東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 今回は少し短めです。


【番外編】第四位 ミスティア=ローレライ

 博麗神社から紅魔館に向かう道の途中に大きく広がる湖。対岸が遠すぎて黙視できないその湖では、暇を持て余した妖精達が弾幕ごっこなどをして遊んでいます。

 湖畔に座り込んでいる私の視線の先では、光の三妖精の一角であるサニーミルクちゃんと氷の妖精チルノちゃんが力いっぱい弾幕を展開し合っています。何発も被弾しているのに双方笑顔なのは、彼女達が心から弾幕ごっこを楽しんでいるからでしょう。見ているこちらも気持ちが昂るようです。

 

「というわけで、人気投票第四位ですよミスティアさん」

「いやいや、不意打ちすぎて反応に困るよ阿求ちゃん」

 

 チルノちゃん達をぼんやりと眺めている私の隣で釣り糸を垂らしている夜雀の妖怪――ミスティア=ローレライさんは可愛らしくも整った顔に苦笑いを浮かべると、困ったように首を傾げます。なんでも、私の会話の振り方が唐突過ぎるということらしいです。うーむ、詩的なモノローグからの本題への移行という新しい取り組みだったのですが……ちょっと不評なようですね。阿求残念です。

 それにしてもミスティアさん。なんでこんなところで釣りなんかを?

 

「ん? え、ほらさ。私居酒屋やってるじゃない?」

 

 あぁ、八目鰻屋さんですね。天狗の新聞でも特集されていましたよ。結構好評なご様子で。

 

「そうそう、ありがたい話だよ。んで、まぁ簡潔に言うと、その居酒屋で使う八目鰻を調達しているワケなの。メイン食材だしさ」

 

 在庫が少なくなってきたんですか?

 

「まぁ一応蓄えはまだあるんだけどね。八雲様を通して『外』の鰻を輸入しているし。でもまぁ、大量に確保しておくに越したことはないんだよ。だから、自力調達」

 

 なるほど、素晴らしい考えですね。

 ……でもミスティアさん。ちょっと疑問に思ったのですが。

 

「なぁに?」

 

 いや、そんな無邪気な笑顔で首を傾げられますと私としては非常に申しあげにくいのですが。

 ……ここって、湖ですよね?

 

「そうだね。チルノちゃん達がいるし、普通に見て湖だとは思うけど」

 

 ですよね。分かっていらっしゃるならいいんですけど……。

 鰻って、湖で釣れるんですね……。

 

「どうしたの? 阿求ちゃん」

 

 いえ、なんでもありません。ちょっとだけ幻想郷の非常識さに打ちひしがれていただけですから。

 

「そ、そう」

 

 はい。

 いきなり、話は変わりますけど、最近二号店をオープンしたとの噂を聞いたのですが。

 

「うん、一か月前くらいに地底に開店したんだ。最近金回りもよくなってきたしさ、そろそろかなぁって。やっぱり飲食店たるものどんどんチェーン展開していかないと!」

 

 素晴らしい心意気ですね。店長としては申し分ない限りです。

 それにしても、どうして地底に開こうと思ったんですか? こんなこと言っては地底に方々に失礼かもしれませんが、一般的には行きたくない観光名所ぶっちぎりのトップなのに。

 

「あー……それはなんか他の皆にも言われるんだよねぇ」

 

 ですよね。鬼を始めとした血気盛んな妖怪が多いですし、地上と違って喧嘩や荒事も多いと聞きます。一応星熊さんや萃香さんが酷い時は仲裁してくれているらしいですけど……あの二人もどちらかというと血の気が多い部類に入りますし。

 ミスティアさんはあんまり荒事が得意な方ではありませんので、心配で。

 

「心配してくれるのはありがたいけど、私だって結構喧嘩とか強いんだよ? 夜目にして視界を奪って、背後からグサッと」

 

 そんな卑怯の極みみたいな戦法で胸を張られても……ていうか、想像以上におっぱい大きいですねミスティアさん……。

 

「い、いきなり落ち込んでいるけど大丈夫?」

 

 気にしないでください。阿求はまだまだ成長期なんで大丈夫です。きっと八雲様や八意様に匹敵するような『ないすばでー』になるんです。大丈夫、歴代稗田的には危険ゾーンですけど、大丈夫なはず……。

 

「おーい、阿求ちゃーん? 戻ってこーい」

 

 ……はっ! す、すいません少しトリップしていました。

 コホン。それでは改めまして。

 そこまで他の方々に心配されているにも拘らず、地底に二号店をオープンしようと思った理由は何ですか?

 

「うーん、別段深い理由はないんだけど……強いて言うなら、私の鰻をもっと多くの人に食べてもらいたいって思ったからかな」

 

 というと?

 

「さっき阿求ちゃんも言っていた通り、地底ってあんまり地上の人達は寄り付かないでしょ? 危ないからー、怪我したくないからーって感じで、嫌悪されている感じがするんだよ」

 

 まぁもともとそういう場所ですからね。嫌われ者の妖怪達を一か所に集めて隔離するための旧地獄。それが地底の本来の役割ですし。

 

「そうそう。地底に行きづらいっていうのは仕方のないことなんだけどさ。……でも、私はこう思ったんだよ。『地上から隔離されている地底の人達に、私の料理で元気になってもらいたい』ってさ」

 

 元気に、ですか……?

 

「うん。まぁ地底には鬼もいるし、お酒ばっかり飲んで四六時中どんちゃん騒ぎをやっているかもなんだけどさ。それでも、私は八目鰻を通して地底の人達の笑顔を見てみたい、笑顔を生み出してみたいって、そう思ったんだ」

 

 ……ミスティアさんは、優しいんですね。

 

「えへ、そんなことないよぉ。ほら、私ってあんまし頭よくないからさ。こんなことしか思いつかないだけだって」

 

 いえいえ、そんなことを思いつくことができるのは心の優しい方だけですって。妖怪っぽくないですけど、私はそういう優しい気持ちは大好きですよ。やっぱり、みんな仲良く手を取り合ってっていうのは理想ですよね。

 

「うんうん、人間も妖怪も鰻を食べてお酒を飲めばもうそこで友達だしねぇ」

 

 それは同感です。

 ……でもまさか、地底支店が後にあんなことになろうとは、この時のミスティアさんは予想だにもしなかったのです。

 

「え。ちょ、ちょっと阿求ちゃん? い、今なんかとっても不吉な台詞が聞こえたんだけど」

 

 へ? なんのことでしょうか。阿求今は今軽くボーっとしていたのでイマイチ何のことか分からないのですが。

 

「あ、いや、何でもないのならいいんだけどさ……」

 

 はい。

 ……まさか、彼のことがきっかけに店が完全崩壊するなんて……。

 

「今絶対完全崩壊って言ったよねぇ! 私の店、どうなるの!? 地底に支店出したらお店潰れちゃうの!?」

 

 いえ、潰れはしませんが……経済的には、ですけど。

 

「物理的に潰れるの!?」

 

 まぁまぁ、少し落ちついてくださいよミスティアさん。ほら、深呼吸深呼吸。

 

「ぜ、全然落ち着けることじゃない気がするんだけど……」

 

 まぁ気にしないでください。ちょっとした神のお告げが舞い降りてきただけなんで。

 

「それはどちらかというと阿求ちゃんの方が心配だよ……」

 

 何やらミスティアさんが疲れ切った表情をしていらっしゃいますが、どうしたのでしょうか。阿求はとっても心配です。

 おや、こんなことをしている間にもう時間が来てしまったようですね。ミスティアさん、今日は本当にありがとうございました。

 

「え? あー、うん。なんか最後の衝撃の一言のせいであんまり取材されたって感じではないけど、取材してくれてありがとう、阿求ちゃん」

 

 いえ、こちらこそありがとうございます。

 慣れない新天地でお店を営業するのは非常に大変かとは思いますが、お体を壊さない程度に頑張ってください。阿求は陰ながら応援しています。ふぁいと!

 

「うん、ありがと。地底の人達を笑顔にするために一生懸命頑張るよ!」

 

 はい♪

 ……まぁ、お店が壊れてもあんまり落ち込まないでくださいね。

 

「なんで最後にそうやって心配になるような事ばっかり言うの阿求ちゃん!」

 

 はて、何のことやら。

 それではそろそろ、次の取材対象の場所に向かうとしましょうか。

 

 

 




何気に絵師さん募集中です。次回作のキャラ絵とか威の絵とか見てみたいです。やってやろう! と言ってくださる方は是非ご一報を。
 次回もお楽しみに♪

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