「綺麗〜。緑はいっぱいで空気も美味しいし。それにあそこ、川があるよ!」
「うん。風も気持ちいいし、全身で自然を堪能できるって感じだね!」
メランコリウムを後にして、夢紬の伝承があるとされる遺跡を目指しているナハト達は現在、レーヴァリアでも珍しく豊かな土地に来ていた。レーヴァリアで初めてこうした環境に来て、直葉とユウキははしゃいでいた。
後ろからそれをキリトが欠伸をしながら眺めている。
「ふぁ……レーヴァリアにもこんな場所があったんだな。ちょっと昼寝でもしたいな」
「確かにのう。こう心地良いとダラけたくなる。どこもかしこもヴールの気に満たされると思っておったからのう」
「確かにこの辺りは正常ですが、ある意味今のレーヴァリアでは特殊とも言えます。ルフレス族の街が近いからです」
ナハトは歩いている方向とは別の方角を見ながら話す。その表情はどこか辛そうだ。
「成る程。メランコリウムはルフレス族の夢守が沢山いますが、あそこには今ラーフがいますから」
バゼットが言うと、一護がナハトの顔を見て聞いた。
「ルフレス族の街に行かなくていいのか、ナハト?今その街には力の弱い若仔しかいねぇんだろ?」
「あれ〜?もしかして一護、若仔を心配してるの?」
「ユウキ。一護は優しいから」
「顔は凄く怖いのにね」
「うるせぇ」
ユウキが振り返って一護をからかうと、それにイヴと直葉が援護射撃をする。そのやりとりを見て、ナハトは表情を和らげた。
「いいんです。今、僕たちはかつてない試練に晒されています。全ての夢守を集めても足りない今、若仔たちには一刻も早く自立してもらわなければなりません。その為には、ここでぼくの姿を見せて安心させるような事はしたくない」
「自分で考えるようにして欲しいってことか……」
ナハトの言葉を聞いてポツリと呟いた獄寺が、更に続ける。
「でもよぉ……、俺たちをここに呼んだのはその若仔たちなんだろ?それって自分たちで考えたことってことにならねぇのか?」
「そうかもしれません、結果としてあなた方を巻き込んでしまいましたが……」
「ナハト……」
キリトは再び辛そうな表情をするナハトに、どんな言葉をかけようか迷った。隣にいた太公望がキリトの肩に触れる。
「彼奴にも大事なモノがあるのだろう。大切な人を危険に晒したくないという気持ちは分からなくもないからのう」
「……そうだな」
街を寂しそうな顔で見つめるナハトをキリト達は優しく見守った。
✳︎
心地いいそよ風が吹く、草原で一人の少女が目を覚ました。名前は立花響、茶色の髪の上にヘッドホンをつけており、服装はどこか機械ちっくだ。
「ふぁぁ、よく寝たなー……って、ここどこっ!?んー、それに記憶も曖昧だし」
辺りを見渡すが一面草原で何もない。響は立ち上がると、とりあえず人がいないかと歩き始めた。
「きっとなんとかなるよ!そうと決まれば行動だ」
考えても仕方ない、記憶もその内思い出すだろう。と、楽観しながら平野を歩く響。
そんな彼女の前に、光り輝く何かが現れた。
「およっ?何だろう……あっ、人だ!やった、おーい!」
光の近くにいた人に手を振りながら寄る。しかし、向こうは気づいていないのかこちらに振り向く様子がない。しかし、二人いる片方が響に気づいた。
「気づいてくれたんだ!あの、ここってどこかわかりますか?」
「…………俺にさわるな!!」
赤い髪の少年が銅色の腕輪を飛ばし、響の足元をえぐった。
「うわっ!?」
攻撃された事でその場から動く響。しかし次は赤髪の少年の隣にいた黒髪の少年がトンファーを持ち、響に襲い掛かる。
「咬み殺すッ!!」
「何でッ!?」
トンファーの一撃を間一髪で躱すも、二人の攻撃は止まない。赤髪の少年は空へと飛び、腕輪を飛ばしてくる。
「空からッ!?そんなのズルイよ!!」
響は走り回り、腕輪の攻撃をやり過ごす。放たれた腕輪は地面にめり込んでおりその破壊力を見せしめる。それを見て血の気の引く響。しかし、逃げた先にはトンファーを持った少年が待ち構えている。
「どうして攻撃してくるのー!?」
響は二人の猛攻を躱しながら、逃げ回っていた。
✳︎
ナハト一行が遺跡に向け歩いていると、道の先に人がいるのが見えた。茶髪の少女を先頭に黒髪の少年が地で、赤髪の少年が空から追いかけている。それを見て金髪エルフの直葉が指差す。
「ねぇ、あそこに人がいるよ!」
「私達と同じ『目覚めの人』でしょうか?」
紫の髪に紳士服を着た麗人、バゼットが言うとナハトが肯定した。
「はい、あれは『夢見る目覚めの人』です! 後ろの二人はヴールに取り込まれています!!」
三人の様子を見て、太公望が打神鞭を抜く。
「早く助けには入らんと追われておるあの娘も時間の問題じゃ!」
「待って、ヴールが出てきてる!!」
イヴの言葉通り、向こうの三人との間に大量のヴールが現れた。今までの狼型ではなくどこか赤黒い色をしている。他にも石で出来たゴーレムや奇異な色をしたモンスターがいた。
「なんだよあれ?」
「気持ち悪い……」
奇異な色のモンスターにキリトとユウキが顔をしかめる。蛍光の強い色のモンスターは二足歩行も入れば四足歩行、飛行しているものも見られ全てに一部液晶ディスプレイのような部位がある。
「なんつーか、特撮に出てきそうな怪獣の形だな」
「確かに……」
「うん、そんな感じだよね」
「気味が悪りぃ」
一護の感想にキリトと直葉、獄寺が納得した様子をみせる。
奇異な色のモンスターの正体は立花響の目覚めの世界の『ノイズ』と言われる特殊生命体である。ノイズは位相をずらす存在で人を炭素に変えるが、このレーヴァリアにおいてはその能力はなく、単純にノイズの持つ攻撃方法しかない。
「こんな形のヴールは見たことがない。まさか、ラーフの力が増したのか?」
「どういう意味じゃ、ナハト?」
初めて見るヴールに戸惑いが隠せないナハト。新種のヴールに、強化されたような狼型のヴール。ヴール側の力が増している為に起きた現象だとナハトは行き着いた。
「いえ…………、 私も初めて見るヴールですので何をしてくるか分かりません。 皆さん気を付けてください!」
「ギヒッ、どんな奴が出て来ようが関係無ぇ」
「ああ、全部倒しゃあ良いだけだ」
ガジルが不敵に笑い、一護は斬月を背から抜き取る。斬月に巻かれた包帯がヒュルヒュルと解け、刀身が姿を現わす。次いで、キリト、直葉、ユウキも剣を抜き構える。
夢紬の姿に変わったナハトがこの場の全員に聞こえるよう言った。
「皆さん、先ずは『目覚めの人』を助けましょう。追いかけられている彼女もいつ取り込まれるかわからない」
「解りました。一気に突破しましょう」
グイッと手袋を引き返事をするバゼットの言葉に獄寺が弓を引き放った。
「果てろッ!!」
真っ直ぐに飛び出した矢は紫のオーラを纏っている。
獄寺の『目覚めの世界』に存在する死ぬ気の炎と言われるものだ。全部で大空、嵐、雨、晴れ、雷、雲、霧と七つの属性がある死ぬ気の炎、獄寺が主に使うのは嵐属性の炎である。しかし、嵐の炎の色は赤黒いものであり、現在矢が纏っている紫の色は雲属性の炎だ。
死ぬ気の炎には属性にそれぞれ特徴的な性質がある。雷なら硬化、嵐なら分解、雨なら鎮静とそれぞれの属性に見合った性質があり、そして雲の属性にある性質は増殖だ。
一本だった矢はみるみるうちに二本、四本、八本と、その数を倍に倍に増やしていく。気付けば一万本近くにまで増えた矢は目の前のヴールに降り注ぐ。
矢に触れたヴールは次々に分解されていく。理由は簡単、矢には雲属性の炎に包まれるように嵐の炎も混じっていたからだ。
現れたヴールの大半を倒したが、それでも向こうにいる『目覚めの人』までは届かない。
見事な殲滅を見せた獄寺を見て、近接戦闘組は唖然とした。
「なぁ、もう俺たち必要無くないか?」
「僕たちの出番無いよね、これ」
遠い目をしながら溢したのはキリトとユウキだ。イヴは見たところいつもと表情が変わっていない。一護とガジルも自分には飛び道具があるからかキリト達ほどにはなっていない。しかし、彼らは全員揃ってある一人をジーっと見つめた。
「なんじゃ、お主ら?そんな、優秀な後衛がいると楽だなーって言いたそうな顔をしおって」
「「「……別に」」」
「……よいのじゃ、どうせわしなど役に立たん道化なんじゃ」
いじけて三角座りを始める太公望をみんなが同情の眼差しで見つめる。そんな太公望を敢えて無視してバゼットがヴールの先のあるものに気付いた。
「あの人、どうやらこちらに気がついたようですね」
全員が響の方を見ると、彼女は全力で手を振り何かを訴えている。
「あっ人だ! おーいッ!!」
元気よく手を振る姿にキリト達は響が無事である事を理解した。しかし、響の周囲にはノイズ型のヴールが多く、獄寺が範囲攻撃を行おうにもヴールと響の距離が近すぎる。
「呑気に手なんて振りやがって、自分の状況がわかってんのか?」
「どうだろうな。とりあえず早い事周りのヴールを倒すぞ」
一護とキリトが飛び出しヴールに斬りかかる。それにユウキ、直葉、イヴが追随する。
動きの遅いノイズ型のヴールをキリトとユウキ、直葉が手早く倒し、狼型のヴールを一護とイヴが引き受ける。
響との距離が近くなってきたところでナハトが呼びかけた。
「『目覚めの人』よ、聞いてください」
「目覚め? 確かに起きてるけど……って、それよりあなた達は!?」
「説明は後でします。今は力を貸して下さい!」
「味方……って事でいいのかな? はい!私に出来ることがあるなら!」
後ろの二人から逃げていた響がくるりと向き直す。ヴールに取り込まれている二人の近くにも狼型やノイズ型のヴールがいる。
響は拳をグッと握ると頭に流れる歌を口ずさみ飛び出した。
「絶対に、離さない、この繋いだ手は!」
正拳突き、一突きで飛び込んで来た狼型のヴールを霧散させると次は蹴りで、また拳でとヴールを倒していく。
「こんなにほら、あったかいんだ、人の作る温もりはッ!」
「歌?」
「何だかこっちまで力が湧いてくるよ!」
響が唱う声にキリト、ユウキが反応する。響の唱によって『夢見る目覚めの人』の動きが格段に良くなっているのがわかる。
順調にヴールを倒していく中、ナハトが大きく揺れたヴールの気を察知した。
「なんだあれは!?クリスタル……?あそこから次々と現れているのか?」
「どうしたのじゃ、ナハト?」
「太公望さん、あそこにあるクリスタルからヴールが現れているようです」
ナハトの視線の先に大きな紅い結晶があった。少し観察していると結晶の側から新しくヴールが現れているのがわかった。
「あれを先に破壊せんとならんのう」
「あっ!?ヴールに取り込まれてる二人が近くで守ってるよ!」
ユウキの指摘通り、黒髪と赤髪の少年が結晶の前に並ぶ位置を取っている。そこから動く様子が無く、如何にも紅い結晶を守っているという風に見える。
「ギヒッ。面倒クセェ纏めて壊せばいいだろ!」
「ガジルさん!?あの二人は壊したらダメだよ!」
不敵な笑顔で物騒な事を言うガジルをリーファが注意する。そうこうしている内に結晶からヴールが増えていく。
「御託は後です、急いで倒しましょう。獄寺さん、ここからあのクリスタルを狙えますか?」
「わからねぇが……やるか!」
バゼットに促され獄寺は弓を弾いた。放たれた矢は先程と同様に無数に分裂し、紅いクリスタルの周囲を埋め尽くさんばかりに降り注ぐ。しかし、嵐のような大量の矢はクリスタルに当たる数メートル手前で爆ぜた。
「なっ……!?」
獄寺の驚愕を他所に矢が爆ぜた為に出来た煙が晴れる。そこにはウニのような針の生えた球体がいくつもあった。たくさんある球体の隙間から紅い結晶を守るように立っている、黒髪の少年の姿が見えた。彼の手には蓋の開いた匣があり、指にはめてある指輪から紫色の炎が灯っている。
「あれって……」
「獄寺さんの使う匣によく似てますね」
イヴの言葉をバゼットが続ける。
みんなが黒髪の少年に視線を向けていると上空から何かが発射する音が響いた。
「上だッ!」
逸早く気付いたガジルが声をあげ、腕を鉄剣に変えて飛び出す。音の発生元は赤髪の少年による上空からの攻撃。腕につけている二つの大きな腕輪を放ったのだ。
「ぐっ……」
なんとか放たれた腕輪の一つを弾くも、残ったもう一つが後ろに下がっていたナハトに向かっていた。
「ナハトッ!」
ナハトより前に出ていた者たちが振り返り、ナハトの名を叫ぶ。しかし、咄嗟の事で他の夢守よりも戦闘に慣れてはいるが、戦いが得意ではないルフレス族であるナハトは腕輪を諸に受けてしまった。
「がはッ………!」
「ナハトさん!」
直撃を受けたナハトは吹き飛ばされ、受け身も取れず地に打ち付けられた。直葉が急いで駆け寄り、回復魔法を唱えながらナハトの様子を見る。攻撃を受ける直前で咄嗟に身を下げたのか、命を失うほどではない。しかし、早急に対処しなければ危険な状態である。
「うぐっ……」
「!?」
直葉が詠唱している途中、ナハトは夢紬の姿を維持出来なくなったのかルフレス族本来の姿に戻った。直葉がナハトの治癒を行なっている間も紅い結晶から次々とヴールが現れ、ナハトを狙うように向かってきていた。
「ナハトを守るのじゃ!獄寺とバゼットはこの場で防衛、ガジルはクリスタルの破壊を頼む。キリト、一護、ユウキ、イヴは『目覚めの人』を抑えよ!」
窮地の事態に太公望の指揮が飛ぶ。太公望の指示に全員が頷き、了承の返事を力強くする。
「果てろッ!」
ナハトに向かってくるヴールを遠距離から獄寺が矢で、
「疾ッ!!」
太公望は風の刃で対処する。
「ハァッ!」
二人が撃ち漏らしたヴールを、バゼットが相手をする事でなんとかその場をやり過ごし、ナハトの回復とクリスタルの破壊、ヴールに取り込まれている『夢見る目覚めの人』を倒す為の時間を稼ぐ。
襲い来るヴールを最低限の動きで突破していくキリト達。そんな彼らを地中から現れたマンションサイズの昆虫を模したノイズ型ヴールが阻む。
「キリトッ!」
「ああ!」
ユウキの呼びかけにキリトは短く返答する。二人は並走するように位置取ると、剣を肩に乗せ溜めを作った。二人の闇のような黒い剣の刀身が段々と赤みを帯びていく。赤い光芒が最大まで輝く瞬間、二人は力強く地を蹴った。
「ハァァァア!」
「おぉぉおお!」
ジェットエンジンの様な轟音と気合を迸らせて突いた剣技は巨体なノイズ型ヴールを貫いた。交差する黒と紺の一撃にヴールは体を膨張させると直ぐに爆散した。
前方には黒髪と赤髪の少年、二人が紅い結晶に至る道を塞いでいる。イヴと一護がキリトとユウキの傍を駆け抜けた。
「私が黒い方を抑えるから、一護はあっちの赤い髪の方をお願い」
「了解! 恨みはねぇが一気に片ぁ付けさせてもらうぜ!」
二人がそれぞれと対峙に至るまでの距離はもうそう遠くはない。赤い髪の少年が空中に浮きあがり背中に下げていた三槍を構えた。
「空から綽々と狙うってことかよ!」
一護が上空にいる赤髪の少年を見上げていると、彼は三槍から斬撃を放った。
イヴと一護は、余裕を持って身体を横にずらし躱す。しかし、二人の丁度間に撃たれた為に二人は完全に分断された。
「テメェの相手は俺だ!」
一護の視線は赤髪の少年を離さない。それに気づいたのか、赤髪の少年も一護を目で捉え続ける。上からのアドバンテージを活かし少年は三槍を振るう。
一直線に向かって来る斬撃に一護は慌てる事なくしかめ面でその場で地を蹴った。
一護の世界で死神の使う歩法『瞬歩』である。
「!?」
斬撃により発生した砂埃が晴れた先にいるはずの一護の姿がない事に、赤髪の少年は目を見開いた。何処に逃げたのか左右に地を見るが一護の影すらない。必死に探していると背後からあり得ない声がした。
「どこを見てやがる? 空中がお前だけの特権だと思ってんじゃねぇぞ!」
力強く斬月を振り下ろすと赤髪の少年は三槍で受け止めにいく。しかし、態勢も悪く空中という踏ん張りの効かない為に地に落とされた。
「くっ……」
「これで終わりだ!月牙……天衝ッ!」
駄目押しとばかりに月牙天衝を放つ。加減はしているのか少々、小ぶりの斬撃だ。赤髪の少年は動くことも出来ず間に受ける。
粉塵が晴れるとそこには気を失った少年が横たわっていた。
✳︎
赤髪の少年の攻撃で分断されたイヴを、黒髪の少年が襲う。両手に持っているのは、日光に照らされ光を強く反射している銀色のトンファーだ。先程の球心体は直したのか見える範囲にはない。
「……群れるなら、咬み殺す!」
羽織っている学ランが一瞬、フワリと浮いたと思うとグンッと大きく一歩を踏み出してイヴとの間合いを詰めていた。咄嗟の事に、判断が遅れたイヴは得意な、髪のトランスで対処する。
「くっ……!」
拳の形に変えた髪で、トンファーの一撃を受け止める。続けてきた二撃目も捌くが、黒髪の少年は捌かれた反動を使って回転し、トンファーの後頭をイヴのお腹にヒットさせた。
「ぁがッ!?」
軽く吹き飛ばされながらも地に足を付けて後ずさる。お腹に一撃をもらったがそれほど致命傷というわけではない。お腹を軽くさすり、痛みを堪えていると、 少年が匣に火を注入した。
「なに……!?」
イヴと黒髪の少年を中心にドーム状の部屋が出来た。見たところ空間に穴の様なものは見当たらず脱出する事は難しく思える。少年の奥には紅い結晶が漂ってはいるが新しいヴールがこの空間に現れる様なことは無さそうである。
現状を理解する事に勤めようとするも、相手はそれを待つことなどしない。イヴは黒髪の少年を倒す事だけに集中した。
✳︎
「イヴ!」
大きな針のある球心体に呑み込まれたイヴを助けようとユウキが声を荒げて、球心体に攻撃を仕掛ける。
「ユウキ、無茶するな!」
「でも! イヴが!」
キリトが焦るユウキを留めるがそれでもユウキは攻撃を続ける。単発の『ソードスキル』を何度も放つが球心体はビクともしない。段々と剣技にキレがなくなると後ろから声がした。
「ユウキ、離れろ!こっから一撃くれてやる!」
「俺もだ!」
一護が斬月を上段に構えながらユウキに叫ぶ。その隣ではガジルが大きく息を吸い込んでいる。
「月牙ッ……天衝!」
「鉄竜の咆哮ッ!」
三日月型の斬撃と鉄の息吹が球心体とぶつかる。ドゴォォン、と大きな音を立てると、僅かだが球心体が揺れた。煙が晴れると球心体の針が所々欠けている。しかし、球体自体には穴などなく、それを見た一護が歯噛みした。
「チッ、これでもダメか」
「早くしないと、イヴがやられちゃうよ!」
刻々と閉じ込められている時間が経つ事にユウキの焦りが酷くなる。ガジルと一護がもう一度技を撃とうとすると、背後から歌が響いてきた。
「きっときっと叶うはずさ、不可能なんてないはずさ」
橙の影が二人の後ろから高く跳んだ。立花 響はそこから槍の様に真っ直ぐ球心体の上部に向かう。拳を作り、大きく振りかぶると『シンフォギア』が彼女をアシストする。
「戦う事を恐れず、でっかい気持ち……さぁ」
『シンフォギア』のアシストにより通常の何倍もの威力を持った拳を響は突き出した。
「ぶっ込めこのエナジーをォォオ!」
力強い言霊をあげて球心体を殴るとさっきよりも大きく球心体が揺れ動いた。響の拳により球心体の上部は大きな穴が空き、響はそこから中へと潜入した。
「なんて馬鹿力だ!?」
「あいつ、中に入っていったぞ!」
キリトが彼女の腕力に驚いている中、一護が球心体の中に響が入っていくのを見た。
それにつられてユウキが中に入ろうと促す。
「僕たちも早く行こうよ!」
「ああ……いや、待てユウキ!周りにヴールが集まっていやがる。先にこいつらを片付けてねぇとおちおち助けにも行けねぇぞ」
気付けば大量のヴールに囲まれていた。四方八方を塞がれており、抜け出すのも困難だ。キリトが球心体を見て呟きながらヴールに向かっていた。
「……イヴ、無事でいてくれよ」
✳︎
「ハァハァ……」
イヴは息も絶え絶えに黒髪の少年と戦い続けていた。ほんの数分しか対峙していないにも関わらず、イヴの体は所々にトンファーや足で殴られたと思わしき痣がある。それに対して黒髪の少年は、正気を失っていながらも涼しい顔でいる。
「これで終わりかい。もっと噛みごたえがあると思っていたんだけどね」
コツ……コツ……と、緩やかとした歩みでイヴの下まで向かってくる。呼吸も整わない中でイヴは一矢報いるために拳を作る。そして、二人が大きく一歩を踏もうする直前、球心体の天蓋から大きな破壊音が響いた。
「をォォぉぉお!」
上から現れたのは立花 響だ。二人のちょうど真ん中に着地し、片膝をついた状態で二人を交互に見る。
「…………」
「貴方は……」
突如、天井から現れた響を見てイヴは目を丸くした。いきなりの事で頭が追いついていないのかそのまま立ち尽くしていると、目の前の黒髪の少年の口元が緩んだ。
「へぇ、君……強いの?」
言い終わると同時に重いプレッシャーを感じたイヴと響はビクッと身体が震えるのを必死に抑える。イヴは前にいる響に向かって叫んだ。
「貴方はここから逃げて!ここにいたら貴方もやられる」
響は声に反応して一瞬振り返るも、すぐに向き直し答えた。
「大丈夫。二人でやればきっとなんとかなるよ!」
口からの出まかせだと直ぐにわかった。それでも彼女の言葉にイヴは出来ると、なんとかなると感じた。
「私はイヴ。貴方の名前は?」
「立花 響。響って呼んでイヴちゃん」
「響、ちゃん付けはいらない。私もイヴでいい」
「うん。行くよ、イヴ!」
響が地を蹴り、一直線に黒髪の少年に向かう。握った拳をめいいっぱいに振り、攻撃する。少年は半身になり、最小限の動きで響の拳を避けると、目の前に響が来たとこで無防備な背中に蹴りを入れる。
「やぁぁ!」
間髪入れずに次はイヴが纏めた拳を放つ。黒髪の少年はそれをトンファーで受け止めるとそれとは逆の手で髪を掴む。
強く引き、イヴの身体は宙で弧を描き放り投げられた。
「ガハッ……」
背中を強く打たれ思わず声が漏れる。それでもすぐに立ち上がり再び、黒髪の少年に挑む。
「ハァァァァア!」
『ゴールドラッシュ』、髪を束ねた拳による金色の連続パンチ。これには流石に防御に回らざる得なくなった少年。しかし、倒すにはまだ足りない。
ガコンッ。
目の前のイヴに集中していた少年の耳に後方から機械音が届いた。反射的に目線をわずかにズラし確認するとそこには響が腕のギアを引き絞っているのが見えた。瞬時に危険だと判断する。けれど、その場から逃れようとするが遅かった。
「逃がさない」
目の前の少女と目が合うと自分の状況を察した。両手、両足が金色の髪に括られ身動きが取れなくなっている。イヴが一瞬の隙を見逃さず拳に纏めていた髪を変化させていたのだ。
「くっ……」
絡まった髪を解こうと試みるも簡単に解けない。そんな無防備な少年に向かって響が走り出した。腕部のギアが回転し始める。
「最速で、最短で、まっすぐに!……一直線にィィィイ!」
響の叫びが球心体に響き渡る。響の拳が当たる直前、イヴが少年を捉えていた髪を解放する。ギアにより強化された拳は少年を吹き飛ばし、紅いクリスタルをも破壊した。
読んでいただきありがとうございます。
キャラがブレている……。
ではまた次回。