※8/13(月)に編集しました。2018年06月18日~08月08日に渡って執筆した全九話のうち、2018年07月09日・16日・23日に投稿した三話(4/9~6/9)を統合したものです。
「もうすっかり暗くなってしもたなあ」
「せやねえ。いろんなとこ回ったから…」
「でもでも、和葉ちゃんと紅葉ちゃんのお蔭ですっごく楽しかったわよ?」
「そうそう。地元の人しか知らない穴場とかに連れて行ってくれたし、観光客向けじゃない良い物もいっぱい知ることができたわ!龍斗君は美味しいトコを教えてくれたし」
「いえいえ。それでここにコナン君は来るんだね?」
「ええ、そのはずよ」
最後のお寺を回った時、すでにあたりは暗くなっていた。蘭ちゃん曰く、今日は京都で友達になった子供たちと一緒に遊んでいる新ちゃんとココで合流することになったようだ。もう遅いので夕飯はどうするのかと聞いたところ。
「さっき、お寺の住職さんに電話したらお父さん達、芸者さんのいる所にのみに行っているんだそうよ……調査をほっぽり出して!女の人のいるお店に!!」
「…どうどう、蘭ちゃん。京都の人に芸者ってそういういかがわしいお店みたいな言い方をしたら怒られるよ。そう言うのは花魁とかかな。身上として「芸は売っても体は売らぬ」をかがげているからさ。それとそれをいうなら芸妓さんのほうが京都では通りがいいかな?もしくは舞妓。そもそも舞妓さんなら年齢的に蘭ちゃんと同じくらいなんだし流石に小五郎さんもでれでれしない…あれ?ヨーコちゃんに嵌った時のヨーコちゃんの年齢は…「んん!?」……いえ、なんでもないです。とにかく、そこに合流する感じなんだね?」
一見さんお断りの所も多いから、依頼主さんが連れて行ったのかな?店の名前を聞いてみると俺も聞いたことがあるソコソコ歴史のあるお店だった。ということは、結構な接待だな。
「そうよ。ちゃんと目を光らせてないと何するかわかんないんだから!」
「あははは……」
小五郎さん、もう少し娘の前では「男」としてのだらしなさは控えた方がいいんじゃないかなあ……お?
「来たみたいだよ」
「え?」
俺の言葉に皆はお寺の出口の方に目を向けた。
「あれ?平次!なんでここに?」
お寺の門の前に止まっていたバイクを運転していたのは平ちゃんだった。後ろには新ちゃん。多分、昨日俺のいないところで今日は一緒に調査を行う約束をしていたか……
「いやあ、街で偶然くど…この坊主と出会ってな。一緒に絵の暗号の謎を解こうと思って一緒に来たっちゅうわけや」
「(あはは…)」
「それでー?絵ぇの謎は解けたの?西の高校生探偵さん?」
「まだや!結構難しいな、これ」
「ところで、オジサンは解けたの?」
あ。
園子ちゃんに突っ込まれる平ちゃんの助け舟のつもりで新ちゃんは話を振ったんだろうけど……今の蘭ちゃんには…
「それが、ねぇええぇ…!!」
「へ?」
ま、道中説明しましょう。
――
『もう、小五郎ちゃん。天にも昇りそう!』
ああ。小五郎さん、ダメな方に吹っ切っちゃったか。
「そのまま昇ってったら!?」
「ぶっふぅう!?お、お前ら。なんでここに!?」
あーあー。折角のお酒がもったいない。
先にお座敷に入った園子ちゃんがココに俺達が来た経緯を説明してくれた。どうやら、それなりの人数の人が中にいるようだ。俺は紅葉とともに平ちゃんに続いて最後にお座敷に入った。
「おや?そこのお兄さんたちは初顔だね?…あれ?緋勇君じゃないか」
「あれ?水尾さん」
「「!!?」」
お座敷にいたのは坊主の人、恰幅のいいご年配、眼鏡をかけた男性、芸妓さんに舞妓さんに女将。そして俺に話しかけてきた能役者の水尾春太郎さんだ……というか、なんだ?水尾さんは京都に帰省した時に爺ちゃんの付添でお邪魔して顔見知りになったけど、おじさんと眼鏡の男性の方は面識ないぞ?なんでそんなに驚かれたんだ?というか、眼鏡の人は一瞬殺気立ったぞ……?え、俺が忘れているだけか?
――
初顔合わせが二人もいたという事で改めて自己紹介という流れになった。俺を見て驚いていた二人は古美術商の桜正造さんに古書店店主の西条大河さんだった。坊主の人は小五郎さんに依頼を出した山能寺の僧、竜円さん。そしてこのお座敷の担当でなぜか平ちゃんと顔見知りっぽい千賀鈴さん……まーた、和葉ちゃんがやきもきする案件が……
しかし、まーったく覚えがないな。初対面のはずだ。
「もう、それにしても目を離すとすぐこれなんだから!」
「蘭さん、お父さんをそう叱らないで上げてください。依頼のお礼に、私の方からお誘いしたんですから」
「そうや。名探偵の毛利小五郎さんに源氏蛍の事件を推理して貰おうと思てな」
「源氏蛍いうたらつい半年くらい前から話をようけ聞かなくなりましたねえ。なのにいきなりこんな大事になって…」
「そうやったなあ。ボクも能の跡取りの修行で忙しくて数年前の事件にはとんと疎くてなぁ。源氏蛍の活動時期をうちも独自に調べた所女将さんが言ったみたいに数年前も一回長期間活動を休止しとったみたいなんや。たしか……8年前。夏ごろから冬ごろまでの半年くらいやったかな……」
「「!!」」
だからなんで、二人はそんなに過剰に俺の方に反応するかね?まあ気付いているのは俺だけみたいで、新ちゃんや平ちゃんも水尾さんの新情報に釘付けみたいだ。
「そ、それで?どうして休止しとったとかそう言う情報はないんか?」
「え?ああ、どっかの家に忍び込んだ時に返り討ちにあったとか、仲間内でトラぶったとか誰かが大けがしてその人が重要な役割を担っていたから盗賊団の活動が滞ってしまったとかいろいろ憶測はあったみたいなんやけど正確な所はなんとも。返り討ちにあったいう話なんか、実際そんなことなってたら八年前にお縄についとるやろうしな」
「返り討ちって……お寺のお坊さんってそんなに強いの?」
園子ちゃんが竜円さんを見ながら言う。
「まさか!剣道をやってますから、竹刀をもてばそりゃあ素人には負けませんけど相手は八人もいる盗賊団でその中の一人は剣と弓の達人。とても太刀打ちできませんよ……それに源氏蛍はお寺だけやのうて、古いお屋敷とかにも盗みに入っていたみたいですよ」
「それほんまか!?でも、そんな話捜査資料にはのっとらんかったで?」
……捜査資料って。まさか、平ちゃん。平蔵さんの資料を勝手に見たか、大滝さんを使ったな?
「ええ。由緒ある、古い家柄のお家から何件か茶器やら壷やらが盗まれたそうで。盗まれたことを恥として、被害は届けず独自に調査していると修行仲間が檀家の方に聞いたと言うとりました」
「ねえねえ。紅葉ちゃんもおっきなお屋敷に住んでいるんでしょう?もしかして被害に遭ったことあるんじゃ?」
「ええと……うちはお父様が私が生まれてから住込みのガードやら近辺を巡回するガードを増やして、24時間監視カメラに複数の自家発電にシェルターまで拵えてまして……多分、その盗賊団がウチを狙っても調査段階ではじかれてたと思います」
「へ、へえ(そういや、鈴木財閥より古い家のお嬢様だったな、紅葉さん…)」
「それいうなら、龍斗の家も相当広いやん。立派な倉もあったし。どうなんや?(あの家に盗みにはいッとったらちりも残らんと、やられてしもてるだろうけどな)」
「んー?そう言う話は聞いたこと無いかなあ。ていうか、八年前って言ったら俺は小3。9歳だよ?二桁も行かない子供に負ける大人の盗賊団なんているわけないじゃないか」
「(あほぬかせ!その頃にはすでに大人顔負けの戦闘力もっとったやろ…)なんで龍斗が撃退したことになっとんねん。あのおっかないじっさまとかおじ様おば様連中にきまってるやろ?」
「ああ。確かにね。今度聞いてみるけど、
――ぎり!!
…うん?ものすごい歯ぎしりの音が聞こえたからそちらの方を見ると西条さんが一瞬般若のような形相になっていた。桜さんも苦虫を噛みつぶしたような顔になって……あれ?なーんか、この2人。違和感が…
「そうや。確か源氏蛍言いましたら、警察がニュースでいうとりましたけどメンバーが同じ義経記を持っとると聞きました」
源氏蛍の活動遍歴の話題が途切れた絶妙のタイミングで女将さんが話題を振ってくれた。そこから、同じ義経記を持っているという桜さん、水尾さん、西条さんがその内容を知らない俺達に語ってくれた。
十分ほど特に印象深いエピソードである安宅関について教えてもらっていると、桜さんがそのエピソードを説明し終わったタイミングで仮眠をとると言いだしたためソコで一旦源氏蛍考察はお開きとなった。
――
「…ん?わあ、川が見える!」
「鴨川どす」
「桜がキレー!」
「ホンマやね!」
「ねえ、蘭も紅葉ちゃんも来てみなよ」
「鴨川の河原からカップルで見るのもよろしおすけど、この建物の下に流れてる禊川を挟んで見る桜もまた格別どす」
「ホント綺麗ねえ」
「ええ雰囲気やなぁ」
源氏蛍考察に飽きていた園子ちゃんがお座敷の障子を開けて、鴨川とその川沿いの桜並木に感嘆の声を上げたことを皮切りに、未成年者組は窓際に移り外の様子を観覧することになった。芸妓さんの説明を聞いて、東京組は「ほんとだ、川岸にカップルが一杯」と呟いていた。
「いやあ、ホントに綺麗っす!」
「……んん”!?」
「まるで白魚のような指!食べちゃいたい!あーっ……あ?怪我しちゃったのかな?」
……あーあー。いやあ、娘の前でまだ未成年の女性の指を食べちゃいたい発言はマジでダメだと思うよ。というか、ココにいる半数以上が未成年者なのにああいうエロオヤジ的な行動は……
「…ええ、ちょっと」
「小五郎ちゃんが治してあげるぅ~」
「いい加減にしなさい!ここはいかがわしいお店じゃなくて、舞妓さんの芸を見に来る場所なのよ!お父さんの行動はその舞妓さん達のプライドを汚しているんだから!っもう!!」
「ひい!」
「あらぁ、詳しいどすなあ。どこかで勉強しなはったの?」
蘭ちゃんの剣幕に怯える小五郎さんに、その親子のやりとりに手を取られていた舞妓さんは目を丸くしていたが蘭ちゃんの放った言葉が気になったようだ。
「え?ええ。私も良くは知らなかったんですけど、そこにいる幼馴染みの龍斗君が軽く教えてくれたんです。変な誤解をしないでね、って。彼のお父さんのご実家が京都なんです」
「そうやったんですか。確かに京都で緋勇いうたら、古くから続くとこだと有名どすからなあ。最近は私ら舞妓や芸妓さんのことを勘違いしていらっしゃる方も多くて。先ほどのお父さん位ならまだまだ可愛い方で…」
その後は言葉を濁していたが、まあ
(ははは、こりねえオヤジ……)
「おい」
「ん?どうした?」
「あれ見てみ」
「んあ?…綾小路警部?」
川辺を見ていた平ちゃんが何かに気づき、それを新ちゃんに伝えていた。俺は新ちゃんたちが見ている方向に目をやるとそこには新ちゃんの言った通り、綾小路警部がいた。
「なにしてんのや?あんなところで」
「あれ?二人は綾小路さんをしっているの?」
「二人はって…龍斗もあの人知ってんのか?」
「まあ京都の公家出身の人だから。京都を拠点としている歴史のある家の人は大体は知っているよ。確か白鳥警部と同じ年で何かとライバル扱いされていた、はず」
「あー……確かに、言われてみれば似た雰囲気があるかもな」
「俺らが知ってるんは、源氏蛍のことを調査している所を釘を刺されたからや。ここは大阪やないから、首突っ込まんといてくださいってな」
「それは綾小路さんの言うことが正しいかもね。平ちゃんだって大阪で起きた事件の事を東京の人が我が物顔で捜査していたら嫌だろ?」
「そらっ!……そうかもしれへんけど。けどこの事件は大阪東京京都でまたがって起きた事件なんやで?オレが捜査してもええやろ?知り合いが殺されたんやし」
「え?……ああ、そういえば」
「そうや。龍斗もいったことあるあのたこ焼き屋や」
「なるほどね……」
俺と平ちゃんが殺されたたこ焼き屋のおじさんの事に思いをはせていると、水尾さんが話しかけてきた。
「なあ君ら。下のベランダに行って夜桜見物していったらええ。今晩はこれから雲も晴れてお月さんが顔を出すそうやで。上から覗いているのもええけど、下から桜を平行に眺めるのも乙なもんや」
「ねえ、いこっか!」
「うん」
「ええね」
「ええですね」
「僕はココにいるよ」
「オレもや」
「なんで?……あの舞妓さんが気になるんとちゃうん?」
「あほ。しょーもないこというな」
「へん!……龍斗君は私らと一緒に来るよな?」
「え?あー……」
俺は話しかけてきた和葉ちゃん、そして平ちゃんを見て。平ちゃんが目で「フォロー頼むわ」と訴えていたので一緒に桜見物を楽しむことになった。
――
「でっさー、その時の龍斗君なんて言ったか覚えてる!?」
「い、いやあなんだったか…」
「なんですなんです?」
「なんやろうか?園子ちゃん続き教えて―な!」
「あ、私覚えてるよ」
「なら、蘭に発表して貰いましょう!」
「確かね…――」
結局下に降りた面子は俺、蘭ちゃん、園子ちゃん、和葉ちゃん、紅葉の五人だけだった。端から見たら美少女四人に囲まれたハーレム野郎なんだろうけれども、その人それぞれに想い人がいるからねえ。それに今は俺の過去の話で盛り上がっているから肩身が狭い。
この面子で共通の話題と言ったらこの場にいる俺。俺もわざわざ和葉ちゃんたちと遊ぶときに東京での生活について話したことなんかないから和葉ちゃんは興味津々で紅葉は言わずもがな。そんなこんなでこの中で一番付き合いの長い蘭ちゃんと園子ちゃんが幼い時の話を語りだしたんだが……人の口から聞くと、結構頭のおかしい事をしているなと改めて思いました。
「ん?」
「どうしたの?蘭ちゃん」
「?ううん、なんでもない」
話をしていた最中に突然階上を見上げた蘭ちゃん。俺もつられて視線を上げると平ちゃんが手を振って…ああ、新ちゃんが見ていたのかな?勘がいいよなあ、相変わらず。
「ったく、平次の奴。ホンマ腹立つ~」
「でも和葉ちゃんが羨ましい」
「え?」
「だって、会いたい時に会えるんだもの」
「蘭ちゃん……」
「そうだよねえ、私も真さんとなかなか会えないし。乙女の悩みは尽きないわ。まあ龍斗クンと紅葉ちゃんみたいに四六時中いちゃいちゃしてるのを見てると私もずっと一緒にいたらああなるのかなあって思ってブレーキかかっちゃうんだけど」
「ちょっと園子ちゃん、それどういう意味です?」
「あはは、他人のふり見てわがふり見て直せ?みたいな?毎度胸やけを起こしそうな私達の気持ちになってみてみなさーい!…にしても」
そこで言葉を切ると園子ちゃんは上を見上げる。そこからは小五郎さんたちの笑い声が響いていた。
「まったく。それに比べて呑気なおやじ殿だ事!」
――
それからしばらく話に花が開き、月も見ごろになったころ。
『あ、ああぁああぁぁあ!―――だ、誰かぁ!!』
「な、なに!?今の悲鳴!?」
「女将さん?」
俺達のいる所からさらに下、厠があるところから悲鳴が聞こえた。
「皆は固まって、一人で行動しないで!平ちゃんたちに指示を仰いで!!」
「龍斗!?」
俺は屋内に入り、階段を飛び下りて女将さんの先へと急いだ……血の匂い、か。
「女将さん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。龍斗ハン。桜さんが桜さんが……」
「ああ、わかっています。落ち着いてください。ゆっくり、深く呼吸をして…」
「おい、なにがあった!?」
小五郎さんたちが上から降りてきて俺にそう聞いた。
「納戸の中を…」
「え?なあ!?桜さん!?」
っち。気を抜き過ぎていたか。いくら楽しい時間を過ごしていたからと言ってこんな近くで人が殺されたことを気がつけなかったとは。
血の匂いで感覚を鋭くしていた俺の鼻は、焦げ臭く血の匂いを纏った臭気を感じ取った。
――
あの後警察が到着し、いつの間にか抜け出していた新ちゃんと平ちゃん以外は身体検査を受けた。現場に俺がいたことにひどく驚いた綾小路さんだったが、俺がいたことで事件がいたずらに騒ぎ立てられることを嫌って未成年組の名前は出さないように厳命を下していた。俺以外にも鈴木家、大岡家のご令嬢がいたわけだしね。
俺達は一通りの捜索が済んだ後、山能寺へと移動した。そこには途中で抜け出してどこかへと言っていた新ちゃんと平ちゃんが先について待っていた。
「なにい!?桜さんが伊勢三郎だと!?」
「ああ。あの人は源氏蛍のメンバーやったんや。これで残っているメンバーは弁慶と義経の二人だけや」
「待てよ…?駿河次郎、伊勢三郎、備前平四郎、亀井六郎、鷲尾七郎、片岡八郎と来て、次は抜けている「五」の
「はあ?」
「(それは前にあっただろ……)ねえ、桜さんの家にあったのが暗号の絵のコピーだったってことは本物は桜さんが持ち歩いてて、それを犯人が持ち去ったってことだよね?」
「せやな。犯人もまさか、桜さんがコピーをしとって家に置いておったとは思わへんかったんやろ」
「それで?犯人は一体誰なん?」
「オレはあのお茶屋にいたオレ達以外のメンバーの誰かやとにらんどる」
「「「ええー!?」」」
「まあ、せやろなあ。通り魔的な犯行で桜さんがやられる言うのは無理がある話ですし、誰かが潜んでいたのなら龍斗が気づいたやろからなあ」
「あ、ははは。紅葉ちゃん……でも、誰も凶器なんて持ってなかったよ?」
「あんたたちが抜けだした後で身体検査があったんだから」
「そら殺人した後に現場に留まらなあかん犯人が凶器を身に着けておくなんてありえへんからな。どっかに隠したか捨てたんやろ?」
「でも。お店の中も周辺からも見つからなかったって言ってたわよ」
「禊川は?地下の廊下奥の、ガラス窓があったでしょ?そこから捨てれば禊川がすぐ近くにあるし」
「でっしょう!?」
「え?」
そこで机をバンと叩き、大声を上げる園子ちゃん。
「園子がね、何かが落ちる水音を聞いたって言うのよ」
「でも警察が川を捜索しても何にも出てこなかったのよ。不思議よねえ」
「……」
「そやったら、共犯者や。川の外に待たせておった共犯者に凶器を「それはないと思うよ」…なんでや!くど…んん!コナン君?」
「今日は満月で明るかったでしょ?それにあのベランダの床には隙間があって下が見えるようになってたんだ。川に人が下りて何かしていたら蘭姉ちゃんや龍斗にいちゃんが気づかないはずないもん」
「せ、せやな」
「つまりは真相がこうだ。犯人は外部犯で蘭達がベランダに出る前にガラス窓から中に侵入し、納戸の傍に会った浴室にでも隠れていたんだろう。そして桜さんが納戸を物色中に出てきて彼を殺害し、入ってきた逆の要領で逃走した。凶器を持ったままな」
「でも、私達は見なかったし堤防にも目撃者がいないみたいよ?」
「偶然だ偶然!犯人はついていてんだよ!」
「ふーん?なんか釈然とせえへんなあ」
「…『一寸法師』」
「へ?」
今まで黙っていた紅葉がポツリとつぶやいた。へえ、俺も一応凶器の行方を
「まさに。犯人は小人のように人に見られないで消えたのだ!」
…小五郎さん、多分紅葉が言った意味はそう言う事じゃないと思うよ……
――
「紅葉は気付いてたんだ?外部犯ではないことと、凶器をどうやって発見されないようにしたのか」
「園子ちゃんが聴いた水音はうちも気づいてましたし、うちらの足元で人がうろちょろしとったら流石に龍斗が気づいたやろうしね。誰が犯人なのかはまだわかりまへんけど。龍斗は誰が犯人か確信しとったみたいやし、けど
山能寺での話し合いが終わった後、俺は紅葉を紅葉の実家まで送っていた。その道中、先ほどのやり取りで紅葉が犯人の凶器消失のトリックの真相に辿り着いている事に気づいたのでその事について聞いてみた。さらに彼女は、俺が出すより
「それに、緋勇家の事を聞いた今の彼らは龍斗からやと彼らは無意識のうちで頼ってしもたと思ってしまうやろ?私からならそないなことないやろうし。しばらくすればそないな思いもすることなく素直に助言を受け取れるんやろうけど今は時期が悪いと思います」
「間が悪いとは言えばその通り、か。ありがとう、紅葉」
「いえいえ、どういたしまして」
俺はその後、犯人が誰なのかという事を告げその人物から煙……おそらくは発煙筒の煙を被ったのだろうという事を伝えた。
「はあー。発煙筒の件はよう分かりませんけど、あの人がねえ。確かに竜円さんと同じ剣道場に通っとったと聞きましたし、腕もたちそうに見えたけど今の時代に人斬りをねえ」
「人斬りなんて裏の社会じゃあそこらにいるって伯父さん達から聞いているけどね。こんなに大ぴらに事件になっている時点で素人……というより一般人の殺人者だね。変な日本語だけど。とにかく、これ以上犠牲者が出るようなら止めに入るさ」
「後は弁慶と義経だけやもんね。あの中にもう一人いるんやろか?」
「どうかな……?明日も一緒に動いた方が良さそうだね」
「明日はうちは実家の用事に参加せなあきまへんから一緒に行動できませんけど……うちがいないからって暴走したらあきまへんよ?」
それは犯人次第だよ、紅葉。
――
翌日、俺達は梅小路病院の一室にいた。山能寺で解散して大阪への帰路へとついた平ちゃんと和葉ちゃんのバイクに犯人が強襲してきたのだ。和葉ちゃんは無傷だったが、平ちゃんが肩と額を怪我してしまい病院に担ぎ込まれたという事だ……っち。
「ねえねえ」
「ん?」
俺が寝ている平ちゃんの様子を伺っていると、新ちゃんが俺の服を引いていた。どうやらしゃがんで欲しいらしい。要求通りしゃがむと新ちゃんはひそひそ声で話し出した。
「おい龍斗。気持ちは分かるが
「……まだ?というか動かないでくれって…」
「その顔見てたら分かるぜ。一体何年の付き合いだと思ってんだ。付き合いの長さだけで言うなら紅葉さんだってオレには勝てねえんだぜ?…ともかく、犯人に対して思う所があるのは重々承知しているけどそこは服部が起きてからにしようぜ?一番犯人をどうにかしてえのは服部なんだからな」
む。確かに、知り合いが殺されてしかも自分自身も殺されかけたとなれば平ちゃんの事だ。自分で何とかしようとするのは自明の理か……仕方ない。
「妥協として、俺も一緒に行動するよ。ただお昼は一度爺ちゃん…緋勇本家に向かうから用事が終わったら連絡を入れるよ」
「……ん」
「平次!気が付いた?」
「和葉……」
「よかったぁ」
「心配したで、平ちゃん」
「本当に、心配したよ」
「龍斗、大滝はん…それに………誰やったっけ?」
病室にいるのは俺、新ちゃん、蘭ちゃん、和葉ちゃん、大阪府警の大滝さん、そして。
「警視庁の白鳥です。家宅捜索の結果、殺害された桜さんが源氏蛍のメンバーだったことが分かって東京から駆け付けたんです」
そう、東京大阪京都の3都府での広域連続殺人事件ということで東京の刑事も京都へと派遣されることになったそうだ。その人物が白鳥警部だったのは彼がそこそこ京都でも活動していたことが決め手になったと言っていた。
その後しばらくして綾小路警部が来た。平ちゃんへと事情聴取と現在の捜査の軽い進捗を語ってくれた後、平ちゃんにこれ以上捜査をしない様にとくぎを刺して刑事組は捜査のために病室を後にした。
「私、お父さんに電話してくるね」
「うん、きいつけてな」
蘭ちゃんが小五郎さんに電話をしていくと部屋を出て言った後、和葉ちゃんもお手洗いに行くと言って病室を後にした。
「……それで?どうするの?」
「どうするのって決まってるやないか」
「はああ。新ちゃんの言った通りか。でも……」
俺は平ちゃんの様子を見た。肩の怪我は大きく動かさなければ大事はないだろうけど、頭部の一撃はちょっと微妙…か?
「途中から俺も合流するけど、それまでは人通りの多い所を通るように。間違っても人がいないようなところには近づかないこと。それから一時間に一回は休憩を入れる事。ふらつきがひどくなるよ」
「分かった分かった。それじゃあいくで?」
俺はもう一度大きなため息をつくと、下で「ホラ言った通りだろ?」と言わんばかりのドヤ顔新ちゃんと目が合った……くっそ、なんか腹立つ。
――
「さて。さっき電話したら今日はいるらしいけど……畑のほうか」
水尾邸に行くと言う新ちゃんたちと途中まで共にして俺はここ数日の二人の行動を改めて聞いた……バイクでチェイスって。でもそれで発煙筒の煙の臭いがした理由が分かった。まあダメ押しの1つって感じか。
「じいちゃーん!」
「おう、龍斗か。ようきたのう」
「電話で聞いても良かったんだけどね」
「ほっほっほ、寂しい事を言うんじゃない。ワシは孫に会えて嬉しいぞ?」
「そう?それで聞きたいことがあるんだけど、農作業手伝おうか?」
「ほ。じゃあ話しながら手伝ってもらうかの。お昼は龍斗の目利きで食べごろの野菜を収穫して作って貰おうかの?」
「え?まあいいけど」
俺は敷地内にある何も植えられていない畑を耕す作業に従事することになった……因みにうちの家系は人間重機がいっぱいいるのですべて手作業で農作業を行っているのに物凄く早く作業が終わる。作業中、俺は聞きたかった源氏蛍の事を聞いてみた所……
「……なんとまあ」
「なんとまあ?」
「龍斗、お前さんホントに覚えてないのかの?」
「え?」
「あれはたしか、八年前――」
――
お昼を作ったり、爺ちゃんにさらにこき使われたりしていたらもう夕方の初めになっていた。俺は平ちゃんに電話を掛けた。
「もしもし?平ちゃん?」
『おう、龍斗か。えっらい時間がかかったのう』
「まあ色々やってたらね。それで?襲われたりしてない?」
『そうそう襲われてたまるかっちゅうんじゃ。ああ、それでな。あの絵の謎解けたから今からそこへ向かおうかと思ててん』
へえ、じゃあ二人も謎が解けたんだ。
『とりあえず、「仏光寺」で落ち合おうや』
「え_」
『じゃあまた後でな』
「え?ちょっと平ちゃん!?……切れた。それにしても仏光寺?」
紅葉の教えてくれた解答は「玉龍寺」。だが彼らが辿り着いたのは仏光寺だと言う。
「とりあえず、行ってみるか」
――
「おーい、龍斗!こっちや!!」
仏光寺につくと二人は先に来ていた。俺は二人に合流し、謎解き、そして今回の事件の顛末の推理を聞かせてもらった。
「なるほどね。結局、悪党が悪党を食い合ってただけの話だったってわけか。身内だけならまだしも平ちゃんに手を出したのは後悔して貰わないと、だけど」
「おお、こわ。でも、オレと工藤で軽く見て見たけどなーんもないんや」
「ああ、それなら紅葉が言ってた「あ!?」…って新ちゃん?」
「おい、工藤!?どこへ行くんや」
「とりあえずついて行ってみよう?」
「お、おう」
突然お寺から出て、道の角にあった碑石に向かった新ちゃん。俺と平ちゃんも後を追うと。
「これは…!」
「玉龍寺跡。絵に描いてあった「玉」点はこっちか」
「なるほど、やっぱり紅葉の推理通りだったわけか」
「!?紅葉さんも謎が解けてたのか?」
「彼女は京都出身で地理や仏閣の名前に詳しかったからね。浮き上がってきた玉の字を見て「玉龍寺」だって教えてくれたよ。ただ、仏光寺の位置に玉龍寺があったとは知らなかったみたいだね」
「……確かに、これは実際にここに来たことがねえと分からねえな。源氏蛍の首領が、元々「玉龍寺」を示すための「玉」として描いたのか。もしくは仏光寺に来させて「玉」の意味を知らせたかったのか…結局答えが一緒だから意味はねえけどよ」
そう言う新ちゃんは、先に謎を解かれていたのが悔しいのか微妙な顔をしている。
「じゃあ今からそこに行ってみよか?龍斗、玉龍寺ってどこに『Prrrrr…』スマン、電話や…和葉?もしもし?…!!?」
ん?様子が…っ!?和葉ちゃん?!
「和葉、和葉!?っくそ、切れよった……」
「お、おい服部?」
「和葉が攫われてもうた…」
「なに!?」
「一時間後に鞍馬山の玉龍寺に一人で来い。警察に知らせれば娘の命はないというとる…それに」
俺を見る平ちゃん。ああ、聞こえていたよ。
「緋勇龍斗に絶対にこの事を知らせるな。知らせた場合も殺す、と」
「な、なんだと!?」
「なんか、俺も源氏蛍と縁があったみたいでね……」
爺ちゃんに教えてもらうまで完全完璧に忘れていた…というか認識してなかった。
「だが、玉龍寺か。丁度いい、これから三人でここに乗り込んで…!?おい服部!?龍斗!!」
「大丈夫、気を失っただけだよ」
平ちゃんが気を失い、倒れ込んできたので俺が受け止めた。だけど、これじゃあ彼を連れて行くわけにはいかないな。
――
「さて、と。新ちゃん。あまり時間がないから俺は行くね」
「行くってどこへ?」
「決まってるでしょう?」
平ちゃんと新ちゃんを担いで病院へと舞い戻り、病室で俺は新ちゃんへと向き合った。
「だ、だけど服部が寝ているままだし」
「流石に平ちゃんを無理に起こして連れていけないさ。平ちゃんにとって和葉ちゃんが幼馴染みで、でもそれは俺も同じなんだ。平ちゃんには負けるだろうけどそれでも俺だって彼女が大事なのは変わりない。それにあまり考えたくはないけれど和葉ちゃんはひいき目なしに可愛らしい女の子だ。血迷った男どもが不埒な真似を考えないとも限らない。もし、そんなことになっていたら玉龍寺には人が残らないよ…?」
「た、龍斗?じょ、冗談だよな?」
一応、彼女の様子は解放した五感で伺っているのでそんなことになっていないことは知っている。丁重に扱われているようだ。
「…まあ、ね。ただ、生きていることが救いにならないことになるかもしれないけどね」
「落ち着けって!じゃあこういうのはどうだ?……――」
「……分かった。それなら俺も安心して動ける。じゃあ、新ちゃんまた後で」
「…ああ。龍斗も気を付けて」
俺は新ちゃんに別れを告げて病室の窓から飛び出……す前に平ちゃんを見た。
願わくば、彼女にとってのヒーローは平ちゃんであってほしいと思う。けれど、無茶してほしくはないと思う自分もいて。とにかく今出来る事をしようと思い直し、日が暮れはじめた京の空を俺は跳んだ。
――
『遅いな』
「罠と分かっててそう簡単に来るわけないやん!」
煌々とかがり火がたかれた寺の境内。本殿の前には翁の面をかぶった男と後ろ手に縛られたポニーテールの女の子が口論をしていた。
『それはどうかな?臆病風に吹かれたのやもしれんぞ?…ん?』
「あ!平次!!」
寺の入り口から延びる階段。片手に木刀を持ち、キャップを目深にかぶる男性が静かに上がって、境内へと足を踏み入れた。
その男性は翁と女性まであと10mほどという所で足を止め、木刀を地面へと突き立てた。
「てめえ、和葉に手ぇだしてないやろな!?」
そこには、浪速の高校生探偵服部平次の姿があった。
※統合した話の前書き・後書きを載せています。
(4/9前書き)
このお話は劇場版名探偵コナン 迷宮の十字路が元になっています。この話を書くに当たり、十字路を何度も見返しているのですが久しぶりに見た時「水尾」「西条」「桜」という名前を忘れていました。ぶっちゃけ、龍斗の原作知識もその程度まで摩耗していると考えるといいことに書いていて気付きました。多分7月中に完結出来そうです…?
(4/9後書き)
結構オリジナル設定を入れてみました。
・紅葉の父親親馬鹿
・源氏蛍が一般家庭でも盗賊行為
・一時期活動休止 などなど。
お座敷で龍斗を敵視していたのはちゃんと理由(オリ設定)があります。それが明かされるのはクライマックスでですが……芸者などの言葉で間違い、おかしい所がありましたら、活動報告でのメッセなり・感想なり・メッセなり頂けると修正しやすいので助かります。よろしくお願いします…普通の感想も大歓迎です。答えられる範囲でネタバレ(設定開示)もしますしね。
(5/9前書き)
このお話は劇場版名探偵コナン 迷宮の十字路が元になっています。さあそろそろ終わりの見えてきた迷宮の十字路編。少しずつ調子も上がってきました。それではどうぞ!
(5/9後書き)
紅葉がヒントを言うときは出来るだけ日本古来のもので例えるように工夫していきたいと思います。彼女が呟いた真意は次話にて。龍斗が殺人に気が付かなかったのは詰問質問にあたふたしていたから、という事にしておいてください。ちょっと無理やりですけどね。
(6/9前書き)
このお話は劇場版名探偵コナン 迷宮の十字路が元になっています。猛暑厳しい日々が続きますが皆様は体調にはお気を付けください。それと急に二時間ほど雷が頻発することもありますので電子機器はしっかり対策を。昨日はえらい目に遭いました。それではどうぞ!
(6/9後書き)
さあ、大変な戦闘シーンは来週の自分に任せます。予定では次話でクロスロード編完結です。もしかしたら火曜日になるかもしれないですが、ぎり七月以内の完結という事でお許しください。