東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 さて、今日も無事更新。明日から後期補習ですので、できるだけ書き溜めたいです。
 それでは早速。マイペースにお読みください。


マイペースに守矢神社

 守矢神社は想像以上にバカでかい神社だった。空から見た時にも大きいとは思ったが、実際に目前まで来てみるとさらに大きく感じる。おぉ……圧巻とはこのことか。

 

「なにボケッと突っ立ってんのよ。ほら、早く歩いた歩いた」

「お、おぉ」

 

 俺が呆気にとられていると、霊夢が呆れた口調で俺の背中を押して急かしてくる。細かいところで気遣いのできる奴だ。このまま放っておかれていれば、おそらくしばらくの間動けなかっただろう。それほどまでに衝撃的な存在感の守矢神社。正直言って、助かった。

 

「さんきゅ」

「お礼なら今晩飯奢りなさいよ」

「金なら紫さんに両替してもらったから、ある程度なら大丈夫だ」

「へぇ……どれくらい?」

「『外』の通貨で五万円だな」

「アンタどんだけ持ってきてたのよ……」

 

 はぁ、と溜息をつく霊夢ではあるがそれが微笑ましいものだということは分かっている。口元が笑っているから、分かりやすい。こういう時の霊夢は掛け合いを楽しんでいるのだ。だから俺としても嬉しい限りである。……ちなみに、俺が持ってきた総額は五十万円だ。へそくりと貯金は現金で持ち歩く主義な俺なんだ。今回はそれが幸いした。いやぁ、世の中何があるか分かりませんなぁ。

 何度か来たことがあるらしい霊夢に案内され、奥の本殿へと向かう。基本的な建物の造りは博麗神社とあまり変わらないらしい。まったく迷わずに目的地へと進むことができた。いつも思うのだが、和式の建造物はセキュリティとかどうなってるんだろうか。これだと盗み放題だ。泥棒兎なんかがいたら、凄いことになる。

 しばらく歩くと居間らしき部屋の前に着いた。いよいよご対面か。緊張する俺を他所に、霊夢は実にいつも通りに襖を開け放つ。

 

「早苗ー、入るわよー」

「え、ちょっ、霊夢さん!? 突然入らないでくださいよ!」

「いいじゃない別に。それとも何? 見せられないことでもしてたワケ?」

「そういうわけじゃ……で、でも! モラルとかマナーとか、そういうところで駄目です!」

 

 失礼極まりない入り方をした霊夢に「うがー!」と緑髪を逆立てて怒る巫女装束の少女。……おそらく、彼女が東風谷早苗なのだろう。今霊夢がそう言っていたし。

 見た感じは普通の美少女だ。髪が緑なのは不思議だが、後はちょっとばかしスタイルがいい一般女子高生。髪に蛙の髪留めと白蛇の飾りを付けているのが特徴か。綺麗だが、それでいて活発な印象の少女だ。

 霊夢と口喧嘩していた東風谷は「あら……?」と俺に気付くと、驚いたようにジロジロと観察してくる。

 

「デニムにTシャツ……しかもポケットには携帯電話……」

「あ、あのー。東風谷さん? いきなりどうしたんでせうか……?」

「貴方、『外』の人ですよね!?」

「ひぅ」

 

 ガシィッ! と目を輝かせて俺の手を握る東風谷。ぬおっ!? 急になんだ!? マイペースをモットーにしている俺でも流石にビビったぞ!? 

 突然の急変に俺と霊夢は目を丸くするが、当の東風谷はすっかり興奮しきっているご様子。まるでこちらの動揺に気が付く様子はない。それどころか俺の手を掴んだままぶんぶん振り回し始める始末だ。

 

「いやー。幻想郷に来てから故郷の人に会えるなんて、やはり奇跡はあるんですね!」

「とりあえず落ち着こうか、東風谷。俺の腕がそろそろもげそうだ」

「これで……これでロボット話に花を咲かせられるというものです! あぁ素晴らしい。パイルダー?」

「オン! って何言わせるんだお前は」

「うわぁあ! やっぱりいいですね仲間って!」

「そっち方面での仲間は勘弁願いたいのだが」

 

 なんだろう。東風谷の第一印象がものの数分で音を立てて崩れて言っているような気がして、胸騒ぎが止まらない。助けて霊夢さん。

 

「……そこまでにしなさい、早苗」

「あぅっ」

 

 ようやく我に返った霊夢が必殺・デコピンで東風谷を撃退してくれた。助かった……色んな意味で助かった……。霊夢さんや、こんなキャラなら先に言ってくれればよかったのに。

 

「私だってまさかここまで崩壊するとは思ってなかったのよ。悪気はないわ」

「うん。まぁそれは分かる。俺が来なけりゃこんな状況にはならなかっただろうし。でも少しは対抗策が取れた気がするんだ」

「もう気にしないでよ。助かったんだからいいでしょ?」

 

 それはそうだが。

 しっかし、こんな普通の女の子(美化表現あり)が現人神ねぇ……。

 改めて、東風谷を見つめる。……いや、そんな可愛らしく首を傾げられましても。肩書と本人とのギャップに、なんかこう形容しがたいモヤモヤ感を覚えてしまう。神様って感じじゃないよなぁ。

 

「……言いにくいことをはっきりと言いますね、貴方」

「え、もしかして口に出てたか?」

「あいっかわらずね。少しは自重しなさいよ馬鹿威」

「善処はしてんだよ」

 

 しかし昔からの癖である為早々治るものではない。それなりに時間を貰わないといけないだろう。まぁ俺は別に気にしてないからいいんだけど。霊夢は何を嫌がってるのやら。

 なんだかグダグダになってしまったが、とりあえず双方落ち着いた様子なので自己紹介を開始する。

 

「俺は雪走威。昨日幻想入りした、ただのしがない高校生だ。まだ日が浅いからいろいろ迷惑かけるかもだけど、これからよろしく頼む」

「ご丁寧にどうも。私は東風谷早苗。この守矢神社の風祝をしています。現代日本人の知り合いは貴重ですから、こちらこそ。お互いによろしくお願いします」

 

 手を出し合い、握手。心なしか、安堵の表情を浮かべている東風谷。やはり故郷の人間と会えるというのは心強いのだろう。霊夢から聞いた限り、二人の神様と暮らしているらしいが、俺のような文化の近い存在はいなかったらしい。俺もまだまだ若輩者だが、寂しさを紛らわせることくらいは出来たらいいな。

 軽い挨拶も終わり、東風谷は「神奈子様と諏訪子様を呼んできます」と言って居間を出て行った。挨拶ついでということらしい。いやはや、まさか生きている間に神様とお会いできるなんて夢にも思わなかった。

 

「本物の神様に会えるなんて、すげぇよなぁ」

「あんまり美化しない方がいいわよ? あいつら、意外とフランクだから」

「親近感のある神様ってのもどうなんだ」

「知らないわよ。文句があるなら本人達に言ってちょうだい」

 

 神様相手に文句言えるほど度胸は据わっちゃいねぇよ。

 

「初対面の私には相当軽口叩いていたじゃない。何を今更」

「いや、あれは霊夢だったからできたんだよ。お前なら、俺の悪ふざけも受け入れてくれそうだったからさ。信用できたんだ、霊夢の事は」

「……何よソレ。褒めてんだか貶してんだか」

「惚れてんだよ」

「馬鹿」

 

 そうは言うが顔を赤らめそっぽを向く霊夢。ここ二日でわかったことだが、霊夢は恥ずかしがっている時が一番可愛い。わずかに桜色に染まった頬や、尖らせた口。照れ気味に逸らす視線がこれまた嗜虐心を煽らせる。あぁ、本当に可愛いぜ霊夢……。

 だが、今回も俺の愛の告白をスルーする彼女である。いつになったら受け入れてくれるのだろうか。まぁ出会って二日だから仕方ないと言えば仕方ないけど。一か月以内にはオトしたいな。

 

「とんでもなく気持ち悪い宣言するのやめてくれない? 殴るわよ」

「むしろドンと来い」

「…………」

「あ、痛っ……! 爪先だけ踏むのはやめてくれ! 地味に痛くて反応しづらい!」

 

 こ、これが霊夢の愛情表現だと思えばどんな痛みでも耐えられる。頑張れ俺。目指すは霊夢エンドだ!

 ……しかしこの思考の弱点は『そこはかとなく空しくなる』ことなんだよなぁ……。マゾヒストじゃないのに暴力容認とか、悲しくなってくる。

 ときに霊夢さん。俺を踏んでいるときに恍惚の表情を浮かべているのはどうしてなのか、尋ねてもよろしいですかな?

 

「え? そりゃあだって……アンタが気持ちよさそうに身を捻るから……」

「ストップ・ザ・腋巫女。俺は変態かもしれんがマゾじゃあない。その誤解を招くような発言は是非ともやめていただこうか」

「変態はみんなそう言うのよね。……あぁ、そうか。これがアンタのいつも言っている『愛』ってやつ?」

「うん、この二日間のお前の気持ちが痛いほど分かってきたよ。押し付けがましい一方的な愛ってもはや暴力だよな」

 

 貴女はリアル暴力奮ってますけどね!

 というか、日頃の俺の告白とは完全に違うだろう。俺のはちゃんと『愛情』が籠ってはいるが、貴様の台詞には『侮辱』しか込められていないじゃないか!

 

「それが私の本心だから仕方ないじゃない」

「やめようか! 仮にも居候にそういうこと言うのは、できる限りやめようか!」

「だが断る」

「有無も言わさず!?」

 

 あ、あれ? 霊夢ってこんなキャラだったっけ? もっと、こう、純情なツンデレ巫女の印象だったはずなんだが。この短時間で何があった。

 

「人には言えない趣味……うん、完璧ね」

「その犠牲になるのは漏れなく俺だろう」

「当り前じゃない。こ、こんなこと、アンタ意外に頼めないんだからね!」

「意味不明なツンデレ発言やめれ。それはただの犯行予告だ」

 

 頼まれてもやらねーよ。俺はノーマルにお前とゴールインしたいんだから。

 

「ゴールの前にスタートラインにすら立ってないでしょうが」

「いや、もう折り返し地点は通り過ぎたはずだ。霊夢エンドまでラストスパートだZE☆」

「腹立つから殴っていい?」

「認めると思ってんのかこの腋巫女紅白」

 

 仕返し=暴力というイカレた方程式をさっさと取っ払いたい今日この頃である。

 さて、そんな感じで割と死活問題な俺の待遇を話し合っていると、ようやく戻ってきた東風谷がルンルン笑顔で襖を開け放った。

 

「お二人とも、神奈子様達を呼んできましたよー!」

「ん。ありがとう、東風谷」

「いえいえ。礼には及びませんよ。その代り今度みっちりオタトークに付き合っていただければ……」

「霊夢、杖貸せ」

「はい」

「みきゅっ」

 

 霊夢から受け取った杖を東風谷の額に発射。狙い違わず見事にクリーンヒットする杖。東風谷は可愛らしい悲鳴を上げると目を回して畳に倒れ伏した。……ふぅ、これで災難は去った。

 

「おいおい、あまりウチの早苗を虐めてくれるなよ?」

 

 すると東風谷の背後辺りから突然声が届いてくる。どこか威厳に満ち溢れたボイス。神々しさたっぷりな低めな美声は、なんともクリーンに俺の耳に響き渡る。

 ……ようやく、お出ましか。

 できるだけ佇まいを正しつつ、神様の登場を待つ。

 しばらくすると、半開きだった襖が完全に開かれた。

 

「……おぉ」

 

 その先にいたのは二人の女性。……いや、女性と幼女だ。どう見ても神には見えないその二人は、それぞれ神々しく仁王立ちをしている。幼女の仁王立ちってなんか斬新だな。

 ようやく現れた二人……八坂神奈子と洩矢諏訪子。伝説上の存在を前にして、俺の緊張感はピークに達していた。

 

「顔、にやけてるわよ」

「おっと」

 

 だがしかし、中々締まらないのが俺だったりするのだ。

 

 




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