雪の中の化け物【完結】   作:LY

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投稿が遅くなって申し訳ありません。







第三十四話

舞い落ちる結晶は風に吹かれてあちらこちらと飛び交い、地面に落ちてふっと消える。

 

手のひらに載せても全く重みを感じない。けれど確かにそこにある。

 

 

道を歩けば頭や肩に降り積もってゆく白い粉は、俺の体温を奪って液体へと戻る。

 

 

 

「……昨日より冷えるな」

 

 

「そうね、でも私は今日の天気の方が好きだわ」

 

 

 

 

目の前に広がる小降りの雪は俺の脳を刺激して、あの夜の公園を頭にちらつかせる。

 

少し広くて鉄格子を挟むと池がある。寒くて静かで大した特徴はない。

 

 

……だがそこには、血を流しながら座り込む化け物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二月の四週目、天気は雪。

 

 

今日は旅行二日目にして、最終日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の疲れもあったため今日の午前中はゆっくりと過ごし、今は午後二時。

 

 

 

昨日行ったデスティニーランドの最寄り駅からモノレールに乗って約五分。

 

ランドのようにデスティニー作品に関係した建物やグッズはあるのだが、これは本当にデスティニーと関係あるのかと思ってしまうようなキャラクターも存在するテーマパーク。

 

ランドと比べると絶叫系のアトラクションに力が入っていてランドより若者向けの場所と言えるだろう。

 

 

 

「さて、じゃあ今日は比企谷君にエスコートしてもらおうかしら」

 

 

 

パークに入って数分後、雪ノ下は立ち止まってそう言った。

 

そう言えばいつも出かけるときは変装メガネをかけている彼女だが、昨日も今日もそれをつけていない。アトラクションに乗る時に外すのが面倒だからだろうか。

 

 

 

「え?何で俺?」

 

「何でって、……一般的に言えば男性がリードするものだと思うけれど」

 

 

 

うーむ、昨日はキレキレの動きで“パンさんのバンブーファイト“に直行したのに今日は俺任せか。

 

嫌なわけではないが雪ノ下の様にマップを把握できていないからいささか不安だ。

 

 

 

「……じゃあとりあえずブラブラ歩いて、行きついたアトラクションに乗るか」

 

「ええ、それで構わないわよ。私は初めてきた所だからどんな乗り物があるか分からないし」

 

「あれ?昨日のランドも初めてじゃなかったか?

その割にはランド内の事を知り尽くしてたよな」

 

「それはっ、……一般常識の範疇よ」

 

 

 

俺から視線をそらして居心地の悪そうな顔をする雪ノ下。

 

 

……あぁ、なるほど。昨日コッソリ隠し持っていたガイドブックにはこっちのパークの事は書いてなかったのか。

 

そう言えばそうですよね、こっちにパンさんいないもんね。

 

 

 

「それじゃ、行きますか」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 

 

……とまぁこの時は特に何も考えず、俺達のデスティニーパーク巡りは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まったのだが、

 

その50分後、問題が発生した。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

雪ノ下は頭を抱えてベンチに座りプルプルと震えている。

 

その震えは寒さをしのぐためのシバリングではなく、言ってしまえば恐怖が原因で起きているものだ。

 

 

 

「雪ノ下、……大丈夫か?」

 

「……あと十分休憩すれば回復するわ」

 

 

 

そんな事を言って彼女は深呼吸をして息を整える。

 

つまり今は大丈夫じゃないらしい。ここは気を使ってコーヒーの一杯でも買ってきてやりたいのだが残念な事に近場で売っていない。

 

 

 

「……何か悪いな、苦手だって知らなくてつい」

 

「そんな比企谷君が気に病むようなことはないわ。むしろ私の方が謝るべきだわ」

 

 

 

昨日の憂いた表情とは違い、彼女は申し訳なさそうな顔をする。

 

今なぜこのような事になっているのかを少し振り返ってみると、それは先ほど乗った絶叫系アトラクションに遡る。

 

 

 

 

 

—————————————*

 

 

 

パーク内のとある絶叫系アトラクション。

 

ぶらぶらと歩きまわっていた俺達は人気のわりに待ち時間が少なかったそのアトラクションに並び、たわいない会話で時間を潰していた。

 

 

 

「適当に並んだけど、本当にこれでもよかったのか?この乗り物結構怖いらしいぞ」

 

 

「ふふ、比企谷君。自慢ではないけれど、私はそこらの家の屋根を飛び回ったり出来るのよ。こんなお遊びの乗り物なんてたいしたことないわ」

 

 

「そうか、確かにそれもそうだな」

 

 

 

 

この時は余裕の笑みを見せていた雪ノ下だったが、実際に乗り終わった時は大変な事になっていた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・

 

 

 

 

「はぁ、結構浮遊感強かったな。落ちている時ドキッとしたわ」

 

 

「……」

 

 

「……ん?どうした?もう安全バー放していいぞ」

 

 

「…………ぁ」

 

 

「あ?」

 

 

 

「……あ、あと5秒落下が続いていたら、……赫子を使って飛び出していたわ」

 

 

「マジか……」

 

 

 

—————————————*

 

 

 

 

 

 

 

このようにして俺達はパーク初めての乗り物を楽しみ、今はアトラクション近くのベンチで休憩をしているわけだった。

 

 

 

 

「あり得ないわ。……体を拘束された状態であのスピードの落下を楽しむなんて」

 

「それが楽しい奴もいるからな」

 

 

 

元気になって来た雪ノ下は口数が増え、あり得ないを連呼する。

 

どうやら体が自由に動かせないと浮遊感が恐いらしい。

 

乗る前の余裕は本当にどこに行ってしまったのかと思うほど残念なありさまだ。

 

 

 

「……次に乗ったら絶対に安全バーを壊してしまうわ」

 

「そうですか…」

 

 

 

これはもうダメなやつですね。

 

と言うか安全バーを壊したら余計に危なくなるだろ。

 

 

 

「昨日ランドで絶叫系のアトラクションに乗らなかったからな。残り時間は絶叫系以外に行くか」

 

 

 

昨日乗ったものには絶叫系のように浮遊感を楽しむものはほとんどなかった。

 

どちらかと言えばデスティニー作品を楽しむためのゆったりした乗り物ばかりで、多少の揺れはあったが子供でも怖がらない程度のもの。

 

その他は劇の様な物や映像を楽しむものばかりで、今回の様な激しい乗り物を体験する機会はなかった。

 

 

 

「……でも、せっかく来たのに申し訳ないわ。比企谷君だって乗りたいものはあるでしょう?」

 

「気にするな。今度妹と来た時にでも乗るから」

 

「……そう」

 

 

 

雪ノ下の隣に座り体温で暖められた息を外に吐き出すと、息は雪と同じ白色に変る。

 

それが少し面白くて何度か同じことを繰り返して静寂を楽しむ。

 

 

そうしてふと目の前の雪を眺めていると、どこかの賢い大学の教授がテレビで雪の結晶について話していた事を思い出した。

 

確か雪の結晶にはさまざまな種類があって大気の状態か何かで形が決まるらしい。

 

でもどんな形でも自然にできたとは思えないくらい綺麗な形でテレビを見て感心したのをよく覚えている。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

いつの間にか会話が途切れていたことに気づいた俺は自然と雪ノ下の方を向いた。

 

 

一度瞬きをして映し出された光景には当然雪ノ下がいて、当然雪が降っている。

 

二つとも当然のことで別に珍しいものではないはずなのに、俺は彼女から目が離せなかった。

 

まさに息を呑んで、吸い込まれるように彼女を見入った。

 

 

 

 

「生まれた時に、…雪が降っていたから、私の名前は雪乃」

 

 

 

 

彼女は、……雪ノ下雪乃は降り注ぐ雪に手を伸ばし、儚げな表情でそう言った。

 

 

 

「……小さいころに父が教えてくれたの。

生まれてきた時に雪が降っていたから“雪乃”。母がどうしてもこの名前にしたいと言ったらしいわ」

 

 

 

この時、俺は初めて雪ノ下の口から母と言う言葉を耳にした。

 

親父さんの話はほんの少しだけ聞いたことがある。

 

 

 

「お世辞抜きでいい名前だと思うが、急にどうしたんだ?」

 

 

 

さっきまでのジェットコースターへの震えはなく、ただ落ちてくる雪を静に眺めている。

 

……いや、雪を眺めているのではなく頭の中で何かを考えているようだった。

 

 

 

「比企谷君が妹と言った時に少し思い出したのよ。比企谷君にも家族がいるように、私にも家族がいる。

もちろん父も母も他界して、……もういないのだけれど」

 

「……」

 

 

 

そんな事はない、と言い返そうと思ったけれど、その言葉を口にすることは出来なかった。

 

……雪ノ下は父がいなくて母もいない。だから家族がいないと言った。

 

はたしてそれは正しいのか、それもと間違っているのか。

 

 

いつも陽気に笑うあの人の存在がその判断を困らせる。

 

 

 

「今、雪ノ下陽乃の事を考えているかもしれないけれどあの人は違うわ。私はあの人の敵で、あの人は私の敵。それ以上の関係なんてないのよ」

 

 

「……いや、あの人は、……お前の事を…」

 

 

 

分からない。雪ノ下陽乃が何を考えているのかがずっと分からない。

 

彼女は俺に言った。自分は喰種捜査官だからこれからも喰種を殺すと。

 

 

 

「ねぇ比企谷君、少し私の話を聞いてほしい。

私と母、それに雪ノ下陽乃の関係のこと」

 

 

 

 

 

ならもしも、次に雪ノ下雪乃と対峙した時どうするのだ。

 

クインケを握り自分は捜査官だと言って、彼女の首を跳ね飛ばすのか?

 

 

 

 

 

「……ああ、聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

雪ノ下さん、じゃあ何であなたはアオギリ戦の前に俺の質問に答えたんだ。

 

 

 

……何であなたは、あんな話をしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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