遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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『デュエル屋』と刺客 後編

PM19:10(町外れの裏路地)

 

仮面のデュエリストLP3200

手札:4枚

場:『デーモンの将星』×2、『トランス・デーモン』

フィールド:『伏魔殿―悪夢の迷宮―』

セット:無し

 

 

八代LP3800

手札:4枚

場:無し

セット:無し

 

 

 デーモン軍団の猛攻をなんとか凌ぎきったこのターン。まぁ俺の予想通り動いてくれた上にセットカードも無く攻めるには絶好の機会なのだが……生憎手札に動ける札が揃ってない。なんとか次のターンは凌げるかもしれないがそれじゃジリ貧になるのが見えている。このドローでなんとかしなければ。

 

「俺のターン、ドロー。っ! 『闇の誘惑』を発動。カードを2枚ドローしその後闇属性モンスターを1体手札から除外する。俺は手札から『見習い魔術師』を除外」

 

 ここに来ての手札交換カード。ありがたい、これで反撃のための札が揃った。

 

「そして『マジカル・コンダクター』を召喚」

 

 俺のデッキを支える大和撫子。このデッキで大量展開をするときの始動となることが多い。今回もその力を借りるぞ。

 

 

マジカル・コンダクター

ATK1700  DEF1400

 

 

 「手札からマジックカード『ワン・フォー・ワン』を発動。手札のモンスターカードを墓地に送ってこのカードは発動する。デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚する。俺は手札の『キラー・トマト』を墓地に送ってデッキから『スポーア』を特殊召喚する」

 

 

スポーア

ATK400  DEF600

 

 最早おなじみであるこのデッキの優秀なチューナー。今日の依頼でも活躍してくれた連続シンクロのお供となっているモンスターだ。

 

「魔法カードが使用されたことで『マジカル・コンダクター』に魔力カウンターが2つ乗る」

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 0→2

 

 

 緑色の魔力光を発する2つの球体が『マジカル・コンダクター』の周りを浮遊し始める。

 

「『マジカル・コンダクター』の効果発動。自身に乗った魔力カウンターの数を任意の個数取り除きその個数と同じレベルの魔法使い族モンスターを手札または墓地から特殊召喚する。俺は魔力カウンターを2個取り除くことで墓地からレベル2の『シンクロ・フュージョニスト』を特殊召喚する」

 

 『マジカル・コンダクター』の周りに浮いていた緑に発光する魔力球は墓地へと通じる黒い穴に吸い込まれ新たにそこから『シンクロ・フュージョニスト』を引きずり上げる。

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 2→0

 

 

シンクロ・フュージョニスト

ATK800  DEF600

 

 

「レベル4の『マジカル・コンダクター』にレベル1の『スポーア』をチューニング。シンクロ召喚、『TG ハイパー・ライブラリアン』」

 

 光の中から姿を見せたいつも頼りにしているシンクロモンスター。このデッキにおいて展開しながらドローできるいわばエンジン的存在。そのメガネの先の敵を真っすぐ見据えていた。

 

 

TG ハイパー・ライブラリアン

ATK2400  DEF1800

 

 

「墓地の『スポーア』の効果発動。このカードは墓地の植物族モンスター1体を除外することで墓地からを特殊召喚できる。このとき除外した植物族モンスターのレベルだけ自身のレベルが上昇する。俺は墓地の『キラー・トマト』を除外し『スポーア』を特殊召喚する。そして除外した『キラー・トマト』のレベルは4。よって『スポーア』のレベルは5となる」

 

 レベルが上がったことにより一回りも二回りも大きくした『スポーア』だったがその愛らしい顔はそのままで緩キャラの巨大なぬいぐるみを思わせる。

 

 

スポーア

ATK400  DEF600

レベル1→5

 

 

「レベル2の『シンクロ・フュージョニスト』にレベル5となった『スポーア』をチューニング。シンクロ召喚、『アーカナイト・マジシャン』」

 

 魔力カウンターを操るこのデッキのエースモンスター。杖の先の宝玉の輝きにあわせてあふれる魔力がそのローブを棚引かせる。

 

「シンクロ召喚の素材となり墓地に送られた『シンクロ・フュージョニスト』の効果発動。デッキから『融合』または『フュージョン』と名のついたカードをデッキから手札に加える。俺はデッキから『簡易融合』を手札に加える。また『アーカナイト・マジシャン』はシンクロ召喚時、自身に魔力カウンターを2つ乗せる。そしてこのカードの攻撃力は自身に乗った魔力カウンターの数×1000ポイントアップする。さらに『TG ハイパー・ライブラリアン』が存在する時、シンクロ召喚に成功した場合カードを1枚ドローする」

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 0→2

ATK400→2400  DEF1800

 

 

 手札は4枚ある。ここまで順調に展開できたがここからどうすべきか。さらに展開して一気に押し切ることもできると言えばできる。ただ万が一そこで手札誘発によるなんらかの妨害を受けた時、手札をすべて失った状態で次のターンを迎える状況になりかねない。ここはやはり堅実に動くか。

 

「『アーカナイト・マジシャン』の効果発動。自分フィールド上の魔力カウンターを1つ取り除き相手の場のカードを1枚破壊する。自身に乗った魔力カウンターを1つ取り除き『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を破壊」

「くぅ…………」

「……………………」

 

 自身の回りに浮かぶ緑光を放つ魔力球の一つが杖の宝玉に取り込まれる。その杖を天に翳すと杖から白く輝く光が天に昇る。直後、暗雲立ち籠める空から一筋の白い雷が相手の背後に聳え立つ建物群の一番高いタワーに直撃した。音を立て崩れるタワーの倒壊する衝撃が周りの建物に伝わり連鎖的に建物群は崩れていった。『伏魔殿―悪夢の迷宮―』の破壊と共に空を覆っていた暗雲は霧散し月明かりが照らす夜空の景色に戻っていた。

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 2→1

ATK2400→1400

 

 

トランス・デーモン

ATK2000→1500

 

 

デーモンの将星1

ATK3000→2500

 

 

デーモンの将星2

ATK3000→2500

 

 

「さらに自身に乗った最後の魔力カウンターを取り除き『デーモンの将星』を破壊」

 

 『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を襲った白い雷が今度は『デーモンの将星』を襲う。直撃した『デーモンの将星』は体が石化していき全体が石化すると砂となって体が崩れていった。

 

 

アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 1→0

ATK1400→400

 

 

 手札誘発による妨害は無しか……これは強引に勝負を決めにいっても良かったみたいだな。だが、まだこのターンで勝負を付ける方法は残ってる。

 

「『簡易融合』発動。1000ポイントライフを支払いエクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを特殊召喚する。俺はレベル4の『カオス・ウィザード』を特殊召喚」

 

 巨大なカップ麺の容器の中から大鎌を持った鎧の男が現れる。黒と赤のツートンカラーの鎧を纏っている上に仮面をつけているため肌の露出が一切無い。

 

 

八代LP3800→2800

 

 

カオス・ウィザード

ATK1300  DEF1100

 

 

「墓地の『ゾンビキャリア』の効果発動。手札を1枚デッキトップに戻すことで墓地から特殊召喚できる。この効果を使ったこのカードがフィールドを離れた時このカードは除外される」

 

 

ゾンビキャリア

ATK400  DEEF200

 

 

 再び場に『ゾンビキャリア』が戻りこれでシンクロ召喚のために必要なモンスターが場に整った。

 

「レベル4の『カオス・ウィザード』にレベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング。シンクロ召喚、『マジックテンペスター』」

 

 

マジックテンペスター

ATK2200  DEF1400

 

 

 『TG ハイパー・ライブラリアン』に『アーカナイト・マジシャン』、それに『マジックテンペスター』。まさか依頼で受けたデュエルと同じ布陣が完成するとは思ってなかった。

 

「『マジックテンペスター』のシンクロ召喚時、自身に魔力カウンターを1つ乗せる。さらに『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でカードを1枚ドロー。」

 

 

マジックテンペスター

魔力カウンター 0→1

 

 

「『マジックテンペスター』に乗った魔力カウンターを取り除きもう一方の『デーモンの将星』を破壊」

 

 

マジックテンペスター

魔力カウンター 1→0

 

 

 『マジックテンペスター』の周りを浮遊する緑色の魔力光を放つ球が『アーカナイト・マジシャン』の杖に吸収される。そして先程と同様に白い雷が『デーモンの将星』を打ち砕く。

これで残る相手の場のモンスターは『トランス・デーモン』のみ。いける!

 

「『アーカナイト・マジシャン』に『ワンダー・ワンド』を装備する。『ワンダー・ワンド』を装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする」

 

 『ワンダー・ワンド』を装備したことで『アーカナイト・マジシャン』の手にあった杖が『ワンダー・ワンド』に変化する。

 

 

アーカナイト・マジシャン

ATK400→900

 

 

「バトルフェイズ、『TG ハイパー・ライブラリアン』で『トランス・デーモン』を攻撃」

 

 『TG ハイパー・ライブラリアン』は指先を『トランス・デーモン』に向けるとその指から青白い光線が放射される。その細長い光線は『トランス・デーモン』を縦に真っ二つに切り裂いた。『トランス・デーモン』はそのまま爆散しその爆風が相手のライフを削る。

 

 

仮面のデュエリストLP3200→2300

 

 

「ぬぅぅ!! 『トランス・デーモン』の効果発動。このカードが破壊され墓地に送られた時、除外されている闇属性モンスターを手札に加える。私はこの効果で『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を手札に加える」

 

 ……………おかしい。

 あとはモンスターの総攻撃でこのデュエルが終わると言うのに相手が冷静過ぎる。負けると分かって開き直ってる……? いや、そうじゃない。

 まだ何かある、そんな気がしてならない。

 

「『アーカナイト・マジシャン』でダイレクトアタック」

 

 『アーカナイト・マジシャン』が持つ『ワンダー・ワンド』の先端の深緑色の宝玉から赤黒い閃光が相手に迫る。

 

「させん。相手が直接攻撃を仕掛けてきた時、手札の『バトル・フェーダー』の効果発動。このカードを特殊召喚しバトルフェイズを終了させる」

「なっ!?」

 

 盾となるように十字形のモンスターがその閃光の前に立ちはだかる。閃光は『バトル・フェーダー』に直撃する直前、それを阻む半透明の膜の壁に阻まれ霧散する。

 

 

バトル・フェーダー

ATK0  DEF0

 

 

 迂闊だった……この世界でトラゴやゴーズを使用するプレイヤーが今まで居なかったせいでバトルフェイズ中に手札から発動するモンスターのことをすっかり忘れていた……

 

「……墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動。場の『アーカナイト・マジシャン』のレベルを1つ下げ、墓地から『レベル・スティーラー』を特殊召喚する」

 

 

アーカナイト・マジシャン

レベル7→6

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が手札に加わったことで相手の手札は4枚。うち3枚は分かっているが1枚がまだ分かっていない。初手から使われていないが一体あれはなんだ?

 

「そして『ワンダー・ワンド』のもう一つの効果発動。このカードを装備しているモンスターとこのカードを墓地に送りデッキからカードを2枚ドローする。これでターンを終了する」

 

 墓地へと続く穴を出現させた『ワンダー・ワンド』は『アーカナイト・マジシャン』とともにその穴に消えて行く。これでこちらも手札は4枚。このターンを思い返せばデュエルを終わらせる方法はあった。だがその反省はとりあえず後だ。今はこのデュエルに集中する。

 

「私のタァーン、ドローぉ」

 

 さぁ、このターン何から来る?

 『エフェクト・ヴェーラー』を握ってる今、この状況を完全にひっくり返せるようなことはそうそうないと践んでるが油断はできない。パワーカードで押し切られることも十分あり得る。

 

「私は『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を召喚。このカードは攻撃力守備力を半分にすることでリリース無しで召喚できる。そしてこの効果で召喚したこのカードはエンドフェイズ時に破壊される」

 

 完全な状態でないためか『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の姿は初めて出てきたときの半分程度のサイズしか無かった。とは言えあの巨体が半分になったところで見上げる程の大きさは十分ある。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン

ATK3000→1500  DEF2000→1000

 

 

「『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の効果発動ぉ。1ターンに1度、手札または墓地から“デーモン”と名のつくカードを除外しフィールド上のカード1枚を破壊する。私は墓地の『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を除外しこの効果を発動ぉ!!」

 

 この破壊する効果を手札にある『エフェクト・ヴェーラー』で止めることは出来る。だがそうした場合『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の弱体化したステータスが元に戻ってしまい戦闘でモンスターが破壊されダメージも負ってしまう。厄介なモンスターだ、まったく……

 

「破壊するのは……『TG ハイパー・ライブラリアン』!!」

 

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の赤い瞳が一瞬輝きを放つ。次の瞬間、『TG ハイパー・ライブラリアン』は跡形も無く爆発しその姿は消えていた。

 

「さらに私は『おろかな埋葬』を発動。デッキから『トリック・デーモン』を墓地に送る。そしてカード効果によって墓地に送られた『トリック・デーモン』の効果発動。デッキから2枚目の『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を手札に加える。そして『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を発動ぉ!」

 

 月明かりが照らす夜空は再び暗雲立ち籠める空へと早変わりする。

 まさか破壊して1ターンでフィールドを持ち直してくるとは……

 これは一気に旗色が怪しくなった。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン

ATK1500→2000

 

 

バトル・フェーダー

ATK0→500

 

 

「『伏魔殿―悪夢の迷宮―』のもう一つの効果を発動するぅ。自分の場の『デーモン』と名のついたモンスター1体を選択し、選択したモンスター以外の自軍の場の悪魔族モンスター1体を選んで除外することでぇ、自分の手札・デッキ・墓地から選択したモンスターと同じレベルの『デーモン』と名のついたモンスターを1体特殊召喚する。私は『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を選択し効果発動ぉ! 『バトル・フェーダー』を除外しデッキから2体目の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を特殊召喚するぅ!」

 

 完全なステータスで現れた『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』。妥協召喚して出したものと比べるとその大きさの差は歴然で小さい方が可愛く見える程だった。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン2

ATK3000→3500  DEF2000

 

 

「そして特殊召喚された『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の効果により墓地から『デーモンの雄叫び』を除外し効果発動ぉ!」

「手札から『エフェクト・ヴェーラー』の効果を発動。このカードを手札から墓地に送ることで相手フィールド上のモンスター1体の効果をエンドフェイズ時まで無効にする。この効果で『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の効果を無効にする」

「ぬぅ。このターンで決着といきたかったところだがぁ……まぁいい。行くぞ! まずは最初に召喚した『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』でぇ『レベル・スティーラー』を攻撃!」

 

 『レベル・スティーラー』が破壊される。

 遅れて暴風の圧が体にかかる。

 何が起きたか一瞬理解できなかったが、やがてそれが『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の振るった大剣によるものだと気付く。ボロボロに錆び付いた『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の肩までの長さはある赤い大剣。

 冷や汗が頬を伝う。

 あんな馬鹿でかい大剣の攻撃をダイレクトアタックで貰ったら只じゃ澄まないなんてことは火を見るより明らかだ。

 

「さらにもう一体の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』で『マジックテンペスター』を攻撃ぃ!」

 

 『マジックテンペスター』がいとも容易く破壊される。

 直後体を襲う吹き荒れる暴風。

 ソリッドビジョンだと言うのに凄まじい迫力だ。

 

 

八代LP2800→1500

 

 

「私はカードを1枚伏せターンを終了する。そしてエンドフェイズ時妥協召喚した『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』は自壊する」

 

 小さい方の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が砂となりその場に崩れていく。危なかった……『エフェクト・ヴェーラー』が無ければこのターンで勝負はついていた。

 相手の場には一体の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』とフィールド魔法『伏魔殿―悪夢の迷宮―』、そして分からないセットカードが1枚。

 俺の手札にこの状況を完全に覆す手は揃ってない。このターンのドロー次第と言うわけか。

 

「俺のターン、ドロー。————っ! 『貪欲な壺』発動」

 

 ここに来て最高の引きだ。

 このドローでなんとか立て直しをしたいところだ。

 

「墓地の『スクラップ・ドラゴン』、『アーカナイト・マジシャン』、『マジック・テンペスター』、『TG ハイパー・ライブラリアン』、『カオス・ウィザード』をデッキ戻しカードを2枚ドロー。」

 

 …………流石にそう簡単に逆転の札は呼び込めないか。

 

「『大嵐』発動。フィールド上のすべてのマジック・トラップカードを破壊する」

「ぬっ? ならばこの時『リビングデッドの呼び声』を発動。墓地から『ヘル・エンプレス・デーモン』を特殊召喚。そして『大嵐』によって『リビングデッドの呼び声』が破壊され『ヘル・エンプレス・デーモン』も破壊される。『ヘル・エンプレス・デーモン』が破壊されたことで私は墓地から『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を特殊召喚する」

 

 目の前に完全状態で復活した『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が姿を現す。並ぶ巨体は山が二つ聳え立っているようにすら見えてくる。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン1

ATK3500→3000

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン2

ATK3000  DEF2000

 

 

 『伏魔殿―悪夢の迷宮―』の効果によるこれ以上の展開を阻止するための手がまさかこうも裏目に出るとは……

 今日に限ってセットカードを破壊して優位に立てた試しがない。

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が居る今、手札の『見習い魔術師』は壁としての役割も果たせない。ここは手札を温存した方が賢明か。

 

「……ターンエンド」

「ふはははは! カードを出さずしてターンエンドとはとうとう打つべく手が無くなったかぁ」

「……………………………………」

「ふふふ、私のターン。ドローぉ。このデュエルもいよいよ終わりが近づいているようだぁ。私は手札から『暗黒界の取引』を発動。お互いカードを1枚ドローし、その後手札からカードを1枚捨てる」

 

 ここに来てなんて引きだよ。奴の手札には『トリック・デーモン』があるのはもう既知のこと。このドローで次のターンの展開の布石を呼び込めないとマズい……

 

「そして『暗黒界の取引』によって捨てられた『トリック・デーモン』の効果発動。デッキから最後の『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を手札に加える。そして『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を発動ぉ!」

 

 最後の『伏魔殿―悪夢の迷宮―』が発動した。

 稲妻の轟音が一帯に響く。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン1

ATK3000→3500

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン2

ATK3000→3500

 

 

『マスター……………………』

 

 その呟きはか細く今にも消えてしまいそうなものだった。

 俺の横に居るサイレント・マジシャンの顔など見ないでもどんな表情をしているか想像がつく。

 

「…………………………」

 

 だが語ることは何も無い。

 いや、語る余裕など無いと言うべきか。

 俺の場には俺を守る壁となるモンスターも無ければ、相手の動きを封じる魔法も罠も無い。このメインフェイズで手札から発動できるモンスターも無いのだ。

 俺に今出来るのはただこのターンの相手の行動を見ていることだけ。

 背中に嫌な汗が流れる感触がする。

 

「『デーモンの騎兵』を通常召喚。さらにマジックカード『デビルズ・サンクチュアリ』を発動。『メタルデビル・トークン』を特殊召喚する」

 

 『デーモンの騎兵』の横に現れたのは魔方陣。

 その中央から辺りの光を反射する銀色のデッサン人形のような人型の物体が姿を現す。

 

 

デーモンの騎兵

ATK1900→2400  DEF0

 

 

メタルデビル・トークン

ATK0→500  DEF0

 

 

 『伏魔殿―悪夢の迷宮―』の発動のコストをこのタイミングでこうもあっさり出してくるとは……この男から感じた強敵の予感はやはり的中だったか。

 

「『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を選択して『伏魔殿―悪夢の迷宮―』の効果発動。場の『メタルデビル・トークン』を除外してデッキから3体目の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を特殊召喚する!」

 

 3体の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』が並ぶ。

 遥か上から見下ろす赤く輝く6つの瞳。

 その光景はただただ圧巻の一言に尽きる。

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン3

ATK3000→3500

 

 

「このデュエルを終わらせる前に1つ聞いておこう」

「…………?」

「『闇のデュエル』、と言うものに心当たりはあるかぁ?」

「…………初耳だ」

「そう……かぁ……」

「……………………?」

「…………………………」

『…………………………』

 

 考えに耽っているのか間が訪れる。

 『闇のデュエル』。

 その単語に聞き覚えは無く、今の問答の意味も推し量れない。

 

「ではこのデュエルの幕を下ろすとしよう。バトルだぁ! 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』でダイレクトアタック!!」

 

 思考の答えを見つけている間もなくデュエルは進められていく。

 真ん中に鎮座する『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の攻撃が今始まろうとしていた。

 残りライフは1500。

 当然この攻撃を受けたら俺の敗北が確定する。

 だが……

 

「相手の直接攻撃宣言時、手札の『速攻のかかし』の効果発動。このカードを墓地に送ることでバトルフェイズを終了する」

「ぬぁにぃ?!!」

 

 見えない程の剣速で振るわれた大剣の切っ先が俺を捉える直前に現れた一体のかかしがその大剣を受け止める。赤い火花を散らせながら拮抗した状態がしばし続いたがついにその威力は相殺される。役目を終えたかかしは墓地に沈んでいく。

 

「くぅ……墓地の『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を除外して『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の効果発動。『デーモンの騎兵』を破壊。そして『デーモンの騎兵』が破壊されたことにより墓地から『ヘル・エンプレス・デーモン』を特殊召喚する」

 

 上から見下ろす6つの目のうちの2つが一瞬輝くと直後『デーモンの騎兵』が爆散する。そしてその跡から『ヘル・エンプレス・デーモン』が出現する。

 

 

ヘル・エンプレス・デーモン

ATK2900→3400  DEF2100

 

 

「なんとか首皮一枚繋がったようだなぁ。私はこれでターンエンドだ」

 

 危なかった……

 手札をすべて使い切ってくれたから良かったものの、未判明な1枚のカードがあったときはそれが『月の書』じゃ無いかと内心冷や冷やしていた。

 ただこれはこのターンを凌いだだけに過ぎない。

 問題なのはこれからだ。

 この手札の内容、枚数じゃどうあってもこの状況は覆らない。

 思えばこのデュエルは毎回のドローにデュエルの行方が委ねられてたな。

 ならば俺に出来るのはこのデッキを信じてカードを引くだけ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 ドクンッ!

 

 

 心臓の一際大きな脈動を感じる。

 引いたカードを確認する。

 

「――――っ!」

 

 全体除去といった都合のいいカードでは無い。

 だがこのデュエルの行方はこれでまだ分からなくなった。

 いや、このデュエルの流れを掴んだ、そんな感覚を覚える。

 

「相手の場にモンンスターが存在し自分の場にモンスターが存在しない時『アンノウン・シンクロン』は手札から特殊召喚することができる」

 

 突如飛来したのはバレーボールのような形状の銀色の球体。

 その表面は金属で覆われており電波の送受信を行うためか先端に黄色い玉がついたアンテナのようなものが2本伸びている。

 一カ所だけ表面に大きめの穴がありそこからは赤いレンズが顔を覗かせていた。

 

 

アンノウン・シンクロン

ATK0  DEF0

 

 

「チューナーか……」

「さらに手札を1枚捨て手札から『THE トリッキー』を特殊召喚」

 

 ふわりふわりと降ってきた青色のマント。

 ただそれを身に纏うものの姿は見えず風にもまれながらそれは落ちていく。

 一際強い風が吹いたときだった。

 気が付けばそこに人が立っている。

 風に漂っていたマントを身に着けた道化師。

 顔からつま先まで黄色と黒のツートンカラーの衣装を身に着け、顔面と腹部に赤字で大きく“?”マークが描かれている実に奇妙な姿の道化師だった。

 

 

THE トリッキー

ATK2000  DEF1200

 

 

「墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動。場の『THE トリッキー』のレベルを1つ下げ、墓地から『レベル・スティーラー』を特殊召喚」

 

 

THE トリッキー

レベル5→4

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

 相手は既に手札を使い尽くしている。故に迷う理由は無い。やれる限りの手を尽くさせてもらおう。

 

「レベル4となった『THE トリッキー』にレベル1の『アンノウン・シンクロン』をチューニング。シンクロ召喚、『TG ハイパー・ライブラリアン』」

 

 

TG ハイパー・ライブラリアン

ATK2400  DEF1800

 

 

 このデュエルで二度目となる登場の『TG ハイパー・ライブラリアン』。こいつの効果でどこまで良いカードを呼び込めるかが鍵だ。

 

「『ジャンク・シンクロン』を召喚。『ジャンク・シンクロン』の召喚に成功した時、墓地からレベル2以下のモンスターを特殊召喚できる。この効果で墓地から『アンノウン・シンクロン』を特殊召喚する」

 

 『ジャンク・シンクロン』の登場により先程シンクロ召喚に使われた『アンノウン・シンクロン』が再び場に戻ってくる。

 

 

ジャンク・シンクロン

ATK1300  DEF500

 

 

アンノウン・シンクロン

ATK0  DEF0

 

 

 これですべての手札を使い切った。

 ここからは未知の領域。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

 心臓が激しい鼓動を刻む。あの時と同じ。それは緊張とはまた違う奇妙な感覚だった。根拠は無い。只このデュエルを完全に掌握したビジョンが脳裏を掠める。

 

「レベル1の『レベル・スティーラー』にレベル1の『アンノウン・シンクロン』をチューニング。シンクロ召喚、『フォーミュラ・シンクロン』」

 

 颯爽と登場したF1カーが直ぐさま人型にフォルムチェンジを遂げる。

 

 

フォーミュラ・シンクロン

ATK200  DEF1500

 

 

「『フォーミュラ・シンクロン』のシンクロ召喚時、カードを1枚ドローすることができる。さらに『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でドロー」

 

 この2枚のドローにすべてを託す。そんな思いでカードを引いた。

 賽は投げられた。

 

『――――っ!!』

「『簡易融合』発動。1000ポイントライフを払ってエクストラデッキからレベル5の『音楽家の帝王』を特殊召喚」

 

 カップ麺の容器から筋肉質な体つきの赤いエレキギターを肩からかけた上裸の男が飛び出してくる。『簡易融合』で特殊召喚する『カオス・ウィザード』と同様、お馴染みのモンスターだ。

 

 

八代LP1500→500

 

 

音楽家の帝王

ATK1750  DEF1500

 

 

 このドローに隣でサイレント・マジシャンが目を見開くのが横目に映る。この土壇場のタイミングで最高のカードを呼び込んだのだから驚くのも無理は無い。

 

「レベル5の『音楽家の帝王』にレベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング。シンクロ召喚、『スクラップ・ドラゴン』!」

 

 金属同士がぶつかり擦れる激しい音を立てながら場に廃材から生まれた竜が舞い戻る。

 立ちはだかる3体の悪魔の王と1体の王妃。それらに対し反撃の火蓋が切られたと言わんばかりに『スクラップ・ドラゴン』が咆哮する。

 

 

スクラップ・ドラゴン

ATK2800  DEF2000

 

 

「ふふふ、ここに来て『スクラップ・ドラゴン』を出したことは褒めてやろう。だが、そのモンスターではこの状況を動かすことが出来ないことぐらい貴様にも分かっているだろう」

 

 『スクラップ・ドラゴン』の効果は強力だ。だが奴の言う通りその効果で相手の場に並ぶ『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を破壊しようにも『ヘル・エンプレス・デーモン』が居るため墓地の悪魔族が身代わりとなり破壊は出来ない。かといって『ヘル・エンプレス・デーモン』を破壊すれば墓地からまた上級の悪魔族が復活してくる。この『スクラップ・ドラゴン』だけではこの状況を打開できない。

 

「シンクロ召喚に成功したことにより『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でカードを1枚ドロー」

 

 引いたカードは『魔力掌握』。この場で役に立つカードではない。だがいずれにせよやることは変わらない。

 

「そして墓地の『レベル・スティーラー』の効果発動。場の『スクラップ・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚」

 

 

スクラップ・ドラゴン

レベル8→7

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

「『スクラップ・ドラゴン』の効果発動。俺の場の『レベル・スティーラー』と『伏魔殿―悪夢の迷宮―』を破壊」

 

 『スクラップ・ドラゴン』は轟砲を上げると共に体から伸びたいくつものパイプから蒸気を放出させながら背中から大量の廃材を射出していく。その蒸気を至近距離で浴びた『レベル・スティーラー』は破壊された。射出された鉄パイプ、鉄骨、古い印刷機などを含んだ廃材は雨霰の如く建物群に押し寄せ建物を次々に倒壊させていく。そして建物の倒壊と共に暗雲は消え月明かりが照らす夜空に戻った。

 

「『伏魔殿―悪夢の迷宮―』が破壊されたことで上昇していた攻撃力は元に戻る」

「だが攻撃力が下がったところでその『スクラップ・ドラゴン』では私のぉデーモン達を倒すことは出来ない」

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン1

ATK3500→3000

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン2

ATK3500→3000

 

 

戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン3

ATK3500→3000

 

 

ヘル・エンプレス・デーモン

ATK3400→2900

 

 

「そして『レベル・スティーラー』の効果発動。もう一度場の『スクラップ・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、墓地から特殊召喚する」

 

 

スクラップ・ドラゴン

レベル7→6

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

 今場に並んでいるのは『スクラップ・ドラゴン』、『TG ハイパー・ライブラリアン』、『フォーミュラ・シンクロン』に『レベル・スティーラー』。いずれのモンスターも相手の言うようにどのモンスターも相手の場で1番攻撃力の低い『ヘル・エンプレス・デーモン』にすら届いていない。だがこれで良い。

 これで更なるシンクロ召喚のための布石は場にすべて揃った。

 初めてだな……この世界でこのシンクロモンスターの召喚を行うのは……

 

「レベル6となった『スクラップ・ドラゴン』とレベル1の『レベル・スティーラー』にレベル2の『フォーミュラ・シンクロン』をチューニング」

「なっ!? 『スクラップ・ドラゴン』を素材にしてシンクロ召喚だとぉ!?」

 

 相手の驚愕を他所に『フォーミュラ・シンクロン』が緑に輝く2つの輪に姿を変えその中に『スクラップ・ドラゴン』と『レベル・スティーラー』が飛んで行く。2体のモンスターの輪郭が無くなっていき『スクラップ・ドラゴン』からは6つ、『レベル・スティーラー』からは1つの光球が飛び出した。そしてまばゆい光が満ちる。

 

「ぐぅ……!! …………………………む……?」

 

 その強烈な光のあまりたじろぐ相手だがやがて違和感に気付いたようだ。目の前で輝いていた光は確かに収縮した。だがその光源だった場所は依然白かった。それは光の輝きによる白さではない。巨大な濃い霧の固まりが宙に浮いている、この表現が一番正しいだろう。

 その濃い霧はゆっくりと地面に近づいていく。

 直後だった。

 

 ペキペキペキッ!

 

 アスファルトで黒かった地面は白く染まっていた。

 霧が地面と接触した部分を中心にその“白”は周りに広がっていく。

 その“白”の正体は氷。

 アスファルトの表面は音を立てながら凍っていく。

 霧のように見えたのは極低温の冷気の固まりだった。

 

「シンクロ召喚、『氷結界の龍 トリシューラ』」

 

 俺の言葉を皮切りにその冷気の固まりは霧散する。

 刹那、周りの景色は一変。

 目の前には月明かりが照らす氷の世界が広がっていた。

 その世界の王として君臨するが如く現れたのは三つ首の龍。

 白銀と深青色に彩られた体躯は見るものを引き込む危険な魅力を放つ。

 一対の翼の羽ばたきが起きる度、周りに冷気が振りまかれ大気中の水蒸気が凍りつき氷の粒と化していく。

 

 

氷結界の龍 トリシューラ

ATK2700  DEF2000

 

 

 シンクロ召喚の全盛期、猛威を振るったカード、それが『氷結界の龍 トリシューラ』。氷結界の住人が封印していた三龍の中の一体にして最強の能力を持つとされ、三龍の中で最後にその禁が解かれその世界をすべて凍らせ世界を滅ぼしたとか。最強のシンクロモンスターかは議論の余地が残るがその能力が強力なのは間違いない。

 

「このカードのシンクロ召喚時、相手の場、手札、墓地からカードを1枚ずつ除外することができる」

「ばぁ、バァカなぁ?!!」

「この効果で場の『ヘル・エンプレス・デーモン』と墓地の『トリック・デーモン』を除外する」

 

 効果発動の宣言と共に三つ首の頭は同時に雄叫びを上げる。その雄叫びは共鳴し周り影響を及ぼしていく。突如地面から隆起した巨大な氷塊。それは一つだけでなく二つ、三つと連鎖的に増えていく。そして氷塊が生まれる連鎖は収まるどころかむしろ加速していく。『ヘル・エンプレス・デーモン』に向かうように。

そのことに気付いた『ヘル・エンプレス・デーモン』だが、気付いたときにはもう遅い。悲鳴をあげる間もなくその体はすっかり氷に包まれていた。

 そして雄叫びが止むと共に一瞬のうちに生まれた氷塊は跡形も無く砕け散っていく。月明かりに照らされながら舞う氷の粒子はダイヤモンドダストさながらの美しいものだった。

 

「そしてシンクロ召喚に成功したため『TG ハイパー・ライブラリアン』の効果でドローする」

 

 引くべきカードはもう分かっている。

 後はそのカードをこのドローで引き込むだけ。

 デッキの上に手を乗せる。

 

「――――っ!」

 

 体に電流が奔る、そんな感覚だろうか。

 それは忘れもしない、あの時と同じ。

 これは望むカードがここにある、俺の中の何かがそう告げている。

 

「ドロー!!」

 

 すべてが揃った。

 聳え立つ3体の悪魔の王。それらを打ち砕くカードが今ようやく手中に収まった。

 

「『死者蘇生』発動。墓地から『スクラップ・ドラゴン』を蘇らせる」

 

 墓地から引き上げられるように姿を現した『スクラップ・ドラゴン』。燃えるように赤く輝くその瞳は倒すべき敵を真っすぐ見据えている。

 

 

スクラップ・ドラゴン

ATK2800  DEF2000

 

 

「墓地の『レベル・スティーラー』の効果で場の『スクラップ・ドラゴン』のレベルを1つ下げ、墓地から自身を特殊召喚」

 

 

スクラップ・ドラゴン

レベル8→7

 

 

レベル・スティーラー

ATK600  DEF0

 

 

 今日だけで何回特殊召喚したか分からない程の過労死っぷりの『レベル・スティーラー』。だがこれでようやくその仕事も最後になる。

 

「『スクラップ・ドラゴン』の効果発動。俺の場の『レベル・スティーラー』と『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』1体を破壊する」

 

 蒸気を体から噴かせながら一気に羽ばたき上空に舞い上がる『スクラップ・ドラゴン』。その羽ばたきの烈風は容赦なく『レベル・スティーラー』を粉砕した。『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の頭上よりも高く飛んだ『スクラップ・ドラゴン』は天から無数の鉄の雨を降らせる。上空から射出されたそれらは重力によってさらに加速し『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の巨体を貫いていく。やがてその巨体は崩れ灰となって消えていった。

 役目を終えた『スクラップ・ドラゴン』は再び上空から舞い戻る。

 

 まずは一体。

 

 次に最後に引いたカードをディスクに差し込む。

 

「『ミラクルシンクロフュージョン』発動。このカードは自分のフィールド、墓地から融合モンスターに決められた融合素材を除外し、シンクロモンスターを融合素材にする融合モンスターを融合召喚扱いでエクストラデッキから特殊召喚する。俺は場の『TG ハイパー・ライブラリアン』と墓地の『音楽家の帝王』を除外!」

 

 墓地から一時的に姿を現した『音楽家の帝王』。そして場に揃った融合素材の2体のモンスターは重なるように体が渦に引き込まれていく。そしてその渦に光が満ちる。

 

「『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』を特殊召喚する」

 

 顔は『アーカナイト・マジシャン』と何ら変化の無い中性的な魔術師。変化したのはまず衣装だ。肩が三日月型にそり上がった特徴的なローブはより一層流線的になり、模様も白地に紫の波模様が入ったものから黒地にメタリックブルーの波模様に変化し縁も同様のメタリックブルーのものとなっている。黄緑色の宝玉が先端に埋め込まれた杖は二回り程大きくなり、杖に埋め込まれた宝玉と同じものが衣装の節々に埋め込まれ杖と呼応するように魔力光を放っている。

 

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン

ATK1400  DEF2800

 

 

「『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』の融合召喚に成功した時、自身に魔力カウンターを2つ乗せる。そしてこのカードの攻撃力は自身に乗っている魔力カウンターの数×1000ポイントアップする」

 

 『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』の両端に魔方陣が出現する。それぞれ生まれた緑色に輝く魔力球が体に取り込まれる。直後、『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』から吹き出す風。それは充足した魔力が外に溢れて出てきたものだ。

 

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 0→2

ATK1400→3400

 

 

「ぐぅ……攻撃力……3400……」

 

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を上回る攻撃力のモンスターが出てきたことで流石に顔色が変わってきたようだ。

 そして最後の手札のカードを発動する。

 

「『魔力掌握』発動。魔力カウンターを乗せることのできるカードに魔力カウンターを1つ乗せる。そしてその後デッキから『魔力掌握』を手札に加える。これにより『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』に魔力カウンターを1つ乗せる」

 

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 2→3

ATK3400→4400

 

 

「『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』の効果発動。1ターンに1度、自分フィールド上の魔力カウンター1つを取り除くことでフィールド上のカードを1枚破壊する。自身に乗った魔力カウンターを取り除き2体目の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を破壊」

 

 体から溢れる魔力が緑光を放つ一つの魔力球に形を成す。その魔力球は杖の宝玉にとりこまれると宝玉の周りに黒い雷を迸らせ始める。そして杖を天に翳すと黒い閃光が天に昇る。

 何も無かったはずの夜空。

 そこから突如黒い雷が降り注ぐ。

 その太さは『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の巨体を易々飲み込む程だった。そんな一撃を受け耐えきれるはずも無く『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の体は灰となり散っていく。

 

 

覇魔導士アーカナイト・マジシャン

魔力カウンター 3→2

ATK4400→3400

 

「ぬぐぐ、おぉぉぬぉれぇぇぇぇ!!!」

 

 2体目撃破。

 これで相手の場には『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』1体を残すだけとなった。

 

「バトルフェイズ、『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』で最後の『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』を攻撃」

 

 攻撃命令受け『覇魔導士アーカナイト・マジシャン』はその杖に魔力を溜めていく。魔力が溜まるにつれ宝玉は点滅のペースは加速する。そして点滅が止まり宝玉が輝きを増した瞬間、恐ろしい量の緑光を発する魔力の波が津波のように押し寄せる。その波は瞬く間に『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』の巨体を飲み込んでいった。

 

「ぬぐぅぅぅおおおお!!」

 

 『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』がその姿を消す中、余波が相手に襲いかかりライフを削っていく。

 

 

仮面のデュエリストLP2300→1900

 

 

 これで相手を守る壁となるモンスターはすべて消え去った。あれだけ威圧感のあった『戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン』3体の姿が無くなるとこうもすっきりするのか。

 

「終わりだ。『氷結界の龍 トリシューラ』でダイレクトアタック!」

 

 呼吸をする度に白い冷気を放っていた三つの口にエネルギーが溜め始められる。だんだんとその口の周りからは口を閉じているのに冷気が漏れ始めていた。そして同時に開かれる三つの口。直後放たれる触れるものすべて、いや、触れずとも周りの物すべてを凍らせる青白く発光した光線。三つのそれは途中で束ねられ一本の太い光線となり相手に迫る。

 

「ぬぅぅぅぅうううおおおぉぉぉぉぉおおあああああぁぁぁあ!!!!!!!」

 

 野太い叫びが響く中このデュエルは一つの決着を迎えた。

 

 

仮面のデュエリストLP1900→0

 

 

 

—————————

——————

————

 

 PM20:00(町外れの裏路地)

 

 

「…………誰の差し金だ?」

「………………………………」

 

 デュエルを終え向かい合う男にそう問いを投げる。

 もっともこの問いに素直に答える場合は極めて少ない。『デュエル屋』稼業において依頼者と結ぶ契約の中には“依頼人の情報を決して漏らさない”と言う内容が必ず含まれる。これを破れば二度とこの仕事が回ってこなくなり『デュエル屋』としての職業生命を絶たれてしまう。これをあえて聞いたのはいわゆるお約束と言ったものだ。

 

「………………………………」

「………………………………」

 

 当然素直に答えるはずもなくしばらく沈黙が続く。

 

「質問を変えよう。デュエル中に“闇のデュエル”と言ったな? あれはどういう意味だ?」

「………………………………」

 

 この質問に対する返答も無く無言。

 そのまま先程同様の沈黙が続く。

 答えを聞くのを諦めかけたそのとき相手が口火を切った。

 

「……関わるな。関わればぁ永遠の闇を知ることになる……」

「………………?」

 

 言ってることにいまいち理解が追いつかない。

 永遠の闇?

 それは比喩的な何かなのか?

 

『………………………………』

 

 思い当たることがあるのか、それとも俺と同じく思考を巡らせているのか。どっちともとれるような難しい顔を浮かべるサイレント・マジシャン。

 

「依頼が果たされた今ぁ私の仕事は終わりだ。では、さぁらばだぁぁ!!」

「待て! 話はまだ……」

 

 聞きたいことを残して目の前から高速で移動し消えていった仮面の男。その動きはどういう原理か地面を滑るように移動しており決して背中を見せること無く後ろ向きに消えていった。

 

「なんだったんだ…………いったい……」

『マスターっ!!』

 

 パチ……パチ……パチ……パチ……

 

 それはサイレント・マジシャンの呼びかけと同時の出来事だった。人気の全くない通りに響く乾いた手を叩く音。

 その音は上から聞こえてくるものだった。

 

「イーッヒッヒッヒッヒ!」

 

 耳につく甲高い笑い声。

 見上げると建物の上にその声の主は立っていた。

 

「とうっ!」

 

 掛け声と共に6メートル程の高さから飛び降りると空中で一回転した後、着地の衝撃を感じさせない鮮やかな着地を見せる謎の人物。

 ウェーブのかかった藤色の髪、顔には紅色の口紅、瞼とクロスするように紅色のラインも引いてある。その様子はまさにピエロを思わせるものだ。白で統一された清潔感のあるシャツ、ズボンに手袋と良い、その上から羽織っている襟の整った紅色のロングコートと良いそれなりの身分の人間と見ていいだろう。

 

「先程のデュエル拝見させていただきました。いやはや噂に違わぬ実力者、流石は未だ無敗の『死神の魔導師』」

「………………何者だ?」

「はっ、申し遅れました。治安維持局特別調査室室長のイェーガーと申します。以後お見知りおきを」

 

 自己紹介の後に恭しく一礼をするイェーガーと名乗る男。だがそこから感じるのは妙な胡散臭さ。こいつに隙を見せてはならないと直感的に認識する。

 

「それで? 治安維持局特別調査室室長殿が俺に何のようだ? デュエルを見に来ただけか?」

「左様にてございます。ホッホッホッ!」

「嘘だな」

「ホッ?」

「デュエル見るだけが目的なら見終わった後黙って帰れば良い。なのにアンタはそうはせず俺の目の前に姿を現した。すぐ見抜ける嘘だ。試してるつもりならもう少し程度を上げてくれ」

「……ホッホッホッ、これは大変失礼致しました」

 

 やはり油断ならない人物だ。先の直感は確信へと変わった。わざわざ俺の前に姿を見せたのは本当にただ試すためなのか、それとも何か別の理由があるのか。まだ読めない。

 

「態々大枚叩いて腕のある『デュエル屋』を雇って俺にぶつけてデュエルを見てたらしいが……俺はお眼鏡にかなったか?」

「…………実力は大変素晴らしい。ですが、少々当ては外れました」

「ほう? それはどういう意味だ?」

「そのままの意味にてございます。イーッヒッヒッヒッヒッ!」

「……そうか」

 

 当てが外れた……か。

 となるとこいつがデュエルを見ていたのは俺の実力を見るためではなく何か別の理由がある……何かカードでも探していたのか……?

 

「ふむ、今回の目的は果たせました。私はこれにて失礼します」

 

 そう言うとまた恭しく一礼をし背を向け歩き出す。

 

「あぁ! そう言えば……」

「…………?」

 

 まるでその場で思い出したとでも言うようにわざとらしく立ち止まるイェーガー。顔だけ振り向くといじらしい笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「『デュエル屋』そのものは取り締まりの対象ではありませんが……違法デュエルは当然取り締まりの対象になると言うことをお忘れなきように」

「…………肝に銘じておく」

「ヒッヒッヒッ! それでは……」

 

 ポケットから取り出したハンカチがどんな手品か気球へと早変わりしそれに掴まったまま夜空に飛び立ち消えていく。

 

『マスター……』

 

 心配そうな表情でこちらを見つめるサイレント・マジシャン。

 治安維持局とはまったく厄介な組織に目を付けられたものだ。今後の活動はより慎重にすべきか……

 

「サイレント・マジシャン」

「……はい?」

「すまないがこれからはもう少し力を借りたい」

「……っ!? はいっ!!」

 

 着替えを済ませるとサイレント・マジシャンの力を借りて転移魔法でその場を離脱する。なぜかは分からないがそのときのサイレント・マジシャンはとても嬉しそうだった。

 

 ギシッ。

 日常の歯車が少し軋んだ音がする。

 八代の目に映るその日の夜空は黒さを忘れていなかった。


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