うーん、遅すぎかな?
まだ、学校にすら通い出していません。
でも、私としてはできるだけ彼らの日常を描いてみたいと思っているのでどうかお付き合いください。
楽しんで読んで貰えることを祈っています!
「フフフーフッフフフン」
鼻歌が聞こえ、見ると俺の腕を取り、笑みを浮かべて歩くひとみがいる。
「えらく上機嫌だな、ひとみ?」
「当たり前じゃない!だって、お友達とお買い物よ?誰だって楽しくなるに決まってるわ。舜君は楽しみじゃないの?」
「いや、めちゃくちゃ楽しみっす。」
「でしょ?」
ふふふ、と笑みを溢すひとみ。
俺もつられて笑う。
今、俺達はお買い物をするべく渋谷に来ている。
大体、この辺に来ればなんでもそろうのだそう。
引っ越ししたばかりで土地勘がない俺にとってはそういう情報を教えてくれるのは非常にありがたい。
今も、土地勘のあるひとみと村上さんが先導してお店へと向かっているのだが・・・。
正直、めちゃくちゃ楽しんでいる自分がいた。
お友達とこうして雑談を交しながら、お買い物するの憧れてたんだよなあ。
しかも、ひとみも村上さんもすっごい美人。
もうこれ以上ない至福の時間だ。
だけど、一つ気がかりなことがある。
それは・・・。
「ねえ、村上さん、なんで一言もしゃべらないんですか?」
「うるさい、駄犬。話しかけないで。」
「えー・・・。」
「あははは!」
もうね、これですよ。
村上さんは何でだか、ひとみに連れ出されたあたりからまた機嫌が悪くなり今こんな状態である。
つーか、駄犬ってなんだよ?
なに、そんなに俺犬っぽいの?
もしかして、臭い?
俺が体臭を気にして自分の服をクンクン嗅ぎ始めていると、村上さんが少し振り返り、俺とその横にくっついているひとみをじろりと睨む。
「ねえ、なんで貴方たち、ずっとくっついているわけ?なに?死にたいの?そうなの?」
「やだなあ、憂美子ちゃん。死にたい人なんているわけないでしょ?」
「なら離れなさいよ!ベタベタくっついて。恥を知りなさい。」
「えー、別に良いじゃん。私たち友達なんだしさ!」
「よくないわよ!友達でもそんな風に男女はベタベタしてはいけません!」
「ええ・・・お堅いなあ。」
シブシブといった感じで俺の腕を放すひとみ。
しかし、ただで終わる彼女ではない。
キランと目を輝かせ村上さんに背後から近づくと突然『ウリャ!』といって抱きついた。
「ひゃあ!な、なにすんのよ!?」
「えへへ、男女がダメなら、女同士だ・・・ふう。」
「ひぅうう!」
ひとみが耳に息を吹きかけると、村上さんは意外なほどに可愛い声で叫び、ぴくんと体を硬直させる。
なんともいかがわしい光景だ。
実際、美人である二人がこんな百合百合しいことをしていると注目度がすごい。
俺はなんともいたたまれなくなってひとみを村上さんから引っぺがす。
「おい、やり過ぎだ!みんな見てるからやめろ!」
「ええ、いいじゃんかあ。」
「よくない!行くぞ。」
俺は渋る彼女と手をつなぎ、その場にへたり込んでいる村上さんの前に行く。
「・・・大丈夫か?」
「へ、平気。私を誰だと思って・・・。」
「大丈夫ではないな。ほら、つかまれ。」
「いえ、大丈夫、自分で歩けるわ。」
「いいから。」
「あ・・・。」
俺は半ば強引ではあったが彼女の手を取り早足で歩く。
チラッと後ろを見ると、村上さんはうつむいて赤面していた。
・・・やばい、あとで絶対怒られるなあ。
俺はそう考えながら、村上さんを右手に、ひとみを左手につないで目的のお店へと向かったのだった。
――あれから数分後。
「着いたー!」
俺達三人は第一目的地である『108』に来ている。
この店は今、若者達に大人気の大型モール。
多種多様な洋服屋さんが入っており、上から下まですべてここでそろえることができる便利な場所だ。
入り口にある自動ドアをくぐると開けた空間になっていた。
右手を見るとエスカレータがあり、左手にも同じようにエスカレータがある。
真っ正面にはズドンと大きな通りが走り、両脇にブティックが見えるだけでも二十軒は並んでいる。
三階建てになっているらしいので、店が何軒あるのか想像もつかない。
俺はポーと惚けながら店内をぐるりと見渡していると、横から村上さんの声が聞こえる。
「・・・ねえ。」
「うん?」
「そろそろ、離してくれないかしら?」
「・・・え?」
右を見ると、自分がまだ村上さんと手をつなぎっぱなしだったことに気づく。
「わわわ。ご、ごめん。つい・・・。」
「いえ、べ、別に良いのだけれど・・・。」
プイッとそっぽを向いてしまう村上さん。
横顔が少し赤くなっているのが見えて、不覚にもどきっとしてしまった。
少し、彼女の横顔に見とれていると、今度は左手をグイッと引っ張られ俺は少しバランスを崩す。
「おっとっと。なんだよ、ひとみ?びっくりするじゃんか。」
「・・・むー。憂美子ちゃんばっかりかまって。ずるいんだけど。」
「いや、別にそうでもない・・・。」
「あるの!」
ズイッと顔を近づけてくるひとみ。
眉間にしわが寄っているためめちゃくちゃ怖い。
ドキドキしちまったぜ・・・違う意味で。
美人の怒った顔って何でこんなに恐ろしいんだろうな・・・。
ひとみのあまりの剣幕に俺はたじろぎ、何も言えないでいた。
すると、それもひとみにしたら気にくわなかったようで更に、唇をすぼめ「むー」とうなる。
うーむ、この「む」の形の唇ってなんかこうめちゃくちゃ可愛いよな・・・。
俺が現実逃避を始めていると、横から「はあ」と大きなため息が聞こえる。
「はあ・・・あなたってホント駄犬ね。こういうときにはとりあえず土下座。人生の基本でしょ?あ、駄犬だから犬生ね。」
「どこの誰の人生の基本だよ・・・。」
「なによ、こんな可愛い女の子を怒らせておいてそのくらいのこともできないの?」
「いや、ひとみは確かにめちゃくちゃ可愛いが・・・それとこれとは話が別じゃ・・・。」
そこまで言い、俺はチラッと横に目を向けると、ひとみがなぜか顔を押さえてにやけている。
あれ?なんか・・・どうした、これ?
俺が疑問に思い視線を向けているとそれにひとみも気がついたのかハッとこちらを見る。
「こ、コホン。えー、まあ、しょうがないし、今回は許してあげる。でも次はないからね舜君。」
「え?なんで解決したんだ?よく分からんが・・・よかったよ。」
「うん!でも、その代わりこのあとはちゃんと私の事もかまってよ?」
「お、おう。善処する。」
「よし!それじゃあいこっか?あと、憂美子ちゃんもありがとね?」
「何のことかしら?」
「うーんもう!とぼけちゃって!」
ひとみはもう我慢ならない、という様子で村上さんに飛びついた。
村上さんも「暑苦しい・・・。」と口にしながらどこか照れくさそうにしている。
うーん、この二人は仲良いのか悪いのか分からんな・・・。
百合百合とした目に優しい光景をしばらく堪能した後俺は切り出す。
「よし、じゃあそろそろ買いに行きますか?どこがおすすめとかあるのか?」
「うん、私がいくつか見繕ってみたからついてきて!」
そう言うとひとみは村上さんを引きずるようにして進んでいく。
「ちょ、ちょっと高槻さん!?さすがに離して・・・。」
「いいのいいの!」
「ちょっとー!」
村上さんが売られゆく仔牛のごとく引きずられていく・・・。
俺はそんな珍しい光景に吹き出しながら彼女たちの後ろを追いかけたのだった・・・。
そこからは怒濤の勢いで買い物が進んでいった。
ひとみ、村上さんこの二人によるトータルプロデュースが行われ、俺の私服がズバズバと決まっていく。
もう、俺は着せ替え人形と化していた。
そして、意外に思われたのは実は村上さんがオシャレに関してかなり積極的だと言うことだった。
ひとみはいつもの性格があれだったのでまあ、想像に難くなかったのだが、村上さんは意外だった。
でも、村上さんの服選びにおけるセンスの良さは今着ている服を見ても納得だ。
俺はあまりファッションに詳しくないが、それでも彼女の服がオシャレだと言うことぐらいは分かる。
春先にしては少し暖かな今日。
それを考えてかあまり暑苦しくみえないさわやかなデザインのトップス。
肩口が大胆にあいており、そこから覗く白い肌が綺麗だ。
ボトムスは彼女の長くすらっとした脚を生かすようなタイトめのジーンズ。
よほど脚に自信がなくてはあのデザインは選べないが、リスクが高いだけに似合えば威力は抜群。
彼女の魅力的な脚がより強調されていた。
そんな魅力あふれる彼女に選んでいただいた服はどれも自分は気に入ってしまい幾つも買ってしまう。
今着ている服もすべて先ほど買った物だ。
そのおかげでオシャレにはなれたのだが・・・。
財布を見ると、とんでもないことになっている。
うん、そりゃそうなるよね、あんだけ買えば。
とほほ、と涙をのんでいると村上さんが怪訝な目つきでこちらを見ている。
何でもないよ、と手を軽く振るとそう、と素っ気なく反応する村上さん。
いつも通りの冷淡な反応に苦笑を漏らしつつ、次なる目的地へと向かう。
今俺達は、ひとみおすすめのレディースファッションのお店へと向かっている。
彼女たち自身も服をみておきたいんだそう。
まあ、俺はやってもらってきた身なのでなにも文句はない。
しかし、到着すると度肝を抜かれた。
「おい!なんだここ!?」
「ん?服屋さんだけど?」
クリッと首をかしげるひとみ。
ひとみから視線をはずし、再度店を見る。
「いや、服は服だけど、これ・・・下着屋じゃねーか!」
そう、今来ている店はそこからどう見てもランジェリーショップ。
やたらとピンクピンクした店内に所狭しと下着が並んでいる。
明らかに男が入って良いお店ではないが、ひとみは何か問題でも?という顔だ。
俺はそれにイラッとして村上さんを見るが村上さんも平然とした顔だ。
え・・・?村上さんだけはまともだと思っていたのに・・・。
頼みの綱だった村上さんにも裏切られたショックに打ちのめされていると、村上さんは腕組みをして冷笑を浮かべる。
「別におかしなことはないわよ?だって、ここにいるのは女の子二人と駄犬一匹だもの。犬は大人しく店外でおすわりしていなくてはダメでしょう?まさか、一緒に来るなんてそんなふざけたことは言わないわよね?」
「あ、はい!そこで静かに待たせていただきます!」
しゅぱっと左手で敬礼しながら答える俺。
そうだよね、さすがに俺は入るわけにいかない・・・。
「えー!舜君に選んでもらいたかったのにー。」
ブスーとふくれて言うひとみ。
この子はホント・・・。
呆れているのは俺だけではないらしく村上さんも頭痛でもするかのようにこめかみを押さえている。
「はあ、ひとみさん。あなたってホント色々おかしいわ。私が選んであげるからそれで我慢してちょうだい。」
「え!なら、我慢する!」
村上さんの提案に、眼を輝かせて喜んでいたひとみは村上さんの腕を取る。
「じゃあ、行こっか!憂美子ちゃんのも選んであげるね!」
「え・・・。私は・・・。」
「いいのいいの。さあ、行こう!」
村上さんはひとみによって引きずられ、店内へと消えていった。
「・・・そっちで座っとくか。」
俺は一人つぶやき、備え付けのソファーへと向かった。
――しばらく後。
「いやあ、買った買った。」
「はあ・・・。」
ツヤツヤとした顔で出てきたひとみとは対照的に疲労した様子の村上さん。
どちらも手には紙袋が握られているところを見ると、お買い物は無事終えることができたようだ。
「二人とも買えたのかい?」
「うん。良いのが買えたよ。・・・見たい?」
「いや!いいよいいよ!」
「えー、遠慮しなくて良いのに。」
ニヤニヤと笑いながらそう言ってくるひとみ。
もうほんと、この子だけは・・・!
俺がどれだけの精神力を使って意思のセービングロールに成功しているか知らないからそんなことが言えるのだ。
結構、ぎりぎりの戦いをしているんだぞ、こっちは!
俺はひとみをひとにらみして、村上さんを見る。
「疲れているようだけど、大丈夫か?」
「ええ、なんとか・・・。」
そう答える彼女だったが明らかに疲労して憔悴仕切っている。
店内でなにが起きたんだ、一体・・・。
「なにか、あったのか。店内で。」
「ええ・・・高槻さんがちょっとね・・・。」
なぜか顔を少し赤らめる村上さん。
俺はよく分からず首をひねっているとひとみが。
「あのねえ、舜君。知ってる?憂美子ちゃんってね実は着やせする・・・。」
「ダメ!絶対ダメ。」
シュパッという空気を切る音がするほど鋭い動きでひとみの口をふさぐ村上さん。
あまりの剣幕にあのひとみがコクコクと無言でうなずいている。
ひょえー、村上さんマジ鬼っす。超怖いっす。
と、ヤンキーの取り巻きのような口調になるほど今の村上さんは恐ろしかった。
村上さんはひとみがこれ以上しゃべることがないと判断し、手を口から外す。
「ぷはっ・・・死ぬかと思ったよ・・・。」
「・・・だろうな。」
ゼエゼエと苦しそうに息をするひとみはすでに涙目だ。
村上さん容赦ねえ・・・。
俺は村上さんだけは怒らせないようにしよう、と心に決めた。
高槻さんがなんとか立ち直り、前を見ると、至近距離でにらみをきかせている村上さんがいる。
「次、そのことを十和田君に言おうとしたら分かっているわよね、高槻さん?」
「はいー!分かっておりまする!」
ひとみが敬礼しながら叫ぶ。
村上さんはそれを見ると、満足そうにほほえみ、肩に掛かった髪を振り払った。
「なら、よろしい。では、先を急ぎましょ?」
「「はい!」」
ひとみと俺の二人して叫び、村上さんのあとを追いかけたのだった。
その後も俺達はショッピングを楽しみ、三人とも満足したタイミングで外に出た。
「ふー、買ったねえ。」
「そうだなあ。」
「どう?これだけあれば足りるでしょ?」
「おう。多すぎるぐらいだよ。」
「いいのいいの。多すぎるぐらいで。もう、高校生なんだからオシャレもしないと恥ずかしいぞ?」
「うぅ、そうですね。」
「まあ、着こなしが難しいモノもあるからさ、分からなかったらまた聞いてよね?」
「ああ、そういうことならすぐに聞くことになる。」
「あははは。」
朗らかに笑うひとみ。
彼女の笑顔はバックの夕日ととても絵になっている。
今、この顔をカメラに収めておきたいなあ、と思っていたが手元にカメラはない。
――仕方ない、心のシャッターにでも収めておこう。
そんな恥ずかしい事を思いながら諦めたようにフッと笑っていると横からパシャッというシャッター音が聞こえた。
音のした方を見ると、スマホを構えた村上さんがいる。
ひとみも驚いたようで二人して彼女を見ているとばつの悪そうな顔をして。
「・・・あ、ごめんなさい。つい、高槻さんが絵になっていたモノだから。」
と言い顔を赤らめた。
それを聞いた俺はハッとした。
――今、俺の思っていたことと同じだ。
考えていたことが思いも寄らないときにピタリと一致してしまった・・・。
しかも、写真を取りたいだなんていうあまり共感されなかった思いが。
俺は感動なのか驚愕なのか分からなかったが、とにかく心臓がドキドキして仕方なかった。
――でも、これらの思いは口に出せないままでいる。
すると、ひとみが笑いながら村上さんに向かって言った。
「あはは、憂美子ちゃん。なんか舜君みたいなこと言ってるよ?」
それを聞いた彼女は「え・・・」と小さくつぶやいてから。
「・・・はあ、自重しなければ。」と言う。
がくりとうなだれて前髪を押さえる村上さん。
心底嫌そうな顔にさすがの俺も異を唱える。
「おい、なんでそんなに嫌がってるんだよ?なんなの?嫌いなの、俺のこと。」
「そりゃあ、駄犬と同じ思考回路を持っていると言われたら誰でも遺憾の意を覚えるわよ。」
「ああ、そうですかそうですか!そんなに嫌ですか、俺のこと・・・。」
先ほどまで理解者を得たという親近感にも似た思いを彼女に抱いていただけに俺は少しと言うよりもかなりショックを受けていると、村上さんは「でも・・・」という。
「でも・・・私、あなたのこと・・・嫌いじゃ、ないわよ?」
俺は驚いてそちらを見ると顔を夕日より赤く染めた村上さんが俺を上目遣いに見ている。
不覚にも、どきっとして俺は言うべき言葉を失う。
ドキドキが止まらず思考がうまくまとまらない。
なにか、なにか言わなきゃ。
そんな強迫観念だけがグルグルと頭の中を回り、余計なにも言えない。
――ただただ、見つめること数秒。
俺はようやく言うべき言葉を見つけ出し言葉を紡いだ・・・。
「俺と結婚してくれ!」
「・・・」
――痛いほどの沈黙。
彼女の目が急速に冷たくなっていく。
俺は完全に言い間違えた事を悟った。
「い、いや、間違えた。今のはナシで・・・。」
「・・・死ね、駄犬!」
「ごめんなさい!」
夕日よりも鮮やかな赤色に染まったことは言うまでもなかった・・・。
いかがでしたか。
もうね、ダブルヒロインみたくなっています。
ひとみが強すぎて、村上さんがちょっと弱くなりがちか・・・。
でも、こっからは村上さんメインになっていくと思うので暖かく見守ってくださいね?
次話もヨロシクお願いします。