遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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『デュエル屋』と狭霧

 街路の端の並木もすっかり色が変わってしまった十一月の中頃。

 日はもうすっかり昇っているのにも関わらず肌寒く感じる。早朝などは吐いた息が白くなる程だ。

 日は既に昇っていると言った通り、枕元の目覚まし時計も既に10時3分を示していた。いつも狭霧が起こしてくる時間を大幅に過ぎた時刻である。

 

『お目覚めですか、マスター? おはようございます』

「……おはよう」

 

 俺が起床したことに気付いたサイレント・マジシャンは、ベッドの脇に姿を現し柔和な笑みを浮かべ朝の挨拶を交わす。

 その姿は服が乱れると言ったことや髪に寝癖が付いていると言ったことも無い整えられたもので、いつもと変わりない。

 治安維持局に目を付けられてからと言うもの、依頼における移動には細心の注意を払っていることもあり、サイレント・マジシャンの転移魔法に依存することが多くなっている今日この頃。あまりこちらの世界で魔法を多用するとサイレント・マジシャンは体型が『サイレント・マジシャンLV4』の状態に近づく、要するに体が幼くなるという性質があるのだが、今日はその様子は見られない。1日も経てば魔力が回復するようで体も元に戻るらしい。

 机の上を見るとそこには新着メッセージ1件の文字を示す端末があった。

 

 

 

From 雜賀

お前からの依頼とは珍しい。

確かにその内容は請け負った。

相手が相手だけに俺のできうることも限られてくるがなるべく情報を集めてみる。

情報が入り次第、また連絡を入れる。

 

 

 

 雜賀に依頼したのは、治安維持局の裏の情報調査。これは連中と再び接触したときの交渉の材料となる手札を集めるためだ。できればそういった事態は避けたいのだが、備えておくことには越したことは無い。

 

『狭霧さんならまだ……』

「あぁ……そうだろうな」

 

 今日は日曜日。

 そして珍しく狭霧に何の仕事も無く、俺も特に依頼も無いという1ヶ月に1度あるかどうかと言った滅多に無い日だった。こう言った日は日頃の疲れを取るため狭霧は翌日の朝もぐっすり眠るのだ。そのため今日は早朝のモーニングコールは無い。今もぐっすり寝ているのだろう。

 とは言え、そうなると当然朝食が用意されているなんてことがあるはずも無いので、必然的に朝食は自分で用意することになる。

 特に出かける予定もないので寝巻のまま部屋を出ると、洗面所で軽く顔を洗い意識を完全に覚醒させる。

 狭霧の寝室の前を通ると案の定寝ているようで、耳を立てれば寝息が聞こえてくる。起こしても悪いので気配を殺し足早にキッチンに向かう。

 そこそこ良いマンションなのかダイニングキッチンも新しいもので調理器具も必要なものは一通り揃っている。冷蔵庫の中身を確認すると昨日炊いた米に残っている鮭の切り身、漬け物があり、コンロには作り置きされた味噌汁の入った鍋がある。それらを温めて後は目玉焼きでも作れば朝の和食としては申し分ないだろう。

 早速作り始めようかと思ったが時間を確認するとまだ10時半にもなっていない。朝食を作ると言ってもほとんどは温めるだけで、作るのに10分程度しかかからないはずだ。この程度のことなら1人分も2人分も然して変わらない労力で作れる。あと10分で起こすのも悪いし作り始めるのはもう少し後にした方が良いだろう。

 

『部屋に戻って何をするんですか?』

「特にやることも無いし、新しいデッキの型でも作ろうと思う」

『それは………………どっちですか?』

 

 サイレント・マジシャンが尋ねる“どっち”と言う言葉の意味は“日常用のデッキ”なのか“依頼用のデッキ”なのかと言う意味だ。“日常用のデッキ”と“依頼用のデッキ”で明確に分けていることは主軸となるモンスターである。共に魔法使い族を中心にしたデッキであることには変わりはないのだが、“日常用のデッキ”ではサイレント・マジシャンが、“依頼用のデッキ”ではシンクロモンスターが主軸となっている。そこを分けているのは“八代”と言う“デュエリスト”と“死神の魔導師”と呼ばれる“デュエル屋”を決定的に結びつけるものを無くすため。デッキを支える下級モンスターや魔法、罠が被ることは魔法使い族を中心のデッキなら割とあり得ることだが、核となるモンスターまで被ってしまえばその繋がりは否応無く疑われてしまう。

 話が逸れた。

 何か落ち着かないような表情を浮かべ答えを待つサイレント・マジシャン。精霊化していることも相まって、その姿は吹けば消えてしまうロウソクを想起させる。何がそうさせるのかはよくわからないが答えは決まっていた。

 

「“日常用のデッキ”だ」

『そうですか』

 

 返事の声のボリュームはいつも通り。

 ただその表情は一転、喜色に満ちた良い笑顔に変わる。直視すると眩しいと感じる程だ。

 今は10時半ぐらいで狭霧を起こすのは11時半頃で良いからちょうど1時間ぐらいか。それまでに新しい型がいくつできるか……できれば2つ、最低でも1つは作りたいところだ。

 

『頑張ります……!』

 

 何をだ。

 両手を胸の前で握りしめ意気込みを漏らす精霊を相手に、咄嗟に口から出かかった言葉をグッと飲み込む。謎のやる気を出しているサイレント・マジシャンを不思議に思いながら部屋に戻った。

 

 

 

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————

 

 仄かに感じる甘い香りが鼻腔に広がる。

 普段生活しているから気が付かないだけで、このマンションの一室全体にもこの香りが広がっているのかもしれないが、この部屋は特別この香りが強いのだろう。

 ここは狭霧の寝室。

 目の前のベッドでは布団をかけた狭霧がスヤスヤと眠りについている。冬間近と言うこともあって、掛け布団がめくれ上がって……と言うようなお約束の展開が起きることも無く、その体は掛け布団の中にキチンと収まっている。

 この部屋に来たのは無論起こす時が来たからである。

 デッキはとりあえず新たに1つの型が完成し、もう1つも方向性は決まったのでもう少し枚数の比率を煮詰めれば出来そうだ。デッキ構築の際、サイレント・マジシャンの機嫌がやたら良さそうだったのは気のせいではないと思う。別段話しかけたわけでも無く、ただ無心に俺はデッキ構築をしていただけなんだが……人がデッキ構築をしている様子なんて見て面白いのだろうか?

 

「ん……ゃ…………ん……」

 

 狭霧が寝返りをうつ。

 どうやら余程疲れているようだ。普段なら部屋に入った段階で起きることもあるのだが。このままこの部屋に突っ立っていても起きることは無いと判断した俺は声をかけることにする。

 

「狭霧さん」

「……ぁ…………すぅ…………」

 

 返事は無い。聞こえてくるのは一定の間隔の気持ちの良さそうな寝息、そして上手く聴き取れない寝言のようなものだけだ。

 普段の仕事前のキリッとした引き締まった表情も今ではすっかり弛み、無防備な寝顔を晒している。良い夢を見ているのか口元はだらしなく緩んでいる。

 声をかけてでも起きないとなると正直気は進まないが、揺すって起こすよりほかは無い。

 

「狭霧さん、起きて下さい」

「…………ん…………んん……」

 

 声をかけながら肩を揺する。流石にそこまですれば意識は覚醒へと促されたようで、手で目を擦りながらぼんやり目が開いているのが見て取れる。

 うっすら開けた瞳に自分の姿が映るのが分かる。

 

「もう11時半ですよ。朝食の準備はもうできてますから」

「…………んぇ?」

 

 狭霧の口から間の抜けた声が漏れる。そして半開きだった目が徐々に大きく見開かれていく。

 

「狭霧さん……?」

「きゃぁああ!!」

 

 直後、悲鳴をあげながら上体を起こし布団を抱き寄せた。

 目があったときにも微睡んだ意識で焦点が合っていなかったのか、まるで突然目の前に俺が現れたかのような驚きようだ。

 布団を抱き寄せるときに一瞬見えた青のギンガムチェック柄のパジャマ。露出の少ない長袖のシャツ型のパジャマとは言え、他人に見られるのはやはり恥ずかしいのだろうか、頬が若干赤くなっている。

 

「…………朝食はもうできてますから冷めないうちに……じゃあ」

「………………」

 

 それだけ言い残すとそそくさと部屋を後にする。

 そうして俺が部屋を出てから数分後、狭霧はリビングに姿を表した。

 

「おはよう」

「――っ! ……おはようございます」

 

 リビングに来た狭霧は、パジャマのままだった。

 上下同じ柄の長袖で上のボタンは首元までしっかり閉じてあるため肌の露出はほとんどない。ただ肌の露出がいくら無かろうと1枚だけの生地で体のラインまで無くせるはずも無く、女性らしい部位がしっかり主張してくる。

 本人はそんなこと気にする素振りはおくびにも出さず、朝食に並ぶ品々を見て満足そうに笑っている。パジャマ姿を見られて恥ずかしかったのではないのか、と訝しんだがどうやらそれは思い違いだったのかもしれない。

 

『……………………はぁ……』

 

 珍しい、サイレント・マジシャンは小さくため息をついた。

 自分の服が気に入らないのか自分の服の胸元を引っ張って見下ろした後、狭霧のパジャマを見てまた小さくため息をつく。

 

「それじゃあ頂こうかしら」

 

 狭霧の一言でようやく食卓に着く。幸い作ってから時間がまだそんなに経ってなかったので、並ぶ品からまだ湯気は立ち上っている。

 

「いただきます」

「……いただきます」

 

 味噌汁を啜る。美味い。

 体が内側から暖まるのを感じる。

 毎度思うことだが、やはり狭霧は料理が上手である。

 

「学校は楽しい?」

「……普通です」

「そう…………」

 

 こう言ったゆっくり一緒に朝食が摂れるときのお決まりのやり取り。質問の内容も返答の中身も何も変わらない。そのはずなのに。

 

「ふふっ」

 

 今日の狭霧は嬉しそうに笑うのだった。

 いつも通りのやり取りのはずなのに、どうして狭霧が笑うのか?

 ふと、そんな疑問が湧き立つ。

 いつも違う狭霧の反応がそうさせたのか、俺もまた気が付けば問いを投げかけていた。

 

「どうかしましたか?」

『―――っ!?』

「―――っ!?……いや、ただ八代君が元に戻ったって思ってね」

「元に……戻った…?」

「あれ? 自覚無かったの? ここ3ヶ月ぐらい話しかけても、なんだか上の空だったのよ?」

「……………………」

 

 ここ3ヶ月ぐらい、と言うと十六夜とデュエルをして倒れてからと言うことになる。そう言えばつい最近、担任からもそんなことを言われたような気もする。

 “心当たりないです”と思ったことを述べると“そう”と返事をしてまた嬉しそうに微笑む狭霧。

 

「なんだか今日は嬉しそうですね」

『―――っ!』

「―――っ! ……そ、それはそうよ。だって今日、初めてあなたから話してくれたじゃない?」

「……? ……いえ、狭霧さんとは話したことはありますよ?」

「そうじゃなくて、私と暮らすようになってから初めて話しかけてくれたじゃない。さっき、“どうかしましたか?”って」

「………………」

 

 気付かなかった。

 意識したことが無かったから指摘されて初めて気が付いた。確かに俺から人に話しかけるなんてことは今まで無かったかもしれない。いや、無かったのだろう。だけど今話しかけたことが何か特別な意味があるわけでもない。たまたま気になったことを聞いた、それだけのことだ。

 

「それに“なんだか今日は嬉しそうですね”なんて、私のことに気付いて何か言ってくれることも初めてのことよ? ふふっ、彼女でもできたのかしら?」

「無いですよ」

「そうなの? じゃあ最近何か良いことでもあったとか?」

「……良いこと…………」

 

 最近あったことと言えばデーモンの使い手と久々に本気のデュエルをしたことぐらいか。あのデュエルは今でも鮮明に思い出せる。緊張感に包まれたあんなデュエルは十六夜とのデュエル以来だった。だが果たしてそれが良いことに部類されるかは自分でもよくわからない。

 俺の沈黙をどう受け取ったのかは分からないが、狭霧は優しい笑顔をこちらに向けている。ぼんやり思考の海に潜っていたところ、狭霧の何かを思いついたかのように声をかけられたことによって現実に意識を戻される。

 

「ねぇ、八代君。今日は空いてるの?」

「……はい、一応空いてますが」

「そう」

『………………?』

 

 怪しい。怪し過ぎるぐらいに良い笑顔だ。

 大体こう言ったときの狭霧は何か良からぬことを企んでいるのだ。

 そしてあの圧のある笑みの前には抗うこともままならず、その要求を呑まざるを得なくなるのだ。

 

 ゴクリッ

 

 一体どんな要求が来るのか。

 思わず生唾を飲み込む。

 全神経が研ぎすまされ時計の針が刻むカチッカチッという音すらはっきりと聞こえてくる。俺の視線は狭霧がこれから言葉を発するであろう口元に集中する。

 そして、そのときは来た。

 狭霧の口が開かれる。

 

「じゃあ今日は私とデートしましょ?」

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」

 

 カチッ

 

 その瞬間、俺の中の時が止まった。

 

 

 

—————————

——————

————

 

「それじゃあ、準備は良い?」

 

 声をかける狭霧。その服は普段の仕事に着ていく服ではなく私服だ。

 ブラウス生地のブルーのトップスに黒の少しゆるめのパンツ、靴は青のパンプス。新鮮に感じるのは私服を初めて見るからだろう。

 

「はい、いつでも大丈夫ですよ」

『……………………』

 

 先程のミスを引きずっているのか、サイレント・マジシャンはどこか落込んでいるような、それでいて機嫌が悪そうなと言った状態で俺の背後に居る。

 来る前の狭霧のデート宣言になぜか俺以上に驚いたようで、その場で足をもつらせてテーブルに向かって倒れてしまったのだ。その時は精霊状態だったから良かったのだが、テーブルの下で踞ってから立ち上がる拍子に実体化してしまうというらしくないミスをしでかし、結果テーブルに頭を強打し危うく狭霧にサイレント・マジシャンの存在がバレてしまうところだった。なんとか誤摩化せたから良かったものの、一時はどうなるかとヒヤヒヤしたものだ。

 

「それにしてもデートなんて言うんで驚きましたが、これってただデュエルするだけのことですよね?」

 

 目の前でデュエルディスクを構える狭霧に問いを投げる。

 デートと言って家を出た後、狭霧に言われるがままに着いて行ったら、なぜか職場である治安維持局に連れて行かれ、職員専用のデュエル場にたどり着いたのだ。いったい狭霧が何を考えているのかイマイチ読めない。

 

「あら? 異性と2人っきりで出かけているんだからこれもデートよ? それとも私ともっとデートっぽいことしたかった?」

 

 俺の気を知ってか知らずか小悪魔のような笑みをこちらに向ける狭霧。大人の余裕を感じさせるその微笑みにいったいどれだけの男が虜になったのだろうか。

 

「……いえ、そういうわけでは……」

 

 デート経験と呼べるようなものが無いのに、そんなこといったい何をしたら良いのか分からない。デート聞いた時はそう思っていたが、今のこの状況はこちらとしてもやりやすくてありがたい。

 幸い日曜で職場に出てくる人も少なく、このデュエル場にギャラリーが集まって衆目に晒されるなどと言う心配は無い。

 

「それじゃあ始めましょうか」

「はい」

 

 先程の笑顔は消え表情は引き締まったものとなる。その表情はデュエリストのそれであった。

 そう、それでいい。

 デュエルをする以上こちらとしてもハナから手を抜く気なんぞサラサラ無い。いかなる状況においても全力で勝利を奪いに行く。それが俺のデュエルだ。

 

「デュエル!」

「デュエル」

 

 今朝、構築が完了したデッキからカードを5枚引く。うむ、初手としては申し分ないバランスのとれた手札だ。

 

「私の先攻ね。ドロー!」

 

 先攻の方が良かったが後攻でも問題ない。

 狭霧とデュエルをするのは今日が初めてだからデッキの内容は不明。表情を見るに狭霧も悪くない手札のようだ。初手だけでデッキの内容が分かるかは定かではないが、じっくり様子を見させてもらおう。

 

「まずは『光の援軍』を発動! デッキの上からカードを3枚墓地に送ってデッキからレベル4以下の“ライトロード”と名のつくモンスターを手札に加える。この効果で私は『ライトロード・サモナー ルミナス』を手札に加えるわ」

 

 『光の援軍』で『ライトロード・サモナー ルミナス』をサーチか。これは“ライトロード”デッキの可能性が濃厚か。どういった型の“ライトロード”かは分からないが、“ライトロード”の時点でその辺の依頼で戦うデュエリストよりはよっぽど強いだろう。こりゃ近くにとんだ伏兵が居たものだ。

 

「そして『ライトロード・サモナー ルミナス』を召喚」

 

 狭霧の前に現れる金髪で褐色の少女。髪はショートで整えられ、衣装は白に統一された胸に巻いた晒しに腰に巻いたパレオとシンプルなもの。シンプル故にへそ周りや肩から腕、そして脹ら脛などを大胆に晒すことになっている。

 

 

ライトロード・サモナー ルミナス

ATK1000  DEF1000

 

 

 そのまま召喚してきたと言うことは『光の援軍』で肥やした墓地、あるいは手札に既に有用な“ライトロード”の下級モンスターが居ると言うことだろう。初手に『光の援軍』を持っている時点で“ライトロード”としてはかなり理想的な流れだ。

 

「『ライトロード・サモナー ルミナス』の効果発動。手札を1枚捨て墓地のレベル4以下の“ライトロード”と名のつくモンスターを特殊召喚する。私は『ライトロード・ウォリアー ガロス』を特殊召喚!」

 

 ルミナスの効果で墓地から現れたのは純白と金で彩られた鎧を纏った青髪の戦士。鎧の隙間から見える腹筋は見事に6つに割れていることからも、その肉体は鍛え上げられていることが伺える。得物は余程手に馴染んでいるらしく手に持った身の丈程の戟を軽々振り回してみせる。

 

 

ライトロード・ウォリアー ガロス

ATK1850  DEF1300

 

 

 ルミナスの効果でガロスを並べる。『光の援軍』といい“ライトロード”の初動として最高の形の流れだ。先攻の相手の行動を唯一妨害できる『エフェクト・ヴェーラー』を初手で引けなかったことが悔やまれる。

 

「私はこれでターンエンドよ。そしてエンドフェイズ時、『ライトロード・サモナー ルミナス』の効果により私のデッキの上から3枚カードを墓地に送る。さらに『ライトロード・ウォリアー ガロス』も効果発動よ。“ライトロード”と名のつくカードによってデッキからカードが墓地に送られる度にデッキの上から2枚カードを墓地に送る。そしてこの効果で墓地に送られた“ライトロード”と名のつくモンスター1枚につき、デッキからカードを1枚ドローする。やったわ! この効果で墓地に送られたのはうちの1枚は『ライトロード・モンク エイリン』! よってさらにカードを1枚ドロー!」

 

 ガロスの効果で手札が増えたことに子どものように顔を綻ばせる狭霧。1ターン目で9枚も墓地を肥やした上、見事にガロスのドロー効果で手札を増やしてくるとは……やるじゃないか。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 残念ながらこちらの手札は立ちふさがるこの2体のモンスターを同時に処理できる程ではない。だが相手が墓地に依存するデッキ、まして“ライトロード”ならこのカードが容赦無く突き刺さる。

 

「俺は『霊滅術師カイクウ』を召喚」

 

 どこからともなく歩いてきたのは藤色の衣に鶯色の五条袈裟を身につけた坊主。小豆色の数珠を持ったその姿は一見普通の坊主に見える。だが人体模型のむき出しになった筋繊維のような色の仮面で右半面を覆う坊主を、はたして普通の坊主といえるだろうか。

 

 

霊滅術師カイクウ

ATK1800  DEF700

 

 

 ガロスの打点に及ばないのがこの状況ではネックだが、それでも初ターンの大幅なアドバンテージを削り取ることが出来るはず。

 この状況で懸念すべきは狭霧の手札に『オネスト』があること。だが、それを警戒するあまり何もしないと言うのは愚の骨頂。ここは腹を括って攻めるしか無い。

 

「バトル。『霊滅術師カイクウ』で『ライトロード・サモナー ルミナス』を攻撃」

「うっ……」

 

 カイクウがお経を唱え始めると頭を抱え苦しみ始めるルミナス。狭霧の手札から『オネスト』を発動するような気配は見られない。

 

 

狭霧LP4000→3200

 

 

「『霊滅術師カイクウ』が相手に戦闘ダメージを与えた時効果発動。相手の墓地に存在するモンスターを2体まで除外できる」

 

 さて、目論見通りカイクウの効果を使用することができた。

 狭霧の墓地は現在、『ライトロード・ハンター ライコウ』、『ライトロード・モンク エイリン』、『カオス・ソーサラー』、『邪帝ガイウス』、『ソーラー・エクスチェンジ』、『光の援軍』、『奈落の落とし穴』、『トラップ・スタン』、『神の警告』の9枚。

 墓地の様子を見る限り狭霧のデッキは“ライトロード”に闇属性モンスターを混ぜた“カオスロード”と言ったところか。既に“ライトロード”のモンスターが3種類も落ちているとは恐ろしい。4種類揃えば“ライトロード”の強力な切り札の召喚条件がクリアされてしまう。ここは賢明に“ライトロード”の種類を削らせてもらおう。

 

「墓地の『ライトロード・モンク エイリン』、『ライトロード・ハンター ライコウ』を除外する」

 

 “喝!”、カイクウのその一声によってルミナスは爆散した。

 これで墓地の“ライトロード”は1種類。先攻での大量の墓地肥やしによるアドバンテージをなんとか削り取れた。だが相手は一時期猛威を振るった“ライトロード”。当然油断は出来ない。

 

「カードを2枚伏せてターン終了」

「私のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードが良かったのか、真剣だった表情はみるみるいつもの眩しい笑顔に変わっていく。

 

「行くわよ! マジックカード『ソーラー・エクスチェンジ』発動! 手札の“ライトロード”と名のつくモンスターを1枚捨てデッキからカードを2枚ドローして、さらにデッキの上からカードを2枚墓地に送る。私は手札の『ライトロード・ビースト ウォルフ』を捨てるわ!」

 

 1枚は墓地に落ちていたから引く確率は減ったと思ったが、こうも簡単に素引きしてくるとは……

 それに手札で腐っているウォルフをコストにしてきたと言うことは手札が事故状態から動き始めたと言うこと。こちらとしては嬉しくない展開だ。

 

「『ライトロード・ウォリアー ガロス』をリリースして『邪帝ガイウス』を召喚! このカードの召喚に成功した時の効果で私は『霊滅術師カイクウ』を除外するわ! そして除外するカードが闇属性モンスターだったとき相手に1000ポイントのダメージを与える」

 

 ギラリと光る赤い瞳、頭から伸びた顔程の長さの角、黒と紫の体表。悪魔だ。

 頭の大きさと比べ体の大きさが異常に大きく、体型としては非常に釣り合いが取れていない。闇の衣を纏って出現した『邪帝ガイウス』は、赤い爪が伸びた両手で黒のような紫のような色の禍々しい光を発する球体を生成すると、それをカイクウに向かって放つ。

 名前に“帝”を持つ上級シリーズの中でも最も強力な効果を持つとされる『邪帝ガイウス』。その効果の前ではなす術もなく、その球体の中に取り込まれたカイクウは今にもその球体の収縮と共に押し潰されそうになる。

 だが、ただこちらもやられるだけで終わる気は無い。

 

「『激流葬』発動。モンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚されたときフィールド上のすべてのモンスターを破壊する。これにより『霊滅術師カイクウ』、『邪帝ガイウス』は破壊される」

 

 フィールドに突如発生した激流。それはフィールドに居るモンスターすべてを襲い、抵抗する間も与えること無くフィールドのモンスターをすべて押し流してしまった。

 

「『激流葬』の効果で『霊滅術師カイクウ』が破壊されたことで『邪帝ガイウス』の効果対象はいなくなった。よってその効果ダメージは発生しない」

「…………カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

 流石に『邪帝ガイウス』のバーンダメージとダイレクトアタックの合計3400ポイントのダメージをそう易々受けるつもりはない。

 攻勢の芽を摘まれ先程までの勢いを失い、あからさまに落込んだ様子の狭霧。

セットカードが2枚、か。

 

「エンドフェイズ時、『サイクロン』を発動。俺から見て右側にセットされたカードを破壊する」

「―――っ!」

 

 先のターンで伏せたもう一枚のセットカードが起き上がり、そこから発生した竜巻が狭霧のセットカードを襲う。あまりの風圧に耐えきることも出来ず襲われたセットカードはめくれ上がり破壊される。

 破壊したのは『奈落の落とし穴』か。なかなか良いカードを破壊できた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 先程の『サイクロン』で『奈落の落とし穴』を破壊できたのは良かった。だがまだ狭霧にはセットカードが1枚残っている。召喚反応型の罠じゃないことを願うしかないな。

 

「『魔導戦士ブレイカー』を召喚」

「………………」

 

 なるほど、この召喚に反応してこないと言うことは召喚反応の罠ではないようだ。後は警戒すべきなのは速攻魔法、或はフリーチェーンの罠。

 だが、あのセットカードは恐らくそのどちらでもないだろう、狭霧の顔にそう書いてある。

 

「このカードの召喚成功時、自身に魔力カウンターを1つ乗せる。そして自身に乗った魔力カウンター1つにつき攻撃力を300ポイント上昇させる」

「……………」

 

 

魔導戦士ブレイカー

魔力カウンター 0→1

ATK1600→1900

 

 

 魔力球を剣で吸収した『魔導戦士ブレイカー』から上昇した魔力がオーラとなって吹き出される。

 このタイミングでもあのセットカードは発動しないか。一応攻撃反応の罠の可能性もある以上、『魔導戦士ブレイカー』の効果で当然あのセットカードは破壊する。そのときに速攻魔法かフリーチェーンの罠か、そのどれでも無いかが判明する。

 

「『魔導戦士ブレイカー』の効果発動。自身に乗った魔力カウンターを1つ取り除くことで場の魔法・トラップカードを1枚破壊する。これで残りのセットカードも破壊」

 

 

魔導戦士ブレイカー

魔力カウンター 1→0

ATK1900→1600

 

 

 気合いの籠った掛け声と共に振り下ろされた剣撃は魔力を乗せた飛ぶ斬撃となり未だに分からないセットカードを切り裂く。

 

『トラップ・スタン』

 

 このターン、このカード以外のフィールドの罠カードの効果を無効化するフリーチェーンの罠カード。

 なるほど、強力なモンスター効果を持つ“ライトロード”を妨害する罠を防ぐためか。なかなか渋いカードをチョイスしたものだ。

 

「『魔導戦士ブレイカー』に『ワンダー・ワンド』を装備。これにより攻撃力を500ポイント上昇させる」

 

 

魔導戦士ブレイカー

ATK1600→2100

 

 

 『ワンダー・ワンド』の装備によって、持っていた剣が緑の宝玉が埋め込まれた短い杖に変化する。

 狭霧の手札は3枚、場にカードは無い。よってこの『魔導戦士ブレイカー』の攻撃を妨害する可能性があるとすれば、この前の“デーモン”使いのような手札からのモンスター効果、もしくは“ライトロード”デッキと非常に相性のいい墓地で起動する効果を持つ『ネクロ・ガードナー』など。

 だがこの攻撃でそれらを使ってくれるなら、むしろこちらとしては好都合。こんな攻撃で今後の妨害札を1つ減らせるなら安いものだ。

 

「バトルフェイズ、『魔導戦士ブレイカー』でダイレクトアタック」

 

 『ワンダー・ワンド』を振りかぶると先端の宝玉に光が集まり、振り下ろすと同時に放出される緑色の光線。

 

「きゃっ!」

 

 攻撃を受け短い悲鳴をあげる狭霧。ソリッドビジョンの映像とは言え、やはり慣れていないと眼前に迫る光線と言うのは恐怖を感じるのは無理もないことだ。

 

 

狭霧LP3200→1100

 

 

 その辺の火力が出ないデッキが相手だったら、『ワンダー・ワンド』を装備した状態で『魔導戦士ブレイカー』を残しておくと言う選択肢もある。だが相手は“ライトロード”デッキ。次のターン手札が4枚になれば『魔導戦士ブレイカー』はまず容易く処理されてしまうだろう。ならば……

 

「『ワンダー・ワンド』のもう1つの効果発動。このカードと装備対象のモンスターを墓地に送りカードを2枚ドローする」

 

 墓地に沈む『魔導戦士ブレイカー』を見届けながらカードを新たに2枚引く。

 これで手札は5枚。良い引きをして良い流れができている。

 

「カードを1枚伏せてターン終了」

「私のターン、ドロー! マジックカード『闇の誘惑』発動! カードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスターを1枚除外する。私は『ネクロ・ガードナー』を除外するわ」

 

 闇属性を多く採用しているからこそデッキに入れられる『闇の誘惑』。『ネクロ・ガードナー』を除外しているところを見ると、他に闇属性モンスターが無いか、それとも他に『ネクロ・ガードナー』を除外してまで手札に残しておきたい闇属性モンスターがいるかのどちらかだろう。前者であって欲しいところだが、こう言った場合相手に良い方向に事が進んでいることが多い。

 

「さらに『ソーラー・エクスチェンジ』を発動。手札から『ライトロード・マジシャン ライラ』を捨て2枚ドローし、デッキの上から2枚カードを墓地に送るわ」

 

 『闇の誘惑』で最後の『ソーラー・エクスチェンジ』を引き込んだか。これで墓地のライトロードは3種類は確実。はたしてこの1枚のセットカードで凌ぎきれるかどうか、雲行きが怪しくなってきたな。

 

「『おろかな埋葬』を発動。私はデッキから『ライトロード・ビースト ウォルフ』を墓地に送るわ。そして墓地に送られた『ライトロード・ビースト ウォルフ』の効果発動」

「ならばここで手札から『増殖するG』を墓地に送って効果発動。このターン相手がモンスターを特殊召喚する度にデッキからカードを1枚ドローする」

「増殖する…………G? まさかね……『ライトロード・ビースト ウォルフ』はデッキから墓地に送られたとき、自身を墓地から特殊召喚する!」

『……………………』

 

 墓地より現れたのは白い狼男。肩と下半身を白と金の鎧で覆い、右手には鍵爪、左手にはトライデントを持ち武装している。むき出しになっている胸部や腹部は分厚い筋肉に覆われており、片手で人一人分程の長さのトライデントを軽々振り回せることも納得できる。

 

 

ライトロード・ビースト ウォルフ

ATK2100  DEF300

 

 

 どうやら狭霧はこのカードを知らないようだ。俺の傍らでいつもデュエルを見てきたサイレント・マジシャンは、これから起こることを予期しているようでその場から一歩後退る。

 

 カサカサッ

 

 そして、それは現れた。

 ウォルフの足下。そこを蠢く黒い影。

 

「………………?」

 

 狭霧は気付いた。視界の端で動くものに。

 そしてそれを確認しようと反射的に視線を落とす。

 直後、それは飛翔した。

 一匹、二匹などの数ではない。十、いや数十匹もの大群が一斉に飛び出してきた。

 

「ひっ! ご、ゴキ○リっ!!」

 

 Gの突然の出現で悲鳴を上げ後ろに倒れ込む狭霧。尻餅をつくのも無理は無い。一匹でさえ突然現れれば人間を恐怖に突き落とすには十分過ぎる威力があるのだ。ましてこの数を初見で見れば当然の反応だろう。

 飛び出したGは俺、いや俺のデュエルディスクを目掛けて飛んでくる。デュエルディスクを盾のように前に突き出すとそこに吸い込まれ消えて行く。

 

「…………『ライトロード・ビースト ウォルフ』の特殊召喚成功により俺はカードを1枚ドロー」

『………………』

 

 狭霧はなんとか立ち上がったものの、未だにショッキングな光景を目の当たりにしたせいでよろよろしている。

 いつの間にか俺の背後に回っていたサイレント・マジシャンは、俺の背中からゆっくりと顔だけを出してGが消えたことを確認すると安堵し、また俺の横に並ぶ。怖いのは分かるがそろそろサイレント・マジシャンはこれに慣れても良いと思う。

 

「『ライトロード・ビースト ウォルフ』をリリースし『ライトロード・エンジェル ケルビム』をアドバンス召喚」

 

 『ライトロード・ビースト ウォルフ』の体が光の中に消え、空から白い翼に包まれた何かがゆっくり降りてくる。地面より少し高い位置でそれは停止すると、その翼は開かれた。中から現れたのは太ももまで髪を伸ばした青髪の女性。ライトロード共通の金細工が施された純白の鎧と衣装を纏っているが、その隙間から顔を覗かせる透き通るような白い肌は人の容姿でありながら人間離れしたものを感じさせる。

 

 

ライトロード・エンジェル ケルビム

ATK2300  DEF200

 

 

 『おろかな埋葬』でウォルフが出てきた時点で察しはついていたが、やはり『ライトロード・エンジェル ケルビム』のお出ましか。残り2枚の手札次第ではこのターンでゲームエンドもあり得る。無傷のライフポイント4000でも一瞬で削りきれる程の火力を持つライトロードだけに本当に油断できない。

 

「このカードが“ライトロード”と名のつくカードをリリースして召喚に成功した時、デッキの上から4枚カードを墓地に送って効果を発動。相手の場のカードを2枚まで選択して破壊する。八代君の場にある1枚のセットカードを破壊よ」

 

 鈴の音が響く。

 それはケルビムの持つ杖からだった。先端に大きな円盤が付いておりそこから青い円筒がいくつもついている。その青い円筒が左右に揺れる度に鈴の音が響く。

 ゆっくりとケルビムはそれを上に翳すと円盤の中央が青い光を放ち始め、その光が俺のセットカードを破壊せんと放射される。だが、俺が伏せたのは……

 

「トラップカード『奈落の落とし穴』発動。攻撃力1500以上のモンスターが召喚、反転召喚、特殊召喚された時、そのモンスターを除外する」

 

 発動宣言と同時に『ライトロード・エンジェル ケルビム』の足下が罅割れ、次元の狭間に通じる落とし穴が出現する。翼で羽ばたたかせ抵抗を試みるも穴の吸引力の前ではなす術もなく、穴に引きずり込まれ目の前から消え行く。

 

「くっ……まだよ! 私は墓地の闇属性モンスター『邪帝ガイウス』と光属性モンスター『ライトロード・ビースト ウォルフ』を除外して『カオス・ソーサラー』を特殊召喚するわ!」

 

 

カオス・ソーサラー

ATK2300  DEF2000

 

 

「相手が特殊召喚に成功したことで『増殖するG』の効果が再び発動する」

「あっ……!」

『…………っ!!』

 

 『増殖するG』の効果を忘れていたのか間の抜けた声を出す狭霧。

 だが後悔してももう遅い。場に現れた『カオス・ソーサラー』の足下から大量のGが飛び出す。

 

「…………カードを1枚ドロー」

 

 手で目の前の光景を見まいとガードすることで狭霧はなんとか2回目のGの出現をやり過ごしたようだ。

 ……………………サイレント・マジシャン、お前もそうすれば良いんじゃないか? いちいち俺の背後に隠れるなんてことしないで。そしてさりげなく手だけ実体化して俺の服を摘むのは止めて欲しい、動きづらい。

 

「……Gは消えたぞ」

 

 俺の背中から出てこないサイレント・マジシャンにしびれを切らし、サイレント・マジシャンにだけ聞こえる小声でそっと呟く。

 

『えっ? ……あっ、はい。……っ! …………すいませんでした……』

 

 サイレント・マジシャンはGの存在が無くなっていることに気付くと安堵した返事をし、そして自分が俺の服を摘んでいる状況に気が付いたのか蚊の鳴くような声で謝ると、その手を離した。

 別に気にしてはいないので“んっ”とだけ返事をすると、再びデュエルに集中する。これで狭霧の手札は1枚。召喚権を使っているとは言え、残りの手札が攻撃力1700以上のこの状況で特殊召喚できるモンスターだった場合、次の『増殖するG』でのドローにすべてが掛かってくる。そうなるとこちらとしては非常に厳しいものがある。だが、その心配は杞憂に終わる。

 

「ば、バトルよ! 『カオス・ソーサラー』で八代君にダイレクトアタック!」

 

 俺も使っているモンスターである『カオス・ソーサラー』。そのモンスターを相手が使ってくると言う体験は久しいものだ。迫り来る黒と白の炎の混ざった混沌の焔。防ぐ術も無くその攻撃の直撃を受けた俺のライフは大幅に削られた。

 

 

八代LP4000→1700

 

 

「やった! これで私はターン終了よ」

 

 攻撃が通ったことで諸手を上げて喜ぶ狭霧。

 まぁライフを削れれば嬉しいと言うのは分かる。だが、この『カオス・ソーサラー』の特殊召喚ははっきり言って悪手だ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 これで手札は5枚。対する狭霧の手札は1枚。

 先程のターン追撃のモンスターが出てこなかったことからあの手札は特殊召喚できるモンスターではない。セットしていないことから相手のターンで発動可能な速攻魔法や罠と言った可能性はないだろう。考えられるのは通常召喚でしか出せない下級のモンスター、または上級モンスター。それかなんらかの通常魔法。

 『カオス・ソーサラー』の特殊召喚のおかげで増えた1枚の手札。どうやらこの1枚が勝敗を分けたようだ。

 

「マジックカード『ブラック・ホール』発動。フィールド上のモンスターをすべて破壊する」

 

 上空に生じた黒い穴。

 その穴は次第に巨大なものへと変貌を遂げていく。周りにあるものを吸い込みながら。圧倒的な引力はフィールドにいるモンスターを引き込まんとその力を増していく。自然では星をも丸ごと飲み込んでしまうとも言われているブラックホールを前に抗いきれるはずも無く、『カオス・ソーサラー』はその穴に引き込まれて消えて行く。

 

「『召喚僧サモンプリースト』を召喚。このカードの召喚・反転召喚に成功した時、守備表示になる」

 

 魔方陣から現れたのは座禅を組んだ薄い青色の肌の翁。袖口が金色の紫の僧服を着て、頭には紫色をベースにし正面に白の太いラインが入った尖り帽を深く被っているため、肉体がどのようになっているのかまでは確認できない。分かるのは額の辺りに輝く赤い宝玉と同じ色の瞳、そして帽子から飛び出て地面まで伸びた銀髪だけ。

 

 

召喚僧サモンプリースト

ATK800  DEF1600

 

 

「………………」

『………………』

 

 目配せをすれば準備はできてると言うように頷いてみせるサイレント・マジシャン。

 

「『召喚僧サモンプリースト』の効果発動。手札の魔法カードを1枚捨てることでデッキからレベル4のモンスターを1体特殊召喚する。俺は『貪欲な壺』を捨て、デッキから『サイレント・マジシャンLV4』を特殊召喚」

「サイレント・マジシャン……」

 

 あのおっさんと俺がデュエルするのを何度も見てきた狭霧だからこそ、こいつの能力も強さも分かっているのだろう。厳しそうな面持ちでサイレント・マジシャンを見つめていた。

 

 

サイレント・マジシャンLV4

ATK1000  DEF1000

 

 

「『召喚僧サモンプリースト』の効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。だが、このカードがあればサイレント・マジシャンはその制約から解き放たれる。マジックカード『レベルアップ!』を発動」

「『レベルアップ!』?」

「このカードはフィールド上の”LV”を持つモンスターを墓地に送り、そのカードに記されているモンスターを、召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚効果を持つカード」

「召喚条件を無視してってことは……まさか!!」

「そう、これにより『サイレント・マジシャンLV4』を墓地に送りデッキから『サイレント・マジシャンLV8』を特殊召喚できる。『サイレント・マジシャンLV8』を特殊召喚」

 

 いつものような段階的な攻撃力の上昇を経てのレベルアップではなく、急激なレベルアップ。それは『サイレント・マジシャンLV4』が光の中に包まれることから始まった。

小柄な身長の『サイレント・マジシャンLV4』を包む光は徐々にその膨らんでいき、輝きが最高潮に達した時、閃光の中からそのレベルアップした姿を現した。

 腰まで伸びた滑らかな白髪を揺らし、ゆっくりと俺の前を浮遊する。この状態のサイレント・マジシャンはローブ越しでも女性のらしさが際立つ丸みを帯びたボディラインが見て取れ、大人の女性の体つきになっている。

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK3500  DEF1000

 

 

 そう、この今朝作ったこのデッキは魔力カウンターをサイレント・マジシャンに乗せてレベルアップを狙うことをコンセプトにしたものではなく、『レベルアップ!』を使うことでサイレント・マジシャンを素早くLV8の姿へ進化させることをコンセプトにしている。

 いきなり『サイレント・マジシャンLV8』が現れたことに驚いているのか、言葉を失った様子の狭霧。まぁ初めて見るレベルアップ型のサイレント・マジシャンデッキなのだから当然のリアクションとも言えるかもしれない。いつも時間をかけて魔力カウンターを5つ乗せて進化させているものが、いきなりレベルアップしたのだ。

 さて、狭霧の場にサイレント・マジシャンの攻撃を阻むカードは何も無い。この一撃が決まれば狭霧のライフは0になるのだが……

 

「バトルフェイズ、『サイレント・マジシャンLV8』でダイレクトアタック」

 

 サイレント・マジシャンの杖に白い魔力光が灯る。その光は時間が過ぎると共に大きさを増していき威力が増していくのが見てとれる。

 振りかぶられた杖。

 そしてそれは放たれた。

 狭霧のライフを0にする一撃が。

 

「でも、まだやられないわ! 墓地の『ネクロ・ガードナー』の効果発動! 自身を墓地から除外することでこのターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 やはりか。

 サイレント・マジシャンの一撃が防がれるのを見てそう思った。

 『霊滅術師カイクウ』の効果で墓地を確認した時から『ソーラー・エクスチェンジ』を2枚使って、さらに『ライトロード・エンジェル ケルビム』の効果まで使っているのだ。墓地に『ネクロ・ガードナー』がいてもおかしいことではない。

 

「ターンエンドだ……」

 

 攻撃は阻止された。

 だが狭霧が追いつめられていることには変わりない。ここで逆転のカードを引けなければ自分が負ける、狭霧はそう理解しているのだろう。

 意識を集中するように目を閉じデッキの上に手を添える。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 目の前に『サイレント・マジシャンLV8』がいるこの状況。狭霧がここで引かなければならないカードは決まっている。はたして狭霧はそれを引けるかどうか。

 狭霧は閉じていた目をゆっくり開き引いたカードを確認する。

 

「やったわ! マジックカード『死者転生』を発動。手札を1枚捨て墓地のモンスターカードを1枚手札に加える。私は『裁きの龍』を手札に加えるわ!」

 

 ついに来たか。

 “ライトロード”デッキ最強にして最後の切り札、『裁きの龍』。その破格の能力と圧倒的な力により一時期は環境が“ライトロード”一色に染まる程だった。

 

「墓地に存在する“ライトロード”と名のつくモンスターが4種類以上のとき『裁きの龍』は手札から特殊召喚できる。私の墓地には既に『ライトロード・サモナー ルミナス』、『ライトロード・ウォリアー ガロス』、『ライトロード・ビースト ウォルフ』、『ライトロード・マジシャン ライラ』、『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』の5種類の“ライトロード”と名のつくモンスターがいる。よって私は『裁きの龍』を特殊召喚するわ!」

「うっ…………」

 

 閃光。

 狭霧がデュエルディスクにカードをおくと共にそれはやってきた。

 あまりの眩しさに目の前を手で覆わなければならない程だ。

 やがてその光は少しずつ収まっていき光を放っていたものの姿が露わになっていく。

 白い龍の頭、長いヒゲが伸びたそれは東洋で描かれている伝承に残る龍のもの。

 白い体躯、尻尾まで獣のように短い体毛で覆われたそれは白い獅子のもの。

 白い一対の翼、巨大な体に見合った大きなそれは白き鷹のもの。

 グリフォンの頭が龍に変わった姿と言うべきか。神聖な輝きを放つ姿は触れることすら許されない圧を感じる。

 

 

裁きの龍

ATK3000  DEF2600

 

 

『……………………』

 

 そんな強力なモンスターが立ちはだかろうともサイレント・マジシャンは毅然として相手だけを見据えている。

 そして裁きの時は来た。

 

「1000ポイントライフを支払って『裁きの龍』の効果を発動! このカード以外のフィールド上のカードをすべて破壊する!」

 

 狭霧の効果発動宣言と共にそれは始まった。

 咆哮のように辺りに響く声、それはどこか唄のようにも感じられる不思議な声だった。そしてその唄の中、『裁きの龍』の姿が光に包まれていく。

 やがて体をすべて光が包み眩い光球へと姿を変えたとき、唄が止んだ。

 

裁きの威光(ジャッジメント・オーソリティ)!!」

 

 白。

 ありとあらゆるものが白に包まれていく。

 『裁きの龍』を包む光球が肥大化していくのだ。飲み込んだものをすべて破壊していくように。

 音は消えた。

 

「……か……ン……………………!!」

 

 自分の声が正しく出せているかも分からない。

 そしてその光はサイレント・マジシャン、そして俺を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……うぅ……」

 

 狭霧の声がした。

 どうやら自分のモンスターの効果で自分もフラフラになっていたらしい。

 とは言え、俺自身も人のことを言えたものではない。何時ぞやの十六夜とのデュエルのように実際のダメージは生じないものの、あの光量は体に悪い。

 だがチカチカする視界も徐々にだが元に戻ってきている。

 

『……………………』

「そんなっ! ……どうして!?」

 

 どうやら先に狭霧の視界が元に戻ったらしい。その驚く理由は分かっている。

 俺の目の前に悠然と立つサイレント・マジシャン。

 それが原因だろう。

 

「………『裁きの龍』の効果が発動したとき、俺は手札から『エフェクト・ヴェーラー』効果を発動していた。このモンスターは手札から墓地に送ることで選択したモンスターの効果をこのターンのエンドフェイズ時まで無効にする効果がある。これで俺は『裁きの龍』の効果を無効にした。だから『裁きの龍』の効果は不発に終わり、こうしてサイレント・マジシャンは生き残っている」

「そん……な……」

 

 

狭霧LP1100→100

 

 

 これで『裁きの龍』の効果を使うライフも無くなった。

 もう狭霧に残された手札は無い。このターンできるのはせいぜい……

 

「……『裁きの龍』で『召喚僧サモンプリースト』を攻撃」

 

 バトルフェイズに入って『召喚僧サモンプリースト』を戦闘破壊することぐらい。

 『裁きの龍』の口から放たれた光の柱が『召喚僧サモンプリースト』に降り注ぐ。最上級モンスターの攻撃を下級モンスターが受けきれるはずも無く、拮抗する間もなく『召喚僧サモンプリースト』は消滅した。

 

「……ターンエンドよ」

 

 攻撃のできるモンスターもいなくなり、手札も無く、場に効果を発動できるカードもない狭霧には、エンド宣言をする以外の手は残されていなかった。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 俺のドローに呼応するようにサイレント・マジシャンは体から魔力を溢れさせる。杖をゆっくりと構えるサイレント・マジシャンは次に俺が何をするのか理解しているようだった。

 

「『サイレント・マジシャンLV8』で『裁きの龍』に攻撃」

 

 杖に光が収束する。

 溢れる魔力が杖の先端に集まり魔力の塊がみるみるその大きさを増していく。

 そして今度こそ狭霧のライフを0にすべくその魔弾は放たれた、『裁きの龍』に向かって。それを阻むものは現れない。

 

 直撃。

 

 『裁きの龍』の体を勢い良く貫いた魔弾は炸裂し、狭霧のライフを削りきった。

こうして初めての狭霧とのデュエルは幕を下ろした。

 

 

狭霧LP100→0

 

 

 

—————————

——————

————

 

「うぅ……やっぱり八代君は強いわねぇ……」

 

 苦笑を漏らしながら狭霧がやってくる。その雰囲気からは負けた悔しさと言うよりは、力を出し切って満足しているような印象を受ける。

 

「まぁこれが取り柄ですから」

 

 結局未だに何で俺にデュエルを挑んできたのかは分からなかったが、“ライトロード”と言う強テーマの一角のデッキとデュエルできたのは良い刺激になった。もっとも欲を言えばもう少し強くなって欲しいと言うのが本音だが。

 

「でも私も惜しかったと思うんだけど……なんで勝てなかったのかしら?」

「まず……心構えですかね……というか勝つ気だったんですか?」

「当たり前じゃない。いくらデュエルが本業じゃないとは言え、負ける気でデュエルなんてしないわよ」

「……なるほど」

 

 この勝ち気な一面はデュエリストに向いているのだろう。いや、デュエリストだけでなく普段の職業でもこういった男勝りな部分があることがプラスに働いているのだろう。

 

「それで……その心構えって?」

「勝つためには相手のライフを削ることが目的じゃない。相手のライフを0にするのが目的だということ」

「そんなことは……」

「それと。手札が増えれば反撃の可能性を増やせる、それは自分だけではなく相手も」

「…………自分だけでなく相手も……」

 

 狭霧は俺の言ったことを反芻し考えに耽っているようだ。沈黙が続く。

 

「……今言った二つの意味を正しく理解すれば、少しは強くなれますよ」

「……………………うん、わかった。考えてみるわ」

「デッキの力はあると思います。あとはそれに見合うデュエリストとしての腕を磨くだけです」

「………それって暗に私のこと弱いって言ってるわよね?」

 

 ジト目でこっちを睨みつける狭霧。

 だが、そこにはこのやり取りをどこか楽しんでいるような雰囲気を感じる。

 

「えぇ、狭霧さんは弱いですよ。腕はまだまだ未熟だと思います」

「……うっ……ハッキリ言うわね」

「……優しく言った方が良かったですか?」

「ふふっ、むしろハッキリ言って貰えて良かったわ」

「そうですか」

 

 微笑みを向ける狭霧から思わず顔を背ける。余裕を感じさせるこの笑顔はやはり大人の余裕と言うものなのだろうか。

 そんなことを思いながら狭霧を横目に見れば、優しい慈愛に満ちた笑みをこちらに向けていた。その理由は分からない。ただその表情はとても眩しくて、ちょっぴり悔しかった。

 

「―――っ!」

 

 それは突然だった。

 何かに気が付いたように狭霧の表情が変化する。

 目線は俺の背後に固定されぶれることは無い。

 その顔は何か信じられないものを見つけたかのように目を見開き驚いているようだった。

 狭霧が視線の先のものを口にするのと、狭霧の視線の先のものを見ようと振り返ったのは同時だった。

 

「アトラス様っ?!」

「っ!!」

 

 金髪で長身。表は白、裏地は青に近い紫のロングコートを羽織ったその姿はテレビや広告などで見かけるものと一致する。今や世界中でその名を知らぬものはいないネオドミノシティのライディングデュエルの頂点に君臨するキング、ジャック・アトラス。今までの数々のデュエルは人々を魅了し、ファンも後を絶たない。

 そんな超大物有名人が目の前にいるのだから流石に俺も驚いた。

 狭霧が秘書をやっている関係上、狭霧に用があるのかと思ったが、狭霧のことは眼中に無いようでその視線は俺に注がれていた。

 

「……貴様、名は?」

 

 デュエル場の入り口からこちらに歩を進めながら問いを投げかけられる。その態度はキングと言う立場故なのか、初対面であるにも関わらず不遜な態度であった。

 

「……八代だ」

「八代……か」

 

 俺の名前を聞くと俺を値踏みするように見つめるジャック・アトラス。相手の意図を読むため思考を巡らそうとした時、再びジャック・アトラスの口が開かれた。

 

「これはキングたるこの俺を興じさせたほんの礼だ。受け取れ」

 

 そう言うと懐から取り出した1枚のカードを投げて寄越す。投げられたカードは真っすぐ手元まで飛んできた。

 興じさせたと言う口ぶりからするにこのデュエルを見ていたのか?

 

「――っ!?」

「……………………?」

『……………………?』

 

 これは! ………………なるほど、そういうことか。

 手元に飛んできたカードからその真意を一瞬で看破する。

 ならばこちらも応えなければなるまい。手持ちのカードケースを漁ると目的のカードを見つける。

 サイレント・マジシャンと狭霧は何がなんだか分からないようで、状況にただただ取り残されていた。

 カードを渡したジャック・アトラスは用が済んだとばかりに踵を返し、入り口の扉に戻っていく。

 

「ジャック・アトラス!」

「………………?」

「一方的にカードを受け取るのは性に合わない。俺からもカードを受け取れ」

 

 そう言って先程見つけたカードを投げ渡す。先程よりも長い距離であったが、カードは一直線にジャック・アトラスの胸元目掛けて飛んでいった。

 そのカードを確認すると、何も言うこと無くその場を立ち去った。

 

『マスター。何を受け取ったのですか?』

「大したものじゃない」

『…………?』

 

 不思議そうに首を傾げるサイレント・マジシャン。

 

「キングからの決闘の申し込みだ」

 

 俺の手には先程受け取ったカード、『王者の看破』。そして、時間ととある場所が書いた紙があった。

 

 

 

—————————

——————

————

 

「それでは定期報告を聞きましょう」

「はっ、それでは……」

 

 とある一室でのやり取り。

 デスクの前に腰掛ける男とその前で報告を始める小男。

 その小男はピエロを思わせるメイクを施した胡散臭い雰囲気の男、イェーガー。ただこの場においては普段の人を小馬鹿にした笑みを浮かべることも無く真剣な様子だった。

 その報告を聞くのは灰色の髪を伸ばした男。薄い青のスーツの下からは鳥の地上絵のようなイラストが描かれた水色のシャツが見える。服の張り具合からガタイの良さが伺える。

 

「……今回の定期報告の内容は以上です」

「そうですか……『死神の魔導師』の当ても外れましたか……最有力候補と思われた『暴虐の竜王』の足取りも依然掴めていない……」

「それらしいデュエリストは見つかっておりません」

「…………わかりました。定期報告ご苦労様です。フォーチュンカップまで1年半も無くなりましたが、引き続き調査をお願いします。」

「はっ!」

 

 

 

 ウィーン

 

 

 

 まるで報告会が終わるのを見計らったかのような絶妙なタイミングで自動ドアが開く。自動ドアと言ってもこの扉を抜けられるのは階級が高いなどの選ばれた人間だけ。今ここに入ってきたのは……

 

「おやおや、これはキング。どちらへ行かれていたのですか?」

「ふん、休日俺がどこへ出歩こうとそれを教える義務は無い」

 

 先程の真剣だった雰囲気は一転、いつもの人を食ったような態度で問いかけるイェーガーに対して、つっけんどんで取りつく島も無いような返事をするジャック。

 ジャックはこの部屋の主は俺だと言わんばかりにズカズカと部屋に入ると、ドッカリとソファーに腰を下ろした。

 

「ひっひっ、それは失礼致しました。それにしても何やらご機嫌が良さそうなようで」

「さてな……」

「………………?」

 

 普段ならまた冷淡な返事を飛ばすところだと言うのにそれが無い。ジャックの様子を不審に思うイェーガー。ジャックが見つめる手元に目をやると、何やらカードを見ているようだった。

 

『下克上の首飾り』

 

 何の変哲も無いただのノーマルカード。

 ただそのカードを見つめるキングは不敵な笑みを浮かべるのだった。


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