東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 お久しぶりです。マジでごめんなさい。次はもっと早く更新します。だから石を投げないで!
 さて、今回の第三位ですが、作者側の都合上二人で一話とさせていただきました。まぁ、色々あるのですたい……。
 何はともかく最新話。マイペースにお楽しみください♪


【番外編】第三位 射命丸文&沙羅良夜

『それじゃあご先祖様の霊が帰ってくるとかそういった小難しい事情は脇に置いておいて、とりあえずじゃんじゃん飲むわよぉーっ!』

 

 賽銭箱の上に仁王立ちの状態で一升瓶を掲げながらの霊夢さんの掛け声に、博麗神社に集合した大勢の人間、妖怪達が揃って鬨の声を上げます。各々お猪口や枡を片手に顔を酔いで赤らめながら談笑を開始していました。参加者たちの間を縫うように酒瓶を持ってお酌を続けている博麗の居候さんが大変忙しそうですが、私も一幻想郷住人としてそんなことは気にせずに宴会を心行くまで楽しむとしましょう。

 さて、そんなわけで。

 

「人気投票第三位という偉業を成し遂げました射命丸文さんにお話を聞いてみたいと思います」

「なんですかその妙に畏まった話し方は」

「聞けば、射命丸さんは風を操ることができるとか。とりあえずちょっとばかりの竜巻を起こしてもらいましょう」

「さらっととんでもないことを! ていうか殺されますって! そこで音頭取っている紅白巫女に封印されます!」

 

 やや焦ったように両手を顔の前でぶんぶんと振って拒否の意を示す射命丸さん。日頃の他者を見下したような彼女らしくない対応に私としてはちょっとだけ違和感を感じないでもありませんが……やはり鴉天狗とは言っても、博麗の巫女には敵わないのですね。阿求がっかりです。

 

「いや、そんなところで勝手に落胆されても私としては困るだけなのですが」

 

 私の落ち込み気味の台詞に苦笑しながら困ったように頬を掻く射命丸さんですが、私を見下ろしているその視線が時折別の方向に飛んでいることに私は気付きました。まるで何かを無性に気にしているように、射命丸さんは極々自然を装って私の後ろの方に視線をやっています。

 誰か面白そうな取材対象がいたのでしょうか。現在は私が取材する立場なので勝手に取材に行かれては困ります。何か対策を講じるためにも、私は射命丸さんの視線を追いかけて振り向きました。

 そこには、

 

『ほらほらー、宴会なんですからお酒くらい飲まないと駄目ですよー』

『ちょっ、だから俺飲めないんだって! もう去年から言ってんじゃんか美鈴!』

『良夜お兄ちゃんお酒飲めないの? 幻想郷に住んでいるのに?』

『そんな無邪気な顔で若干胸に来るような台詞をさらっと吐くなよフラン……。あぁ、だって俺まだ未成年だし。アルコールとか取る必要ないし。だから、お酒進めてくるのはちょーっとやめてほしーかなーって……』

『うん! 飲めるようになるまで私が飲ませてあげるよ!』

『……What?』

『抵抗があるなら私が口移しで飲ませてあげる! 美鈴、良夜お兄ちゃんの身体押さえて!』

『俺の話聞いてましたかフランさーんっ!?』

『だ、駄目ですよっ。フラン様にはまだ早いです! ……だ、だからここは私が責任を持って口移しを……』

『だぁーっ! やめんかいお前らぁーっ!』

「…………ふふっ、命が惜しくないみたいですねあの居候は♪」

 

 なにやら配達屋さんの身に物理的な危機が訪れていました。

 紅魔館の吸血鬼と門番さんの二人掛かりで無理やり酒を流し込まれそうになっている配達屋さん。必死に抵抗しながらもどこか楽しそうな雰囲気を纏っている彼は傍から見て非常に微笑ましいものがあるのですが、私の隣で般若も迷わず踵を返すほどの威圧を放ち続けている鴉天狗さんはいったいどうしたというのでしょうか。阿求にはよく分かりません。

 しかしこのまま取材が停止してしまうのは何としても避けたいところ。そこで私は、どうしても配達屋さんが気になるご様子の射命丸さんの手を取ると彼の所に行くことにしました。

 

「ちょっ! 何してるんですか阿求さん!」

「いえ、このまま上の空で取材に応じられたところで記事の出来は分かりきっているので、よりよい取材記録のためにも懸念要素は少なくした方がいいと思いまして」

「だ、だからってなんでわざわざ良夜の所に……」

「射命丸さんが近くにいれば他の女性に牽制ができる。何より配達屋さんと仲良くお酒が飲める」

「行きましょう! 一秒でも早く!」

 

 途端にハイテンションになり今度は自分から手を引いて歩きはじめる射命丸さん。恋は盲目という言葉がありますが、ここまで行くと逆に見えすぎているのではないかと思っちゃったりしちゃいます。いけませんね。何か興味深いことがあると思考があちこちに飛んでしまうのは阿求の悪い癖です。

 二人して配達屋さんが据わっている桜の木の所へ。

 

「あっ! 文助けてこのままじゃお酒飲まされる――――」

「そのまま泥酔死してしまいなさいこの浮気者が」

「あ、文さん? なんでそんな勇儀もびっくりな鬼面っぷりを見せているんでしょーか……?」

「ふん、だ! 良夜なんて居眠り門番と情緒不安定吸血鬼に食べられちゃえばいいんですよ!」

『誰が何だって!?』

 

 文さんがポロッと漏らした悪口に紅魔館勢二人がぐぐいっと詰め寄りますが、当の本人はどこ吹く風と言った様子で配達屋さんに絡んでいます。何やらどこぞのツンデレ巫女のような女子らしい反応にグッと来るものを感じてしまいますが、これがいわゆる『萌え』と言うヤツなのでしょうか。以前雪走さんが鬼気迫る表情で早苗さんと語り合っていましたが、ようやく阿求にもその一端が見えてきたかもしれません。これはよくメモしておきましょう。

 最近雪走さんからプレゼントされた紙の束(メモ帳という、外の道具らしい)にペン(ボールペン。これも貰いました)を走らせていると、配達屋さんを間に挟んで女子達の戦いがいつの間にか始まっていました。

 正確には、いきなり乱入してきた紅魔館メイド長十六夜咲夜さんと、他称本妻射命丸文さんの激闘が繰り広げられていました。

 内容……と言いますか、口喧嘩の中身を少しばかりピックアップしてみますとこんな感じ。

 

「いつもいつもツンデレギャップ萌えを狙っているのかは知りませんけど、いい加減ウチの良夜に手を出すのはやめてもらえませんか!」

「あら、良夜が貴女の所有物だなんていったい誰が決めたの? 彼はあくまで彼自身であって、誰のものでもない。……それなら私が貰っても問題ありませんわ!」

「問題大アリじゃこの銀髪! キラキラキラキラ眩しいんですよ!」

「その発言は同時に良夜のことも馬鹿にしているということに貴女はいい加減気が付くべきですわ!」

 

 髪を引っ張り、頬を抓って地べたを転がる美女二人。これが幻想郷の誇るクールビューティ二人だという事実にどうしても目を背けたくなる光景であります。そもそもの事発端である美鈴さんとフランちゃんが顔を引き攣らせるほどに、彼女達は強者とは思えない子供喧嘩を繰り広げていました。

 ……と、そんな騒動に紛れるようにしてコソコソとこの場から立ち去ろうとしている銀髪少年に気が付く私。何やら面白いことになりそうな雰囲気がバリバリでしたので、私は射命丸さん達にも聞こえるくらいの音量で声を上げると、件の少年の方を指差しながら、

 

「あっ、配達屋さんがドサクサまぎれに聖徳道士さんのところに行こうとしてますよー」

「んなっ!? 阿求お前なんてことを!」

『なんですって!?』

「そしてこっちはバッチリロックオンしてる!」

 

 ふふふのふ、こんな面白い展開を私阿求が逃すわけないではありませんか。せっかくの取材をいつの間にか痴話けんかに変えられたのです、少しは私の怒りをぶつけても罰は当たらないでしょう。

 逃亡を図ろうとした配達屋さんでしたが、私の善意によってものの見事に作戦失敗。元いた桜の木に誘導されるようにしてジリジリと追い詰められていきます。いつの間にかフランちゃんと美鈴さんも加わっているので、四方向をしっかりと包囲されて逃げ場は全くないようです。

 あらあら、大変そうですねぇ。

 

「てめー他人事みてーに言ってんじゃねーぞ! 誰のせいでこんな目に遭ってると」

「ふらふらふらふら色んな女の子と仲良くなる良夜のせいじゃないですかねぇ……!」

「ひぃっ! ウチの家主が犬走の刀を構えてリトル黙示録!」

「さて、ずっと見過ごしては来たけれど、これを良い機会にいい加減お灸を据えてあげようかしら」

「咲夜さんその手に持ってる大量のナイフは何に使うんでしょーかっ! あれだよねそうだよねきっと料理に使うんだよね!」

「えぇ、綺麗に三枚に下ろすためにね。……どこぞの配達屋を」

「刺身にされる!?」

「大丈夫ですよ良夜さん。痛いのは一瞬です」

「お前にぶん殴られたら痛いじゃ済まんわ美鈴!」

「キュッとして……ドカーン!」

「殺す気満々だなフラン!」

 

 美少女に囲まれ嬉しそうな悲鳴をあげている配達屋さん。彼の窮地に気付いた周辺の妖怪達が微笑ましい視線を向けながら、その光景を肴に酒を交わしています。うん、やはり幻想郷では荒事なんて酒の肴以外の何物でもありませんよね。かくいう私も楽しんでいます。

 

「やっちゃえー!」

「阿求さぁあああああああああん!! できればしっかり後片付けしてくれませんかねぇ!」

「おや、あんなところに博麗の旦那様が。そういえばそろそろ時間ですし、次の取材対象の所へと行きますかね」

「なんだその無理矢理な会話の流し方は! 煽った上に放置とか、イジメか!」

「それでは皆さん御機嫌よう。ばいびー」

「聞きかじった程度の外来語使うんじゃ……ってごめんなさい皆さんお願いだから許して!」

『問答無用!』

「のわぁああああああああああ!!」

 

 ちゅどーん! と嘘のような爆発が上がり、黒コゲになる配達屋さん。風とナイフと気でどうして爆発が起こるのかはイマイチ理解できませんが、それがいわゆる幻想郷クオリティと言うヤツなのでしょう。常識は通用しないんだぜと胸を張って言ってみます。えぇ、将来Fまで成長予定の胸を張りますよ、阿求は。

 何はともあれ、最後に言いたいことはただ一つ。

 

「節操無しもほどほどに」

 

 殴る蹴るの暴行に見舞われもはや行動不能に陥っている哀れなハーレム少年を背に、私は博麗神社賽銭箱の方へと足を進めました。

 

 




 次回もお楽しみに♪

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