東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 お久しぶりです。予定より少し早めですが投稿します。文章量は普段より長めですが、三場面なのでそこまで感じないかもです。
 それでは早速、お楽しみください。


マイペースに色々決着

 

 正直言って、ヤバイ。

 既に一機を失ってしまっている状況。対する霧雨さんも同数撃墜されているのだが、さすがに乗り越えてきた場数が違いすぎる。俺はもはや満身創痍。霧雨さんはまだまだ余裕と言った様子だ。

 お互いにまだスペルカードは使用していないものの、このままでは負ける。そもそも、俺はまだカードの内容さえ思いついていないのだ。弾幕戦がどうこうとか言う以前に、ショットだけでは勝負にもならない。

 

「はぁーっ……はぁーっ……。……ちょっと提案なんですけど、手加減とかは……」

「却下だぜ。私はこの世で一番手加減と堕落が嫌いなんだ」

「ですよねー……」

 

 あまりにも霧雨さんらしい返答に俺としては肩を落とすしかない。

 最初アレだけ大口叩いておきながら、やってみるとこの様か。情けないにもほどがある。

 残機はお互いに二機。だが、慣れない飛行と重たい変換機のせいで疲労が著しい。スタミナと恋力が尽きて負けてしまうのも時間の問題だ。

 どうするか。『散弾モード』で波状攻撃を浴びせ、飛び回りながら必死で頭を回転させる。

 

(霧雨さんはパワータイプだ。小細工染みた動きはしてこない。やるとしたら真っ向勝負。スペルカードもレーザー系だから、正面から突っ込まなければ対抗できるはず……)

 

 マスタースパークが果たしてどれほどの威力を誇るのかは、さっき痛いほど体験した。読んで字の如く、である。アレを一度でも喰らってしまえば間違いなく終わる。今の疲労困憊した状況で、被弾するわけにはいかない。

 だが、このまま回避しているだけではどの道スタミナが切れてしまうのが関の山だ。ただでさえハンデを負った今回の勝負。持久戦は、不利なだけ。

 

「考え事とは余裕だな雪走!」

 

 思考で動きが落ちているのを悟った霧雨さんがここぞとばかりに連続ショットを撃ち始める。数は少ないが、速度と威力がハンパない。放たれるたびに聞こえる風を切る音が、その殺傷力を教えてくれる。

 咄嗟にブースターを吹かし、上空へ退避。だが、避けきれなかったショットが脚をかすめた。

 

「ぎぃ……っ!」

「どうした? まさかもうヘバったなんて言わないよな?」

「っ……」

 

 霧雨さんの問いかけに、俺は答えない。……いや、答えられない。蓄積されたダメージと焦燥がじわじわと俺の身体を蝕んでいく。今、こうして浮いているだけでも奇跡だと言えるほどの疲弊感に耐えるので精一杯だ。

 たかが『ごっこ遊び』とタカを括っていた。これは遊びなんかじゃない。立派な戦闘だ。下手したら……死ぬ。

 込み上げてくる死への恐怖。緊張で全身が弛緩する。思考も疎かになり、おおかた人形にまで成り下がっていた時だった。

 

《……ゆばし……える……?》

「な、んだ……?」

 

 突如脳内に響いてきた謎の音声。しかし、どこか聞き覚えのあるソレはまるで『脳内の境界』を失くしたようにするりと俺に伝わってくる。

 

《聞こえる? もしもーし》

 

 心地よい、人懐っこさを覚える独特な声。聞いているとどこか安らいだ気持ちになれるそのフェイバリットボイスはもしかして……、

 

「……にとり、さん?」

《おー、聞こえてるみたいだねぇ。さすがは八雲様だ》

 

 《いやー、すごいわー》とひたすら紫さんへ賞賛を送るにとりさん。彼女は何やらご満悦のようだが、一方の俺はまるで状況が理解できていない。混乱するばかりの俺は、脳内で喋り続けるにとりさんに説明を求める。

 

「えと、イマイチ空気が読めないんだけど……」

《あー。んとね、細かいことは私にも分かんないんだけど、なんか八雲様が私と雪走の思考の境界を失くしたみたいなんだ。すっごいよねー》

「いや、それはいいんだが……またなんでそんなことを? にとりさん、何か用?」

《下で見てると危なっかしくてさぁ。ちょっと助言してやろうと思ったわけよ! 人間は河童の盟友だからね!》

「それは……」

 

 ありがたい申し出だが、少し躊躇ってしまう。若干手加減はされているが、霧雨さんは真剣に弾幕ごっこをしてくれているのだ。このままではジリ貧なのは確実だろうけど、勝負に水を差すような真似はしたくない。

 

「おらおら! どうしたよもっと来いよ雪走ぃっ!」

「ちぃっ……」

 

 赤、青、緑……色とりどりの魔弾が四方から飛来する。反撃する隙など与えてもらえない。全神経を回避に向け、なんとか被弾しないように逃げ回る。

 ――――やば。これはマジで勝てない。

 つべこべ言っていられる状況ではないようだ。このままでは為す術もなく負ける。手も足も出ずに敗北するよりは、俺らしく何をしてでも一矢報いる方がいい。

 覚悟を決めた。後で散々言われるだろうが、今はにとりさんに頼るしかない。

 

「……ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

《お昼御飯奢ってくれるで手を打とう!》

「自分から言ってきたくせに!」

《河童はずる賢いのさ。で、どうするの? 奢る? 奢らない?》

「ぐぅ……! 人の足元見てぇっ……!」

《こんな可愛い女の子と食事できるんだから迷うことないじゃないか。ということで決定~♪》

「くそぉ……!」

 

 なんか一方的に約束を取り付けられてしまった。にとりさん意外とストライクゾーンだから、強く言えないんだよなぁ。

 霧雨さんの織りなすレーザーの雨をグレイズしながらも、にとりさんに返事を送った。

 

「奮発するから期待してるぞ!」

《よし来た。それじゃあ早速スペルを使おうか!》

「いやいやまだ決まってねぇし!」

 

 唐突に何をムチャ言っていやがるのかこの河童は。避けるので精一杯なのに、スペルなんて考えているわけないだろう。

 無理だ。そう言い放つ俺に、にとりさんは《大丈夫》と優しく声をかける。

 

《変換銃に『霊力砲モード』っていうのがあるでしょう? それ、魔理沙のマスタースパーク真似たやつなんだよ。構造は違うし元となる力も異なるけど、基本は同じ。ちょっとばかし力消費するかもね。でも、威力と範囲は私が保証するよ!》

「何故それを先に言ってくれなかったんだにとりさん! こちとらスペル考案にも意識向けなきゃいけなかったっていうのに!」

《まぁまぁ。とりあえず撃ってみようよ。スペル、まだ二枚あるんでしょ?》

「了解!」

 

 ショットの弾幕を避けきると、霊力銃を構え霧雨さんへと向き直る。身体はまだ震えているが、気合でカバーするしかない。

 いきなり動きを止めた俺に、霧雨さんは訝しげな視線を向ける。

 

「降参か?」

「残念ながら、逆ですよ!」

 

 ポケットから紙を取り出し、掲げる。無地ではあるが、弾幕ごっこにおいて最も重要だと言えるカード。

 スペル宣言。高らかに、俺は叫ぶ。

 

「霧雨さんには悪いですけど、貴女のマスパを越えてみせる!」

「いい度胸だ。それなら私も行くぜ!」

 

 対抗するかのようにカードを取り出す霧雨さん。宣言を取り消すことはできない。――――真正面から、受け止めるつもりだ。

 面白い。これが、弾幕の楽しみなのか。幻想の少女達が夢中になるのも、無理はないな。

 

 想像する。俺が霊夢に持つ感情を。愛を。恋心を。

 幻想郷に来て初めて出会った人間。楽園の素敵な巫女。そんな彼女に抱いた気持ち……一目惚れ。

 今でこそ下心丸出しな愛情だが、あの時はまだ純粋だったはずだ。子供のような、ピュアな恋。

 霧雨さんが叫ぶ。俺は負けじと、俺だけのスペルを解き放った!

 

「恋符・マスタースパーク!」

「恋符・プラトニックラヴ!」

 

 霊力銃から放出された光は一直線に霧雨さんへ。同時に、マスタースパークも俺を捉えて直進。

 ――――もっと! もっと力を込めろ!

 全身の恋力を持っていかれそうになるが、全力で霊夢の胸の感触を思い出す。揉んだ時のことを思い返すんだ俺ッ……! あの柔らかさで興奮した気持ちを思い出せ俺ッ……!

 

《うえぇ……どす黒い煩悩と妄想が頭に入ってくるぅ……》

 

 なんか若干一名俺の恋力創造にやられかけている河童がいたが、気にかけている余裕はない。

 お互いから放たれた光の奔流がぶつかり合う。耳をつんざく激しい爆音と共に、衝撃波が飛び散り始めた。

 吹き飛ばされそうになる。だが、退かない。まだスペルは終わっていないんだ。均衡し合う特大レーザーは、徐々にだが俺の方へと押し返されていた。

 ――――負ける、か……!

 

「霊夢への愛は幻想郷一ィ――――――――――――ッ!!」

「くたばれエロ男ォ――――――――――――ッ!!」

『『『…………』』』

 

 とても決戦とは思えない叫びが幻想郷中に木霊する。遥か下方からギャラリー達のなんとも言えない空気が伝わってきた。ごめんなさいぃ! でも、これが俺なんですぅ!

 

「うらららぁっ!」

「って、ぎゃー! いつの間にかマスパが目前に!」

 

 あちこちに気を向けすぎたのか、均衡していたはずのマスパが一気に襲来してきていた。俺の霊力砲も加わっているので、威力はお得な二倍なり!

 本日二度目のマスパ被弾。目の前が光で埋め尽くされる中、俺はポツリと呟く。

 

「あ、俺死んだわ」

 

 瞬間、俺は想像を絶する激痛と共に意識を失った。

 

 

 

 

 

                   ☆

 

 

 

 

 

「……やれやれ、疲れた」

 

 面倒くさそうに欠伸を見せつつも、トスンと華麗に着地する私、霧雨魔理沙。子供のころから乗り回してきたコイツの扱いは、もうお手の物だ。着地くらい軽い軽い。

 

『雪走! しっかりしてよ雪走!』

『――――ぅ……?」

『あ! 気が付いた!? 良かった――』

『……最後に』

『え? 何、よく聞こえないよ雪走――――』

『……最後に、霊夢の胸が揉みたかった……』

『ゆ、雪走ぃ――――――――――――っ! 胸なら私が後でいくらでも揉ませてあげるから、気を確かに持ってぇえええっっっ!!』

「……騒々しいなあいつら」

 

 ベッタベタなテンプレシーンを繰り広げているにとりと雪走に軽く溜息をつく。あいつら、今日初対面じゃなかったか? 人見知りのにとりがあそこまで仲良くなるなんて、珍しいこともあったものだ。なんか地味にアブナイ発言かましているし……ホント、どうしたにとり。

 

「キミは相変わらず無茶をするね。心配で胃がねじ切れるかと思ったよ」

「ん……香霖か」

 

 背後から話しかけてきた男――香霖の方を向く。

 本名を森近霖之助というこの男は、以前私の実家である『霧雨道具店』で働いていた半人半妖だ。今は魔法の森の外れで『香霖堂』とかいう古道具店を営んでいる。線が細いうえに眼鏡をかけているので大人しそうに見えるが、何気に戦闘力はあるので嘗めることはできないというなんとも面倒くさい男である。ちなみに、『香霖』というのは屋号。

 香霖は溜息を一つつくと、酒の入った杯を差し出してきた。

 

「おぉ、気が利くじゃんか香霖。さんきゅー」

「まぁ魔理沙が勝利したことに変わりはないからね。僕からのささやかなご褒美だよ」

「ご褒美って……お前はいつまで私を子供扱いする気だ?」

「はてはて、なんのことかな」

「相変わらずムカつくぜ、お前は」

 

 明後日の方を向き、あからさまに誤魔化す香霖。そのどこか大人びた動作に、私はこっそり嘆息した。

 ……相変わらず、手強い。私の好意に気付いているのか分からんが、ここまで飄々とした態度を取られると日頃悩んでいる私自身が馬鹿らしくなってくる。暖簾に腕押し、糠に釘。まったく手ごたえがないコイツを攻略するのは、やはりというか骨が折れそうだ。

 ――――私も雪走みたいにオープンに行った方がいいのかな。

 

「何か言ったかい、魔理沙?」

「なんでもねぇよ」

 

 どうせ今の呟きも聞こえていただろうに、すっとぼけてくる。そういうところがムカつくんだよ、お前はさ。

 

「まぁいいや。香霖、アリス達のところで一緒に飲もうぜ」

「喜んでご相伴に預からせてもらうよ。タダ酒よりうまいものはないからね」

「現金だな」

 

 くつくつと笑う香霖は、相も変わらず捻くれていて。

 こんなところは、なんか嫌いにはなれないのだ。

 

 

 

 

 

                   ☆

 

 

 

 

 

「結局負けちゃったわね、紫ご自慢の雪走君は」

「初心者だもの。アレでもよく頑張った方よ」

 

 そうは言いつつも少し悔しそうに表情を歪めているあたりが、紫の性根を表していると私は思う。

 もうかれこれ八百年ほどの付き合いになるけれど、素直じゃない性格は昔からまったく変わらない。胡散臭いとか怪しいとかいろいろ言われている割には、まだまだ子供なのよねぇ。

 

「なにニヤニヤしてんのよ、幽々子。また嫌味なこと考えてるんでしょ?」

「あらあら、相変わらず勘の鋭いことで」

「少しは隠そうとかそう言う気持ちはないワケ……?」

 

 はぁ、と額に手を当て肩を落とす紫。しかし口元が吊り上っているので、この掛け合いを楽しんでいるということが明らかだ。そこは腐っても親友同士ということらしい。軽口を言い合える仲というのは、いつの時代も貴重なものである。

 それにしても。私は立ち上がると、人だかりのできている方へ視線を向ける。

 先ほどから河童が騒いでいるそこには、弾幕ごっこで傷つき気を失っている雪走君の姿があった。体中ボロボロだが、どこか満足げなのは何故だろう。

 永遠亭の月兎に治療される彼を見ながら、私は言った。

 

「彼、なかなか面白いわねぇ。気に入っちゃったわぁ」

「……アンタが人間を気に入るなんて、珍しいわね」

「そんなことないわよぉ。妖夢ちゃんだって半分人間なんだし、別段不思議でもないわ」

 

 まぁ妖夢の場合は『半人前』だから放っておけないというのもあるけど。

 雪走君は、普通の人間とは違った面白さがある。幻想郷に住みたがるような奇妙な価値観もそうだし、『愛を力にする』なんていう可愛い能力を持つのも、理由の一つだ。周囲から浮いているようで浮いていない彼を見ていると、興味が尽きない。

 

「機会があったら、なんて言ったけれど、前言撤回ね。今すぐに連れて帰るわ」

「いきなり拉致したら霊夢が泣き喚くんじゃないかしら」

「そこは貴女の仕事でしょ? 状況説明、よろしくねぇ~♪」

「はぁ……八つ当たり食らうのは私なんだからね……」

 

 そうは言いながらもお願いを聞いてくれるんだから、紫は優しいわぁ。

 さて、思い立ったが吉日ね。さっそく白玉楼に連れて帰りましょうか。忠実な庭師の名前を一つ呼ぶ。

 

「妖夢」

「……お呼びですか、幽々子さま」

「あそこで寝ている博麗の旦那さん、連れて帰るからよろしくね」

「御意に」

 

 短く頷くと、妖夢はカチューシャリボンをフリフリ揺らして雪走君の元へと歩いていく。忠実なのはいいけれど、もう少し自分に素直でもいいんじゃないかしらと思う今日この頃である。

 そろそろお暇しましょう。良い退屈しのぎも手に入ったことだし、ね。

 

「じゃあ、私は帰るわね」

「なるたけ早く帰してあげてよ? 霊夢もその子も、お互いがいて支え合ってこその二人なんだから」

「分かってるわよ」

 

 私だって最低限の良心は持ち合わせている。愛し合う二人を長期間引き裂くなんて鬼畜な真似、するはずがないじゃない。

 

「どうかしら。幽々子だしねぇ」

「一言多いわよ、紫」

「それはお互い様」

 

 それもそうか。どうも歳をとると口が回っていけない。もうちょっと若々しくいないとね。

 がやがやと騒々しい宴会。主催者を連れていくことになるけれど、後は紫や神奈子がどうにかしてくれるだろう。便利な部下もいることだし。

 

「さて、帰りましょうか。妖夢」

「はい」

 

 ちょっとだけマイペースな不思議少年を手土産に、私は白玉楼への帰路に着いた。

 

 

 




 東方のカードゲーム『Vision』買いました。一回も勝てないよ難しいな畜生!
 誰かやっている方がいればご一報を。そして、評価・感想・批評などお待ちしています。

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