遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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『デュエル屋』とキング 前編

「八代、お前なんだか今日は嬉しそうだな。何かあったか?」

 

 担任の教師から突然そんな話を振られる。

 

「……いえ……特には」

 

『………………』

 

 担任から今まででそんな話を振られた事が無かっただけに内心驚いた。狭霧にもそんな話題を振られた事があったなと思い出したが、あれから何かあったかと聞かれてもこれと言って良い事があった覚えは無い。

 

「本当か? 今日は珍しくお前がどの授業でも起きていたと、職員室では騒ぎになっていたぐらいだぞ」

 

「はぁ……」

 

 確かに、今日は授業中珍しく寝る事も無く起きていた。それに今朝も狭霧のモーニングコール前には目がすっきり醒めていた。なんと言うのか体が普段より軽いような、そんな高揚感のようなものを感じている気がする。

 

「まぁ何があったかをこれ以上深く追求する気は無いが……なんにせよ授業を起きていたのは良い事だ。この調子で頑張りなさい」

 

「……善処します」

 

「そこを『はい』と言わない辺りはいつも通りか……」

 

 飽きれたような笑いを零す担任の教師。だが温かさを感じさせるその表情は、徐々に真剣なものに変わっていく。

 

「それで? ここに呼ばれた理由は、分かっているな?」

 

「…………はい」

 

『………………』

 

 長いデスクが部屋に3つ並び、この部屋で仕事をする人間には自分の作業する分のスペースが割り当てられている。その限られたスペースの中で、ある者は新聞に目を通し、ある者は書類の山に黙々と目を通していき、ある者はパソコンでの作業に没頭している。窓からは階下の校庭を見下ろす事ができ、生徒の放課後の一風景を覗く事ができる。

 そう、ここはデュエルアカデミアの職員室。

 ここに放課後わざわざ担任から呼び出しをくらったのは……

 

「それじゃあ今日提出のはずだったレポートをいつ出すのか聞かせてもらおうか」

 

 先月に出されたレポートを提出しなかったためだ。

 今日と言う日を迎える前には、当然優秀な精霊であるサイレント・マジシャンからレポートの提出日は知らされていた。だが、それを今日までやるわけにはいかない理由があった。そのためにこうしてレポートの未提出者の烙印を押され、ここに呼び出しまでくらっているのだ。

 

「2週間……待っていただけませんか……?」

 

「2週間……?」

 

 2週間と言った俺の言葉に眉を顰める担任。

 周りの教師からも刺すような視線を感じる。

 ハッキリと言ってその期限が叶うとは思っていない。常識的に考えて1ヶ月も前から出された課題なのに、それをさらに2週間も待ってくれと言うのは通用しない事だろう。ただ、現状としてレポートの課題である資料にまったく目を通していない上、ここ最近の依頼が立て続けに入っていることからそのくらいの余裕が欲しいのは事実。せめて1週間、それぐらいは欲しいところだ。

 幸い他の教師に比べてこの担任は俺に対して特別毛嫌いする節は無い。そこに一縷の望みをかけて頭を下げる。

 

 

 

「3日だ」

 

「…………っ!」

 

 が、現実とはやはりそう甘くはいかないようだ。

 3日と言う厳しい期日に言葉を失う。

 依頼を放棄するわけにはいかないので、これをやるとなると夜通しぶっ続けでやらないと間に合わないだろう。寝不足のままの依頼をこなすのは避けたいところであったが仕方が無い。そう覚悟を決めたところで担任の言葉が続いた。

 

「……………と言いたいところだが」

 

「…………?」

 

「今回のレポートの量は通常の3倍以上。それで納得のいくレポートを作ると言うならその2週間、提出の延長を認める。できるか?」

 

 それは一見すると3日と言う期限の方がまだ楽なのではないかと思われるかもしれない。確かに3倍の量ともなれば書くのにそれ相応の時間がかかるだろう。だが、俺にとってこれはむしろ好都合であった。このレポートにおいて俺が一番時間を取られるのは資料の分析だ。一つのプレイングに対するそれぞれプレイヤーの思惑、それをそれぞれの視点に立って考察し、さらに自分の立場の見解を示す。あらゆる可能性を考慮した上で、それぞれの状況下に置いて取り得る手を考えていく。こう言った事を一つ一つ分析していくにはどうしても纏まった時間がかかってしまう。逆にそれを書き起していく作業はこの分析にかかる程のものではない。故に答えは決まっていた。

 

「はい」

 

「わかった。では必ず2週間後にレポートを提出するように」

 

 そう言うと担任はどこか満足したような顔を一瞬浮かべ、“帰って良いぞ”と一言告げると今日提出されたレポートに目を通し始める。

 

「失礼しました」

 

『………………』

 

 敵意が含まれた視線も随処で感じながら職員室を後にし、今日の次の目的地へ向かった。忙しい一日は始まったばかり。

 

 

 

————————

——————

————

 

『マスターは律儀ですね』

 

「何がだ?」

 

 雜賀との待ち合わせ場所に向かう道中、突然サイレント・マジシャンはそう口火を切った。既に依頼時の衣装に着替えを済ませ、顔には不気味な髑髏の仮面をつけているため、小声ならば精霊化しているサイレント・マジシャンと会話しても周りに怪しまれる事は無い。

 

『今日の事ですよ』

 

「今日の事……?」

 

『ほら、今日レポートの事で職員室に呼ばれたじゃないですか』

 

「……あぁ」

 

『あれは今日のデュエル約束のためですよね?』

 

「…………………まぁな」

 

 そう、今日がジャック・アトラスに渡された紙に記載してあった約束の日。レポートをやらなかった理由と言うのは、その内容がジャック・アトラスのキング防衛戦だったからだ。折角の現キングとされるデュエリストの頂点に君臨する相手と戦えるのだ。互いにお互いの手の内を知らないフェアな条件でやりたい、そう思った。この前のデュエルで俺の手のうちは既に相手に知られていると言われるかも知れないが、生憎と今回のデッキは前回のデッキとは型が違う。サイレント・マジシャンがデッキの中心であることは変わらないが、それを知られたところでこちらも相手のエースモンスターぐらいは知っている。これなら事前情報としても十分フェアとして言えよう。

 

『ほら、やっぱり律儀じゃないですか』

 

「………そうでもないと思うぞ?」

 

 別に普段からフェアに拘っている訳ではない。相手のデッキを分析し対策を練る事も立派な戦術だと思う。ただ依頼の度に一々相手のデッキの分析と対策を考えると言うのは現実的では無いため、それを自分はやっていないと言うだけ。逆に相手が自分のデッキの対策を講じてくることは決して少なくない事で、それをされてもなお勝ち続けられるように常に自分のデッキの型を変えたり、同じデッキでもカードの比率を弄ったりしている。別にフェアプレイ精神に乗っ取って常にデュエルをしている訳ではない。

 

『そうなんですか? ……ふふっ』

 

「…………何かおかしかったか?」

 

『ふふふ、ごめんなさい。ただ、今日のマスター、可愛くって』

 

「…………………は?」

 

 可愛い? 俺が?

 サイレント・マジシャンが言った言葉を反芻させる。だが何度その言葉を繰り返してもその言葉に理解が追いつかない。そんな俺の呆然とした様子を楽しむように、サイレント・マジシャンは純朴な笑みを浮かべている。

 

『マスターは無意識のうちだったのかもしれませんが、昨日からソワソワしてて、落ち着きがない様子でしたよ? まるで遠足に行く前のバテルみたいに』

 

「……………………?」

 

 “遠足に行く前のバテル”?

 “バテル”と言うのは『魔導書士バテル』で良いのか? 脳裏をよぎるのは知的そうだがどこか生意気そうな少年。つまりそれを訳すと“遠足に行く前の子ども”と言う意味で良いのだろうか? サイレント・マジシャンの微妙に分かりづらい例えに困惑しながらも、なんとか言っている意味を理解する。

 

『今日のデュエル、“楽しみ”なんですね?』

 

「“楽しみ”………なのか…?」

 

 “楽しみ”

 その感覚の実感がイマイチ分からない。そしてそのとき気付いた。そもそも“楽しみ”なんて感覚など、ここにきてから感じた事など無いと言う事に。ただ、この朝から感じるこの体の妙な軽さや高揚感の正体が“楽しみ”と言う感覚なのだとしたら悪くはない、そう思える。

 しばらく黙っているとサイレント・マジシャンは優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。その笑顔は最近見た誰かのものと重なるような、そんな気がした。

と、ここまで思考を巡らせてふと疑問が浮かび上がる。

 

「なぁ」

 

『はい、なんでしょうか?』

 

 いつもとはどこか違う、大人の余裕を感じさせる包容力のある微笑みを浮かべて受け答えをするサイレント・マジシャン。その表情を見てようやく誰の面影と重なったかにも気が付く。

 

「今日はやけに饒舌だな。それに……なんだか無理してないか?」

 

『なっ!? え、えっと、そそ、そんなことないですよ? 私はいつも通りですっ!』

 

「そうか? なんだか無理して大人の雰囲気を装おうとしてるように見えたが……」

 

 それを指摘するとテンパってアタフタと意味の分からないジェスチャーをしながら弁明をするサイレント・マジシャン。顔を真っ赤にして焦っている様子は愛嬌があった。その弁明の中には“狭霧さんを意識した訳じゃ……”とか、“大人の雰囲気の女性の方が……”とかいう言葉が聞き取れた。だがテンパった状態で弁明をするサイレント・マジシャンは途中何を言っているのか分からなく、伝えたかった事の全貌までは分からなかった。兎に角、伝わってきたのは大人の雰囲気を装おうとしていたことだ。

 しばらくしてようやく落ち着きを取り戻したサイレント・マジシャンは、ふとこんな言葉を投げかけてきた。

 

『…………マスターは私と話すのは嫌いですか?』

 

 顔を俯かせて問いかけてくるサイレント・マジシャンの様子は暗くとても寂しそうだった。なぜ、そんな表情までして俺の側にいるのか? 相変わらず理解はできない。ただ、そんなサイレント・マジシャンに対してかける言葉は決まっていた。

 

「……嫌いじゃねぇよ」

 

『…………っ!』

 

 暗かった表情は一転、キョトンとした顔になりそして安心したような柔らかい笑みに変わって、

 

『そうですか』

 

 ただ一言、そう呟くのだった。

 そんなやり取りをしているうちに目的の場所が見えてきた。

 シティのどこにでもあるようなビルの一角。その地下のバーが今日の呼び出された場所。本来なら未成年であるためそう言ったバーへの出入りは禁止されているのだが、成人男性の平均身長はある体格の上に、依頼時に着るローブと仮面をつけ変装してしまえば、未成年であることなどバレることは無い。

 木製の戸を潜ると目に入ってきたのは、丁寧に磨かれた床に天井で回るシーリングファン、テーブル、椅子、酒棚どれをとっても木製にこだわられたそのバー。その雰囲気はまさに中世。スローテンポな生演奏のジャズがBGMに流れるここでの時間は、ゆったりと流れているようだった。とりあえずバーで働くウェイターに声をかける。

 

「雑賀の連れだ」

 

「ひっ……! あっ! ……し、少々お待ちください!」

 

 この姿に驚いたのかテンパった様子でカウンターに居るマスターと思しき人物のところまで小走りで行く。すると、わざわざマスターが直々にこちらまで歩いてきた。

 

「それでは雑賀様のところまでご案内します」

 

 ウェイターとは違い落ち着いた雰囲気の初老のマスターは恭しく一礼すると店の奥の扉まで案内される。その扉を開けるとそこは一本の廊下に通じていた。その廊下の両側には一定の間隔で扉がついており、その扉には部屋の番号らしきものが書いてある。

 

「雑賀様はこの廊下の突き当たりの16番の部屋にいらっしゃいます。ご注文がお決まりになりましたら、呼び鈴でお呼び出しくださいませ」

 

「注文はサラトガ・クーラーで」

 

「かしこまりました」

 

 サラトガ・クーラーとはライム・ジュースとシュガーシロップ、ジンジャエールを混ぜたノンアルコールカクテルだ。まだ未成年である故にアルコール類は控えるようにしているが、依頼の関係上こういった酒場などに足を運ぶことも少なくないため、ノンアルコールカクテルの種類をいくつか覚えてある。それでこういった場で激しく浮く事態を回避している。

 廊下の奥まで進み扉を開けるとそこには雑賀が一人腰掛けていた。部屋の広さはテーブル一つに二人掛けのソファー1つと、一人用ソファー2つが余裕を持って入る程度の大きさだった。

 

「待たせたか?」

 

「いや……時間通りだな」

 

「そうか……」

 

 今日ここに来たのはこの前の依頼の結果報告を受けるため。一人用のソファーに腰掛ける雜賀は、俺に二人用のソファーに座るよう促す。

 

「お前からの依頼の調査の結果だが……」

 

 俺が腰を下ろすと、雜賀はそう口火を切って鞄の中からいくつかの資料を取り出し机の上に並べてみせる。その種類は分厚い束になっているものから紙1枚のものまで様々で、この短期間でここまでの調査を成し遂げた雜賀の仕事の手際の良さを改めて思い知らされる。

 

「この期間で集められるだけの情報をここに纏めといた。流石に治安維持局の黒い情報なんて大雑把な括りでの調査となると、色々な方面からボロボロと情報が出てきた訳だが……」

 

「…………………」

 

 『セキュリティの暴挙』、『サテライトへの差別教育』など一度は耳にした事がある内容がテーマとなっている資料は分厚い紙束で複数に分けられており、『キングの黒い噂』、『治安維持局長官の知られざる過去』などの眉唾物の噂程度と思われる薄い資料は一つの束で纏められている中、俺は1枚の紙を手に取った。

 

「…………まぁ、それが気になるだろうな」

 

「『イリアステル』………?」

 

 見慣れないカタカナ6文字。その紙はただその文字だけ書かれているだけでその単語の説明は一つも書かれていない。びっしりと文字で埋められた紙が何枚も重なって束になっている資料がある中、その紙の存在はあまりにも不自然で際立っていた。

 

「まぁお前も薄々察してるだろうが、その単語は間違いなく治安維持局が抱えている黒い情報の中でも闇の最深部の入り口だろう。とりあえず俺がこの期間で分かったのはその単語だけ。それがなんなのかについての調査を追加でするなら別料金だ」

 

 淡々と説明をする雜賀だったが、ここで“だが……”と一旦言葉を区切り言葉を続ける。

 

「これはあくまで今までの仕事の経験上での忠告だが……これに深入りはしない方が身のためだ」

 

『――――っ!』

 

「………わかった」

 

 雜賀の真剣な面持ちからもその先の情報の危険さが伺える。サイレント・マジシャンもその危険さを感じ取ったのか、隣で生唾を飲み込む音がした。

 残りの資料にパラパラと目を通し大方の内容を把握すると、その資料を鞄にしまう。

 

 コンコン

 

 会話が途切れたタイミングを狙ったかのようにノックの音が響く。

 雑賀の“大丈夫だ”と言う返事を受け、扉を開けたウェイターはさっきの注文したものを運んでくる。飲み物を置くとウェイターは“それではごゆっくりお過ごしください”と一礼して部屋を出て行く。最初のテンパった様子も無くなり、落ち着いた接客になっていたあたりこの姿に慣れたのか。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 ちょうど会話の切れ目だったこともあり互いに飲み物に手を伸ばす。ノンアルコールカクテルなんてオシャレに言うが要するにジュースだ。普通に美味しい。

 

「ぷはぁぁっ!」

 

「……………日は暮れているとは言え、この時間から酒とは良い身分だな」

 

「おかげさまで報酬は貰ってるからな。……と言うかお前の仮面、そうなってるんだな」

 

「……こうでもしないと飲めないからな」

 

 若干引いた面持ちでこちらを見る雜賀。確かに仮面の前歯を1本外してそこからストローを入れて飲み物を飲むのは絵面的にシュールなものだろう。

 

「…その仮面を外せば良いんじゃないのか? 監視カメラや盗聴器の類いは既に確認済みだからここには無いぞ?」

 

「あぁ、わかってる。ただ仕事絡みの時はこれを付けてないと落ち着かなくてな」

 

「そうか……」

 

 シンプルな円筒型のコリンズ・グラスに注がれたサラトガ・クーラーは細長いグラスの性質上、見た目よりも量が少なく感じる。もう飲み干してしまった。

 

「行くのか?」

 

「あぁ」

 

 荷物を纏め部屋を出ようとする俺の背中に雜賀が声をかける。

 

「……お前がこれから何を始めようが知った事じゃないし、お前がそれでくたばろうと興味も無い」

 

「…………………」

 

「ただ、金さえ用意すれば欲しいものを揃えてやる。それだけだ」

 

「………あぁ、またそのときは頼む」

 

『…………………』

 

 これが雜賀との関係。お互いに情など無い金だけの付き合い。金さえあれば雜賀は揃えられるものすべてを揃え、俺は依頼されたデュエルで勝利を持ち帰る。出会ってからその関係は変わる事は無い。それを改めて確認し、俺は今日の最後の目的の場所へ向かうためこの部屋を後にした。

 

 

 

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——————

————

 

 人の気配のしないスタジアム。人のいないスタジアムだがライトはなぜか点灯していた。指定されていた場所とは言え、こんなに堂々と無断でデュエルリングに入って良いものかと疑問に思ったが、指定された場所がここだったのだからそれに従うより他は無い。天に昇った月が今日はやけに明るい気がする。夜もすっかり更け込み、夜気に晒される肌はすっかり冷えきっている。だが、肌が冷たいだけで不思議と体の芯は熱く心臓の鼓動も普段よりも激しかった。こうして再び着替えを済ませ私服に身を包んだ俺は、ただここに呼びつけた張本人を待っている。

 そして時は訪れる。タイヤがアスファルトを擦り、エンジンが唸りを上げる音が徐々に近づいてきた。

 

「……っ!」

 

 正面に現れた眩い光を放つライト。それはDホイールのヘッドランプの輝きだった。ボディのベースカラーはホワイトで、巨大な一つのタイヤの中に座り込む構造の一輪バイクこそ、キングであるジャック・アトラスが愛用するDホイール。俺の前でそれを止めると降りて目の前に対峙する。

 

「ふん、怖気付かずに来たか」

 

「……………」

 

 俺は言葉ではなくデュエルディスクを構える事で準備ができている事を示す。その様子を見たジャック・アトラスも特注モデルの長い直線型のデュエルディスクにデッキをセットし距離をとると、反対側のデュエルリングで振り返り構えを取る。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 もはや言葉など不要。俺たちはこのためにここに来たのだ。

 “早くカードを引かせろ!”

 まるでそう語りかけてくるように心臓が激しく脈打ち、体中が熱くなってくるのを感じる。こんな気分になるのは初めてだった。

 

「デュエルッ!!」

 

「デュエル!」

 

「先攻はチャレンジャーである貴様からだ!」

 

 余裕の笑みを浮かべそう告げるジャック・アトラス。

 デッキからカードを5枚引く。この前、狭霧とデュエルをしたときに作っていたもう一つの型。それをこのデュエルのためにさらに煮詰めたデッキだ。そして今、このデッキは激しく昂るこの気持ちに応えるように最高の手札をもたらした。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 ドローしたカードを手札に加えこのターンの流れを思考する。キングの余裕と言うものなのか、腕を組み俺がこのターン何を仕掛けるのかを静観しているジャック・アトラス。だが、その余裕もいつまで続くかな?

 

「『王立魔法図書館』を守備表示で召喚」

 

 まず召喚したのは巨大な図書館。地面に描かれた魔方陣から生えてくる本棚は何段、いや何十段の棚が重なったもので上を見上げても天辺が見えない。そんな棚が正十角形を作るように配置されているのだから、この図書館に保管されている本の数は数万を優に超える事が想像に難くない。

 

 

王立魔法図書館

ATK0  DEF2000

 

 

 このモンスターを軸にエクゾディアを揃える事を目的にしたデッキができる程、このカードのドローの能力は特化すれば強力なもの。今回のデッキはそれを主眼にしている訳ではないが、この手札ならこのターンはそれなりにカードを引く役割を果たせそうだ。

 

「マジックカード『テラ・フォーミング』を発動。このカードはデッキからフィールド魔法をサーチするカード。俺が選ぶのは『魔法都市エンディミオン』。そして魔法カードが発動したことで『王立魔法図書館』には魔力カウンターが1つ乗る」

 

 図書館の下の魔方陣から緑色の光球が浮かび上がる。それはフワフワと上昇すると3メートル程の高さで停滞し宙を漂う。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 0→1

 

 

 今手札に加えた『魔法都市エンディミオン』、これが今回のデッキの軸となっている。

 

「俺は手札に加えた『魔法都市エンディミオン』を発動」

 

 俺の背後を中心とした魔方陣、その大きさは対峙するジャック・アトラスをも軽く範囲に収める程の巨大なものだった。魔方陣を描く光はその光量を増していき、一瞬視界が真っ白になる程の光を放つ。

 

「……なるほど、これが貴様の用意した今日の戦場と言う事か」

 

「あぁ」

 

 背後に聳え立つ巨大な塔。それを中心に広がる建物の間を水路が巡っている町並みはヴェネチアの風景を思わせる。四方には中心の塔の半分程の高さの塔が建ち、そこから都市全体を囲む弧を描いた塀が作られていた。光が満ちた瞬く間の一瞬でこの都市が姿を現したのは、まさに魔法そのもの。

 そして『魔法都市エンディミオン』の発動により、図書館の中に緑光を放つ魔力球が浮かび上がる。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 1→2

 

 

「さらに永続魔法『魔法族の結界』を発動。このとき『王立魔法図書館』同様『魔法都市エンディミオン』にも魔力カウンターが1つ乗る」

 

 足下に現れた青紫色の魔方陣。緩やかに回転しながら上昇したそれは、都市を覆うように空中からこの場所を照らす。上空から降り注ぐ青紫の光は魔法都市の水路の水面に反射して、魔法都市全体が光を放っているように見える。結界に覆われた魔法都市のこの光景は神秘的で荘厳の一言に尽きる。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 2→3

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 0→1

 

 

 魔力カウンターが乗ると共に魔法都市の中心に聳え立つ巨大な塔の頂点に緑色の光が灯る。さらに図書館の中も3つの魔力球が揃った事で光が溢れ出してくる。これで図書館に魔力が満ちた。

 

「そして『王立魔法図書館』に魔力カウンターが3つ乗ったことで効果を発動。このカードに乗った魔力カウンターを3つ取り除くことでカードを1枚ドローする」

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

 図書館内部の3つの魔力球は俺のデュエルディスク目掛けて飛び出し、デュエルディスクに吸い込まれていく。そうしてデッキの1番上のカードをドローできるようになる。このドローで手札は4枚。

 

「マジックカード『魔力掌握』を発動。このカードは魔力カウンターを乗せることのできるカードに魔力カウンターを1つ置くことができる。俺は『王立魔法図書館』に魔力カウンターを1つ置く。そしてその後デッキから『魔力掌握』を手札に加える」

 

 魔力カウンターを乗せる効果の『魔力掌握』自体も魔法カードのため、図書館の中にはまた2つの魔力球が浮かび上がる。そして魔法都市にも変化が訪れた。魔法都市の四方に配置された塔のうちの1つの屋根が浮き始めたのだ。よく見れば上昇が止まった円錐型の屋根は、緑色に輝く光球1つが持つ魔力で支えられていた。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 0→2

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 1→2

 

 

 この様子だと魔力カウンターが増えると、残りの周りの塔の屋根も浮かび始める事が予想される。魔法都市のソリッドビジョンを見るのは久しぶりだが、これが魔力の叡智の結晶と言う事なのだろう。里とは比べ物にならない複雑な建物の構造をしている。

 

「『強欲で謙虚な壺』を発動。デッキからカードを3枚めくり1枚を選択して手札に加える」

 

 デッキの上から3枚のカードを一気に抜き取りそれを公開する。デッキの上の3枚のカードは順に『魔法都市エンディミオン』、『見習い魔術師』、『召喚僧サモンプリースト』。『魔法都市エンディミオン』は既に発動済みだから候補から外れるとして、残りの2枚の内から選ぶ訳か。

 

「さぁ、貴様は何を選ぶ」

 

「………俺が選ぶのは『召喚僧サモンプリースト』。そしてこれにより『王立魔法図書館』と『魔法都市エンディミオン』に魔力カウンターが1つずつ乗る」

 

 手札に『見習い魔術師』があった訳ではないが、次のターンの動きを考えるに展開の都合上、優先度は『召喚僧サモンプリースト』に軍配が上がった。もっとも本音を言えばどちらも欲しかったところだが。でもデッキに3枚入っている『見習い魔術師』を素引きする可能性はそう低くはないだろう。

 そしてこれで再び図書館の中に魔力が満ち、魔法都市の四方を囲む塔うちの2つ目の屋根も浮かび上がった。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 2→3

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 2→3

 

 

「『王立魔法図書館』の効果で俺は再びカードをドロー」

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

 また図書館から放出された魔力球がデュエルディスクに吸い込まれていく。ドローしたカードは『見習い魔術師』。先の予想がまさに的中と言ったところだ。

 

「さらに『魔法都市エンディミオン』の効果発動。このカードは1ターンに1度、自分フィールド上に存在する魔力カウンターを取り除いて自分の場のカードの効果を発動する場合、代わりにこのカードに乗っている魔力カウンターを取り除くことができる。これにより『王立魔法図書館』の効果を『魔法都市エンディミオン』の魔力カウンターを取り除くことでもう一度発動し、カードをドローする」

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 3→0

 

 

 魔法都市の四方の塔の屋根はゆっくり下降していき元のように戻り、中央に聳え立つ巨大な塔の天辺の魔力球と共にデュエルディスクに吸い込まれる。そして新たに手札に加わったカードは……『見習い魔術師』。3枚入れていれば手札で被る事もあるが、こう2連続で引くとは珍しい。

 場には『王立魔法図書館』、『魔法都市エンディミオン』、『魔法族の結界』。そして手札は未だに6枚ある。本当随分と初手で良い動きができたものだ。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 『魔法都市エンディミオン』には今魔力カウンターが乗っていないから『大嵐』でも来て吹き飛ばされてしまえば、カードを4枚も一気に持ってかれる事になるが、リスクを恐れて勝てる相手ではない。ここは強気で行く。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて、快調に先攻で飛ばせた訳だが、これに対して相手がどう出るか。お手並み拝見だ。ジャック・アトラスはこちらの高速回転を目にしても物怖じする事無く、堂々とターンを進め始める。

 

「俺は手札から『バイス・ドラゴン』を特殊召喚! このカードは相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる。ただし、この効果で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力、守備力は半分になる」

 

 上空から雄叫びを上げながら滑空してきたのは紫色の竜。肉食恐竜のような形の頭をしているが、体は無駄な脂肪の一切無い発達した筋肉と骨と皮で構成されている。体を支える翼は骨の入った部分は紫色だが、それ以外は鮮やかな緑色をしていた。

 

 

バイス・ドラゴン

ATK2000→1000  DEF2400→1200

 

 

 『バイス・ドラゴン』のレベルは5。そしてこのターンはまだ召喚権を残していると言う事は……これはまさか早速エースモンスターのご登場か?

 

「さらに俺は『ダーク・リゾネーター』を通常召喚!」

 

 一頭身の黒い悪魔。灰色の兜から覗かせる赤い瞳と同様のエリザベスカラーを首に付けた姿はゆるキャラのように愛嬌がある。紺色のボロボロのローブをから飛び出した短い手足には音叉とそれを叩くマレットが握られている。

 

 

ダーク・リゾネーター

ATK1300  DEF300

 

 

 どうやら予想は的中したようだ。『ダーク・リゾネーター』はレベル3のチューナー。これでシンクロ召喚のためのモンスターは揃った。キングであるジャック・アトラスの絶対的エースモンスターのアイツが来る。

 

「俺はレベル5の『バイス・ドラゴン』にレベル3の『ダーク・リゾネーター』をチューニング!」

 

 音叉を叩く『ダーク・リゾネーター』。周りに響く音波に共鳴するように『ダーク・リゾネーター』の輪郭がブレていく。やがて解けた『ダーク・リゾネーター』の体はそのレベルの数、すなわち3つの緑色の光の輪へと姿を変化させる。その輪の中に入るように飛翔する『バイス・ドラゴン』。そして『バイス・ドラゴン』もその体を自らの持つレベルと同じ数の光輝く星へと変化させる。

 

「王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力を見るが良い!」

 

 光の柱が輪を突き抜け輪の中を満たす。その光はまるでその中から飛び出そうとするモンスターの力強さを誇示するかのように荒々しく強い光を放っていた。

 

「シンクロ召喚! 我が魂! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

 轟っ!

 

 それは魔法都市全体を振るわせるような轟咆。それと共にその光は散り散りに引き裂かれる。燃えるマグマのようなワインレッドと深淵に続く闇を思わせるブラックのツートンカラーの体の竜。悪魔を思わせる太い角を2本生やし、その爪はすべてを引き裂かんばかりの力強さを感じさせる。

 

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン

ATK3000  DEF2000

 

 

『………………』

 

 ジャック・アトラスがエースとして絶対の信頼を寄せるモンスター。それが『レッド・デーモンズ・ドラゴン』。目の前に立ちはだかるそれは、今まで対峙してきたどのモンスターよりも雄々しく強大で圧倒的な力を感じさせる。俺の傍らで見つめるサイレント・マジシャンもその力を感じたのか、杖を取り出して身構えていた。

 

「これが我がエースモンスターの『レッド・デーモンズ・ドラゴン』! キングの前では壁モンスターなど無意味である事を知るが良い!」

 

 まるでその言葉に応えるように再び咆哮を響かせる『レッド・デーモンズ・ドラゴン』。その語りは観る人々を魅了し相手を飲み込み追いつめていく。その手腕こそジャック・アトラスの武器なのだろう。召喚を妨害する手段も無く早々にエースモンスターの召喚を許してしまったのは確かに手痛い。

 

「バトルだぁ! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』よ! 壁モンスターを蹴散らせぇ!! アブソリュート・パワーフォース!!」

 

 雄叫びを上げながら迫る『レッド・デーモンズ・ドラゴン』。その右腕は触れるものすべてを焼き尽さんばかりの紅蓮の炎を纏い『王立魔法図書館』に振り下ろされる。

 

「くっ……」

 

 俺にそれを止める術は無い。振り下ろされた破壊の一撃は『王立魔法図書館』を崩壊させるには十分過ぎる威力だった。本は焼き尽され本棚は無惨に薙ぎ倒され『王立魔法図書館』崩れていく。それにしてもダメージは無いのになんて迫力だ。

 

「場の魔法使い族モンスターが破壊されたとき、『魔法族の結界』に魔力カウンターが1つ乗る」

 

 破壊された『王立魔法図書館』の残骸から生まれた緑光を放つ魔力球が上空で回転する魔方陣まで昇っていく。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 0→1

 

 

 『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せられたとは言え、所詮永続魔法。先程の手で『魔力掌握』を使うのを見せている以上、相手がキングでは効果を使う前にこのカードを破壊しにくるだろう。

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 おや?

 予想に反して破壊されなかった『魔法族の結界』。これは僥倖か? だがセットが3枚とは固い。こちらがカードを使って『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せたところで破壊してくる可能性は十分にあるし、油断する事は当然できない。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 さて、どうしたものか。手札にある『召喚僧サモンプリースト』を使えば、このデッキのエースである『サイレント・マジシャンLV4』を呼ぶ事はできる。『魔力掌握』もあるから魔力カウンターをこのターン増やし攻撃力を上げる事もできるのだが、このターンで『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を打ち倒すことのできる攻撃力に達させる事はできない。ならばこの場で俺が打つべき手は……

 

「俺は『召喚僧サモンプリースト』を召喚。このカードは召喚に成功した時、守備表示になる」

 

 目の前に現れるのは赤い瞳の翁。肌の色が青みがかっているその様は、人の形をしていながらその域を逸脱してしまった成れの果てなのだろうか。魔力のオーラが一際強いと言った様子は見られないが、熟練された魔術を使う腕は本物で、特に召喚魔法を使う事においては一流の腕を持っている。

 

 

召喚僧サモンプリースト

ATK800  DEF1600

 

 

 3枚伏せられたカードが発動する様子は今のところ見られない。どの道このターンあの『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を倒せないのなら、このターンは倒すための札を揃えに行くまで。

 

「『召喚僧サモンプリースト』の効果発動。手札のマジックカードを捨てることでデッキからレベル4のモンスターを特殊召喚する。俺は手札の『ワンショット・ワンド』を捨て、デッキから『マジカル・コンダクター』を特殊召喚」

 

 サモンプリーストはコストにした魔法カードから魔力を一時的にブーストさせると呪文の詠唱を始める。そしてそれによって現れた複雑怪奇な魔方陣の中から現れたのは黒髪ロングの女性。エメラルドグリーンの鮮やかな衣装には古代文字が刻まれており、腰の部分で結ばれた金糸と重なった文字の部分はウジャド眼を描いていた。

 

 

マジカル・コンダクター

ATK1700  DEF1400

 

 

 このデッキにおいて『召喚僧サモンプリースト』と肩を並べる召喚魔法の使い手。『マジカル・コンダクター』の召喚にも反応するカードが無いところを見ると、あの3枚のセットカードは召喚反応のカードが無いと予想できる。

 

「『魔力掌握』を発動。効果で『魔法族の結界』に魔力カウンターを1つ乗せる。そしてマジックカードが発動したことで『魔法都市エンディミオン』には1つ、『マジカル・コンダクター』には2つ魔力カウンターが乗る」

 

 上空の魔方陣に昇っていく魔力球。そして魔法カードの使用により再びこの魔法都市の一番高い塔の頂上に魔力球の輝きが灯る。さらにこの魔法の力は『マジカル・コンダクター』の周りに2つの魔力球を浮かび上がらせた。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 1→2

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 0→1

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 0→2

 

 

「そしてデッキから『魔力掌握』を手札に加える」

 

 召喚反応のトラップは仕掛け無い事は分かったが、まだ『魔法族の結界』を破壊するようなカードが伏せられている可能性は残っている。警戒するべきだが、それを阻止するような手が無いのが歯がゆい。とは言え、このターンを始めた以上はこのターンでできる事をやりきるしか無い。

 

「さらに『マジカル・コンダクター』の効果発動。このカードに乗った魔力カウンターを任意の数取り除く事で、取り除いた数と同じレベルの魔法使い族モンスター1体を、手札または自分の墓地から特殊召喚する。俺は『マジカル・コンダクター』に乗った魔力カウンターを2つ取り除き、手札から『見習い魔術師』を守備表示で特殊召喚」

 

 『マジカル・コンダクター』の周りに浮かぶ2つの魔力球が両手にそれぞれに吸い込まれる。祈りを捧げるように目を閉じ、地面に膝を付け、合わせられた両手。すると『マジカル・コンダクター』の隣に小さな魔方陣が描かれる。そこに召喚されたのは小柄な魔術師。短いロッドを振りかざす様子からは若さを感じる。

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 2→0

 

 

見習い魔術師

ATK400  DEF800

 

 

「そして『見習い魔術師』の効果発動。このカードが召喚、特殊召喚に成功したとき、魔力カウンターを乗せる事のできるカードに魔力カウンターを1つ乗せる。これで『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

 『見習い魔術師』のロッドから打ち上げられた魔力球もまた上空で回る魔方陣まで昇っていく。これで3つの魔力球が魔方陣と共に上空で回っている。

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 2→3

 

 

「何を出すかと思えば……そんな壁モンスターを並べて守りに徹するだけでは、このジャック・アトラスは倒せんぞ!」

 

「さらに永続トラップ『漆黒のパワーストーン』を発動。発動時、このカードに魔力カウンターを3つ乗せる」

 

 伏せられていたカードが捲られ、そこからボーリングの球程のサイズの黒球浮かび上がる。その黒球の中には逆三角形型の黄金板が入っており、その頂点には緑色の輝きが灯っていた。

 

 

漆黒のパワーストーン

魔力カウンター 0→3

 

 

 これで『魔法族の結界』を完成させるためのピースは揃った。これでこの結界を破壊してくる可能性があるタイミングは、最後の魔力カウンターを乗せたときだろう。『魔法族の結界』に魔力カウンターを溜めきる事を主眼に置いたターン運びをしたために、ここは重要な局面だ。もし破壊されれば流れが一気に相手に流れると言っても過言ではない。

 

「そして『漆黒のパワーストーン』は1ターンに1度、このカードに乗った魔力カウンターを別のカードに移す事ができる。この効果で『魔法族の結界』に魔力カウンターを1つ移す」

 

 浮かぶ黒球の中の黄金板から緑色の光が飛び出す。緑の光は光球へと形を変え、空へと昇っていく。4つの魔力カウンターが溜まった上空の魔方陣は魔力が充足し極光を放ち始める。

 

 

漆黒のパワーストーン

魔力カウンター 3→2

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 3→4

 

 

 上空から降り注ぐ極光は絶えずその色を変え、魔法都市はそれに合わせてその風景の色合いを変化させて行く。

 

『綺麗………』

 

 傍らでポツリと言葉を漏らす『サイレント・マジシャン』は俺の気持ちを代弁していた。

 “美しい”

 この光景を見たものならば誰しもがそう感想を漏らすだろう。魔法の叡智が集結された都市に降り注ぐ色鮮やかで優しい光は、夢のような浮世離れした幻想的な光景を作り出していた。

 依然としてセットカードが発動する気配は見られない。となると『魔法族の結界』を破壊する類いのカードでは無かったということか。

 

「『魔法族の結界』の効果発動。魔力カウンターが乗ったこのカードと、自分の場の魔法使い族モンスター1体を墓地に送る事で、このカードに乗った魔力カウンターの数だけドローする。俺は『召喚僧サモンプリースト』とこのカードを墓地に送り、4枚ドロー」

 

 『召喚僧サモンプリースト』はその姿を光へと変化させ、その魂は上空の魔方陣に昇っていく。その光が魔方陣まで届くと魔方陣の輝きは最高潮に達した。魔方陣の中心から降り注ぐ光の柱はデュエルディスクに吸い込まれる。これにより新たに4枚のドローができる。

 

「――――っ!」

 

『…………』

 

 ようやく来たか。手札に来た『サイレント・マジシャンLV4』のカードを見た傍らのサイレント・マジシャンは無言で頷く。

 再び6枚になった手札を確認し次の一手を練る。とは言えこのターンは既に『召喚僧サモンプリースト』に召喚権を使っているため、サイレント・マジシャンを召喚する事はできない。次のターンで出すしか無いようだ。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

「ふんっ、どうやら攻めるための手を引けなかったようだな。俺のターン、ドロー」

 

 流石にその程度の事は察されてしまうか。それにしても俺の場には5枚のカードがあり手札も5枚あるこの状況を前にして、なおも余裕を崩さないのは強がりなのか、それともこの状況を覆せると言う自信からなのか。そんな俺の思考を他所にジャック・アトラスはターンを進め始める。

 

「『おろかな埋葬』を発動。デッキからモンスターを1体墓地に送る。俺が送るのは『トリック・デーモン』」

 

 『トリック・デーモン』。あれは刺客として送り込まれたデーモン使いも使っていたカード。半透明の姿で現れた悪魔の童女は可愛らしくその場で一回転すると、墓地へと消えていく。

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 1→2

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 0→2

 

 

 マジックカードの発動により魔法都市を囲む塔の1つの屋根が再び浮上する。そして『マジカル・コンダクター』もまた2つの魔力球を周りに浮かび上がらせる。

 

「そして墓地に送られた『トリック・デーモン』の効果発動。デッキからデーモンと名のついたカードを1枚手札に加える。俺が加えるのは『ランサー・デーモン』」

 

 『ランサー・デーモン』とはまた味なモンスターを加えてきたな。この状況でそれを加えると言う事は、このターン仕掛けてくる……!

 

「俺は『ランサー・デーモン』を召喚」

 

 金と紫の2色の西洋鎧を装備した髑髏の騎士。腰から真紅のマントを翻し、両腕のランスを挑発するようにこちらに突きつける。

 

 

ランサー・デーモン

ATK1600  DEF1400

 

 

 相手の場にはこれで『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と『ランサー・デーモン』が並んだ。『レッド・デーモンズ・ドラゴン』は守備表示のモンスターを攻撃したとき、すべての守備モンスターを破壊する効果がある。それで『見習い魔術師』を攻撃されれば、『見習い魔術師』は効果による破壊扱いとなりその効果を使えない。

 フィールド上での圧倒的優勢であるこの状況を楽しむかのように、ジャック・アトラスは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「バトルだ! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で『見習い魔術師』を攻撃!」

 

 右腕に灼熱の炎を宿した『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の魔手が『見習い魔術師』に迫る。『ランサー・デーモン』が居ると言う事は当然その効果を使うのだろう。

 

「そしてこのとき『ランサー・デーモン』の効果発動! 自分の場のモンスターが相手の守備モンスターに攻撃する時、そのモンスターに貫通能力を与える!」

 

 予想通り『ランサー・デーモン』の効果を発動してきたか。『ランサー・デーモン』の瞳が妖しく光る。直後、『ランサー・デーモン』の体から半透明の魂が幽体離脱し、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と重なる。『ランサー・デーモン』の力を得たことで、その勢いは突き出された神速の槍の如く一気に増す。だが、そう簡単に攻撃を通す気は毛頭ない。

 

「トラップ発動、『スーパージュニア対決!』。相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードは発動できる。その攻撃を無効にし、相手の場の一番攻撃力が低い表側攻撃表示のモンスター1体と、自分の場の一番守備力の低い表側守備表示のモンスターでバトルを行う。そしてそのバトル終了後、バトルフェイズを終了する」

 

「なんだと?!」

 

 寸っ!

 

 直前で『見習い魔術師』の目の前で突き出された『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の腕は止まる。

 

「これにより、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の攻撃は無効。『ランサー・デーモン』と『見習い魔術師』でバトルを行う」

 

 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が身を引く中、『ランサー・デーモン』が飛び出す。その両手のランスを同時に突き出した一撃が『見習い魔術師』を貫いた。

 

「そして戦闘によって破壊された『見習い魔術師』の効果発動。デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスターを1体自分の場にセットする。俺がセットするのは『水晶の占い師』」

 

 これでリクルーター殺しである『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の効果による破壊を阻止し、ダメージを無くした上で『マジカル・コンダクター』の破壊を防ぎ『見習い魔術師』の効果を使う事ができた。

 

「『スーパージュニア対決!』の効果でこのバトルフェイズは終了される」

 

「ふん、どうやら首の皮一枚で繋がったようだな(・・・・・・・・・・・・・・)。俺はこれでターンエンドだ!」

 

『………………?』

 

「………俺のターン、ドロー」

 

 とりあえずこちらの思惑通りになんとか凌ぎきれたが、どういうことだ? ジャック・アトラスの言葉が妙に引っかかる。

 

「『水晶の占い師』を反転召喚。リバース効果でデッキからカードを2枚めくり1枚を手札に加え、残りをデッキの一番下に戻す」

 

 何があるにせよ、俺はそれを上回る戦略を練るだけ。

 場にセットされていた『水晶の占い師』がその姿を現す。紺色のロングヴェールを羽織り、同色のフェイスヴェールで口元を隠した女性。口元が隠れているため顔は確認できないが、目は切れ長で美人である事が想像できる。手元の水晶を魔法で浮かび上がらせて、その周りで小さな水晶を回している様子はとてもミステリアスだった。

 

 

水晶の占い師

ATK100  DEF100

 

 

 『水晶の占い師』の効果でデッキから2枚のカードを捲る。捲られたのは『闇の誘惑』と『魔法都市エンディミオン』。『魔法都市エンディミオン』は既に発動しているため、ここで手札に加えるカードは決まっていた。

 

「俺は『闇の誘惑』を手札に加える」

 

 普段ならここで直ぐに『闇の誘惑』を発動するところだが、今回は手順が少し違う。

 

「『死者蘇生』を発動。墓地から『王立魔法図書館』を特殊召喚する」

 

 墓地から再び現れる『王立魔法図書館』。魔法の発動で2つ目の四方の塔の屋根が浮かび上がる。さらにこれで『マジカル・コンダクター』に必要な魔力カウンターも十分に溜まった。

 

 

王立魔法図書館

ATK0  DEF2000

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 2→3

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 2→4

 

 

「『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスターを1体除外する」

 

 『闇の誘惑』の発動により魔法都市の四方の3つ目の塔の屋根も浮遊し始め、『マジカル・コンダクター』の周りには6つの魔力球が回り始める。

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 3→4

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 4→6

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 0→1

 

 

 『闇の誘惑』によって入れ替わった手札を確認する。だが依然として『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を破壊できるカードは無い。

 

「俺が除外するのは『見習い魔術師』。そして『テラ・フォーミング』を発動。デッキから『魔法都市エンディミオン』を手札に加える」

 

 先程『闇の誘惑』の効果でドローした『テラ・フォーミング』を使いデッキの圧縮を図る。これでデッキ『魔法都市エンディミオン』の枚数は0枚。つまり既に残りの2枚は手札に加わっているのだが、今の魔法都市にはもう十分魔力カウンターが溜まっているためもう手札で腐っている。この場合はピンチなときに引かなかったと喜ぶべきなのか、手札の2枚を占める『魔法都市エンディミオン』を見ながらそんな事を思う。

 

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 4→5

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 6→8

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 1→2

 

 

 すべての塔の屋根が先程の魔力カウンターが溜まった事により浮遊をし始めたため、新たに出現した魔力球は中央の塔を中心にして上空で回り始める。

 

「『魔法都市エンディミオン』から魔力カウンターを3つ取り除き、『王立魔法図書館』の効果を発動。カードを1枚ドローする」

 

 四方の塔のうちの3つの塔の屋根を浮かす魔力球がデュエルディスクに吸収される。できれば『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を打ち倒すカードを引き込みたいところだが、やはりなかなかうまく都合のいいカードは引けない。

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 5→2

 

 

 だけどこのターン手札を増やす方法はまだ残されている。

 

「装備魔法『ワンダー・ワンド』を『水晶の占い師』に装備。このカードを装備したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする」

 

 何も持っていなかった『水晶の占い師』の手元に出現した短い杖。緑色の宝玉が先端に付けられたの付け根の人面は不気味に笑っている。

 

 

水晶の占い師

ATK100→600

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 2→3

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 2→3

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 8→10

 

 

 これで『王立魔法図書館』の効果と『ワンダー・ワンド』の効果を使えば手札を3枚増やせる。

 

「『王立魔法図書館』の効果で自身の魔力カウンターを3つ取り除き、カードを1枚ドローする」

 

 図書館の中を浮遊していた魔力球がデュエルディスクに取り込まれさらにドローする。だが、それも『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を突破するための鍵となるカードではない。

 

 

王立魔法図書館

魔力カウンター 3→0

 

 

「『ワンダー・ワンド』のもう一つの効果を発動。このカードとこのカードを装備したモンスターを墓地に送る事で、カードを2枚ドローする」

 

 『ワンダー・ワンド』と共に墓地に沈んでいく『水晶の占い師』。このターンでできる最後のドローに思いを託し、カードを2枚引き抜く。

 

「………くっ」

 

 違う。

 ターン開始時よりもカードを増やし9枚まで手札を補充したが、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を倒すためのカードは引けなかった。だがそろそろこちらから仕掛けないと防戦一方になる。

 

「『王立魔法図書館』をリリースし『ブリザード・プリンセス』をアドバンス召喚」

 

 『王立魔法図書館』が光となって消え、そこに新たに現れたのは王冠を被った水色の髪の女性。白と水色をベースにした清潔感のあるロングドレスを着こなし、髪にはクリスタルの装飾がなされている姿からは一国の姫の品格を感じる。手に持った身の丈程の杖には先に鎖が繋がれており、その鎖の先には『ブリザード・プリンセス』の身長の半分以上の直径の巨大な氷球が付けられていた。

 

 

ブリザード・プリンセス

ATK2800  DEF2100

 

 

「このカードは魔法使い族モンスターを1体リリースして召喚することができる最上級モンスター。そしてこのカードを召喚に成功したターン、相手はマジック、トラップカードを発動できない」

 

「何っ!?」

 

 『ブリザード・プリンセス』がその杖の末端を地面に叩き付けると、ジャック・アトラスのセットしたカード3枚が同時に凍り付く。これで何を伏せたのかは知らないが、もうこのターン発動する事はできなくなった。後は好きに展開できる。

 『マジカル・コンダクター』に乗った魔力カウンターは10。手札には『氷の女王』も加わっているがここは……

 

「『マジカル・コンダクター』の効果発動。自身に乗った魔力カウンターを4つ取り除き、手札から『サイレント・マジシャンLV4』を特殊召喚する」

 

 『マジカル・コンダクター』の周りに浮遊する4つの魔力球が術のために取り込まれ、再び召喚の呪文を唱え始める。前のターンよりも2つ魔力カウンターを多く使ったせいなのか、その魔方陣のサイズは一回り程大きくなっていた。そしてその中から現れるこのデッキの主力のサイレント・マジシャン。光の反射の具合によってはうっすらとピンクがかっているようにも見える髪を揺らしながら、ゆっくりとその目を開け相手を見据える。相手の場には強力な『レッド・デーモンズ・ドラゴン』が立ちはだかっているが、その様子は落ち着いたものだった。

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 10→6

 

 

サイレント・マジシャンLV4

ATK1000  DEF1000

 

 

 『サイレント・マジシャンLV4』は次のターンで召喚すると言う手もあったし、『氷の女王』は最上級モンスターなので『マジカル・コンダクター』がいなければ手札で腐ってしまう。だがあの『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を倒すためにはここでサイレント・マジシャンを出さなければいけない。そんな気がしたのだ。

 

「ほう、それが貴様のエースモンスターか」

 

「あぁ」

 

 俺のエースの登場を楽しむかのように笑みを浮かべるジャック・アトラス。その余裕は自分のエースである『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に対する絶対的な信頼によるものなのか。

 

 

「『魔力掌握』を発動。『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターを1つ乗せる。そして『サイレント・マジシャンLV4』は自身に乗った魔力カウンター1つにつき500ポイント攻撃力を上昇させる」

 

 『魔力掌握』によって『サイレント・マジシャンLV4』を成長させる。願わくばこの効果で『魔力掌握』を手札に加えたいところだが、これが最後なのでそうはいかない。

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 0→1

ATK1000→1500

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 3→4

 

 

マジカル・コンダクター

魔力カウンター 4→6

 

 

「『漆黒のパワーストーン』の効果で魔力カウンターを『サイレント・マジシャンLV4』に移す」

 

 黒球の中の光り輝く黄金板でできた逆三角形の頂点から飛び出した魔力球がサイレント・マジシャンに取り込まれる。魔力カウンターが増えた事でその姿を変化させ、第二次性徴に入った頃ぐらいの体にまで成長する。

 

 

漆黒のパワーストーン

魔力カウンター 2→1

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 1→2

ATK1500→2000

 

 

 このターンでできる事はこれでやり尽した。『ワンダー・ワンド』を『ブリザード・プリンセス』に装備できれば、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を突破できたのだが……『ワンダー・ワンド』の効果で『ブリザード・プリンセス』をドローしたのでそれは叶わなかった。

 

「バトル。『ブリザード・プリンセス』で『ランサー・デーモン』を攻撃」

 

 『ブリザード・プリンセス』は飛び上がると振りかぶったその杖を勢い良く振り下ろす。その動きに合わせて鎖で杖につながれた巨大な氷球が『ランサー・デーモン』の真上に落ちる。その氷球は落下しながらもその大きさを膨らましていく。

 

 

ジャックLP4000→2800

 

 

 まずは先制のダメージを与える事ができた。だが手札の枚数も優位に立てているのに全く余裕を感じられない。所詮いくらライフを削ろうともライフを0にしなければデュエルに勝つ事はできないのだ。相手は現キングであるジャック・アトラス、そのライフを0にするまでは油断などできるはずも無い。

 

「『マジカル・コンダクター』を守備表示に変更し、ターンエンドだ」

 

「このターンで我がレッド・デーモンズを倒せなかった事を後悔するが良い! 俺のターン、ドロー!」

 

 確かにその事は悔やまれる。3枚ものセットカードを『ブリザード・プリンセス』の効果で封じ込めていたあのターン。恐らく『レッド・デーモンズ・ドラゴン』を打ち取る最大の好機だったろう。だが過ぎてしまった以上は今ある手を尽くすしか無い。

 

「相手プレイヤーがドローしたとき、『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターが1つ乗る」

 

 魔力球を吸収したサイレント・マジシャンの姿は普段の精霊状態程にまで成長を遂げた。まだ発達の見込みを感じさせる若々しい姿。しかしその状態では『レッド・デーモンズ・ドラゴン』に立ち向かうには心許ない。

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 2→3

ATK2000→2500

 

 

 このターン、恐らく『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の攻撃の矛先はサイレント・マジシャンに向けられる。あの3枚のセットカードが未だに何かは分からない上、このターンまだ何を仕掛けてくるかも読めない状態。はたしてこの1枚のセットカードで凌ぎきれるかどうか……

 

「『終末の騎士』を召喚。このカードは召喚成功時、デッキから闇属性モンスター1体を墓地に送る事ができる。この効果で俺は再び『トリック・デーモン』を墓地に送る」

 

 風で黒い長髪を揺らしながら歩いてきたのは錆び付きくすんだ色をした鎧の騎士。ボロボロになった紅色のスカーフを首に巻き、無言で手のサーベルを振るう。

 

 

終末の騎士

ATK1400  DEF1200

 

 

 おもむろにそのサーベルを地面に突き刺すと墓地へと続く黒い穴が生じ、そこに『トリック・デーモン』が沈んでいく。

 

「墓地に送られた『トリック・デーモン』の効果で、俺は『マッド・デーモン』を手札に加える」

 

 『マッド・デーモン』は貫通効果持ちの高打点下級モンスター。確かにそのモンスターなら『マジカル・コンダクター』の守備を突破できるが、召喚権を『終末の騎士』に使った今、そのカードを出す事はできない。このタイミングで『マッド・デーモン』を手札に加える真意が読めないのだ。このまま何も無ければ『終末の騎士』の打点で突破できるモンスターはいない現状を見るに、次のターンまで『マジカル・コンダクター』を残せるかも知れない、そんな事を思っていた時だった。

 

「っ?!」

 

 突如そいつは現れた。こちらのフィールド上で確かに存在していた『漆黒のパワーストーン』、それを丸呑みにしながら。

 

「『トラップ・イーター』は相手の場の表側表示で存在するトラップカード1枚を墓地に送った場合のみ特殊召喚できるモンスター。貴様の『漆黒のパワーストーン』は良いエサにさせてもらったぞ」

 

 巨大な口を開けた紫色の顔。そいつを端的に表すとその表現が一番しっくりくる。顔面の割合の半分は口に割かれている顔だけの悪魔は、口の中に収まった『漆黒のパワーストーン』をバリバリと噛み砕いてみせる。

 

 

トラップ・イーター

ATK1900  DEF1600

 

 

 まさかこちらのトラップカードを逆手に取ってモンスターを展開してくるとは。これは完全に予想を裏切られた。しかも『トラップ・イーター』はチューナーモンスター。『終末の騎士』とシンクロする事ができる。だけどジャック・アトラスのレベル8のシンクロモンスターは『レッド・デーモンズ・ドラゴン』以外は知らない。いったい何が来るんだ……?

 

「光栄に思うが良い。このモンスターを召喚してみせるのはお前が初めてだ! レベル4『終末の騎士』にレベル4『トラップ・イーター』をチューニング!」

 

 『トラップ・イーター』の姿が光りながら解け4つの緑色の光輪へと変化する。その並んだ輪の中に飛び込む『終末の騎士』。『終末の騎士』の中からは光り輝く4つの玉が解き放たれ一直線に並ぶ。

 

「大いなる風に導かれた翼を見よ!」

 

 光輪の中に光が奔る。その光はそこから解き放たれようとするモンスターの気高さを感じさせる美しいものだった。

 

「シンクロ召喚! 響け、『スターダスト・ドラゴン』!」

 

 光を解いた白銀の翼。大きく広げられたその翼の羽ばたきにより光の粒が舞う。その輝きは星の光さながらのものだった。その姿は『レッド・デーモンズ・ドラゴン』とは対照的で澄み切った水面のようなマリンブルーと汚れ無き光を思わせるホワイトのカラーリングの体の竜。無駄の無い細身の体つきだが、その姿からか弱いなどと言う印象は感じられず、むしろ底知れぬ力が伝わってくる。

 

 

スターダスト・ドラゴン

ATK2500  DEF2000

 

 

 まさか『レッド・デーモンズ・ドラゴン』以外にこんなエースを隠し持っているとは……並び立つ『レッド・デーモンズ・ドラゴン』と『スターダスト・ドラゴン』の光景はただただ圧倒的だった。

 

「これが『スターダスト・ドラゴン』。今宵限りの特別ゲストだ!」

 

「まさかそんなエースを持っているとは思わなかったな」

 

「観る者を魅了する、それはチャレンジャーも同じ。そう、キングのデュエルは、エンターテインメントでなければならない! 行くぞ! バトル! 『スターダスト・ドラゴン』で『マジカル・コンダクター』を攻撃!」

 

 『スターダスト・ドラゴン』の口に光が収束する。そして放たれたブレスには輝く星の粒子が数多に含まれており、勢いに乗ったそれらが『マジカル・コンダクター』に殺到する。守備力1400の『マジカル・コンダクター』ではその攻撃を受けきれるはずもなく、跡形も無く消し飛ばされてしまった。だが……

 

「魔力カウンターが乗ったカードが破壊された場合、破壊されたカードに乗っていた魔力カウンターと同じ数の魔力カウンターを『魔法都市エンディミオン』に乗せる。『マジカル・コンダクター』には魔力カウンターが8つ乗っていた。よって『魔法都市エンディミオン』に魔力カウンターが8つ乗る」

 

 『マジカル・コンダクター』が残した8つの魔力カウンター。1つは最後の塔の屋根を浮かび上がらせ、残りは魔法都市の上空に散らばると中央の塔を中心に回り始める。

 

 

魔法都市エンディミオン

魔力カウンター 4→12

 

 

 残る攻撃は『レッド・デーモンズ・ドラゴン』のみ。ここでサイレント・マジシャンを守りきれるかがこのデュエルを大きく左右することになる。もっとも最悪の場合でも『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の攻撃は一回のみ。このターン残った方で次のターン『スターダスト・ドラゴン』は突破できるはず。

 

「ふん、大方このターンの攻撃で生き残った方で次のターン、我が『レッド・デーモンズ・ドラゴン』には及ばないがせめて『スターダスト・ドラゴン』を倒そうと言う魂胆だろうが……キングのデュエルは常にその先を行く!! トラップカード発動! 『破壊神の系譜』!」

 

「なっ! そのカードは……」

 

「このカードは相手の守備表示モンスターを破壊したターン、自分の場のレベル8以上のモンスター1体を選択して発動するカード。選択されたモンスターは1度のバトルフェイズ中2度攻撃が可能となる。俺が選択するのは当然、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!!」

 

 『破壊神の系譜』により力を得た『レッド・デーモンズ・ドラゴン』は力強い雄叫びを上げると、その力を誇示するかのように周りに炎を溢れさせる。

 

「っ!!」

 

 そのときようやく妙に引っかかっていたジャック・アトラスの前のターンの言葉の意味を理解した。

 

首の皮一枚で繋がったようだな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 あのとき『スーパージュニア対決!』であの攻撃を止めていなかったら、貫通能力の得た『レッド・デーモンズ・ドラゴン』によって『見習い魔術師』を破壊され2200のダメージ、さらにこの『破壊神の系譜』によってもう一度攻撃が可能となった『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の2度目の攻撃で『マジカル・コンダクター』を破壊され1300ダメージ、『ランサー・デーモン』のダイレクトアタックで1600ダメージの合計5100ダメージを受けワンターンキルをされるところだったのだ。

 

 ゾクリッ

 

 一瞬、悪寒が奔る。

 

「覚悟は良いか! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』で『サイレント・マジシャンLV4』に攻撃! アブソリュート・パワーフォース!!」

 

 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の右腕に集まる紅蓮の炎。その右腕を振りかぶり勢い良くサイレント・マジシャンの元へ迫る。そしてその腕がサイレント・マジシャンの眼前に振り下ろされる時。

 

「トラップカード発動。『ガガガシールド』。このカードは発動後、装備カードとなり自分の場の魔法使い族モンスターに装備する。そして装備モンスターは1ターンに2度まで戦闘およびカードの効果では破壊されなくなる」

 

 サイレント・マジシャンと『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の間に大きな盾が出現する。中央に赤文字で“我”と言う文字が書かれている金縁の青い盾は、『レッド・デーモンズ・ドラゴン』の一撃を受け止めた。

 

「くっ、なんとか凌いだか。だが戦闘ダメージは受けてもらうぞ!!」

 

 だがその勢いを完全に殺す事はできず、衝撃の余波がビリビリとこちらに伝わってくる。もっとも『ガガガシールド』を無効にする類いのカードが無かっただけマシだが。

 

 

八代LP4000→3500

 

 

「そして『破壊神の系譜』の効果により『レッド・デーモンズ・ドラゴン』はもう一度の攻撃を残している! 『レッド・デーモンズ・ドラゴン』よ、『ブリザード・プリンセス』を打ち砕けぇ!!」

 

 サイレント・マジシャンを破壊できなかったことを怒るように力強い咆哮をあげると、再びその右腕に炎を宿し『ブリザード・プリンセス』に迫る。セットカードも無い今、その攻撃を防ぐ術は残されていなかった。勢い良く振り下ろされた炎を纏った右腕は、容赦無く『ブリザード・プリンセス』の氷を溶かし尽くし吹き飛ばした。そして短い悲鳴と共に『ブリザード・プリンセス』はフィールドを離れた。

 

 

八代LP3500→3300

 

 

「これでターンエンドだ!」

 

「…………ふふっ……」

 

『————っ!』

 

 思わず笑いが漏れてしまった。

 一瞬の判断ミスが命取りになる緊張感のあるデュエル。飛び出してくるカードは『トラップ・イーター』、『破壊神の系譜』など予想もつかないカードばかり。それらを使いこなすジャック・アトラスとのこのデュエル、それは予想通り、いや予想以上に体を昂らせ心臓に早鐘を刻ませる。

 立ちはだかる紅蓮の炎を操る悪魔の竜と星の煌めきを放つ白銀の翼の竜、それらと相対するは数々のデュエルを共にしてきた白魔導師。

 

「はわわわわわっ! なんだかよくわからないけどすごいデュエル! しかもジャックの対戦相手はよくわからない学生っぽい子! これは絶対見逃せない、もんんの凄いスクープなんだからっ!」

 

 スタジアムの片隅でこっそりとその光景を覗く視線に晒されながら、夜中のデュエルはより一層苛烈を極めるのだった。

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