遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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後半バトルはお気に入りの熱いBGMをかけながらどうぞ


学園一

 このバトルロイヤルに各々がつけるタイトルはなんだろうか?

 

 八代は“明日香先生へのデュエルに向けた通過点“、山背さんは“八代のための勝利“といったところか。

 

 俺たちは“学園一への挑戦”。

 

 端から見ればそう思われているのだろう。

 それは一つの事実だ。

 俺で言えばそのタイトルで事が足りる。

 

 だが友はそれだけではない。

 

 そう、これは俺だけが知る“雪辱戦“だ。

 

 

 

————————

——————

————

 

 

大LP4000

手札:2枚

場:『巨大戦艦 テトラン』(カウンター 2)

  『巨大戦艦 カバード・コア』(カウンター 3)

  『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』(カウンター 2、『リビングデットの呼び声』対象)

  『進撃の帝王』

セット:3枚

 

 

山背LP6000

手札:6枚

場:『ブラック・マジシャン』

  『魔道化リジョン』

  『魂吸収』

セット:0枚

 

 

鉄LP4000

手札:4枚

場:『剣闘獣ラクエル』

  『守護神の宝札』

セット:1枚

 

 

八代LP2000

手札:1枚

場:『サイレント・マジシャンLV4』(魔力カウンター 5)

  『王立魔法図書館』(魔力カウンター 3)、

  『マジシャンズ・ヴァルキリア』(『ガガガシールド』装備)

  『魔法族の結界』(魔力カウンター 0)

セット:2枚

 

 

「今度は私からいきますよ! ドロー!」

 

 このバトルロイヤル唯一の女子である山背さんのターンが始まった。

 先のターンは見事に一杯食わされたが、今度はこちらの番だ。山背さんの思惑を崩すべく、まずは隙を伺おう。

 八代の『サイレント・マジシャンLV4』には魔力カウンターが溜まりきっているため、攻撃力が上がることはない。その攻撃力3500はこの場において最高の攻撃力。最上級モンスターの中でもトップクラスの値だ。

 

「『魔導戦士ブレイカー』を召喚」

 

 山背さんが『ブラック・マジシャン』に続いて呼び出したのは赤色の騎士甲冑を身に付けた魔導戦士。『ブラック・マジシャン』の尖り帽をモチーフに作られた兜から僅かに見える表情は引き締まっている。

 

 

魔導戦士ブレイカー

ATK1600  DEF1000

 

 

「『魔導戦士ブレイカー』の召喚成功時、自身に魔力カウンターを一つ乗せます。そして乗っている魔力カウンターの数×300攻撃力がアップします」

 

 これで下級モンスターの中でトップの攻撃力の『剣闘獣ラクエル』を超える。

 

 

魔導戦士ブレイカー

魔力カウンター 0→1

ATK1600→1900

 

 

 ここだっ!

 

 パァァァンッ

 

「えっ?」

 

 乾いた発砲音が戦場を劈く。

 直後、眉間に風穴を空けた『魔道化リジョン』は声も無くフィールドからフェードアウトしていった。

 一瞬の事に取り残された面々に向けて、仕掛け人としての役割を果たすとしよう。

 

「罠カード『フレンドリーファイア』。相手の魔法・罠・モンスター効果が発動した瞬間にこの引き金は引き絞られる。そして弾丸は発動したカード以外のものを撃ち抜く。悪いが『ブラック・マジシャン・ガール』の召喚は阻止させてもらうぞ」

 

 『魔道化リジョン』を撃ち抜いたのは俺の発動した『フレンドリーファイア』によるもの。

 山背さんは未だ驚愕した顔で俺の『フレンドリーファイア』のカードを眺めていた。これで先のターンの借りを少しは返したところだろう。

 『黒・爆・裂・破・魔・導』を手札に加え、『魔道化リジョン』を蘇生させたことから予想していたが、やはりあの様子だと山背さんのハンドには『ブラック・マジシャン・ガール』があったようだ。

 

「『魔道化リジョン』がフィールドから墓地に送られた場合、デッキ・墓地から魔法使い族・通常モンスターを手札に加えます。私はデッキから『ブラック・マジシャン』を手札に加えます」

 

「そしてフィールドの魔法使い族モンスターが破壊されたことで『魔法族の結界』に魔力カウンターが一つ乗る」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 0→1

 

 

 『魔道化リジョン』を失ったことで、このターン追加でアドバンス召喚をすることは不可能。

 考えられる手札から『ブラック・マジシャン・ガール』を出す方法は『ディメンション・マジック』だが、それがあるなら俺の『フレンドリーファイア』を躱すはず。セットカードもないため、このターンの『ブラック・マジシャン・ガール』の危機は一先ず去ったか。

 あとは『魔導戦士ブレイカー』でどう手を打ってくるかだ。

 その効果で破壊対象となるのは俺の場の『進撃の帝王』と『リビングデッドの呼び声』、そして3枚のセットカード。または番長の『守護神の宝札』か1枚のセットカード。

 バトルの前に効果を使うか、それともそのまま仕掛けてくるか。

 

「私は『魔導戦士ブレイカー』の効果を発動。自身に乗った魔力カウンターを一つ取り除く事でフィールドの魔法・トラップを1枚破壊します。私が破壊するのは大さん、あなたの『進撃の帝王』です」

 

「くっ!」

 

 山背さんが選んだのは効果発動だった。

 その命令を受け『魔導戦士ブレイカー』の魔力の籠った一太刀が空を裂き放たれる。

 青白い光の灯った斬撃は“巨大戦艦”の下を潜り、地面すれすれを飛ぶ。

 これを防ぐ手立ては俺に無い。これは厳しい……

 

「いんや、そうはいかねぇな! カウンタートラップ『剣闘獣の戦車』を発動だ!」

 

「っ、やはり伏せていたか……」

 

 八代の苦々しい表情の先、そこで番長の伏せていたカードが立ち上がる。

 俺にとっては救世の、山背さんにとっては凶星となるそのカードから飛び出したのは巨大な二輪で戦場を走るチャリオット。黄金の車首が細長く伸び、それを挟むように下から伸びる銀色の鋭い牙が象の頭を彷彿させる。

 

「自分の場に“剣闘獣”モンスターがいる時、こいつは発動できる。モンスター効果の発動を無効にして破壊するぜ!」

 

「っ!」

 

 そして“巨大戦艦”の船底を抜けた孤状の斬撃がまさに『進撃の帝王』を引き裂こうとしたその時、カードから飛び出したチャリオットがそれを打ち砕いた。

 勢いを殺す事なく突き進むチャリオットは“巨大戦艦”の真下を抜け『魔導戦士ブレイカー』を弾き飛ばす。

 

「救援感謝する」

 

「呵々っ、良いってことよ!」

 

 サムズアップする番長の笑顔が眩しい。共に研鑽しあった同志が横にいると何とも頼もしいものだ。

 

「だがフィールドの魔法使い族モンスターが破壊されたことで、再び『魔法族の結界』に魔力カウンターが一つ乗る」

 

 『魔導戦士ブレイカー』の体が光の粒子となって消え行く中、体の魔力の残滓が空中に展開されている『魔法族の結界』に取り込まれる。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 1→2

 

 

 やはりな。予想していたとはいえ魔法使い族デッキ同士相手も相手で相性がいい。唯でさえ一騎当千の猛者である八代だが、その八代に追い風が吹いている状況はこちらとしては良くない。上手く番長と連携するかが勝負の鍵か。

 

「バトルです。『ブラック・マジシャン』で『巨大戦艦 テトラン』に攻撃」

 

 攻撃対象に選ばれた『巨大戦艦 テトラン』は戦闘では破壊されない。

 ゆえにこのバトルは問題なく凌げる。そう僅かに生まれた安堵を叩き壊すように八代の一手が打たれる。

 

「魔法使い族モンスターの攻撃宣言時、トラップ発動。『マジシャンズ・サークル』。お互いのデッキの攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚する」

 

「マジかよ?!」

 

「不味いっ!!」

 

 相手が魔法使い族デッキでない場合は仕掛ける時にしか使えない『マジシャンズ・サークル』もこの場面なら発動できる。

 そしてこのタイミングは最悪だ。

 『マジシャンズ・サークル』の特殊召喚の条件を『ブラック・マジシャン・ガール』は満たす。

 ここで『ブラック・マジシャン・ガール』の召喚を許せば、『黒・爆・裂・破・魔・導』の発動条件が整うことになる。百歩譲って俺は『進撃の帝王』によって巨大戦艦を守れるから良い。だが番長がそれを受ければ、セットカードもない今フィールドは無事では済まない。このバトルフェイズの総攻撃で一巻の終わりだ。

 山背さんを見ればこれを待っていましたと言うように口元に笑みを浮かべていた。

 嫌な予感がする。まだこれだけじゃない何かが続くと脳が最大級の警鐘を鳴らしていた。

 

「この瞬間を待ってました! 速攻魔法『魔力の泉』を発動!」

 

「「っ!!」」

 

「相手の場の表側表示の魔法、トラップカードのカードの枚数だけデッキからカードをドローします。八代君の場には『ガガガシールド』、『魔法族の結界』、『マジシャンズ・サークル』の3枚のカードがあります。よって3枚ドロー。そしてその後、自分の場の表側表示の魔法・トラップカードの枚数だけ手札を捨てます。私の場の表側表示の魔法、トラップカードは『魔力の泉』、『魂吸収』の2枚。よって手札から捨てるカードは2枚」

 

「おいおい、速攻魔法の『天使の施し』ってか?! シャレになってねぇぞ!」

 

「はっ、先に『強欲な壺』も真っ青なドローを見せておいて良く言うな」

 

 番長の言う通りその効果だけでも絶大なものだ。

 だが、真に恐ろしいのはそこじゃない。

 

「そして『魔力の泉』は発動後、次の相手のターン終了時まで、相手フィールドの魔法・トラップカードは破壊されずに、発動と効果を無効化されません」

 

「んなっ?!」

 

 それはつまり八代の魔法・罠には妨害できない絶対的な効力を付与するということ。それが八代のターン終了時まで続くアドバンテージは計り知れない。

 

「「さらに『マジシャンズ・サークル』の効果で」」

 

「『魔法の操り人形』を特殊召喚!」

 

「『魔導騎士ディフェンダー』を特殊召喚!」

 

 山背さんと八代の場に現れた同じ魔方陣からパペットを操る人形使いと青の重厚な鎧を纏った魔導騎士が現れる。

 

 

魔法の操り人形

ATK2000 DEF1000

 

 

魔導騎士ディフェンダー

ATK1600 DEF2000

 

 

 二人の繰り広げた一瞬の戦術を前に俺はしばし言葉を失っていた。

 

 例えるなら音楽か。

 俺たちのように互いのピンチをカバーするのでは、タイミングを合わせてリズムを刻む次元に過ぎない。

 あいつらの相手の動きに合わせて自分と相手の双方にメリットが生まれるように互いが動き相乗効果を生み出す様は、即興で相手の奏でる旋律に合わせて自らの音を重ねることで味わいが増すジャズのようだ。

 

 遅れて観客席のどこからともなく拍手が聞こえ始める。それは次第に会場全体に広がっていった。

 

 これで八代の場は次のターンまで固まったと言って良いだろう。

 攻撃は『マジシャンズ・ヴァルキリア』に集中させ、その破壊は『ガガガシールド』で防ぐ。『ガガガシールド』を破壊しようとも『魔力の泉』の効果によりそれは叶わない。ならば他のモンスターを効果破壊しようにも『魔導騎士ディフェンダー』がそれを許さない。

 唯一の救いは山背さんが『ブラック・マジシャン・ガール』を出さなかったことか。鑑みるにおそらくデッキの『ブラック・マジシャン・ガール』は手札にあった1枚のみなのだろう。

 

「……俺と軍曹のコンビも即興の割には上出来だと思ってたんだけどよ。ここまで見事なコンビネーションを披露されるとはな。すげぇよ」

 

「あぁ。デュエル中に相手のプレイに魅せられるとは思いもよらなかったと言うのが本音だ。称賛に値する」

 

「いや、そんな。あ、あの。えっと、あ、ありがとうございます!」

 

「素直に受け取らせてもらおう。俺もまさかデュエル中にそんな賛辞を受け取る日が来るとは思わなかったな」

 

 真剣勝負で張りつめていた空気もここで少し和らいだ。

 八代と口を交わす機会などそうあるものではない。

 だからこそ軽口ついでに聞きたい本音が飛び出ると言うもの。

 

「あぁー、こればっかりは認めたくなかったんだけどよ。あの噂はやっぱ本当だったかぁ」

 

「あの噂?」

 

「とぼけなくて良い。これだけ息のあったコンビネーションを見せつけられたのなら嫌でも理解できる」

 

「だから何を言っている? なんの話だ?」

 

「だぁー、もう! だからっ! お前らが、付き合ってるって話だ!!」

 

「えっ?!」

 

「……ん?」

 

「おい? なんでそんな心底不思議そうな顔になる?」

 

「いや、俺と山背が付き合っているという事実はないのだが」

 

「「!?!?」」

 

 一体、八代は何を言っているのか?

 

 そんな皆の疑問が一つとなったかのように会場全体に一瞬の沈黙が訪れる。

 

「いやいやいや、嘘だろ?! だってお前ら学校来る時も帰る時も一緒じゃん! ってか学校の移動の時もずっと一緒だし、昼飯の時も一緒じゃん! 逆にそれで付き合ってないってどういう事なんだ??」

 

「あ、あぁ! 誰にも無関心だったお前だが、山背さんにだけは心を開いているように見えた! ただならぬ仲なのは間違い無いだろう?!」

 

「えぇっと……その……」

 

 モジモジと顔を赤らめる山背さんの様子を見る限り、満更でも無いようだ。しかし真面目になぜそんなことを聞かれているのか理解できないというように顎に手を当て考え込んでいる八代の姿を見るとそれがポーカーフェイスなのか、本当にそのような事実がないのかの判断がつかない。

 

「うがぁぁぁぁ!! ったくモヤモヤしやがるっ!!」

 

「一体、どっちなのだ……」

 

「あ、相手の場にモンスターが増えたことで攻撃の巻き戻しが起きます。『ブラック・マジシャン』で『巨大戦艦 テトラン』を攻撃! 黒・魔・導・波っ!!」

 

「あっ! 話はまだっ!」

 

 この会話を打ち切るように山背さんはデュエルに戻った。

 軽い動作で飛び上がった『ブラック・マジシャン』は『巨大戦艦 テトラン』の真上で杖を振り上げる。一秒も要さずに魔力を溜めた杖を振り下ろすと、深緑の魔力が幾重の稲妻のように『巨大戦艦 テトラン』に降り注ぐ。

 だが、その一撃を受けても巨大戦艦は堕ちない。爆煙が晴れると依然として高度を維持する『巨大戦艦 テトラン』の姿があった。

 無論、巨大戦艦が戦闘破壊できない事は山背さんも分かっている。

 狙いはそこじゃない。

 

 

巨大戦艦 テトラン

カウンター 2→1

 

 

「くっ、カウンターを削ってきたか!」

 

 『巨大戦艦 テトラン』の独自効果。魔法・トラップを破壊する力を発揮するには自身に乗ったカウンターを取り除く必要がある。そしてそのカウンターは戦闘を行う事でも消費される。

 山背さんはそれを狙ったのだ。

 

「続いて『魔法の操り人形』で『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』に攻撃!」

 

「攻撃力は『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』の方が上だが、何を仕掛けてくる?」

 

 話を戻す間も与えない連撃に、こちらも否が応でもデュエルに集中させられる。

 

「この攻撃宣言時、速攻魔法『騎鼓堂々』を発動します。墓地の装備魔法『ワンダー・ワンド』を『魔法の操り人形』に装備します。さらに魔法カードが発動したことで、『魔法の操り人形』に魔力カウンターが1つ乗り、自身に乗っている魔力カウンターの数×200ポイント攻撃力を上昇させます」

 

「なるほどな。だが『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』は戦闘では破壊されん!」

 

 

魔法の操り人形

魔力カウンター 0→1

ATK2000→2700

 

 

 両手に剣を握りしめた人形は糸で操られているとは思えない速度で地を駆ける。人形は『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』の放つ弾幕の隙間を縫い、操り手は弾丸が掠りもしないことを嘲り笑う。

 逆手持ちの剣による斬撃はビック・コアのコアの一つに十字を刻んだ。

 

 

大LP4000→3700

 

 

「『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』が戦闘を行ったことで、自身に乗ったカウンターを一つ取り除く」

 

 

巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ

カウンター 2→1

 

 

 これで『巨大戦艦 ビック・コアMark-Ⅱ』のカウンターは1つ。次の八代のターンで攻撃を受ければ、カウンターがなくなり攻撃しても自壊は必至。確実にこちらの戦力を削ってきたか。

 

「これでバトルは終了です。魔法カード『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを2枚ドローし、手札から闇属性モンスター『ブラック・マジシャン』を除外します」

 

 バトル終了などとよく言ったものだ。

 これはただの手札交換ではない。これでもう一波乱の準備が整ったわけだ。そう、これで『魔法の操り人形』に魔力が溜まった。

 

 

魔法の操り人形

魔力カウンター 1→2

ATK2700→2900

 

 

山背LP6000→6500

 

 

「『魔法の操り人形』は自身に持っている魔力カウンターを2つ取り除くことで、フィールドのモンスター1体を破壊します。私が破壊するのは『剣闘獣ラクエル』」

 

 『魔法の操り人形』の目が不気味に光る。

 ズブりと肉を貫く音が響いたのは直後のことだった。

 『剣闘獣ラクエル』の胸から刃が飛び出ていた。背後に音もなく現れた人形がその剣を背中に突き立てたのだ。声もなく『剣闘獣ラクエル』は破壊される。

 

 

魔法の操り人形

魔力カウンター 2→0

ATK2900→2500

 

 

「『ワンダー・ワンド』の効果を発動! このカードと装備対象モンスターを墓地に送り、カードを2枚ドローします」

 

 『魔法の操り人形』を残すことよりも手札を取ったか。

 これで山背さんの手札は6枚まで回復した。

 

「墓地の『ネクロ・ディフェンダー』の効果を発動。このカードを墓地から除外し、『ブラック・マジシャン』に次の鉄さんのターンのエンドフェイズまで、戦闘破壊耐性を与え、私の戦闘ダメージを0にします」

 

 

山背LP6500→7000

 

 

「ライフポイントが7000……か」

 

「カードを4枚セットしてターンエンドです!」

 

 戦闘耐性が付与された『ブラック・マジシャン』に4枚の護りの札。これは固い。

 この布陣に番長はどう挑むか。それとも……

 番長の視線の先にはやはり八代がいた。

 しかし八代だけ見ていてはこのバトルロイヤルを制することはできないぞ。

 

 

 

————————

——————

————

 

 1ターン1ターンの密度が濃い。

 山背さんのライフはこれで7000まで跳ね上がり、削りきるのに骨が折れそうな数値になった。

 幸いなのは初手で博打に出たせいでうまくターンが巡ってこないのではとヒヤヒヤしたが、どうにか『守護神の宝札』を残してターンは回ってきたことだろう。

 

「こっからは俺のターンだ。『守護神の宝札』の効果により、俺は通常ドローが2枚になる!」

 

 『裁きの天秤』による4枚ドローのおかげで、これで手札が6枚に戻った。反撃の札は整っている。

 

「まずは俺たちの戦いの舞台を整えるかぁ! フィールド魔法『剣闘獣の檻-コロッセウム』を発動!」

 

 発動した『剣闘獣の檻-コロッセウム』によって周りの景色が一変する。コンクリートの床は岩が転がった土の地面に、デュエル場を囲む客席は無骨な岩造りの映像へと切り替わる。そしてそれらを覆うようにドーム状の岩が地面から生えてくる。

 

「そしてこの戦場で戦う戦士を呼び出すぜ! 魔法カード『予想GUY』を発動! 自分の場にモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する。来い! 『剣闘獣アンダル』!」

 

 召喚に応じ現れたのは隻眼の巨熊。黒色の毛並みの上から鎧を身につけ、拳には鋭い棘があるメリケンサックを装備している。

 

 

剣闘獣アンダル

ATK1900  DEF1500

 

 

「デッキからモンスターが特殊召喚されたことにより、『剣闘獣の檻-コロッセウム』にカウンターが1つ乗る。そして場の“剣闘獣”の攻撃力、守備力はこのカウンターの数×100ポイントアップする」

 

 フィールドに散らばる岩に彫り込まれた回路のようなラインに一瞬青白い輝きが走る。戦場に立つ『剣闘獣アンダル』はフィールドの恩恵を受け放つ闘気を膨らませる。

 

 

剣闘獣の檻-コロッセウム

カウンター 0→1

 

 

剣闘獣アンダル

ATK1900→2000  DEF1500→1600

 

 

「そして俺の場に” 剣闘獣”がいる場合、手札の『スレイブタイガー』は特殊召喚できる」

 

 入場口から駆け参じたのは腰回りに鎧を纏った虎。剣闘獣に飼われている虎だけあって、直ぐにアンダルの横に並び立つと安堵したのか僅かに尻尾を揺らしている。

 

 

スレイブタイガー

ATK600  DEF300

 

 

 さて、こっからが勝負どころ。このターン倒すモンスターはすでに決めている。

 俺の行く手を阻むあの心底気に入らねぇモンスターだ!

 

「『スレイブタイガー』は自身をリリースすることで、自分の場の“剣闘獣”モンスター1体をデッキに戻し、デッキから新たに“剣闘獣”モンスターを1体特殊召喚する。俺は『剣闘獣アンダル』をデッキに戻し、デッキから『剣闘獣ムルミロ』を特殊召喚する!」

 

 『スレイブタイガー』の上に跨ったアンダルはコロッセウムの選手控え口に戻っていく。

 入れ替わって現れたのは尾びれが二股に割れ、二足歩行を可能にした青肌の魚人。両腕から足にかけて広がる水かきはマントを思わせる。

 

 

剣闘獣の檻-コロッセウム

カウンター 1→2

 

 

剣闘獣ムルミロ

ATK800→1000  DEF400→600

 

 

「『スレイブタイガー』の効果によって特殊召喚されたモンスターは“剣闘獣”モンスターの効果によって特殊召喚されたものとして扱う。これにより『剣闘獣ムルミロ』の効果発動! フィールドの表側表示のモンスター1体を破壊する。俺が破壊するのは『マジシャンズ・ヴァルキリア』!」

 

 両肩に乗せた巨大な巻貝の内部のプロペラが回転し吹き始める風に乗せ、光る鱗が吹雪のように『マジシャンズ・ヴァルキリア』に吹き付ける。

 その攻撃を前に『マジシャンズ・ヴァルキリア』は“我”と書かれた盾を構えた。

 衝撃は一瞬。

 盾で鱗の連撃を凌ぎ切った『マジシャンズ・ヴァルキリア』は無傷。

 

「? ……『マジシャンズ・ヴァルキリア』は『ガガガシールド』の効果により、1ターンに2度まで戦闘、効果で破壊されない」

 

「んなもん百も承知よ! 俺はさらにモンスターをセット」

 

「っ!」

 

 八代の表情に苦々しさが見える。どうやらこの手、奴は知っているようだ。

 

「そして場の『剣闘獣ムルミロ』と今セットした『剣闘獣ベストロウリィ』をデッキに戻し、融合召喚! 現れろ! 『剣闘獣ガイザレス』」

 

 緑と青、二つの魂が融けあい新たな魂が紡がれる。交わったひとつの光から姿を現したのは重厚な深緑の鎧を纏った緑色の鳥人。赤い鬣を靡かせ羽ばたくそれはフィールドに厄災を届けるように黒い旋風を巻き起こす。

 

 

剣闘獣ガイザレス

ATK2400→2600  DEF1500→1700

 

 

「『剣闘獣ガイザレス』が特殊召喚に成功した時、場のカードを2枚まで破壊できる。俺が破壊するのは『マジシャンズ・ヴァルキリア』と山背さんの『魂吸収』」

 

 ムルミロ同様に肩に搭載されたファンによって巻き起こした風に乗せ、羽根の刃を『マジシャンズ・ヴァルキリア』、『魂吸収』のカードに降り注がせる。

 守りのない『魂吸収』のカードは砕け散ったが、『マジシャンズ・ヴァルキリア』は『ガガガシールド』によって今の一撃も防ぎきった。

 ますは山背さんのライフ回復源である『魂吸収』を破った。

 そしてまた『ガガガシールド』は無敵の盾ではない。立て続けにムルミロ、ガイザレスの強襲を受け表面に罅が広がっている。

 

「バトルだ! 『剣闘獣ガイザレス』で『マジシャンズ・ヴァルキリア』を攻撃!」

 

  風をつかんだガイザレスの翼はとうとう『ガガガシールド』を砕き『マジシャンズ・ヴァルキリア』の体を宙高く撥ねとばす。

 『魔導騎士ディフェンダー』の効果は場の魔法使い族モンスターが破壊される代わりに場の魔力カウンターを取り除くことができる効果を持つ。だが八代はそれを使わない。

 

「よし! まずは厄介な壁を撃破っ!!」

 

 『マジシャンズ・ヴァルキリア』は甲高い断末魔とともにコロッセウムから退場した。

 その理由は簡単。

 

「『剣闘獣ガイザレス』の効果発動。ガイザレスがバトルしたバトルフェイズ終了時にこのカードをデッキに戻し、デッキより『剣闘獣ベストロウリィ』以外の“剣闘獣”モンスターを2体特殊召喚できる」

 

 仮にあそこで『魔法騎士ディフェンダー』の効果を使えば、ここで『剣闘獣ムルミロ』を俺が出した場合に誰も守れないからだ。

 

「俺がデッキから出すのは『剣闘獣エクイテ』と『剣闘獣ダリウス』」

 

 ガイザレスの姿が光の球体へと変わると、二つに分かれ新たなモンスターを象る。

 一つは二足歩行の馬型の獣人。もう一つは四足歩行の翼を生やした半人半馬の鳥獣人。いずれも鎧を纏い武装したこのコロッセウムの剣闘士だ。

 

 

剣闘獣の檻-コロッセウム

カウンター 2→3

 

 

剣闘獣エクイテ

ATK1600→1900  DEF1200→1500

 

 

剣闘獣ダリウス

ATK1700→2000  DEF300→600

 

 

「“剣闘獣”の効果によって特殊召喚されたエクイテ、ダリウスはそれぞれ効果を発動! エクイテの効果により、墓地の“剣闘獣”と名のつく魔法・罠を1枚手札に加える。俺が回収するのは『剣闘獣の戦車』。そしてダリウスの効果により墓地から“剣闘獣”モンスター1体を復活させる。甦れ、『剣闘獣ラクエル』!」

 

 ダリウスが鉄の鞭で地面を叩く。地が割れ中から拳を突き上げて『剣闘獣ラクエル』が飛び出す。これであいつを呼び出す条件は整った。

 

 

剣闘獣ラクエル

ATK1800→2100  DEF400→700

 

 

「フィールドの『剣闘獣ラクエル』と“剣闘獣”モンスター2体をデッキ戻し、こいつは融合召喚できる!」

 

 ラクエル、ダリウス、エクイテの三つの魂が交わり、一際大きい魂の輝きがコロッセウムを照らし出す。

 

「百獣の王の力宿し傭兵よ! 幾千の決闘の果て! 敗者を積み上げ、彼の塔の頂きに君臨せよ! 融合召喚! 『剣闘獣ヘラクレイノス』!!」

 

 三つの魂が混ざり合い現れたのは金色の毛並みの獣人。筋骨隆々の体つき、肩には黒い虎を思わせる縦縞が入っている。腹部から脚部にかけての黒色の毛並みからも分かる発達した筋肉の上から纏った鎧。それは胸部から腹部、脚部にかけて綺麗にエメラルド、サファイヤ、ルビーと塗り分けられている。

 右腕の得物は金色の大斧、左にはワニを思わせる巨大な鱗で固められた金色の盾に身を固め、今宵の相手は誰かとフィールドを見渡す。。

 目に留まったのはやはり八代の『サイレント・マジシャンLV4』。その視線は数秒間もの間、揺らぐことなく釘付けとなっていた。

 

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK3000→3300  DEF2800→3100

 

 

 コロッセウムに最強の剣闘士が登場の景気付けとばかりに雄叫びを上げる。腹の底から竦みあがらせるようなその声はコロッセウムを、観客を震撼させた。

 しかしコロッセウムの恩恵を受けても尚、攻撃力は『サイレント・マジシャンLV4』に僅かに届かない。

 だが俺にはそれを倒すための策も保険もある。

 

「そして俺は装備魔法『剣闘獣の闘器マニカ』をヘラクレイノスに装備! これによりヘラクレイノスは戦闘破壊されなくなる!」

 

 大斧を持つ右腕、そこを覆うように赤銅の小手が新たに装着される。上腕部に光る赤い宝玉は闘気に呼応するように熱い光を放つ。

 

「カードを1枚伏せターンエンドだ!」

 

 これでやることは全てやりきった。

 2巡目のターンのラストを飾るのは八代。やはりこのターンを迎えると、この場の全員の視線の集中度が段違いだ。誰しもがこのターンの八代の手を見逃すまいと意識を向けている。

 しかしそんな視線を集めても八代は落ち着いた様子でターンを始める。

 

「俺のターン!」

 

 このターン、八代は『サイレント・マジシャンLV4』の効果を使い『サイレント・マジシャンLV8』を呼び出す。それがわかっているからこそ俺はこのカードを仕掛けているのだ。

 ヘラクレイノスには悪いがこの戦場でサイレント・マジシャンとぶつかることはない。八代もわかっているだろうが、この罠がそれを止める。

 

 

バチッ! バチバチッ!!

 

 

「っ?!」

 

 唐突に地面から吹き出た紫電が俺の魔法・罠ゾーンに迸る。それは八代、軍曹、山背さんのフィールドにも広がっていく。

 ソリッドビジョンの故障。一瞬、そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

「罠カード『トラップ・スタン』」

 

 しかしその一言が、そんな浅はかな俺の考えを無に帰した、そして同時にこのターンの主導権が誰に渡ったのかを明白にした。

 

「なん、だと……?」

 

 『トラップ・スタン』はこのターンの間、フィールドのあらゆる罠の効果を無効にする力を持つカード。

 しかし『剣闘獣ヘラクレイノス』は手札1枚をコストに魔法・罠を無効にする効果を持つ。一見、止めるのは造作もないように思える。

 だが忘れてはいけない。八代は山背さんの『魔力の泉』によってこのターンまで、あらゆる魔法・罠を無効にされないのだ。

 そうして確実に『トラップ・スタン』を通す状況を作ることで、このターンの罠を全て封じ込めた。

 

「読み違えたな。『剣闘獣の戦車』を発動するつもりだったか? そんな見え据えた手で俺がサイレント・マジシャンの破壊を許すはずがないだろう! このスタンバイフェイズに『サイレント・マジシャンLV4』は『サイレント・マジシャンLV8』に進化するっ!!」

 

 5つの魔力球に蓄えられた魔力が解放され『サイレント・マジシャンLV4』は光の中に溶け込んでいく。

 光の中から現れた姿はすっかり大人びた女性のものへと変わっていた。風に靡く絹のような白髪を撫で付けながら、湖面のように静かな蒼い瞳で戦場を一望する。その一つ一つの落ち着いた所作に気が付けば魅入ってしまっていた。

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK3500  DEF1000

 

 

剣闘獣の檻-コロッセウム

カウンター 3→4

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK3000→3400  DEF2800→3200

 

 

 俺の意識を戻したのは八代のデュエルを続ける声だった。

「『王立魔法図書館』の効果発動。自身に乗った魔力カウンターを3つ取り除きカードを1枚ドローする」

 

 魔力によって本棚が動く『王立魔法図書館』内部の魔力球が八代のデュエルディスクに吸い込まれる。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

 これで八代の手札は3枚。内1枚は『魔力掌握』。『王立魔法図書館』の魔力カウンターも使い切った状況を作ったということは、次の一手は決まっている。

「『魔力掌握』を発動。『魔法族の結界』に魔力カウンターを1つ乗せる。そしてデッキから『魔力掌握』を手札に加える」

 

 コロッセウムの上空に展開される巨大な魔法陣に4つ目の魔力球が浮かぶ。魔法陣の魔力が充足したことで、その光は明滅を繰り返す。

 

魔法族の結界

魔力カウンター 3→4

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 0→1

 

 これにより『魔法族の結界』の効果で八代の手札は7枚まで増加する。そこからの展開は未知数だ。

 

「『魔法族の結界』の効果発動。このカードと自軍の場の魔法使い族モンスターを墓地に送り、このカードに乗った魔力カウンターの数ドローする。『魔導騎士ディフェンダー』を天に捧げ、『魔法族の結界』に乗った魔力カウンターの数は4つ。よって4枚ドロー!」

 

「はっ! 人にはふざけたドローだとか抜かしてやがったが、お前も大概じゃねぇか」

 

「これでも準備の手間やコストを考えれば妥当なものだと思うがな」

 

 『魔導騎士ディフェンダー』が上空の魔法陣に引き寄せられると、4つの魔力球と混ざり合い光の筋となって八代のデュエルディスクに吸い込まれる。

 果たしてこの4枚のドローは何をもたらすのか?

 

「そして俺は、魔法カード『死者蘇生』を発動!」

 

「「っ!」」

 

 このタイミングでの『死者蘇生』。引きの強さに驚かせると同時に「何を?」という疑問が浮かぶ。単純に強力な効果、ステータスを持つモンスターなど墓地には居ないはず。

 既に7枚の手札を持つ八代が思い描くルートを俺たちは追いかけることができないでいた。

「俺が蘇生するのは山背さんの『D・D・M』!」

 

 地面に墓地へのゲートが開き、そこを潜って来たのは頭までフードですっぽり覆う黒のローブを纏った魔術師。その力を抑えるかのようにローブの上から茶のベルトで肩や腕、腰を縛り上げている。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 1→2

 

D・D・M

ATK1700  DEF1500

 

 『D・D・M』は除外されているモンスターを呼び出す効果を持つモンスター。だが八代が除外しているモンスターは1体。

 

「手札の『魔力掌握』を捨て『D・D・M』の効果発動。除外されている『見習い魔術師』を守備表示で特殊召喚する」

 

 『D・D・M』の腕に刻まれた魔力回路に赤い魔力が通る。すると『D・D・M』の姿が、いや、目の前の空間が捻じ曲がったことで光が曲げられたせいか。その歪みに耐えきれなくなったのかガラスを叩き割ったかのような音を立て空間が砕けた。中から赤い鉢巻を額に巻いた魔術師が飛び出てくる。

 

 

見習い魔術師

ATK400  DEF800

 

「『見習い魔術師』の効果。このカードの特殊召喚に成功した時、魔力カウンターを乗せることができるカードに魔力カウンターを1つ乗せる。俺は『王立魔法図書館』に魔力カウンターを乗せる」

 

 『見習い魔術師』が打ち出した魔力球が『王立魔法図書館』の内部に浮かぶ。ターン開始時に全ての魔力カウンターを消費したはずなのに気が付けばもう元の状態に戻っていた。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 2→3

 

「そして再び魔力カウンターが3つ溜まったことで『王立魔法図書館』の効果発動。デッキからカードを1枚ドローする」

 

 これで八代の手札が6枚に回復する。『魔力掌握』を『D・D・M』のコストにした事で、いよいよ手札で見えるカードは無くなった。

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

 『死者蘇生』からの魔法使い連続召喚を見せた八代だが、展開したモンスターのステータスはどれも俺や軍曹のモンスターには遠く及ばない。

 行動の表面だけをなぞれば『死者蘇生』は『王立魔法図書館』に魔力カウンターを貯めるための布石に見える。だがそれだけのために強力なカードを切るのは違和感しかない。

 そう、この違和感は正しい感覚だ。

 例えるなら連想ゲームか。ヒントが少ない状態では当然誤った答えに辿り着く。八代が描く答えに至るには切られるヒントを辿るしかない。

 

「装備魔法『ワンダー・ワンド』を『D・D・M』に装備。攻撃力を500ポイントアップさせる」

 

山背さんも使っていた魔法使い族専用のサポートカード。その真価は攻撃力上昇ではない。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 0→1

 

 

D・D・M

ATK1700→2200

 

 

「そして『ワンダー・ワンド』の効果発動。装備対象モンスターとこのカードを墓地に送りカードを2枚ドローする」

 

「一体このターンに何枚ドローする気なんだ……」

 思わず、といったように軍曹がこぼす。

 『魔力の泉』により、八代の魔法、罠は無効にできず、破壊もされない。さらに『トラップ・スタン』によって罠を封じられているため、八代の動きに干渉ができない。

 速攻魔法や手札誘発のカードがあれば別だが、あの様子では軍曹も俺と同じだろう。

 このターンの八代の動きを指を咥えて見ていることしかできない。

 

「1000ポイントライフを払い、魔法カード『拡散する波動』を発動。このターン『サイレント・マジシャンLV8』は全てのモンスターに攻撃が可能となる」

 

「まだ自分のライフを抉るのか?!」

 

八代LP2000→1000

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 1→2

 

 

 このデュエル、フィールドや手札を見れば八代が優位に立っている。

 だがライフを見ると山背さんが抜きん出ており、逆に八代が最下位だ。1000のライフなんて下級モンスターで小突いただけで消える僅かなもの。そんな状態にも関わらず八代の様子にはまるで危機感がない。

 

「魔法カード『タンホイザーゲート』発動。このカードは場の攻撃力1000以下の同じ種族のモンスター2体を選択して発動できる。俺が選ぶのは『見習い魔術師』と『王立魔法図書館』。そして選択したモンスターのレベルは2体のモンスターのレベルの合計となる」

 

「ここでレベルを調整……?」

 

 レベルを変化させるカードは珍しいが、使用されるケースとして一般論で言えばレベルを変化させるのは多くの場合、その後のシンクロ召喚に繋げられる。

 しかし八代はこの学園でシンクロ召喚を見せたことはない。シンクロ召喚のためでなければ一体なんのために?

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 2→3

Level4→6

 

見習い魔術師

Level2→6

 

 

「『王立魔法図書館』の魔力カウンターを3つ取り除き、カードを1枚ドローする」

 

 確かにカードは消費している。だが『王立魔法図書館』によってのドロー供給によって手札は未だに6枚維持している異常さに目を奪われていた。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

 だが手札を維持するだけの『タンホイザーゲート』というのはやはり腑に落ちない。

 『死者蘇生』から続く違和感。一連の流れがこの盤面を作り出す事に意味があったとしたら……

「これで条件は整った」

 

 果たして俺の予感は的中した。

 

「このカードは場のレベル6以上の魔法使い族モンスター2体をリリースし、手札から特殊召喚できる。俺はレベル6となった『見習い魔術師』、『王立魔法図書館』をリリース!」

 

 『見習い魔術師』、『王立魔法図書館』の体が魔力に変換されていき、黒と白の光へと昇華していく。二つの光は天に昇りながら混じり合い、やがて一本の光柱となると、それを中心に暗雲が立ち込める。

 

「出でよ、『黒の魔法神官』!」

 

 光の柱が黒で裂ける。

 新たに現れたのは黒の魔法衣を纏った魔術師。衣装の隙間から覗く無骨な筋肉と言い浅黒い肌と言い、『サイレント・マジシャンLV8』の出で立ちとは対照的だ。肩の高さまである深緑の杖は振るわれるだけで、暗雲から青い雷が辺りに落ちる。

 

 

黒の魔法神官

ATK3200  DEF2800

 

 

「ははっ……すげぇな」

 

「召喚条件の厳しい最上級魔術師が並ぶ光景を目の当たりにしようとは……」

 

 無意識に乾いた笑いが漏れた。

 怒涛の展開に感嘆しか浮かばない。何より恐ろしいのは此れだけの展開をして見せたにもかかわらず、手札が5枚残っているという事だ。

 そして沈黙していた戦王の猛攻を俺は目に焼き付けることになる。

 

「バトルだ! 『サイレント・マジシャンLV8』で大の“巨大戦艦”モンスター全てに攻撃!」

 

 攻撃対象から『剣闘獣ヘラクレイノス』が外れたのは戦闘破壊耐性と、その効果ゆえか。

 

「軍曹っ!!」

 

 俺の叫びは虚しく、白い光に飲まれていく戦友をただ見ていることだけしかできなかった。

 

 

 

————————

——————

————

 

 天に描かれた巨大な魔法陣。大きさは『魔法族の結界』に匹敵する。

 だがあれは小規模な村の魔法使いが集まって描くもの。それを一人の魔法使いが作ってしまうのだから驚きだ。

 魔法陣の中心に浮かぶ白の魔法使いが掲げる杖先には戦艦をも飲み込まんばかりの巨大な魔力が蓄えられている。

 その光は立ち込めていた暗雲を照らし天をも焦がさん勢いだ。まるで人の文明を終わらせに来た神の使いのように。

 

「くっ、参ったな……」

 

 あれに対する策はない。

 ただ耐える。俺にできるのはそれだけだ。

 

「軍曹っ!!」

 

 戦友の声が聞こえる。

 何もできない虚しさを、悲しみを、嘆きを入り混ぜたようなそんな声。

 

 そんな顔をするな、番長。

 

 これを受けようが俺はまだやられん。

 

 そんな言葉をかける間も無く、そうして三本の極光が魔力球から“巨大戦艦“の艦隊めがけて放たれる。その一つ一つが戦艦の主砲をも上回る太さ。それらが”巨大戦艦“を飲み込み押し寄せる。

 そしてその衝撃が、来る!

 

「くぉぉぉおおおおっ!!」

 

 “巨大戦艦”を盾にして尚もこの威力。

 体の芯を捉えた衝撃は光の中で俺の体を浮かせ、後方へと弾き飛ばす。

 両足が地面を擦るようになってからは後ろに仰け反り倒れそうになるのを堪える。

 

 

巨大戦艦 テトラン

カウンター 1→0

 

 

巨大戦艦ビッグ・コアMk-Ⅱ

カウンター 1→0

 

 

巨大戦艦 カバード・コア

カウンター 2→1

 

 

大LP3700→1600

 

 

「カードを3枚セットし、ターンエンド」

 

 微かに戻った聴覚が捉えたのは八代のターンエンド宣言。

 バトル終了後のダメージは0。

 このターンを凌ぎ切れたらしい。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 カードを握る手が震えている。

 残りライフと俺に打てる手を考えるに、このターンがまともに動ける最後のターンになりそうだ。

 だが敵は強大。こちらの攻勢に備える札は山背さん、八代共に厚い。

 デュエルの腕は八代も然ることながら、山背さんも見事なものだ。モンスターの展開こそ、『ブラック・マジシャン』1体のみだが、場のセットカードは4枚と堅い上にライフが7000ある。妨害を掻い潜ってライフを削り切るのは至難の技だ。

 そして八代と連携されたら、もう勝ち目はないだろう。

 『黒の魔法神官』は罠を無効に破壊する効果を持つ。それを番長の『剣闘獣の戦車』で無効にできれば良いが、その前に山背さんに優先権が移る。つまり八代が『黒の魔法神官』で俺の罠を無効にした直後、山背さんが何かカードを発動すれば『黒の魔法神官』に対しての『剣闘獣の戦車』が発動できない。

 

「……番長。どうにもこのデュエル、2対2の構図じゃ分が悪いようだ」

 

「おい、弱気じゃねぇか。んなもんまだこっからやってみねぇと」

 

「番長!」

 

「! ……なんだよ」

 

「八代を任せる」

 

「……は?」

 

「これより俺は山背さんのライフを削り切ることに注力する。手出しは無用。お前は八代との戦いに備え札を温存しておけ」

 

「……っ!」

 

 数泊の間。

 ほんの一瞬、瞳に揺らぎが映ったが、俺の覚悟を汲んでくれたようだ。

 

「……勝てよ」

 

「あぁ」

 

 友と交わす言葉はこれで十分。

 あと向かい合うべきは己が決めた敵のみ。

 

「ということだ、山背さん。悪いが相手になってもらうぞ。あぁ、もちろん八代が手を出そうがこちらとしては構わない。いくらでも出せる手は使ってくれ」

 

「……望むところです。八代君、手出しは入りません。挑まれた以上、このデュエル、私が引き受けます!」

 

「……分かった」

 

 意外な展開だ。

 まさか八代を抑えて山背さんが乗ってくるとは。

 言葉だけではまだ信用し切ることはできないが、これは僥倖。意識の大半は山背さんに向けることができる。

 とは言え山背さんのライフ7000を削り切るには手持ちの戦力が足りない。

 まずは戦力の確保。それが俺のやるべきことだ。

 

「では尋常に! 俺のターンっ!」

 

 手札に来たのはこのデッキの切り札。

 早速、俺の覚悟を汲んでくれたのか。こいつはありがたい。

 高ぶる気持ちに伴い体が熱を帯びていく。

 

「墓地の『冥帝従騎エイドス』を除外し効果発動! 墓地から『冥帝従騎エイドス』以外の攻撃力800、守備力1000のモンスターを復活させる。『天帝従騎イデア』を特殊召喚!」

 

 

天帝従騎イデア

ATK800  DEF1000

 

 

「『天帝従騎イデア』が召喚、特殊召喚に成功した場合に効果を発動できる。デッキから『天帝従騎イデア』以外の攻撃力800、守備力1000のモンスターを特殊召喚する。俺が出すのは『冥帝従騎エイドス』!」

 

 エイドスの召喚に反応し、コロッセウムに散らばる青い石に光が通る。

 コロッセウムから力を受け取った『剣闘獣ヘラクレイノス』の攻撃力がこれで八代のサイレント・マジシャンと並んだ。

 

 

冥帝従騎エイドス

ATK800  DEF1000

 

 

剣闘獣の檻-コロッセウム

カウンター 4→5

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK3400→3500  DEF3200→3300

 

 

 これが俺にできる番長への最後の援護。

 あとは山背さんを打ち倒すための盤面を整えることに注力する。

 

「『冥帝従騎エイドス』が特殊召喚に成功したことで、俺はこのターン通常召喚に加えて1度だけアドバンス召喚を行える。俺はこの効果で『天帝従騎イデア』、『冥帝従騎エイドス』の2体をリリースしてアドバンス召喚を行う!!」

 

 光と闇、対となる二騎の魂が天に登って消えゆく。

 

「艦隊を率いる機械軍の王よ! 今こそこの戦場に君臨せよ! アドバンス召喚! 『パーフェクト機械王』!!」

 

 コロッセウム上空に浮かぶ巨大戦艦の艦隊。そのさらに頭上の暗雲を割って、巨大な影がフィールドに差す。

 背中のスラスターを噴かせてゆっくりと下降してきた人型機体こそ我が軍の王。白を中心としたカラーリング。腕と兜を思わせる顔は赤。ロボットアニメの主人公が乗る機体を絵にしたようなシルエットだ。

 

 

パーフェクト機械王

ATK2700  DEF1500

 

 

「『パーフェクト機械王』はこのカード以外の自軍の機械族モンスター1体につき攻撃力が500ポイントアップする」

 

 周りを取り巻く“巨大戦艦”から送られるエネルギーが『パーフェクト機械王』の力を高めていく。それは静かに、されど力強く。己が戦う相手から視線を外すことなく己が力に変換していった。

 

 

パーフェクト機械王

ATK2700→4200

 

 

「攻撃力4200……」

 

「そして『天帝従騎イデア』が墓地に送られたことで、除外されている『汎神の帝王』を回収。さらに手札の『始源の帝王』を墓地に送り、『汎神の帝王』を発動! デッキからカードを2枚ドローする」

 

 ついに来たか!

 このターンで山背さんのライフを削り切るためのキーカードが!

 だがまだ足りない。

 山背さんの構える布陣を突破するだけの手数が足りていない。

 あとはこれを押し通すための有用な札を揃えるのみ。

 だがこれは賭けだ……!

 

「自分のライフが相手より1000以上少ない場合、ライフを1000払うことでこのカード発動できる! 罠カード『活路への希望』!」

 

「ライフを……っ!」

 

 

大LP1600→600

 

 

「お互いのライフの差2000につき1枚、デッキからカードをドローできる。山背さんのライフは7000。ライフの差は6600。よってカードを3枚ドローする!」

 

 さぁ八代。動くか?

 口約束ではこの戦いは山背さんとの一騎打ちとなっている。

 そう、口約束。

 大前提がバトルロイヤルである以上、それを反故にしようと何ら問題はない。

 『黒の魔法神官』の効果を使えば、容易くこれを止めることができる。

 これは明文化されていない停戦協定を理由に銃を向けた敵兵の射線上を横切るも同じ行為だ。

 

「……」

 

 騒々しく心臓が鼓動する。

 沈黙の数秒の時が長い。

 背中に嫌な汗を感じる。

 だが、ようやくその時は来た。

 デュエルディスクに灯る光。効果処理が解決した合図だ。

 

「ドローッ!!」

 

 引いたのは『重力砲』、『巨大戦艦クリスタル・コア』、そして『サイクロン』!

 興奮を抑えるのに苦労する。これでこのターンに引き寄せたかったカードが全て揃った。

 『サイクロン』を使えば山背さんのセットカードの内1枚を確実に破壊できる。『黒・爆・裂・破・魔・導』を打ち抜ければ戦況は一気にこちらに傾く。

 だが藪蛇という言葉の示す通り『マジカルシルクハット』の先例もある。その賭けに転じるのはまだ早計だ。

 焦るな。一手一手を確実に。

 

「装備魔法『重力砲』を『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』に装備。攻撃力を400ポイント上昇させる」

 

 『進撃の帝王』の影響外の唯一のモンスターである『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』に『重力砲』が取り付けられる。

 

 

巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ

ATK2400→2800

 

 

 『マジシャンズ・プロテクション』をデッキに入れていることは把握済みだ。それを複数枚積んでいる可能性もある以上、火力はあるに越したことはない。

 あとはこの場にいない手札の巨大戦艦を呼び出すのみ。

 

「墓地の『始源の帝王』を除外し、永続罠『真源の帝王』を光属性、レベル5の通常モンスターとして守備表示で復活させる」

 

 

真源の帝王

ATK1000  DEF2400

 

 

「大さんには召喚権はまだ残っている……ということは」

 

「そう。俺は『真源の帝王』をリリースし『巨大戦艦 クリスタル・コア』をアドバンス召喚!」

 

 『真源の帝王』を糧としフィールドに新たな巨大戦艦が姿を現す。コアを中心に6枚の花弁のように広がる機体を巨大なクリスタルで包み込んだフォルム。正面から伸びた二本の触手のようにうねるレーザー砲が特徴だ。

 

 

巨大戦艦 クリスタル・コア

ATK2100  DEF1000

 

 

「『巨大戦車 クリスタル・コア』の召喚時にカウンターが3つ置かれる。さらにフィールドの機械族が増えたことで『パーフェクト機械王』の攻撃力はさらに上昇!」

 

 拳を付き合わせた『パーフェクト機械王』の機体にエネルギーが迸る。機体性能の最高出力を出し得る条件が整った証だ。

 

 

パーフェクト機械王

ATK4200→4700

 

 

巨大戦艦 クリスタル・コア

カウンター 0→3

 

 

 これでこちらの持ちうる戦力が全て出揃った。

 最高の盤面が整った歓びで血が湧き立つ。

 

「さぁ、始めよう。我が艦隊の進軍を!」

 

 『パーフェクト機械王』を中心に並ぶ4隻の巨大戦艦。

 銀河大戦の最終決戦かの如く壮観な盤面だ。惜しむらくはコロッセウムに並ぶにはあまりにも世界観が異なることか。

 たがそれも些細なこと。

 相対するは初代デュエルキングの切り札である最高の黒魔術師。

 相手にとって不足なし!

 

「受け切れるか? 艦隊を統べる王の一撃を! 『パーフェクト機械王』で『ブラック・マジシャン』に攻撃!」

 

「トラップ発動! 『ブラック・イリュージョン』! このターン、私の場の攻撃力2000以上の闇属性、魔法使い族モンスターは戦闘で破壊されず、効果は無効化され、相手のカード効果を受けません!」

 

 『ブラック・マジシャン』の胸元の中心から青白く幾何学的な文様の魔術回路が全身に広がっていく。

 

「なるほど。流石は初代デュエルキングが使用していたエースモンスターだけのことはある。強固な守りを構えてくるな。だがっ! いくら強力な耐性を得ようとプレイヤーへのダメージは免れんぞ!!」

 

 己の敵を捕捉した『パーフェクト機械王』の目が光る。胸部に埋め込まれた動力源から全身の回路にエネルギーが送られていく様が、機体の表面を走る緑色光となって見て取れる。

 背中に取り付けられたスラスターを吹かせ上昇すると、半身となり右拳を引き、腰を落として構える。

 攻撃力4700から放たれる威圧感に当てられたのか、山背さんは動揺しながらさらにカードを切った。

 

「え、永続トラップ発動! 『マジシャンズ・プロテクション』! 私の場に魔法使い族モンスターが存在する限り、受けるダメージを半減させます!」

 

「っ!」

 

 『マジシャンズ・プロテクション』の効果はそれだけではない。

 前に使われた通りフィールドから墓地に送られた場合、墓地の魔法使い族モンスターを復活させる効果を持つ。

 これを『サイクロン』で安直に破壊しようものなら、山背さんは『ブラック・マジシャン・ガール』を蘇らせ、セットされた『黒・爆・裂・破・魔・導』を仕掛けてくるだろう。

 

「……」

 

 瞬時に全ての戦闘をシュミレートし、結論を出す。

 『パーフェクト機械王』の背中のブースターが再び着火。それが俺の答えである。

 上昇の時の勢いとはわけが違う。最大出力で放出されたブースターの火力で右足を軸に回転を始める。回転の速度は時間経過とともに増し、機体の形が目で追えなくなっていく。そしてその状態で急速に落下を始めた。

 それを迎え撃つ『ブラック・マジシャン』は右腕の杖を突き出して防御陣を展開する。

 その数、五枚。幾何学的な文様が重なり強固な障壁なのが伺える。

 さらにその背後に立つ山背さんを守るようにピンク色の魔力で構成されたドーム状のバリアが展開される。あれが『マジシャンズ・プロテクション』の加護か。

 並みの攻撃であれば打ち破ることはおろか、プレイヤーに碌にダメージを与えることすら叶わない護りだ。

 

 だがっ!

 

 バリィィィィィィンッッ!!!

 

 障壁と拳の接触。

 その瞬間に4枚の魔力障壁がガラス細工のように砕かれる。

 隕石の如く上空から落ちてきた『パーフェクト機械王』の拳は『ブラック・マジシャン』に触れる寸でのところで最後の1枚の障壁に阻まれる。そして遅れて山背さんを覆っているピンク色の魔力障壁にも衝撃が伝わり大きな波紋を生み出す。

 しかしプレイヤーへの影響は軽微。彼女の眼差しからは最高位魔術師の守護への厚い信頼を感じる。

 

 ピキッ、ピキッ

 

 最後の障壁にも罅が入り始めた。

 元より攻撃力の差が2000以上もある戦いで『ブラック・マジシャン』がその全てを防ぎきれる道理はない。

 それにだ。

 

「ダメージを半減した程度で凌ぎきれると思ったか!! 速攻魔法『リミッター解除』発動!! 自分の場の機械族モンスターの攻撃力を倍にする!!!」

 

「なっ?!」

 

 

パーフェクト機械王

ATK4700→9400

 

 

 『リミッター解除』に伴い『パーフェクト機械王』の動力部から溢れ出るエネルギーが目に見えて変化する。

 胸部から肩を通り腕を伝い拳にまで届いた回路を焼き切らんばかりのエネルギーにより、拳から肩にかけてまでがオレンジ色に輝き始める。その熱で光は歪み、『パーフェクト機械王』の右腕を中心にシルエットが掴みづらくなっていく。

 全身を包む赤と白の装甲に切れ目が走ると、プシューと蒸気を吹かせながら内部の黒い配線がむき出しとなる。限界を超えたエネルギー供給に排熱機構が追いついていない。

 それでも最後の障壁が破れないのは『ブラック・マジシャン』の意地か。

 いや違う。

 『パーフェクト機械王』はまだその全エネルギーを攻撃へと伝えていない。機体が出せる最大火力を文字通りぶつけるため、限界を超えてその力を腕へと溜めているのだ。

 伸びきっていない右肘から一本の杭のようなものがゆっくりと伸びる。その杭は肘から拳までの距離の半分ほどの長さまで出ると停止した。

 これから何が起こるのか、いち早く察した『ブラック・マジシャン』の表情が驚愕に染まる。

 そして、さながら岩盤を砕くパイルバンカーのように、その杭が元に戻った直後。

 

 コロッセウム全体を飲み込むほどの大爆発が起きた。

 

 瞬く間もなく視界を染め上げる閃光と、続いてやってくる耳元で雷でも落ちたかのような轟音、吹き荒れる爆風にプレイヤーは少なからず煽りを受ける。

 

「きゃあああっ!!」

 

 山背さんの悲鳴が爆音に消えると同時に聴覚が失われる。

 その間、およそ数秒。

 目を開くと映る戦場はさして大きな変化は見られない。だが、衝突した2体のモンスターの姿はどちらも無事ではなかった。

 まず攻撃を受けた『ブラック・マジシャン』。体は煤け、左腕に至ってはだらりとぶら下がっており、肩から袖まで衣装が破けて肌が見えている。表情は苦悶に歪み、飛んでいるのが精一杯といた様子だ。

 そして攻撃を放った『パーフェクト機械王』もまた満身創痍。限界を超えた高出力のエネルギーを放出した結果、機体内部の配線が破裂し装甲から火花が散っている。特に右腕の損傷が激しく、拳はひしゃげ腕の装甲は所々剥がれ落ち内部の配線が剥き出しとなっている。

 

「威力を半減しても一回の攻撃でここまでダメージを受けるとは……やられました」

 

「ふむ。本来ならこの一撃でゲームは終わっているはずなのだがな。こちらとしても耐えられたのは想定外であった」

 

 

山背LP7000→3550

 

 

「だが、これでわかったであろう? この艦隊を前に攻撃を凌ぎきることなど不可能であると」

 

「それは、やってみないとわかりません……!」

 

「ほう、気弱な方だと思っていたが、存外気丈ではないか。まだ策があるのか? ならば全てを出し切るがいい。そしてそれら全て撃ち払い進軍するのが我が艦隊だ! 『巨大戦艦 カバード・コア』よ! 標的は『ブラック・マジシャン』だ!」

 

  攻撃指令を受けカバード・コアの左右にはミサイルポッドが展開される。静まり返った戦場にカバード・コアの動力駆動音だけが響き始める。

 『リミッター解除』の影響を受け、『パーフェクト機械王』同様に限界以上のエネルギーがミサイルポッドへと着実に溜まっていく。その全てのロックオンが向けられて尚も主人を守るため、片腕で魔法障壁を展開する『ブラック・マジシャン』は流石というべきか。

 

 

巨大戦艦 カバード・コア

ATK2500→5000

 

 

 さあ、山背さんは何を仕掛けてくる?

 『進撃の帝王』の守りとて絶対ではない。除外やバウンスには対応しきれない上に、それ自体が破壊されれば効果は消える。

 ただいずれかの策を持っているのなら最初の攻撃でそれを使わなかった理由はなんだ?

 まだ考えたところでその答えには至れない。

 けど、それでいい。

 権謀術数、互いに策を講じそれを打破するべく知略を巡らせ合う戦いこそが己の魂を熱く震わせるのだ!

 

「全弾発射っ!!」

 

 エネルギーの充填率がおよそ200%に達しているであろうミサイルの爆発は瞬く間に『ブラック・マジシャン』の姿を障壁ごと塗り潰す。

 十六ものミサイルの爆発の連鎖は止まらず、コロッセウムの上空を黒煙に染め上げる。

 全弾直撃。

 少なくとも山背さんが何かを仕掛けた様子は見られなかった。

 

 ミサイルの爆発が止まってからたっぷり十数秒。

 爆炎の中から現れた『ブラック・マジシャン』の姿は更に酷いものになっていた。魔法障壁を展開しダメージを軽減していたようだが、杖には僅かに罅が入り息を切らしている。

 

 

巨大戦艦 カバード・コア

カウンター 1→0

 

 

山背LP3550→2300

 

 

「どうした? 手を打たねばライフが尽きるぞ? 『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』で『ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 

 

巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ

ATK2800→5600

 

 

 カバード・コアが引くと同時にビッグ・コアMk-Ⅱが前に出る。

 続く攻撃は左右の外側に2門ずつ、左右内側に3門ずつ、そして中央に4門取り付けられたレーザー砲による一斉射撃。計十四本の青白いレーザーは『ブラック・マジシャン』の体を焼き尽くさんと殺到する。

 苛烈な攻撃を前に『ブラック・マジシャン』は尚も引くことなく真っ向から挑んだ。レーザーの光に飲まれる直前、罅の入った杖を通して発動した魔法障壁で受け止める姿が確認できた。

 そしてやはり山背さんは何も仕掛けてこない。

 

 実は策などないのか?

 

 一瞬、そんな疑問が頭をよぎる。

 だがそれはないとすぐに思い直す。

 山背さんの瞳に宿る闘志はまだ消えてはいないのだから。

 

 

山背LP2300→750

 

 

 レーザーの猛襲を受け『ブラック・マジシャン』の杖はとうとう先端から持ち手にかけて罅を広げてしまったようだ。息の切らし方も激しさを増し魔力の限界を思わせる。だが、こちらを居抜き殺さんばかりの眼光に衰えはない。

 唐突に『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』の機体が爆発する。それに伴い左右のエンジンからは煙が上がり高度が下がってきている。どうやら時間が来たようだ。

 

「『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』はカウンターが乗っていない状態で戦闘を行った時、自壊する」

 

 その言葉が引き金になったかのように『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』は墜落し、戦場から消えた。

 

「ご苦労……」

 

 『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』が破壊されたことで、俺の場の『リビングデッドの呼び声』も同時に破壊される。

 これで残る攻撃権は『巨大戦艦 クリスタル・コア』と『巨大戦艦 テトラン』の2機。

 『巨大戦艦 クリスタル・コア』の攻撃が通れば山背さんのライフは尽きる。

 

「さぁ、最後通告だ。手の内を見せたまえ。然もなくばそのライフ、跡形もなく消し飛ぶぞ。『巨大戦艦 クリスタル・コア』で『ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 

 

巨大戦艦 クリスタル・コア

ATK2100→4200

 

 『巨大戦艦 クリスタル・コア』から伸びる二本の触手の先端の砲門にエネルギーが溜まる。さらにコアを挟む二門の砲口にもエネルギーが蓄えられる。

 『ブラック・マジシャン』は最後の力とばかりに魔法障壁を展開するも一枚のみ。

 

「主人を守るその覚悟、見上げたものだ。だが如何に貴様が倒れまいと、この一撃は主人を貫く!!」

 

 攻撃宣言は終えた。山背さん動かなかった以上このバトルは成立する。

 『巨大戦艦 クリスタル・コア』に充填されたエネルギーは臨界を超え、照準は『ブラック・マジシャン』に固定されている。

 発射1秒後には着弾。結末はどうあれ、このデュエルが動くっ!

 

「放てっ!!」

 

 光が瞬いた直後、『ブラック・マジシャン』の姿は砲撃の光に飲み込まれていた。

 レーザーの放出は尚も止まらない。

 青白い光が飲み込んでたっぷり十数秒。

 光が収まり始めた時、光の中の影に気がついた。

 

「なっ?! 『ブラック・マジシャン・ガール』だと?!!」

 

 『ブラック・マジシャン』同様の衣装に身を包んだ少女が『ブラック・マジシャン』の前に立ち塞がっていた。

 どうやってクリスタル・コアの攻撃を防いだのか?

 どこからあの『ブラック・マジシャン・ガール』が現れたのか?

 一体、何を発動したのか?

 疑問は絶えないが、反撃がやってきた。主砲の再充填が済むまでの時間稼ぎの牽制射撃の弾幕を潜り抜け、あるいは撃ち落とし二人の魔術師はクリスタル・コアとの距離を詰めてくる。そのコンビネーションたるや流石は師弟といったところか。

 しかし不味い、どうやら今はあの二人の戦闘力がクリスタル・コアを上回っている。この状況で打てる手はない。すでに射撃が及ばない安全地帯への侵入を許してしまっている。

 

「っ?!?!」

 

 ここにきて『ブラック・マジシャン・ガール』の姿が消えていた。

 何故と疑問の答えを出す暇もなく『ブラック・マジシャン』の杖が振り下ろされると緑色の魔力光がクリスタル・コアを覆った。

 

「くっ……」

 

 視界を塗りつぶす緑の極光、吹き抜ける衝撃に思わず腕をかざす。

 今の戦闘、クリスタル・コアが『ブラック・マジシャン』に押し負けたように見えたが……

 自分の中に解はない。視界が戻るまでの時間をこれ程もどかしく思ったことはない。

 

 晴れた視界には『ブラック・マジシャン』とその隣に『ブラック・マジシャン・ガール』の姿があった。しかしよく見ればそれは俺の知る『ブラック・マジシャン・ガール』のものと違っている点が見受けられる。

 完全に健在な『ブラック・マジシャン』とは対象的に、その姿は透明に消えかかっている。そして何よりも肌が褐色、髪はブロンドで見慣れた白肌、金髪とは異なる。

 その答えは山背さんから告げられた。

 

「手札から『幻想の見習い魔導師』を墓地に送って効果を発動しました。この効果は闇属性・魔法使い族のモンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できます。そしてその自分のモンスターの攻撃力・守備力をそのダメージ計算時のみ2000ポイント上昇させます」

 

 

ブラック・マジシャン

ATK2500→4500

 

 

大LP600→300

 

 

「なるほど。『ブラック・マジシャン・ガール』が現れたかのように見えたカラクリはそういうことか。まさかこんな形で反撃を貰うとは……」

 

「これで私のライフを全て削るには火力が足りなくなりましたね。このダメージ計算後に『ブラック・マジシャン』の攻撃力は元に戻ります」

 

 

ブラック・マジシャン

ATK4500→2500

 

 

 今の戦闘が終了したことで『幻想の見習い魔導師』もフィールドから姿を消した。

 これで俺に残された攻撃では山背さんの言う通りライフを削りきることができない。

 

「ふむ。どうやらこちらも次の手を考えねばならないようだ」

 

 残り少なかったライフがいよいよ風前の灯火。

 散々手を見せろと今度はこちらが覚悟を決める番というわけか。

 

「手札を1枚捨てトラップカード『ブービートラップE』を発動。自分の手札・墓地から永続トラップを1枚場にセットする。俺はこの効果で墓地の『リビングデッドの呼び声』をセット。この効果でセットしたカードはセットしたターンに発動することができる」

 

「……」

 

 最後の仕掛けの準備はこれでいい。

 問題は『サイクロン』。

 この手札で何を狙うかはデュエリスト次第だろう。

 このターンでライフを削りきるには『マジシャンズ・プロテクション』をどうにかしなければならない。しかしそれを破壊すれば『黒・爆・裂・破・魔・導』の呼び水になる。

 『黒・爆・裂・破・魔・導』を狙い撃ちにしようとも山背さんのセットは2枚。それを外そうものなら勝機を逃す。

 間違いなくこの選択がこのデュエルの結果に繋がる。

 手にジワリと広がる汗。

 この闘いが佳境を迎えたことで会場全ての視線が次の俺の手に注目しているのを感じる。

 

 ならばその目に刻むといい!

 

 これが大艦の選択だ!!

 

「では最終決戦の役者を揃えよう!! 速攻魔法『サイクロン』を発動! 『マジシャンズ・プロテクション』を破壊する!」

 

「!?」

 

 突然発生したサイクロンにより『マジシャンズ・プロテクション』は巻き上げられ砕け散る。

 これで山背さんを守護していたピンク色の魔法障壁が解けた。

 

「ま、『マジシャンズ・プロテクション』がフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を対象にして発動します。そのモンスターを特殊召喚します! 私が呼び戻すのは『ブラック・マジシャン・ガール』!」

 

 予想通り『ブラック・マジシャン・ガール』は『魔力の泉』によって捨てられていたようだ。

 『ブラック・マジシャン』横に現れた『ブラック・マジシャン・ガール』。二人が並んでいる様は実に絵になる。

 

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK2000  DEF1700

 

 

 山背さんの表情は険しい。このタイミングで『マジシャンズ・プロテクション』を割ってきた理由を考えているのであろう。

 

 

「行くぞ! これがこの戦いの最後の攻撃だ! 『巨大戦艦 テトラン』で『ブラック・マジシャン』を攻撃!」

 

 

巨大戦艦 テトラン

ATK1800→3600

 

 

 俺の攻撃指令を受け『巨大戦艦 テトラン』の砲口が『ブラック・マジシャン』へ向けられる。

 この戦艦も沈んでいったビッグ・コアMk-Ⅱと同様に動力となるカウンターは全て尽きている。その状態で重ねた『リミッター解除』で既に機能の限界は超えており、『進撃の帝王』が無ければ2回は破壊されている状態だ。

 だがそうでもしなければ残り僅かなライフの俺に勝利はない。

 

「場に元々のカード名が『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』となるモンスターがそれぞれ存在する場合、このカードは発動できます! 速攻魔法『黒・爆・裂・破・魔・導』!」

 

 『ブラック・マジシャン』と『ブラック・マジシャン・ガール』。二人がテトランの砲口の前に飛び立つと互いの杖を交差させて力を溜め始める。

 

「この効果により大さん、あなたの場のカード全てを破壊します!」

 

 この『黒・爆・裂・破・魔・導』が通ろうとも『進撃の帝王』によって『巨大戦艦 テトラン』は守られ、ライフは削りきれる。だがそれではターン終了時に我が艦隊は全滅。八代の前に裸一貫を晒すことになる。

 

「くくっ! あぁ、そうだ! 『マジシャンズ・プロテクション』を破壊すればこうなることはわかっていた。だから! 速攻魔法『帝王の轟毅』を発動!」

 

「っ!」

 

 『帝王の轟毅』の発動によりコロッセウムの上空に突如として雷雲が発生する。それによりスタジアムの照明が遮られたことで、デュエル場全体が薄暗くなった。

 

「自分の場のレベル5以上の通常召喚されたモンスター1体をリリースし、場の表側表示のカード1枚を対象として発動できる。俺がリリースするのは『巨大戦艦 クリスタル・コア』! そして対象にするのは『黒・爆・裂・破・魔・導』!」

 

 唐突な天候の変化に『ブラック・マジシャン』、『ブラック・マジシャン・ガール』の表情に動揺が見える。

 やがて暗雲の中から稲光が走り始め、その規模が徐々に拡大していく。

 

「そしてその効果は、対象にしたカードの効果をターン終了時まで無効にする!!」

 

 これが対『黒・爆・裂・破・魔・導』へと残しておいた俺の切り札。

 『巨大戦艦 クリスタル・コア』が雲に吸い込まれると巨大な災厄の前兆のように地鳴りが始まった。

 

「これで終わりだっ!」

 

 俺の宣言に合わせるように一際大きな雷が『黒・爆・裂・破・魔・導』目掛けて落ちる。

 

「いいえ、まだ終わりません!!」

 

 しかし雷をかき消さんばかり声とともに落雷は風によって阻まれた。

 

「なんだ?!」

 

「何も『サイクロン』はあなただけの専売特許じゃありません!」

 

「くっ!!」

 

 連続で落ち続ける雷を悉く弾き飛ばし散らしていく暴風は、徐々に渦を巻き『黒・爆・裂・破・魔・導』のカードの前に聳え立つ。

 この渦は紛れもない俺の発動した『サイクロン』と同じもの。

 そして、それは不味い。

 『帝王の轟毅』は場の表側のカードの効果をエンドフェイズ時まで無効にするカード。対象のカードがその前に破壊されてしまえば効果は適用されない。

 このままではライフは削り切れようとも、俺の場がガラ空きになってしまう。

 

 ところがそんな俺の予想を彼女は最悪な形で乗り越えていった。

 

「もっとも私が発動するのは渦が二つ! 速攻魔法『ダブル・サイクロン』です!!」

 

「何だとっ!?」

 

 『ダブル・サイクロン』は自分と相手の場の魔法・トラップカードを1枚ずつ対象にして発動するカード。そして対象にしたカードを破壊する。

 

「私が破壊するのは自分の場の『黒・爆・裂・破・魔・導』と大さん、あなたの場の『進撃の帝王』です!!」

 

「しまったっ!!」

 

 その宣言に心臓が縮み上がった。

 この『ダブル・サイクロン』が成立すれば『黒・爆・裂・破・魔・導』は先に場から消え、対象を失った『帝王の轟毅』は不発に終わるだけじゃない。

 『進撃の帝王』が先に破壊されることで我が艦隊の効果破壊耐性も消える。

 結果『黒・爆・裂・破・魔・導』の一撃で文字通り俺の場は更地と化す。

 

 敗北。

 

 その二文字が脳裏によぎる。

 サイクロンによる暴風が吹き荒れ、空からは雷が降り注ぐ中、熱を帯びていた体が急速に冷えていく。

 だが、ここで疑問が残る。

 

「……ひとつ教えてはくれまいか」

 

「何でしょう?」

 

「『ダブル・サイクロン』があったのなら自分で『マジシャンズ・プロテクション』を破壊するという選択肢もあったはず。なぜ、それを選ばなかった?」

 

「……最初は、そうするつもりでした。『ダブル・サイクロン』を利用すれば確実に『黒・爆・裂・破・魔・導』を打てる盤面を整えられる。ダメージを受けることもなくあなたの場を一掃できる。そう考えていました」

 

 そう。

 俺が彼女ならその手を選んでいただろう。

 そしてその手を選べば彼女の敗北のはずだった。

 このターンにその手を打ちづらくする要因はなかったはず。

 

「ただ、あなたは強い」

 

「……!」

 

「前のターンに『黒・爆・裂・破・魔・導』を狙っていることを読んで見せたあなたが、私に仕掛けてきた時点で、私の『黒・爆・裂・破・魔・導』の対策をしていないはずがない。そう確信してました!」

 

「……そうか」

 

 読んでいる。

 

 と思っていたが、どうやら逆だったらしい。

 

 拳を握る力が強くなる。

 負けるつもりなどなかった。この一騎討ちに勝ち、このバトルロイアルで頂点に立つつもりだった。

 そんな勝利のビジョンを浮かべていたがそれは幻想だった。

 

「この勝負は私の勝ちです」

 

 『ダブル・サイクロン』によって吹き荒れる風の威力が増していく。その暴風は俺の『進撃の帝王』を破壊しようと迫り、その向こうには杖に魔力を集める魔術師の師弟が構えている。

 

「……あぁ、認めよう。この勝負は君の勝ちだ」

 

 『黒・爆・裂・破・魔・導』が成立した時点で俺に勝ち筋は無い。

 それを認めた瞬間、荒れ狂う空模様の中、心が凪いだ。

 

 

————————これより俺は山背さんのライフを削り切ることに注力する。手出しは無用。お前は八代との戦いに備え札を温存しておけ

 

 

 

————————……勝てよ

 

 

「だがっ! 戦友との約束があるのでな!! このバトルロイアルでは君も道連れだ! 永続トラップ『リビングデッドの呼び声』発動!」

 

「な、何をっ?! あなたの墓地には『巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ』しか……あっ!」

 

「そう、『ブービートラップE』のコストで仕込ませてもらった! 最後の大仕掛けだ!! とくと見よ!! 蘇りしは太陽系に名を連ねる巨星! 見果てぬ宇宙より去来せよ! 『The big SATURN』!!」

 

 コロッセウムの地面からマグマを噴かせ、飛び出てきたのは機体全体のパーツが丸みを帯びた巨大な人型ロボット。カラーリングは黒のボディを中心に各体の部位をつなぐ箇所を銀板で覆っている。土星を思わせる光輪に胴回りが囲まれ、その胴体は爆弾を思わせる不穏な丸型だ。

 

 

The big SATURN

ATK2800 DEF2200

 

 

「こいつには破壊耐性があるわけでもなく、まして起死回生の一手でもない。……ただこいつの前で、爆発は厳禁だ」

 

 そして直後にことは同時に起こった。

 暴風が『進撃の帝王』を、『マジシャンズ・プロテクション』を砕き、雷が地面を焼き、魔術師の師弟の放ったピンクと緑の魔力光が津波のように俺のフィールドを攫う。

 光に飲まれた“巨大戦艦”の艦隊は次々に墜落し、『パーフェクト機械王』や『The big SATURN』も例外なく機体を爆散させていく。

 そして一際大きい爆発の衝撃が体を突き抜けたところで意識が遠のいていった。

 

 

————————

——————

————

 

 目眩く展開の中で軍曹が土壇場で出した『The big SATURN』の効果による大爆発。それがこのデュエルの結果に繋がった。

 

 

大LP300→0

 

 

山背LP750→0

 

 

 『The big SATURN』が相手の効果で破壊された時にお互いのプレイヤーに2800のダメージを与える効果がある。

 勝ち目がないことを悟った軍曹は山背さんを道連れにする手を打ったのだ。

 

「大、山背、ともにライフ全損。デュエルリングから降りて下さい」

 

 二人は互いに一礼するとデュエルリングから降り、退場口に向かっていく。

 

 パチパチパチパチッ!!

 

 二人を見送る時、デュエル場の観客席から惜しみない拍手が送られる。

 

「二人ともよくやった!」「すげぇよ! 感動したぞ!!」「軍曹気張ったなぁ!!」「かっこよかったよぉ〜!」「山背さん、ステキー!!」

 

 口々に二人の健闘を称える声が聞こえてくる。

 まさに手に汗握るデュエル。山背さん、軍曹の見せたあの最後のターンの攻防には俺自身も魅せられた。

 八代の横に立つだけあって山背さんのデュエリストとしての腕は見事なものだった。軍曹の手を初見で読んでみせる辺り、デュエルの経験値の高さが伺える。このアカデミアでもトップクラスであることは間違いない。

 そしてそれを相手取り宣言通り俺にこの舞台を整えてくれた軍曹の腕は言わずもがな。

 

「……ありがとよ、軍曹」

 

 デュエル場から去りゆく友の背中に向けて呟く。

 そして改めて対峙する強敵に向き直った。

 

 八代

 

 最初に見たときは覇気のない野郎だと内心小馬鹿にしていた。暗くて何を考えているのかわからない。周りから声をかけようともぼんやりとした返事が返ってくるだけ。いつも虚ろな瞳をしていて、その瞳にはここでないどこか遠くを映しているような奴だった。

 そんな奴が気に食わず、俺は転入してきた奴にデュエルを挑んだ。

 結果は惨敗。

 文字通り手も足も出せずやられた。

 奴の目には俺は一度も映ることもなく。

 

 だが、今日!

 

 奴が嫌でも俺を見なければならない舞台に引き摺り出した。

 

「さぁ! それじゃ、俺たちだけのデュエルを始めようぜ!!」

 

「……あぁ、やろうか」

 

「っ!」

 

 その時、全身の毛が逆立つような感覚が奔った。

 

 当てられた。

 

 八代が特別なことをしたわけではない。

 ただこのデュエルにおいて俺を敵として見定めた、それだけで闘志の圧に飲まれそうになった。

 今対峙したからこそ分かる。八代の瞳の奥に燃えるデュエルへの想いが。その炎は赤く猛々しく燃え盛るものではなく、静かに、されど力強さを感じさせる黒い炎。

 冷や汗が頬を伝う。一体何が八代をここまで駆り立てるのかはわからない。同じ学生とは思えない、まるでライフを刈り取る鎌を構えた死神の姿が重なった。

 けど臆する訳にはいかない。奴には奴の、俺には俺のデュエルがあるんだ。

 カードを握る手に自然と力が篭る。

 

「行くぜ。俺のターン。『守護神の宝札』の効果で2枚ドロー!」

 

 求める札が手札に揃った。これならいける!

 

「魔法カード『休息する剣闘獣』を発動! その効果で……」

 

 突如、言葉が続かなくなった。

 氷点下まで気温が下がったかのような寒気を感じたからだ。自分の吐く息が白くなる様が幻視される。

 まるでデュエル場に響く音の隙間を縫うように、その声ははっきりと届いた。

 

「罠カード『魂の氷結』」

 

 チャキッ

 

「っ!」

 

 背後にいる。

 振り返らなくとも分かった。

 俺の心臓に穴を穿たんと死神が鎌を構えている様子が。

 己の生を叫ぶかのように心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 

「『魂の氷結』は相手のライフより自分のライフが2000以上少ない時に発動できるカード。そしてその効果は相手の次のバトルフェイズをスキップする。さぁ、どうする?」

 

「……」

 

 その問いかけの意味は『剣闘獣ヘラクレイノス』の効果を使うかということに他ならない。

 『剣闘獣ヘラクレイノス』には手札を1枚捨てることで、魔法、罠の発動を無効にし破壊する効果がある。

 俺の手札は2枚。それを使えば八代の『魂の氷結』を止めることはできる。

 だが、それは同時に『休息する剣闘獣』を無効にされることと同義だ。

 『休息する剣闘獣』は“剣闘獣”と名のつくカードを2枚デッキに戻し、その後デッキから3枚カードをドローする効果を持つ。ここで2枚の内の1枚をヘラクレイノスの効果のコストで使えば、『休息する剣闘獣』の効果でデッキに“剣闘獣”カードを2枚戻すことができなくなり、効果は不発となる。

 果たしてここで『魂の氷結』を止めて八代の布陣を崩しきれるか。

 八代の残りの伏せは2枚。対してヘラクレイノスの効果で防げる回数は1回となる。ここは……

 

「ヘラクレイノスの効果は……使わない」

 

「ならば『魂の氷結』の効果により次のバトルフェイズはスキップされる」

 

「『休息する剣闘獣』の効果。手札の“剣闘獣”カードを2枚デッキに戻し、その後カードを3枚ドローする。俺が戻すのは『剣闘獣サムニテ』、『剣闘獣ムロミロ』」

 

 緊張から解放され、心臓がドッと早鐘を打つ。

 

 そしてここが一番大事な場面。

 バトルができないのなら次のターンを戦う武器が必要だ。

 手数は相手が有利。ここで引き寄せるべきは一撃で八代を仕留めるためのカード。

 

 瞑目して意識をデッキに集中させる。イメージはデッキを体の一部にする感覚。俺の闘志の高まりに呼応するようにディスクを通して煮えたぎったマグマのような熱が血管を通って体全体に染み渡っていく。

 

 この3枚のドローに全てがかかっている。

 

 引き寄せろ!

 

 未来の可能性を!

 

 摑み取れ!

 

 勝利の一手を!

 

 戦友が託してくれた最高の戦場だ!

 

 ここでやらないでどうするってんだ!!

 

「ドロォォォォッッ!!!」

 

 一新された3枚の手札を横目で確認する。

 

「俺はカードを2枚伏せ、バトルフェイズに入る!」

 

「『魂の氷結』によりこのバトルフェイズはスキップされる」

 

「あぁ。これでターンエンドだ」

 

 次のドローで八代の手札は3枚。物量戦になれば俺には部が悪い。

 だから俺が勝つには次のバトル、一度の戦闘で八代の残りライフ1000を削り切るしかない。

 それをやるための札は引き込めた。俺にできる最高の備えは整っている。

 

「俺のターンっ!」

 

 八代がカードを引くと一瞬、視線がぶつかる。

 それだけで肌が感じ取った。

 仕掛けてくる、と。

 

「バトルだ! 『サイレント・マジシャンLV8』で『剣闘獣ヘラクレイノス』に攻撃!」

 

 戦いのゴングは鳴った。

 口角がニイッと吊り上がるのが分かる。

 互いに仕掛けたカードを発動させるタイミングは同時だった。

 

「「攻撃宣言時! リバースカードオープン!」」

 

 それぞれのフィールドのセットカードが同時にめくれ上がる。

 

「トラップカード『魂の一撃』!!」

 

「速攻魔法『決戦融合-バトル・フュージョン』!!」

 

 奇しくも互いに仕掛けていたのは攻撃力上昇系のカードだった。

 いいねぇ、全身の血が沸騰してきた!

 

「『決戦融合-バトル・フュージョン』は自分の場の融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できるカード。そしてその融合モンスターの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分だけアップする!」

 

「『魂の一撃』は自分のライフポイントが4000以下の場合、自分フィールド上のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時にライフポイントを半分払い、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できるカード。そして選択したモンスターの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで、自分のライフポイントが4000より下回っている数値分アップする!」

 

 

八代LP1000→500

 

 

「サイレント・マジシャンの攻撃力は3500!」

 

「4000と俺の残りライフの差は3500!」

 

「「つまり、攻撃力は3500ポイントアップする!!」」

 

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK3500→7000

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK3500→7000

 

 

『ガァァァァァァアアッ!!!』

 

『はぁぁぁぁぁぁああッ!!!』

 

 膨大な攻撃力の上昇に伴い溢れる気合が声となり、『剣闘獣ヘラクレイノス』は体からオレンジ色の闘気を、『サイレント・マジシャンLV8』は体から白い魔力を放出させる。

 二人の雄叫びは体の芯に響き俺の魂を昂ぶらせた。

 

 二人が地面を蹴ったのは同時。その瞬間に視界から姿が消えた。

 次に俺の目が二人を捉えたのはコロッセウムの中心、『剣闘獣ヘラクレイノス』の闘気を纏った大斧と『サイレント・マジシャンLV8』の魔力を纏った杖が正面から激突した瞬間だった。

 ぶつかる闘気と魔力で空気が爆ぜる。

 威力は互角。数泊の鍔ぜりの後、サイレント・マジシャンが弾かれたかのように後方に飛んだ。それに追いすがるようにヘラクレイノスも地面を蹴る。サイレント・マジシャンは迫りくるヘラクレイノス目がけて数個の拳大の白い魔力球を複数生成し放つが、それらは全て盾で防がれる。

 お返しとばかりに距離を詰め切ったヘラクレイノスの大斧がサイレント・マジシャンを襲う。一撃で大気が裂ける音を響かせる大斧はサイレント・マジシャンが空中に飛んだことで空振りに終わった。

 

 空中は魔術師であるサイレント・マジシャンの領域。肉弾戦を得意とする剣闘獣では手が届かないか。俺はそう思った。

 しかしヘラクレイノスは俺の予想を軽々と覆して見せた。

 両足に溜めを作ると次の瞬間、ミサイルの如く空中のサイレント・マジシャンが浮かぶ場所まで飛び上がった。反動でヘラクレイノスを打ち上げた地面には大きな罅が広がる。

 刹那の間に間合いを詰められサイレント・マジシャンの目が大きく見開かれる。

 

 取った!!

 

 完全に虚を突かれたサイレント・マジシャンは今度こそヘラクレイノスの大斧の一撃を身に受けることになるかに思われた。

 だが次の瞬間、サイレント・マジシャンはヘラクレイノスの目の前から消えていた。それはヘラクレイノスの攻撃を受けて弾き飛ばされたからではない。ヘラクレイノスの大斧が当たると思われた直後、サイレント・マジシャンはヘラクレイノスの背後に出現したのだ。

 

「残像?!」

 

 それは当たらずも遠からずと言ったところだった。

 移動の瞬間、サイレント・マジシャンの足元に浮かぶ魔法陣に気がついた。

 これがあらゆる距離を一瞬で0とする転移魔法ってヤツか。

 そして今度追いつめられることになったのは必殺の一撃を躱されたヘラクレイノスの方だった。空中での移動手段を持たないヘラクレイノスはそのまま落下することしかできない。一瞬の隙ですら許されない戦闘の中でその間は致命的なものだった。

 ヘラクレイノスが自由落下していく間にサイレント・マジシャンは縦横無尽に転移を繰り返す。転移で出現する場所は不規則で、一度転移した場所には魔法陣が残される。

 その行動の意図は直ぐに理解できた。空中に次々と設置される魔法陣はどれもヘラクレイノスが落下する地点に向けられていたのだ。

 それが繰り返されると展開された魔法陣はヘラクレイノスが落下する地点を中心にドーム状となった。そしてその最後にサイレント・マジシャンが現れたのはヘラクレイノスの真上。上に掲げた杖を振り下ろすと同時に杖から、そして展開された魔法陣全てから白の魔力砲撃が発射される。

 等速、同距離、同威力の砲撃は寸分違わず着地の瞬間にヘラクレイノスに到達する。全方位からの砲撃を一面しか防げない盾では無事に受け切ることはできない。

 着弾の直後、音は消え、目の前は白で埋め尽くされた。

 

 

————————

——————

————

 

 大さんとのデュエルの決着後、お手洗いに行くと断りマスターの元へ戻った直後の全力戦闘。倍の力を出し切れるこの高揚感はなんとも筆舌し尽くしがたい。体が文字通り羽毛のように軽くなったようだ。

 

『くぅっ……』

 

 ただこの相手も強大だ。

 百八の魔方陣から放つ全方位射撃をまさかあんな強引な手で突破されるなんて。全弾を防ぎ切れないとわかったからか、いや初めから私だけを狙ったようにも思える。

 あの唬咆は頂点から撃った砲撃を喰らい尽くし、咄嗟に張った多重障壁も紙切れのように吹き飛ばした。

 これで左腕は満足に使えないか。

 

『……良い。良いぞ!実に良い!!愉しませてくれるじゃないか、魔法都市の最終兵器よ!』

 

『……っ!』

 

 煙が晴れると此方を見て口角を上げるヘラクレイノスの姿があった。

 

 どうやら完全に入った(・・・・・・)らしい。

 

 ただその様相は無事とは言い難い。如何に闘気の壁があろうともあの包囲砲撃を無傷でやり過ごすことはできなかったようだ。

 

『"最強の剣闘獣"のあなたが出向いて頂けるとは光栄です』

 

『かははっ! それは此方とて同じこと。噂ではあの都市から出ることができないと耳にしていたが、まさかその魔砲使い(・・・・)と名を馳せた最高位の魔術師殿と死合う機会に巡り会えるとは! 剣闘士としてこれ以上の誉はなかろう』

 

 獰猛な笑みを浮かべるヘラクレイノスからは闘気が湯気のように溢れている。

 この戦いはまだ始まったばかり。かつてない程の苛烈な戦いになる予感がしていたのと同時にその戦いへの期待で胸踊らせていた。

 

「呵々っ!! 『決戦融合バトル・フュージョン』だけじゃ越えられねぇ壁だと思ってたが、やっぱりそうか!」

 

「ふっ、その様子だとまだ手は残しているようだな」

 

「当ったり前よ! 決着のゴングはまだ早ぇ! ギア、上げんぞ!! 永続トラップ『炎舞-「天セン」』」

 

『かははっ!それでは第2ラウンドと洒落込もうぞ!!』

 

『望むところですっ!!』

 

 起き上がった『炎舞-「天セン」』から放出された炎がヘラクレイノスの周りを渦巻き始める。その炎と自身が発する闘気が混ざり合うことで、太陽が近づいたかのような熱が障壁越しに伝わってくる。

 本能が告げている。これは、マズい。

 直後にマスターが動いた。

 

「止めろ、『黒の魔法神官』!!」

 

『はっ!!』

 

 マスターの指示を受け『黒の魔法神官』が私の前に出る。

 

『ふっ、サイレント・マジシャンとの一騎討ちかと思えば、これまた大物が出て来おったな! よもや同じ戦場で白黒最強の魔術師と邂逅しようとは!』

 

 彼は罠を打ち破る術に長けた最高位の魔術師。短い詠唱でその罠を破壊する術を完成させるとヘラクレイノスを飛び越え杖を振り下ろす。

 

『俺としてはこのまま同時に2人を相手にするのは吝かではないのだがな。だが我がマスターはそれを避けたいらしい』

 

「チャリオットぉおおお!!!」

 

 鉄さんが叫ぶと最後のセットカードがオープンされる。

 

『剣闘獣の戦車』

 

 あらゆるモンスターの効果を無効化し破壊する凶悪な戦車が空を駆け、『黒の魔法神官』の放った罠浄化術と真っ向からぶつかり合う。

 力の拮抗は一瞬。徐々に戦車は罠を打ち破る黒い炎を食い破り突き進む。如何に最上位魔術師と言えどカウンターで放たれた罠にはスペルスピードが追いつけない。

 

『ぐぅぉぉぉおああっ!!』

 

 直後、戦車に跳ね上げられた『黒の魔法神官』は断末魔の声を上げてコロッセウムから退場した。

 しかしマスターはこの『剣闘獣の戦車』を読んでいたはず。一体何が狙いだったのか……

 

『余所見とは余裕ではないか』

 

 背筋に走る悪寒。

 直勘に任せ展開した障壁はガラスのように音を立てて砕け散った。首を傾けていなければ顔が貫かれていただろう。

 それは強化が完了したヘラクレイノスの放った鎖だった。

 渦巻く炎は既に収まりその姿をはっきり見ることができる。

 体が大きくなるといった変身はない。変わったのは両腕に巻き付いているオレンジ色の鎖だ。各輪の両脇からはバラの蔓に生えるような鋭い棘が伸びている。

 あれはやばい。

 極限まで高められた闘気や魔力は時に圧縮洗練され物質化する。あれはその類だ。熱で周りの光を現在進行形で歪めている。あれをまともに受ければただでは済まないものだ。

 

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK7000→8000

 

 

『かははっ! 良い反応だ。今ので終わってしまっては余りにも興醒めというもの。では続きを始めようっ!』

 

『……っ!』

 

 二本の鎖が超速で放たれる。横に飛びそれを躱したが、意識を向けていても体捌きで躱すのがやっとな速さ。しかもクナイのような先端は私を追従してくる。まるで鎖自体が執念深く獲物を追う蛇のように。

 ここは一旦、転移魔法で距離を取るしかない。

 

バチッ

 

『?』

 

 転移の瞬間に肌に伝わる静電気のような痛み。

 刺激こそ些細なものだったが、転移先の座標が設定したものより僅かにズレている。致命的では無いにしろ転移魔法の発動に違和感を覚えるものだ。

 

『二本では追いきれぬか。ならば、十本でどうだ?』

 

『くっ?!』

 

 ただこれは待った無しの一騎打ち。違和感の原因究明のための時間を悠長に待ってくれるような戦いでは無い。

 スタジアム上空に転移した私に殺到する十本の鎖。多角的に攻めてくるそれは各々の頭が独立して動くヒドラのようだ。

 しかしこの展開は私の思惑通り。手元の鎖を伸ばしきった状況なら懐に潜り込めば勝機はある。次の転移が勝負所!

 高度を上げる私に追従する十本の鎖はついに私を追い抜くと頭上で交差する。

 鳥籠が収縮するように左右の鎖が迫ってくる瞬間に転移を起動した。

 

バチバチッ!

 

『えっ?!』

 

 転移直後の光景に思わず声が漏れた。

 確かに私はヘラクレイノスの懐に転移先を固定したはず。なのにどうしてマスターの目の前にいる?

 肌に感じた紫電が弾けたような痛みはまだ残っている。転移座標の狂いはこれが原因なのか?

 幸いヘラクレイノスの鎖は空に向かっている。不安定な転移に頼らずとも、この距離なら鎖が戻ってくる前にこちらの攻撃が届く。

 魔力を杖に集めながらの跳躍で距離を詰める。

 

「っ?!」

 

 踏み込んだ直後、地面が爆発すると同時に中から何かが飛び出してきた。ギリギリのところでの急制動が間に合い仰け反りながらの回避に成功する。オレンジ色に光るそれはヘラクレイノスの仕掛けてきた鎖だった。

 

『きゃっ!? ぐぅっ!!』

 

『捕らえたっ!』

 

 が、続く背後から噴き出てきた鎖には対応出来ず左腕が絡め取られてしまった。

 転移を起動しようにも術式が安定せず途中で霧散してしまう。

 

『かははっ!その鎖からは逃れられんぞ!なにせそいつは超圧縮された闘気でできている!魔素への干渉力は折り紙つきだ!』

 

 闘気の純度が高まれば魔素に影響を及ぼす。ただ魔素を集めて飛ばすだけの砲撃ならまだしも、転移魔術には移動先の座標固定に精密な制御がいる。例えるなら方位磁針で方角を調べようとしている真横で超強力な電磁石のスイッチが入っているようなもの。転移での離脱ができない。

 ジリジリと鎖が巻きつく魔法衣が焦げていく。

 

『実に楽しかったぞ、サイレント・マジシャン。だがそろそろ幕引きの時間だっ!!』

 

 勢いよく飛び上がったヘラクレイノスはその大斧を両手持ちに変え大きく振りかぶる。オレンジ色に輝き始めるその大斧には一体どれだけの闘気が込められているのか。

 対する私はこの場に拘束され障壁を張る余裕もない。私にできるのは有りっ丈の魔力を唯一動く右手の杖に込めるだけ。

 

『どああああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!』

 

『はぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

 

 

————————

——————

————

 

 ヘラクレイノスと『サイレント・マジシャンLV8』の激突によりコロッセウム全体が爆光に包まれる。

 興奮で心臓の鼓動が鳴り止まない。

 これだ! こう言う戦いを俺は求めていた!

 攻撃力8000と7000の衝突なんて今までデュエルをしていて初めて見たが、そのバトル演出には驚いた。攻撃力が上のヘラクレイノスが単にサイレント・マジシャンを破壊するだけの味気ないものではなく、まるで魂が入っているかのような攻防に思わず魅入ってしまった。

 だが戦いには終わりが訪れるもの。

 八代のライフは残り500。

 攻撃力の差1000は決着の一撃となる、はずだった……

 

「なっ……」

 

光の中から見えた光景に思わず口を衝く。

 

『グゥゥゥウ』

 

『くぅぅぅ』

 

 その視線の先には大斧を振り下ろしたヘラクレイノスとそれを防御障壁で受け止めていたサイレント・マジシャンがいた。

 落下のエネルギーとヘラクレイノスの髄力によって振り下ろされた大斧の一撃は隕石にも匹敵する破壊力があったはず。

 それを、サイレント・マジシャンは右手一本で支える杖の柄だけで受け止めていた。

 が、その姿は無惨なものだ。最初の衝突で使えなくなった左腕、脚腰は灼熱の鎖に捕らわれ、唯一自由に動く右手で持つ杖も先端の青の宝玉は砕けている。折れずに踏み止まる両脚からは過負荷により筋繊維が引きちぎれたらしく赤い染みがジワリと広がっている。

 

「ヘラクレイノス! そのまま押しつぶせ!!」

 

『グォォォォオオオッ!!』

 

『くぅぅぁああああ!!!!』

 

 さらに大斧に力を込めるヘラクレイノスにそれを受け止めるサイレント・マジシャンは悲鳴を上げる。だがそれでも彼女は大斧に障壁を破られまいと、そしてそのまま押しつぶされまいと歯を食いしばって両足で体を支える。

 

 そうしてその状態のまま五秒、十秒と時間が過ぎていく。

 

「バカな?! どうして折れねぇ!!」

 

「折れねぇさ」

 

「!?」

 

「そいつは折れねぇ。俺が勝負を諦めない限り。そして俺も折れねぇ。打てる手が尽きねぇ限り、そして! そいつが俺の最後のライフを守り抜く限り! それが!! 俺の唯一無二の相棒だっ!!!」

 

『はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 

 八代の呼びかけに応えるように、サイレント・マジシャンは喉が張り裂けんばかりの声を上げ、体から魔力を惜しみなく放出させていく。それは体を縛る鎖に罅を入れ、上から押しつぶそうとする大斧を押し返し始めた。

 

『グガァッ?!!』

 

「どういうことだ?! 一体どこにそんな力がっ!」

 

 攻撃力はこちらが優勢のはずなのに、バトルの戦況はサイレント・マジシャンに傾きつつある。

 デュエルモンスターズのバトルにおいては攻撃力こそが戦闘における絶対のステータス。攻撃力が上回っている方が勝利こそすれ、敗北はありえない。

 それが起こっているとしたら攻撃力が変動しているということ。

 

「……っ! ケリがつかなかったのはそいつのせいか!」

 

 八代の場のセットカードが一枚表になっていた。

 

『不屈の闘志』

 

 それが八代の仕掛けた最後のセットカードだった。

 なるほど。それならこの力の差をひっくり返すだけのポテンシャルがあるカードだ。

 だがタネが分かってしまえば対応できる!

 

「ならその闘志諸共打ち砕くっ! 『剣闘獣ヘラクレイノス』の効果発動! 手札を1枚捨て、魔法・罠の発動と効果を無効にして破壊する!! 『不屈の闘志』を捻じ伏せろぉぉぉおお!!」

 

 半死のサイレント・マジシャンから一度距離をとり鎖を右腕に収束させる。

 そうしてヘラクレイノスの放った鎖が八代の場で表になっている『不屈の闘志』を貫かんと殺到する。

 これで八代の場のセットカードは全て剥がれた。こちらももう手は無いが、このバトルで俺の勝ちが決まる。

 長かった。この一年は本当に長かった。

 勝利のゴングを聞き、屈辱の敗北を払拭するのをどれほど待ちわびたか。

 

 

 キィィィンッ!!!!

 

 

 金属を打つ甲高い音がコロッセウムに木霊する。

 

「な、にっ?!」

 

 ヘラクレイノスの操る闘気の鎖が『不屈の闘志』のカードの直前で弾かれた。まるで透明な壁にぶつかったかのように。

 よく目を凝らせばシャボンの球面のように光を曲げる膜のようなものが見える。

 

 何処からこいつは現れた?

 

 椀状に広がる膜の発生元を探ろうと視線を上げると、ヘラクレイノスの頭上、そこに膜の液体を泉のように湧き出させる金色の杯が鎮座していた。

 

「聖杯……?まさかっ?!!」

 

「手札から速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動した。これによりヘラクレイノスの攻撃力は400上昇するが、その効果は無効となる!」

 

 椀のように展開していた膜が急速にその範囲を縮め、サイレント・マジシャンをすり抜けると、ヘラクレイノスのみを閉じ込める。さながらシャンパングラスに閉じ込められたかのように。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 

 魂を打ち振るわせるような叫びを上げるサイレント・マジシャンからは溢れ出す魔力の光が立ち上り白光の柱となる。

 巻き上がる土埃が収まると、高圧ガスの口が開閉を繰り返すようにシューシューと音を立てながら体から魔力を迸らせるサイレント・マジシャンの姿があった。

 魔力を回復したことで衣装の損傷も修繕され、体の傷は全て癒えている。

 ゆっくりと瞼を下ろし杖を胸元に抱く。体から溢れる魔力が徐々に収まるにつれ戦場の静けさが際立っていく。雲の切れ間から光が差しサイレント・マジシャンを照らす様子は聖女が神に祈りを捧げる映画のワンシーンのようだ。すると杖の先端からは白刃がすらりと伸びる。

 戦況が完全にひっくり返ったことは火を見るより明らかだった。

 

『————————』

 

 俺には声は聞こえない。だが確かにサイレント・マジシャンの口は何かを伝えるように見えた。

 

『————————』

 

 俺からはヘラクレイノスの背中しか見えない。ただそれに応え笑うように肩を揺らしているように見えた。

 

 二人は合わせ鏡のように互いの得物を構える。

 互いにじっと動かずに相手の隙を伺いながら自らの集中力を高めていく。

 

 そして瞬く間の交差。

 

 すれ違った両者は互いに得物を振り抜いた体勢で固まっている。

 固唾を吞む音がやけに大きく耳に残った。

 先に動いたのはヘラクレイノス。

 ゆっくりと構えを解くとこちらを振り返る。

 そこには袈裟に切られた痕が白い光の筋となってはっきりと見て取れた。

 

「!」

 

 何かを俺に伝えるかのようにヘラクレイノスの口が動いたような気が……

 直後、傷口から溢れ出した光へとヘラクレイノスは飲み込まれ消えていった。

 残心をとりその様を見届けたサイレント・マジシャンは一礼をした後、転移魔法で八代の前に戻っていった。

 本来『剣闘獣の闘器マニカ』を装備したヘラクレイノスは戦闘では破壊されない。

 だが、例外が一つだけ存在する。

 プレイヤーのライフが尽きた時、戦いの終わった時はその戦闘でフィールドを離れることになる。

 ライフポイントが減る甲高い電子音が鳴り響く。

 解説用の巨大ディスプレイには八代が使ったカードの効果がデカデカと映されていた。

 

 

『不屈の闘志』

通常罠

(1):自分フィールドの表側表示のモンスターが1体のみの場合、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、相手フィールドの攻撃力が一番低いモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

 あぁ、そうか。

 

 『黒の魔法神官』こそが最大の囮だったのだ。

 俺には"戦車"があるから罠は通せると油断を誘うための。

 そしてそれこそが『不屈の闘志』のトリガーとなる。

 

 完敗だ。

 

 たが何故だろう。俺の胸に去来したのは負けた悔しさではなく清々しさだった。

 

 

剣闘獣ヘラクレイノス

ATK8000→8400

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK7000→15400

 

 

 

 

鉄LP4000→0

 

 

 

————————

——————

————

 

 デュエル終了後、俺は校長室に呼び出されていた。

 仮にもアカデミアの代表となる訳で、校長自らその激励か何かと当たりをつけていた。

 校長室に入るまでは。

 

「八代君。まぁ知っているとは思うが、こちらが天上院明日香先生だ」

 

「初めまして。さっきのデュエル、見させて貰ったわ」

 

 噂の金髪美人教師、天上院明日香。

 狭霧が載っている雑誌でも特集が組まれていたため容姿は知っていたが、会ってみると実物の方が美人だ。

 薄いピンクのルージュを引いた唇は艶やかで大人の色香を醸し出す。ライトブルーのレディーススーツの上からでもそのグラマラスな体のラインは見て取れる。20代と言っても通じる肌の張りは衰えを感じさせない。

 予想外の対面に俺は暫く言葉を失っていた。

 

「…………」

 

「……八代君?」

 

「あ、あぁ、すいません。初めまして」

 

「その様子だとサプライズには成功したようだね。あぁ、一応他の生徒にはまだ言わないで欲しい。騒ぎになっても困るのでね」

 

 校長の粋な計らいというやつか。

 天上院先生はそれこそ雑誌に載るような有名なデュエリスト。世俗に疎い俺でも知っているくらいだ。クラスメイトが対面しようものなら感激で失神するヤツが出てきても不思議ではない。

 無言で頷き了承の意を伝えておく。

 

「へぇ。デュエルの時は熱い子なのかと思ったけど、普段は落ち着いてるのね」

 

「まぁ、こんな感じです」

 

 俺を測るように向けられる視線はどうにもやりづらい。

 

「見ているこっちも熱くなる良いデュエルだったわ。それこそプロでもなかなかお目にかかれないほどの。やっぱり将来はプロ希望?」

 

「いえ……まだ、決めてないです」

 

「……意外ね?てっきりもう事務所も当たりをつけてるのかと思ったわ。他にやりたい事があるの?」

 

「……そんなところです」

 

 将来のことについて考えるのはどうにも億劫になる。

 

"元の世界に戻る"

 

 そのための取引が俺にはある。

 上手くいく保証のない事だが、何れにせよそのケジメを付けねば先には進めない。

 その枷が俺を縛り、将来に対しては言葉を濁すしかできなくなる。なんとも曖昧で不誠実な答えな気がして胸の奥に鉛が落ちたような気分になる。

 

「焦らなくても良いわ」

 

「……え?」

 

「人生は長いもの。学生の時に決めた将来がすべてになるわけじゃないわ。学生から卒業する時が社会に出るきっかけなだけ。生活の中で色々な物を見て、感じて、考えて、そうやって自分のペースで将来を決めていけば良いのよ」

 

 それは意外な返答だった。

 不遜だが少なかれプロを目指すことを推されるかと思っていたからだ。

 だからこそ続く言葉もすんなりと自分の中に入ってきた。

 

「ただ考え込み過ぎて何もしないのは勿体無いわ。若い時の方が色々な事に挑戦できる時間が多いんだから。別に失敗しても良い。そもそも人生で成功することの方が少ないんだし、どんどん興味のある事にチャレンジしていくことは大切なことよ。失敗したならその理由を考えてみる。それで向いてないと思ったなら他のことをやってみるでも良い。原因を分析してもう一度挑戦してみるでも良い。そうして次のアクションに繋げるの。その積み重ねの経験が貴方を成長させていくわ」

 

「……」

 

「と、ごめんなさいね。会って間もないのに色々と言ってしまったわ」

 

「いえ……少しだけ気持ちが軽くなった気がします」

 

「そう? なら良かった」

 

 あまり実感は湧かないが、こうして天上院先生に将来のアドバイスを貰えると言うのは貴重なことなのだろう。

 それを良いことに“どうしてこんなに気にかけてくれるのか”とこちらから疑問をぶつけてみた。

 

「なんだか学生の頃を思い出してね。当時は私も色々悩んだわ。それを思い出したらほっとけなくて」

 

 懐かしそうに微笑みながらこちらを見つめる瞳には俺ではない誰かを重ねているのか。

 天上院明日香というデュエリストが歩んできた人生を俺は知らない。

 ただ彼女にも学生の頃があり、デュエルの数だけの物語を紡いできたのだろう。立ちはだかる強敵を乗り越え、戦友としのぎを削り、その経験が彼女のデュエルを作る血肉となっている。そしてその結果が今の地位なのだろう。

 紛れも無い強者。デュエルの頂に立つ再戦を誓ったあの男を倒すには乗り越えねばならない壁になりうる相手だ。

 だがそれとは別で純粋にデュエルをしてみたいと言う気持ちが芽生えていた。

 だからこそ俺は伝えなければならないことがある。

 

「一ついいですか?」

 

「えぇ、どうぞ?」

 

「デュエルの時は教師だとか生徒だとかは関係なく、一決闘者としてお相手お願いします」

 

 折角の強者との対戦する機会を得たのだ。生徒を相手にするという余分な感情は不要。

 全身全霊をかけてお互いがぶつかってこそ意味がある。

 俺のこの思いを理解してくれたようで、天上院先生は笑顔で承服してくれた。

 

「ふふふっ。分かりました。一決闘者として全力で貴方とデュエルする。それでいい?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 そうしてやりとりを終えた俺は入る時よりも少し高揚した気分で校長室を後にする。

 思えばデュエルに対して期待を募らせるのはあの男とのデュエル以来のことだった。




バトルロイヤルは今までで一番難しかったです。
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