トリオン体で沖田さん大勝利ィ!!   作:えんま

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老星落とすは桜吹雪




序章:剣豪一番勝負/一歩音超え

(はし)る、(はし)る、(はし)

 

目先の景色が視界の端へ流れゆく。

その中に幾らの仲間と、幾らの敵が溶けて消えたか。

それでも彼方へとひた走る。

 

『お前に、一番しんどい敵を頼みたい』

 

そう告げられたのはこの戦いが勃発する数日前。

常に誰にも理解されぬ視界がために、誰よりも背負うものの多い男が口にした言葉だった。

あの人の()には、よく助けてもらっていた。

基地の中で、私が倒れる時には決まって、あの人が私の元に向かわせた人がいてくれていた。

ならば、報いよう、その恩に。

 

『沖田隊員、接敵まで残り20秒。現在空閑隊員が交戦中』

 

管制室のオペレータより伝えられた情報に、一つ息を吐く。

そして、鞘より日本刀を模したそれを引き抜く。

 

意識が変わる。

 

人としての沖田桜()から人斬りとしての沖田桜()へと。

 

呼吸はいらない

 

感情はいらない

 

戦いに不要なものはいらない

 

戦闘に不必要な神経が活動を止める。

思考が戦闘に最適化される。

 

「目標、確認」

 

白髪の老兵が、白髪の少年と戦っていた。

数瞬後には接敵する目標の老兵を見据える。

すでに判明している敵の情報は確認済みだ。

敵の振るう武器が、敵国の国宝級の兵器であることも、また。

 

強い

 

しかし、その武器の強さは関係ない。

あるいは、自らの師である祖父に伍するか。

その振る舞いからして、注目すべきはその熟達の剣術、戦闘論理。

 

だけど、勝ちます

 

それが私に任せられた使命ならば。

 

後一歩。

未だ10メートル弱は離れたそこに、一歩。

気配を殺し、装備で反応を消し、完全な死角からの急襲。

刀の切っ先を老兵に向ける。

 

「我が剣にて敵を穿つ」

 

縮地。

祖父より仕込まれた特殊な歩法。

味方の少年へ向けて振るわれる円軌道を描く刃、不可視の如き速度のそれよりも疾く。

 

一歩音超え

 

音すら置き去りにした私の、時が引き伸ばされたような灰色の視界の中で。

切っ先が老兵を刺し穿つ寸前、相手がその身を捩る。

既に突きの軌道を変えることは叶わない。

その肩口を切り裂きながら、刀身が老兵の体を滑った。

 

外した

 

驚愕は、ない。

この相手ならば、やってのけるだろうという確信があった。

そもそも、驚愕などどという機能(・・)は削ぎ落としてある。

 

地に足が触れ、すぐさま一歩、老兵から離れる。

間髪入れず、円軌道を描いて襲来する刃。

 

ひとつ

ふたつ

みっつ

 

全てを躱し終え、改めて敵と相対する。

約30メートル離れたそこで、今一度敵を観察する。

 

口元には穏やかな微笑み。

浅く切り裂かれた肩からは煙のようなものが漏れ出ている。

あれでは決定打足りえない。

わかっていたことだけど。

 

老兵は、己が兵装たる杖を両手で持ち、地にその先をつけた。

悠然としたその構えには、隙があるようで、隙がない。

好々爺然としたその微笑の奥に、油断のない、狩人のような研ぎ澄まされた戦意が見え隠れしていた。

 

「まったく」

 

老兵が口を開いた。

微笑は崩さない。

どころか、少し、嬉しそうですらあった。

私は、気にもとめず再び一歩踏み出した。

 

そしてまた、私は音を超える。

 

全てを置き去りにした視界の中で。

 

私がいたところを敵の刃が空振る。

二歩目のために足をつけた瞬間、既に刃の切っ先が右方向より私に襲いかかる。

 

目標まであと約20メートル

 

甲高い音が鳴る。

一際身をかがめ、刀でその刃を逸らした。

 

もう一歩。

 

既に私はそこにはいない。

真っ直ぐ老兵の元へ。

 

視界外から刃が迫ったのを感じ取る。

私が、円軌道の剣軍の突破することに備えていたのであろう、その一振り。

確実に私が両断される軌道、間合、タイミング。

縮地の速度と、その真っ直ぐしか進めぬ性質に既に対応されたことを知る。

 

そこで私は、未だ10メートル先にいる老兵を見据えた。

自分の装備のひとつを、起動する。

瞬間、私は空間を飛び越えた。

 

残り0メートル

 

老兵が仕込み杖の剣を抜く。

その刀身と、彼の眼前に現れた私の得物の刀身とが激突した。

 

 

玄界(ミデン)の進歩も目覚ましい」

 

 

私の眼前で、私の音が戻ってきた視界の中で、その男は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




病弱を克服した沖田さんを書きたいと思って書いた。
手慰みにゆったり書いていこうと思うので、ごゆるりと楽しんでいただければと思います。

次回からボーダー入隊前の話に時間が戻ります。
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