Fate/Game Master   作:初手降参

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飛彩って小姫一筋な割にいっつもナース侍らせてるような気がする
誰が付き添わせてるんだ? まさか自分で呼んでることはないだろうし……院長だってそうはさせない筈だし……本当に誰だ……?



第十一話 ASH

 

 

 

 

 

「おい神!! これ不良品じゃねえか!!」

 

 

CRまで帰ってきた貴利矢は既にボロボロだった。傷だらけの彼は怒りと痛みに震えながら、パソコンの前に座っていた黎斗神にガシャットを突きつける。

黎斗神の方はその反応を見て一つため息をして、そのガシャットを回収した。

 

 

「そうか……駄目だったか。やはり外から得られる知識には限りがあるな」

 

『ガッシャット!!』

 

「そうかい。で? じゃあどうするんだ?」

 

 

キーボードを叩き始める黎斗神に貴利矢がそう問う。彼の背後では、永夢やパラドも呻きながらCRに入ってきていた。

 

 

「敵サーヴァントを倒し、消滅させるとそいつは金の粒子になって消える筈だ。それをどうにか捕捉して分析にかければ、ちゃんとした調整が可能になる」カタカタカタカタ

 

「じゃあ、今から敵のサーヴァントを倒せば……!!」

 

 

黎斗神の言葉に反応して、くたびれていたはずの永夢がそう言う。その顔には疲れと焦燥が浮かんでいて。

それを見抜いていた貴利矢は彼を押し止める。

 

 

「……駄目だ、今はもう無理だ」

 

「ああ。私の調整が終わるまでは向こうに向かうな」カタカタカタカタ

 

「……マスター、足の怪我が酷くなって参りました、行きましょう」

 

 

黎斗神もそれに便乗した。見下ろしてみれば、永夢の足は、再び悪くなりそうだった。

ナイチンゲールが彼を背負って、整形外科へと連れていく。永夢は悔しそうにしながら、しかし無抵抗に連れ出された。

 

 

「待つことしか、出来ないのか……!!」

 

 

それを見ながら、パラドが苛立たしげに呟いた。

 

───

 

   コンコン

 

「おい、いるか社長!!」

 

「返事をしろ!!」

 

 

その頃、大我とエミヤは作の家まで訪ねてきていた。しかしインターホンを鳴らし、扉をノックし、声を上げて呼び掛けてみても返事は全くない。

黎斗神だけでは頼りないと判断した大我は彼も引きずり出して加勢させようと考えたのだが、それはどうにも上手くいきそうになかった。

 

 

「……留守なのか?」

 

「いや、電気はついていた。それに何より……サーヴァントの気配がする。別に戦闘はしていないが」

 

「そういえば何かを召喚していたな。心当たりはあるか?」

 

「……いや、ない」

 

 

エミヤはそう言って首を振った。

とにかく今日は諦めよう、大我はそう判断する。数日経っても駄目だったなら、意地でも引きずり出すが……今はまだ、何とかなる。

 

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

「ええ、それでいいのですよマスター? 誰かに目移りしたら、私……妬いてしまいます」

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その作は、ひたすらにガシャットを作り続けていた。初めは外の大我に気を向けていたが、それすらも止めた。

眠りはなく食事もなく、あるのはただ、不定期に気まぐれにキアラから与えられる快楽のみ。作は命令通りにキーボードを叩き、キアラはそれを眺めながら小さく笑う、それだけ。

ガシャットの完成は、大して遠い話ではなかった。

 

───

 

「……調子はどう、マスター? これまでのデータは整理しておいたのだけれど」カタカタカタカタ

 

「上々だァ……!! 完成は遠くない……!!」カタカタカタカタ

 

 

そしてゲンムコーポレーションでは、真黎斗がパソコンに向かっていた。現在はゲームエリアの拡張ではなく、マイティアクションNEXTのプログラムを書き換えている。

ナーサリーは現在も聖都大学附属病院にサイバー攻撃を加えていたが、陥落する様子は見られなかった。

 

 

「……黎斗さん」

 

「何だマシュ・キリエライト……私は今最高にクリエイティブなことをしているのだが!!」

 

 

そこに、マシュが訪ねてきた。信長達と共に帰ってきた彼女は防衛戦に参加することもなく、その戦いを眺めていた。

そして、それらの間に何かを思ったのだろう。ナーサリーはそう考えながら紅茶を口に含む。何を言うのだろうが、止めるつもりはなかった。マスター(自分)は彼女に何を言われようと、その程度で止まる訳がないと知っていた。

 

 

「……その未来は、間違っている……!!」

 

「……何故そう言い切れる?」カタカタカタカタ

 

 

マシュが口を開く。真黎斗はパソコンに入力を続けながら、耳だけは傾けた。

 

 

「広がる過程で、人々との間に戦いが生まれるからです。黎斗さんにも聞こえたでしょう? 政府の非常事態宣言が。人々の困惑の声が!! 誰かを困らせ、誰かとの軋轢を生む理想郷なんて、あるはずがない!! 貴方の理想郷は、間違っている!! 争いの結果に生まれる世界なんて、灰しか残りません!!」

 

「それは違うな」カタカタカタカタ

 

「っ……!?」

 

 

そして、耳を傾けた上で、否定する。

 

 

「これまでの人類の歴史……それこそ、君も守りたがった()()の中に、誰の痛みも伴わない改革はなかった。誰も苦しまない革命はなかった。誰かの笑顔の裏で誰かは苦しむ、誰かが幸せになるなら誰かが不幸になる。痛みを否定するならば、それは人理の否定だ」カタカタカタカタ

 

「そんな、それは、そんなことは……」

 

「そして。私のこの革命は、世界を塗り替える改革は、世界最後の革命となる。私の最高傑作が世界を掌握したならば!! その暁にはこの世界から肉体の死は消え失せ、絶望は失せ、退屈も失せる!! 私の神の才能が、この世界をゲームに変える!!」カタカタカタカタ

 

 

マシュは震えていた。

人理を自分が否定しようとしていた、なんて言われてしまえば、人理を守ることしか残っていない彼女の心は簡単に揺れてしまうことは明らかだった。

そして真黎斗はそれを見ることすらせず、その指を動かし続ける。今までの言葉は、大して考えて練られた訳ではない。しかし、いや、だからこそ、それは黎斗の本心だった。

 

 

「……言いたいことは終わりか?」カタカタ ターンッ

 

「……」

 

「……よし。完成した……マイティアクションNEXTのバージョンⅡが!!」

 

『ガッシューン』

 

 

丁度そのタイミングで、彼はマイティアクションNEXTを引き抜いた。ガシャットのフォルムは何も変わっていないが、金のラインは少しだけ強めに光っていた。

 

マシュは何も言えずに踵を返した。

階段を降りる。悔し涙が溢れた。

 

 

「……あら」

 

「エリザベートさん……」

 

 

そこで、エリザベートとすれ違った。いつの間にか普通の服に戻っていた彼女は、マシュから溢れる涙を見て、見過ごすことが出来ずに立ち止まった。

 

 

「……やっぱり、マスターの所、行ったの?」

 

「ええ……エリザベートさんは、どう思いますか? マスターが世界を自分の好きなように作り替えることを、どう、思いますか?」

 

「……」

 

 

エリザベートはその問いに唸った。

本来のエリザベートなら、黎斗がプログラムした通りのエリザベートならば、世界を自分達の好きに出来ると言われれば悪い気はしないはずだったが。しかし、それを言うのは憚られた。

 

 

「……子ブタなら、どうするのかしらね」

 

「晴人さん、ですか……?」

 

「ええ。……彼なら、真っ先に反乱するのかしら」

 

「そうだと思います……きっと」

 

 

マシュは、そう出来ない自分を恥じた。エリザベートは、それを否定できない自分に酷く違和感を覚えた。

二人とも、黎斗の描いた原典からは狂っていた。

 

───

 

「はぁ、疲れた……」ドサッ

 

   

貴利矢は、CR二階にて二つ並んだ椅子に寝転がり、天井を眺めていた。

その横に、マルタがコーヒーを淹れて持ってくる。

 

 

「おっ、ありがとな姐さん」

 

「というか、だからその呼び方止めてくれませんか……?」

 

「いやー、あんなノッてる本性出しちゃったらもう言い逃れは出来ねえって話だろ。えーと、タラフク、だっけ? あれも実は拳で沈めたんじゃね?」

 

「……」

 

 

マルタは、あまりにも貴利矢の言葉が当たっていたためにコーヒーをテーブルに置いてから顔をふさいで踞った。タラフクじゃなくてタラスクだ、という突っ込みも出来なかった。

 

 

「無理はするなよ、姐さん。自分を押さえるのも策だが、ずっと無理をするのは、少し辛いぞ」

 

「別に、隠している訳ではないんですが」

 

「どっちでもいいさ」ズズッ

 

 

貴利矢は淡々とそう言った。そしてコーヒーを啜って……吹き出した。

ブラックコーヒーだった。

 

 

「ぶっ!?」

 

「きゃっ!? ちょっ、何やってんのアンタ!?」

 

「悪い悪い、自分ブラックコーヒー飲めねえんだった!! 苦え、すっごい苦い!! 砂糖どこ!?」

 

「あーもう!! 机拭かなきゃ!! アンタ布巾どこにあるか知ってる!?」

 

「えっとえっと……ああこっちだこっち!!」

 

 

その二人の姿は、どこか姉弟のようだった。

 

───

 

「お疲れさまですマスター、何か手伝えることはありますか?」

 

「いや、いい。下手なことをしても邪魔になる……というか、どこから出したその服」

 

 

それと同時に、飛彩は聖都大学附属病院にて資料を整理していた。彼は仮面ライダーであると同時に外科医だ。故に手術だって行うし、その内容を患者やその家族に伝えることもする。

現在の彼は、その患者やその家族に手術について説明する、ムンテラと呼ばれる作業の為に資料を纏めている最中だった。

 

隣ではジャンヌがナース服で立っていた。

 

 

「本当にどこから出したその服!!」

 

「借りてきました。いつどこから奇襲が来るか分かりませんから」

 

「霊体化でいいだろう!!」

 

「マスターを手伝いたくて……」

 

「初見で出来る作業じゃない!! 取り合えず見ておけ!!」

 

 

微妙に意識が彼女に逸れてしまうことが、非常に苛立たしかった。

 

───

 

「……マスター、暫くは安静にしているように。怪我が軽くて良かったですが、衛生的な生活を心がけましょう」

 

「はい……」

 

 

永夢は整形外科を出て、項垂れていた。足はやはり、数日安静にしていれば直ると言われたが……その数日がもどかしい。今は何処も、どこかピリピリとしていて。

いつもならウルトラマンやらを流しているはずの小児科ですら、今は政府の情報を放送していた。すれ違う人々の携帯には紫のラインが走っていたし、きっと永夢の部屋にも走っているだろう。

そう考えると早く人々のストレスを取り除かないといけないと、人々から苦しみを取り除かないといけないと思わせた。

 

 

「……マスター。ドクターが焦ってはいけません。ドクターが死んだら、誰も救えない。貴方が死んだら、そのせいで患者が救えなくなる。ドクターがいなければ、後は灰しか残りません」

 

「……そうですね」

 

 

……それは、かつて永夢が大我に言った言葉だった。

 

 

「すいません。僕、焦っちゃって」

 

「いえ。……貴方はドクターです。お忘れなきよう。看護師は、ドクターの補助しか出来ないんですから」

 

 

ナイチンゲールは、そう言って笑った。ドクターを信頼している、そんな目だった。





次回、仮面ライダーゲンム!!


──サーヴァントの記憶

「ここは……セイバーの過去か?」

「お前はあれでよかったのか」

「後悔はありません」


──ドクターの記憶

「取り合えず切除しましょう切除」

「駄目ですよ!! これは簡単に治せます」

「今はもう、治療に痛みは要らないんです」


──進められる計画

「次の一手だ」

「何をするの?」

「聖都大学附属病院を、一斉に停電させる」


第十二話 Oath sign


「例え、この命に代えてでも」

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