名探偵と料理人   作:げんじー

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このお話は原作第43,44巻とアニメ383話、四番サードが元になっています。

書きたかったことと着地点が違ってしまうのを久しぶりに感じました。

それではどうぞ!


第六十八話 後編

「…痛い」

「「た、龍斗!?」」

「「龍斗君大丈夫!?」」

「めちゃくちゃな音したけど大丈夫なん!?」

「…っ!!」

 

毛利親子はとっさに出る言葉が一緒なのはなんか和むな。野球経験者の大滝警部は二の句も告げないほど驚いているし。

 

長島選手の打球はほぼ真直線でライトスタンドの観客席……紅葉の顔面に直撃するコースを取っていた…

まあ、最近の紅葉の身体能力……動体視力だけなら蘭ちゃんを凌駕しているほど成長しているから自分の顔に来ると余裕を持って分かっていたみたいだった。セカンドを超えたあたりから避ける体勢を取っていたのだけれど避けたら避けたで後ろの席の子供にあたっていた。流石に柔肌で受け止められるほどまでは丈夫にも、その肌で捕球しうる身体操作も取得していないしね。

 

「龍斗…うちは大丈夫ですから……」

「ん…、耳は大丈夫?」

「ええ…」

 

俺の方へと体を寄せ始めていた紅葉を引き寄せて胸元と右手で耳を塞ぎ、左半身を前に出した俺は左手を打球のコースに差し出した。いきなり引っ張られた紅葉は困惑した声を出していたが、衝撃を完全に吸収して受け止めるのはTVもあるこの場じゃまずいしある程度の衝撃音が出てしまうように受け止めないといけない。耳が目以上に成長している紅葉がこの至近距離でその音を聞くのは体に悪いのでまあ抱きしめてしまうような体勢になってしまった。

 

「速いだけじゃなくて結構重たい。長島選手、自分の体重をしっかり打球に乗せられているみたいだねぇ」

「そないな悠長なこと言うとる場合か!?龍斗!て、手ぇ大丈夫なんか?!利き腕じゃないにしてもオマエ、直で捕るとかアホちゃうか!?足とかあったやろ!?」

「いやまあ足でも受け止めようと思えば出来たけども」

 

そこまで頭が回らなかったと言うか。

 

「せ、せや!龍斗ハン、手ぇみしてみ!」

「私も見る!」

「ウチも!」

 

野球経験者、女子高生武道従事者達の三人に俺は左手を恐る恐るとられた……あ、このボールって貰えるのかな?

 

「うっわ、コゲくさ!って、血が出てるやないか!」

「ホントだ!どうしよう、絆創膏くらいしかないよ!?」

「こりゃ、骨に異常があるかも知れへんな……龍斗ハン、救護室行きましょ!」

「まあ見た目は派手に見えますけど、流水で洗って適切な処置したらすぐ治りますよ」

 

 

左手は回転のかかったボールを抑えた時に手のひらが裂け、さらにその回転軽いやけどを負ったような傍目から見たら重傷と言える様相だった。

 

 

「打球を受け止めた方!大丈夫ですか!?すぐに救護室へとお連れします。ついてきてください!」

「あー、いやまあ……ん?んー…分かりました」

「龍斗?」

 

俺は立ち上がり、一塁側……長島選手に向けて左手で手を振った。振りながら、ピースサインをしたり受け止めた打球でお手玉をしたりグッパーをしたりスイングをする仕草をして彼に向けて親指を立ててガッツポーズをして…いきなりそんな行動をとった俺を怪訝な目で見ていた係員だったがある程度すると自分の役目を思い出したのかせかすような声を上げた。

 

「あのう、良いですか?」

「ええ、行きましょう…ちょっと、消毒して貰ってくるから皆はココで見てて」

「…大丈夫なの?龍斗にいちゃん」

「ん。結構派手に怪我しているように見えるけど()()()()()()()()()()()だけだから。心配しないで」

「…分かった」

「うちは、ついて行きますよ?」

「うん、ありがとう」

 

そう言った紅葉は俺の後ろにつき、俺達は係員の指示に従って甲子園の救護室へと向かった。スタンドを降りる途中に、俺の事を見ていた観客に心配の声を貰ったり彼女をよく守ったと褒めてもらったり、俺の事に気づいた人たちが一際心配してきたりとすぐに救護室には付けずにまたもや係員さんをやきもきさせてしまった。

 

 

――

 

 

「……信じられんな」

「えーっと。まあ、鍛えていますから」

「鍛えておっても、長島のライナーの打球を素手で受け止めるなんてありえへんで?しかも見た目は派手やけど、骨に異常は無さそうやし出血ももう止まっとる。火傷と裂傷同じとこで起きとるのが問題と言えば問題やけど……」

「この程度なら、実家で扱かれた時の方がまだひどかったですよ」

「……あんた、緋勇龍斗ハンやろ?確か父親は緋勇龍麻。あんな優しそうな顔して子供には厳しかったんか?」

「実家が古い道場をしてましてね。まあ稽古の一環ですよ。辛かった思い出じゃないです。それよりも帽子かぶっているんですけど、分かります?」

「そら、さっきあんなにTVでドアップにうつっとったらな…なあ?」

 

救護室の担当医が声をかけたのは彼の補助をしていた看護師の女性だった。多分20代後半くらいか?

 

「ええ。ウチらは試合を生で見れないんやけどTVで流しとりましたから。長島の打球をしっかりカメラクルーが追いかけてて、しかも別カメラが彼女さんをかばう体勢になってボールを受け止める所も映してたから公共放送の解説者にしては珍しいくらい声を上げてましたよ。しかも実況の人があんさんの正体に気づいてからはもう…!」

「しまったなあ。もっとしっかり顔を隠すんだった」

 

普通に暑いから帽子かぶってただけで変装でもないし仕方ないか。デートとかと違って気を抜いてたな。

 

「そういえば、長島選手の様子は?青い顔をしていたから『無事だから気にするな。思いっきりやれ!!』ってジェスチャーで送ったつもりだったんですが」

「ああ、さっきのあれは彼に向けてだったんですね」

 

あの様子だと試合に影響出るくらいにメンタルやられそうに見えたからね。

 

「それもちゃんと見てましたよ。どういう指示があったのか知りませんがあんさんのことカメラがずっと追っててまして。切り替えで長島も映っとりましたがほっとした様子でした」

「それは良かった…そう言えばこのボールってどうなるんです?なんかもらえるんですかね?」

 

俺はさっき受け止めたボールを医師に見せた。

 

「あー。これって二つの大会新記録のボールやからなあ。お客さんが黙って持って帰ってしもたり行方知れずにならん限りは係員が説明してホームランボールと試合球と交換してもらうはずや。そんで、そのボールは長島に渡される…はずなんやけど」

「係員さん、いないですね…」

「まあ係員の彼女もまさかにいちゃんみたいな大物が怪我したってなればしゃーないかの」

「それじゃあ……このメモと一緒にすぐ渡したりできます?」

 

俺は手帳から紙片をちぎり一言書いてボールとともに医師へと渡した。

 

「ん?…はっはっは!豪気なことじゃな!!普通は通らんやろうけど、この試合に限っては全力の二人を見たいと思う奴らも多いと思うし行けると思うで!ワシに任せとき!」

「それじゃあ、任せます。俺達はスタンドに戻っても?」

「せやな。骨になんかあれば病院やったけど問題ないし、にいちゃんも自分の身体の事をよう知っとる。消毒も最低限はやった。後はにいちゃんの采配でなんとかなるやろ」

「ありがとうございました。それじゃあ紅葉…紅葉?」

「あ、はい。終わりましたか?」

 

看護師さんと何やら話していた紅葉をつれ、俺達はスタンドに戻った。

 

 

――

 

「そう言えば、あの看護師さんと何を話してたの?」

「『全国のTVで緋勇龍斗に抱きしめられたなんて映像流れて貴女これから大丈夫なん?」って言われました。その後どないな関係なんかを根掘り葉掘り…」

「おっと……んー、まあ何とかなるさ」

 

多分。

 

「多分結構、騒ぎになると思うで?龍斗の人気がどの位か、龍斗は甘く見すぎや。何のためにデートの時に変装してたん?」

「そりゃあ、人に気づかれないため?有名人ってサインとか写真とか、頼まれるからそれの回避のためだよ」

「……龍斗。もしかしてだけど『有名』になるのと『人気』になるのはちゃいますよ?分かってます?」

「えっと…一緒じゃないの?」

 

その俺の言葉に大きなため息をついた紅葉は今度、じっくりお話しましょとだけ続けてこの話を切った。有名と人気?何が違うんだ?

 

――

 

「いやあ、良かった!まさかあんなに白熱した試合になるとはな!」

「延長に次ぐ延長!もうずーっと続くんじゃないかって思っちゃったもん」

「ウチも!あんなにおもろいなんて思わへんかった!」

「せやろせやろ?やっぱ甲子園は生やないとな!」

 

結局、俺と紅葉は戻ったのは九回裏2アウトの場面だった。一点ビハインドの港南高校バッターは長島選手。バッターボックスに入った彼は俺が客席に戻ったのを確かに見た。俺も彼の様子を伺ったが特に気負いなく、稲尾投手との勝負に全力を出せていたようだ。因みにその打席で彼はバックスクリーンへとホームランを打っていた。ホームを踏んだ後に一瞬こっちを見ていたからあのメモは彼に届いたみたいだね。

 

「そう言えば龍斗、あのメモって何を書いたんです?」

「んー?メモって何の話?紅葉ちゃん」

「あのね…」

 

紅葉が俺の救護室での行動をみなに説明してくれた。俺はその説明に付け加えるような形でメモの内容を語った。

 

「『次は俺を打ち抜くくらいの打球をこっちに飛ばして来い! P.Sプロになって結婚式を挙げる際には是非この緋勇龍斗にご用命を』ってね。激励にもなるし、ジェスチャーだけじゃあこっちの意図が伝わらないと思ったからね」

 

試合後のインタビューで、試合中はメモを直接受け取ったのではなく伝言で前半部分だけ伝えられたそうだ。多分それがぎりぎりだったのだろう…おっ。

 

「ゴメン、着信が」

「おう、いってこいいってこい!オカンの料理はまだまだあるさかいに、はよもどってき!!」

「はーい」

 

俺は今日お世話になる服部家の居間からでて電話に出た。相手は……

 

「……もしもし………そうですか!ありがとうございます!!はい、はい!ええ、このお礼はまた必ず!それでは!」

 

よし、これでこれからの予定が埋まったぞ。

 

「平ちゃん!オッケーだって」

「え?…ホンマか?!よっしゃ!やったで和葉!」

「え?なにが?」

「実はな…」

 

 

――

 

 

俺が平ちゃんに頼んだのは2つ。一つ目は宝塚ファンのおばちゃんたちの連絡先を教えてもらう事。オレが交渉して、甲子園当日におばちゃんグループの人に弁当つまみを持っていく事。それを気にいってもらえれば宝塚のチケットを譲ってもらえること。二つ目はもらえるにしても貰えないにしても結果が出るまでは俺と二人の秘密にしておくこと。

結果、宝塚に行けてそっちはそっちで皆満足した旅程だった。

 

 

 

「龍斗、ありがとな!」

「大阪に来るときはいっつもお世話になっているしこれ位はね。まあでも」

「ああ。借り1や!きっちりいつか返すで」

「うん……あ、さっそくなんだけど」

「お、なんや?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『有名』と『人気』って一緒じゃないの?」

「……はぁ?」

 




補足:前篇の「え?」は紅葉が避ける体勢に入っているのに無理やり龍斗に引っぱられたので出た声でした。


世間では10連休だったとか。自分は間間でお仕事に力仕事のお手伝いとあんまり連休という感じはしなかったですね。
まだ映画にも行けていないので、日々の時間をうまく使えるようになりたいですね。
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