雪の中の化け物【完結】   作:LY

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第六話

 

左腕が使えないと、やはり動きに無駄が出てしまう。

 

 

「……くっ、…このカスが!!」

 

「比企谷!赫子をやれ!」

 

 

平塚先生に指示され相手の左側から切りかかり、腰の下から飛び出している尾赫を切り落とす。

 

 

相手は一瞬怯み、その隙に平塚先生が懐に入る。

 

 

「悪いな」

 

 

平塚先生のクインケが相手の腹を切り裂き、喰種の短い叫びが聞こえた。

 

 

 

「……が、…っ!」

 

 

相手はその場に倒れこみ、まだ抵抗しようと必死にもがくが、十秒もたたないうちに息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

 

「……任務完了だ」

 

「……」

 

 

 

 

先生は安堵の声を俺にかけるが、何も言い返せなかった。

 

 

俺はクインケを握りしめながら倒れている喰種に目をやる。

 

服は俺達との戦闘でボロボロになっており、腹の部分からは血が流れている。

 

お世辞にもキレイとは言えない死体を眺め、俺は思う。

 

 

 

 

“これが俺の仕事だ“

 

 

“相手は喰種だから仕方ない”

 

 

“今倒していなければ、誰かが被害にあった”

 

 

“だから……”

 

 

 

 

「……」

 

 

 

……こんな考えは、何一つ意味がない事は分かっている。

 

 

 

なぜなら相手が喰種だからと言って、

 

相手が人殺しだからと言って、

 

命を奪う事を正当化できると思ったことなど、ただの一度もないのだから。

 

 

 

「……中途半端だな」

 

 

 

先日、雪ノ下さんに言われたことを思い出し、思わず呟く。

 

 

未だはっきりした答えを出さず、揺れ動く感情に任せて行動しているだけ。

 

答えを出すことに恐れを抱いて、ずっと逃げ続けているだけ。

 

 

…そんな俺を見かねて、彼女はそう言ったのかもしれない。

 

 

 

「……本当に、中途半端だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種対策局

 

 

 

 

 

俺達の捜査は開始から二週間たった今日の昼頃、ほとんど何の問題もなく終わった。

 

 

「比企谷、左腕の調子はどうだ?」

 

「動かさなければ痛みもないですし、治るまでそんなに時間はかからないと思います」

 

「そうか、それは良かった」

 

 

この二週間で俺の腕の痛みはほとんどなくなり、多少なら動かしても良くなってきた。

 

それもこれも、喰種に襲われ傷つけられた人たちのために医療が進んでいるからだろう。

 

 

「それにしても片腕が使えなくてもあれだけ戦えるとはな。おかげで新しいクインケを試せたよ」

 

「平塚先生が新しいクインケを使うからあれだけ戦わないといけなかったんですよ。

俺は怪我をしているから後ろにいるだけでいいはずだったのに」

 

「まぁそう言うな。本当に強い相手ならそんな事はさせなかったさ」

 

「…あまり信用できませんね」

 

 

平塚先生は俺が怪我をしているにも関わらず、新しく作られたクインケを実戦したいと言って、結局俺も戦闘に参加することになった。

 

相変わらず人使いが荒い。

 

 

「うーむ、やはり前のより今のブレードの方がいいかもな。普段は比企谷が前衛をしてくれるから、その時は羽赫で後ろから……」

 

 

その後も苦悩し続け、自分の新しいクインケについて必死に考える。

 

俺は普通にいつも通りでいいと思うが…。

 

 

「…まぁこれは後で考えるか。それで比企谷よ。また話は戻るが左腕はどうだ?数日後には使えるようになっているか?」

 

「添えるぐらいなら大丈夫だと思いますけど、なぜですか?」

 

「あぁ、ちょっと色々あってな」

 

 

平塚先生は煮え切らない返事をし、デスクの引き出しから何かの書類を出す。

 

 

「……六日後、私は11区に行かなければならないと言ったのを覚えているか?」

 

 

平塚先生が取り出した書類には11区特別対策班名簿と書かれており、様々な区で捜査を行っている喰種捜査官の名前や写真、所有しているクインケがずらっと並んでいる。

 

そしてその中に平塚先生の名前も載っていた。

 

 

「確かに、結構前にそのような事を言っていましたね。

……と言うか、先生の証明写真怖すぎでしょ。何でこんなに眉間にしわが寄ってるんですか?」

 

「貴様殴られたいのか。今はおふざけなしで聞け。

……それで11区の作戦だが、君も知っての通り喰種で組織された集団“アオギリの樹”のアジトが見つかったため、これの殲滅が目的だ」

 

「はい、その辺は知っています」

 

 

 

“アオギリの樹”

 

 

あまり詳しいわけではないが平塚先生が言った通り喰種の集団の名前で、その集団の中にはSレート以上の喰種が数体いるとかなんとか。

 

 

「もともとこの作戦があるから8区での仕事は二週間前で終わるはずだった。

しかし君も知っている通り前の一件で8区のメンバーがかなりやられてしまったから、今日までこちらの仕事もしていたという事だよ」

 

「はぁ、……それで結局何が言いたいんですかね?」

 

 

もったい付けているのか話を伸ばしているのかは分からないが、平塚先生は話の核心に触れようとしない。

 

 

「……まぁ隠していても仕方がないか。君にはこの作戦中に留守を頼んでいたが、私について来てもらう事になった」

 

「は?」

 

「いきなりで申し訳ないが、欠員が出てしまってな」

 

「え? ……いや、それはあまりにも急過ぎじゃありませんか?」

 

 

この作戦は参加メンバーを見て思ったが、結構大きなものだ。

 

下位の捜査官ももちろんいるが、上位捜査官が何十人も参加していて特等捜査官も数人いる。

 

いくら代わりだからと言って、それほどの作戦に俺のような奴が参加するのはおかしい気がする。

 

 

「君の実力は確かだし、危険な役目はもっと上の階級の人がやるから心配しなくてもいい。基本的には弱い方の、言い方は悪いが雑魚の相手だ」

 

「ですが……」

 

 

何かを言おうとしたが、言葉がなかなか見つからない。

 

言葉を詰まらした俺を、平塚先生はゆっくり待ってくれるが俺の方がしびれを切らしてしまった。

 

 

「……分かりました。詳細を教えてください」

 

「……悪いな。それでは、作戦について大体説明するが……」

 

 

平塚先生はその前に、と言って俺に忠告する。

 

 

「次の作戦では雑魚ばかりと言ったが、本当に強い喰種と遭遇する確率だってある。だから君に言っておきたい」

 

「……何でしょう?」

 

 

先ほどから平塚先生は真剣な表情をして、もちろん今もそのような顔をしているが、目つきだけは鋭いものとなった。

 

 

「今回ばかりは喰種相手に手を抜くな。私達はクインケを持っていても所詮人間だ。気を抜くと一瞬で殺されてしまう」

 

 

 

 

……分かっている。

 

 

喰種は俺達と同じように知性を持ち、俺達よりも何倍も優れた生き物だ。

 

 

「私は、君に死んでほしくないからな」

 

 

俺達よりも硬い体を持ち、俺達よりも強い力を生み出せる。

 

狡猾で、凶暴な生き物。

 

 

 

そんな事を、アカデミーで教わった気がする。

 

 

 

 

「……分かりました」

 

 

 

 

 

 

……だけど、

 

 

 

 

 

 

俺は優しい喰種だっている事を知っている。

 

 

 

 

 

 





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