雪の中の化け物【完結】   作:LY

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前話と同じ日の話になっています。

注意:東京喰種:reのネタバレが多々あります。アニメも始まりますのでネタバレを避けたい方には読むことをお勧めできません。
あらかじめご了承ください。






Sisters 2

七区で事件が起き、俺が化け物になってから約四年が過ぎた。

 

 

捜査官に身を隠しながら数年間は穏やかに過ごしてきた俺達だが、どうやら死ぬまでゆったりした生活が続くわけではないらしい。

 

若干不本意ではあるが、半年ほど前から捜査官にちょっかいをかける事が増えてしまった。これでまた、昔のように悪い意味で目立ってしまっただろう。もちろんCCGに。

 

この四年で語るべきことはまだまだたくさんあるが、詳しい事を話すと長くなるからそれはまた後で語ろう。

 

 

 

 

「雪ノ下の奴……、今日は出かけているのか?」

 

「はい、昼前に出て行きましたよ。やっぱり奥さんがいないと寂しいですか?」

 

「別に……」

 

 

 

とある喫茶店のカウンター席でコーヒーを片手に店長と話す。

 

髪で片眼が隠れている店長は「ふーん」、とコーヒーカップを洗いながら返事をする。

 

たぶんあいつの事だから近所の野良猫にニャンニャン言っているに違いない。

 

そんな予想をしている間に、店長はこちらに視線を向けていた。

 

 

 

「雪乃さん、………子供欲しがってましたよ」

 

「ぶっ!!」

 

 

 

飲みかけのコーヒーがカップに吐き出される。

 

急に何を言い出すんだこいつは。それにこいつらはコソコソとそんな話をしているのか。

 

 

 

「それと、“カネキ”達がもう先に出てますよ。喰種支援団体に会いに行くとかで。比企谷さんも行くんでしょ?」

 

「……あぁ、“グルメ“と“オロチ“がいるから俺は必要ないと思うがな」

 

 

 

今更ながら思い出し、自分でも分かるくらいめんどくさそうに返事をする。

 

とある用事でついて来てほしいと言われたものの、よくよく考えればなぜ俺がそんな事をしなければならないのだろう。そんな事をする暇があるのならヒナミを愛でた方が良いに決まっている。

 

マジでヒナミ天使。とりあえず結婚したい。

 

 

 

「カネキは結構比企谷さんに懐いているから、出来るだけ助けてやって下さい」

 

「はいはい、コーヒーご馳走様でした。

雪ノ下が帰ってきたら出かけてるって伝えといてくれ」

 

「分かりました」

 

「ありがとな、霧島」

 

 

 

家の嫁が子供を欲しがっていることはうやむやにして、グッと体を伸ばす。

 

そして席を下りて、店のドアの方へと向かった。

 

 

 

「んじゃ、…行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と雪ノ下は今、喰種によって組織された集団“黒山羊(ゴート)”に所属している。

 

元々ぼっちだった俺達は群れる事は好まない。けれど状況が状況なだけに喰種の集まりに参加することになった。

 

ここ数年間ずっと二人で生きて俺達の生活は比較的穏やかだったが、喰種とCCGの間では何度か大きな衝突があった。

 

三年前には20区で“隻眼のフクロウ”とCCGの戦争。雪ノ下を襲った時とは比べ物にならないほど大きな戦いだった。

 

それから数年たってCCGに“クインクス”が現れたり、アオギリとCCGの全面戦争があったり、一方でコクリアが破られたりとなかなか濃いエピソードが多い。

 

中でも俺的には大天使ヒナミに出会えたことが一番の出来事だった。

 

 

 

まぁやや話は逸れてしまったが、なぜ俺達が黒山羊に所属したかと言うと、これからの世界がより一層喰種にとって暮らしにくくなるからだ。

 

俺達もいつまでも二人ぼっちとはいかない。これからを生き抜くためには大きな力と大量の情報が必要だ。

 

それに、……芳村エトにも借りがある。

 

カネキケンを手助けすることであいつへの借りも返せるだろう。

 

 

それと雪ノ下雪乃が今の状況を結構気に入っているから、それなら別に不満はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷さん、来てくれてありがとうございます」

 

「ああ、遅れて悪いな」

 

 

 

呼び出されたのは都内の地味な橋の下。ここで喰種庇護団体の奴らと会うとか。

 

先に待っていたカネキ、グルメ、オロチは適当に雑談して時間を潰しているようだ。

 

 

 

「比企谷くん、君も呼ばれていたとはね。話は聞いているかい?」

 

「いやあんまり、何か喰種庇護団体に会うくらいしか」

 

「なら待っている間に僕が説明しよう。王の剣である僕が」

 

「ん、頼むわ」

 

 

 

無駄に王の剣とアピールしてくるのはグルメ。長身でハンサムな顔立ちだが色々と残念な奴だ。

 

こいつの説明によると、何でも今は医者を探しているらしい。喰種を庇って犯罪者になった捜査官を早く治療しないとやばいとか。

 

さすがに犯罪者を病院に連れて行ったら足がついていてしまうから、こっそり喰種を手助けしてくれる喰種庇護団体を頼るそうだ。

 

 

 

「それで、この話は別件だけれど君の言っていた人をホリに調べてもらったよ」

 

「……それで、結果は?」

 

「ああ、君の探している女性は_____」

 

 

 

グルメは続きを言おうとしたが、俺に向けていた視線を横にスライダして言葉を止めた。

 

 

 

「……こんにちは、大環アクトの小倉と申します」

 

 

 

ちょうどこのタイミングで待ち合わせ相手が来てしまい、さっきの話の続きは出来なくなってしまった。

 

来たのは二人の人間、小倉と名乗った方はテレビかなんかで見たことがある気がする。

 

もう一人は全く知らない男で割と見た目は若い。

 

 

 

「来ましたか」

 

「はい、早速で申し訳ないのですが、ここではなんですので……」

 

 

 

ふーん、と彼らを眺めてみるが、正直に言って喰種庇護団体にあまり興味ない。

 

しかし、カネキに頼まれたからではない理由が俺をこの場所まで動かしたのだろう。

 

……何となく、根拠はないがここに来れば会えると思った。

 

いるのかいないのかも分からない、そんな幽霊みたいな人を探して。

 

 

 

 

「場所を移しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから場所を移して、誰にも会話を聞かれず落ち着いて話せる場所であるカラオケに来た。

 

喰種側である俺達四人と人間側である二人、よくもまぁ恐れずに来られたものだと思う。

 

相手が喰種だと分かっていて、それでも普通に会話ができる奴なんて数少ないからな。

 

 

 

「我々の理念は、“わたしたちは偶然ヒトに生まれた”と言う事です」

 

「……」

 

 

 

話は進んで大環アクトの理念を聞いた。御大層な考え方だがグルメはカラオケを楽しんで半分くらいしか聞いてない。ちなみに俺も半分くらいしか聞いてないが問題ない。

 

カネキとオロチが熱心に聞いている。やはり今回俺が来る意味はそんなになかった。

 

 

 

「そうですか。それで話は変わるんですが、今回は“四人”来ると聞いていたんですが……」

 

 

 

カネキがそう小倉に聞くと、小倉は頬の辺りをポリポリと掻いて困った顔をした。

 

 

 

「その、大変申し上げにくいのですが……少々遅れていまして」

 

「社会的に立場が良くない方々なので、普段から姿を消しているんですけれど……」

 

 

 

小倉の連れがそう言って、さすがの比企谷くんも呆れてしまう。

 

俺ですら時間通りだと言うのに、重役出勤とは余程お偉いようだ。

 

 

 

「俺ちょっとドリンクバーでコーヒー取って来るから。お前らもいるか?」

 

「ああ、お願いします」

 

 

 

オロチとカネキはいるようで、グルメは知らん。

 

 

 

「いやー、本当に申し訳ない。そろそろ着くはずなんですが」

 

「そうです。とっても美人な方なので」

 

 

 

大環アクトの二人は立ち上がる俺を見て機嫌を取るようにそう言う。

 

別に怒ってはいないのだが、どうやら勘違いされたらしい。

 

いつもより目が腐っているからか、それとも無意識に赫眼にでもなっていたのか。

 

それと美人であることは遅刻していい理由にならない。

 

 

 

「いや、大丈夫です」

 

 

 

適当に彼らの言葉を流して、俺はカラオケボックスから出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋から出ると、他の部屋から漏れ出す歌声が聞こえてくる。

 

半分喰種になった今では以前より耳が良くなったので、余計にそれらは聞こえてくる。

 

 

 

「何だよ、コーヒーないのか」

 

 

 

ドリンクバーの置いてある廊下で、一人ブツブツと文句を言う。

 

コーヒーがなければ水くらいしか飲めない。せっかくのドリンクバーだが来た意味がなかった。

 

 

 

「部屋戻って話聞くのもめんどくさいな。もう帰ってヒナミと……」

 

 

 

ここから帰るのも悪くないと思うが、そう言えばグルメに聞きたい事があったのだ。

 

俺の聞きたいこと、とある人物のこと。

 

グルメの友人、堀ちえが“喰種対策法違反者リスト”を調べている時に見つけてしまった人物。

 

元々の目的は真戸アキラがリストに載っているか調べるためのものだったが。

 

 

 

「普通に考えて、“死人”はリストから除名されるはず。なのになんで、四年も経って除名されてないんだ」

 

 

 

たまたま見つけた名前、その名前は良く知っている。

 

だってその名字は俺が嫁を呼ぶ時と同じ__。

 

 

 

 

 

『もぉ、遅刻しちゃってるじゃん!モンハンなんてやってるから!』

 

 

『えっ、私は止めときましょうって言ったじゃないですか。なのに無理やり……』

 

 

 

 

 

ちょうど来た道を戻って個室のドアに手をかけた時、そんな声が店の入り口の方から聞こえてきた。

 

人数は二人で女の声。人数も性別も合っているので、そいつらが遅刻してくる大環アクトのメンバーなのだろう。

 

そうは思ったものの、俺は構わず先に部屋に入ってソファーの様な椅子に腰を下ろした。

 

 

 

「カネキ、残りの二人が来たみたいだぞ」

 

「へぇ、どんな人ですかね?」

 

 

「お二方とも元喰種捜査官なんですよ。だから喰種にもCCGにも嫌われてまして」

 

 

 

グルメがまだ歌っている中、小倉の話を聞いて驚きの声が上がった。

 

それはカネキが言ったのかオロチが言ったのか、それとも俺が言ったのか分からないけれど、間違いなく一番驚いたのは俺だと思う。

 

 

 

「……おいおい、冗談だろ」

 

「僕や比企谷さんと同じですね」

 

 

 

カネキは呑気にそんな事を言っているが、喰種捜査官がそれと全く逆の喰種庇護団体に入るなんてかなりおかしい。

 

小倉達が言ったように社会的立場もかなり悪くなる。

 

そんな度胸のある女捜査官なんて、普通に考えているわけが……。

 

 

 

「いや、……まさか、そんなわけが…」

 

「……?どうしました?」

 

 

 

今もなおこちらに近づいてきている女性二人。よく考えてみたら、その片方に心当たりがある。

 

あまりにもタイムリーな出来事で、変な予感が的中しそうで怖い。

 

だけどその可能性は十分にあった。

 

 

 

「グルメ、歌うのを止めてくれ」

 

 

 

割と真剣に歌うのを止めさせ、静まり返った部屋の中で耳を澄ませる。

 

雪ノ下に比べれば程遠いが、外の廊下の音を上手く聞き分ける。

 

他の奴らは不振がって俺を見ていたが、今そんな事は気にしない。

 

 

 

 

 

『____後輩ちゃんが双剣なんて使うからでしょ!あんな弱っちいやつで細々切ってるから遅くなったんだよ!』

 

 

 

 

この声を聞いて、今一度俺は思う。

 

彼女が俺の想像している人物である可能性は十分にある。

 

 

 

 

『それはじゅ……、じゃなくて、先輩が大剣で私を斬り上げるから!

先輩が邪魔しなかったらもっと早く倒せたじゃないですか!』

 

 

 

 

だって。

 

俺も雪ノ下も、あの人が墓に眠る姿なんて見ていない。

 

ただ最後に、お腹に大きな穴をあけていただけ。

 

 

死ねるわけない、そう言って彼女は目を閉じただけ。

 

死なないと誓って、彼女は俺の腕の中から離れて行った。

 

 

 

 

『へぇ、そんな事言うなら、もう今度から後輩ちゃんの欲しい素材があっても手伝ってあげないからね』

 

『そんな!卑怯ですよ、それは!』

 

 

 

 

そんな騒々しい会話が最後に聞こえて、彼女達はドアの前で止まった。

 

深呼吸でもしているのか、その人たちは数秒その場に立ち止まったまま。

 

だけどそのうち、ドアがゆっくり開かれてその姿を俺たちの前に現した。

 

 

 

 

 

「はじめまして、いつも可愛い妹と義弟(おとうと)くんがお世話になっています」

 

 

 

 

その姿は、四年ぶりに見た……。

 

 

 

 

 

 

 

「大環アクトの________」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

ねぇ比企谷くん。

 

 

君に伝えられなかった話の続きをしよう。

 

 

 

 

 

 

私は君で、君は私なんだ。

 

 

 

 

 

 

今度目が覚めたら、私も君のように彼女を守れる人になりたい。

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、いつも可愛い妹と義弟(おとうと)くんがお世話になっています」

 

 

 

 

ねぇ、比企谷くん。

 

私は彼女を守れる人になれたかな。

 

今度はちゃんと彼女の隣に立って、お姉ちゃんだと胸を張って言えるようになれたのかな。

 

 

ずっと考えてきて結局分からなかったけれど、私はこんな風に答えを出したよ。

 

 

 

 

「大環アクトの________」

 

 

 

 

ねぇ、これから答え合わせをしよう。

 

 

 

私が選びなおしたこの道が正しかったのか、君の口から聞きたい。

 

 

 

たくさん話をして、たくさん今までの事を教えて欲しい。

 

 

 

 

 

もちろん、私の大切な妹も入れた三人で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

喫茶店 :re

 

 

 

 

大環アクトとの話は終わり、早急に準備しなければならない事があるという事なので、俺たちは寄り道せず帰って来た。

 

もっと話したい事がたくさんあったが、また機会があると彼女が言って別れた。

 

 

 

「お帰りなさい。思っていたよりも早かったわね」

 

「おう、ただいま」

 

 

 

喫茶店に入ってすぐ、霧島と話していた雪ノ下はこちらに歩み寄って来る。

 

その振る舞いや仕草を見ると、久しぶりに二十歳だった頃の事を思い出した。

 

いきなり二人暮らしを始めて、雪ノ下が初めて“お帰りなさい”と言った時の事を。

 

 

 

「ふん、人前でいちゃつきやがって。そう言えば、今日比企谷が浮気してたぞ。相手がめっちゃ美人でな、最後に連絡先交換してたし」

 

 

 

後から入ってきたオロチがそんな事言いながら通り過ぎて行く。

 

カネキも困ったように笑って、店の奥へ行ってしまった。

 

 

 

「へぇ、それは非常に興味深い話ね。ぜひとも聞かせて欲しいわ」

 

「おいおい、俺がヒナミ以外と浮気するわけないだろ。全く、あいつのメガネは節穴だな」

 

 

 

ハハッと笑う俺に対し、雪ノ下はフフフと笑う。

 

フフフと笑っているはずなのに全然笑っていない。

 

 

 

「まぁ寛大な心で今は問い詰めないであげる。

今日はいい事があったから、ゆっくりその話がしたいわ」

 

「寛大な心でも“今は”なんですね。どうもありがとうございます」

 

 

 

嫁に腕を引っ張られるまま、数時間前にも座っていたカウンター席に腰かける。

 

店主の霧島は空気を読んだつもりなのか、席を外してくれた。

 

 

 

「今日はお出かけしてきたのだけれど、とても素晴らしい一日だったわ。

……ずっと会いたかった人にも会えたし」

 

「奇遇だな、俺も同じだ」

 

 

 

嬉しそうに話す雪ノ下にそう返事をして、俺は少し笑った。

 

 

 

「本当に?じゃあ一斉に言いましょうか」

 

「ああ、別にいいぞ」

 

 

 

 

雪ノ下も少し笑って、絶対に驚かしてやると言わんばかりの表情をする。

 

たぶん俺も、同じような顔をしていると思う。

 

 

 

「それじゃあいくわよ」

 

 

 

そう、今回のお話は俺と彼女のとある一日。

 

あの時から四年過ぎた、俺たち化け物のお話。

 

素敵で幸せな、化け物たちのお話。

 

 

 

 

「___せえの」

 

 

 

 

 

そして______。

 

 

 

 

 

 

「「義姉(あね)(義妹(いもうと))に会って来た」」

 

 

 

 

 

 

 

化け物の妹と化け物の姉のとある一日。

 

 

 

 

俺達が愛した、親愛なる“Sisters(シスターズ)”のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか。一話にまとめたため駆け足で進んでしまいましたが全力を尽くしました。

どのキャラとは言いませんが、”彼女”は死んだままの方が物語的に面白かったと思うあなた。元々こうする予定だったので許してください。

4月になるとまた忙しくなってしまうので創作活動が出来なくなると思いますが、気力があれば他のキャラも登場させた短編を書きたいと思っています。


少し長くなりましたが、またご縁があれば。

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