名探偵と料理人   作:げんじー

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龍斗の体重を70kg→85kgに訂正しました。

このお話は 原作15,16巻 を元にしています。

あらすじの最後に投稿予定日時を記載するようにしました。


第十九話 -名家連続変死事件-

「ようこそ、おいでくださいました。緋勇龍斗様。私、長門家に先代から仕えさせていただいております、武蔵ノ介と申します。以後お見知りおきを」

「これはどうもご丁寧に。この度は長門会長のお誕生日おめでとうございます。海外にいる父に代わりお祝い申し上げます」

「これは、ありがとうございます。旦那様にも直接おっしゃって下さい」

「ええ、勿論。それで、ですがささやかな誕生日ケーキということで30×40cmのアニバーサリーケーキを持参しました。父の料理には遠く及ばないとは思いますが、代理として手ぶらで来るわけにもいかないので事前に連絡させていただいた通りにご用意しました」

「いえいえ!それはとんだご謙遜だ。緋勇龍斗様のケーキを大規模なパーティではなく家族だけのささやかなパーティに饗することができるなど、それだけで大きなプレゼントになりますよ!」

 

今日俺は、長門グループの邸宅に父さんの代理で来ていた。なんでも平ちゃんのお父さんの平蔵さんが、剣道部の先輩にあたる長門会長に不審な音について調査してほしいとの依頼を受けたらしい。その会話で、お邪魔する日が長門会長の誕生日であることを知り、部には所属していなかったがよく顔を出していて顔見知りだった父さんに何か祝いの物を作れないかという依頼が急遽来た。勿論父さんは母さんと一緒に海外にいてどうしようもなく、俺に代理で行けないかという打診が来た。

特に仕事もなく、長門グループにはまだ呼ばれたことがなかったこともあり俺はその依頼を受けることにした。とはいっても、訪問まであまり時間がなかったのでケーキを作るという事だけを先方に伝えておいた。……結局、平蔵さんには俺が行くことは伝えられられなかったな。

紅葉は、今日は朝から京都で用事があるらしく朝から実家の方に戻っていたので取りあえず急遽仕事が決まって明日帰ることを電話で伝えると、

 

「浮気とちゃいますよね?」

「俺は二人を愛する気はないし、そんなに器用でもないよ。俺が愛するのは一人だけさ」

「―ばーか」

 

なんてやりとりがあった。まあ、それはともかくケーキを作っていたので来訪の時間に少し遅れが出てしまったが俺は無事長門邸に到着したというわけだ。

ケーキは玄関から邸内に入ってその場にいたメイドに持ってきてもらったカートに乗せ、厨房に運んでもらった。……警備の人が多いな。

 

「それでは、旦那様の部屋にご案内します。今だと緋勇たつ「龍斗だけでいいですよ」……それでは失礼をして。龍斗様以外の来客の方がいらっしゃるのでしばしお待ちして頂くことになると思いますがご了承ください」

「……それは大阪府警本部長の服部平蔵氏ですか?」

「え、ええ。その通りでございますがどうしてそれを?」

「平蔵さんなら小さいころから知っています。親戚のおじさんみたいな人なので問題ないと思いますよ」

「さ、さようでございましたか。それでは旦那様の部屋にご案内します」

 

案内をしてもらい、三階の会長さんの部屋にもうすぐ着くというところで

 

「お、おい何怒っているんだ?」

 

ん?その声に前に視線を向けると顔に包帯を巻いた人……この匂いは女性か?女性が歩いてきた。執事さんに連れられていた俺に気付くと軽く会釈をして横を通りぬけて行った。……つい、園子ちゃんの別荘で起きた事件の包帯男を想起させる姿だったから感覚広げて嗅いじゃったけど女性にすることじゃないな、うん。

 

「いまのは?」

「旦那様のご長男で長門秀臣様でございます」

 

……ご長男?男?どういうことだ?

 

『代わりにそろそろこの私めに、会長の座を譲っていただけるとありがたいのですが……』

『え?』

 

おいおい。開いたままの扉から聞こえた声に俺は眉をひそめ、思考を中断した。扉の前には至っていないので執事さんには中の様子は聞こえていないようだった。さっきの事もあってよく聞こえる耳がとらえたそれは本気の声色で、そして嘘偽りない心音だった。そして、中にいる人は会長さん以外は全員知り合いのようだった。

 

「それでは、案内はここまでで大丈夫ですよ。どうやら中にいる人たちは全員私の知り合いのようですので」

「左様でございますか?ですが、中の様子を見てもいないのに」

「まあ耳がいいんですよ。会長さんも穏やかな方みたいですし平蔵さんに紹介して貰います」

「わかりました。何かあればなんでもお申し付けください」

 

そう言って執事さんは戻って行った。

 

「おっと」

「失礼しました。私、緋勇龍麻の代理人で息子の緋勇龍斗です。どうぞよろしく」

「お、おお!?あの緋勇龍麻のご子息で四年前の世界大会の優勝者の緋勇龍斗君か!俺は長門光明だ。君が来ているってことは今日の夕食は期待してもいいのかな?」

「今晩は、ケーキだけですが。もし許可がいただければ朝食も用意しますよ?」

「それはなおさら楽しみだ!!」

 

部屋に入ろうとした瞬間に出てきたアラフォーの男性とぶつかりそうになった。互いに自己紹介をし彼とは別れた。そして俺は扉から中に入った。

 

「ほな、ぼちぼち私は大阪に……」

「せっかく東京で平蔵さんに会えるって言うレアなチャンスなのに、もう帰ってしまうんですか?」

 

「「「「「龍斗(((君)))(にいちゃん)!!!???」」」」」

 

中にいた毛利御一行と服部親子が同時に声を上げた。

 

「なんか、変な感じですね。いつも会うときは関西のほうでしたから」

「せ、せやな。龍斗君。しっかしひっさしぶりやなあ。まったくちょっと見ない内に貫録が出てきたんとちゃうか?おお、そうだ長門さん。この子はあの『100人殺しの緋勇』の倅ですよ!」

「お、おお!あの緋勇君の!!今日はお父さんの代わりに来てくれたんだったね。彼はかなりの優男だったが君は中々ワイルドな面持ちだね。君も強いんじゃないかい?」

「何を持って強いというのかは何とも言えませんが……そうですね、熊とか猪を相手に無傷で素手で狩って鍋にするくらいなら訳ないですよ?」

「お、おお。そ、そうか。お父さんも徒手空拳の拳法の達人だったが君もそうなのだね。いやはや、幼いときからただもんじゃないとおもっとったけど」

「あ、あのー?本部長?どうやら龍斗君は本部長のお知り合いのようですがどのようなご関係で?それに100人殺しの緋勇?」

「おや、毛利探偵もお知り合いでしたか。何、彼の父親の緋勇龍麻と私はよく言う幼馴染みという関係でしてな。その縁で関西に帰省した際にはよく顔をあわせとったんですわ。そこにいる不肖の息子の面倒をよく見てもらっとったんですわ」

「それで、100人殺しでしたな。ワシが剣道部に指導に行ってた際に平蔵君の見学によくお父さんが来ていたんですよ。彼はとても顔立ちが良くて女子生徒にモテモテで彼目当てで道場に人が集まる始末で。それに腹を……まあもてない男の嫉妬ですね。ワシや平蔵君がいない時を見計らってある男子学生が緋勇君をむりやり試合させようとさせた事件があったんです。その男子生徒は竹刀を持たせたかったらしいですが緋勇君は徒手空拳で相手をのしてしまいまして。普段から彼に不満を持っていた連中がそれにヒートアップしてしまい大乱闘になってしまったんですわ。最終的に木刀や居合で使う真剣まで持ち出した大騒ぎになったんですが緋勇君はすべての武器を叩き折って相手を昏倒させたんです。……無傷で。ワシと平蔵君が道場に戻った時、皆倒れ伏してぴくりともしていなかった様子から『100人殺しの緋勇』とよばれるようになったんです」

「まあ実際はもっといたらしんですがキリがいいということでそないなったんです」

「……初めて聞いたわ、そないな話。あーんな優しい人がなあ」

「ああ、オレもだ。普段の様子からは想像もつかねー……」

 

ほー、そんなことしてたんだ父さん。まあずいぶんとストレスたまる作業だったんだろうなあ。うっかり大怪我とか後遺症とか残すものとか、下手したら死ぬとかを気にしないといけなかっただろうし。

 

「ん?てか服部君。龍斗君の事知ってたの?!」

「ん?おお、そやで。休みのたんびにしか会うことはなかったけど付き合いは結構古くてまあ腐れ縁というか幼馴染みっちゅうやつや!」

「へえ!私も龍斗君とは保育園からの幼馴染みなんだよ!!」

「ほう、そらえらい偶然やなあ!!……んっんー?なにかなあー?コナン君?そないなぶすっとした顔して」

 

どうやら、俺が新ちゃんと平ちゃんの二人の幼馴染みであることを平ちゃんに話していたことに気付いたらしく仏頂面になっていた。……平ちゃんはこの顔が見たかったんだろうな。そんな会話をしている幼馴染みズを横目で見ながら俺は大人組と話をしていた。

 

「それで、今日は改めておおきにな、龍斗君。せっかくの休日にいきなり仕事の依頼をしてもて」

「いえいえ。流石に先約があったらどうにも出来ませんでしたが幸い空いてましたし。小五郎さんもなんだか○○グループのお宅でよく会いますね?」

「ハハハ、まあそういうこともあるってことよ。龍斗君もオレも仕事で会う機会がこれから増えるかもしれないなあ。小さい時からしっかりしていたがまだ高校生なのに立派なものだよ」

「せやなあ。そこは私も同意見です。うちの愚息も随分お世話になっとったし今や世界でも有名になって。小さいころを知っとりますと感慨深いもんがありますな」

「なるほど、毛利探偵も平蔵君も彼の事を息子のように思っているんですな」

「なんとも面はゆい限りです」

 

少し、親交を深めた後元々の予定だったようで平蔵さんは大阪に帰って行った。お土産にとフィナンシェを渡すとあの強面の相好を崩し嬉しそうにしてくれた。

 

 

「やあ、新ちゃん平ちゃん。俺の男の幼馴染みがこうやって集まっているのを見ると何やら感慨深いねえ」

「おい、龍斗!テメーなんで服部と幼馴染である事黙ってたんだ!」

「いやあ、だってねえ。二人とも探偵探偵って小さいころから言ってたし何も言わなくても縁が出来るかなって。平ちゃんが知ってるのは」

「それはオレが辻村外交官殺人事件の後に龍斗の家にお邪魔しに行ったからや。そんときに工藤が龍斗の幼馴染みやーってこと教えてもろてん。いーっぱいきいたで?工藤のガキん時の話。おまえさん、ガキん時からやんちゃしとったみたいやなあ。やからそないなちっこくなってしまうんや」

「うっせーよ!つーか、龍斗!!一杯ってなんだ一杯って!!」

「まあ色々?まあ平ちゃんがそれは言えないと思うけどね?やんちゃだったのは平ちゃんもでしょう?」

「うぐ。それは言わんいうのがお約束やで龍斗君?」

 

平蔵さんが帰った後、長門会長の誕生日パーティが始まった。その際に秀臣さんと秘書の日向さんの縁談が発表された。件の秀臣さんはパーティを開いている長門会長の部屋には来ておらず、光明さんが呼びに行った。

 

「そういや、服部。なんでオレを呼んだんだよ。なんか理由があるんだろ?」

「あ?そんなんオレがお前に会いたかったからにきまtt…分かった分かった言うからその物騒な時計しまえや」

「ったく、それで?なんなんだよ」

「ああ、ホンマはな……」

――トゥルルトゥルル……

 

平ちゃんが何かを言いかけたとき、電話が鳴り執事の武さんが出た。どうやら光明さんかららしく長門会長に秀臣さんがいないという事を伝えてほしいとのことだった。

『うわあああああああぁぁぁ……」

 

電話から離れていた俺達にも聞こえるくらいの大きな声で悲鳴があげられてた。武さんから受話器を奪った小五郎さんが

 

「おい、どうした?今どこにいる!?」

『そ、そ、そこの真下の部屋だ。いきなり部屋の明かりを消されて刃物で後ろから……うわああああ』

「お、おい?」

 

その言葉に小五郎さんや俺に日向さん、平ちゃんや新ちゃんがバルコニーに出て下を覗くと包帯を顔に巻いた男が包丁を口に咥えてにゅっと出てきた。その包帯には血がついていた。俺達を見たその男はそのまま部屋の方に戻って行った。

 

『ひ、秀臣さん!?』

 

……秀臣さん?じゃないな。これは……

 

「そんな、そんな……」

「くそ、とにかく下にいかな……」

「平ちゃん、先に事情聞いてくるよ!」

「ちょ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平ちゃん、先に事情聞いてくるよ!」

 

そういうと、龍斗はバルコニーから宙に身を投げた。空中で体を反転した龍斗と目があったがそのまま落ちて姿を消した。

 

「ちょ!?」

 

慌てて下を覗くと手すりの支柱を掴んだ龍斗が反動をつけて飛び上がり手すりに着地していた。……おいおいおい、なんちゅうことを。

 

「平ちゃん、早く降りてきて!」

「お、おう。きいつけや!!」

 

オレがこっちを見ていることに気付いたのか龍斗は声を上げた。バルコニーにへたり込んでいる日向さんを置いてオレ達は階下の部屋に降りてきた。

 

「おい、この扉鍵がかかってるぞ!!」

「では、合鍵を取って参ります」

「なら、オレは警備の人にこの事を伝えて怪我の治療出来る人を呼んでくるわ!龍斗なら心配ないやろけど光明さんが怪我しとるやろ?」

『うっぐ!?』

「み、光明さん?!」

「早く合鍵を!」

「は、はい!」

 

そういい、オレは警備員の詰め所に行き、起きたことを伝えて、治療ができる人に道具を持ってくるように伝えて部屋に戻った。部屋に戻ってみると扉は開いており、みんなは中に入っていた。みんなの視線の先には…なぜか龍斗が包帯を顔にまいた男をベッドに押さえつけていた。包帯がほどけて、中から見える顔は……光明さん?どないなっとるんや?

 

「龍斗?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍斗?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍斗?」

 

皆が入ってきてたが第一声は平ちゃんだった。他の皆は部屋に入ってみたらそこには俺が秀臣さんの格好をした光明さんを俺が取り押さえている状況で何が何だか訳の分からない様子だったので無理もないか。

 

「ああ、平ちゃん。それに皆も」

「ちょ、ちょっとあなた!なんで光明さんを取り押さえているのよ?それにお兄様はどこにいるのよ!?」

 

そう言ったのは、次女で光明さんの奥さんの康江さんだ。

 

「この部屋には秀臣さんなんていませんでしたよ?俺が光明さんを取り押さえているのはバルコニーから入ってきた俺に包丁を振りかざしてきた人を抑えたら光明さんだったからです」

「そ、それは本当かね?龍斗君」

「ええ、『なんで一人芝居なんてしてるんですか光明さん?』っていったら随分と殺気立った様子で」

「ひ、一人芝居?」

「……」

「まあ、とりあえず彼を会長の部屋に連れて行きましょう。そこにおいてあるフック付きのロープも持ってね」

「そ、それは……」

 

その後、全員で会長さんの部屋に戻った。部屋には日向さんと会長さんと途中退席した長女の信子さんがいた。

 

「あら?どうかなさいましたの?そんな大勢で」

「あ、ああ。ちょっとしたことがありまして」

「その事情を聞こうと思ってこの部屋に戻ってきたんですよ。日向さんに聞きたいこともありまして」

「わ、私にですか?」

 

……苛立ちか。俺が光明さんの部屋に飛び降りたのは日向さんにとっては想定外だったってことか。

 

「それで、なにがあったの龍斗にいちゃん」

「ああ……」

 

俺は俺が飛び降りた後の事を語った。部屋に入ると暗がりの中でニット帽と水泳キャップを外している包帯男を発見したこと。そして俺がさっきのセリフを言うと包丁を持って襲ってきたこと。俺がそれをさばきベッドに押し付けた時に揉み合いになったことで顔の包帯が取れて中身が光明さんであることが確定したこと。

 

「ちょ、ちょっと。あ、あなたはあの暗がりの部屋の中にいた包帯の男がなんで光明さんだってわかったのよ!?」

「あー、えっとですね。見ていた方なら分かると思うですが俺は身体能力はそこそこ高い方なんですよ。それで五感の方も鋭くて。部屋に入った時部屋の中にいたのは彼一人でしかもその香水で光明さんって分かったんですよ」

「そ、そんな……」

「……ともかく!!俺が聞きたいのはなぜ秀臣さんに化けてそんなことをしたのか。本物の秀臣さんはどうしたのかを聞きたくてここに連れてきたんですよ。日向さんにもね」

「……え?」

「だって、今日俺に会釈した秀臣さんって日向さんでしょう?俺、最初は顔に怪我をした女性だって勘違いしてましたしね。なのに武さんは秀臣さんって言うし。そこら辺の事情を聞かせてほしいんですよ」

「そ、それは……」

「お、俺はその女に唆されたんだ。実は……」

 

どの道、日向さんから語られると思ったのだろう。光明さんがぺらぺらと喋りだした。

そこで語られたのは秀臣さんがすでに亡くなっていること。死因は自殺。それを発見したのは日向さんで遺書も見せられたこと。そして秀臣さんに罪を着せて長門会長を殺害しようという計画を持ちかけられたこと。今日の騒ぎは二階の部屋で秀臣さんに襲われたという事で人を日向さんが二階に集め、三階にあのフック付きのロープで上がり会長さんを殺害した後二階に戻り助けを待つつもりだったと。

 

「……だから俺はそいつの言うとおりに」

「ひゅ、日向さん?本当なの?秀臣お兄様をあんなに慕っていたのに」

「ふん、私は初めからわかっていたわよ!そいつが秀臣にすり寄る薄汚い女狐ってことはね!!」

「……ひとつだけ。なぜ日向さんは残ったんですか?」

「……そうや。今の話がホントの事やったら二階に降りようとするオレらと一緒にこな会長殺害の容疑者になってしまうやんか」

「そういえば日向さん僕たちが二階に行こうとした時バルコニーで動けなくなってたね。龍斗にいちゃんが飛び降りたのはぼくらが二階に向かおうと扉に向き直った後だったしおかしいね」

「それは……私が殺したかったのはあんただったからよ、長門光明!!」

「「「「「「「な!!」」」」」」」

 

そこで語られたのは光明さんには見せなかった遺書の続きだった。20年前、日向さんが天涯孤独となった火事は光明さんが原因であったこと。顔の火傷を治さなかったのはそのことを止められなかった自分への罰である事。自分のせいで家族を失った日向さんへの愛と懺悔の気持ちがつづられていたこと。

 

「私は……私は!秀臣さんを許せなくなった!!でもどうしようもないくらい愛してしまったのよ!なのに私を一人置いて行って死んでしまった……だからそこでたくさんの人の命を奪っていながらのうのうと生きている光明を殺して私もあの人の元に……でもそれももう無理なら私だけでも!!」

 

そういってバルコニーの方へ走る日向さんを近くにいた小五郎さんと武さんが止めた。

 

「なあ、工藤。事件は起きなかったがこのままじゃあ……」

「ああ。あんな想いをして自殺しようとしている人を止めるのは容易なことじゃねえ」

「あの人のことを言うなら死なせてやった方がええんちゃうか?」

「いや、服部……忘れるなよ。この世に死ななきゃいけねえ人間なんて一人だっていねえことを」

「そっか、…その通りやろな」

 

後ろで二人がそんな話をしているのを聞こえた。彼女を説得出るのは……彼だけだろうな。

 

「日向さん」

「な、なによ私は秀臣さんの所に……!」

「ええ、連れて行ってあげます」

「え?」

―ワープキッチン:タイム0!

 

「お、おい龍斗君!日向さん気を失ったぞ!!」

「大丈夫です、すぐに目を覚ましますよ」

 

俺がしたのはトリコの世界で習得したワープキッチンの応用だ。向こうでは特定の門からしか入れなかった魂の世界だったが、コナンの世界で試してみると強度を上げてワープキッチンを作ればどこでも使えることに気付いた。だが死んでそんなに間が経っていないこと、そして縁が深い人でなければ魂のふれあいは出来ないらしい。実際俺も行ってみたことはあるが魂の形はあってもそれが人なのか動物なのか判別がつかなかった。ちなみに食霊はいなかった。

 

「ん、んん」

「目が覚めましたか?日向さん」

「ええ。あれは?」

「さあ。夢を見ていたんでしょう。でも自殺なんてもう考えないでください。また怒られてしまうんじゃないですか?」

「そうね、私も生きて。先に私を置いて死んだこと秀臣さんに後悔させてあげるわ」

 

さきほどとは打って変わって憑き物が落ちたような彼女の様子に皆は首をかしげていた。

その後、呼ばれた警察に連れられていく二人に会長さんから日向さんへの激励の言葉を、光明さんには康江さんとの離婚と解雇の言葉を送っていた。康江さんも流石に旦那が父親を殺し、さらにそのために兄の死すら利用していたこと、遊び半分で火をつけたことを知って光明さんに不信な目を向けていた。

秀臣さんの遺体は池に沈められていた。どうやら最初は土に埋めて腐敗速度を落とし、死亡推定時刻を誤魔化し、池に沈めたらしい……どっからそんな知識拾ってきたんだ…

 

 

 

 

「んで?最後に幸さんにやったのはなんやったんや龍斗」

「オレもそれは聞きてえな、龍斗。あんなに死にたがってた幸さんは一瞬気を失ったと思ったら起きた瞬間にあれだ。オメーがぜってーなんかしたんだろ?」

「さあ?なんだろうーねー?」

 

後日、大阪に帰る平ちゃんを俺と新ちゃん蘭ちゃんで新横浜駅まで見送りに来ていた。

 

「そういや、オメー確か『連れてってあげます』とか言ってたよな」

―ぎくり

「せやった、せやった。あの文脈からして死んだ秀臣さんとこにってことやろ?もしかして龍斗……」

「……そうだよー。日向さんを一度死者の国に連れてって秀臣さんに逢わせてあげたんだよ。二人も気をつけなよー?二人は色んな殺害現場に行ってるだろうから二人の傍には殺されて未練が残った被害者の魂が……」

「あ、ははは。なにを言ってんだ龍斗。死者の国とか魂なんてあるわけねーじゃねえか」

 

まあ死者の国じゃなくて魂の世界なんだが。死者の国があるかは俺も知らん。魂がこっちにもあるとは思わなかったけどね。

 

「せやせや、工藤の言う通りや。龍斗の言う事は冗談なのか本気なのかわかりにくいったらあらへんわ!」

「あー!また、服部君コナン君の事工藤って言ってる!!まさか工藤って」

「え、あいや……くどいや。く・ど・い!こいつが今まで関わってきた事件について詳しゅう教えろってしつこくてな!せやからくどいでー!って言ってたんや!」

「ふーん…?」

 

よし、いい感じに誤魔化せたかな。

 

「さすがは大阪人…」

「ボケさせたら日本一や!」

 

正体がばれそうになったことでさっきの話はうやむやになり、俺は一息ついたのだった。いずれ、話せるといいなあ。

 




さーて。コナン世界禁断の「死者の魂」との会話を入れてしまいました(会話の描写は入れていないけど)
トリコの事を知らない人用に
・裏の世界というのがありそのいちばん深いところに魂は行きつく。そこは魂の世界といい時間の概念がない。=タイム0
・ワープキッチンという擬似的な裏の世界を作る技があり、トリコ世界の料理人はそれで時間をゆっくりにして調理を行う。
・捏造設定:コナンの世界にも魂の世界があり主人公のワープキッチンの強度を高めるとその扉を開ける。そこは魂しか行けないので傍目は気を失ったように見える。

一応、死んで間もない、縁が深い人としか話せないという設定を入れたのでむやみやたらに連発はしません。(トリコで魂の世界で千代婆が息子と会話したみたいですが小松視点では千代婆だけしか話していないような描写でしたし)原作の会長の説得だけじゃ獄中死しそうだったので。

20年前の放火で、人死にが出ている事件って時効扱いになるんでしょうかね。
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