雪の中の化け物【完結】   作:LY

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原作とタグの変更をしました。





第十二話

12月20日 午後二時

 

 

 

今は昼過ぎだというのに、私は自室のベッドから抜け出せずにいる。

 

 

 

「体が重いわ……」

 

 

 

昨晩から今日の午前二時ごろまで続いた戦いは白鳩側の勝利で幕が閉じられ、今つけっぱなしのテレビにも白鳩側の勝利と報道されている。

 

実際にあの場にいたアオギリの喰種はほとんどやられてしまい、残ったのはほんの一握りだったと思う。

 

 

 

 

結局、私はあの腐り目捜査官と戦った後は逃げ道を探し、他の捜査官達に見つからないようにあの場を抜け出すことが出来た。

 

もし見られたとしてもフードを深く被っていたため顔がばれる事は無いはず。

 

 

 

「………」

 

 

 

このようにして数時間前まで多忙だったため大学へ行く気力もないほど疲れが溜まっている。

 

先ほどまで眠っていたが、体力を回復させるためにはもう一度深く眠るのが間違いなく一番いい…。

 

 

 

……だがしかし、気になることがあって二度寝する気分にもなれない。

 

 

 

 

原因はベッドの横にある小さなテーブルの上の物。

 

そこにあるのは私が昨日持ち帰って来た一枚の封筒だ。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

私はあの戦いが終わり、捜査官の目を盗んで11区から抜け出す前にノロ”と呼ばれる不気味な喰種に遭遇した。

 

その喰種はまるで感情がないような雰囲気で、動きは他の喰種のそれと比べると奇妙なものだった。

 

私と対峙した時も終始無言で、数十秒経ってからスッと封筒を差し出してその場から去って行った。

 

 

 

 

……渡された封筒の中身は恐らく高槻さんが仲間に調べさせた、とある人物についての情報。

 

 

私の知りたいことが封筒の中に入っている。

 

 

 

気になるのなら早々に封筒を開いてみればいいものを…。

 

 

 

「やっぱり、これは明日に……」

 

 

 

私は自分でも呆れるほどの小心者。

 

一度封筒を手にするが、開けることなく元の場所に戻す。

 

 

見たいけれど、でも見るのが怖い。

 

 

 

「……私を産んだ人」

 

 

 

死んだ父が語りたがらなかった、私の母についての事。

 

 

母は当然、もういない。

 

 

 

「……」

 

 

 

取り合えず今は早く寝て体を休めるべきね。

 

眠りにつくまで他の事を考えて気を紛らわせましょう。

 

別になんだっていい。

 

 

 

 

最近大学に行けていないわ。

明日はちゃんと行かなければならない。

 

 

そう言えばインスタントコーヒーが切れかかっていたわね。大学の帰りに寄り道して買っておかないと。

 

 

近所でうろうろしている子猫。最近会っていないから、今度餌を持っていきましょう。

 

 

私の好きなディスティニィのパンダのパンさん。今まで一度もディスティニィーランドに行ったことがないので行ってみたい。

 

 

 

…そう言えば、パンさんの目つきは彼に似ている。

 

もちろんパンさんの目が腐っているというわけではない。

 

ただ単純に、雰囲気が似ている。

 

 

 

……私を殺そうとしない不思議で強い捜査官。

 

 

 

 

「彼は今、……何をしているのかしら」

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、私はいつの間に深い眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CCG本部にて

 

 

まだアオギリ殲滅作戦が終わってから一日も経っていないというのに、CCG本部は動ける人を総動員して、慌ただしく働いている。

 

 

昨日の作戦は大成功で見事に大量の喰種を駆逐しました、とニュースなどで報道され、それを聞いた一般市民の人達はさぞ安心している事だろう。

 

 

しかし、実際はそれだけではない。

 

 

上のお偉いさんたちはマスコミなのに感づかれないように上手くやり、あたかも喰種捜査官側の勝利としているが、本当は俺達の負けと言ってもいいだろう。

 

 

 

俺があの喰種と戦っている間、大きい出来事が二つあった。

 

 

一つは喰種収容所がアオギリの“本隊”によって襲撃され、数十体の喰種が収容所を抜け出したことだ。

 

これは俺達が11区で戦っている間を狙って行われたもので、数百体の喰種が収容所を襲ったらしい。

つまり俺達は簡単な陽動作戦にまんまとはめられたと言う訳だ。

 

解放された喰種はアオギリに吸収され、また一段と大きな組織になったのだろう。

これは噂で聞いたことだが、SS層からも数体脱走したとか。

 

 

二つ目は、11区の作戦の途中、第壱隊が“隻眼のフクロウ”に遭遇したらしい。

 

隻眼のフクロウはSSレートのさらに上であるSSSレートの喰種で、特等捜査官が数人いても勝てないほど強い喰種。

 

しかし幸い誰も殺されず、目的も分からないままその場を去って行ったらしい。

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 

 

せっせと働いている人たちとは違い、本部の空き部屋で体を休めているだけのくせにこんな事を考えてため息をつく。

 

雪ノ下さんなら目を輝かせてニコニコ笑うのだろうけど。

 

…あの人戦うの好きだから。

 

 

 

「ひゃっはろー」

 

「はぁぁ」

 

 

 

さっきよりも深いため息が出る。

 

なぜさっきの俺は雪ノ下さんの事を考えてしまったのだろう。

 

おかげでいらないフラグを立ててしまった。

 

 

 

「比企谷君、久しぶり!昨日はどうだった?たくさん喰種倒せた?」

 

 

俺を見つけると速攻で近づいてき、まるで飼い主にじゃれる犬のように迫ってくる。

 

 

近い近い。

 

 

 

「近いです離れてください。それと全然久しぶりじゃないと思いますけどね」

 

「もう、相変わらず君はつれないなぁ。お姉さん夜中からさっきまでずっとお仕事していたから疲れているんだよ。癒してよー」

 

「それは大変ですね。そこのソファーでお休みになられた方が良いのでは?」

 

「比企谷君の活躍を聞くまで絶対寝ないからね」

 

 

 

そう言って俺の座っているソファーの隣に腰かける。

 

どうせ言っても変わらないので、向かい側に座れとは言わないでおこう。

 

 

 

「それで、昨日はどうだったの?13区のジェーソンくらいは倒せた?」

 

「くらいはって……、もしそんな奴と戦っていたら俺は今頃あの世に行っていますよ」

 

「またまたご謙遜を。で、実際に君が戦った喰種は強かった?一人でも大丈夫だったの?」

 

「……今回の作戦では特に何もできませんでしたよ。精々気絶した味方を運んだくらいです」

 

 

 

愛想笑いをしてそう言うが、雪ノ下さんの表情はどことなく冷たいものに変わる。

 

 

 

「ふーん、じゃあその左腕はどうしたの?

さっきから右腕は動いているけど、左の方は全く動かそうとしないね。作戦前はちゃんと動かしていたのに」

 

「ああ、医者にはあまり動かすなと言われていたんですけど、味方を運ぶときにはどうしても必要だったので。

それで使っていたら、また少し痛み出しただけですよ」

 

「…なるほど。あまり自分の体を傷つけちゃダメだよ」

 

 

 

全く、この勘の鋭いところが苦手だ。

 

普通はこんな些細な事に気づかないだろう。

 

 

 

「雪ノ下さんの方はどうですか?

夜中から仕事をしていたって言っていましたね。やはり喰種収容所の方ですか?」

 

「うん、まぁ私が駆け付けた時にはほとんど終わっていたから何もできなかったけどね。そう考えたら、比企谷君と同じだ」

 

 

 

フフとさっきとは一転して陽気に笑う。

 

 

そんな彼女の笑顔を見て俺はつい最近見たあの子の笑顔を思い出す。

 

……やっぱり似ている。

 

 

 

「それじゃあ休憩は終わりにして仕事に戻るよ。後輩ちゃんを待たせているし」

 

「そうですか。俺も少しは働こうと思うんですけど、平塚先生が安静にしていろと言うので」

 

「そうだね。今日は帰って明日からバリバリ働くといいよ」

 

 

 

それじゃまたね、と言って雪ノ下さんは出て行く。

 

 

結局、何がしたかったのやら……。

 

 

 

 

 

 

「ここにいても仕方ないし、帰るか」

 

 

 

結局何もせずに帰ることになった俺は返る支度をしていると、ふとさっきの会話で感じた違和感について考える。

 

 

気のせいかもしれないが、雪ノ下さんの発言で気になったことが…。

 

 

 

 

彼女は“一人でも大丈夫だったの?”と聞いたが。

 

 

なぜ俺が作戦中に一人になったことを知っていたのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CCG本部のとある一室

 

 

 

「後輩ちゃん、その後の成果は?」

 

 

「ダメですね。やはり壊れていたのか音声の録音はされていません。兵士の寝そべった角度が悪いですし、この一瞬しか映っていませんでした」

 

 

 

私達が今行っているのは、11区でのアオギリとの戦いで撮影されたビデオの解析。

 

何人かの兵士には指揮官の丸手特等やその他の対策Ⅱ課の人達が現状を把握するためにカメラを持たせている。

 

そして今後輩ちゃんが見ているのはそのカメラで撮影された映像だ。

 

隻眼のフクロウや尾赫の瓶兄弟が映っているから見ていて面白い。

 

 

でも後輩ちゃんにやらせているのは、もっと地味な相手の事だ。

 

 

 

「准特等のお気に入りの比企谷二等は、……どうやらこの喰種と戦っていたようですね」

 

「……ありがと後輩ちゃん」

 

 

 

こちらに向けられたパソコンの画面には、画質は悪いが確かにクインケを持った比企谷君とアオギリの喰種が赫子を出して戦っている静止画が映し出されている。

 

 

 

「二本の尾赫か」

 

 

 

そう言えば数週間前に8区で騒ぎを起こした喰種も二本の尾赫だったと病院送りにされた捜査官達が言っていた。

 

 

でもつけているお面の特徴は違う。

 

8区担当の捜査官達は、“猫”のお面だと言っていた。

 

 

 

 

「何で戦っていた事を隠すのかな?比企谷君」

 

 

 

 

分からない。分からないよ比企谷君。

 

 

 

君が隠すのは自分のため?それともこの喰種のため?

 

 

 

それとも……。

 

 

 

「まぁ何がどうであれ、必ず見つけ出してあげるよ」

 

 

 

 

推定レートS~  

 

二本の尾赫に猫の面。

 

 

 

 

「“猫又”ちゃん」

 

 

 

 

 

 

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