東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 お久しぶりです。……お待たせしました。
 挨拶もほどほどに、とにかくお楽しみください♪


マイペースに最終奥義

「ロリの魅力っていうのはやっぱりその起伏の無さだと思うのだがそこら辺はどう思うさとりちゃん?」

「ぶち殺しますよ」

「ごめんなさい」

 

 一瞬で膨れ上がったさとりちゃんの殺気にあてられ萎縮してしまう。今の瞬間だけは年寄り臭さについて触れられたときの八坂様レベルの形相をしていたさとりちゃんに心の底から脳が警鐘を発していた。「これ以上余計なことを言ったら存在が消し飛ぶZE☆」と俺の頭の中でイケメン霧雨さんがウィッシュしていた。ちょっとだけカッコイイと思ってしまったのはここだけの話だ。

 

「なんですかウィッシュって。魔理沙はそんな変なポーズまでするんですか?」

「いやぁ、してくれたら嬉しいなぁと」

「はぁ……」

 

 なんだか疲れ切った表情であからさまに溜息をついてくるさとりちゃん。な、なんだねその「コイツもう駄目だ。早く何とかしないと」的な顔と態度は! 女の子があまりそういう疲弊感を前面に押し出すもんじゃありません! お兄さん怒っちゃうよ!

 

「威さんが怒ったところで怖くもなんともありませんし」

「ほぅ。試してみるかね子猫ちゃん」

「誰が子猫ちゃんですか誰が。……だいたい、人間程度に本気出された程度で覚妖怪たる私が恐怖を露わにするわけがないでしょうに……」

「…………」

 

 若干勝ち誇った笑みを浮かべるさとりちゃんに、俺の中の何かがキレた。今は今日から過ごす俺の部屋に案内されている最中とか、他の住人に挨拶に行かなきゃとか、そんな小さな事情がもはやどうでもよくなるくらい今の俺はアッパーしている。

 いいだろう。そんなに俺を侮っているならば、本気というものを見せてやる。

 

「威さん?」

 

 いきなり目を閉じて黙り込んだ俺にさとりちゃんが怪訝そうな声をかけてくるが、全力で無視。息を整え心を無にすると、『例の必殺技』の準備に取り掛かる。

 以前白玉楼で俺の脳内に入り込んできた紫さんを撃退した究極奥義。どんな最強妖怪であろうが、ソイツが雌という種族ならば例外なく自己破壊に陥らせることができる俺の一撃必殺。心を読んだり思考を読み取ったりすることができる相手だと『ぜったいれ〇ど』以上の威力を誇るであろう技の発動に向けて、精神力を練っていく。

 「ひ、必殺技?」断片的に俺の思考を読み取ったさとりちゃんが首を傾げる様子が目に浮かぶ。ふふふ、そうやって可愛らしくいられるのも今の内だぞさとりちゃん!

 息を吸い、止める。

 修行僧よりも清らかな明鏡止水の境地に至った感覚に支配され、全ての束縛から解放されたような気持ちに陥る。……よし。

 少しづつ息を吐いていきながら、カッと目を見開いて――――

 

 

「食らえ! 必殺・十八禁エロ同人妄想百連発古明地さとり版!」

 

 

 さとりちゃんが【ムフフ☆】したり【検閲削除】したり【見せられないよ!】したり両脚を抱えて開かせられていたり服を破られていたり無理矢理されていたりとかの妄想を一気に解き放った!

 

「え、や、ふわっ……!」

 

 いきなり怒涛のように押し寄せてきた数々の映像と音声にさとりちゃんの顔から一瞬驚き以外の表情が消える。第三の目を通して流れ込んでくる大量の凌辱・触手映像に彼女の処理能力が追いついていない様子だ。目は驚愕で見開かれ、顔はリンゴと比べるまでもなく真っ赤に染まっている。

 

「いやっ……なに、これ……そんなこと、駄目ッ……ふやぁあああああああ!!」

 

 目をぐるぐる回して絶叫。全身がビクビクと激しく震えたかと思うと、さとりちゃんは力なく膝から床に崩れ落ちた。服が湿るほどに全身からは汗が噴き出していて、息も荒い。目の焦点が定めっていないのが、彼女の瞳の動きを見ていると察することができた。なんか知らんが滅茶苦茶表情がエロい。

 ……なんというか、やり過ぎた感が否めないのは俺だけだろうか。まさか妄想垂れ流しただけでさとりちゃんがここまで達してしまうとは思わなかった。軽い冗談のつもりで奥義を披露しただけだというのに――――

 

「んやぁ……そんなの、らめぇ……」

 

 ――――ここまでガチな反応を見せられると、俺としては非常に困ってしまう。どうしてこうなった。

 まぁ、あの紫さんをも行動不能に陥らせた究極奥義を使われたのだから、さとりちゃんが戦闘不能になってしまうのも至極当然なわけなのだが。しかしだからといって、絶賛妹系美少女の呆けた顔など世界中の紳士の皆様くらいしか喜ばないのではないだろうか。少なくとも、俺はさとりちゃんのそんな表情に興奮するような変態では……ないと信じたい。うん、大丈夫。霊夢ならともかく、さとりちゃんなら……うん。

 なんだか結構危なげな余韻に浸っているさとりちゃん。これはそろそろ解放してあげた方がいいだろうとの結論に達した俺は、彼女の膝の裏と背中に手をやってほいと抱き上げる。いわゆる、お姫様抱っこと言うヤツだ。

 

「たける、しゃん……?」

「……ごめんね、ちょっと大人げなかった」

「い、いえ……私も失礼なことを言った自覚はありますので……」

 

 少しは頭が冷えてきたのか、恥ずかしそうに顔を逸らしながらも謝罪の言葉を口にするさとりちゃん。口元に両手を当てて視線を泳がせている姿が滅茶苦茶保護欲をそそる。相変わらず無意識に小動物系の魅力を発揮する少女だ。恐ろしや覚妖怪。

 

「あ、あのっ……これは、いったい……」

「俺のイケメンなナイスフェイスのことかい?」

「違います!」

 

 そんなに全力で否定されると俺はどうすればいいんだいさとりちゃんや。

 

「あ、ご、ごめんなさい……」

「いや、冗談だから気にしないで。んで、何をそんなに気にしているの?」

「その、えっと……わ、私は何でこんな抱かれ方を……?」

 

 あたふたと顔をキョロキョロさせてテンパるさとりちゃんに軽く卒倒しかけるが、俺はようやく彼女が混乱している原因を悟った。

 ようするに、さとりちゃんはお姫様抱っこが恥ずかしいのだ。

 

「そんなにはっきり言わないでください!」

 

 いや、そんなこと言われても。

 色々と強がっていたさとりちゃんではあるが、やはり根本的な部分は純粋な女の子となんら変わらない。恋愛や物語に興味を示し、ちょっとしたことで照れてしまう。むしろそこら辺を歩いている外来人に比べても遥かに『女の子』なさとりちゃんに、俺は安心感に似た何かを抱き始めていた。

 嫌われているとか言っても、それは嫌っている方から見た主観の意見に過ぎない。

 嫌う立場がいるから、嫌われる立場が生まれる。彼らはロクに相手の事を知る努力をしようとせず、覚妖怪というだけでさとりちゃんを爪弾きにする。地底に住んでいない人達も、そういう風潮のせいで彼女のことを嫌っているのは否定できない事実だ。現に、地底と地上の行き来が緩和された今でも地底に行こうとするような物好きはあまりいないらしい。

 正直、俺も覚妖怪がどんな怖い妖怪なのか少しは心配していた。噂に左右され、ちょっとでも恐怖感を抱いてしまっていた過去の自分をぶん殴ってやりたいと思う。なにせ、本当の彼女はこんなにも魅力的で、可愛らしい女の子なんだから。

 

「……恥ずかしいです、そんなこと言われちゃうと」

 

 俺の心を読んだのか、先程とは違った意味で頬を朱に染めるさとりちゃん。スネたように口を尖らせて呟いているが、その行動がまた一段と彼女の可愛らしさに拍車をかけていることにさとりちゃんは気付いているのだろうか。

 さとりちゃんは文句を言いながらも、俺の胸に手を置いて自分の身体を支えている。なんだかんだで結構お姫様抱っこを気に入ってくれているらしい。霊夢は絶対にやらせてくれないので、俺としても新鮮な心地がする。妹がいる方々はこんな気持ちなのかな、とか勝手な想像を膨らませると、少し頬が緩んできていた。

 

「妹とか……私の方が年上って分かっていますか?」

「問題なのは年齢じゃない。感覚と外見だ」

「いやいや、兄妹関係で一番大切なのは年齢でしょう。どちらかというと私が姉で、威さんが弟なのですが」

「いやそれはないわ」

「一瞬で否定ですか!?」

 

 さとりちゃんが目を丸くして衝撃を受けているが、正直言って彼女が姉とか毛頭想像できないので却下である。こんなに(色んな意味で)小さくて可愛らしいこの子が俺の姉なんて、世間が許しても全国の妹フェチの紳士諸君と俺が死んでも許早苗。

 俺に即否定されたのがショックだったのか、死んだ魚のような目で「はぁぁ……」と大きな溜息をついている。

 

「私には妹もいるんですよ? それなのに姉なんてあり得ないとか……私って、そんなに威厳ないですかね……」

「ないね、結構」

「もう傷つく余裕も元気もありませんよ……」

 

 「うふふ……」何やら危ない境地に至ろうとしている覚妖怪がとっても恐ろしい。主に、良心的な意味で。

 ……待て。今この子さらっと衝撃的なことを漏らさなかったか? 

 肉親的な意味で衝撃告白を呟いたさとりちゃんを見やると、先程の発言について質問する。

 

「さとりちゃん……妹いるの?」

「え? あ、はい。いますよ。とっても可愛らしい自慢の妹が」

「そんなに可愛いの?」

「えぇとても。私なんかには勿体ないくらいの、世界一可愛くてキュートなマイシスターなんです!」

 

 ……ん? なんか、さとりちゃんの顔が突然キラキラした輝きに満ち溢れてきた気がするんだが。

 さっきまで羞恥心で真っ赤に染まっていた顔は別の意味で赤みを帯び始めていて、両目は熱に浮かされたようにうっとりとしたものに。ハートが散りばめられているようにも見える。

 え、えーとぉ……これはまさか、もしかして……。

 嫌な予感が脳裏をよぎるが、その推測が形となる前に、さとりちゃんは俺を見つめると、今までに見せたことがない程の満面の笑みを浮かべて盛大に口を動かし始めた!

 

「もうなんていうか癒し系? っていうか。ちょっとした仕草とか言葉とかが滅茶苦茶魅力的で。『お姉ちゃん』って私の事を呼ぶんですけど、その響きがもう何とも言えないくらい気持ち良くってですね! 普段は能力のせいで姿が見えない……あ、彼女は無意識を操る妖怪で、その能力故に誰からも認識されないっていう悲しい特製の持ち主なんですけど、そういうアウトローなところがまた可愛いですよね! それで、姿が見えない彼女の名前を呼ぶと、すぐに『なぁに?』って首を傾げて出てきてくれるんです! あぁもう、思い出すだけで興奮と喜悦と快感が止まりません! あ、そういえばこの前あの子が私の為に料理を」

「ストォォォオオオオオップ!」

 

 なんか急にキャラ崩壊全開で饒舌になったさとりちゃんを全力で制する俺。お姫様抱っこされている女の子が楽しそうに妹の魅力を語っているっていう光景がとてもシュールなのだが、今はそんな状況把握以前にこれ以上彼女を放っておくと色々なものを一気に失ってしまいそうな気がする。特にファンとか応援してくれている方々とか、そういった貴重なものをごっそり持って行かれそうな危機感に襲われたのだ。というか、さとりちゃんの純粋無垢キャラはどこに行った!

 俺に妹自慢を止められたのが気に障ったのか、頬を膨らませてぶーたれると、ギュッと俺のシャツを掴んで涙目で俺を見上げてくる。……可愛いと思ったのはここだけの話だ。

 

「なんで止めるんですかっ! まだここからがいいところだったのに!」

「これ以上妹への惚気を聞かされちゃうと俺の頭がどうかなっちまうよ!」

「いいじゃないですか。威さんもあの子の魅力に溺れましょう!」

「姉のくせに妹の可愛さに溺水してんじゃねぇよ! 家族なら節度を持って! 踏み越えてはならない一線はなんとか踏み止まらないと!」

「無理です。あの子の魅力の前では、全ての境界線は意味を成しません」

「その子何者!? さとりちゃんの倫理観をぶっ壊すレベルなの!?」

「当り前じゃないですか!」

「なんで怒鳴られたのかなぁ!」

 

 あっれー? さとりちゃんってこんなに自己主張の激しい女の子だっけかー? つい数分前までに俺が抱いていたピュアな感情はどこにいったのかなー。純粋無垢な女の子キャラが一瞬で崩壊してやしないかな?

 もう全力でシスコンっぷりを露呈する残念系妖怪さとりちゃん。地底暮らしが長かったせいでちょっとアレな感じになってしまったらしい。これは凄いな。地底と性格破綻の関係性について論文でも発表してみようか。

 いつまでも黙る様子がないさとりちゃんに呆気にとられてしまう。人間好きなことに対しては(妖怪だけど)ここまで一途になれるのか、と他人事のように考えてしまう俺である。「霊夢に対してはお前も一緒じゃね?」とか言われちゃうと、ちょっと反論ができない。

 そんな感じで、さとりちゃんの妹話に嘆息しながら耳を傾けていると――――

 

 

「お姉ちゃん、この人だぁれ?」

 

 

 




 次回もお楽しみに♪

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