ぐだ男「だから見ていてくれ。俺の、変身!」   作:おはようグッドモーニング朝田

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少し長めですが、よろしくお願いします。




2 変化

2 変化

 

 

 

「……ベルト?」

 

え……

 

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 

召喚室に絶叫がこだました。誰もかれもが、たった今召喚されたばかりのアンとメアリーですら目の前のことが信じられないとばかりに目を見開き、召喚サークルにポツンと佇んでいる無機物を見つめていた。

 

流石というべきか、初めにその静寂を打ち破り何処かに連絡を取り始めたのは現カルデアのトップであるロマニ・アーキマンだった。

 

「ダ・ヴィンチちゃん!?ちょっと目の前の物を見てくれるかい!?」

『なんだいロマニ。映像が出力されてないよ。見てやるから早く繋いでくれ』

 

いまだ混乱状態であることは否めないが。

 

「繋いだ!ほら!見て!」

『焦りすぎだろう……で、なんだい?私にはベルトらしきものが寂し気にしているのが見えるが』

「これが出てきたんだよ!英霊召喚したら!これが!」

『……は?』

 

再び静寂に包まれる室内。さもありなんって感じだ。

 

『魔術礼装ではなく?英霊召喚の結果、ソレかい?』

 

沈黙。しかしそれが肯定を表していることを天才は感じ取った。

 

『ははは、おかしいな。召喚システムの故障か?そんなはずはない。正常に稼働しているのがこちらからでも確認できる。その室内の英霊反応を計測しよう……うん。マシュくんは今武装解除しているから……うん?珍しいタイプの反応があるな……二人で一人の英霊か。ということはそこは一つの反応ということで……』

 

ダ・ヴィンチちゃんが珍しく動揺している。これはレアだなぁ、なんて現実逃避まがいな思考をするが、そうこうしている間にダ・ヴィンチちゃんが結論を出す。

 

『そこの部屋内の強力な反応は……三つ、だ』

 

1→アン&メアリー

2→清姫

3→ベルト

 

『どうやらそのベルトは正しく英霊として認識されているようだ。良かったじゃないか。召喚失敗でもなければシステムの故障でもないぞ……ははは』

 

「そんなまさか……」

 

 

ダヴィンチちゃんの渇いた笑い声を最後に、三度召喚室は静寂に包まれた。

 

 

 

 あれから何分経過しただろうか。実際はそんなに経ってないんだろうが、ここでマシュが口を開いた。部屋に音が戻る。随分久方ぶりのような気がするが、それだけアブノーマルな事態だったということだろう。

 

「先輩、ドクター……このベルトに見覚えありませんか?」

 

その言葉を聞き、未だ召喚サークルからピクリとも動いていないベルトを注視する。

 

(いや、ベルトが動かないのは当然だろう……俺も相当参ってるなこれは)

 

今にもこのベルトが動き出し、意思があり召喚されるに正当な理屈があるということを説明してくれるのを、心の何処かで期待しているのかもしれない。

 

そんな無益なことを考えていると、脳の片隅に何か電気が走るような感覚を覚えた。なんだろう。これに既視感がある。俺はきっとこれを見ている。でもハッキリとしない。頭の中にもやが立ち込めるような感覚。脳に異物があるような……

 

「ん?異物……?」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!それだよ藤丸くん!」

 

『ちょっとロマニどうしたの?うるさいんだけd』

「それです!先輩!」

 

『マシュまで……どうしたんだい?』

 

思い出した。そうだこれは……

 

「遺物だ。オケアノスで見た。ドレイクが持ってた宝の一つで、解析がよく出来なかった、古代の戦士が身につけていたもの……」

『あぁ、あの風化が酷かった石板たちか』

 

石板や腕輪は近くにないが、このベルトはあの夜見たものと同じものだ。間違いない。綺麗になってるからすぐには気付かなかった。

 

 

どくり、と腹の奥が少し熱くなるのを感じた。

 

 

なんだ?と思いつつも、少しの疼きだったので、忘れることにした。

 

「あー、あのベルトだったのか。まぁ、何なのかさっぱりわからない物ではなかったからちょっと安心かな」

「そうですね。一応あの特異点で縁を結んだものですから」

 

ロマンとマシュが話している。彼らは聡い。異変を感じ取られるわけにはいかない。早くあの輪に混ざらなければ。

 

 

どくり、また疼いた。でも大丈夫。

 

 

「毎晩海賊たちがどんちゃん騒ぎで大変だったよ」

「へー、そっちじゃそんなことがあったんだ。楽しそうだね」

「あのドレイク船長が持っていたお宝……少し気になりますわね」

 

あのベルトをあの夜の遺物だと認識した瞬間から始まった謎の疼き。考えれば考えるほど、お腹の奥が熱くなり、焼けるような感覚さえあった。

 

「今度はちゃんと解析しないとだねぇ」

「ドクター、頑張ってください」

『ダヴィンチちゃん的にも興味が沸いてきたよー。是非やらせてくれたまえ』

「ねぇマスター、この人大丈夫なの?マッドな気配がするんだけど」

「賑やかで良いところですわねぇココは」

「ははは、ありがとう」

 

何気ない会話で盛り上がる。よし、大丈夫。治まってきた。そう思ってもう一度ベルトを一瞥する。

 

 

どくん

 

 

「っっあ……!」

 

思わず膝をつく。一段と大きい波に襲われた。

 

「先輩どうしたんですか!?」

「藤丸くん!?」

 

当然周りにはばれる。

 

「いや、あのベルトがあの時のだって思ってから少しずつ腹が熱くなって……。少ししたら弱くなったからもう大丈夫かなって思ってもう一度あれを見たらまたどくんって……」

 

どくん!

 

「う……ぁ!」

「先輩無理せず伝えてください!そういうのは!」

「ダヴィンチちゃん!」

『もうやってる!でも異常は見られないんだ!』

 

「ベルトを見る度に疼いて…!ほらまた……」

 

 

どくん!!

 

 

「あぁっっっ!」

「マスター大丈夫!?」

「メアリーこういう時はあまり揺すってはダメよ!」

 

段々と疼きが強くなる。痛むと分かっていても目が離れない。これはまるで……そう、俺を呼んでるみたいだ。

 

 

「俺を……呼んでいる……?」

 

 

 

どくん!!!

 

 

 

「っ!」

 

 

一際大きい疼きに襲われた。しかし痛みは弱い。

 

ふらつきながらも立ち上がり、ゆっくりと召喚サークルに近づいていく。

 

「先輩!安静にしていてください!」

「藤丸くん!?」

 

 

どくん!!!

 

 

外界の喧騒がシャットアウトされる。痛みは弱い。

 

 

どくん!!!

 

 

清姫は「少し花を……」と言いゆらゆらした足取りでちょっと前に出て行った。痛みは弱い。

 

 

どくん!!!

 

 

 

ベルトはもう目の前だ。体が燃えるように熱い。痛みは弱い。

 

 

ドクン!!!

 

 

手を伸ばす。今までで最も大きな疼きに襲われる。痛みは、無い。

 

 

ちょん、と指先がベルトに触れる。すると一瞬へその奥あたりがぶわっと熱くなるのを感じた。そして間髪入れず、ベルトが眩いほどの光を放った。視界が真っ白く染まり、しばらく何も見えなくなる。

数瞬後光が霧散し、遅れて自分の視力が戻る。すると、

 

 

「あれ、ベルトが無くなった」

 

 

目の前からベルトが消えていた。身を焦がす熱さもない。あんなに俺らを悩ませておいて、パッと消えてしまうなんて。

 

「ねぇみんな。至近距離でピカピカされてよく見えなかったんだけど、ベルトどうなった?」

 

振り返り、ベルトとの間に俺が入ったことで光の影響をあまり受けなかっただろう背後のメンバーにモノの所在を訪ねる。

 

 

……

 

 

しかし返ってくるのは沈黙と、あんぐりと口を開け、まさにポカンとしているという言葉を体現したかのような顔だった。

 

「みんなどうしたの?」

 

瞬間、ハウリング。

 

グワァァァっと全員が同時に叫んだため細かく聞き取れなかったが、言っていた内容を要約すると、

 

 

「ベルトが先輩(藤丸くんorマスター)の体の中に吸収されたぁぁ!?」

 

 

だって。

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

その後もうしばらくわちゃわちゃしたが、特に自分に異変は感じられなかったので今回の召喚はお開きにしようと言った。さてこれからアンとメアリーにカルデアを案内するぞと意気込んでいたのだが、

 

「藤丸くん!早く医務室行ってバイタル検査しないと!」

 

と、まだ少し混乱が残っている感じがするロマンに引き留められた。まぁ、体内に異物……かどうかよくわからないけどベルトが入ってしまったのでそれも当然かと思い、検査に行くことにした。

 

「ごめんねメアリー、アン。案内してあげたいんだけど、これから検査しないといけなくなっちゃった」

「当然だよマスター!早く診てもらおう!」

「そうですわ。それに案内は検査の後で十分です。私たちも一緒に行って、待ってますから」

「ありがとね、二人とも」

 

召喚早々心配をかけてしまったようだが、二人とも自分の身を案じてくれているようだった。良い関係が築けそうでなによりだ、とマスターとしても個人としても、嬉しく思った。

 

それに、

 

 

「先輩大丈夫ですか!?お腹とか痛くないですか!?早くペッしないと駄目ですよ先輩!あ、でも飲み込んだワケではないし、どうしたらいいんでしょう先輩!」

 

 

半ば狂乱しつつ体を前後にガクガク揺する後輩のおかげで本当に体調を崩しそうだ。グルグルお目々が幻視できる。ホントにしんどいから勘弁して。

 

 

 

 

 

 

「うーん……パッと見た感じどうやら本当になんの異常も無いみたいだ。本人もすこぶる元気みたいだしね。詳細が出たら呼ぶから、アナウンスには注意しておいてね」

 

 

先程医務室を出る直前に言われた言葉がこれだ。現在はメアリーとアンにカルデアを案内している。と言っても特にこれといって面白いものがあるわけでもなく、専門的な施設は俺では解説できないので、ただ館内を散歩しているだけみたいな様相を呈している。

 

ちなみにマシュは少々しょんぼりとしている。俺が脳震盪を起こしかけたから、らしい。確かに脳みそをシェイクされて少しふらついたけど、脳震盪はちょっとオーバーではなかろうか。そう言ったんだが、彼女は変なところで頑固だった。「目には目を、です!私の頭も揺すってください!」と妙ちきりんなことを言い出したので、軽く頭にチョップしておいた。

そんなことはしません。

 

彼女らと談笑しながら歩いていると、お腹が空いてきた。時計を確認すると、もう正午を過ぎていた。めぼしい所は案内し終えたので、後は食堂に行って昼食にしようと提案した。それに食堂は団欒スペースも兼ねているので、食後はそこでゆっくりお話ししながらお茶でもすすっていよう。

 

 

 

 

「なにこれすっごく美味しいんだけど!」

「噂には聞いてましたけど、現代の食べ物って味がどれも繊細で飽きが来ないんですねぇ」

「……」

「……」

 

予想以上にバクバクと勢いよく昼食を平らげる海賊二人に圧倒されている。召喚されてすぐのサーヴァントはだいたいこのようなものであるが、彼女らは船の上での生活が長かったおかげか、その様子が顕著だった。「美味しい!おかわり!」とメアリーが手を振りつつ言えば、厨房の職員さんもサムズアップで応える。そしてアンもそれに乗じてスッと無言でお皿を差し出すのだった。その細身の身体にどれだけ入るんだという食べっぷりに最初は気圧されたが、今ではその美味しそうに食べる表情に頬が緩む思いだ。

 

呼び出しアナウンスが聞こえたのは、二人が食べる様子を見守りながら食後のお茶をすすっているときだった。

 

『えー、藤丸くん。チェックの結果が出たから医務室に来てくれ。もう一度放送する。あー、藤丸くん。チェックの結果が出たから医務室に来てくれ』

 

放送終了を告げるチャイムが鳴り、アナウンスが終了したとわかる。「えー」とか「あー」が無くなればもう少し締まるのになぁ、と思いつつ立ち上がる。

「呼び出されたから行ってくるね」と言うと、マシュが「私も行きます」と立ち上がる。残りの二人にも聞くと、

 

「私たちはもう少し現代の食を楽しみますわ」

 

とアンが言い、

 

「これからよろしくねー。バイバーイ」

 

とモグモグしながらメアリーが続いたので、

 

「食べながら喋ると行儀が悪いよ。それに喉につっかえる。じゃあ、また!」

 

と言って歩き出す。後ろで「うっ!」というメアリーのうめき声を聞き、お約束だなとマシュと笑いあって食堂を出る。

 

もちろん厨房に「ごちそうさまでした!」と言うのも忘れない。

 

 

 

 

 

 

 医務室のドアを開けると、ロマンがサンドイッチを食べていた。

 

「あ、藤丸くん思ったより早かったね」

 

呼び出しておいてなんなんだそれは、と思ったがマシュが口を開く気配がしたので黙っておいた。説教は後輩に任せよう。

 

「医務室に食べ物を持ち込むのは衛生的にどうかと思いますよ、ドクター」

 

期待していたことと違った。俺が集合に遅れるという、自分としては誠に遺憾な風潮はどうやら彼女でさえ否定してはくれないようだ。

 

「あぁ、ごめんよ。普段食堂でゆっくり昼食を食べることは出来ないから、癖になっちゃってるんだ」

 

そう言われると弱いのか、マシュはそれ以上追及しなかった。

 

 

「よし、じゃあ本題に入ろう」

 

食べ終わり、律儀にもコーヒーを一口飲んでからロマンは喋り出した。

 

「わかってるだろうが、体内の検査結果だ。これを見てくれ」

 

画像を数枚見る。なんの変哲もないレントゲンのように見えるが……

 

「見てわかる通り、気になるものは何も写っていない。ベルトは姿かたちも見えない。あの一件後、君には何も変化がないということだ。ばっちり健康だよ」

 

「良かったですね、先輩」

 

まぁ自分の体のことだ。なんとなくそんな気がしていたが、こう専門家から言われると得も言われぬ安堵感がある。

 

 

 

ついでに脳震盪のことについて聞いてみた。

 

「脳震盪?ないない。そんなもの」

 

「だってさ」

 

良かったね、とニヤつきながらマシュの方を見ると、

 

「先輩意地悪です……」

 

と拗ねられてしまった。

 

 

 

 その後雑談して、そういえば昨日丸一日寝てしまったことを思い出した。軽く運動でもしよう、と席を立ち、ロマンに手を振り挨拶をする。後輩を連れてドアに向かって歩いていると、ロマンに呼び止められる。

 

「なに?言い忘れ?」

 

彼は少し言いよどむような仕草を見せた後、口を開く。

 

「……僕は問題ないと言った。僕はそう思ってる。だって結果的になにもおかしいところは見られなかったからね。でも。……でもダヴィンチちゃんはそれが問題なんだと言った。あの場にいた全員が見てるんだ。ベルトが君の体に吸収されるところを。何かがないはずないんだってさ」

 

「……」

 

誰も、なにも、喋らない。

 

 

「きっと不気味で、心配してるんだ。君を。僕は考え過ぎだって言ったんだけどね。まぁ、よくわからないことが起きてるのは事実なんだ。何かあったらすぐ言ってね。重ね重ね言って悪いけど」

 

「心配してくれてありがとう。でも、たぶん、大丈夫。俺の体が、そう言ってる」

 

「そっか。なら、ひとまずこのことは安心だね。じゃあね。僕も仕事に戻るとするよ。無理はしないように!」

 

「うん。じゃ、マシュ、行こうか」

 

「はい!」

 

 

なぜだか大丈夫な気がしたのは、悪いことにはならないと思わせたのは、俺の直感だろうか。それとも俺の中にあるあの英霊がそうさせたのだろうか。

まだ俺にはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

藤丸立香は気付かない。

 

マシュも

 

ロマンも

 

ダヴィンチちゃんも。

 

 

カルデアの誰もが気付かなかった。当然変化は起こっていたことを。

 

 

 

 

 

令呪の形が、何かを暗示するかのように、変わっていたことを。

 

 

 

 

知っているとしたら、それは。運命の秒針だけだ。

 

Continue to London, Mist City……

 

 

 




ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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