東方霊恋記(本編完結)   作:ふゆい

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 さとりルートはちょっと時間かかりそうなんで、まずは結婚式アフター。前後編の二本立てでお送りしていきます。

 ※博麗母はちゃんと神社に住んでいます。一応補足をば。


マイペースに結婚初夜(前編)

 ここ数年で最大と言ってもいい盛り上がりを見せた俺と霊夢の結婚式も無事に終わり、そろそろ日が傾き始めた頃。恒例行事というかなんというか、最大規模の参加者が集合している現在、守矢神社では――――

 

「それじゃあ博麗の巫女の結婚を祝しまして、かんぱぁーいっ!」

『かんぱぁーいっ!』

 

 神奈子様の号令のもと、人妖入り混じった大宴会が盛大に開催されていた。まぁ参加している人間もどこか人外に片足突っ込んだような連中ばかりなので、種族:人間としてカウントしていいのかどうかは定かではないが。ちなみに一般人の方々は宴会には参加せずに人里へと既に帰っている。人間だけの宴会はまた後日に行うということで、安全面を考えてお開きとさせてもらったのだ。里の皆さんとしても妖怪と一緒に酒を呑むのは気が引けるだろうし、何より命の保証ができない。ルーミアとか吸血鬼連中とかを止める自信もないし。……まぁ俺も一応は妖怪に分類されるわけだが、そこは置いておこう。

 

「今日は呑むよーっ! じゃんじゃん呑むよーっ! というわけで付き合え天狗ぅー!」

「いやぁああああ!! た、助けて良夜……!」

「…………ぐっどらっく」

「こんの薄情者がぁあああああ!!」

「ほらほら、無駄な助け呼んでないでさっさと呑むよブン屋ぁー」

「ゆ、許してくださいぃいいいいい!!」

 

 ……視界の端で萃香さんに引きずられている幻想ブン屋を若干一名ほど発見した気がするが、旦那様が視線逸らしていなかったことにしていたので触れない方が良いだろう。あの酒豪組に巻き込まれたら酔い潰れるのは確実だろうし。鬼と一緒に呑むとか想像しただけで気分が悪くなってくる。酔うどころじゃ済まんわ絶対。

 酒が足りなくなったらしい永遠亭組に追加の酒を持っていったり酒の肴を提供したりしつつ場を周っていく。主役の俺が雑用していることに違和感を覚えないでもないが、準備及び雑用を早苗だけに任せるのも何やら気が引けるので手伝っておこうと思ったのだ。申し出た際に感極まった早苗に抱き締められて第一次巫女戦争が勃発しかけたのはいい思い出だ。

 さてさて、そろそろ俺もどっかに腰を据えて本格的に呑もうかな。

 そんなことを考えながら適当に辺りを見回す、誰か丁度いいメンバーはいないものか……。

 

「あら、威じゃないですの。丁度良かった、ちょっと私の所で一緒に呑みませんこと?」

「……さーて、霧雨さんのところにでも行こうかなっと」

「待ちなさいこの親不孝者」

 

 何やら紫色のドレスを着た金髪女性に呼ばれた気がしたが、心底嫌な予感が止まらないので踵を返して見なかったふりをしようとする。しかしながらそうは問屋が卸さないらしく、目の前にスキマを展開した母さんはむんずと俺を引っ掴むとスキマを通して強制的に俺を隣に座らせた。無数のギョロ目があちこちに点在するスキマの中は正直居心地が悪い。なんてところを経由させるんだこの人は。

 横目で睨む俺を完全にスルーして、母さんは升を傾けながら向かい側に座っていた藍さんに声をかける。

 

「そういえばせっかくの機会だし、改めて家族に挨拶しておいたら? 記憶は戻ったとはいえ、形式は大事だと思うし」

「えぇ……なんで私がこんな暴走魔理沙みたいなマイペース野郎と家族認識なんですか……」

「ちょっと待とうかこの女狐。なんか昔に比べて俺に対する態度が酷くなっていませんかい?」

「ふん。紫様の御手を煩わせてきた貴様に気を遣う必要なんかない。それに私は昔から貴様の事が気に喰わなかったのだ」

「気に喰わなかったって、今更そんなこと言われてもなぁ」

 

 八雲家にお世話になっていた時も藍さんとはそれなりに付き合いがあったのだから、今になって気に喰わないとか言われても正直反応に困る。それに霊夢とも懇ろな関係になった以上、八雲家とは今後とも末永くお付き合いしていかなければならないわけで。そうなると藍さんとは嫌でも接していかなければならないのだ。それなのに気に喰わないとか言われてしまうと、こちらとしても困る。

 さてどうしようか、と俺なりに仲直りへの打開策を考えていると、顔を俯かせた藍さんがポツリとこんなことを呟くのを耳にした。

 

「……貴様がいると、紫様が私の相手をしてくれなくなるのだ……」

 

 なんだこの可愛い生物は。

 

「藍、貴女そんな子供みたいな理由で威に突っかからないの」

「いひゃぁっ!? ななな、何を仰っているのですか紫様! わたっ、私は別に何も子供みたいだなんてそんなあはははーっ!」

「……藍さん」

「な、なんだ! 私から貴様に話すことは何も――――」

「貴女とは心底仲良くなれそうですよっ(きらっ)」

「腹の立つ笑顔で親指立てるなこんちくしょぉおおおおおおお!!」

「う、うわぁーっ! 藍様落ち着いて! 弾幕撒き散らすのはやめてくださいぃー!」

「うがぁーっ!」

 

 羞恥心が臨界点を余裕でブッチしたご様子の化け狐一名が一升瓶をラッパ飲みしながらスペルカードを発動しているが、俺は適度な隙を見つけてしれっと撤収させてもらう。橙が何やら涙目で収拾をつけようと奮闘しているものの、式が主を止められる道理はない。母さんも「面白いからいいや」と言わんばかりの満面の笑みで酒を呑みつつ事態を見守っているし、おそらくあのまま誰かしらと弾幕ごっこにもつれ込むのは火を見るより明らかだ。どうせどこぞの弾幕狂が八卦炉片手に勝負を挑みに行くだろう。

 何気に掻っ攫ってきた野菜の漬物をポリポリ食べながら適当に歩いていると、視線の先に見覚えのある金髪の姿が現れた。緑色の瞳に茶色の装束の少女。その隣には赤い一本角を頭に生やした長身の女性。その周囲にはスカート部分が膨らんだ女性や桶に入った女の子が――――って!

 嫌な予感に全身を支配される俺の不安が何を煽ったのか、おそらくこれから俺自身に災害をもたらすであろう集団が凄まじくナイスなタイミングでこちらを同時に一斉に振り向く。

 

『…………』

「…………」

『……獲物はっけぇーん』

「脱兎のごとく!」

「させるかっ! ヤマメ、捕まえな!」

「合点承知!」

「ノォオオオ! 蜘蛛の糸はずるいってぇええ!」

 

 肉食獣に目を付けられたと思った時には既に遅し。慌てて逃げ出す俺ではあったが、間髪入れずに飛んできた蜘蛛の糸に両足を絡め取られて綱引きの要領で捕獲されてしまう。おかしい。今回の宴会に関しては俺は主賓のはずなのに、何故か扱いが酷い気がする。

 ずるずると無様に引きずられ、為す術もなく鬼様の元へ。

 

「いらっしゃーい」

「心底帰らせてください」

「却下」

「そんな殺生なぁーっ!」

「まぁ雪走異変でのお詫びと思って諦めな。あたしの顔面に大怪我させた代償と思えば安いもんだろ?」

「う……」

 

 ニヤニヤとあくどい笑顔で肩を組んでくる勇儀さんに冷や汗が止まらない。意識がなかったとはいえ、異変後に永遠亭に通院させるくらいの大怪我負わせてしまった罪悪感は未だに残っているので、その話題を出されると俺としては断る術を一つとして持たないのである。こいしちゃんとかお燐ちゃんにも何かお詫びをしないといけないなぁ。

 っと、ここで余談ではあるが、俺が起こした先の騒動は【雪走異変】とかいう名前を頂戴して幻想郷縁起に掲載されることになったらしい。阿求ちゃんが自慢げに胸を張りながら報告してきたのは記憶に新しいことだ。正直に言って自分の名前が異変名になるとか恥ずかしいにも程がある。……まぁ、後世に名前が残るなら喜んでもいいのかな? ちなみに霊夢は溜息をつきながらも「博麗の巫女の旦那として話題的には及第点ね」とか訳の分からないことを言っていた。アイツは俺をどういうキャラに仕立て上げたいんだ。

 

「そうやってすぐに嫁の話題を出して……幸せアピールしてんじゃないわよ妬ましい……!」

「おーっと、そういえばこの理不尽嫉妬妖怪もいたんでしたねすっかり忘れていましたそしてお帰り下さいこの野郎」

「……妬符【グリーンアイドモンスター】」

「うぎゃぁあああ!! なんか変な緑色の弾幕が追いかけてくるぅーっ!?」

 

 地底メンバーの隅っこで日本酒をちびちび啜りながら恨み言を呟いていたパルスィさんが放った弾幕に追いかけられる妖怪が一名。くそっ、なんでこういうおめでたい日に限ってアンタがいるんだパルスィさん! せめて来るなら理不尽な嫉妬心を地底に置き去りにしてからおいでください!

 

「何言ってんのよ。それだと私のアイデンティティが消失するじゃない。馬鹿言わないでよ妬ましい」

「今の発言のどこに妬ましい部分があったのか是非ともお聞かせ願いたい」

「異変の後からマイペースさがなりを潜めてきた改心っぷりが妬ましい……」

「そこは褒めるところでしょうよ……」

 

 まさか改心したのに罵倒されるとはさすがの俺でも予想外だった。まぁマイペースっぷりがなくなってきてキャラが弱くなった感は否めないが、裏の『俺』を自覚している現在においては表の単純一途な俺にも多少なりとも変化がおきているわけで。表と裏がバランスを取り始めているせいか陰と陽の感情がそれなりに両方現れ始めているのだ。良く言えば落ち着きが出てきているが、悪く言えば面白味がなくなってきていると言われる今日この頃。雪走威の明日はどっちだ。

 

「明日云々言う前にとりあえず呑めよ新郎」

「わわっ、なんですかこのでっかい盃は!?」

「あン? そいつはなぁ、あたしの相棒と言ってもいい星熊盃ってんだ。どんな酒でもコイツに入れりゃあ瞬く間に純米大吟醸に早変わり! ちなみに一升分あるからさっさと呑めよ。時間が経つと酒が劣化しちまうからな」

「一升も飲めませんよ無理ですって!」

「腑抜けたこと言ってんなぁ。男なら酒の一杯や二杯ぐぐっと一気に呷っちまえよ!」

「量が問題なんですよ量が! 急性アルコール中毒で殺す気ですか!」

「あるこーる中毒? なんだそりゃ」

「……鬼の貴女に常識語った俺が馬鹿でした」

 

 俺の言葉に首を傾げて心底な疑問を漏らす勇儀さん。そもそも酒量が人類とは比べ物にならない妖怪集団を相手に人間界の常識をぶつけようとしたのが間違いだったのだ。俺自身妖怪だとはいえ長年人間として生活してきた存在なので、酒量は人間のソレ。人間界の常識に染まりきっている俺と酒豪で有名な鬼である勇儀さんとでは持っている常識のスケールが違いすぎる。

 まぁそんな愚痴を漏らしたところで勇儀さんが手を止めてくれる訳もなく、盃に日本酒がなみなみと注がれていくのを無力ながらに眺めながら徐々に放心していく俺。

 

「さ、一気にいきな!」

「え、え~とぉ……霊夢とか助っ人に呼んじゃダメですか、なんて……」

「テメェのケツはテメェで拭きな! 嫁さん巻き込んでんじゃないよ!」

「いや、どちらかというと汚されたのは俺の方なのですが……」

「あァん!? なんだいタケ、もしかしてあたしの酒が呑めないってのかい!?」

「ひぃ! これが噂のパワハラか!」

 

 胸倉を掴まれて詰め寄られるものの、基本的に力で劣る俺は抵抗することすらままならない。それどころか鬼の人知を超えた怪力に和服が断末魔の叫び声を上げ始める始末だ。せっかくの婚礼衣装をバラバラに引き裂かれるのはさすがに御免被りたいのだが、完璧に出来上がってしまっている鬼をどうやって止めることができるだろうか。少なくとも中級妖怪である俺には不可能だ。

 というわけで、こういう時は我らが妖怪退治のエキスパート、博麗霊夢さんにご登場願うしかあるまい。

 おそらく霧雨さんと呑んでいるであろう愛する花嫁の方を向くと、俺はあらん限りの大声で助けを呼ぼうと――――

 

「ふやぁ……にゃんりゃかしぇかいがみゃわってるわぁ……」

「うんうん。やっぱり霊夢はワインを飲んだ時の方が魅力的で可愛らしいわ」

「おいおい……結婚初日に花嫁酔い潰すなよレミリア……」

「大丈夫よ。それに結婚初夜からお盛んだなんて神が許してもこのレミリア=スカーレットが許さないわ。霊夢の柔肌を楽しむのは私だけの専売特許なんだから」

「いや、お前は何様なんだよ」

「アンタら霊夢に色々となにやってんだぁーっ!」

 

 助けを呼ぼうとした声がツッコミに早変わり。焦点が合っていない様子でぽけーっと虚空を見つめている赤面状態の霊夢によからぬ背徳感を覚えないでもないが、心の中で恐怖心と生存本能がかつてない程に警鐘を鳴らしまくっているので今回ばかりは下心が敗北した。でも敗北したところで救世主は現在使い物にならない。どこぞの吸血鬼のせいでな!

 そして不意に背後から羽交い絞めにされる感覚――――!

 

「いいわよ勇儀。さっさとその酒流し込んじゃいなさい」

「テメェこの嫉妬妖怪! どさくさに紛れて俺の寿命縮めるなよ!」

「大丈夫よ。世の中には『憎まれっ子世にはばかる』なんて言葉があるくらいだから」

「どういう意味だコラァッ!」

「あぁもうごちゃごちゃ五月蝿いよまったく。いいから無駄口叩かずさっさと呑んだ呑んだ」

「がぼがぼがぼがぼっ!?」

 

 両腕を抑えられて身動きが取れない俺の両頬を左手で掴むと、半ば無理矢理気味に口を開かせて純米大吟醸を流し込んでいく地底の鬼。ニマニマ下品な笑顔を見せる嫉妬妖怪に、ケラケラと他人事のように腹を抱えて爆笑している土蜘蛛と釣瓶落とし。そして現在進行形で意識を失いつつある感情の妖怪こと俺。何気に度数の強い酒を遠慮なしに体内へと流しこまれたことで、俺の身体は一瞬でアルコールの許容量をオーバーしてくださった。段々と視界が霞み、急激な嘔吐感と眠気に襲われる。

 

「うぷ、は、吐きそ……」

「だらしないねぇ。弱音吐いてないで次行くよ次!」

「よ、弱音の前に胃袋の中身が出そっぷ」

「はいはい分かったから呑め呑めーっ」

「もがぼっ!?」

 

 もう酔い的にも量的にも完全に臨界点を突破している俺に浴びせるようにして盃を傾けてくる勇儀さん。あまりにも膨大な量に結構早く身体が限界を迎え、俺はたまらず地面に倒れ込んでしまう。うっぷ……やべ、このままじゃ口から大量のカリスマが放出されてしまう……!

 なんとかこの場を離れて近くの茂みにでも駆け込もうかと立ち上がろうとするが、俺の思惑に反して身体は全く動いてくれない。そして嘔吐感は強まるばかりだ。これはもうあれだ、詰んだやつだわ。

 どしゃっと四肢を地面に投げ出して俺は決意する。

 

「――――さようなら、俺の社会的尊げぼろろろろろ」

「うぎゃぁっ! 急に吐くんじゃないよこの馬鹿!」

 

 いや、どう考えても勇儀さんのせいです本当にありがとうございました。

 胃袋の中身が地面にまき散らされていく光景をどこか客観的に眺めながらも、すべてを出し終えた末に結局意識を失ってしまう俺こと雪走威なのだった。

 

 

 

 

 

 




 次回は後編! お楽しみに!

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