雪の中の化け物【完結】   作:LY

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第九話

11区 アオギリの樹アジト 

 

五棟

 

 

 

冬の冷たい空気を切り裂き、赫子とクインケが強くぶつかり合う。

 

剣のような形に変形させた赫子からは強い振動が伝わり、私の体はより一層力が入る。

 

 

 

 

左の赫子で敵の斬撃を受け止め、敵の隙を狙って右の赫子でのカウンター。

 

私の意のままに伸縮も変形も行う赫子は通常の捜査官であれば対処が難しく、実際に今まで出会ったほとんどの捜査官は対処できていなかった。

 

 

それなのにこの男は、

 

 

 

 

「また、速くなった…」

 

 

 

素早く左の赫子を弾き、流れるように右の赫子に対応してすぐに反撃に持ち返してくる。

 

……反応速度が異常なまでに高い。

 

 

 

「…っ、厄介ね」

 

 

 

着実に間合いまで詰めてくる彼を押し返し、追撃をさせないように横の壁を赫子で抉って破片を飛ばす。

 

もちろんクインケを巧みに使って防がれたが、その間に距離を取る時間は稼げた。

 

 

 

 

「はぁ、しんど…。完全にはずれ引いたな、これは」

 

 

 

「……」

 

 

 

大きく間合いから外れた私を見ると、彼は話しかけているのか独り言を言っているのか判断しにくい口調でそう言う。

 

 

……相変わらず不快な男だわ。

 

私だって本当は家でゆっくりパンさんのDVDか猫の動画を見ていたいのに、あなたみたいな目の腐った厄介な男と戦っている。

 

 

そんな私の前で気の抜けるようなことを言わないでほしいわ。

 

 

 

 

……とまぁ、彼に八つ当たりしても仕方がない。

 

今は距離のあるうちに次の一手を頭の中でまとめる時間だ。

 

 

 

 

 

 

————。

 

 

数分間手合わせして相手が並みの捜査官じゃないことは分かった。

 

持っているクインケは単純なブレード型だが切れ味がかなりいいため、こっちの赫子も刃物のように研ぎ澄ませないと最初のように切り落とされてしまう。

 

そして彼の動きだが、力を込めて攻撃すれば上手く受け流し、私が動きを速くしてもそれに合わせるかのように彼も動きが速くなる。

 

 

やっぱり厄介ね……。

 

 

これ以上力や速さを上げると、さすがに歯止めがきかなくなって致命傷を与えてしまうかもしれない。

 

 

 

 

彼を殺すことだけは絶対にするわけにはいかない。

 

それは私の理念に反するし、彼には借りもある。

 

 

 

「………」

 

 

 

だとしたら、私のとるべき行動は————。

 

 

 

 

「……一本だけ、増しましょうか」

 

 

 

赫包から皮膚を突き破って、まさに尾のようにゆらゆら動く。

エネルギーの消費が増えるから、普段はあまり使わないようにしているのだけれど。

 

 

 

「おいおい、シャレにならねぇぞ……」

 

 

 

 

右と左、そして真ん中にもう一本。

 

 

 

 

 

 

「三本目の、…尾赫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン、ドクンと心臓の拍動が徐々に大きくなっていくのが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が今戦っているのは、赤いマントみたいな服にアオギリ構成員の仮面を付けた全然強そうに見えない量産型のモブ。

 

ハッキリ言ってしまえば、すぐに倒せそうな見た目だ。

 

 

 

「…っ!…、ちっ」

 

 

 

だが実際に戦ってみたらどうだ。

 

 

スピードもパワーも十分で、二本の赫子を完全に使いこなしている。

おまけに形状変化が厄介で、俺のブレード対策のため赫子を剣のように変形させた。

 

厄介も厄介、普通に幹部クラスの喰種で俺のような下っ端捜査官が相手にするような奴じゃない。

 

 

そんな奴が赫子の数をもう一本増やすとかありですか?

 

 

……もう逃げたいわ。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

そんな無駄な事に頭を使っている間にも激しい赫子の連撃が襲い掛かり、俺はクインケを使ってそれを受け流し続ける。

少しでも余裕が出来れば攻めようと思うが、全くその隙が出来ずやられっぱなし。

 

 

防戦一方だ。

 

 

 

「三本目が邪魔なんだよ」

 

 

 

初撃、二撃目と二本の赫子の攻撃を弾き、次の一手に備えてクインケを構えようとするが、振り切った腕が元に戻らないまま三本目の攻撃が来る。

 

体をひねって何とか回避するが、その時の遅れに攻め込まれて一気に畳みかけられる。

 

 

 

 

 

「これで!」

 

 

「っっ!」

 

 

 

一瞬の遅れは相手に大きな隙を与え、遂に俺の防御が崩された。

 

気づいたときにはクインケとともに数メートル吹き飛ばされ、その勢いで床をゴロゴロと転がりまわる。

 

赫子と体の間にギリギリクインケを挟んだものの、勢いは全く殺せなかった。

 

 

 

「…いっっ!!!」

 

 

 

胸部に鈍い痛みを感じるが、それ以上に頭への衝撃が強い。

 

落下の勢いで強くコンクリートの床にぶつけたらしく、痛すぎて頭が真っ白になったような感じだ。

 

 

 

 

「…やっと、…倒れてくれたわね」

 

 

 

 

……痛いし、視界が少し揺れて頭がうまく回らない。

 

相手が今、近づいてきているのか動いていないのかも分からない。

 

 

意識が、……薄れる。

 

 

 

 

「はぁ、……さすがに、疲れたわ」

 

 

 

 

だが不思議な事に相手の息が上がっている事と、

 

 

 

 

ドクン、ドクンと心臓の拍動が強くなっていくのは分かる。

 

 

 

 

 

まるで俺に動けと言っているように、まるで生きろと言っているように、心臓はバクバクと動きを加速させていく。

 

 

 

 

…いつだったか、これと同じ感覚を味わったことがあったな。

 

 

 

いつだったっけ?

 

 

 

———————。

 

 

 

———————。

 

 

 

 

———————。

 

 

 

 

 

「あぁ、たしか…」

 

 

 

 

 

Sレート喰種と戦った時だったな。

 

 

 

 

 




評価してくださった方ありがとうございます。

嬉しくてついつい早めに投稿してしまいました。
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