遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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天上院

 時刻は既に日付を跨ぐ頃合い。

 少し伸びをして体をほぐす。

 

「んっ……」

 

 学生時代から悩まされている肩凝りだが、こうして肩を動かしてやると気休め程度に良くなった気がする。

 幸い今日はホテルの部屋での作業、人目を気にしなくていいので気を張らなくて良い。椅子に浅く腰掛け机に肘を乗せながらもたれ掛かっていても咎める人はいない。少し胸の形は崩れるがこの方が楽なのだ。

 

 過去のデュエルのデータを見ながら、指摘点をノートにまとめる。それをデュエルの中でどう伝えるかを考えながら、自分が使用するデッキの最終調整をする。それがデュエルアカデミアの教師になってからの実技授業の前日のルーティンとなっている。

 

「凄い気迫ね」

 

 それはデュエル場内の客席の後方からデュエルを記録した映像だった。

 本当はもっと近くのカメラからの映像が欲しかったが、デュエル場付近は対戦相手の子の特異な力によって破壊し尽くされてしまっている。当然対戦相手の彼もその力の煽りを受けて制服に血を滲ませているのが分かる。本来なら教師がデュエルを止めなければいけない場面だ。

 しかし他の生徒の避難誘導や、当人がデュエル続行の意思を見せ続けた事でこのデュエルは続いている。

 

 手札は尽き盤面は劣勢、ドロー次第では敗北が確定するという場面。にも関わらず微塵も戦意は薄れていない。

 いや、寧ろ最高潮に高まっている。まるで逆転カードを引く事が分かっているかのように。

 

 自分が同じ立場だったとして、戦意を落とすことなくデュエルを進められるだろうか?

 浮かんだ疑問に対しては首を横に振らざるを得ない。最後まで諦めないと言うのは聞こえがいいが、自分の知る人間の中でも一握りだろう。そんな稀有な人間だからこそ、運命を引き寄せる事ができるのかもしれない。

 

 宣言通り、逆転のカードを引いてデュエルは終幕した。このデュエルもそうだが、指摘すべき点が見当たらない。いや、果たして自分が指導すべき立場なのか、そんなことさえ頭を過ぎる。

 

 続いてこの前ネオドミノ校を訪れた時の動画を再生する。バトルロイヤルという変則ルールは通常のカリキュラムの中で教える機会はほとんどない。

 

 マグに注いだ白湯を飲みながらデュエルの流れを追っていく。

 

 参加者全員に共通するところだが、リソースの確保が上手だ。途中で手が無くならないように適宜自分のターンで手札を補充できている。

 

 喉を通る白湯で体が温まっていくのに合わせるように、デュエルも終盤に差し掛かり熱を帯びていく。

 

 最後のバトルの駆け引きは見事と言う他ない。 一通りデュエルを見て、私は教師という驕りを捨てた。持てる力、その全てを使ってこのデュエルに挑む。それがこのデュエルに向けるべき思いなのだと気持ちを改め直す。

 

 

————デュエルの時は教師だとか生徒だとかは関係なく、一決闘者としてお相手お願いします

 

 そんなことを言われたのはいつ以来だろう。

 

 確か教師になりたての頃は、腕に自信のある子からそんなことを言われた事があった。でも教師としての実績を積む毎に、生徒から挑まれる事よりも教えを請われることの方が多くなっていった。その事に違和感は感じていなかったが、思えばそれが生徒との壁になっていたのかもしれない。

 最近の若者は、なんて枕詞で始まる言葉を使いたくはないが、自分が学生の頃と比べると無茶苦茶な子は少なくなっている気がする。尤もあの頃が異常だったと言われれば、それはそうかもしれないけど。

 

 それともライディングデュエルの台頭が一つの原因なのか。跳ねっ返りの強い子はライディングデュエルをしたがる傾向がある。デュエルアカデミアではライディングデュエル中のスピードデュエルの座学はあるが、実習はまだない。私自身もライディングデュエルを教えることはできないので、ライディングデュエルを志す学生との交流はほとんどない。

 

 デュエルを見ていて熱い気持ちにさせてくれた子にそんな言葉をかけられては昂らずにはいられない。

 

 だが、一方で私は相対するに値するデュエリストなのだろうか。

 彼は今、魂を燃やすような熱いデュエルを重ねている。

 

 一方の私はどうだ? 

 教師という立場に甘んじて自分を研鑽するという姿勢が足りていなかったのではないか? 

 教えを請われる立場ということで、教える技術ばかりにとらわれて、本質的に自分を伸ばす努力というものをどれくらいしていただろうか?

 

 ズキリと胸が痛む。心はずっと正直だ。直感的に理解した。私はきっと驕っていたのだろう。生徒と共に成長するという思いを忘れて、自分が教え導く立場なのだと、そう思うようになっていたのだ。

 自分の青春の始まりの熱をくれたデュエルは生徒と教師、そんな立場を置き去りにした素晴らしいものだったというのに。

 

 今更そんな事に気がついたとしても私のデュエルの技術は大きく進歩するものではない。

 ただし、今まで自分が触れてきたカードの中で何を利用するのかは。使い慣れているカードだけではなく、使ったことのあるカードもまた選択肢に入れていく。自分の可能性、そして相手のデッキとの兼ね合いも込めて、後に振り返った時に全てを尽くしていたと言い切れるようにデッキを組もう。

 

「楽しみにしているわ」

 

 モニター越しのデュエリストに向けてそう言葉を溢した。

 

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「あら? なんだが朝から元気ないわね?」

 

「憂鬱なだけです」

 

 いつもの朝の食卓を囲む中、狭霧は一目で俺の内心を看破した。

  天上院明日香とのデュエル自体は期待に心躍らせている。新しいデッキの調整に気合を入れ過ぎて、気がついたら夜空が白んでき始めていた程だ。

 だが……

 

「あー、そう言えば人前でデュエルするのは好きじゃなかったわね。テレビカメラも入るみたいだし……それもそっか」

 

「はい」

 

 一緒に生活を共にする中で俺の性分の理解が深まってきたようだ。

 

「はぁ……」

 

 強者とのデュエルは良いものだ。それこそこの前の万丈目AIとのデュエルでも得難い経験を得られた。

 

 しかしそれとこれは別の話だ。

 ため息を溢すくらいは許して欲しい。

 

「大丈夫? 顔色も少し悪いけど?」

 

「遅くまでデッキの調整をしてたので。デュエルまでには回復させますよ」

 

「はぁ。ほどほどにしなさいよ」

 

 ジト目を向けながらの注意には二つの意味が込められている。

 

 "夜更かししすぎるな"と"授業をあまりサボるな"だ。

 

 適当に生返事をしながら、デッキの今回のデッキについて少し振り返る。

 

 今回用意したデッキは少し特殊なものとなっている。

 事の発端は精霊世界に行って窓や精霊の概念を知ったことでデッキ構築に対する考え方に新しい仮説が生まれたことに起因する。

 

 仮説とはデッキ構築枚数についてだ。

 一般的にはデッキ枚数は40枚で構築することが良いとされている。なぜならデッキの枚数が増えれば増えるほど手札に来て欲しいカードを引ける可能性が減るからだ。

 

 だが窓を通して精霊との繋がりが強くなれば引きたいタイミングでカードを引ける確率が上がるとしたら?

 

 脳裏に過るのはあのAI万丈目との一戦でのラストドロー。デッキの上に指を置いた時に感じたカードと強く結びついたかのような感覚。

 あれが窓を介してこちらを覗く精霊もまた此方に手を伸ばした時に起こる事だとしたら?

 

 無論これはあくまで仮説に過ぎないため、今回のデッキでいきなり60枚のデッキに厚さを増やすなどという無茶はしていない。ただ意図的に40枚を超えるデッキにしたという珍しい構築になっている。

 

「開始時刻は15時だったわよね?」

 

「確かそうだったと思います」

 

「ならテレビの方はそんなに見る人はいないと思うわ。今日はアトラス様の公式戦が14時30分から始まるのよ。デュエル好きはみんなそっちを見るんじゃないかしら」

 

「それを聞いて少しだけ気が楽になりました」

 

「まぁそれで今日の八代君の晴れ舞台の応援には行けないんだけどね……」

 

「仕事なのでそれは気にしないでください。それよりそろそろ時間じゃないんですか?」

 

「あっ! いけない! 先に行くわね。戸締りよろしく。あと、遅刻しないようにね」

 

「はい、わかってますよ。いってらっしゃい」

 

 慌ただしく家を飛び出す狭霧をその場で見送り、朝食で使った食器の片付けに取り掛かる。

 狭霧がいなくなったことで実体化したサイレント・マジシャンはキッチンに並んで俺が洗った食器を拭いていく。

 

「授業中は全部潰れてるだろうから後は頼む」

 

『ゆっくりお休みください。少しでも休めるようにお手伝いします』

 

 疲れがピークに達しつつあるどんよりとした声とは対照的に、ハキハキとした返事が返ってくる。

 俺のデッキ構築を一晩中見ていて寝不足なのは変わらないはずだが、精霊と人との違いなのかサイレント・マジシャンからは疲れた様子を感じない。

 いや、それどころか昨日よりも元気になっている様にも見える。

 何はともあれ、健康であるならそれに越した事はない。

 

 学校で潰れているとなるとデュエル前、まともに話せるのはおそらくこのタイミングが最後だろう。

 デュエル前に気合いをいれるように俺はサイレント・マジシャンへ意気込みを伝えた。

 

「俺は楽しむ。だからサイレント・マジシャンも思う存分楽しんでくれ」

 

『はい!』

 

 俺のこのデュエルに向ける熱に応えるように力強い返事と、とびっきりの笑顔が返ってきた。

 

 

 

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 今日の目覚めは人生史上最高のものだった。

 何せ目覚ましのアラームが鳴ると同時に起床できたのだ。妹の龍可が起こしに来た時にベッドから出ていたのは初めてのことだった。

 

 朝食を済ませた後も午前中の通信教育のカリキュラムに身が入り、確認テストも完璧だったため、講師も感心した様子だった。

 

 それもこれも今日の午後からのイベントのためだ。

 今日の通信教育は午前中で終わり。そのためリアルタイムで楽しみだったデュエルを見ることができる。

 

「ねぇねぇ、龍可。ちゃんと録画できてる?」

 

「もう、昨日も一緒に確認したでしょ? 予約リストに入ってるわよ」

 

「したけどさぁ。もう一回確認しよう。録れてなかったら俺絶対後悔する!」

 

「はぁ……わかったわよ」

 

 そう言って今日五度目の録画リストの確認をする。

 今日の録画リストの先頭にはジャック・アトラスの公式戦、そして続いてデュエルプロフェッショナル『天上院明日香』と続いている。番組説明には『天上院明日香がデュエルアカデミア・ネオドミノ高に訪問! 現役在校生との親善試合の様子を生中継』と書かれていた。

 

「この在校生って本当に八代さんなの?」

 

「間違いないよ! だって八代兄ちゃんは俺の師匠なんだぜ? デュエルアカデミアの代表に選ばれるに決まってる」

 

「全然根拠になってないじゃない……」

 

「はぁ、龍可はわかってないなぁ……」

 

 八代兄ちゃんとデュエルをしてからGDSに毎日のように向き合い、オンラインでデュエルの腕を磨いてきた。

 まだ負けることの方が多いけど、勝てる回数は段々と増えてきている。色んな相手との対戦で知っているカードも増えてきた。少しずつだけど強くなってきている実感がある。

 

 だからこそ俺の師匠の凄さが改めて分かってきた。

 同じ"D"デッキ使いと対戦したことはない。それどころか"D"デッキを使うと、相手の待ち時間が多くなる。多分"D"の効果がわかっていないのだろう。

 そんなデッキ相手でも八代兄ちゃんはカードの効果を把握していた。

 

 沢山のデュエルの経験の中でカードの知識を増やし続け、更に勝負の勘で相手の仕掛ける罠を読み、対策をしながらデュエルを進める。

 

 負ける姿など想像できなかった。

 

「ふーん、そう」

 

「あっ! ポップコーンとポテチも出そう! 龍可はコーラを準備して!」

 

「はぁ……全くこういうところは子供なんだから」

 

 いつもは言い返すところだが、今日の最高に楽しみな気分のおかげで、そんな龍可の言葉も気にならなかった。

 

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 デュエルアカデミア・ネオドミノ高における最大のデュエル場の観客席はかつて無いほど賑わいを見せていた。

 このデュエル場は卒業デュエルの会場として毎年使用されており、観客席は在校生一同と卒業生の両親が入っても余裕があるほどの席数がある。

 在校生の観戦は自由となっているが、このデュエルにおいては全員観戦を希望した。

 そして今回のエキシビションデュエルは外部の人間にもチケットが販売されており、その売れ行きは空いている席の少なさからも伺える。

 

「いよいよだな」

 

「あぁ。どんな展開になるか。今から楽しみでならない」

 

 我々を下して学園の代表として天上院明日香先生とのデュエルの権利を勝ち取った男のデュエルだ。デュエル開始の時刻になるまでのこの時間がもどかしい。

 

 八代と同じクラスということもあり、我々の席は最前列のエリアが確保されている。一般販売されている席のエリアとちょうど接している場所だった。

 

「失礼。隣に座っても?」

 

「えぇ、構いませんよ」

 

 声をかけてきたのは男性二人と女性一人の三人組だった。

 スーツの男性と、赤髪の女性、黒の私服の男性の順で腰掛ける。

 男性陣はダークグレーのスーツの成人と黒のジャケットと黒のパンツの青年といった風貌で特に印象に残らなかったが、女性の格好は目を引くものだった。

 理由は顔全体を覆っている白の仮面だ。

 ワインレッドのワンピースの上からでも豊かなボディラインが見てとれ、そこで素顔が隠れることで神秘的な印象を受ける。

 

「ア……ローズ。今日のデュエルのアカデミア代表は目的の彼なのかい? テレビの番組説明に記載はないが」

 

「えぇ、間違いないわ」

 

「何を根拠にしてるのかわからねぇな。まぁ面白いものが見れりゃそれで良いけどよ」

 

「根拠は簡単なことよ。今の学園で一番強い、それが彼よ」

 

「はっ! でたでた。それが盲信じゃないことを祈るぜ」

 

 この三人も八代の知り合いなのだろうか。

 特に赤髪の女性は八代の腕を知っているような口ぶりだ。

 

「けど戦王のヤツ、大丈夫なのか。今日の授業はいつもよりも爆睡してたような気がするが」

 

「確かにな。朝見た時も心なしか青ざめた顔に見えた」

 

「それだけギリギリまで準備でもしてたのか」

 

 普段の授業では山背さんが起こせば頭を上げはするのだが、今日は先生に教科書で頭を引っ叩かれても反応が鈍かった。

 そんな八代の様子に担任も大丈夫なのかと問いかけていたが、その時だけは当たり前のように「勝ちます」とだけ答えていた。デュエルにおいては全幅の信頼を預けるに足る男だ。その言葉に嘘はないだろう。

 

「ここにいる外から来た観客は皆、明日香先生目当てなんだろうな」

 

「それはそうだろう。アカデミアの生徒でも代表戦を見てない者はそれが目的になっている」

 

「呵呵ッ」

 

「ん、何がおかしい?」

 

 番長は愉快げに口角を上げながら観客席を見渡している。

 

「いや、だから楽しみでしょうがない。俺たちの代表になった漢のデュエルで観客全員の度肝を抜く瞬間がな」

 

「ははっ、違いない」

 

 まるで俺たちの会話に同調しているかのように、赤毛の仮面の女性も深く頷いていているようにみえた。

 

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「只今より、天上院明日香先生の来訪を記念してのエキシビションデュエルを行います」

 

 デュエル場に上がると放送席からのアナウンスが会場全体に伝えられる。

 それを受け観客席からは拍手や主に天上院明日香へ向けた声援が送られた。

 

「凄い歓声ね。こんなに人が集まるなんて思わなかったわ」

 

「生中継されるほどの人気がある天上院先生がいるからでしょう」

 

「あら? あなた目当てで観ている人もいるかもしれないわ」

 

「ご冗談を。しがない一学生を知っている人間は学園の生徒くらいですよ」

 

「ふふっ。ならこれが貴方の全国デビュー戦になるわね」

 

「はぁ……勘弁して欲しいですね。人前でデュエルをするのはそもそも苦手なんですよ」

 

「へぇ、シャイなのね。プロを目指すなら先ずは人前でデュエルをすることに慣れないと」

 

「前にも言いましたが、まだ将来は決めてないです」

 

「決めてなくても良いのよ。ただ人前に出ることに慣れれば、それだけで貴方の将来の選択肢が増える筈だわ」

 

「それは……」

 

 言葉は続かなかった。

 確かにそうだと納得している自分がいる。

 ただ人前のデュエルにはトラウマの影がまだ脳裏にチラつく。ここにきて間もない頃の記憶が蘇りかけたが、それをかぶりを振って掻き消す。

 

「ふふっ、そろそろデュエル前の雑談はお終い。どう? 少しは緊張も取れたかしら? 言っておくけど、私を焚き付けておいて緊張して実力を出せなかった、なんて言い訳は許さないわ」

 

「そんなつまらないデュエルにはしませんよ」

 

 天を仰ぐ。顔に右手を被せ目を閉じて深く息を吸い込む。ゆっくりと息を吐き出す音のみに集中して、歓声の音を意識から外す。

 そして呼吸を平常に戻し前を見る。指の隙間から見えた天上院明日香にピントを合わせれば、いつものデュエル屋家業の仮面越しの視界となんら変わらない。

 朝からの憂鬱な気分も、大勢の前に立っている時の胸のざわつきも無くなったことを確認して、手を離す。

 

「もう大丈夫。ここからは貴方しか見ない」

 

「っ! 情熱的な誘い文句ね」

 

 デュエル開始のブザーが鳴ると同時に俺のデュエルディスクにライトが点灯した。

 

「先行は俺だ。ドロー」

 

 手札の状況は先行としては良好。手順に迷う要素はない。

 

「永続魔法『魔法族の結界』を発動」

 

 デュエル場で対峙する二人の幅を超える直径の魔法陣がデュエル場の天井付近に浮かび上がる。

 

「そして『魔力掌握』を発動。『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せ、デッキから『魔力掌握』を手札に加える』

 

 上に浮かんだ結界に拳大の光球が灯ると、結界上をゆっくりと周回し始める。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 0→1

 

 

「そして『見習い魔術師』を守備表示で召喚。召喚時の効果で『魔法族の結界』に魔力カウンターをさらに一つ乗せる」

 

 金の短髪の魔術師は登場すると同時に結界目掛けて魔力の小球を打ち上げた。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 1→2

 

 

 こちらの動きに対して相手は特に反応はない。

 相手としても想定の範囲内といったところか。

 

「カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 滑り出しは上々。次のターン以降の備えもある安定した立ち上がりと言える。

 次のターンでどこまで動いてくるのか見せてもらおう。

 

「私のターン、ドロー。『宣告者の神巫』を召喚」

 

 最初に相手の場に現れたのは光の反射で虹色に光るローブを纏ったおさげの少女だ。フードには天使の羽を模した一対の装飾が施されている。背中から生えたローブ同様の色合いをした無機質な翼こそ彼女がただの田舎娘ではない事の証左だ。

 

 

宣告者の神巫

ATK500  DEF300

 

 

 初手としては最高の部類のカードだ。なにせこのカード一枚で出来ることが多い。

 

「『宣告者の神巫』の効果発動。デッキまたはEXデッキから天使族モンスターを墓地へ送り、送ったモンスターのレベルだけ自身のレベルを上昇させる。私はEXデッキから『虹光の宣告者』を墓地へ送る。これによりレベルを4つ上げるわ」

 

 効果の発動で翼の大きさが一回り大きくなった。レベル上昇に応じて翼の大きさは変わるようだ。

 

 

宣告者の神巫

レベル2→6

 

 

 この効果の強みはレベルの上昇が目的ではなくデッキ、EXデッキと幅広い場所から任意の天使族を墓地へ送れるということにある。

 

「そして墓地へ送られた『虹光の宣告者』の効果発動。デッキから儀式魔法または儀式モンスターを手札に加える。私は『サイバー・エンジェル-弁天-』を手札に加える」

 

 今回はサーチによる手札補強に繋げたか。

 

 デッキから手札に加えた『サイバー・エンジェル-弁天-』で相手のデッキが大まかに推察できた。恐らくそのままのサイバー・エンジェルデッキか天使族デッキの類だ。これだけでも警戒すべきカードの候補は挙げられる。

 

「儀式魔法『機械天使の儀式』を発動。フィールドのレベル6となった『宣告者の神巫』をリリースし『サイバー・エンジェル-弁天-』を儀式召喚」

 

 地上に金色の光が輝くと曼荼羅が描かれる。

 直後、地面が砕け曼荼羅から巨大な祭壇が隆起した。

 『宣告者の神巫』の体が光へと変わると、祭壇の頂上へと吸い込まれ巨大な炎を灯す。

 炎の中から飛び出してきたのは膝まで伸びた豊かな黒髪を先端で結った女性だった。

 

 

サイバー・エンジェル-弁天-

ATK1800  DEF1500

 

 

 『サイバー・エンジェル-弁天-』はステータスだけ見れば凡庸以下のモンスター。それをわざわざ儀式召喚してくることを考えると"サイバー・エンジェル"デッキの線が濃厚か。

 

「さらにリリースされた『宣告者の神巫』の効果発動。デッキからレベル2以下の天使族モンスター1体を特殊召喚する。『サイバー・エッグ・エンジェル』を守備表示で特殊召喚」

 

 フィールドに現れたのは機械仕掛けの卵。その中心に亀裂が走ると、中から一対のメタリックグリーンの翼が飛び出し、空中に浮かんだ。殻の影で中の様子は部分的にしか分からないが、黄身のような光を放つ球体が中にあることは確かだ。

 

 

サイバー・エッグ・エンジェル

ATK200  DEF300

 

 

 『宣告者の神巫』のもう一つの強みがここで出た。

 リリースされても後続が途切れない。

 

「特殊召喚された『サイバー・エッグ・エンジェル』の効果で機械天使魔法カード、『応身の機械天使』を手札に加える」

 

 この一連の流れでデッキの予想が確信へと変わった。

 

「バトルよ! 『サイバー・エンジェル-弁天-』で『見習い魔術師』を攻撃! エンジェリック・ターン!」

 

 攻撃宣言を受け『サイバー・エンジェル-弁天-』が地を蹴り勢いよく飛び出す。

 

「攻撃宣言時、永続罠『憑依解放』を発動!」

 

 鉄扇による突きに対して『見習い魔術師』は防御障壁を張るが、出力が明らかに足りていない。障壁は薄ガラスのように砕け『見習い魔術師』は消し飛んだ。

 

「『サイバー・エンジェル-弁天-』が戦闘でモンスターを破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える」

 

 遠当ての要領で突きの衝撃が後ろの俺にまで到達しライフを削られた。

 

 

八代LP4000→3200

 

 

「戦闘で破壊された『見習い魔術師』の効果、さらに自分の場のモンスターが戦闘で破壊されたことで『憑依解放』の効果を発動。同時に『魔法族の結界』に魔力カウンターが乗る」

 

 『見習い魔術師』の残した魔力の残滓が上空で回転を続ける結界に浮かび上がる。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 2→3

 

 

「『憑依解放』の効果で破壊されたモンスターと異なる属性の守備力1500の魔法使い族をデッキから攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。『光霊使いライナ』を裏側守備表示で特殊召喚」

 

 リバース状態で俺の場にカードが現れる。

 

 

光霊使いライナ

ATK500  DEF1500

 

 

「『見習い魔術師』の効果でデッキから『聖なる魔術師』をセット」

 

 続いてその隣にもセットされたモンスターが並んだ。

 一体のモンスターの破壊をトリガーに二体のモンスターを揃える事ができたのは良い展開と言えるだろう。

 

「"霊使い"も使うのね。使ってたデュエルは記録になかったと思ったけど」

 

「この日のために練ってきたデッキですよ。初お披露目です」

 

「初めての相手なんて、それは光栄ね。永続魔法『応身の機械天使』を発動。カードを二枚セットしてターンエンドよ」

 

 『応身の機械天使』は"サイバー・エンジェル"儀式モンスターに戦闘耐性を付与する効果と、戦闘ダメージ発生時に"サイバー・エンジェル"儀式モンスターをリリースして手札から"サイバー・エンジェル"儀式モンスターを儀式召喚する効果を併せ持つ。

 本来であれば優れた防御札だが、この状況では意味をなさない。それがわかっていない相手ではないだろうが、果たして何で備えているのか。少なくとも手札一枚では俺が警戒するカードは機能しない。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 続く引きも冴えている。時間をかけて組んだ甲斐があったものだ。

 

「手札を一枚捨てて、速攻魔法『精霊術の使い手』を発動。"霊使い"モンスター、"憑依装着"モンスターまたは"憑依"魔法・罠をデッキから二枚選び、その内の一枚を手札に加え、もう一枚を場にセットする。俺は『憑依覚醒』を手札に加え、『憑依連携』をセットする」

 

 これでこのターンで決着をつけれるほどの火力は整った。

 

「手札から捨てた『ライトロード・メイデン ミネルバ』の効果でデッキトップからカードを一枚墓地へ送る」

 

 墓地へ送られたカードは今のところ流れに影響を及ぼすものではない。

 

「『魔力掌握』を発動。再び『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せ、デッキから最後の『魔力掌握』を手札に加える」

 

 四つ目の魔力球が打ち上がったことで魔力が満ちた上空の魔法陣は準備が整ったとばかりに明滅し始める。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 3→4

 

 

「『光霊使いライナ』を反転召喚」

 

 裏側だったカードから光の魔法陣が輝き出す。

 白髪の頭をはじめ、肩から腰にかけてのベージュのローブ、絶対領域を挟んで黒のニーソックスが通過し、足先の茶色のローファーまで魔法陣からゆっくりと全身が現れる。

 登場と同時にこちらに軽く会釈をしたように見えたが、俺とは面識はなかったはずだ。

 

「リバース効果で相手の光属性モンスター、『サイバー・エンジェル-弁天-』のコントロールを得る」

 

 ライナは瞑目しながら何か呪文を唱え始めた。呼応するように体からサイレント・マジシャンと同じ白い魔力の光がもやもやと煙のように立ち上る。

 そして身の丈ほどの長杖を天に翳すと、立ち上った光が『サイバー・エンジェル-弁天-』の体を包み込む。

 その光に引き寄せられた『サイバー・エンジェル-弁天-』はそのままライナの横まで導かれた。

 

「永続魔法『憑依覚醒』を発動。これにより自分のフィールド上のモンスターは自分のフィールドの属性の種類×300攻撃力がアップする」

 

 光属性の力のサポートを受けたモンスター二体の体に白色のオーラが一瞬浮かび上がる。

 

 

光霊使いライナ

ATK500→800

 

 

サイバー・エンジェル-弁天-

ATK1800→2100

 

 

「『光霊使いライナ』と自分の場の光属性モンスター一体、俺は『サイバー・エンジェル-弁天-』を墓地へ送りデッキから『憑依装着-ライナ』を特殊召喚する!」

 

 『サイバー・エンジェル-弁天-』の姿が霊体化し、ライナに乗り移るように体の中へと消えていく。

 直後、ライナの体に変化が起きる。ショートの髪型はそのままに、十歳に満たないくらいの姿から、身長が少し伸びて僅かに胸囲も膨らみを見せ始める。凡そ五年くらいの成長した姿だろうか。顔つきも少し大人び始めている。

 

 

憑依装着-ライナ

ATK1850→2150  DEF1500

 

 

 これにより『サイバー・エンジェル-弁天-』のリリースされた時に発動する効果も使わせることなく除去することができた。

 尤も天上院先生もこの展開は読めていたはず。表情に変化はない。

 

「元々の攻撃力が1850のモンスターの特殊召喚に成功したことで『憑依覚醒』の効果を発動! さらにこの方法で『憑依装着-ライナ』の特殊召喚に成功した時、デッキから守備力1500の魔法使い族を手札に加えることができる。俺が手札に加えるのは『太陽の魔術師エダ』」

 

 デッキ圧縮からドローする流れを作る事でより引きたいカードを引く可能性を上げる。

 その手順は一般的で、かつ効率が良く裏目になりにくいはずだった。

 

「『憑依覚醒』の効果でカードを1枚ドローする」

 

「相手がドローフェイズ以外でドローしたこの瞬間、永続罠『便乗』を発動!」

 

「っ?! 罠発動! 『貪欲な瓶』」

 

 『便乗』という古のカードの発動には驚愕が隠せなかった。

 発動条件が限定的で、かつ発動した瞬間にはアドバンテージが取れず、耐性もない永続罠なため、破壊されてしまうと一方的にディスアドバンテージを被る。故に採用率は非常に低い。

 だが発動後に相手がドローカードを使用すると、発動したプレイヤーも二枚ドローするという強力なアドバンテージをもたらす。

 

「墓地の『光霊使いライナ』、『魔力掌握』を二枚、『ライトロード・メイデン ミネルバ』、『精霊術の使い手』の計五枚をデッキに戻し、カードを一枚ドローする」

 

 咄嗟に『便乗』に合わせて『貪欲な瓶』をチェーンした事で今回はドローさせることはなかったが、『魔法族の結界』に合わせてドローされるのは避けられない。

 『憑依覚醒』と『憑依装着-ライナ』の発動順が逆であれば、『便乗』の発動タイミングはなかった。

 こんな裏目があるとは、やはりデュエルは奥が深い。ただ今回はこのケースに当たったが、この先も同じ状況になったなら同じ手順でデュエルを進めるだろう。一旦、気持ちを切り替える。

 

「珍しいカードを使いますね」

 

「貴方の過去のデュエルを見て、使えるかもって思ったの。ちょっとズルかったかしら?」

 

「いえ、わざわざ対策までして本気で向き合ってもらえて光栄ですよ! 『太陽の魔術師エダ』を召喚」

 

 日輪を模した魔法陣から全身を白い衣装で統一した魔術師が姿を見せる。肌も色白なため、太陽の名を冠するに相応しい陽光の様なオレンジ色の髪色が際立って見える。

 

 

太陽の魔術師エダ

ATK1500→2100  DEF1500

 

 

憑依装着-ライナ

ATK2150→2450

 

 

 『太陽の魔術師エダ』は地属性。

 フィールドに光属性以外の属性が増えたことで『憑依覚醒』による攻撃力の上昇の効力が増す。

 

「『太陽の魔術師エダ』の召喚時、守備力1500の魔法使い族モンスター一体を裏側守備表示で特殊召喚する。俺が特殊召喚するのは『闇霊使いダルク』」

 

 裏側守備表示のため姿は見えないが、これで俺の場には四体の魔法使いが並んだことになる。

 

 

闇霊使いダルク

ATK500  DEF1500

 

 

「バトル! 『憑依装着-ライナ』で『サイバー・エッグ・エンジェル』を攻撃!」

 

「永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動! 墓地の『サイバー・エンジェル-弁天-』を攻撃表示で復活させるわ!」

 

 このターンにフィールドから排除した『サイバー・エンジェル-弁天-』が再び天上院明日香の前に割った入る。

 

 

サイバー・エンジェル-弁天-

ATK1800  DEF1500

 

 

 やはりあっさりとゲームエンドとはいかないか。

 後続が出てきた以上、このターンでライフを削り切ることはできない。

 

「バトル続行! 『憑依装着-ライナ』で『サイバー・エッグ・エンジェル』を攻撃!」

 

 攻撃宣言を受けて今度こそライナは杖はと魔力を溜め始める。

 

「『憑依解放』の効果により"憑依装着"モンスターが相手モンスターに攻撃する時、ダメージ計算時のみ攻撃力が800アップする!」

 

 

憑依装着-ライナ

ATK2450→3250

 

 

 これでライナは最上級モンスターを超えるパワーを得た。頭上に掲げた杖に蓄えられた魔力は白い火花を散らし始める。

 杖を振り下ろす勢いに乗った放たれた特大の魔力球は地面スレスレを通りながら『サイバー・エッグ・エンジェル』を直撃した。

 

「そして自身の効果で特殊召喚した『憑依装着-ライナ』は貫通能力を得る。『サイバー・エッグ・エンジェル』の守備力との差、3750ダメージを与える」

 

 『サイバー・エッグ・エンジェル』を爆散させた勢いをそのままに、白い光の奔流が天上院明日香を襲う。

 

 

明日香LP4000→1050

 

 

憑依装着-ライナ

ATK3250→2450

 

 

 『憑依解放』の瞬間的な能力上昇が消え、ライナの髪が逆立つほど溢れていた魔力が落ち着きを見せた。

 

 ライフポイントが減算される機械音を遮るように、光の中から天上院明日香の声が響いた。

 

「戦闘でダメージを受けた時、『応身の機械天使』の効果を発動! フィールドの"機械天使"儀式モンスターをリリースして、手札から"機械天使"儀式モンスターを儀式召喚扱いで特殊召喚する!」

 

 『リビングデッドの呼び声』からこの流れになることは予想できていた。

 

「『サイバー・エンジェル-弁天-』をリリース」

 

 このターン既にフィールドと墓地を一往復した『サイバー・エンジェル-弁天-』が再び光の中に消え墓地へ戻っていく。

 

「癒しの力秘めし光の天使よ。麗しき姿で快癒をもたらせ。降臨せよ! レベル5、『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』!」

 

 光の中から現れたのは人馬一体となった四つ手の女騎士。金の鎧を身につけながらも黒地のマントを靡かせ軽やかにフィールドを駆けて見せる。

 

 

サイバー・エンジェル-那沙帝弥-

ATK1000  DEF1000

 

 

 ステータスは『サイバー・エンジェル-弁天-』に劣るものの厄介な効果を持っているので、出てきて欲しくはなかった。

 

「『サイバー・エンジェル-弁天-』がリリースされたことで効果発動! デッキから光属性天使族モンスターを手札に加える。私が手札に加えるのは『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』」

 

 手札に加えたカードを確認し、内心冷や汗が流れた。

 『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』が持つ効果があれば、俺のライフに届き得る。

 

 だが戦闘で破壊されない守備の壁がある以上、バトルの続行に意味はない。

 

「これでバトルは終了する。『魔法族の結界』の効果発動。『太陽の魔術師エダ』とこのカードを墓地に送り、『魔法族の結界』に乗っている魔力カウンターの分だけドローする。『魔法族の結界』に乗っている魔力カウンターは四つ。よって四枚ドロー!」

 

「相手プレイヤーがドローフェイズ以外でドローしたことで再び『便乗』の効果によって私も二枚ドローする」

 

 さらに『太陽の魔術師エダ』がフィールドから消えたことで、属性が一種類減り『憑依覚醒』のバフ効果が弱まった。

 

 

憑依装着-ライナ

ATK2450→2150

 

 

 ドローしたカードを確認し、次に備えた手を一瞬思考する。

 

「『聖なる魔術師』を反転召喚し、リバース効果を発動する。墓地の魔法カード一枚を手札に加える。俺は『魔法族の結界』を手札に戻す。そして再び『魔法族の結界』を発動」

 

 マゼンダ色のツインテールの魔術師が登場と同時に三日月の杖を天にかざす。杖から空に登った魔力の光が俺のデュエルディスクに降り注ぐと、墓地に送られていた『魔法族の結界』がデュエルディスクから吐き出された。

 

 

聖なる魔術師

ATK300→600  DEF400

 

 

 再び天井近くに張られた結界の光がフィールドを照らし始める。

 

「カードを一枚伏せターンエンドだ」

 

 出来る手は全て打った。後は迎え撃つのみ。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 手札の枚数は五枚になった。六枚のこちらの方が枚数は優勢だ。

 

「『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』をリリースし、『光神テテュス』を召喚!」

 

 『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』の姿が天へと登り消えると、空から一条の光が差した。

 天から降り注ぐ光の柱の中から地上に舞い降りたのは純白の天使。衣装も翼も肌の色も全てが白い。袖や胸元の金の装飾、腹部と股部分に埋め込まれた赤の宝玉、背中と翼の間に浮かぶ青の宝玉を除けば全てが白で統一されている。

 

 

光神テテュス

ATK2400  DEF1800

 

 

「そして速攻魔法『手札断殺』! お互い手札を二枚墓地へ送り、二枚ドローする!」

 

「くっ!?」

 

 唐突なエゲツないコンボに声が漏れた。

 『手札断殺』は普通に使えば手札枚数が一枚減る手札交換カードだ。しかし……

 

「相手がドローした事で『便乗』の効果によりさらに二枚ドロー」

 

 『便乗』と組み合わせることで手札増強カードへと早変わりする。そしてこの枚数ドローできていれば『光神テテュス』の効果も起動するはず。

 

「『光神テテュス』の効果発動。ドローしたカードが天使族だった場合、そのモンスターを相手に見せることで、さらに一枚ドローする。私が引いたカードは『破滅の女神ルイン』。よってカードを一枚ドローする」

 

 自分のドローに反応して追加でドローする可能性を秘めた効果がここで力を発揮する。

 

 『光神テテュス』が入れば理論上は天使族モンスターが続く限りドローし続けることができる。

 『光神テテュス』の登場の段階で一度効果が起動すれば、このような展開になることは予想はできた。

 

「ふふっ、運がいいみたいね。私が引いたのは『天魔神インヴィシル』。よってさらに一枚ドローするわ」

 

「やはり追加で引いてくるか」

 

 不幸中の幸いというべきか『天魔神インヴィシル』のドローで追加ドロー効果の発動は止まった。

 しかし『魔法族の結界』に魔力カウンターを溜めてドローしているのに比べると発動条件が緩く感じる。この流れであっさりと『魔法族の結界』で稼いだ分のアドバンテージから逆転されてしまった。

 

「『祝福の教会-リチューアル・チャーチ』を発動!」

 

 『憑依連携』に含まれる除去効果を使うかが脳裏に過ぎる。だがこれを破壊しても手札に儀式魔法があった場合、『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の召喚は許してしまう。裏目が見えるこのタイミングで俺は逡巡した。

 

「『祝福の教会-リチューアル・チャーチ』の一つ目の効果、手札の魔法カードを一枚捨て、デッキから光属性の儀式モンスターまたは儀式魔法カードを手札に加える。この効果で私は『サイクロン』を捨て、デッキから儀式魔法『エンド・オブ・ザ・ワールド』を手札に加える」

 

 これで『破滅の女神ルイン』を呼ぶための儀式魔法も揃った。『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』と並べられると火力が不味いことになる。

 

「『祝福の教会-リチューアル・チャーチ』の二つ目の効果、墓地から任意枚数の魔法カードをデッキに戻して、戻した枚数と同じレベルの光属性天使族モンスターを一体復活させる。私は『サイクロン』と『機械天使の儀式』をデッキに戻して、墓地から『宣告者の神巫』を特殊召喚!」

 

「っ?」

 

 

宣告者の神巫

ATK500  DEF300

 

 

 『機械天使の儀式』を戻した?

 墓地から除外することで光属性モンスターの戦闘・効果破壊を防ぐ効果があるのに何故だ?

 デッキに戻して再度利用するのが目的なのか?

 相手のデッキのカードの採用枚数が不明のためプレイの意図が読めない。

 混乱する俺を置き去りにしてデュエルは進行していく。

 

「『宣告者の神巫』の効果発動! デッキから『イーヴァ』を墓地に送り、自身のレベルをアップさせる」

 

 今回のレベル上昇は1だけだったためか、羽の大きさは少ししか変化がなかった。

 

 

宣告者の神巫

レベル2→3

 

 

 問題なのは墓地に送られた『イーヴァ』の方だ。

 

「墓地へ送られた『イーヴァ』の効果で墓地の『虹光の宣告者』と『サイバー・エッグ・エンジェル』を除外。除外した枚数だけデッキからレベル2以下の光属性天使族モンスターを手札に加える。私は『勝利の導き手フレイヤ』と『エンジェルO1』加えるわ」

 

 "宣告者"シリーズのモンスターのサーチはなかったことに安堵する。

 "宣告者"にはモンスター効果・魔法・罠のそれぞれのカードの色に対応したモンスターが存在する。そして対応した色のカードの効果を無効にすることができる。

 そのサーチがあった場合、どのタイミングでその効果を使わせることができるかがデュエルのカギとなる。それを意識しすぎるあまり手順が歪む恐れもあるため、プレイングの難易度が一気に跳ね上がる。

 ただまだ既に手札に握っている可能性もあるため油断はできない。

 

「墓地の『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』の効果、私は墓地の『サイバー・エンジェル-弁天-』を除外し、『憑依装着-ライナ』を対象に効果を発動! 『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』を蘇生し、『憑依装着-ライナ』のコントロールを得る」

 

 フィールドに戻った『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』はライナに向けて光の縄を放つ。縛られたライナは手繰り寄せられ相手フィールドへと場所を移した。

 

 

サイバー・エンジェル-那沙帝弥-

ATK1000  DEF1000

 

 

「さっきのお返し。やられっぱなしじゃないわよ」

 

「なんだか焚き付けたみたいですね……」

 

「ええ、そうね。デュエルの序盤から良いダメージを貰って、お陰でこっちも火がついたわ! さらに『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』のもう一つの効果を使うわ。自分のフィールドのモンスターの攻撃力の半分だけライフを回復する。『光神テテュス』の攻撃力の半分、1200ポイントライフを回復させる」

 

 『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』は『光神テテュス』と天上院明日香を光で繋ぐ。光を通して『光神テテュス』からエネルギーが譲渡されライフポイントが回復した。

 

 

明日香LP1050→2250

 

 

「儀式魔法『エンド・オブ・ザ・ワールド』発動! フィールドの『宣告者の神巫』と『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』をリリースして、手札から『破滅の女神ルイン』を儀式召喚!」

 

 空に浮かび上がった地上を写したもう一つの世界。

 地上のフィールドとの違いは一点。天上院明日香のフィールドの中央に銀髪の女性が立っていることだ。

 

 カチリと鍵がハマったかの様な音がすると、世界が反転する。

 

 空に写っていた世界からは銀髪の女性は消え、地上の世界に顕現していた。

 先端が二股に分かれた金の柄の杖を地面に刺し、少し杖に体重を預けながら物憂げな表情でこちらを見ている。

 

 

破滅の女神ルイン

ATK2300  DEF2000

 

 

「そしてリリースされた『宣告者の神巫』の効果でデッキから『ハイ・キューピット』を特殊召喚するわ」

 

 続いて現れたのはフワフワとした緑色の髪の十歳くらいの女の子だ。

 戦闘時ではないためか、金の弓を両手で抱えて待機している。

 

 

ハイ・キューピット

ATK600  DEF600

 

 

「『ハイ・キューピット』の効果発動! デッキから三枚までカードを墓地へ送り、墓地へ送った枚数だけレベルをアップさせる。私は三枚カードを墓地へ送って、効果発動!」

 

 

ハイ・キューピット

レベル1→4

 

 

「まだまだいくわよ! 儀式魔法『機械天使の絶対儀式』を発動! 『ハイ・キューピット』と『憑依装着-ライナ』をリリースし、『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』を儀式召喚!」

 

 隆起した祭壇へ『ハイ・キューピット』と『憑依装着-ライナ』の魂が捧げられ、爆発するように吹き上がった炎の中から筋肉質な四つ手の尼僧が飛び出す。金の尼僧頭巾を被り、上半身はオレンジ色の鎧で身を包んでいる。上の一対の手には長さの異なる刀を持ち、下の両手で長杖を構える。

 フィールドが一気に物騒になってきた。

 

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼-

ATK2700  DEF2400

 

 

「『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の儀式召喚に成功した時、相手は自分のモンスターを墓地へ送らなければならない。さぁ、墓地へ送るモンスターを選びなさい」

 

「ただでやらせるか! 罠発動! 『憑依連携』! 墓地から守備力1500の魔法使い族を特殊召喚する。俺が呼び戻すのは『太陽の魔術師エダ』」

 

 

太陽の魔術師エダ

ATK1500→2100  DEF1500

 

 

聖なる魔術師

ATK600→900

 

 

「そして自分フィールドに複数の属性が存在する場合、相手の場のカード一枚を破壊する。俺が破壊するのは……」

 

 俺の狙いを察するように『太陽の魔術師エダ』と『聖なる魔術師』が同時に飛び出す。

 

「『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』!」

 

 それぞれの持つ杖に魔力を蓄えるとフィールドに現れたばかりの『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』に目掛けて渾身の一撃を叩き込む。

 が、『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の前に現れた透明の壁がそれを阻む。

 

「残念ねっ! 墓地の『機械天使の儀式』を除外することで、光属性天使族モンスターの破壊を防ぐわ」

 

「くっ、『手札断殺』でもう一枚を墓地へ送っていたのか!」

 

 完全に釣られたようだ。

 『機械天使の儀式』を敢えてデッキに戻すことで『憑依連携』でモンスターを破壊する方向に思考が完全に誘導された。『憑依連携』が伏せられているとわかっているからこそできる芸当だ。

 

「『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の効果で俺が墓地に送るのはセットされた『闇霊使いダルク』」

 

 裏側でセットされた『闇霊使いダルク』の下に黒い穴が開き中へと吸い込まれていく。活躍させる事ができずにフィールドを離れることになった『闇霊使いダルク』に心の中で詫びる。

 

「『太陽の魔術師エダ』の効果発動。相手メインフェイズに自分フィールドのモンスター一体を裏側守備表示にする。俺は『聖なる魔術師』を裏側守備表示に変更する」

 

 フィールドに表側表示でいるのが『太陽の魔術師エダ』のみになったことで『憑依覚醒』の効力が下がる。

 

 

太陽の魔術師エダ

ATK2100→1800

 

 

「バトルよ。『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』で裏側の『聖なる魔術師』を攻撃!」

 

 飛び上がった『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』は裏側の『聖なる魔術師』目掛けて長杖を振りかぶって投擲する。

 

「裏側守備表示にしてもダメージからは逃れられないわ! 『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』は貫通効果で守備力との差だけダメージを与える」

 

 長杖は裏側で回避することができない『聖なる魔術師』を貫くと大爆発を起こし俺のライフを大きく削っていく。

 爆発の中から『聖なる魔術師』の杖だけが空へと放られ、回転しながら地面へと突き刺さった。

 

 

八代LP3200→900

 

 

 『聖なる魔術師』の残した杖が輝き始め、俺のデュエルディスクへ光を送り込む。

 

「『聖なる魔術師』のリバース効果で墓地から『ディメンション・マジック』を手札に加える。さらに『魔法族の結界』に魔力カウンターが乗る」

 

 結界の中に最初の魔力の光が灯った。

 ライフを大幅に失ったが『聖なる魔術師』の残したものは大きい。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 0→1

 

 

「『光神テテュス』で『太陽の魔術師エダ』を攻撃!」

 

 『光神テテュス』が両手を合わせると、その間から青白い光が放たれ始める。

 だがこれで終わらせる気などこちらも毛頭ない。

 

「罠発動! 『マジカルシルクハット』。『太陽の魔術師エダ』とデッキから罠カード『スキル・サクセサー』と『マジシャンズ・プロテクション』をシャッフルし、裏側守備表示でセットする」

 

 『太陽の魔術師エダ』の体をスッポリ覆う大きさの黒のシルクハットが俺のフィールドに三つ並ぶ。

 それらは高速で移動し、中に何が入っているかの識別ができなくなった。

 攻撃の標的を見失った『光神テテュス』は、手の中に集めていた光を霧散させる。

 

「攻撃は続行よ。『光神テテュス』で真ん中のハットを攻撃!」

 

 攻撃対象が指定された事で今度こそ『光神テテュス』は攻撃態勢をとった。

 光が放たれる両手の間を広げると、サッカーボール大の青白い光が集まった光球が生成される。

 その光球を真ん中のハットに放つと、着弾と同時に爆発を引き起こす。

 煙の中からシルクハットに隠れていた『太陽の魔術師エダ』の野太い断末魔が聞こえた。

 三分の一を一発で当てるとは勘がいい。だが、それならそれで問題ない。

 

「『太陽の魔術師エダ』が戦闘で破壊されたことで『憑依解放』の効果を発動。デッキから『光霊使いライナ』を裏側守備表示で特殊召喚する」

 

 魔術師の命のバトンが繋がり、俺の場に可能性を残す。

 

 

光霊使いライナ

ATK500  DEF1500

 

 

「また『太陽の魔術師エダ』の破壊をトリガーに『魔法族の結界』に魔力カウンターが乗る」

 

 次々に魔術師が倒されていくが、その命が無駄になることはない。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 1→2

 

 

「上手く凌いだと言いたいところだけど、甘いわね! 『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』は『破滅の女神ルイン』にも貫通能力を与える。壁モンスターを並べたところでダメージは逃れられない! これで終わりかしら? 『破滅の女神ルイン』で右のハットを攻撃!」

 

 心臓が早鐘を打つ。

 受ければ絶死の攻撃が右のシルクハットに迫る光景を目の当たりにして微かに指先の震えた。

 

「攻撃宣言時に手札から『クリボール』を捨て、効果を発動。『破滅の女神ルイン』を守備表示に変更する」

 

 ハットに迫る『破滅の女神ルイン』の目の前には突如茶色の球体が現れた。それは膨らみ始め『破滅の女神ルイン』の目の前で乾いた大きな音を立てながら弾け飛んだ。

 突然の爆発で『破滅の女神ルイン』は驚き尻餅をついて倒れたため、攻撃がキャンセルされた様だ。

 

「簡単には終わらないとは思っていたけど、流石ね。これでバトルを終了よ」

 

「当たり前ですよ。ようやくこっちもあったまってきたところだ。バトルフェイズ終了時に『マジカルシルクハット』で出した罠は全て破壊される。そしてその破壊をトリガーに『マジシャンズ・プロテクション』の効果を発動。墓地から『闇霊使いダルク』を守備表示で特殊召喚する」

 

 

闇霊使いダルク

ATK500  DEF1500

 

 

 ライフが0になる危機を逃れ、服の下に汗がドッと広がった。防御手段があったとしてもそれを超えられるのではないかと思わされる程の気迫だ。

 

「カードを二枚セットしターンエンド」

 

 けど、俺のライフはまだ残っている。

 

「ははっ」

 

 自然と笑いが込み上げてきた。

 加速した鼓動は落ち着く気配を見せず、体から湯気が出ていると錯覚するほど熱い。

 

 相手の盤面をどう攻略するか思考が巡りっぱなしだ。

 反撃のターンで昂らないわけがない。

 

————————

——————

————

 

 一ターン毎に相手のライフを全て奪い切るような激しい応酬が続いている。

 最初のターンは天上院明日香のコアなファン達がその一挙手一投足を見て歓声を上げている様子もあったが、今ではそれも形を潜めている。

 観ることに集中し過ぎて飲み物を持ったまま固まっている者も多い。

 デュエルのエフェクトの音がハッキリと聞こえる一方、客席には異様な緊張感と静寂が漂っていた。

 

 斯くいう私自身も今までにないほど他人のデュエルを見るのに集中していた。

 一手も見逃せない攻防は見ているこちらまで胸が熱くなる。空調は効いているはずなのに、体の奥から熱くなるような感覚が続き肌を汗がじんわりと湿らせている。

 あの場で相対しているのが自分であれば、と思わずにはいられない。

 しかし学園を去った私にはそれは叶わない。その事実が胸を締め付ける。

 

 暗い気持ちに陥りかけた私の意識を現実に戻したのは勢いよく開けられた扉の音だった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 呼吸を激しく乱しながら一人の男が入ってきた。

 会場全体に響く扉の音だったため、視線が男に集まる。

 黒髪に黒のコート、黒のサングラスと怪しさ満載の男に、なぜ警備員が止めなかったのかと疑問が湧いた。

 

「遅くなってすまない! 前の仕事の後、渋滞に巻き込まれてしまった」

 

 その謝罪の先にはデュエル中の天上院明日香がいた。何処かで見たことのある顔だと思った時、誰かが何かに気がついた様な声を上げた。

 

「あ、あなたは……」

 

 デュエルの間の静けさは消え、会場内で近くの者から順にざわめきが広がっていく。デュエルを映していたカメラがこちらを向いた事でその男の姿が全席に伝わると、

 

「俺か?  ふふっ、俺の名はっ!!」

 

 その前口上は何度も聞いた記憶があるものだった。

 そして男は会場全体に響き渡る大きな声で名乗りを上げた。

 

「一、十、百、千、万丈目っ」

 

 

 

「「「「「サンダーッ!!!!」」」」

 

 

 

 示し合わせたかのように観客の声が重なり会場全体が揺れた。

 かつてプロのスタンディングデュエルのチャンピオンシップで頂点に立ったことがある伝説のデュエリストが突然姿を現した。

 

「ありがとう。だが今日は今日の主役は俺ではない」

 

 その言葉を受けてカメラが再びデュエル場へと向かう。

 伴侶である天上院明日香は呆れた表情を浮かべていた。

 

「はぁ……散々目立っておいて貴方がそれを言うの?」

 

「観客の期待に応えるのも俺の仕事だからな」

 

 デュエル中の天上院明日香とそんなやり取りをしながら、万丈目準は私たちの隣の席に腰かけた。

 デュエルシュミレーターでは何度も顔を合わせている筈なのに、実際の成人後の姿を見るというのは新鮮に感じた。

 

「あら? シュウは?」

 

「もう席を立ったよ」

 

 先ほどまではディヴァインの隣に座っていたはずだがその姿は既になかった。どうやら万丈目準が入ってきたのと、入れ違いになっていたらしい。

 

「ごめんなさいね、うちの人が遮っちゃって。続けましょう」

 

「あ、あぁ。俺のターン、ドロー」

 

「罠カード『おジャマトリオ』を発動! 相手の場におジャマトークンを三体特殊召喚する」

 

 ペースが乱れているところに追い打ちをかけるように発動された『おジャマトリオ』によってフィールドが全て埋め尽くされる。

 

 

おジャマトークン×3

ATK0  DEF0

 

 

「おぉ、早速使っているところを見れるとは! 良いぞ、明日香君!」

 

 今までのデッキと全く繋がりのないカードだと思ったが、どうやら万丈目準から託されたカードのようだ。

 

「ほう。フィールドを埋めることで『光霊使いライナ』の効果を封じにきたか」

 

「トークンはリリースできても、墓地へ送ることはできない。『憑依装着-ライナ』を出すのに使用してモンスターゾーンを空けることも防いでる」

 

「アドバンス召喚のためのリリースができないという効果も効いてる可能性があるな」

 

 彼の同級生と思しき男子生徒二人もなかなかの腕をしているようだ。このデュエルの流れを直ぐに把握できている。

 これで彼の出来る選択肢はかなり絞られることになった。だが、表情を伺うに全く焦った様子は見えない。

 

「魔法カード『儀式の下準備』を発動。デッキから『ドリアードの祈り』と『精霊術師ドリアード』を手札に加える」

 

 このターンは確かに『おジャマトリオ』で機先を制された。けど。

 

「流石ね。対応するカードを持ってきたわ」

 

「なるほど。"おジャマトークン"はアドバンス召喚のためのリリースはできない。だがリリース自体は可能と言うわけか」

 

 ディヴァインもまた彼の狙いを看破している。

 

「儀式魔法『ドリアードの祈り』を発動。"おジャマトークン"二体をリリースし、『精霊術師ドリアード』を儀式召喚」

 

 『おジャマ・ブラック』と『おジャマ・グリーン』をモチーフにした"おジャマトークン"二体の体が光の柱の中に消える。二つの柱が合わさると光の中から一人の女性が現れた。

 明るい金髪が淡い水色を基調とした修道服の腰のあたりまで伸びている。眩い光が収まると同時に瞼が開かれるとサファイアのような綺麗な瞳が対戦相手を映した。

 

 

精霊術師ドリアード

ATK1200  DEF1400

 

 

「『精霊術師ドリアード』は闇属性以外の五属性として扱われるため、『闇霊使いダルク』と合わせて俺のフィールドに六属性が揃ったことになる。よって『憑依覚醒』の攻撃力上昇効果は1800となる」

 

 彼の前で表になっている『憑依覚醒』から虹色の光が伸び『精霊術師ドリアード』と『おジャマ・イエロー』を模した"おジャマトークン"の体を包み込む。

 

 

精霊術師ドリアード

ATK1200→3000

 

 

おジャマトークン

ATK0→1800

 

 

 この二枚のカードで強力なコンボになっている。全体に攻撃力1800の上昇の強化効果は破格だ。攻撃力0のモンスターの"おジャマトークン"でもレベル4の高攻撃力モンスターに匹敵する力を得ている。

 

「速攻魔法『ディメンション・マジック』発動。"おジャマトークン"をリリースし、手札から『マジカル・コンダクター』を特殊召喚」

 

 最後に残った"おジャマトークン"も光の中へ消え、新たに若葉色の法衣を纏った大和撫子がフィールドに降り立つ。

 

 

マジカル・コンダクター

ATK1700→3500  DEF1400

 

 

「呵呵ッ! これで厄介な"おジャマトークン"を全て除去したぞ」

 

「シンクロ召喚も使わないのによくやる。自分の展開を進める上で逆に全て利用してみせたぞ」

 

 その感想には大いに頷かずにはいられなかった。

 それにシンクロ召喚を使うプレイヤーだとしても、チューナーがいない状態でフィールドを埋められてしまえば手が打てないケースが多いだろう。

 

「そして『ディメンション・マジック』の効果により『光神テテュス』を破壊!」

 

 『光神テテュス』の背後から開いた棺が迫る。獲物を捕らえた棺が閉じられると大爆発を起こして中身諸共フィールドから消えていった。

 

「おのれぇ、"おジャマ"の妨害も諸共しないとは……」

 

 渡したカードが使われていた時とは一転して、怨嗟の声を漏らしている様子に思わず少し席から距離を取った。

 そんな観客席の様子など知る由もなくデュエルは続く。

 

「『魔力掌握』を発動し、『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せ、デッキから『魔力掌握』を手札に加える」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 2→3

 

 

「魔法カードが発動したことで『マジカル・コンダクター』に魔力カウンターが二つ乗る」

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 0→2

 

 

「『マジカル・コンダクター』の効果発動。自身の魔力カウンターを二つ取り除き、レベル2の魔法使い族『見習い魔術師』を墓地から特殊召喚する」

 

 『マジカル・コンダクター』が自分の隣に手をかざし、地面に底の見えない黒い穴を生み出す。穴に二つの光球が吸い込まれてから僅かな間を置いて『見習い魔術師』が穴からフィールドに飛び戻ってきた。

 

 

見習い魔術師

ATK400  DEF800

 

 

「『見習い魔術師』の効果で『魔法族の結界』に更に魔力カウンターを置く」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 3→4

 

 

 これで一度のデュエル中に二度も『魔法族の結界』の魔力カウンターを最大値まで高めた。それも二ターン連続という短いスパンでだ。そこからもこのカードを扱う練度の高さが窺える。

 

「『闇霊使いダルク』と闇属性の『見習い魔術師』を墓地へ送り、デッキから『憑依装着-ダルク』を特殊召喚」

 

 『見習い魔術師』の姿が透明になるとダルクの背中に吸い込まれるように消えていく。直後、ダルクの像が一瞬膨れ上がるようにブレると、体の急成長が始まった。

 

 

憑依装着-ダルク

ATK1850  DEF1500

 

 

「『憑依装着-ダルク』がこの効果で特殊召喚に成功した時、デッキからレベル3か4の光属性・魔法使い族を手札に加える。この効果で俺は『サイレント・マジシャンLV4』を手札に加える」

 

 遂に彼のエースが手札に加わった。

 それだけで周りの空気が変わった。

 観客の大半を占めるデュエルアカデミア在校生の中でも、周りの生徒は彼と同級生なのだろうか? 一斉に息を呑んだような緊張が走った。

 

「『憑依装着-ダルク』の特殊召喚によって、更に『憑依覚醒』の効果でカードをドロー」

 

「『便乗』の効果で私もカードを二枚ドローするわ」

 

 『憑依装着-ダルク』の効果と『憑依覚醒』の効果により手札のアドバンテージを稼ぐも、『便乗』により手札の増加量は並んでいる。

 だが"おジャマトークン"も全て処理し、"憑依装着"を出したことでフィールドに再び空きができた。

 

「『光霊使いライナ』を反転召喚し、リバース効果を発動。『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』のコントロールを得る」

 

 ライナが呪文を唱えると杖から光が伸び、『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の体を包み込むと体を引き寄せる。

 

 

光霊使いライナ

ATK500→2300  DEF1500

 

 

 

サイバー・エンジェル-荼吉尼-

ATK2700→4500

 

 

 コントロールが変わったことで『憑依覚醒』の力を得て『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』のステータスも『青眼の究極竜』に匹敵する力を得た。

 これでフィールドの状況は完全に逆転した。  『応神の機械天使』によって戦闘破壊することができなくなっていた『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』をこれで除去できた。このままバトルに転じてもライフを削り切ることは可能だ。

 

「『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』をリリースし、『闇帝ディルグ』を召喚」 

 

 しかし彼は展開を止める事はない。

 『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』の姿が光の粒子となって消えると、その残滓が再構成され黒の鎧兜を身につけた屈強な男が現れた。

 

 

闇帝ディルグ

ATK2400→4200  DEF1000

 

 

「『闇帝ディルグ』の召喚時の効果を発動! 相手の墓地の『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』と『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』を除外。その後、相手のデッキトップからカードを二枚墓地へ送る」

 

 『闇帝ディルグ』が相手のフィールドに手をかざすと、墓地へと続く漆黒の穴が開かれる。その穴から『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』と『サイバー・エンジェル-那沙帝弥-』の影が異空間へと消えていく。

 

「『魔法族の結界』と『光霊使いライナ』を墓地へ送り四枚ドロー!」

 

「『便乗』の効果で更に二枚ドロー!」

 

 先んじてコントロールを奪った『サイバー・エンジェル-荼吉尼-』をリリースした事で、『光霊使いライナ』がフィールドを離れてもコントロールが戻ることはない。

 

「墓地の光属性『聖なる魔術師』と闇属性『見習い魔術師』を除外し、手札から『カオス・ソーサラー』を特殊召喚」

 

 

カオス・ソーサラー

ATK2300→4100  DEF2000

 

 

 ここでの『カオス・ソーサラー』もまた強い。

 効果での除外効果を使えばバトルに入るリスクを負わず相手のモンスターを除去することができる。

 それに合わせて天上院明日香が動いた。

 

「罠発動! 『レインボー・ライフ』! 手札を一枚捨て、このターン受けるダメージを全て回復へと変換する」

 

 しかしその一手の意図を正しく読み取る事はできなかった。

 何故なら『レインボー・ライフ』は発動条件がない罠カード。その効果は『カオス・ソーサラー』の効果に影響を及ぼすものでもない。

 

「……?」

 

「なぜこのタイミングで発動したのだ?」

 

「わからねぇ。なんでだ?」

 

 疑問の声が周りから聞こえる一方、彼は今までで一番苦々しい表情を浮かべていた。

 

「くっ……『カオス・ソーサラー』の効果発動。フィールドの表側表示のモンスター一体を除外する。除外するのは『破滅の女神ルイン』」

 

 『カオス・ソーサラー』の両手に灯った黒と白の魔力の光が一つになると、次元を湾曲させるゲートを開いた。

 『破滅の女神ルイン』へ反応する間を与えずにゲートを放ち、『破滅の女神ルイン』はその先に消えていった。

 これで天上院明日香のフィールドからモンスターは全て消えた。

 

 それだと言うのに彼の表情は芳しくない。

 

「本当に、よく調べてますね……」

 

 彼のデッキを調べていれば分かるのか。

 彼とのデュエルを思い返しても思い当たるカードはなかった。彼が使う可能性があるカード、魔法使い族、そしてこの状況……

 推理に没頭する間もなく、その答えはデュエルで示された。

 

「フィールドのレベル6以上の魔法使い族モンスター二体をリリース」

 

 『闇帝ディルグ』と『カオス・ソーサラー』の体が黒い炎に包まれる。その炎は彼らの体が魔力へと変換された結果生じたものだ。

 二本の火柱は天へ昇りながら幾度も交差し、やがて一本の柱になる。立ち上る黒の火柱は暗雲を引き込み、これから場に現れる強大な力に呼応するように雷鳴が轟き始めた。

 

「手札から『黒の魔法神官』を特殊召喚」

 

 柱が内側から爆散すると同時に雷が落ちた。

 そうしめ魔術師の中で最高位を冠する漆黒の法衣を纏った男が中から姿を見せる。顔と肘を除き黒の衣装で覆われており、衣装の隙間から見える浅黒い肌の下には確かな筋肉が見て取れる。

 肩までの長さはある長杖を軽く振るっただけで、辺りに残っていた煙だけでなく空の暗雲まで纏めて吹き飛ばしてみせた。

 

 

黒の魔法神官

ATK3200→5000  DEF2800

 

 

 これが彼のもう一つの切り札。

 相手の発動した罠を無効化する強力無比な力を持つ最上級魔術師。

 

 なるほど、このカードを持っていることが分かったからこそ、先に『レインボー・ライフ』を発動したのか。

 厳しい召喚条件をデュエル中に揃えた彼もさる事ながら、その召喚すらもを読み切って対応してみせた天上院明日香も流石だ。

 

「ローズ」

 

「何?」

 

「君の付き添いで来たが、正直に言えば所詮は学生のデュエルだと鷹を括っていた。だがこれを見て、ここに来て良かったと思えたよ。ありがとう」

 

「そう。ディヴァインもそう思ってくれたなら嬉しいわ」

 

 このデュエルにディヴァインもまたいつに無く興奮した様子でこのデュエルを食い入るように見ている。

 

「『貪欲な壺』発動! デッキに『光霊使いライナ』、『憑依装着-ライナ』、『闇霊使いダルク』、『闇帝ディルグ』、『カオス・ソーサラー』の五体を戻し、二枚ドロー!」

 

「っ?! 『便乗』の効果で二枚ドロー!」

 

 このターンでダメージを与えられない以上、バトルに転じることは無いことは分かっていた。

 

「おいおいおい、戦王のヤツ一体このターンで何枚ドローする気だ??」

 

「『便乗』があるのにドロー効果を使いすぎではないか? 明日香先生の手札もこのターンで六枚増加したぞ」

 

 彼らの言うとおり『便乗』を気にしない怒涛のドローの連続で、彼の手札は八枚まで回復した。けど相手の手札も大きく回復させてしまっている。

 

「カードを二枚セットし、ターンエンド」

 

 この選択が吉と出るのかはデュエルの行方を追わねばわからない。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ただ一つわかるのは巻き返しを図るべく、このターンに天上院明日香が大きく動くという事だ。

 

「『祝福の教会-リチューアル・チャーチ』の効果発動! 墓地の『機械天使の絶対儀式』と『荘厳なる機械天使』の二枚をデッキに戻し、墓地から『宣告者の神巫』を特殊召喚」

 

 教会の鐘の響きに導かれ、このデュエル中に三度目となる『宣告者の神巫』が登場する。

 

 

宣告者の神巫

ATK500  DEF300

 

 

「『宣告者の神巫』をリリースし『天魔神インヴィシル』をアドバンス召喚!」

 

 これまでとは様子の違う異色な天使が現れた。

 黒を基調とした体にピッタリ合う形状の衣装に身を包み、天使の象徴である純白の翼の中に墨汁が滴っているかのように黒の羽が鋭く伸びている。

 顔立ちは白の羽毛で顔が覆われ紅色のルージュを引いた口元しか見えない。

 

 

天魔神インヴィシル

ATK2200  DEF1600

 

 

 『天魔神インヴィシル』は徐に紅色の爪を天に向ける。

 口元に弧を描くと、指先から青白い稲光が天に昇った。それは教会の天井にぶつかり折り返すと、フィールドに散らばって降り注いだ。

 ややあって教会の色彩が天井からモノクロに変わっていく。色が変わったのは教会だけではない。天上院明日香のフィールドの『応神の機械天使』。そして彼のフィールドの『憑依覚醒』のカードが石化したように灰色に染まっていた。

 

「『天魔神インヴィシル』がフィールドにいる限り、魔法は効果を失う」

 

 それはまるで罪人に沙汰を下す審判の様にモノクロとなった世界で告げられる。

 

「これで私の墓地の光属性モンスターは『宣告者の巫女』、『光神テテュス』、『ハイ・キューピット』『イーバ』『勝利の導き手フレイヤ』の五体になった」

 

「っ?!」

 

 墓地の同属性のモンスター数の宣言。それは特定のモンスターの特殊召喚条件であり、いずれのモンスターも強力な効果を持つ。

 

「『光霊神フォスオラージュ』を手札から特殊召喚!」

 

 天から光の塊が落ちてきた。

 モノクロになった教会の様子が見えなくなるほどの光に思わず私もが目を覆った。

 巨大な金属がぶつかる音が立て続けに響く。

 瞼の裏の血管が透けて見えていたのが黒い影に変わったことを確認してから目を開くと、天上院明日香のフィールドに黄色の金属球が浮かんでいた。

 上下に繋がった電球を金属の装甲で覆うことで外に漏れる光を押さえているのだろう。よく見ると上側の電球の上に小さな機械仕掛けの顔が生えている。

 

 

光霊神フォスオラージュ

ATK2800  DEF2200

 

 

 ここで『天魔神インヴィシル』の効果が突き刺さる。

 『天魔神インヴィシル』が存在する限り、魔法カードの効果は全て無効化される。つまり『憑依覚醒』の"憑依装着"モンスターに与える効果破壊耐性が無くなった。

 

 『光霊神フォスオラージュ』の側面の装甲が開くと、電球のフィラメントのようなオレンジ色の光翼がフィールドに伸びていく。

 

「『光霊神フォスオラージュ』の効果発動! 相手の場のモンスターを全て破壊する!」

 

 宣言が聞こえたのと彼のフィールドに極光が降り注いだのは同時だった。

 観客席から見るデュエル場の様子も再び白の光で染め上げられた。

 直後、立て続けにモンスター達の断末魔と破砕音が響く。

 

 『サンダー・ボルト』と同じ効果を持つ強力無比の一撃を前に、彼のフィールドのモンスターは全て灰燼に帰した。

 

「『憑依解放』の効果発動! デッキから『光霊使いライナ』を裏側守備表示でセットする」

 

 罠が無効になっていない事が幸いし、フィールドにモンスターを繋げることはできた。

 それに"霊使い"モンスターは『憑依解放』により戦闘破壊されない。迂闊に攻撃すれば光属性中心のデッキを使っている天上院明日香のモンスターのコントロールは奪われる。

 

「手札の『エンジェルO1』は手札のレベル7以上のモンスターを見せることで手札から特殊召喚できる」

 

 

エンジェルO1

ATK200  DEF300

 

 

「私が見せるのは……このカードよ」

 

 天上院明日香は一枚のカードを手札から抜き取ると、彼に見せるように突き出した。

 

「あれはっ?!」

 

 モニターに映されたカードに真っ先に反応したのは万丈目準だった。

 遅れてそのカードを認識した時、真っ先に浮かんだのは”何故?”という疑問だ。

 

「『エンジェルO1』は通常召喚に加えて、レベル7以上のモンスターのアドバンス召喚を行うことができる」

 

 その宣言は即ち、今公開したカードを出すということに他ならない。

 

「『エンジェルO1』と『天魔神インヴィシル』をリリース」

 

 『エンジェルO1』と『天魔神インヴィシル』の体が同時に光の粒子へと変わり消えると、強力なモンスターの訪れを予感させる一際大きな風が天上院明日香のフィールドから放たれる。

 風の中心から広がる冷気が徐々に教会の床を凍らせ始めていた。

 

 やがて灰色の雲が空を埋め尽くし、静かに雪が降り始める。

 

 

 

 

「氷つかせてあげるわ! 『青氷の白夜龍』を召喚!」

 

 

 

 

 地鳴りを伴って地面から突如生えてきた山のような氷塊。その内側から閃光が走ると氷塊は粉々に砕け霧状に広がっていく。

 

 霧の中で巨大な影が蠢く。

 先細った尾の元から下ろされている刺々しい脚部。

 尾の付け根とさほど変わらない太さの胴からは体躯と同等の大きさの対となる翼が生えている。

 角張った肩から伸びている両腕は両脚と比べても遜色のない大きさだ。

 長い首が起こされ竜の頭部と思われる黒のシルエットが一瞬光ると、霧は吹き飛ばされ全身が青い氷で出来た全貌が露わとなった。

 

 

青氷の白夜龍

ATK3000  DEF2500

 

 

 ステータスはあの『青眼の白龍』と同等の最上級モンスター。

 彼のフィールドから『黒の魔法神官』が消えたことで、現在のフィールドの頂点に君臨した。

 

「そして『青氷の白夜龍』に装備魔法『白のヴェール』を装備!」

 

 『白のヴェール』の力を得て『青氷の白夜龍』の体表に青白い光が灯った瞬間だった。

 空気中の水分が一瞬で凍りついたのか、白い霧が爆発的に広がってデュエル場を包み込んだ。

 

「すげぇ爆発だ!」

 

「見た目のせいか寒さも感じるぞ」

 

 これは勿論サイコパワーの力が発揮されたわけではない。ソリッドビジョンの中でリアリティを追求するために多少の衝撃や温冷の演出はされる仕様になっている。

 

 霧の晴れた先で彼は珍しく困惑した表情を浮かべていた。

 そして戸惑いを隠せない様子で尋ねた。

 

「えっと……その衣装は??」

 

「あら?」

 

 天上院明日香の着ていた服が変化していた。

 落ち着きのあるライトグレーのスーツに清潔感のある白のブラウスを着ていたはずが、白に統一された衣装に変わっている。

 袖が消え腋まで見える際どいノースリーブと丈を限界まで短くして太ももを大胆に晒しているタイトスカートはアカデミアの制服の歴史で初期のデザインの中に見覚えがあった。

 年齢を感じさせない抜群のプロポーションも相まって危険な色気がそこにはあった。

 

 流石に学生時代の格好は恥ずかしいのか天上院明日香の表情はみるみる赤くなっていく。

 その様子に観客の主に男性からはどよめきが上がった。

 

「もしかするとあれはカードの記憶、なのかもしれない」

 

 ポツリと万丈目準が呟く。

 過去の記憶を思い出そうとするようにこめかみに手を当てながら言葉を続けた。

 

「明日香君が使った回数は一回だったが、俺たちが学生だった頃に、あのカードはとある事件の鍵となるカードだった」

 

 万丈目準の学生の頃となると正にデュエルアカデミアの黎明期のことだ。その当時のエピソードは現実のものとは思えないものばかりだった。

 周りに座る人は伝説の時代の生き証人の言葉に耳を傾けていた。

 

「詳細は省くが当時は今のオベリスクブルーとも違った制服を着ていてな。あの明日香君の装いは、あのカードを使っていた頃にそっくりだ」

 

 話を聞きながら改めてあの腕や脚の露出度が高い制服を見ると、私はこの時代に生まれて良かったのかもしれないとそう思った。

 羞恥で赤面している天上院明日香を他所に万丈目準の表情は至って冷静だった。

 

「デュエルモンスターズには科学では解明できない不思議なことが数多くある。格好の一つ変わったところで些細なことだろう」

 

 神妙な顔をして語る万丈目準の姿は、それだけ彼もデュエルモンスターズと接する中で特異な経験をしたことが伺える。

 誰しもがその様子を見て言葉を噤んでしまっていた。

 

 

 

「それはそうと君は何を着ていても素敵だ明日香君!!!!」

 

「もう! 恥ずかしいからやめなさいっ!!」

 

 先ほどまでの雰囲気が台無しだった。

 ヤケクソになったように天上院明日香は声を荒げながらデュエルに戻っていく。

 

「バトル! 『青氷の白夜龍』で『光霊使いライナ』を攻撃!」

 

 攻撃宣言に応えるように『青氷の白夜龍』が一際大きな咆哮を上げる。伝播する空気の震えはセットされている『光霊使いライナ』の背後にある『憑依解放』を始めとする全ての魔法・罠を凍り付かせた。

 これが『白のヴェール』によって付与された力。装備モンスターの攻撃中は相手の魔法・罠を無効化する。

 そのせいで『憑依解放』による『光霊使いライナ』の戦闘破壊耐性は剥がれてしまった。

 

 口腔に集められた絶対零度のエネルギーが目に見えて膨らんでいく。

 だが、セットされている『光霊使いライナ』はその攻撃から逃れることはできない。

 吐き出されたブレスは通過する地面を氷結させながら突き進み、セット状態の『光霊使いライナ』へ直撃した。

 着弾と同時に空気中の水分が一瞬で凍りつき、白い爆発がフィールドに広がる。

 

「『白のヴェール』を装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手の魔法・罠を全て破壊する」

 

 氷の中に閉じ込められていた『憑依覚醒』、『憑依解放』と伏せられていた二枚のカードが一斉に砕け散る。

 

 いつの間にか積もっていた雪の中、その音だけがハッキリと響き渡った。

 

 これにより彼のフィールドのカードは全て破壊し尽くされた。

 

 紛うことなき絶対絶命のピンチ。

 

 だと言うのに、彼の表情はこのデュエル中で一番の深い笑みを刻んでいた。

 

 その様子に気がついた時、心臓の一際大きな鼓動を感じた。

 

 ピンチに陥っているのにも関わらず、寧ろ気迫は増しているように感じる。その様子は私と戦った時を彷彿させる。

 

 まだ彼ならば何かやるという確信、そしてそれへの期待で見ているだけの私の体も熱くなってきた。

 




あけましておめでとうございます。
次回投稿は来週です。
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