「おい!! おーい!!」
「……」
「おい!! 聞こえるかそこの男!! おい!!」
「……あの、BBAの声など聞こえませぬな!! 何言ってるんです?」
「……は?」
後ろから追跡してきた謎の船、その船の船首に立っていた男が、呼び掛けていたドレイクの呼び掛けをぶったぎって、そう返した。
BBAである。酷いと言えばあまりにも酷い。ドレイクは石になり、マシュはあたふたする。
「BBAに用はないんだよ、三十路は帰れ。来るとしてもロリババアだろ、チェンジだよチェンジ」
「……」
「どうしましょう黎斗さん!! ドレイクさんが石になってます!!」
「それがどうした? 面白いじゃないか」
「おおクロスティーヌ、酷いでしょう酷すぎます、現実には仮面が似合うのです」
「その言い方はそれはそれで残酷かと!!」
太陽を落とした女、年齢の壁の前に沈む。享年、大体30であった。
それを嘲笑いながら、だんだんと調子に乗っていくその男。
「いいからエウリュアレちゃん出してよ。ねぇ、出してよ。拙者知ってますからの? エウリュアレ氏を触手プレイでぬるぬるのデロデロにしながら浚っていったの、知ってますからの? ああん羨ましい!! 拙者もやりたい!!」
そう身をくねらせる。気持ち悪い。黎斗は何となく、かつて自分の開いたゲームイベントに真っ先に押し掛けてきた数人の軍団を思い出した。あの時は、確か、抽選でポッピーピポパポの等身大フィギュアをプレゼントする企画をしていたのだっけか。
彼はそんなことを考えながら男を見て、しかし……戦きはせずにやりと笑う。
「だ、そうだ。ジル・ド・レェ、たっぷりと味あわせてやれ」
「了解しました。
ザバザバ
海中から、海魔の触手が伸びてきた。それらは男の船と黄金の鹿号をしっかりとくっ付け合わせた上で、男を狙って行動を開始する。
「え、そうじゃなくて」
ザバザバ
「待って、待って」
「ゴゴゴゴ……!!」
「馬鹿でおじゃるか? あの文脈なら普通は拙者がぬるぬるにしたいとおおっと!?」
「ゴゴゴゴ!!」
ユッサユッサ
船が揺れてろくに話しもできない男。不快な台詞が防がれて、ドレイクの意識が戻り始める。
「くっそ、こうなりゃ実力行使でおじゃる!!」チャキッ
パァン パァン
握っていた銃で触手に対応しようとする男。その弾丸は何故か精密に触手を打ち落とし……しかし多勢に無勢。
シュルシュル
「オボボオボボ」
あえなく男は触手に捕まってしまった。騒ぎに気づいた仲間っぽい奴等がようやく出てきたが、触手の群れに苦戦しているのが見受けられる。
「ハッ!! 人の事BBAとか言うつけが回ったね!!」
「え、だから、いやその、ゲポポ拙者はぬるぬるにされるのではなくオボボぬるぬるにしたいとオボボ」
「照れ隠しはいらない、たっぷりぬるぬるのデロデロを味わえ。何なら麻薬もいるかい? カリギュラ、宝具だ」
さらに黎斗が指示を飛ばす。当然狙いは、触手で弄られて現在服のなかで触手がもぞもぞしている男。
「うおおおおぉぉ……汚男が、汚男が見えるぅ……!!」
「え、ゲポポそれ食らったらかなりヤバイレベルでイカれちゃう奴じゃオボボ」
危機を察知し、しかし動けない男。カリギュラの周囲に狂気が溜まっていくのが目に見えてわかる。
「オボボ助けてアン氏、メアリー氏、ゲポポヘクトール氏、エイリーク氏」
「行きたいのはっ、山々ですけどっ!!」
触手をその銃で撃ち払い、しかしすぐに別の触手に襲われ背後から羽交い締めにされる、アンと呼ばれた女海賊。
「ちょっと、こいつら無理っ!!」
カトラスで触手を切り落とし、しかしその触手が勝手に動き出して足をとられ、そのまま触手に埋もれていくメアリーと呼ばれた女海賊。
「クガアッ!! ゴォゴオオオオ……」
武器であろう斧を取られ、触手相手に素手で殴りあいを挑み手足を取られるエイリークと呼ばれた男。
「悪いねキャプテン、ここからじゃ助けようにもどうしようもねえや」
そして、触手に囲み込まれて肩を竦めるヘクトールと呼ばれた男。
カリギュラの宝具はもうすぐ解放される。男は目を閉じ……見開いた。
「……拙者の怒りが有頂天。大海賊黒髭をよくもまあここまで虚仮に出来ましたね、おバカさん達。こうなったら派手に行くで御座るよ?」
「黒髭……黎斗さん、あれ黒髭って名乗りましたよ!?」
「黒髭……つまり、エドワード・ティーチ……という訳だ。全く、もう少し格好いいかと思っていたが。酷いキャラデザだな、やり直すべきだと提案する」
「おお酷いクロスティーヌ、天からの授かり物なのに」
「あれを渡された時点で天から見放されていると言う事なのだろう。かくいう私も顔を問われると困るが、少なくとも神の才能があるから問題ないさ」
「うっわ辛辣!! でも関係無いもんね!! 行くでござる行くでござる!!
その大声と共に、触手の隙間隙間から砲門が開き、今にも黄金の鹿号を砕かんと唸りを上げ始めた。
絶対的なピンチ。だが、黎斗は笑みを崩さない。
「どうする黎斗。こっちも対応するかい?」
「いや、構いませんよ船長。ジル・ド・レェ、砲門を塞げ」
「喜んで」
黎斗の指示に合わせるように、男……黒髭を掴んでいた触手が直ぐ様解け、辺りの砲門の中にぬるぬると入り込んでいく。
そして、もとからそこにあったかのように隙間なくぴったりと大砲を埋め、そして静止した。
「ああっ、不味い!! ストップ!! 宝具ストップ!!」
「カリギュラ、宝具解放」
「
慌て、隙の目立ち始めた黒髭を、ずっと溜め込まれていたカリギュラの狂気が包み込んだ。
冷静な思考を奪われた彼は、その場にへたり込んで目をぐるぐるとさせながら口を半開きにし、だらしなく涎を垂らし始める。
そして。
バァァァァァァンッッッッ
黒髭の宝具が暴発した。触手にピッチリと埋められていた大砲は砲弾を放つことなく、発射に使われる筈だったエネルギーは
轟音と共に、敵の船は真っ二つに割れた。
悲鳴が聞こえる。向こうの船の甲板に乗っていたサーヴァント達が慌てている。……だが、流石にサーヴァント、死にはしない。残りのサーヴァント達は、黒髭のへたり込んでいた方の船に飛び移る。
「アガァ……アガァ……」
どうしたものかと途方にくれるエイリークと呼ばれていた男。
「……どうしましょうメアリー、この人駄目になっちゃった」
「前よりはマシだったけど、まあ仕方無いね。どうする? どうせならあっちに乗り換える?」
そう画策する二人。
……しかしその横で、ヘクトールと呼ばれていた男は奇行に走っていた。
「はぁ……まあいいか。聖杯、貰っていくよ船長」
グサッ
「ゲポポ……せめて首は残しておいて……」バタッ
「あんたの首なんかに興味は無いさ」
黒髭の体に槍を突き立て……そこから聖杯を引きずり出したのだ。
「ちょっ、黎斗さんあれ聖杯ですよ!?」
「そのようだな。捕まえる……!!」
『ジェットコンバット!!』
聖杯を奪おうとコンバットゲーマを呼び出し、ヘクトールを制圧させようとする黎斗。マシンガンを乱射させながら船体に穴を開け、聖杯を持った男を怯ませようとする。
「ま、そう来るよね。その飛んでるやつが何かは知らんが、そんなのでオジサンが負けると思うなよ?」
刹那、先程までどちらかと言うと柔らかめだったヘクトールの目が鋭くなった。動き続けるコンバットゲーマを捉えた視線は一瞬も外れることなく。
「標的確認、方位角固定……
ガガガッ
バキン
「ああっ!!」
コンバットゲーマが、貫かれて爆発した。破片が辺りに飛び散っていく。
「じゃ、オジサンはここら辺で失礼するよ」
「オアアア!! オアアア!!」
「はいはいバーサーカーは黙ってて黙ってて」
グサッ
黄金の鹿号に背を向け、素早く去っていこうとするヘクトール。途中でエイリークが不満を顔に湛えて立ち塞がったが、一閃の内に切り捨てられていった。聖杯の力だろう。
そして小舟に乗ったヘクトールは、遠くに見える別の帆船へと向かっていった。
「追え野郎共!! 逃がすんじゃないよ!!」
「「「へい姉貴!!」」」
ドレイクが叫ぶ。聖杯を見つけたからには、見失うわけにはいかない。
「船長!! ボインな姉ちゃんとロリババアっぽい姉ちゃんが乗船を求めてきましたぜ!!」
「乗せな乗せな!! 戦力は多い方がいい!!」
「指示が早く的確ですね」
「そうだな、まあ思考が単純なのもあるだろうが……流石は嵐の王、とでも言おうか」
そして、それを見ながら黎斗とマシュは海賊達を分析していた。
マシュは、これからさらに面倒くさくなるチームのまとめ方を考えながら。
黎斗は……もっと別のことを考えながら。
「アンです、お会いしたかったですわドレイク船長」
「メアリーです、よろしく」
「おう、よろしく。戦力は多くて分かりやすいからいいね。……さっさとあの緑のやつ倒してやろう!!」
「「はい!!」」
人を惹き付けるカリスマ、太陽を落としうる脅威の源はそれだ。それを見ながら、黎斗はまた考える。考えて考えて……また、顔を楽しそうに歪めた。