東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 《明日の今日子さん》っていう漫画がめっちゃ面白いです。オススメです。
 後は公式二次創作の《東方鈴奈庵》かな。キャラと絵が可愛らしくて大好きです。


マイペースにお泊り会

 威が地底へと落下していった(誤字に非ず)後、私は茶を啜って一息つくと客室の掃除を始めていた。三人程が寝られる程度の広さを、黙々と綺麗にしていく。魔理沙と早苗は私の部屋で寝ればいいため、ここを使うのは咲夜、妖夢、鈴仙の三人だ。前述の二人に比べてこの神社を利用する頻度が少ない三人だから、ここが結構綺麗な場所だという印象を持ってもらいたい。……それに、掃除ができない女とか思われたら嫌だし。

 畳の上を箒で掃き、棚や障子を拭いていく。威がいないから、すべて一人で行う作業だ。この神社は地味に広いから、意外としんどい。一時間も中腰で作業をしていれば、謎の腰痛に襲われる。

 

「あー、きっつ……」

 

 トントンと年寄り臭く腰を叩いてしまうが、休むわけにはいかない。お泊り会をすると言って威を追い出した以上、本気で物事に臨まねばならないのだ。そうじゃないと、アイツに失礼になってしまうと私的には思う。

 よし、と気合を一つ入れ、今度は境内の掃き掃除へ向かう。毎日の成果であんまり落ち葉はないのだろうけど、一応念のためだ。周囲に気を配れる女は美しいと威も言っていたし。

 竹箒を手に、鼻歌交じりに石床を掃いていく。

 と、

 

「あれ? 霊夢が掃除してる。めっずらしー」

 

 鳥居の先に続く長い階段。それを登り終えた辺りから、鼻から抜けたような独特の声が届いてきた。

 見れば、そこにいたのは兎耳の少女。外来風な上着を羽織りミニスカートを穿いている彼女は、今回のお泊り会の参加者である鈴仙だ。

 鈴仙は線の細い整った顔を少しだけ歪めると、私の方を指差してケラケラと笑う。

 

「どうしたのよ霊夢。里の竜神像の予報は確か一日晴れだったはずだけど」

「うっさいわね。私が真面目に掃除してたらおかしいっていうの?」

「真面目に? えぇーっ、じゃあ本当にお泊り会の為だけに神社を掃除していたってワケ? うそぉーっ!」

「アンタの中で私がどう思われているか、今から一切合財吐きなさい。内容によっちゃあ華麗に退治してあげるわ」

「ちょ、冗談だってば。本気にしないでよぉー」

 

 飄々とした様子でひらひらと右手を振る鈴仙。顔とスタイルは美人のくせして性格が超軽いコイツと喋っているとどうにも調子が狂う。こんなお調子者が永遠亭で永琳の助手をしているというのだから驚きだ。私なら、こんな奴には診られたくない。何されるか分かったものじゃないし。

 非常に浅い感じで謝った鈴仙はすぐに普段通りの腹立たしい笑顔を浮かべると、傍らに置いていた大型の鞄を担ぎ上げると母屋の方へと歩いていく。

 

「荷物は居間の方でおっけー?」

「えぇ。後で客室の方に移動させるから、とりあえず居間に置いておいてちょうだい」

「りょうかぁーい♪」

「終わったら掃除手伝いなさいよ? まだまだいっぱい仕事はあるんだから」

「えぇー? めんどくさ……やだなぁ、ちゃんと手伝うってばそんなに怒らないでよ霊夢ぅー」

「はぁ……」

 

 ウサミミをぴょこぴょこ可愛らしく動かしながら居間へと消えていく鈴仙に盛大な溜息をつきつつも、掃き掃除を続行していく。落ち葉を一か所に集め、雑木林の方へと捨てる作業を繰り返す。

 

「よっし、それじゃあ私も働きますかねっ!」

 

 荷物を置き終えた鈴仙が視界の端で箒装備の上何やら気合を入れていたが、とりあえず無視しておく。

 二人で適当に雑談しながら掃除を続けていく。最近の輝夜の様子とか、永琳の残虐非道な実験の事とか、射命丸家の最近の動向とか。幻想郷内でホットな話題を女子っぽくきゃいきゃい話していく。

 それから二時間ほど掃除を続け、ようやくすべての場所の清掃を終えた。

 

「つっかれたぁー」

 

 縁側に座り込み、紫色の髪が額に張り付いてしまうほどに汗だくな鈴仙。なんだかんだでちゃんと掃除を手伝ってくれた友人に微笑ましいものを感じながらも、気怠そうにしている彼女に冷たいお茶を注いでやる。

 

「はい、お疲れ様」

「うわぁ、ありがとぉー! ……ぷはぁっ、仕事明けの一杯は身に染みるわ!」

「おっさん臭いわねぇ」

「むっ、花も恥じらう乙女にその台詞は禁句よ霊夢!」

 

 桜色の柔らかそうな唇を尖らせ、不服そうに反論される。そのあまりにも子供っぽい仕草に、思わず吹き出してしまった。しかしこういう所作でさえ似合ってしまうのが美人の特権なのだろうか。たまにこういった年齢にそぐわない行動をとる鈴仙ではあるが、不思議と違和感は覚えない。

 縁側に腰掛け、二人して茶を啜りながら残暑の景色を楽しむ。

 

『おーい、霊夢ぅー! 魔理沙とその御一行が到着したぞー!』

『誰がお前の御一行か!』

 

 再び鳥居の方から聞こえた叫び声に、私と鈴仙は顔を見合わせる。どうやら、他の参加メンバーがようやく到着したようだ。がやがやと騒がしい話し声がここまで届いてくる。

 

「じゃ、迎えに行きますかっ」

 

 どこか楽しそうに破顔しながら言う鈴仙に、私は嘆息しながらも頷くと境内の方へと足を進めた。

 

 

 

 

 

                  ☆

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

「第一回! チキチキ、博麗霊夢の惚気話を全力で引き出そう大会ぃいいいいいいいいいいいい!!」

『ひゃっはぁああああああああああああああ!!」

 

 何やら紅眼の中で気合の炎がメラメラと燃えたぎっている鈴仙の宣言に、魔理沙を除く私以外の全員が目をギラギラに輝かせながら拳を天井へと突き上げていた。もはや早苗に至っては嫉妬に燃えるパルスィの如く全身からどす黒いオーラを放出している。居間の隅で無言のまま眉間を抑えて呻いている魔理沙の心情は、わざわざ窺うまでもない。

 もう一度だけ言いたいと思う。どうしてこうなった。

 

「さぁ吐きなさい霊夢。吐いて楽になるのよ。そして私達に話題を提供なさい」

「アンタ配達屋の対策はどうしたッッッ……!」

「良夜へのアプローチ? そんなものいずれ勝手に結ばれるんだから無駄よ無駄。神様はきっと瀟洒で清純な十六夜咲夜に振り向いてくれるわ」

「守矢の二柱さぁーん! どちらかこの残念メイドをぶっ飛ばしてやってくださいませんかぁーっ!」

「大丈夫、きっと配達屋さんは貴女に振り向いてくれますよ」

「そっちの守矢の神様は口を開かないでくれないかなぁ!」

 

 キラキラとした残念オーラを部屋中に撒き散らしながら手を握る二人の馬鹿に頭が痛む。やはり早苗と咲夜のコンビは危険だ。以前紅魔館で威対策会議を開いた時にも薄々気づいてはいたが、本当に手遅れらしい。レミリアと諏訪子はさぞ苦労していることだろう。

 

「あ、あのあのっ! とりあえず霊夢と雪走さんの馴れ初めから聞きましょうよ! オーソドックスに!」

「なにやんわりと遠回しに私を追いつめてんのよ妖夢。いやよなんでよいい加減にしなさいよ」

「え、もしかして霊夢照れてんの? やっだー嘘でしょぉー? 霊夢ったらオ・ト・メ♪」

「うっさいのよこのウサミミがぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「ひゃうぅっ! だめっ! 耳は引っ張っちゃらめぇえええええええええええ!!」

 

 何故か顔を朱く染めて息を荒げる鈴仙だがとりあえず耳を力の限り引っ張っておく。びくんびくんと悩ましく痙攣している辺りがとっても気持ちが悪い。不思議そうに鈴仙を見ている妖夢の純粋さもあってか、鈴仙の異常さが際立ってしまう。普通にしていれば美人なのに、勿体ない生物だ。

 しかしそこは腐っても月兎の鈴仙。すぐに顔をらんらんと輝かせて復活すると、私の背後から思い切り飛びつこうとして――――

 

《ガッ!》

「はぉっ!」

 

 顔面に肘がクリーンヒットした。

 

「つ……ッ!」

「なにやってんのよ鈴仙……」

「眼球、眼球が潰れる……ッ!」

「アホか……」

 

 両手で目を抑えて蹲り、先程とは違う意味でぷるぷると痙攣する兎。ミニスカートでしゃがみこんでいるため下着が丸見えなのだが、この場には女子しかいないので問題はない。ウチの居候がいたらとんでもない事件に大発展していただろうが。主に、肉塊方面で。

 

「ま、まだまだ……第二第三の鈴仙・優曇華院・イナバが……」

「いい加減黙れよウサギ」

「ふぅすッ!!」

「おーおー、魔理沙も存外鬼畜ねぇ」

「こいつがしつこいだけだぜ」

「み、みぞ……みぞおちにッ……!」

 

 流石に我慢の限界だったのか、よろよろと立ち上がりかけていた鈴仙の鳩尾に箒の柄をぶち込んだ魔理沙。完全に満身創痍となっている鈴仙は顔を真っ青にさせながら涎を垂らして畳の上にダウンしているが、この場の誰一人として安否を気遣う女はいない。……純粋無垢な彼女を除いて。

 そう、魂魄妖夢だ。

 妖夢は目を丸くして慌てた様子で鈴仙の傍に駆け寄ると、あわあわ言いながら変態の肩を揺する。

 

「だ、大丈夫ですか鈴仙さん!」

「ぅ……よ、妖夢……?」

「しっかりしてください!」

「ち、チミだけが私の心の支えだよ……」

「鈴仙さん……!」

 

 なんだあのピンクな空気は。

 従者同士で気が合うところがあるのかは知らないが、意外と相性のいい二人に驚きを隠せない。鈴仙がにへらとだらしなく口を半開きにしている辺りもなんだか許せない。寝ている間に永琳の所に持っていこうかしら。

 

「霊夢。そろそろ逃げるのはやめなさい。もう無駄だってことくらい分かってるでしょ?」

「そーですよ霊夢さん! 愛でる会会長として、霊夢さんと雪走君の動向を知っておく必要があるんですから!」

「百パーアンタの私欲じゃないのっ!」

「じゃ、じゃあ私の私欲も言っていいかな――――」

「死ねい!」

「効かぬわぁっ!」

 

 覚束ない足取りのまま舐めた発言をかましていた鈴仙の頭頂部目がけて踵落としを実行するが、突然反射神経の向上した鈴仙は両腕をクロスさせて頭上に掲げると、華麗なガードを見せる。くっ……無駄にやられ慣れやがって……!

 

「ふはは! そう何度も無様に攻撃を食らう優曇華様ではな――」

 

 お祓い棒をお尻に突き刺してみる。

 

「ひゃぁぁああああああんッッッ!! あっ……はぁあぁあああああっ!」

 

 甲高い悲鳴らしき叫び声をあげながら倒れ伏す鈴仙。顔を真っ赤にして荒い息をついている様子が滅茶苦茶無様だ。涙と涎が止まっていないが、どうしたと言うのだろうか。私は純粋無垢で容姿端麗な博麗の巫女様だからよく分かんない♪

 

「鬼だな、お前」

「なによ、正当防衛でしょ」

 

 肩を竦めて溜息交じりにそう漏らす魔理沙。とても心外な発言なので一応言い訳だけでもしておく。

 変態(鈴仙)を駆逐して静けさを取り戻した居間。しかし他メンバーの目は私の惚気話に対する期待で輝きまくっている。これは、とても回避できる状況ではなさそうだ。

 奇しくも訪れてしまった絶体絶命な状況に溜息をつきながらも、私は苦笑を彼女達に向ける。

 

「……じゃあ、ちょっとだけよ?」

 

 私の言葉に、参加メンバー全員が思い切り首を縦に振った。

 

 

 




 次回もお楽しみに♪

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