東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 更新遅れました。大会に体育祭と忙しかったので、すみません。次回はもう少し早く更新したいです。
 それでは最新話。マイペースにお楽しみください。


マイペースに愛の意味

 霧雨さんとの弾幕ごっこ。

 幻想郷に来て初めてとも言える遊びなわけだが、これには予想以上に専門的な技術と知識がいるようだ。一般社会に生きてきた俺にとって、この遊びを乗り切るのは至難の技だろう。

 まず、ショット。

 これは弾幕ごっこにおける基本らしいが、頭頂部から爪先まで一般人である俺には撃つことなど勿論できない。幻想郷初日に紫さんから言われた『謎の力』とやらの使用法と正体が分かれば修行もできるだろうが……ないものねだりをしても仕方がないので、今回は河童の河城にとりさん(ツインテール。人見知りが可愛かった)のご協力を仰ぐことにした。所謂、秘密兵器と言うヤツである。

 にとりさんは自身のリュックからドでかい掃除機のようなものを取り出した。本体側面に紐がついているが、まさか背負う系ですか。

 

「えっとね、これは私の発明品の一つで『弾幕用霊力変換機』っていうんだ。形は掃除機みたいだけど、本体はブースターで、筒のところは霊力弾を撃てるようになっているのさ。いわゆる銃みたいなヤツだね」

「俺、霊力の練り方とかまだ分からないし、そもそも霊力なのかも知らないんだが。大丈夫なのか?」

「心配はいらないよ。これは早苗に言われて作った発明品でね? 雪走が弾幕ごっこをする時に役立つように設計されているのさ。だから大丈夫だよ」

 

 カチャカチャと変換機の調整を続けながらそう言うにとりさん。俺としては兵器の素晴らしさより東風谷の意外な心遣いに感謝したいところではある。助かったぜ東風谷。さすがに媒体なしでショット撃つには実力が足りない。修行の一つもしていないのに、弾幕なんてばら撒けるはずもないし。

 

「まぁ力の正体を掴んで修行してからの方が霊力の変換がスムーズになるのは認めるけど。コイツ燃費悪いしね。力だだ漏れだと、すぐにバテちゃうかもよ?」

「そこら辺は霊夢への愛でカバーするから問題ない」

「そういう根拠のない自信が羨ましい限りだよ」

 

 根拠のない自信を持ちがちな妖怪が言っていては世話がないと思うのだが。もしかしたらにとりさんは意外と気弱な人なのかもしれない。最初は相当人見知り全開だったし。よくもまぁ普通に話せているものである。何か友好的に感じる部分でもあったのか。それとも客商売中だからか。どちらにせよ、話せるようになったのなら御の字だ。

 

「……よし、調整完了。ちょっと装着してみてよ、雪走」

「合点承知の助」

 

 古いね、と古都幻想郷の住人に言われる始末である。古き良き伝統の応答をなんだと思っているのだ。

 変換機の本体を背負い、どこぞのビーム兵器のような銃型の部分を握る。本体から銃へとチューブが繋がっているので、これを通して霊力を変換するのだろう。なんか配管工の弟がマンションを冒険する装備みたいだな。

 ……というか、

 

「重くないか?」

「軽量化するには時間が足りなくてねぇ。今開発中の『自立式霊力散弾射出機』もあるし、その重さはもう我慢してもらうしかないかも。男の子なんだし、大丈夫でしょ」

「男より怪力な河童に言われても驚くほど説得力ないですね」

「私はエンジニアだから非力なの。か弱い女の子なのさ!」

 

 「ふふん♪」と自慢げに胸をはるにとりさんだが、その背中に見えているリュックは結構大きめではないだろうか。見た感じでも数十キロはありそうなのだが。引き籠りエンジニアでこれならば、体育会系河童は想像を絶する。ぜひとも相撲は避けたいところだ。

 にとりさんから大まかな取扱説明書と激励の言葉を貰う。変換機はくれるそうだ。調整と故障の時はいつでも来てくれとの事。優しいな河童。とても尻子玉を抜くような残虐な妖怪だとは思えない。今度お礼にキュウリの詰め合わせパックをお持ちしよう。

 

「あら、準備万端ね雪走君」

 

 変換機の背負い心地を確かめていると、目の前に現れた素敵な紫色の女性。日傘を差し、優雅に笑うその姿はまさに窓辺に佇む令嬢の如く。どことなく溢れる気品がなんとも優雅だ。

 紫さんはニコリと微笑むと、俺の手を両手で優しく握り込んだ。

 

「……暖かいですね」

「手袋していますからね。そりゃあ暖かいですわよ」

「いえ、女性的な柔らかさがたまりません」

「霊夢が聞いたらドツかれるんじゃなくて?」

「今は泥酔なんで。酔っ払いは当分起きません」

 

 ワイン飲んだ馬鹿霊夢はおそらく今日中に目を覚ますことはないだろう。酔っ払いなんてそんなもんだ。

 俺の手を握ったまま、言い聞かせるようにして口を開く紫さん。

 

「……雪走君は、霊夢に想いを伝えている時が一番凛々しいですわね」

「あしらわれている馬鹿捕まえて言いますかソレ」

「見た感じはそうかもしれませんわ。でも、霊夢は雪走君のこと好きみたい。形はどうあれ、好意的感情を抱いているはずよ」

「……改めてそう言われると、興奮が止まりませんね」

 

 全身の血が滾り、アドレナリンが活発に分泌される。霊夢の事を考えると常に起こる現象だ。好きな人に対する想いが、俺の力を促進しているのだろうか。心なしか、身体が軽くなったような気もする。

 ……あぁ、もしかすると。

 

「……『霊夢への愛を力にする程度の能力』ってやつですかね」

「能力は自己申告だから私には理解しかねるわ。でも、雪走君らしい能力じゃないかしら。霊力じゃなくて『恋力』。新しいわね」

「なんか痛々しくないですか?」

「そう? 私はいいと思うけれど。……ひょっとすると、初めて感じた貴方の『力』はソレだったのかもしれませんね」

「ソレ……とは?」

「『愛』よ」

 

 堂々と顔色一つ変えずに言い放つ紫さん。普段ならそのままマイペースに茶化す俺だが、彼女の表情が妙に真剣だったので口を噤むことにした。

 紫さんは扇子で口元を隠すと、

 

「家族への『愛』。友人への『愛』。どれでも構わないけれど、貴方はおそらく『すべての愛を力に変える程度の能力』を持っていたのよ。貴方が『外』で培った愛が、幻想郷というイレギュラー地帯に入ったことで力に変わった。顕現と言ってもいいわね」

「……自分はこれでも、愛のない家庭で育った人間なのですが」

「周囲がどうあれ、貴方が家族に対して少しでも愛を感じていたとしたらどう? 友人でもいいですわ。友情という形での愛が力になった。……こんなのは、どうでしょう?」

「……さて。面白い見解ではありますけども」

 

 扇子のせいで表情の読めない紫さんに苦笑を向けつつも、俺は心の中で必死に否定した。『外』の時から愛があったなんて、信じたくもない。

 『愛を力にする程度の能力』という点は認めよう。実感もあるし、霊夢の事を考えると力が湧いてくるのも事実なのだから。そこはいい。文句は言わない。……だが、あんな家族に対して俺が本当に愛を抱いていたのかと問われると答えに困る。それなりに大切には思っていたが、それが果たして『愛』と呼べるほど高尚なものだったのか。俺には皆目見当もつかない。

 ……愛に飢えている人間が愛を力にするなんて、滑稽だな。

 

「あらあら、雪走君はまだまだ大事なことが理解できていないみたいですわね」

「は? なんのことか俺にはさっぱり」

「雪走君は、滑稽なんかではないということよ」

 

 少しトーンを落とし、ふざけた雰囲気を抹殺する紫さん。その双眸は今までにないほどの鋭さで俺を睨みつけている。何か許せないことでもあったのか。譲れないとでも言うように表情は固い。

 紫さんは扇子を俺の胸に当てると、

 

「人は誰しも愛に飢えているの。それは貴方でも、私でも同じ。どれだけ人に囲まれていようが、愛が満たされることはない。どれだけ愛し合っていようが、満足することはないのよ。すべての生物が、愛に飢えている。なにも貴方だけが例外というワケではありませんわ」

「随分饒舌に語りますね。それだと、俺は霊夢と共にいても愛は満たされないと言っているように聞こえますが」

「その通りですわ。満たされない。でも、満たすように努力することはできるじゃないの」

「……すみません。言っている意味がよく」

「枯渇した愛を満たす時のみ、人は本当の意味で『力』を発揮することができるのですわ」

「…………」

 

 そうやって語る紫さんの目には暗い輝きが灯っていて。過去に何かあったのかと勘繰りたくなる衝動に駆られる。しかし、それと同時に心に染み渡るその台詞。

 ……俺は、自分が愛されるような人間だとは思っていない。馬鹿だしマイペースだし、変態だ。家族にはどうでもいいように扱われ、愛を感じたこともない。正直、いてもいなくても関係ない存在だと自負している。

 ただ、それでも。アイツだけは。霊夢だけは。

 

「……ここにいてもいいと、言ってくれたんですよ」

 

 嬉しかった。生まれてこの方、自分の存在意義を見いだせず、ただ惰性で生きてきた俺に居場所を与えてくれた霊夢。捻くれてはいたが、笑顔で俺を受け入れてくれた霊夢に本当に感謝している。彼女のためなら、命を投げ出しても構わない所存でもある。

 ……あぁ、やっと分かったかもしれない。

 

「答えは、見つかったかしら?」

 

 先ほどとは違う、子供に向けるような温かい笑みを見せる紫さん。長生きゆえの良心か、俺みたいな馬鹿の為にわざわざ汚れ役を買って出てくれたこの人にはもう頭が上がりそうもない。俺の力を見つけてくれた紫さんには、感謝してもしきれない。

 俺は一度霊力変換機を降ろすと、上半身をしっかり曲げて礼を披露した。

 

「ありがとうございます」

「あら、私は何もしていませんわ。何気ない会話の中で、貴方が勝手に答えを見つけただけ。お礼を言われる覚えはありませんわね」

「……意地悪ですね」

「妖怪だもの」

 

 そりゃそうだ。長く生きていれば意地悪にもなる。人を困らせ、欺き、時には喜ばせるような意地悪にも。

 

『雪走ぃー。まだかー?』

 

 視線の先で、霧雨さんが箒を片手に俺を待っている。そういえば弾幕ごっこをするんだったな。紫さんとの話に夢中で、すっかり忘れていた。

 ブースターのスイッチを入れ、宙に浮く。全身に纏わりつく力が徐々に吸い取られていく感覚にとらわれるが、霊夢の事を考えて恋力を生み出していく。……よし、これならいける。

 

「頑張りなさいな。未来の霊夢の旦那さん♪」

「公認なら、安心です」

 

 紫さんの軽口に返すことも忘れない。『外』ならいざ知らないが、ここは幻想郷だ。何事にも縛られない自由な土地。それならば、俺だってありのままでい続ける。マイペースに、変態チックに。『雪走威』として、この世界に存在して見せる。

 霊力銃を構え、俺は白黒魔女の待つ空へと飛翔した。

 

 

 

 




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