遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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『デュエル屋』と刺客 前編

 PM16:30(教室)

 

 夕暮れ。

 特に記憶に残ることもなく一日の授業が終わる。

 今はHRの時間。

 そもそもHRの時間だろうが授業の時間だろうが関係なく終わる。

 いつものことだ。

 

「そして次がHR最後の連絡だ。……おい、八代。HRくらいシャキッとしろ!」

「…………………………」

 

 今日は放課後に依頼が入っている。

 パーティー会場だっけか。たしか時間と場所的にのんびりしている時間はないはず。

 これが終わったら着替えを済ませて急いで向かおう。

 

「八代っ!!」

「っ! ……はい」

「今俺はなんて言った?」

「…………聞いてませんでした」

「まったく……最近ぼーっとしてることが多いぞ。しっかりしろ」

「はい…………」

『……………………………』

 

 最近ぼーっとしてるか……俺は。最近と言われて思い当たる節は無い。前からずっとこんな感じだったと思うのだが。

 窓の外をぼんやり眺める。

 何でだろう。

 ここのところ空が灰色な気がする。

 

「せんせー! 八代の分の資料が足りませーん!」

 

 前に座ってる生徒が挙手しながら何か言っている。

 まぁどうせ俺には関係ないことだろう。

 

「ん? おかしいな……うちのクラスの分は今配ったもので全部だったんだが……まぁなら今先生の持ってるものを渡そう。八代、取りにきなさい。……………八代ぉ!!」

「はいっ?!」

「前に来なさいと言っている」

「…………はい」

 

 ……何かマズいことでもしたか?

 授業をいつも聞いていないこと……?

 いや、それは流石に今更だろ。

 教壇に向かうと担任から無地のDVDディスクが入った黒いDVDケースが渡される。

 

「…………これは?」

「はぁ……また話を聞いて無かったのか……」

「……すいません。」

「まぁ良い……これは来月の第一月曜日に提出のレポートの資料だ。中身はこの前のジャック・アトラスのキング防衛戦の映像が入ってる。このデュエルの分析した上でこのデュエルの考察をしてレポートを提出しなさい」

『レポートはA4サイズで5枚と先生はおっしゃっていました』

「分かりました」

 

 聞いてなかった大事な授業内容をきっちり補填してくれるサイレント・マジシャンにはいつも助けられている。

 ジャック・アトラスのデュエルか。そう言えば一度も見たこと無かったな。

 

「それではこれでHRを終わりにする」

「起立! 気をつけ! 礼!」

「「「「「さようなら!!」」」」」

 

 

 

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 PM17:45(とある仕事部屋)

 

 カタカタカタカタカタカタ

 

 連続的に鳴り続けるキーボードを叩き続ける音。

 デスクにはいくつもの書類やファイルが山積みにされ机の面を見つけることすら困難になっている。だがそんなことはお構いなしと言ったようにデスクの前に腰掛ける男は黙々とキーボードを弾きPCのディスプレイと向き合い続ける。

 

 コンコン

 

「どうぞ」

「失礼するよ」

 

 電動の横開きのドアが開き入ってきたのは小太りな男だった。パッと見は身長やや低めでお腹はだらしなく飛び出したどこにでもいる中年太りのおっさん。ただ整えられたスーツにネクタイはどれも一級品だったり、袖口から顔を覗かせる時計はダイヤの装飾がなされているブランド物だったりと、かなりの資産家であることが伺える。

 

「どうだね、調子は?」

「首尾は上々。データの収集に抜かりは無い。それにしても相手が彼の有名な『死神の魔導師』とは……」

「……不安なのかね?」

「はっ、まさか。むしろ同じ『デュエル屋』としてこの手で奴の不敗の伝説に終止符を打てることが嬉しくてたまらないぐらいだ」

「そいつは頼もしい! では期待しているぞ、来宮君。」

 

 ノシノシと去っていく男を横目に来宮と呼ばれた男は再びPCのディスプレイと向き合いカタカタとキーボードに指を走らせていく。

 

(『死神の魔導師』……2年程前から現れた『デュエル屋』で依然として不敗のこの業界では最早生ける伝説になりつつある男。使うデッキの内容はそのときによって変わるが魔法使い族を主事軸にしたデッキということには変わりはない。1番使用頻度の高いシンクロモンスターは『アーカナイト・マジシャン』。過去のデュエルにおいてこのカードが勝負の決め手となることが多かった。そして一応注意しなければならないのは目撃情報が少ないドラゴン族のシンクロモンスター。過去のデュエルでも片手で数える程しか現れてないモンスターで詳細なデータが無い。だが……)

 

 キーボードは叩く音が止む。

 マウスの横においてあったデッキを愛おしげに取ると部屋を出て行く。

 来宮の座っていたデスクの前のPCディスプレイ。

 そこには『Complete』とだけ書かれていた。

 

 

 

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 PM18:00(パーティー会場)

 

 「それではただ今よりデュエルを始めます。両家代表、前へ!」

 

 スーツの司会の男性がデュエルを取り仕切る。

 デュエルリングを囲むのはスーツやドレスで着飾ったご大層なご身分な方々。大方貴族か何かだろう。周りのテーブルには豪華な食事が並び、使用人らしき人達は銀のトレーに酒をついだグラスを乗せて配り歩いている。

 

「お前も不憫なヤツだ、『死神の魔導師』。この俺と戦うことになるとは……お前の今までのデュエル屋としての人生はこの40枚に集約されている」

「………………………………」

 

 どうやら今回の依頼は貴族のパーティーの催し物として行われるもののようだ。主催となった2つの家がそれぞれデュエリストを雇ってデュエルをする、と言うものらしい。それにしてもこんなパーティーの会場で俺をわざわざ雇うとは……

 一体どこ繋がりで俺の情報なんか仕入れたのやら……

 雇い主も神妙な表情で「この試合は絶対勝って貰わなきゃ困る……」とか言ってたっけ。依頼主の込み入った事情に首を突っ込む気はさらさら無いんで何があるのかはまったく知らないが、依頼された仕事だ。俺は報酬分働くだけ。

 

『マスター……マスター』

「…………?」

 

 サイレント・マジシャンが困った顔をして話しかけてくる。依頼のデュエルで話しかけてくるとは珍しい。何かあったのだろうか?

 

『デュエル……もう、始まってますよ』

「……!」

 

 周りを見渡せば俺に視線が集まっている。大勢の視線に晒され実に不愉快だ。

 対戦相手らしき長身メガネでやたらものすごい肩パッドの入ったジャケットの相手がぼやいてるのはそのせいか。その前に先攻は俺だったのか。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 最近よく思うことだが、毎日がますます空虚になっている。

 ほぉ、この手札なら……

 

「『ワン・フォー・ワン』発動。手札の『シンクロ・フュージョニスト』を墓地に送りデッキから『スポーア』を特殊召喚」

 

 

スポーア

ATK400  DEF800

 

 

 十六夜とか言う中等部の子とデュエルからもう既に3ヶ月も過ぎていると知って驚いたのは記憶に新しい。ぼんやりと時間だけが過ぎていった。あのデュエルの前はもう少し記憶に残る出来事が多かった気がする。

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚。このカードの召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚できる。効果で『シンクロ・フュージョニスト』を特殊召喚」

 

 帽子も服も靴もすべてオレンジで統一された衣装のメガネをかけた3頭身の少年が墓地から全身オレンジの悪魔を呼び出す。

 

 

ジャンク・シンクロン

ATK1300  DEF500

 

 

シンクロ・フュージョニスト

ATK800  DEF600

 

 

 頬に出来た傷。

 これはあの時のデュエルのダメージで負ったもの。

 あの時は浅い傷だと思っていたが思ったよりも深かったようだ。

 この傷に触れる度に思い出すあの時のデュエル。

 思えばあの時のデュエルに匹敵するようなデュエルにはあれから巡り会っていない。

 

「レベル2『シンクロ・フュージョニスト』にレベル3『ジャンク・シンクロン』をチューニング。シンクロ召喚、『TG ハイパー・ライブラリアン』」

 

 

TG ハイパー・ライブラリアン

ATK2400  DEF1800

 

 

 デュエルが終わってあの後は意識を失ってそのまま病院に運ばれたらしい。丸二日も目を覚まさなかったとか。

 

「シンクロ召喚の素材に使われた『シンクロ・フュージョニスト』の効果で、デッキから『簡易融合』を手札に加える」

 

 目を覚ましたらサイレント・マジシャンが手を握ってたっけ。夜で誰も居ない病室だったから実体化していたようで、手を握られてる感触がはっきりとした。目があったら瞳から雫が滴るのが見えて、それからボロボロ泣き始めた時はどうしたらいいのか分からなかったな。

 

「『おろかな埋葬』を発動。デッキから『ダンディライオン』を墓地に送る。そして墓地に送られた『ダンディライオン』の効果で綿毛トークンを2体特殊召喚」

 

 

綿毛トークン1

ATK0  DEF0

 

 

綿毛トークン2

ATK0  DEF0

 

 

 翌日、狭霧も朝一でやってきたな。仕事も投げ出して。狭霧に軽く泣きながら「意識が戻って……良かったわ」って言われたときもどう接していいのか分からなかった。

 

「レベル1の綿毛トークンにレベル1の『スポーア』をチューニング。シンクロ召喚、『フォーミュラ・シンクロン』」

 

 

フォーミュラ・シンクロン

ATK200  DEF1500

 

 

 それからデュエルアカデミアに戻ってみれば、十六夜が学校に来なくなったと知らされた。そのときからか?この世界が色褪せて見え始めたのは……

 

「『フォーミュラ・シンクロン』のシンクロ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。さらにシンクロ召喚をしたことで『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果発動。デッキからカードを1枚ドローする。そして『簡易融合』を発動。1000ポイントライフを支払ってエクストラデッキから『音楽家の帝王』を特殊召喚」

 

 

音楽家の帝王

ATK1750  DEF1500

 

 

 思えばこの世界に来て初めてかもしれない。もう一度デュエルしてみたいと思える程の強い相手に巡り会ったのは。

 

「レベル5の『音楽家の帝王』にレベル2『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング。シンクロ召喚、『アーカナイト・マジシャン』」

 

 

アーカナイト・マジシャン

ATK400  DEF1800

 

 

 十六夜よりも強いデュエリストとも戦ったことはある。だが、それはここに来る前の話。

 

「『アーカナイト・マジシャン』のシンクロ召喚成功時、自身に魔力カウンターを2つ乗せる。そしてこのカードの攻撃力は自身に乗っている魔力カウンター1につき1000ポイントアップする。さらに『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でカードを1枚ドロー」

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 0→2

ATK400→2400

 

 

 微かに光る思い出の記憶。それは淡い光となって脳裏を掠めては消えて行く。

 

 

「墓地の『スポーア』の効果発動。墓地の植物族モンスター『ダンディライオン』を除外し自身を特殊召喚する。このとき除外したモンスターのレベル分自身のレベルは上がるため『スポーア』のレベルは4となる」

 

 

スポーア

ATK400  DEF800

レベル1→4

 

 

 そう、それは過ぎ去ってしまった昔の話。縋ったところで何の意味も持たない。

 今を生き抜く。

 それだけだ。

 

「『死者蘇生』発動。墓地から『シンクロ・フュージョニスト』を特殊召喚。そしてレベル2の『シンクロ・フュージョニスト』にレベル4となった『スポーア』をチューニング。シンクロ召喚、『マジックテンペスター』」

 

 

マジックテンペスター

ATK2200  DEF1400

 

 

 これで場に『アーカナイト・マジシャン』、『マジックテンペスター』、『TG ハイパー・ライブラリアン』が並んだ。

 

「『マジックテンペスター』がシンクロ召喚に成功したことで自身に魔力カウンターを1つ乗せる。さらに『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でカードを1枚ドロー。そしてシンクロ召喚の素材に使われた『シンクロ・フュージョニスト』の効果で、再びデッキから『ミラクルシンクロフュージョン』を手札に加える」

 

 

マジックテンペスター

魔力カウンター 0→1

 

 

 これだけ展開しても依然手札は6枚。今回は随分と初手が良かったおかげで1ターン目なのによく回っている。

 

「『魔力掌握』を発動。効果により『アーカナイト・マジシャン』に魔力カウンターを1つ乗せ、さらに同名カードをデッキから手札に加える」

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 2→3

ATK2400→3400

 

 

「『マジックテンペスター』の効果発動。手札を任意枚数墓地に送ることで、場の魔力カウンターを置けるカードに墓地送った手札の枚数の数魔力カウンターを置く。この効果で手札を4枚墓地に送り『アーカナイト・マジシャン』に魔力カウンターを4つ置く。魔力カウンターが増えたことで『アーカナイト・マジシャン』の攻撃力は上昇する」

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 3→7

ATK3400→7400

 

 

「こ、こ、こ、攻撃力7400?! だ、だが、いくら攻撃力の高いモンスターを出しても先攻1ターン目は攻撃することが出来ない!!」

「マジックテンペスターの効果発動。フィールド上の魔力カウンターをすべて取り除き、取り除いた数×500ポイントのダメージを与える」

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 7→0

ATK7400→400

 

 

マジックテンペスター

魔力カウンター 1→0

 

 

 『アーカナイト・マジシャン』から飛び出した7つの魔力の光球が『マジックテンペスター』の周りに集まり元からあった1つの光球にと合流し8つの緑の光球がゆっくりと『マジックテンペスター』の周りを回っていく。

 

 

「取り除いた魔力カウンターの数は8。よって4000ポイントのダメージを与える」

「バカな……そ、そんなことが……」

 

 8つの緑色に光るハンドボール程の大きさの光球が飛んだ跡の光の筋を絡ませながら相手に突き刺さる。

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

来宮LP4000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沈黙が訪れる。

 いや、沈黙が訪れていると言うことにやっと気付いたと言うべきか。

 何が起きたのか分からないと言うように周りの人々は目を見開いていたり、ただ口を開けたままだったりで誰も動かない。

 これ以上ここに居る理由は無い、そう判断すると踵を返し移動を始める。

 その歩を今回の依頼主に向けながら。

 動き始めたことを皮切りに周りの人々も動きを取り戻していく。

 野次や歓声、様々な声が入り交じった会場から依頼主と共に抜け出す。

 

「本当に……本当に……勝っていただいて……なんてお礼を言ったら良いのか……」

「礼は良い。依頼をこなしただけだ。報酬確かに受け取った」

「はい……あのっ! 本当にありがとうございました!」

 

 

 

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 PM 18:40(町外れの裏路地)

 

 日もすっかり落ち外は月明かりが照らす夜に変わっていた。

 周りにある建物はツタが巻き付く古い建造物や罅が入った崩れかけのビルなど廃れた物ばかり。人気は当然少なく誰も居ない空間を見つけるなど容易いものだ。

 今日の依頼も滞りなく終わってあとは着替えて帰宅するだけ。

 誰にも見られない場所を早く見つけてとっとと帰ろう。

 それにしても長いこと『デュエル屋』稼業をやっているけど『マジックテンペスター』の効果使って先攻ワンキルを決めるのは初めてだったな。

 いや、ひょっとしたら『マジックテンペスター』のバーン効果を使うの自体初めてだったかもしれない。

 そもそも『マジックテンペスター』のあの効果でワンターンキルをすることに特化したデッキではない。だけど、今後それも作ってみるか……?

 

『っ! マスター!』

「……あぁ。つけられてる……な」

 

 こう言ったケースは珍しくない。

 元々『デュエル屋』と言う職業柄、他人の恨みを買うことは多い。つけられる理由なんて同業者の腹いせ、今までの負かしてきた相手による仇討ち、負かした相手の後ろの組織からの復讐……いくらでも思いつく。

 

「サイレント・マジシャン。次の曲がり角だ」

『はい。分かりました』

 

 そう言った時はサイレント・マジシャンの力を借りて追っ手を撒いている。誰にも見られない場所に行ってサイレント・マジシャンの転移魔法で誰も居なくカメラの死角になっている場所に移動するのだ。当初毎回『運び屋』に依頼するつもりだったのだが、これはサイレント・マジシャン自ら協力を申し出てきたことである。曲がり角まであと5メートル。追っ手との距離はまだ全然ある。これなら……

 

 

 

 

 

「デュエルしろぉ」

 

 

 

 

 

 デュエル?

 

 足が止まる。

 

『マスター!?』

 

 非常に渋みのある独特の声だった。

 背後の追っ手が歩を進める気配も消える。

 振り返るとそこには鼻から上が隠れる仮面を付けた大柄な男が立っていた。黒のハットに銀の仮面、それにあれはデュエルコートとでも言うのだろうか。胸元にデュエルディスクのデッキを入れる銀の措置を肩から下げた黒のロングコートを身に纏っている。左腕にはデュエルディスクのカードを置く部分がつけられていることからも分かるが先の言の通りこいつの目的は俺とのデュエルのようだ。

 

「どぉした? それとも逃げるか、『死神の魔導師』ぃ」

「……………………」

『はっ!! いけません、マスター! これは明らかに罠です!!』

 

 どうやらこいつは俺の性質を理解しているらしい。

 鞄にしまってあるデュエルディスクとデッキを取り出す。今日の依頼で使ったデッキのままで変更はできていないが問題ないだろう。

 

「ふはは、それでいい」

『マスターっ!!』

 

 サイレント・マジシャンの訴えはよくわかっているつもりだ。明らかに依頼を終えた後を狙ったタイミングでのデュエル。十中八九何者かの意図が働いたのだろう。

 だが、そうだとしても。挑まれたデュエルに背を向けるつもりはない。その程度のことが俺の信条を曲げる理由になる筈がない。

 

「デュエル」

「デュゥエルッ!!」

 

 こういった状況でデュエルになった場合、大抵相手は強かったりする。

 脳意を掠める悲しそうな表情の薔薇の少女。

 久々に強敵の予感、気が引き締まるのが分かる。

 あっ、帰りは遅くなるって狭霧に連絡しとけば良かったな。

 

「先攻は私のようだ。ドローぉ」

 

 デッキのトップのカードが射出され添えてあった手に収まる。見た目も特徴的なデュエルディスクだが機能も一般的なものには無い独特なものがあるようだ。

 相手の状況はまだ分からないが少なくともこちらの手札はいまいち、この手札では初動での展開はまずできない。相手の初動次第ではかなり厳しい戦いになりそうだ。まぁ何れにしてもどんなデッキなのかの把握が先決。それによって俺の取るべき行動も変わってくる。

 

「私はぁ、マジックカード『手札抹殺』をぉ発動するぅ。お互い手札のカードをすべて捨てぇ、そして捨てた手札の枚数だけ新たにドローする」

 

 ありがたい、こちらとしても墓地に送りたかったカードを2枚も抱えてたところだ。まぁこちらに利があるように相手にもまた何か利がある動きなのだろうが。

 

「そしてこのとき『手札抹殺』によって墓地に送られた『トリック・デーモン』の効果が発動するぅ。このカードがカードの効果によって墓地に送られた時、デッキより“デーモン”と名のつくカードを手札に加えることが出来る。私はデッキより『デーモンの騎兵』を手札に加える」

 

 相手の側に目元から上を隠す髑髏の仮面をつけた幼女が半透明な姿で浮かび上がる。人型をしているが肌の色が薄紫なことから悪魔族であることが分かる。そのまま幼女は仮面の男の周りを無邪気に駆け回った後に墓地へと続く暗い闇の穴に沈んでいった。

 なるほどな、今回はデーモン使いと言うことか。

 

「手札から『ジェネラル・デーモン』を捨てることでぇ私はデッキより『万魔殿―悪魔の巣窟―』を手札に加えるぅ」

 

 次ぎに浮かび上がったのはオレンジ色の筋繊維がむき出しなデーモン。随所を外骨格となる骨が覆っているがそれも微々たるもので体表のほとんどがオレンジ色の筋繊維となっている。肘から先、膝下は鎧に覆われていて背中の翼の下にマントからは“ジェネラル”の風格を感じる。手に持った剣を地面に突き立てると墓地へ向かう黒い穴が出現し静かに沈んでいった。

 

「そしてフィールド魔法『万魔殿―悪魔の巣窟―』を発動ぉ」

 

 デュエルディスクにカードが差し込まれると地面を突き破り2体の竜の頭蓋骨が姿を現す。竜の頭部の下には首から胴体までの骨が繋がっており最終的に頭が5メートル程の高さから見下ろす格好になった。頭部ばかりに気を取られていたが足下も既に変化しており、只の地面はお互いの間を中心に何層もの金属サークルに変わっていた。中央にはマグマが煮えたぎっておりその明かりが紅く周りを照らしている。

 

「ふははは! これがさしずめ地獄の一丁目と言ったところだぁ。そして『デーモンの騎兵』を召喚」

 

 藍色の甲冑馬に股がった赤い鎧の騎士が闇の中から馳せ参じる。身の丈程の巨大なランスを軽々振り回しその切っ先を真っすぐ向けてくる。随分と好戦的な様子だ。

 

 

デーモンの騎兵

ATK1900  DEF0

 

 

「さらに自分フィールドに“デーモン”と名のつくカードが存在する時『デーモンの将星』は特殊召喚できる。現れよ、『デーモンの将星』ぃ!」

 

 一本の太い落雷が降り注ぐ。

 そこから現れたのは甲冑馬を駆る『デーモン騎兵』程の大きさのデーモンだった。頭部や肩から巨大な角を生やしているが『ジェネラルデーモン』同様に体表のほとんどはむき出しの筋繊維でその色は赤紫だった。額、胸部の中央、腹部の中央にそれぞれエメラルドに輝く宝玉が埋め込まれておりその煌めきの強さにあわせて周りに雷が迸る。

 

 

デーモンの将星

ATK2500  DEF1200

 

 

 それにしても『デーモンの騎兵』に『デーモンの将星』の布陣ってことは完璧に良い展開に持ち込まれているな。『手札抹殺』で墓地が肥えている状況だ。先程の手札のままだったら非常にマズい状況だったが、幸いこちらも手札交換のおかげで初動である程度動ける。

 

「この効果で『デーモンの将星』を特殊召喚したとき、自分の場の“デーモン”と名のついたカードを破壊するぅ。『デーモンの騎兵』を破壊ぃ」

 

 『デーモンの将星』から発せられた雷が『デーモンの騎兵』に降り注ぐ。断末魔の叫びを上げながら『デーモンの騎兵』は跡形も無く消え去り墓地への穴だけがその場に残る。

 

「『デーモンの騎兵』はカード効果で破壊された時、墓地から“デーモン”と名のつくカードを蘇生させるぅ。蘇れぇ! 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』!」

 

 地鳴りが始まる。

 消えずに残っていた墓地へと続く穴が広がりそこから巨大なものが出てくる気配を感じる。まずそこから出てきたのはデーモンの頭部だった。驚くべきことにその大きさは頭部だけで『デーモンの将星』の身丈程もあった。徐々にその姿は露わになっていき最終的に体全体が出てくるとその大きさに息を呑むほか無くなる。その全長は『デーモンの将星』の優に十倍はあるのだ。紫色の表皮は所々剥げ傷ついた姿から歴戦の猛者の風格がにじみ出ている。両膝小僧にはデーモンの頭の骨がはめ込まれており一瞬それが顔だと勘違いしそうになる。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン

ATK3000  DEF2000

 

 

『………っ!』

 

 よりにもよってデーモンの中で最高攻撃力のモンスターを墓地に送ってるとは。あの『手札抹殺』は向こうにとって最高の状況を作り出したらしい。サイレント・マジシャンの息を呑むのが伝わってくる。

 

「さらにぃ! 『万魔殿―悪魔の巣窟―』の効果発動ぉ! 場の”デーモン”と名のつくカードが戦闘以外で破壊され墓地に送られた時、そのカードのレベル未満の”デーモン”と名のつくモンスターを手札に加える。破壊された『デーモン騎兵』のレベルは4。私はデッキよりレベル3の『トリック・デーモン』を手札に加えるぅ。そしてカードを1枚伏せて、ターンエンドだぁ」

 

 これだけ展開しておいて手札を3枚残している上に伏せカードまであるとは……予想通りこの相手は強い。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 だがこの状況が絶望的と言う訳でもない。あの『手札抹殺』はこちらにもまたいい流れを持ってきた。問題なのはあのセットカードだが、果たしてこちらの思惑通りに事が運ぶか……

 

「墓地の光属性『エフェクト・ヴェーラー』と闇属性『ジャンク・シンクロン』を除外し手札から『カオス・ソーサラー』を特殊召喚」

 

 右手には光の炎、左手には闇の炎を灯す魔術師。それが『カオス・ソーサラー』。上半身は切れ切れのデザインで肌を大きく露出させる魔術師の装束。十字に自分の体を縛めるベルトが特徴的である。

 

 

カオス・ソーサラー

ATK2300  DEF2000

 

 

 召喚誘発系の罠は……無いようだ。これでひとまず第一ステップはクリアと言ったところか。

 

「『カオス・ソーサラー』の効果発動。1ターンに1度、フィールド上の表側表示のモンスター1体を除外できる。この効果で『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を除外」

「くぅ……!」

 

 空間に罅が入る。その罅はどんどん大きくなり大きな亀裂となりついに空間に巨大な穴が空いた。

 それは一瞬。

 あれほどまで巨大で威圧感を発していた『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』は空間に飲み込まれ跡形も無く消えて無くなった。

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』は強力な効果を持っているが自身に耐性は持っていない。よって効果による処理が非常に有効である。どうやらあのセットカードが効果に反応するものでも無いらしい。となると残る警戒すべきものは攻撃誘発か。

 

「さらに『ゾンビキャリア』を通常召喚」

 

 でっぷり太った紫のゾンビが地面を突き破り出現する。体には機械による改造の跡や様々な動物のパーツを縫合した跡が残っていた。

 

 

ゾンビキャリア

ATK400  DEF200

 

 

 こっちで使うのは1年ぶりぐらいか? 使うまでもなく魔法使い族のシンクロモンスターだけで勝てることがほとんどだったせいもあって全然出していなかったな。まぁこの相手には出し惜しみをしている場合では無さそうだ。

 

「レベル6の『カオス・ソーサラー』にレベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング」

 

 『ゾンビキャリア』は二つの緑の光の輪になりその中を『カオス・ソーサラー』が飛ぶ。『カオス・ソーサラー』は六つ光の玉となり輪の中の光が最高潮に達する。

 

「シンクロ召喚、『スクラップ・ドラゴン』」

 

 大きく広げた翼はトタン板の寄せ集め。

 それを動かすのは廃工場の歯車群。

 廃材置き場から集まった金属パイプから煙を噴かせその体を羽ばたかせ浮上させていく。

 浮上する際に体のパーツが次々と落下していくがそれでも動きが止まることは無い。

 使い捨てられたタイヤ、破られた鉄柵、何かわからない工業製品の金属部品、そう言ったものが集まり生まれたドラゴン、それが『スクラップ・ドラゴン』。

 目に当たる部分の赤いランプが灯り金属が軋み上がる咆哮の音を辺りに響かせる。

 

 

スクラップ・ドラゴン

ATK2800  DEF2000

 

 

「なるほどぉ……これが噂の奴のドラゴン……」

「……?」

 

 何か口元が動いていた気がするが『スクラップ・ドラゴン』の体を動かす轟音に掻き消され上手く聴き取れない。

 

「墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動。場の『スクラップ・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、墓地から『レベル・スティーラー』を特殊召喚する」

 

 墓地から引き上げるようにして現れた背中に黄色の星が描かれたテントウ虫。『スクラップ・ドラゴン』が居る今、こいつには少々働いてもらうことになる。

 

 

スクラップ・ドラゴン

レベル8→7

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

「『スクラップ・ドラゴン』の効果発動。1ターンに1度自分の場のカード1枚と相手の場のカード1枚を選択して破壊する。俺はこの効果で俺の場の『レベル・スティーラー』とお前の場のセットカードを破壊する」

 

 『スクラップ・ドラゴン』の体から落ちる部品が『レベル・スティーラー』を押しつぶすと同時に背中からタイヤが高速で射出されセットカードへと向かう。

 

「ふはははは!! 伏せカードを恐れるあまり大局を見誤ったようだなぁ!トラップカード発動ぉ! 『デーモンの雄叫び』! こいつは500ポイントライフを支払うことで墓地から“デーモン”と名のつくカードをエンドフェイズ時まで蘇らせる。私が復活させるのは『ヘル・エンプレス・デーモン』!」

 

 雄叫びに応えるように黒い穴から一人の女性が現れる。その姿は『トリック・デーモン』が大人になった姿で、目元から上を覆う厳つい角の生えた仮面をとってしまえば美しい相貌が露わになるのは想像に難くない。上半身は無骨で刺々しい鎧に包まれているが、下半身は無防備なもので股の部分以外に装飾品は無く大胆に太ももを晒している。

 

『……………………』

「……どうした?」

『……いえ、なんでもないです』

「…………?」

 

 サイレント・マジシャンから少し強い視線を感じ問いかけてみたが何も無いらしい。一見いつもと変わり無いように見えるが、何となく不機嫌そうな気がする。気のせいだろうか?

 

 

仮面のデュエリストLP4000→3500

 

 

ヘル・エンプレス・デーモン

ATK2900  DEF2100

 

 

 それにしても面倒な状況だ。このタイミングで『ヘル・エンプレス・デーモン』が出てくるか。初動の『手札抹殺』でつくづく良いモンスターを落としている。

 

「……バトルだ。『スクラップ・ドラゴン』で『デーモンの将星』を攻撃」

 

 『スクラップ・ドラゴン』はその口を大きく開け『デーモンの将星』に狙いを定める。直後、蒸気機関車の汽笛を鳴らす音が聞こえてきそうな程の蒸気を体から飛び出たいくつものパイプから放出し、口からオレンジ色の熱線を放射した。

 

「こぉの瞬間! 『ヘル・エンプレス・デーモン』の効果発動ぉ。このカード以外の自分の場の闇属性・悪魔族モンスター1体が破壊される場合、代わりに自分の墓地に存在する闇属性・悪魔族モンスター1体をゲームから除外することがぁできる。私は墓地に存在する『ジェネラルデーモン』除外しぃ『デーモンの将星』の破壊を無効にするぅ」

 

 熱線が『デーモンの将星』を貫く直前、半透明な『ジェネラルデーモン』がその熱線を受け止め消えていく。だが、その余波が僅かに相手のライフを削った。

 

 

仮面のデュエリストLP3500→3200

 

 

 『ヘル・エンプレス・デーモン』が出てきた瞬間から予想されていたことだが状況としては非常に良くない。

 

「俺は再び墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動。場の『スクラップ・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、墓地から『レベル・スティーラー』を守備表示で特殊召喚する」

 

 再び場に戻る『レベル・スティーラー』。『スクラップ・ドラゴン』との相性の良さは今に始まったことではないが久々に使ってみるとやはり強力だと改めて実感させられる。

 

 

スクラップ・ドラゴン

レベル7→6

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

「カードを1枚伏せて、ターン終了」

「このエンドフェイズ時、『デーモンの雄叫び』によって復活した『ヘル・エンプレス・デーモン』は破壊される。だが、『ヘル・エンプレス・デーモン』が破壊された時、『ヘル・エンプレス・デーモン』の効果発動ぉ! 墓地からレベル6以上の闇属性・悪魔族モンスター1体を復活させる! これにより私は2体目の『デーモンの将星』を特殊召喚するぅ!」

 

 『ヘル・エンプレス・デーモン』は甲高い叫び声を上げて砕け散り砂に変わる。そしてその砂から新たに2体目の『デーモンの将星』が姿を現した。

 

 

デーモンの将星2

ATK2500  DEF1200

 

 

 まったくまだ墓地に高攻撃力の悪魔族を隠してたとは……まぁこれで2体目の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が出てくるなんてことが無いだけマシか。

 

「そして『ヘル・エンプレス・デーモン』が破壊されたことによりさらに『万魔殿―悪魔の巣窟―』の効果発動ぉ! 破壊された『ヘル・エンプレス・デーモン』のレベル8ぃ。よってぇ私はこの効果でレベル4の『トランス・デーモン』を手札に加える」

 

 さてカードも伏せた訳だが果たしてこれだけで次のターン凌ぎきれるか。『デーモンの将星』の攻撃力は『スクラップ・ドラゴン』に届いていないとは言え、正直なところ『万魔殿―悪魔の巣窟―』の効果で手札に加えられた『トリック・デーモン』、『トランス・デーモン』が見えている時点でほぼ間違いなく次のターンで『スクラップ・ドラゴン』が破壊されるだろう。俺の予想の範疇の動きをしてくるか次のドローで予想を超えてくるか……どちらにせよマズい。

 

「私のタァーン、ドローぉ。私は手札よりマジックカード『悪夢再び』を発動ぉ。墓地の守備力0の闇属性モンスター2体を手札に加える。私は『トリック・デーモン』、『デーモン騎兵』を手札に加える」

 

 これで手札は6枚。うち4枚はネタが分かってるとは言え『トリック・デーモン』は効果で墓地に送られれば“デーモン”と名のつくカードを何でもサーチできる。つまり向こうには選択の幅が実際の手札枚数よりも広い。

 

「『トランス・デーモン』を召喚。そして効果を発動。1ターンに1度手札の悪魔族モンスター1体を捨て自身の攻撃力をエンドフェイズ時まで500ポイントアップさせる」

 

 三頭身ほどの淀んだ薄い青色の肌の悪魔が羽ばたいてきた。ひょろひょろのモヤシのような細長い手足に皺だらけの肌は老人のようにも見える。鎧など一糸纏わず肌を露出させたその姿は一言で言うなら気味が悪いものだった。

 

 

トランス・デーモン

ATK1500→2000  DEF500

 

 

 この効果で重要なのは“手札から悪魔族をモンスター1体を捨てる”と言うのがコストではなく効果だと言うことだ。つまりここで奴が手札から捨て墓地に送ったのは……

 

「このとき墓地に送られた『トリック・デーモン』の効果発動。デッキからフィールド魔法『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を手札に加える」

 

 やはり『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を手札に加えてきたか。字面から“伏魔殿”を“デーモンパレス”と読むなどと誰が想像できようか。

 

「そして『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を発動ぉ!」

 

 フィールド魔法が変わったことで周りの景色も一変する。見下ろしていた竜は崩れ去り地鳴りと共に相手の背後から何かが生えてくる。あっという間に姿を現したのは城のような建物群だった。センターに聳え立つ一番高い建物は円柱型の高層ビルのようだったが上部にデーモンを象徴する角や翼をモチーフにした装飾がなされておりその様はまさに“悪魔の塔”と呼ぶにふさわしい。他の建物はそれぞれまったく形が異なる作りになっておりその様子は世界各国の地域ごとの伝統的建造物を一カ所に集めたようだった。暗雲が立ち籠め紫色の稲光が空の至る所で起きているのが一層不気味さを演出している。

 

「『万魔殿―悪魔の巣窟―』が地獄の一丁目ならばこの『伏魔殿―悪夢の迷宮―』は地獄の本殿。その恐怖身を以て味わうが良い。『伏魔殿―悪夢の迷宮―』の効果により場の悪魔族モンスターは攻撃力が500ポイントアップするぅ!」

 

 センターの“悪魔の塔”を中心に建物群の外までの範囲に描かれた悪魔的な模様が描かれたサークルが光を発する。その光に呼応するように場の“デーモン”達の瞳が妖しく輝きだす。

 

 

トランス・デーモン

ATK2000→2500

 

 

デーモンの将星1

ATK2500→3000

 

 

デーモンの将星2

ATK2500→3000

 

 

 これで『デーモンの将星』の攻撃力が『スクラップ・ドラゴン』を上回った。問題なのはここから。まだ分からない残りの2枚の札がここで飛んでくるかどうか……

 

「バトルだぁ!!1体目の『デーモンの将星』で『スクラップ・ドラゴン』を攻撃ぃ!!」

 

 『デーモンの将星』の手に集められた雷が放出され『スクラップ・ドラゴン』に直撃する。元々繋がしっかりしている体ではない『スクラップ・ドラゴン』は一撃を受け体が崩れ落ちていく。

 

 

八代LP4000→3800

 

 

「攻撃はまだ終わらん! 『トランス・デーモン』で『レベル・スティーラー』を攻撃!」

 

 甲高く不快な笑い声を上げながら飛んできた『トランス・デーモン』は鋭いつ目で『レベル・スティーラー』を引き裂き破壊する。これで俺を守る壁となるモンスターは居なくなった。

 

「ふははは!! 覚悟は良いかぁ! 2体目の『デーモンの将星』でダイレクトアタックぅ!!」

 

 2体目の『デーモンの将星』から放出された雷が眼前に迫ってくる。どうやらこのターンの行動は俺の想定の範囲で収まってくれたらしい。

 

「トラップカード発動。『ガード・ブロック』。この戦闘で発生するダメージを0にしカードを1枚ドローする」

 

 俺の前に透明のドーム状の膜が張られその雷を受け止める。雷との接触部分が虹色の波を表面にたてながらその攻撃を受け流していく。

 

「ふん、流石に簡単には通らないかぁ。私はこれでターンを終了する」

 

 

トランス・デーモン

ATK2500→2000

 

 

 エンドフェイズ時になり攻撃力が元に戻りその大きさが元に戻る。

 

 月も隠された不気味な夜空。

 緊迫したデュエルの序章は幕を閉じる。

 真剣な面持ちで対峙する二人の決闘者を他所に影で道化が笑った。


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