トリオン体で沖田さん大勝利ィ!!   作:えんま

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楽しんでいただけたら幸いです。


第二話:第一次近界民侵攻

私は病院のベッドの上で、その惨劇をテレビを通して見ていた。

 

 

 

中学2年生、大きな大会を控えた夏前。

練習試合に赴いた先で私は喀血し倒れ、病院に救急搬送された。

調子が悪いにも関わらず無理をし、それに私の呼吸器官がそれに耐えられなかったのだ。

西三門市の病院で目を覚ました私が最初に見たのは、2人の姉の泣き腫らした顔だった。

 

「本当に心配したんだからね!?」

 

姉たちのその言葉に、私は何も返すことができなかった。

 

「己の限界も見極められぬほど、甘く育てた覚えはないぞ」

 

おじいちゃんの言葉には、頭が上がらなかった。

 

端的に言って、焦っていた。

調子の悪い日が多くなり、思うように実力を発揮できないことが続いていて、夏の大会に出られるか不安だったのだ。

 

その時点で、未熟ということですかね

 

胸の内にわだかまるもやもやとしたものを、ため息とともになんとか吐き出そうとする。

それがなんの効果もないことがわかっていても、ため息は止まらなかった。

 

肺から出血した私は、数日入院することになった。

そのことがより、私を焦燥させたけれど身から出た錆。

我慢するしかない。

 

「やだ!私桜ちゃんといる!!」

 

そうわがままを言うキン姉さんを、みつ姉さんはやっとの事で私のベッドから引き剥がすとそれじゃあまた明日、と病院を去って行った。

 

次の日、おじいちゃんとの稽古のために早く起きていた癖で、まだ病院が寝静まっている頃に目が覚めた。

稽古がないことに寂しさを感じる。

 

毎朝やってましたから

 

これから、退院後も含めてしばらくできないであろうことは明らかだった。

お医者様には絶対安静を言い渡されているし、何より今回の一件でより過保護になった姉たちが許さないだろう。

 

それから朝食を取って、そしてベッドの傍にあるテレビを眺めていた時だった。

 

カタカタ、と病院の窓が揺れた。

 

「地震…でしょうか……?」

 

また、少し揺れた。

心なしか、病院の建物も揺れているような気がした。

なぜだか、とても嫌な予感がする。

その瞬間、バラエティ番組を流していたはずのテレビから、緊急速報を告げるアラームが鳴った。

 

三門市で正体不明の兵器が出現し、自衛隊が出動した。

 

端的に言えばそれだけを伝えたその緊急速報ののち、にわかに病院の中がいつもとは全く別の喧騒に包まれ始める。

 

「おい!あれを見ろ!」

 

誰かが、廊下の東に面した窓に張り付いて言った。

 

『ただいま入りました情報によりますと、東三門にて正体不明の兵器が複数現れ無差別に…』

 

いつしかバラエティ番組はよく見るニュースキャスターが情報を読み上げる映像に切り替わっていた。

ベッドを這い出て、フラフラと廊下に出、そして他の多くの患者、そして看護師や医者と同じく東の方角を見た。

 

「たいへんだ……」

 

私は一瞬、自分が喋ったのかと思って口に手を当ててしまった。

それくらい、私とその言葉を口にした人との気持ちは重なっていたのだ。

 

煙が上がっている。

いくつか、少し背が高い建物が倒壊した。

廊下のどこからか悲鳴が上がる。

 

「あれは……」

 

今度は確かに、私の声だった。

建物と建物の隙間、あるいはそれらの屋根の上、何か大きな、生き物のようなシルエットが横切ったような気がしたのだ。

それも、いくつも。

背筋がぞっとする。

 

巨大生物だなんて、そんなSFじみたことがあるんでしょうか

そういえば、テレビでは正体不明の兵器、と……

 

『見てください!まるで生き物のような大きい何かが、無差別に破壊を撒き散らしています!多くの人が逃げ惑い……』

 

どこかの病室のテレビから、そんなアナウンサーの悲痛な声が聞こえてきた。

どうやら、今私の視界に映るヘリコプターからの生中継のようだった。

 

「あっ」

 

地上から伸びた何かに、そのヘリコプターは撃墜された。

甲高い悲鳴を最後に、病室から彼女のリポートは聞こえなくなった。

 

廊下に、沈黙が満ちていた。

恐怖に、誰も口を開けないでいた。

私は、また自分の病室に戻り、ベッドに横たわった。

避難指示はまだ出ていない。

そもそも出るのかもわからない。

 

『ただいま入りました情報によりますと、正体不明の兵器は自衛隊が保有する火器類の効果が薄く……』

 

「なんですか……それは……」

 

ほんとに、SFみたいじゃないですか

 

画面の向こうでは、地獄が広がっていた。

あまりのことに、理解が追いつかなかった。

まるで、よくできたSF映画を見ているような気分だった。

 

「そうだ…みつ姉さん、キン姉さん、それから、おじいちゃんは……」

 

正体不明の兵器が現れたのは、確か東三門だったはずだ。

うちは、この病院と同じ西三門、それに、通っている学校たちも東三門ではなかった。

 

「だから、大丈夫、きっと、大丈夫……」

 

ぎゅっと自分の身を自分で抱きしめる。

同じように、ぎゅっと目を瞑る。

不安と、絶望に、心が押しつぶされそうだった。

おじいちゃんに常に冷静でいるよう叩き込まれたにも関わらず、今の私にはそれができなかった。

 

『これは、どういうことでしょう!』

 

突然、アナウンサーが喚声を上げた。

何事かと顔を上げ、テレビを見る。

そこには、打ち倒された、正体不明の兵器。

その周りにいる、剣を武器にもった異様な集団。

 

彼らは次々と正体不明の兵器へと挑みかかる。

数は多くない彼らは、だけども着実にダメージを与え、そしてそれらを撃破していく。

自衛隊の火器類が通用しなかったというのが嘘のように。

人間離れした動きで。

 

私は、彼らのその人間離れした動きを、確かに目で追えていた。

 

羨ましい……私も、あんな風に動けたら……

 

アナウンサーが、また、大きな声で新たな情報が入ったことを告げた。

 

『ただいま正体不明の兵器を撃破し一団に関して情報が入りました!彼らは界境防衛機関『ボーダー』と名乗っている模様です!繰り返します!彼らは……』

 

「ボーダー……」

 

思わず、その名を反芻していた。

それほどに、彼らの動きと、そして何よりも剣は鮮烈だった。

 

 

その日、突如現れた未知の敵は、彼らボーダーによって撃退された。

その被害は、ボーダーによって東三門のみに抑えられる。

彼らがいなければ、三門市は日本から消滅していたであろうことは、誰もがわかっていた。

 

その後、彼らは三門市、ひいては世界にこう発信した。

 

「こいつらのことは任せてほしい」

 

「我々はこの日のためにずっと備えてきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桜っ!!」

 

「桜ちゃん!!」

 

病室のベッドにいた私の元に、姉たちがやってきたのは襲撃のあった日の夕方遅くだった。

その顔に、どういうわけか泣いた跡があるように思えた。

 

「みつ姉さんも、キン姉さんも、ご無事でよかったです」

 

一気に胸に張り詰めていたものが少し和らいだ気がした。

みたところ、2人はいくらか傷を負っているようだけど、その体の動きから重大な傷害を負った様子はないことがわかった。

 

「ごめんね、遅くなって」

 

そう言うみつ姉さんに、2人が無事だったのだから気にしないと伝える。

2人して私を交互に抱きしめるものだから困ってしまう。

 

一番安全なところにいたのは私でしょうに…

 

思わず苦笑を浮かべてしまったのも仕方ない。

私だって、2人の安否が気になって仕方なかったというのに、ここまで自分が一方的に心配されるとどうにも気が抜けてしまう。

でも、失わずに済んだのなら、よかったのだ。

 

ああ、でも、どうしておじいちゃんはここにいないんでしょう

 

それを考えただけで、再び不安が胸に重くのしかかる。

2人はようやっと落ち着いたのか、私を離してくれた。

もう、聞くならこのタイミングだろう。

 

「それで、お2人とも、おじいちゃんは……」

 

そこまで言って、私は自分の言葉を後悔した。

姉2人が顔を一転して真っ青に変えたのだ。

キン姉さんは、どんどんと瞳に涙をためてゆく。

何かがあったのだ。

おそらく、考えうる限り最悪の。

でも、なぜ。

西三門の外れに住んでいるおじいちゃんがなぜ。

みつ姉さんが、唇を戦慄かせながら口を開いた。

 

「お、おじいちゃんは……おじいちゃんは……西三門の、古い友人に会いに行くって、き、昨日の夜出かけて…泊まりになるって言われてて…そ、そ、それっきり……」

 

目の前が、真っ暗になった。

キン姉さんが、ついに嗚咽を漏らして泣き始めた。

どうして、なんだってこんな日に。

目頭が熱くなる。

 

普段なら、私の稽古をつけて、盆栽をして、自分の鍛錬をして、それで、それで……

 

「どうしてですか……どうしておじいちゃんは……」

 

みつ姉さんは、私の問いに、目を彷徨わせた。

なんだ、どうして、そんな顔をするのか。

私は、これを、知らなければならないと直感した。

そうしなければいけないのだと、思った。

 

「みつ姉さん、お願いです。教えてください。お願いです」

 

私と再び目を合わせたみつ姉さんは、じんわりと涙を浮かべた。

 

「桜、あなたのせいじゃないの。本当よ」

 

つまり、私のせい……?

 

「いいから、みつ姉さん、お願いします。私は、知らなくちゃいけいんです」

 

自分の声とは思えないほど、それは震えていた。

2人の姉さんと同じように。

 

「おじいちゃんは、明日、桜の稽古もないから、古馴染み達と朝まで酒を飲み交わしてくるって……」

 

 

 

 

ああ、つまり、私が剣道の試合で無理をしなければ、おじいちゃんは……

 

 

 

 

「ごめんね、桜、私が、私が止めてれば……」

 

みつ姉さんが、泣き崩れた。

 

「違います、姉さん、私が、私が……」

 

それっきり、言葉にならなかった。

喉の奥が、胸が苦しかった。

涙が止まらなかった。

私と、みつ姉さんと、キン姉さんは、3人で抱き合ってわんわんと泣き続けた。

それくらい、私たちにとって、おじいちゃんは大きな存在だったのだ。

 

 

 

その後、おじいちゃんの死が正式に確認された。

幾人もの市民を、おじいちゃんの持つ様々な技術を以て近界民から逃がした末の死だったという。

おじいちゃんは、最後まで武人として戦場に在ったのだった。

 

 

 

 

 

 

ーそれから2年、私は運命に出会う

 




未来が見えたならば。


次からがっつりボーダーと関わります。
この後桜の家族はほとんど本編に関わりませんが、それでもオリキャラのタグはつけたほうが良いのか悩みます。
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