仮面ライダーアマゾンズ -ϘuinϘuennium- 作:エクシ
この施設に来てから随分と経ったが未だに煌は慣れていなかった。緋彩や仁を探す毎日のせいで学校には行っていないし、当然友達も出来ていなかった。
煌は今日も朝早く合羽を羽織って施設の柵を乗り越える。また今日も緋彩がアマゾンになったあの研究室へ行くためだ。
(今度こそ俺も鷹山にアマゾンにしてもらうんだ。)
そしてアマゾンになってしまった、アマゾンに喰われ死んでいった前の施設の仲間たちの敵を取る。
大学は施錠されておらず簡単に入ることが出来た。研究棟に侵入し、南京錠で封じられた星埜始の研究室へはペンチを使って忍び込む。
「だれだ?」
まさか本当に誰か中にいるとは…。
「…!」
「…お前は。」
奥から出てきたのはずっと探していた男 鷹山仁。前の施設で助けられた時に比べて息が上がっている。
「いた…鷹山!」
「お前…なんでこんなところにいる。」
「俺をアマゾンにしてくれよ!」
「前も言っただろ。俺はもうアマゾンを増やしたくねえんだ。」
「じゃあなんで緋彩は…!」
そこまで言って煌は思い出す。緋彩は死にかけていて、仁の細胞を移植してもらったおかげでアマゾンとして生き続けることが出来ているのだ。
「分かったら帰れ。な?」
「嫌だ…俺はアマゾンたちに復讐する!頼む、俺を連れていってくれ!」
煌は仁の元へ駆けていき、服の袖を掴んだ。予想外の行動に思わず後ろへのけ反る仁。
「よせ!今の俺に…近づくな!……ウグゥ…!」
仁の様子がおかしい。息が上がりながら膝をつくとやがてその場でのたうち回り始める。
「お…おい、鷹山!」
「に…げろ…!」
仁の体からアマゾンズドライバーを使うことなく蒸気が放出される。辺り一面が白い熱気に包まれ煌は周りを見回す。
「逃げるって…どこに!……!」
煌が目線を下にやると腹部を赤いアマゾンの腕が貫いていた。
悠は仁が眠っているカプセルの近くに置かれていたパソコンを調べる。そこには仁の5年間の身体情報や彼に何が起きたのかが事細かに記載されていた。どうやら数年前に賀閣製薬はイースヘブンの残党などから情報収集し、仁の居場所を特定したようであった。仁本人からはほぼ情報は得られておらず、ほとんどの情報は緋彩から聞いたことのようであるが…。
仁は溶原性細胞のオリジナル 千翼を狩ってからしばらくした辺りで右目の視力が回復したらしい。賀閣製薬からの協力要請にも応じず緋彩を連れてただ1人でアマゾンを狩り続けていた。
戦いを続けていく中で仁の体に異常が見られ始めたという。徐々に理性を保てなくなっている感覚。仁はもはや手段は選べないと考え、緋彩を賀閣製薬に預けた。
やがて彼の師である星埜始が教鞭を取っていた大学構内にて仁は覚醒。理性を保てないアマゾンとして賀閣製薬に取り押さえられた。
煌は自分の出生を思い出し膝をついて絶望している。それを見つめながら緋彩は話を続けていた。
「仁さんを抑えたのは俺だ。仁さんが持っていたネオアマゾンズドライバー。それを俺が橘の命令で持ち出していたから、それを使って止めたんだ。」
「あぁ…あああ!!」
「人間とアマゾンの細胞の両方を持っているとアマゾンの細胞は変化していく。溶原性細胞もその1つだって仁さんは言ってた。そして仁さんもそのアマゾンの1人。仁さんの細胞は寄生型アマゾンを生み出す細胞に変わっていたんだ。」
「それで…俺を殺した時…!」
「俺を殺した時じゃない。”煌”を殺した時、”お前”が煌の死体に寄生したんだ!仁さんの体からな!」
そうだ…今まで自分の記憶だと思っていたのは煌という人間の体にあったもの。自分は…アマゾン。
「嫌だ…俺は嫌だ!煌だよ、緋彩!俺は煌だ!」
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緋彩はアマゾンズレジスターをネオアマゾンズドライバーに装填していた。すぐに煌もアマゾンズドライバーを腰に巻いてアクセラーグリップを捻る。
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「…アマゾン!」
「アマゾンッ!!」
悠は仁に関するレポートを隅から隅まで読んだ。仁が確保された時に手に付着していた血は少年のものという記載はあったものの、煌を特定する資料にはなっていなかった。
10年以上相手にしていればわかる。恐らく野座間製薬の会長 天条隆顕の命令で寄生型アマゾンに寄生された煌の死体は野座間製薬が回収していたためデータが残っていないのだろう。あくまで人間の体を”貴重なサンプル”として手元に置きそうな会長の考えによって。
次のページには寄生型アマゾン細胞の情報が断片的に記載されている。人間に寄生型アマゾン細胞を入れれば寄生型アマゾンはやがて人間の体を乗っ取ってしまう。溶原性細胞を体に持った人間に寄生型アマゾン細胞を移植した際はアマゾンへの覚醒が早まったというデータもある。
そして人間の死体に寄生型アマゾン細胞を移植した場合。それは人間の記憶等を引き継いだアマゾンの誕生の可能性。まさしく煌のケースそのものであった。
すべてを読み終わったうえで悠の考えは変わらない。仁の体は寄生型アマゾン細胞のオリジナルであった。彼は今殺さなくてはならない。
「仁さん…あなたは十分罪滅ぼしをした。これ以上生きていたらさらに罪を重ねることになってしまいます。…許してください。」
悠がネオアマゾンズドライバーを腰に巻いたアマゾンズインジェクターを装填し液体を注入する。
「アマゾン…!」
しかし体に変化が起きない。
「あれ…どうして…。」
次の瞬間、カプセルに入った仁の目が開きとてつもない突風が熱気と共に吹き荒れる。
「ぐあ!」
悠は後ろに飛ばされ、研究室内の機器に体を強打した。カプセルがあった方を見るとそこには全裸でアマゾンズドライバーを腰に巻く仁の姿があった。
「旨そうな…匂いがするなぁ…。」
「仁さん…僕です!悠です!わかりますか!?」
「今から喰う奴の名前なんて知るか。じっとしてりゃすぐ終わらせてやるよ。」
そういうと仁はアクセラーグリップを捻る。
-
「アァマァゾォォン!!!」
-
仁の肉体は前に見たアルファの姿よりもよりおぞましい姿に変わっていく。それはアルファというよりもアルファアマゾンというべき姿であった。ネオのオリジナル態にも近いその姿を見た悠はもう人間としての仁は死んでいることを確信する。
「煌と同じようにもう人間としての仁さんは死んでるんですね。今のあなたはただのアマゾン。それなら…狩りもしやすい!」
もう一度アマゾンズインジェクターを操作し液体を注入する悠。今度はネオアマゾンズドライバーから音声が鳴る。
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「ウォオオ!!アマゾンッ!!」
自分の戦闘意欲に答えてなのだろうか。久しぶりに感情をむき出しにした変身で悠の体はようやく変化し始めた。ニューオメガはアルファアマゾンに飛びかかる。しかしアルファアマゾンの全身の棘に刺され右手から血が噴き出す。
「ぐ…!」
「ん?なんだお前アマゾンか?なんでそんな旨そうな匂いがお前から…?…ま、いいか。」
アルファアマゾンの体当たりはニューオメガを怯ませる。しかしそのタイミングでアマゾンズインジェクターを操作し武器を生成する。
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アマゾンネオブレイドで接近しているアルファアマゾンに斬撃を食らわせる。奇声を発しながら後ろへ下がるアルファアマゾンに続いてフットカッターで攻撃をするニューオメガ。
かつて理性的な戦い方で悠を追い込んだ仁も理性が失われればただの獣。最近パワーが落ち始めたニューオメガでもアルファアマゾンを仕留めることにそこまで苦労はしさそうだ。
「グァアァ!俺はァ…人間を喰いてえんだアァァ!!」
「ハァハァ…仁さんの体で…そんなことを…言うな!」
「おい!これは何だね!」
崩壊する研究室に現れたのは目黒と二宮だ。アルファアマゾンがカプセルから出ていることに驚きを隠せない目黒。
「悠くん…君は!」
「ラッキィイ!」
アルファアマゾンはすぐに2人の所に飛びつく。
「危ない!」
悠が警告した頃には時すでに遅し。二人は首筋からアルファアマゾンに噛みつかれ喰われていた。
「くそおおお!!!」
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ニューオメガのアマゾンパニッシュが繰り出されると、それを左手で抑えるアルファアマゾン。出力が弱くなっているためか人間を喰らったことでアルファアマゾンのパワーが強くなったせいか…。普通のアマゾンであれば一撃で死ぬ攻撃を押さえこむアルファアマゾン。
「ウオオオ!!!」
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もう1度アマゾンズインジェクターを操作し、今度はアマゾンネオブレイドでアルファアマゾンに斬りかかる。2度の必殺技使用にネオアマゾンズドライバーから火花が散り始め、壊れた。だがそんなことに構うことなく両手の凶器をアルファアマゾンに押し続けるニューオメガ。
「ウアアア!!仁さん!!」
その呼び声に一瞬アルファアマゾンの力が緩む。その隙をついてニューオメガの攻撃はアルファアマゾンを切り裂いた。
釣り目のような赤いコンドラーコアのアマゾンズドライバーを投げ捨てるニューアルファ。煌の首を掴んで持ち上げている。
「緋彩…俺は…煌…だ。」
「煌は死んだ。お前は…アマゾンだ。」
「緋彩ォ…!」
「安心しろ。全てが終わったら…俺もそっちへ行く。それが仁さんのやり方だ。」
「仁さんはなんで俺を助けてくれたの?」
研究室でネオアマゾンズドライバーの調整をしている仁に緋彩は尋ねた。
「ん?…それは何というか人違い…だな。」
「人違い?」
「ハハ。ほんとはさ、生きて欲しかった奴がいたんだ。そいつとお前の名前が似てた。そんだけよ。」
「そんだけって…。じゃあ仁さんの気まぐれのせいで俺死んでたかもってことじゃない。」
「わりぃわりぃ。でもさ、そいつを失ってから分かったんだよ。そいつが生きる道もどこかあったんじゃないかって。その可能性を模索することなく俺は…。」
仁は言葉を詰まらせて窓の方を向いていた。たぶん泣いているんだろう。この人はアマゾンとの戦いでは強いがこういうことには…弱い。
「俺も戦うよ、仁さん。俺だってもうアマゾンなんだろ。」
「そうだな…もし俺が戦えなくなったら。その時はお前がすべてのアマゾンを狩ってくれ。俺の代わりに。」
ニューアルファの手には黒い液体がべったりとついている。手を払いその液体は地面に散った。ネオアマゾンズドライバーを外し緋彩の姿に戻るとその目には涙があふれていた。
大病院の一番上は野座間製薬によってフロアごと貸し切りになっている。関係者以外は一切の立ち入りを禁止されており野座間製薬から用いられたセキュリティが敷かれている。そこの1室に令華はノックをしていた。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
中にはあらゆるチューブに繋がれた天条がベッドに横たわっていた。無理やりにでも存命しようという意思は最早狂気に近い。
「どうなったかね。」
「はい。賀閣の元にあった鷹山仁は悠によって処分されましたが、こちら側のサンプルであった煌も賀閣のアマゾンにやられました。それと会長はご興味がないかと思いますが、賀閣製薬の社長 目黒氏は死亡。今回のアマゾン研究を秘密に行っていたことが世間に公表されたため、賀閣製薬へのバッシングは免れないかと。」
「どうでもいいな。2人のサンプルが死んだ。それが重要だ。」
「お言葉ですが会長。以前アマゾンは人間の手に負えるものではなかったと結論付けられたのではないですか?どうしてまた興味をお持ちに…。」
「水澤悠の存在だよ。」
「悠の…?」
令華はしばらく考え合点がいった顔をした。
「なるほど。悠の体が人間に近づいていることですね。」
「アマゾン細胞を取り込んだ人間 鷹山仁。その息子 千翼。それぞれが別のアマゾン細胞へと体が変化していった。そして人間の細胞にアマゾン細胞を加えてできた水澤悠。それも例外ではない。」
「しかし悠はいずれの2人とも違う変化を遂げています。アマゾン細胞が人間に近い細胞へと。」
「水澤悠こそ人間がアマゾンを越した存在へと昇華した証!私は今までアマゾンを至高の存在だと考えていたがそんなことはなかった!まだ人間は…面白い!」
天条は呼吸器を自分で外し高笑いを上げる。ベッドの近くに置かれた椅子に座る令華も満足そうな顔をしていた。
検査室から出てきた悠を見つけた美月は手を振って場所を示す。それを見た悠は美月の元へと駆けていった。
「ごめん、お待たせ。」
「どうだった?」
「うん、今のところ寄生型アマゾン細胞は見られないって。」
「よかった…。」
「そうは言っても僕はアマゾンだからあんまり関係ないけどね。」
「でも何かあったら心配だから。」
「ありがとう。」
美月の頭を撫でた悠は感謝の言葉を告げる。しかし本心では嘘を言ってしまったことを謝りたかった。
「寄生型アマゾン細胞が…残ってる?」
医師と研究者によると悠の体には寄生型アマゾン細胞が残っているとのことだった。それが自分の体にどう影響するのかはわからない。何せ悠はあまりに特異体質すぎるためサンプルがないからだ。
だがこれからやることを変えるつもりはない。どこかへ旅立っていった緋彩とも約束したのだ。全てのアマゾンを狩ると。
そして終わらせる、この悲劇を。
悠は赤いコンドラーコアのアマゾンズドライバーを自分のリュックサックに入れて病院を出た。目の前には笑顔の美月が悠に手を差し伸べている。
大変お待たせしましたがこれが最終回となります。
いやー…疲れたw
結構強引な終わり方になってしまったのは大変心苦しかったです…。許してください。
結局悠は人間に近い存在になりつつあったからアマゾンとしての力が弱まっていた…ということでした。
しかし仁との戦いで入り込んでしまった寄生型アマゾン細胞は悠の体の中にあります。
人間に入った時と同じように悠も乗っ取られるのでしょうか。人間ともアマゾンとも言えない存在になってきている悠は寄生型アマゾン細胞とどう向き合っていくのかは読んでくださる方の考えにお任せしたいと思います。
最終回、大変お待たせしてしまいましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
また会う日まで!