かっているのだろうか?

 それを気取られないように表情に出さず口では否定しているが、それすらも見透かしているかのようにこの人は薄らと笑っている。

 

 

山背静音LP2800→3800

 

 

「あくまでシラを切りますか。ですが私には分かりますよ。あなたの心の内が、考えている事が」

「だったら! 私のこの反撃も分かっていましたか? 永続トラップカード『憑依解放』を発動! 自分の場のモンスターが戦闘または効果で破壊された場合、そのモンスターの元々の属性と異なる属性を持つ守備力1500の魔法使い族モンスター1体を、デッキから表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚します! 私は『憑依装着-ヒータ』をデッキから攻撃表示で特殊召喚!」

 

 光に導かれ『憑依装着-ヒータ』が新たに私の場に現れる。背丈は『ブラック・マジシャン・ガール』よりも一回り小さく、活発な印象を受ける少女だ。だが見た目の年齢の割りには魔力が高く、彼女の司る炎属性の魔力は今も溢れ背中まで伸ばした赤髪を揺らしている。格好はシャツを羽織るだけのラフなもので、ボタンを留めていないため正面は臍まで肌色が出ており、黒の見せブラもしっかりと見えてしまっている。だが彼女の場合はそこから女の色気を感じさせる事は無く、見た者は皆元気な少女と言った感想を抱くだろう。

 

 

憑依装着-ヒータ

ATK1850  DEF1500

 

 

 3枚のセットカードがあれば攻撃はまず通らないと思っていたけど、攻撃力を0にされて反撃のダメージまで受けると言うのは予想外だった。けど破壊されたときの保険の準備はあった。これでフィールドで優位に立てる、そう思っていた。

 

「……?」

 

 突如『憑依装着-ヒータ』を囲う様に等身大の五面鏡が出現した。五つの鏡の面にはそれぞれ違う角度で『憑依装着-ヒータ』の姿が映し出される。

 

「えぇ、分かっていましたとも。この鏡にはあなたの心の内に秘めた望みが映し出されます」

「何を……」

「あなたはただこの鏡を見ているだけで良いのです。この鏡には何が映っていますか?」

「そんなの……えっ?」

 

 その五つの鏡にはどれも『憑依装着-ヒータ』が映っていたはずなのに、視線を戻すと真中の鏡の『憑依装着-ヒータ』の像がゆらゆらと歪み始めていた。輪郭が波打ち徐々にその姿が別のものに変化していく。

 背中まで伸びていた赤の髪は鳶色に、大きなルビーのような輝いた瞳はつり上がった切れ長の目に、少しだけ日に焼けていた肌は白く、身長は伸び、正面の肌を曝け出していたカジュアルな衣装は大人の色気を醸し出す高貴なワインレッドのビスチェドレスに変わっていった。鏡に映る女性は『憑依装着-ヒータ』とは似ても似つかない『魅惑の女王LV7』だった。

 

「な、なんで……」

 

 動揺する私を嘲笑うかの様に冷笑を浮かべて鏡に映る彼女に心がざわつく。 すると私の心の揺らぎが伝わるかのように鏡面全体に波紋が広がっていった。

 鏡の中の彼女は途端に胸を押さえて苦しみ始める。それと連動する様に『憑依装着-ヒータ』も胸を押さえて苦しそうに踞る。徐々に鏡面の波紋が激しくなっていくと鏡の中の彼女は悶え、『憑依装着-ヒータ』から苦悶の声が漏れ始める。

 

 そして鏡が砕け散った。

 

 『魅惑の女王LV7』の姿は鏡と共に砕けると『憑依装着-ヒータ』は耳を劈く悲鳴を上げて破壊される。

 何が起きたのか理解が追いつかない。私は呆然とその光景に立ち尽くしていた。

 

「これがあなたの心の内の本当の望みです」

「違う! 私はこんな酷い事思ってませんっ!!」

「本当にそうでしょうか? あなたはこの鏡に映った女性に殺意までとはいかないまでも多かれ少なかれ負の感情を抱いているのでは? ……例えば、嫉妬とか?」

「っ?!」

「ふふっ、図星のようですね。ちなみに今私が発動したのはトラップカード『呪言の鏡』。このカードは相手がデッキからモンスターを特殊召喚した時に発動出来るカードです。そしてそのモンスターを破壊し、自分はデッキからカードを1枚ドローします」

 

 心臓の鼓動が早くなる。

 そんな胸の鼓動さえも相手に見られているのではないかと言う不安に駆られる。夏でもないのに背中にはじんわりと嫌な汗が滲んでくる感覚が不快感をより高まらせる要因となっている。

 自分の胸に秘めていた事を悉く当ててくるこの人がただただ気味が悪かった。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド……」

「私の前に何を隠しても無駄ですよ。さらにトラップカード『マインド・ハック』を発動。500ポイントライフを払い、あなたの手札と場にセットされたカードを全て確認します」

「っ!!」

 

 相手の場の最後のセットカードが露となる。頭を抑える男の人の背後に目を見開いて頭の中を覗いている男の人の影が描かれたそのカードが光る。

 

 

フランクLP4000→3500

 

 

 その光を浴びた私の伏せた2枚のカードは浮かび上がると相手に見えるようにそのカードが表になる。私が伏せていたのはこのターンに伏せた『リビングデッドの呼び声』と先のターンに伏せた『黒魔族復活の棺』のカード。

 そしてその上にはソリッドビジョンで手札のカードが並ぶ。私の残り2枚の手札は『熟練の白魔導師』と『魔導戦士ブレイカー』。

 その光景を見て相手は笑みを深くする。

 

「おや? 『魔導戦士ブレイカー』を抱えていながらそれを出さなかったのですか。このターン『魔導戦士ブレイカー』の効果で私の場のセットカードの内の『ゲシュタルト・トラップ』、または『呪言の鏡』を破壊出来れば、このターンこのような惨状にならなかったのでは? さては、ふふっ。図星を指されて勝負を焦っていますね」

「そ、そんな事無いです! 勝手に人の考えを分かった気にならないで下さい!」

「強く否定する辺り説得力に欠けますよ?」

「……御託は良いです。早くターンを進めて下さい」

「これは失礼しました。私のターン、ドロー」

 

 残り4枚の手札から一体何が出てくるのか。

 こちらの手の内は全てバレているのに相手の手は全く分からない。私が相手を見ても何を考えているのかさっぱり見えてこないのに、相手はこちらを見ているだけで私の考えている事は全て読んでしまう。そんな状況が私の焦りを加速させていく。

 

「『L⇔Rロールシャッハー』でダイレクトアタック」

 

 相手は何も手を打ってくる事無く攻撃に移った。

 このタイミングで私ができる事は『リビングデッドの呼び声』で『ブラック・マジシャン・ガール』を出す事だけ。当然相手は私がその手を打つ事も想定の範囲内のはず。だけど読んでいても相手にセットカードが無い今このタイミングで妨害の可能性は低い。ここでこれを温存してセットカードで対策をされればそれこそこのダメージの受け損になる。なら……

 

「永続トラップ『リビングデットの呼び声』を発動! 墓地の『ブラック・マジシャン・ガール』を特殊召喚します」

 

 私を守るように『ブラック・マジシャン・ガール』が墓地から現れる。

 これにより『L⇔Rロールシャッハー』は溜めてた魔力を元に戻す。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000  DEF1700

 

 

 特にこのタイミングで妨害のカードを発動する様子は無い。

 『リビングデッドの呼び声』を破壊されれば『ブラック・マジシャン・ガール』も破壊されてしまうが、そういった魔法・トラップを除去するカードの代表である『サイクロン』があるならば、『リビングデッドの呼び声』の発動にあわせて発動してくると思う。いや、『サイクロン』を持っているのなら『黒魔族復活の棺』を破壊するために温存している可能性もある。または私がこれから引く『神秘の中華なべ』を伏せたタイミングで破壊を狙ってくる事も考えられるか。どの道この段階で魔法・トラップを除去する手段が無いと考えるのは早計だ。

 

「モンスターをセットし、カードを3枚伏せターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 

 引いたカードはもちろん『神秘の中華なべ』。これも相手には分かっている事。

 『ブラック・マジシャン・ガール』が復活した事で発動条件を満たした私の『黒魔族復活の棺』を警戒してモンスターをセットしてきたのか。しかし私の手札に『魔導戦士ブレイカー』がある事は分かっているのにカードを3枚セットしてきたのはどう言うことだろう?

 考えられるのは本命が破壊される確率を減らすためブラフを混ぜてカードを多くセットしたのか、それともそれを見越した上で罠を仕掛けているのか。何れにしても私の手の内を把握している相手は間違いなく私が『魔導戦士ブレイカー』を出すと思っているだろう。

 ならばその裏をかくために……

 

「私は」

「“『熟練の白魔導師』を召喚”、ですね」

「っ!!」

 

そう思った私の言葉を相手は先に言ってみせた。

 しかし既にカードを置くために勢いづいた体は止められず、『熟練の白魔導師』のカードをデュエルディスクに置いてしまう。

 当然召喚を取り消す事などできる訳無く、魔方陣から白のローブを身に纏った浅黒い肌の屈強な体の男が現れる。先端には水色の宝玉が嵌め込まれた肩の高さまである白銀の杖を持つ姿は堂々たるものだ。

 

 

熟練の白魔導師

ATK1700  DEF1900

 

 

 しかしそんな『熟練の白魔導師』の登場の様子はすっかり頭から抜け落ちていった。

 心臓が一気に高まる。思考が乱れ自分がここに立っている感覚すら怪しい。最早自分の考えの情報が相手に漏れないように取り繕う余裕など無く、気が付けば口から自分の内から沸き上がる疑問の言葉が溢れていた。

 

「どうし」

「“どうしてあなたは私の思考を読めるの”、ですか」

「っ?!!」

「簡単な事です。あなたのカードを見て、デュエルを通して、あなたの考えている事、心の内に秘めている事が伝わってくるのです」

「そ、そんな事……あり得ません……」

「いいえ、事実ですよ。ならば一つそれが分かっていたと言う事を証明しましょう。この瞬間、リバースカードオープン。トラップカード『深層へと導く光』」

「……?」

「『深層へと導く光』は相手が光属性モンスターを召喚・特殊召喚した時に発動できるカード。あなたが闇属性の『魔導戦士ブレイカー』では無く光属性の『熟練の白魔導師』を出すと分かっていたからこそ、私はこのカードを仕掛けていました」

「う、嘘……」

「これが現実です。相手プレイヤーはデッキの上から5枚カードを墓地に送り、6枚目のカードを互いに確認して手札に加えます。これによりあなたのより深層にあるものを見ていきましょう。さぁデッキの上からカードを捲って下さい」

「…………」

 

 完全に裏をかいたと思っていた。しかし実際には完全にそれを読まれ見事にピンポイントで対策されていた。もしかしたら本当にこの人には何もかも見透かされているのかもしれない……

 そんな事を考えながら相手に言われるがままデッキの上に手を伸ばす。

 

「1枚」

 

 相手の優しい声に導かれる様にデッキにカードを捲る。

 最初に捲ったカードは『バスター・ブレイダー』。最上級モンスターでこのタイミングで手札に来てもあまり嬉しくないカード。『熟練の白魔導師』や『奇跡の復活』で蘇生可能なため、これは墓地に送る事ができて良かった。

 

「2枚」

 

 相手の言葉が頭の中に染み込んでくる。その声を聞くと睡魔に襲われたように思考が鈍くなってくる。これは不味い感覚だと理性が訴えかけていた。

 

 “意識を保って! デュエルに集中しないと……”

 

 遠のきそうになる意識を何とか止めてデッキの上のカードに集中する。2枚目に捲ったカードは『マジシャンズ・サークル』。墓地に送られて役に立つカードではない。

 

「3枚」

 

 相手の枚数をカウントする声は催眠術の様だった。聞いているだけなのに意識がだんだんぼんやりしてくる。『深層へと導く光』の効果でデッキのカードを捲っているのに、なぜか相手の声によって体を操られているような気がしてきた。気を抜けば何でも相手の言う事に従ってしまいそうだ。

 

“カードに意識を……”

 

 捲ったカードは『ワンショット・ワンド』だった。多分このデュエルで墓地に送られても良い事は無いと思う。自分のその判断に自信が持てない。

 

「4枚」

 

 相手の声が急に遠くに聞こえた。いや、遠くに聞こえたと言うよりくぐもって聞こえたのか。しっかり意識を保とうとするのが辛い。

 

“このまま意識を委ねてしまおうか……そうしたら楽になれる……”

 

 ふと、私の弱い心がそう囁く。それは甘美な言葉だ。それがいけないことだとは分かっている。ただそれに抗おうにもカードの効果で私はカードを捲らなければならない。まるで相手の言葉に従うように。

 カードを惰性で捲ったがこれは何枚目のカードだっただろう。墓地に送った『漆黒のパワーストーン』だったが、その事に対して何も頭が働かない。

 

「5枚」

 

 その言葉に従ってカードを捲る事に違和感を感じなかった。流れ作業をするようにそのカードをデュエルディスクの墓地に送っていく。

 捲ったカードは『魔導騎士ディフェンダー』だったか。もうそれすらも定かではない。

 

「さぁさぁさぁ、6枚目のカードは何でしょうか?」

 

 相手に言われるがままにカードを捲り、それを相手に見せる。考えるよりも先に手が動いていた。そんな自分を客観的に見ている自分が居る。

 

「『魔法族の里』。それがあなたの心の風景ですか。では私にそれを見せて下さい。そのままカードを発動するのです」

 

 その言葉に従い『魔法族の里』のカードをデュエルディスクに置こうとしている。このまま言葉に流されたら不味い事は分かるのだが、それに抗う気力が起きない。

 

 

————————サイレント・マジシャンっ!

 

 

 そんな時にまたあの声が私の頭の中に響く。

 ピタリ、とカードを置こうとしていた手が止まった。

 

「い……や……」

「どうしてです? 言っていませんでしたが、このターン、そのカードをプレイしなかった場合、相手プレイヤーは2000ポイントのダメージを受けます。このまま発動しなければ2000ポイントのダメージを受けてしまいますよ?」

「っ! だけど……私……は……あな……た……の…………思い……通りには……動かない……」

 

 まだ微睡みの中から抜け出せないかのように意識はぼんやりとしているが、それでも相手に抗う意思が私の体を突き動かす。

 『魔法族の里』のカードを相手の言う通りに発動したら何か良くないことが起きる気がする。直感的に私はそう確信していた。

 

「はぁ……はぁ……『熟練の白魔導師』で…………セットモンスターに攻撃っ!」

 

 体が重い。

 沈みそうになる意識を保とうとするだけで体力がごっそりと抜けていく。運動をした訳でもないのに息が切れる。自分の声が果たして届いたのかも分からなかったが、『熟練の白魔導師』が攻撃のモーションに移ったことに少し安堵した。

 

「攻撃宣言時にトラップカード『DNA定期健診』を発動します」

「……?」

「『DNA定期健診』は自分フィールド上に裏側表示で存在するモンスター1体を選択して発動するカード。そして相手はモンスターの属性を2つ宣言します。選択したモンスターをめくって確認し宣言された属性だった場合、相手はデッキからカードを2枚ドローできます。しかし違った場合、私がデッキからカードを2枚ドローします。さぁ、あなたこのカードが何属性に見えますか?」

「……っ」

 

 最悪のタイミングだった。

 よりにもよってこの頭が碌に回らない時にカードの推理を求められるとは。

 カードの処理を待つように『熟練の白魔導師』の攻撃のモーションが一旦止まる。

 『L⇔Rロールシャッハー』は光属性、魔法使い族のモンスター。思い出してみると相手のデッキのモンスターはこのカード以外分かっていない。他の魔法・トラップもテーマのカードではないため、使用しているカードから相手のセットモンスターを推理できない。

 しかしかと言ってこれ以上黙ったまま思考を巡らせるのは困難な状態だった。

 

「光属性と」

 

 それから逃れるように言葉を紡ぐ。

 咄嗟にその属性を宣言したのは単純に『L⇔Rロールシャッハー』が光属性だったから。安直な推理だが相手が光属性で固めているデッキの可能性もあるので当たる可能性はある。

 そしてあと一つの属性を決める事ができる。この状況で当たる確率は5分の2。デッキのヒントが無いこの状況ではこちらの方が不利だった。

 重い頭を無理やり働かせてあと一つの属性をどれにするか考える。単純な属性別のモンスターの種類ならば地属性がトップ、次点に闇属性と続く。そしてこれが私の限界だった、それ以外はどんな順番で種類が多い属性なのかも分からなかったし、それをセットする必要がある下級モンスターに絞るとなるとさっぱり見当がつかなかった。いや、もしかしたらセットしなくても良いモンスターの可能性もある。そうなるともうお手上げだ。

 

「さぁ、あなたの心の中に浮かんだ属性はなんですか?」

 

 相手の心を揺さ振る声が思考を緩慢にする。

 この言葉に従う訳ではないが、これ以上考えるのは難しい以上このまま直感に委ねてしまったところで結果は変わらないだろう。

 私は目を瞑り真っ先に思い浮かんだ属性を宣言した。

 

「闇属性……」

 

 私が答えると同時に裏側だったモンスターが明らかになる。

 そこから現れたのは赤いシルクハットを被った青白い肌の男性。苔色のローブで胴を隠しているためどんな体をしているかは伺い知ることができない。その男性はこちらの視線に気が付くと紳士のように恭しく御辞儀をしてみせる。と、赤いシルクハットの頭頂部がこちらを向いたその時、肉食獣の顎の如く赤いシルクハットが縦に裂けた。突然の事で虚を突かれた私の表情を見て、その男は悪戯が成功した事を喜ぶように甲高い笑い声を上げる。

 

 

トラップ・マスター

ATK500  DEF1100

 

 

「答えは地属性。残念でしたね、私はカードを2枚ドローします」

「だ、だけど……はぁ……攻撃は続行されます!」

 

 はずれだった。このタイミングでの相手の手札増強は不味い。

 それを誤摩化すように言葉を返したが、自分の心までは騙しきれない。せめてこのフィールドで優位に立てば状況はまだ変わる、そんな思いを託した『熟練の白魔導師』の攻撃が再開される。杖に込められた白い魔力は波打ちながらセットされた『トラップ・マスター』に押し寄せる。しかし、

 

「さらにトラップカード『墓地墓地の恨み』を発動!」

 

相手のさらなるトラップが立ちはだかった。このトラップにより『熟練の白魔導師』と『ブラック・マジシャン・ガール』の足下から紫色の妖しげな煙が吹き出す。それは蛇が獲物を締め上げるようにそれぞれの体に纏わりついていく。二人は魔力で吹き飛ばそうとするが放出した魔力は直ぐに拡散してしまい、かと言って体を動かして振り払おうにも実体のない煙からは逃れられない。そうしている間にも吹き出る煙はその量を増やしていき二人の頭上に吹き溜まりを作っていく。

 

「ふふふっ、これは相手の墓地のカードが8枚以上の場合に発動できるカード」

 

 紫色の煙が二人の顔以外の部分を覆い隠す頃には『熟練の白魔導師』が『トラップ・マスター』に放った魔力も発散していき威力をほとんど失っていた。さらに体力も削られているのか二人の顔色は悪く呼吸も荒い。

 一方、頭上に溜まっていく形の定まらなかった煙は意識を持った一個の生命体のように統制をとって動き始める。やがて煙が作り出したのは二つの不気味な髑髏だった。

 

「そして相手の場の全てのモンスターの攻撃力を0にします」

「んなっ!」

 

 その言葉が死刑宣告だった。

 唐突に地面からの煙の噴出が止まる。

 するとその勢いに支えられ上空に留まっていた髑髏状の煙は重力に従い一気に落ちてくる。二人の顔面、それも乱れた呼吸により開ききった口目掛けて。

 

『『〜〜〜っ!!!!』』

 

 声無き絶叫が響く。

 勢い良く口内から侵入する煙は容赦無く体を蝕みその力を奪っていく。口を閉じてそれを食い止めようにも直ぐに息が続かなくなり、結果それを勢い良く吸い込んでしまう。

 始めは電流を流されているかの如く体をのたうち回らせていたが、時間が経つにつれ抵抗する力も失われていきされるがままに体を蹂躙されていく。

 『ブラック・マジシャン・ガール』は何度も体を弓なりに反らせ、苦しさのあまり涙を流していた。

 

 

熟練の白魔導師

ATK1700→0

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000→0

 

 

 煙が全て二人の体に取り込まれると『ブラック・マジシャン・ガール』は倒れ伏し、『熟練の白魔導師』も膝から崩れた。『墓地墓地の恨み』によって犯された二人の肌は青白く変色してしまっている。

 その悲惨な光景にもはや言葉も出なかった。

 

「さて、では『トラップ・マスター』の反撃を受けて貰いましょう」

 

 呆然としている私を他所に事は進んでいく。相手の言葉を合図に裏だったカードが表になり『トラップ・マスター』が飛び出して来た。

 キヒヒヒヒッと不気味な笑い声を上げながら迫り来る『トラップ・マスター』を迎え撃とうと『熟練の白魔導師』はフラフラと立ち上がる。が、攻撃力を失った『熟練の白魔導師』に迎撃ができるはずもなく、あっさり『トラップ・マスター』に懐に潜られ掌底で弾き飛ばされてしまう。さらにその衝撃は『熟練の白魔導師』を突き抜けて私のライフを削った。

 

「うぅ……」

 

 

山背静音LP3800→2700

 

 

「さらに『トラップ・マスター』のリバース効果を発動。場のトラップカードを1枚破壊します。私が破壊するのはあなたの場に伏せてある『黒魔族復活の棺』」

 

 私のセットカードを全て分かっている相手は違える事なくセットカードを『黒魔族復活の棺』と断じてみせた。『トラップ・マスター』はそのカードの上に移動すると苔色のローブから胴を開けさせる。

 まず目に入ったのはチェーンソー。ローブの内の胴があるはずの部分にそれはあった。さらに体から機械の腕がいくつも生え、その先端には丸のこ、大鋏、ドリルなどの大型の工具がつけられている。それらを駆使して繊細な作業でトラップを解除するのかと思われたが、『トラップ・マスター』はそれらをただ無造作にセットされた『黒魔族復活の棺』へと叩き付け強引に破壊した。

 バトルが終わると私の場には力を失なった『熟練の白魔導師』と『ブラック・マジシャン・ガール』が横たわり、唯一の相手への妨害手段であった『黒魔族復活の棺』は破壊され、ライフを大きく削られていた。

 対する相手は『墓地墓地の恨み』、『DNA定期健診』の札を消費したが、『DNA定期健診』の効果によりその分で消費したカードの分を取り戻している。

 

「はぁ……『ブラック・マジシャン・ガール』を……はぁ……守備表示に変更」

 

 もう相手の思惑に反して『魔法族の里』を発動しないと言う小さな抵抗も許されない。発動しなければ私のライフは700まで削られてしまう。そうなってしまえば『神秘の中華なべ』でライフを回復する手段が残されているとは言え、攻撃力を失った『熟練の白魔導師』を抱えているこの状況では次のターンを凌ぎきれないだろう。

 相手は何も言わずにただこちらを見透かしたように微笑んでいた。

 

「……カードをセットして、フィールド魔法『魔法族の里』を発動」

 

 “結局相手の掌からは逃れられなかった”

 

 そう思った途端に意識が暗闇に沈んでいく。

 

 ポキッ

 

 私の抵抗する心が完全に折れてしまった瞬間だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。